『キャスター陣営』
・早眞冬児
聖杯戦争に巻き込まれた男子大学生。愛する女の子を救うために戦うことを決意する。
・キャスター(一騎目)
真名不明。日本風の顔立ちの紫の着物装束の美少女。
『アサシン陣営』
・平桔平
バイクが好きな青年。喝馬町のオーナー・壬生家を壊滅させるが、キャスターの手によって大ダメージを受ける。
・アサシン(一騎目)
真名不明。雪のように白い肌をもつ可憐な暗殺者。宝具は巨大な獣。
『シールダー陣営』
・不明
白髪の老人。正体は定かではない。
・シールダー(現在不明)
日本の武将。攻撃を無効化させる鎧を宝具としていたが、ライダーによって消滅させられる。
『ライダー陣営』
・矢部崎結香
冬児の幼馴染である眼鏡の少女。冬児に対して異常なまでの愛情を見せる。
・ライダー(一騎目)
黄金の舟に乗るサーヴァント。常に上から目線の性格だが、愛に生きるマスターには情を見せる。
『参加者以外』
・壬生カグラ
喝馬町のオーナーの娘。平桔平によって身体を肉の塊に変えられる。
・アストル・ハーデンベルト
教会にも協会にも属さない独自の宗教組織『バルドリア』の大師父。自分達の教祖の意思を実現させるため今回の聖杯統合戦を起こした。
・アレーシア・ハーデンベルト
聖杯統合戦における監督役。アストルの実娘であり、息子を一人持つ。基本的に温厚な性格で抜けているため争いには向かない。
○【聖杯統合戦・二日目・喝馬町第一教会】
老人は考える。
これからのこと、この戦争がどこまで続くのか、来るべきであろう反乱の時のことを。
更に続けて考えていた。
――最近孫が冷たいことを。
「あっあの、お父様……?」
娘の方も考えていた。
父と共に教会を出てから早数年。自分にも愛する人ができ子供もできた。夫と子供とそれなりに幸せに暮らしていたが、ある日突然、姿を消していた父から便りが来て幼い頃から父に聞かされてきた夢の実現を手伝ってくれないかと頼まれた。
そしてこの日本という地に降り立って半年ほど。聖杯統合戦という戦争の監督役としての自分の護衛役(やっぱり家族だから一緒にいたい)として、息子も一緒に連れてきたがそれが間違いだった。
息子は良くできた息子だ。これは親バカなどではなく、文武両道、容姿端麗、親の言うことに逆らわず言われたことをきちんとする本当に良くできた息子だ。
が、息子が唯一嫌ってるものがある。
父だ。我らが唯一神を賛える組織『バルドリア』の最高司祭にして、息子からしたら祖父にあたる人物である。
威厳があり、目的のためになら教徒以外容赦なく断罪することで畏れられてきた父が、今さっき孫に無視されてやけ酒飲んでるなんて1086人の教徒全員が思いもしまい。
「………アレーシア……」
「はっはいっ。なんでしょうお父様」
「私は、何故あんなにもあの子に嫌われているのだろう………」
「えっえっと……」
正直なところ、息子が何故あそこまで父のことを嫌っているのか母親である私も知らない。また娘の立場に自分を置き換えても父がそこまで嫌われる理由など思いつきもしないのだ。
「………っ!反抗期!そう反抗期ですよお父様!!」
「ハンコウキ………?」
「十代半ばの子供が親世代を嫌煙したくなる病のようなものです。ですからあの子も別にお父様だけを嫌っている訳では」
「でもお前朝ご飯作ってもらってたよな」
「うっ」
「私到着するまで一緒に仲良く洗濯物取り込んでたんだよな…」
「おっお父様………」
まずい、またしょぼくれてしまった。
自分自身もこんな父を見るのは初めてなので対処に困ってしまう。
まだ日本に来た理由も聞いていないのに……。
数ある願望器の中でも最上位に君臨する願望器を奪い合う戦争、聖杯統合戦の現監督役、アレーシア・ハーデンベルトは自身の金髪を耳にかけ思う。
もうこうなったら半ば無理矢理にでも話を繋げよう。早く威厳のあった頃の父に戻そうと。
「えっえぇっと、そっそれでお父様はどのような御要件でこちらへ?まだ時期としてもお早いようですが」
自分ができる限りの作り笑顔をし、最低限に気を使った言葉で尋ねると、父はようやく立ち上がった。鼻水を啜った音は聞き流しておこう。
「……それがなアレーシア。
