○【聖杯統合開始初日―某国・中立都市・フォルス】
「姫!!何故姫自ら参戦なされるのです!?」
「殿下はお許しになっておりません!!」
「あのような戦いは騎士の身分に立つもの達にやらせておけばよいのです!!」
一歩、二歩、三歩。
どれだけ早足で廊下を歩いても着いて回ってくる女中たちは口五月蝿く、自分を説得しようとしてくる。
「ッ」
怒り寸前だったけどもう限界。
自分の頭の沸点なぞとうに超えていた。
目的地にたどり着く前にこの者達を引き剥がそうと踵を返し、口五月蝿い女中(×3)を睨む。
「あぁぁもうっ、うるっさいわねぇっ!!
私のやりたいことをしに行くんだからいいでしょ!!」
「しっしかし、ハクア姫……」
自分が怒鳴ったことで意見を言わなくなった女中の一人がこちらの様子を伺いながらまだ言葉を紡ごとうとする。
それを見てまた怒り三倍。
「なにっ!!?」
「お、畏れながら!!姫は此度の戦のことをまだ把握していないのでは!!と……」
そこで口籠ってしまった女中を横目で見て、一番年のとっている女中が代わりに言葉を紡ぐ。
「姫様が行くと申されます此度の戦いは命を奪われない可能性があるにしても、その逆の可能性も充分にあるのです。そのような危険な場所に姫様を一人送り出すのは、我ら召使いの身分の者しても大変心苦しいのです……」
まるで何かに謝罪するように女中は言う。
彼女達は召使いとしても、家臣として、王族の身分にある自分を心から心配してくれているのが痛いほどわかってる。
それでも、例えこの心優しき彼女達を裏切ることになったとしても、自分が行かなければいけないこともわかっている。
小さく息を吸って、宙に浮かぶようにつま先で地面を蹴って、ハクアは目の前の三人を抱きしめた。
素直な好意を持って、優しく深く抱きしめた。
「姫、様?」
「クレア、ヒズキ、カム。ありがとう。私、貴女達のこと大好きよ。だから言ってくる。ちゃんと帰ってくるから」
同じような反応を見せる三人に笑顔を見せて感謝の言葉を口にする。
――そのために、自分は自分と同じく戦ってくれる『筈』の共闘者の元へと向かう。
今回の聖戦によって呼び出される“サーヴァント”と呼ばれる英霊の種類は、聖遺物と呼ばれる英霊の遺品さえなければ、全て戦いの舞台となるニホンとかいう国の英霊になると思っていたのだけど。
彼女が呼び出したアレはどうにも違う。
文書で見たニホンの人間達とは顔つきからして違うし、なによりニホン人特有の「義を重んじる心」というものが一切感じられなかった。
減らず口だ。あいつは絶対スキル「減らず口」を習得している。
重たい扉が騎士達によって開かれ、扉の向こうの景色が目に入る。
だらしなく服装を見出し、自国名産の紅茶を行儀悪く飲み干し、あまつさえヒズキが頑張って塵一つなくしたテーブルの上に両足を乗せて、堂々とソファの上で寛いでいる。
本当にこれが自分のサーヴァントなのか、神様に向かって訴えたい。違うのならちゃんと賠償金やらなんやら払って欲しい。
眉間に浮き上がる血管を抑えながら、ハクアはソファに睨みを聞かせ無理に作った笑顔で話しかける。
「ねぇ、“ランサー”……貴方。テーブルマナーってご存知?」
「あぁ?悪いが知らねぇなぁ嬢ちゃん。あいにく俺が影の国で教わったのは体術と魔術ぐらいなんでな。お行儀の悪さを気にするのなら令呪でも使って習わせな」
――目の前で悪態をつく、【青い槍兵】に向かって。