今回の聖戦、英霊を何度も召喚できるシステムを組み込んだことで我らは期間が長引くと予想し半年のサイクルを予定していたが……」
振り向きこちらに向けられた父の顔は、まるで神に懺悔するかの如く弱々しいものになっていた。
「その予定を大きく下回り、日本時間において今月中には終焉を迎えそうなのだ」
●
「今月中………?ありえるのですか?そんなことが」
いつもなら父の言葉に間違いはないとなんでも受け入れているが、今回だけはアレーシアも反応が違っていた。
「十騎のサーヴァントが争い、欠片を奪い合う今回の聖戦において、最大の弱点であるマスターの必要性は他の戦いに比べて乏しいものです。それは過去行われた戦いでは令呪を証としてサーヴァントを従えるマスターが死亡した瞬間に勝敗が決まっていたのに対し、
今回の聖戦のマスター権の証は令呪ではなく賞品の一部である欠片そのもの」
「だから弱点の無くなった聖杯統合戦はより多くの日日を重ねると」
アレーシアの父は礼拝堂の一角に腰を掛けながら娘の言葉に返事をする。
「その理屈を打破する要因はいくつかある」
アレーシアの父はそのまま言葉を紡ぐ。
「その中でも一つ、大きな要因として考えられるのは呼び出してしまったサーヴァントの【質】だ」
「質?」
当然ながらサーヴァントにも強弱があり、何かを得意とするものがいれば逆にそれを弱点とするものもいる。だからといって弱点があるからすぐに反対するという訳でもなく、そういう困難を乗り越えるからこそ英雄は英霊として奉られているほどの存在となるのだ。
「サーヴァント同士の戦いには相性というものがある。近距離戦闘を得意とするセイバー・ランサーにとって、遠距離射撃を得意とするアーチャーや機動力のあるライダーは苦手とする部類に入るだろう。
しかしそれはそのクラスに該当する宝具をサーヴァント自身が持っていたに過ぎず、例えば剣の形をした宝具を持っていながら遠距離攻撃を出現させるセイバー、なんて場違いなものもいる。
英雄同士の戦いとは単にクラスの相性だけではなくその英雄同士の相性も重要にっなっていた、が」
老人は視線を上げ、自分達がかつて信仰していたものの象徴ともいえる十字架を見つめながら言葉を紡げる。
「どうやら我々が思っていたよりもあの聖杯を注ぎ続けていた孔は広がりすぎていたようだ。ああなってしまうと呼び出される英霊の質が一気に変わってしまう。
一騎目の“シールダー”、“アサシン”はさほど良い質ではなかったため初日に早くも敗退。
今回の聖戦、異質なのは」
神父は空を眺め何かを恨めしそうに見つめる。
「“アーチャー”のサーヴァント、
それとキャスターとそのマスターの近辺に集う連中だ」
「近辺……?」
「その事に関しては現在に至ってはさほど気にすることではない。
それよりも重要なのはアーチャーの方だ。
密偵の情報からするに、間違いなくアレは我らが悲願の邪魔になるものだ。“バーサーカー”の暴走に加えて、“メイカー”などは何を考えているかわからん。
我らが悲願が打ち砕かれることなどないよう早急に全マスター、サーヴァントを見極めなければならん」
○【聖杯統合戦二日目・喝馬町・某ホテル】
都会と田舎がバランス悪く混じり合った町、喝馬町の一角に、これまた場違いなホテルがあった。
別に大した観光名所がある訳でもないので客も少なく、今借りられている部屋の数も片手で数える程度しかない。
そのホテルの三階。赤い絨毯が続く廊下を歩いて行く影が一つ。
影は『307』という番号が書かれた部屋の前に立つと、扉に背中を合わせて不規則にノック行う。他の者からしたら不規則に見えるそれはノックをしている影からしても部屋の中にいる奴からしても、何かの合図には違いなかった。
そしてノックが止められて30秒後。がちゃり、と鍵の開けられた音がし、ついでにチェーンも外される音がする。
中から出てきたのは顎鬚の男で合図をした外の男と頷きだけで挨拶を済ませる。
「ラインさんとフラン姐さんは」
「街を散策してっするよ。常時姐さんはラインさんの護衛に」
「よし」
ホテルに待機を命令された二人の男は、外に出ている自分達のファミリーの安否を願う。
○【聖杯統合戦二日目・喝馬町・商店街】
子供たちが笑う声。大人たちが楽しそうに会話する様子。
幸せを映すその風景に、大マフィアの代理ボスであるラインは笑みを浮かべる。その横で愛する人が頬を緩ませているのを見て麦の金髪を肩の下辺りまで伸ばした女子、フランも頬を緩ませていた。二人は噴水の石畳の上で休憩すると言ってから、もう十分もこの光景が続いており、ラインはやっと自分を見つめる女性の視線に気づく。
「なっなにかな?フラン」
「んー?ラインが嬉しそうだからさ、私も嬉しくなってるんだよ」
「!!」
ラインは恥ずかしいこと言うなと言わんばかりに耳の先まで真っ赤に染め目を逸らす。
その時目に入ったものと、この今の状況が普段内気な彼に勇気を芽生えさせる。
彼の目に映ったのは今まさに男性の方から指輪を差し出そうとするカップルの様子。プロポーズの瞬間だ。
考えてみれば、いや考えもしくてもだ。自分は一度でも目の前の大切な人にちゃんと「好きだ」と行ったことがあっただろうか。いやない。間違いなくない。自分のことは自分が一番理解していると言うし、それが自分の一番嫌いなところなら尚更だ。
ラインは尚も顔を赤面させたまま視線をフランに向ける。
向けるとフランは彼女はまた優しい笑顔を浮かべてくれ、それに可愛いなぁと呆けているとますます顔が熱くなってきた。
長期戦は不利。ここは一言彼女に伝えるしかないと今まで言う事のなかったその台詞を喉から引っ張り出す。
「あっあっ、あのねっ!!フラン!!!」
「?どうしたの、なんか声裏返ってるけど」
「えっとねっ!!そのっ、あの、つっ伝えったいっ、ことがっ!!あって!!」
回りくどい言葉のせいか表情は崩さぬまま笑顔を浮かべ続けてくれる彼女に対し申し訳ない気持ちで一杯になり、このまま言ってしまおうと決心する。
「ふっ、フラン!!!!ぼくはっ、きみっが」
「おいおい坊主。言いたいことがあるならはっきりと相手の目を見て言いな。
それが好きな女への告白なら尚更だ」
ふいに聞こえた声。
ゆっくりと眼球を震わせながら視線を横に向けると、そこには男が立っていた。
背はそれなりに高く顔立ちは整っており、青く逆だった髪はまるで獣のようである。
喝馬町には似合わない高そうなスーツを着ているため、残念ながら背景とはミスマッチしている。
男は腕を組みこれみよがしにラインに説教を始める。
「いいか坊主。女ってのはだいたい押しに弱いもんだ。男の方が多少強引じゃねぇと女は自分が気を張らなきゃって思っちまうもんだからな。だからといってゴリ押しはいけねぇぜ、それはエゴの押し付けだ。まぁ坊主はそんなことできなさそうな坊っちゃん面してるけどよ」
聞いてもいないのにマシンガンのように飛び出す言葉の嵐にラインは目を回したが、フランの方は違っていた。
既に尻のポケットに忍ばせておいた拳銃を右手に握らせており、相手の出方を伺っている。
「やめといた方がいいぜ姉ちゃん。そいつで鉄の塊ぶっ放そうが俺には当たらねぇよ。当たったところで次にお前ら二人の首が飛ぶだけだ」
「ッ!!!」
フランは男の言葉に焦りを浮かべる。
男の目は完全にラインに向いている。そして自分は男のいる方とは逆の、死角になっている方のポケットに入っている拳銃に手を伸ばしていた。
またフランは日頃からファミリーのボスであるラインを守るためどんなときでも最前線で警護にあたっており、その技術力・戦闘力を合わせた場合、並みの人間とは比べ物にはならない。
しかし相手は人間ではなく、世に名高い英霊だ。
殺気だって決して気づかれないようにした。
なのに目の前のこの男は一瞬でそれを見破ったのだ。
「なにも無闇に手出そうってつもりで来た訳じゃねぇんだ。
今は居ねぇみてぇだが、どっかに隠してんだろ?サーヴァント。出せよ」
「私達を人質にしてあいつを誘き寄せるつもりかよ。そうすりゃ私達のサーヴァントが無抵抗にお前の殺されると。最高にクソだなてめぇ」
「あ?人質?」
フランの毒の着いた言葉に、青い髪の男は高らかに笑う。
「だっーはっはっはっ!!誰がそんなつまらねぇことするかよ。言っとくぜ姉ちゃん。俺は願望器に願うような願望はねぇ。それよりかこういう戦いに参加できることが俺にとって願いみたいなもんだ。
だから俺は俺が心置きなく戦えるように魔力を送ってくれるマスターへの義理立てとして、それと俺自身の愉しみのために他の英霊共と戦うのさ」
「……それじゃ貴方はただ戦うのが目的だと?」
フランの背後から顔を出したラインが弱々しい声で言う。
「ああそうだ。だから早く英霊を呼びな、なぁにこんな人気の多いところで殺し合いなんかしねぇよ。
ここからそう遠くねぇ所に裏山がある。そこに後で来てくれ」
男の清々しいまでの態度にフランは眉間に皺を寄せてしまう。
「もし私達が行かなかったら?」
「そんときはそんときだ。
ま、どうもあんたの話じゃ『マスターのためなら無抵抗で敵に殺される』ような奴なんだろ?必ず来るって信じてるぜ」
そう言うと男は背を向け手を振りながら何処かへ消えていった。
男が人混みに消えてから数分後。先に気が抜けたのは金髪の女の方だった。
「………はぁ」
いつも以上に気を張っていたフランの肩の力が抜く。ラインもまた然りだった。
「ふぇ、たったすかったぁ……」
「ライン、大丈夫?」
愛する人の怯え様にフランは声色を元の優しいものに直して尋ねる。ラインもまたいつもの優しい彼女に戻ったのを確認して安心したように苦笑した。
「うっうん……なんとかね」
「……どうするのライン」
一度緩めたフランの表情がまた険しいものに変わる。
「なっ、なにが?」
「さっきのサーヴァントのこと。
いくらあんたに戦う気が無いとはいえ、ボスからあのオカルトな欠片を渡されたのはあんたなんだから。
あいつを戦わせるかどうかくらい、あんたが決めなさい」
彼女の厳しい、自分に決定を任せる言葉にラインは戸惑いながらも考える。彼女の期待を裏切らないように、自分に僅かにでも残っていたらいい誇りのために。
「た…………戦うよ………。戦う………ぅっ」
格好良く決めるつもりだったが結局涙腺が耐えられずフルフルと大粒の涙のせいで視界が揺れる。そんな情けのない自分に、フランは半分満足したかのような笑みを浮かべながら頭を撫でてくれる。
「うん上出来、とは言えないけど。頑張ろうか」
戦うための覚悟を胸に秘めながら二人は決戦の地である山を見つめる。
○【三時間後・喝馬町・碌癌山】
足場の悪い地面を歩きながら自分のコンディションを確認する。
体力残量:問題無し。
心拍数:上昇中。但し戦闘に負担をかけるほどのものではない。
精神状態:ラインのための戦いだから最高にハイ。
斜面を歩くこと30分。
ラインの護衛役を務める者として常日頃からトレーニングを欠かさないフランにとってこの程度の山登りなど造作もないことだが…。
その間体感する時間は彼女を考えさせるのに十分なものだった。
――ラインはちゃんと目的地で待機しているだろうか
思うのはやはり愛する人のこと。
作戦として自分が前衛をやっている間に、本当のマスターであるラインがサーヴァントと合流するというものだ。
ふらふらと遊びに出かけた『あのクソサーヴァント』を呼ぶ手段としては勿論令呪を使うという手もあるが、三つしかない絶対命令権だ。よっぽどの緊急事態ではない限りそれは避けたい。
相手の力量はわかっている。決して自分の力量を過小評価している訳ではないが、あの英霊は到底倒せまい。
だから時間稼ぎ。奴が不信に思わないように、それと自分たちのサーヴァントがラインと合流するまで。
目的地の平地に到着すると、あの男が待ち構えていた。
腰を預けるには十分すぎるほどの大岩に座り、纏っている衣服もスーツではなく青い装甲に変わっている。
何よりも目を惹きつけたのが、
――男の両肩に乗せられた禍々しいほどの真紅の槍だった。
「よぉ、姉ちゃん。まずは話を聞こうか」
男は開幕早々一変。表情を軽率な笑みから明らかな不機嫌なものに変え岩の上から立ち上がる。
「なんで一人なんだ。というかそもそもサーヴァントはどうした」
「……私は代理だ。本来のマスターはとうにこの場から離れた場所に身を隠しサーヴァントもその警護にあたらせている」
淡々とフランも考えてきた嘘を声に出す。
すると槍を持った英霊は一息つき、槍を背中から回して右手に持ち直す。
「ああ、そういうのいいんだわ。本当のこと言えよ姉ちゃん」
見透かされた?
そう感じたからこそフランは表情を崩さず相手に返答を返す。
「なんのことだ」
「惚けてんじゃねぇよ。あの小僧にてめぇを見捨てられれるかよ」
「ッ!!」
「大方、ここの状況が分かる位置で戦況を伺っているってところか。で、てめぇは何らかの事情でこの場に来れないてめぇらのサーヴァントが到着するまでの時間稼ぎって訳だ。
まぁ時間稼ぎにもならなかった訳だが」
槍を持った英霊は軽く鼻で笑い、まるでフランなど視えていないかのように横を素通りして行く。
その行動にフランの額の血管が『二本ほど切れる』。
「おい、このクソイ○ポ野郎。何処行く気だ」
フランの憤怒が籠った言葉に紅い槍を持った青き英霊は歩みを止める。
「何処って。てめぇんところの坊主の所にだよ。あの坊主捕まえて二三発殴っちまえば嫌でも涙流しながら令呪で自分のサーヴァント呼ぶだろ。
あんまり気に食わねぇ手だがこっちにも時間が無くてな」
――フランには大層な学歴はない。
だから本当の意味で頭に血が登ったとき、出てくる言葉はただ一言。思った言葉を相手にぶつける。
「ぶっ殺す!!」
連続で鳴る銃声。
フランがジャケットから取り出したフルオートのハンドガンを手に、後方へ跳びながら青い英霊に向けて銃弾を放った音だ。
しかしそんなものは槍を持った英霊、“ランサー”には掠りもしない。ランサーは呆れ顔とも残念な表情ともとれる表情を出しながら溜息を吐く。
「俺には矢よけの加護があるから飛び道具はくらわねぇんだけど、な」
次の瞬間。距離を離そうとしたフランの目からも、また離れた高台からこの場を見ているラインの目からも、青き槍兵の姿は消える。
魔術などの神秘の類ではない。フランは直感する。
来る。純粋な速さでの攻撃が。
自分の腹部に突き刺さるようで更に重い一撃が入り込み、フラン身体はまるで綿を詰めただけの人形のように軽々しく地面と並行に宙を飛ぶ。
その攻撃が蹴りだと理解するのは、フランが元いた場所から10㍍離れた大木にぶつかった後だった。
「ッ!!!っかはっ」
「なんだもう限界か。それでいいぜ動くな。
女を傷つけられねぇなんて綺麗事を言うつもりはねぇがやらなくていいに越したことはない。どちらにしろ気分がいいもんじゃねぇ」
青き槍兵は悠々とした様子で歩みを進める。
地面に這いつくばりながらフランは必死にランサーを睨みつける。呼吸も上手くできず血が正常に循環しない。
頭に残る大量の血が訴えるのは湧き上がるような自分への怒り。
自分なら大丈夫だと信じていた。
それは過信だった。
倒せなくても時間稼ぎにはなると思った。
秒単位しか保たなかった。
相手が英霊でも関係ないと考えていた。
それは大きな誤りだった。
槍兵の姿が消えかかっていても未だに血は自分に訴える。
血は自分に何を訴えている?
もっともっと、愛する人の――。
○【碌癌山の一角】
「やばいな……」
フランが紅い槍を持った男と少し出会う前からその様子を監視していた者達がいる。
今も双眼鏡で戦況を確認しているマークと、その後ろで座りながら震えるライン、それを宥めるルツの三人である。
「姐さん、ありゃ骨を何本かいってる。
どうしますかラインさん。姐さんが狙われることはもうなさそうですけどどちらにしても奴はこちらに来ます。姿が見えているうちに射撃を」
「そんなことどうだっていいよ!!」
突然の怒鳴り声にマークは双眼鏡から目を離し、ルツも顎を大きく開ける。表情は双方同じく唖然としたものだ。
当然だ。初めて自分達の雇い主の怒鳴り声なんてものを聞いたのだから。
「ら、ラインさん……?」
「早く!!早くしてくれ!!なんで来ないんだよ!!」
その苛立ちは自分のサーヴァントに向けてのものか。
マークはフランが瀕死の状態にあるから、だから彼はここまで怒っているのかそう推測していた。だがその予想は僅かながら外れることになる。
ラインは次第に地団駄を踏むように地面に足を何回も叩きつける。
「早く!!早くフランを助けないと!!」
それは大きく、ラインの流す涙の量と比例していく。
「フランが暴れちゃうよぉ!!」
○【喝馬町・平地】
この時点で自らの青い身なりとは対照的な紅き槍を持った英霊は次の目的のことを考えていた。
――めんどくせぇ。
そう思うと同時に、自分の期待が裏切られる予想をして不安とも呼べる心情になっていた。
先程打ち負かした女の話し通りなら自分が戦うべき英霊は、“少なくとも友人の為なら命を投げ出せる”ような、絵に描いた英雄像をもつ人物ということになる。
そんな相手と一戦交えられるかもしれないことにランサーは心躍っていたと同時に、その期待が裏切られるかもしれないという直感にうんざりしている。
しかも今現在、自分はマスターによっていくつかの制約を結ばされている。
無論、絶対命令権である“令呪を使われて”だ。
命令の内容は『どのサーヴァントとの戦いも一度目では相手の命を奪わないこと』『不利だと感じたらすぐに撤退すること』。
ランサーにとってもまさか呼び出された数時間後にいきなり令呪を使われるとは思いもしなかったが、逆らえるものではない。
更にもう一つ。令呪とは別にマスターから命じられた任務があり、『戦った相手のマスターが信頼に値する人物か判断しろ』というものだ。
まぁ自分の主人の願いを聞いている身としてからはそれを叶えてやりたいと思うし、確実に勝利するために他の陣営と協力する必要性も理解できるので別に反対という訳ではないのだが。
――やっぱりめんどくせぇ。
一度目から全力を出せないというのは、一戦士としてもやる気が出なくなるのも当然だ。
何よりも自分の宝具は『相手の命を奪うことに長けて』いるのだから。
「まぁ」
ランサーは再び肩に槍を乗せて片腕で頭を掻く。
「どちらにしてもうちのお姫様からの命令だ、従う他ねぇか」
そう嫌々言うような素振りを見せながらも口元に笑みを浮かべ、自分が見極めなければならない少年の元へ向かおうと両足に力を入れようとした瞬間。自分の身体が動かなくなっていることに気づく。
呼吸や腕、脚も動かせることは動かせれるのだが…。
動けない。動きを止められている。
―肩に乗せられた美しい女性の手によって。
「驚いたな。まだ動けんのかよ」
本当に驚いた様子で背後に振り向こうとしたランサーの顔に一線。拳が振り払われる。
ランサーはそれを紙一重で避け、肩から手を離されたのを拍子に大木の枝へと乗り移る。
青き槍兵が見たのはさっきの小娘とは似ても似つかぬ“怪物”。
金の髪はそのまま。灰色の肌に紅い眼。明らかに強化さながらも美しさを保った肉体。頭からは角らしきものが生えており、まるで映画で見るホログラムのように消えたり現れたりを繰り返している。
まるで伝承に聞く悪魔の姿。
その姿を見て、数々の怪物共を相手にしてきた英雄は不敵に笑う。
「おいおい姉ちゃん、人が悪いじゃねぇか。そんな隠し玉持ってるのならさっさと言えよ。
それで、その姿は何だ?」
ランサーの言葉に返答はない。
フランは決して理性を失っている訳ではないが、今現在フランの身体にはある理由から
、サーヴァント風に言うと【狂化】がステータスが追加されている。
言葉を知っていることと言葉を使うことは違う。
化物じみた身体強化の代償は、言語使用の喪失だった。
「━―−━━━━_―−_―−−━━━━ッ!!!」
フランは雄叫びを上げると同時に地面を蹴り、ランサーの乗っている枝に向かって猛突進する。
無論、武器は狂化され強化された拳のみである。
「いいじゃねぇか。相手になってやる」
対するランサーは、今なお余裕の笑みを浮かべながらビリヤードでもするかのように槍を構えた。
○【十年前】
簡潔に言うとフランレルという少女は人間を止めてしまっていた。
きっかけは些細なこと。
大マフィアの幹部という役職につく父と、その父を誰よりも愛する元娼婦の母。決して誰かに褒められる生き方ではないが人間としてとても立派だったフランの両親達。
フランも両親のことを誇りに思っていたし誰よりも大事だと思っていた。
しかし悲劇というのは突然起こる。
家族旅行。オーストラリアに向かった旅は地獄へと変わり、少女の慎ましい人生を180度変える。
●
「ええ。本人は『怪物に襲われた』としか」
「うちと契約結んでる魔術師達の話じゃ、どうやら“死徒”とかいう連中に襲われたらしいです。簡単に言えば吸血鬼みたいなもんでラーニッグさんと奥様もそいつらに殺られたらしく」
「まるで安物のホラーだな」
「ボス」
「解ってる。あの子の前じゃ間違ってもそんなこと言わねぇさ」
――大人たちがなにか話してる。
――無理よ何を言おうと私には届かないわ。
――この身体には魔物が住んでいるんだもの。私が言葉を聞こうとしても魔物がそれを食べちゃうんだもの。
――だから私には貴方達がなにを喋っているのか聞こえても理解することができない。
――当然よね。だって私はもう貴方達とは違うんだもの。
――人間は他の生物の言葉は理解できないんだから。
――私は化け物。言葉を食べる化け物。
――私に取り憑いた化け物は私になった。
「ねぇ。君、なにしてるの?」
――音が聞こえるわ。
――ええ音が聞こえるわ。誰か話しかけてるんじゃないかしら。
――大変だわ。またあの子の餌になっちゃう。
――止めて私に話しかけないで。あの子が力をつけちゃう。
「君、名前なんていうの?」
――止めてよ。聞こえないの?
――聞こえないわ。だって私は自分の言葉も食べちゃうんだから。
「言葉、喋れないの?」
――止めてってば
「えっ」
●
――昨日の男の子、しつこかったな。
――良い子なのよ。私を可哀想な子だと思って話しかけてくれたのよ。
――私は同情されたの?なんで?
――それは私がそんな良い子を痣だらけにするような女の子だからよ。
――そうね。その通りだわ。だから彼はもう来ないでしょう。
――ええそうね。もう来ないでしょう。
「やぁ」
――音が聞こえるわ。
――ええ音が聞こえるわ。
「あ、あははは……いやぁ流石に立てなくなっちゃって松葉杖がないとダメだね。あっ!!別に君を責てる訳じゃないんだよ!?」
――もし私が声を発せられるのなら私は彼に聞くでしょう。
――何故貴方はそんな姿になってまでここに来たのかと。
――知ってるわ。貴方、ここで一番偉い人の子供なんでしょう?ならなんで親に頼んで私を殺さないの?
――なんでそんなに平気な顔で笑ってられるの?
「えーっと。父さんには階段から転げ落ちたって言ったんだけど、良かったかな?いっいいよね?大丈夫痛くないよこれぐらい!っいつつ」
――貴方は、何で……。
――あら黙ってしまうの私?
――心の中でさえ。自分に対しての言葉も失ってしまうの?
――可哀想。本当に可哀想な私。
――私はそうやって被害者面を続けなさい。
「……溜め込むのは良くないよ」
――。
「僕は引っ込み思案だからさ。中々人に好意なんて伝えられないけど、言いたいことは言ったほうが良いと思うんだ。
だってそれは紛れもないその人の意思だから。例えそれが相手に通じなくても言葉にすればその意味に気づく人が何処かにいるかもしれない」
――何を、勝手な。
――私は声が、言葉を話せなく、
「った……」
――!!!
――今声が……。
「わぁっ!!」
――なによ
「凄く綺麗な声だね!!」
――………。なによ。なんなのよ。
――なんで嬉しそうな顔するのよ
――なんでアンタが、アンタなんかが。
――アンタなんかが私を助けたのよ。
○【現在】
今でも思う。ラインが自分を救ってくれたのは、ただの思い込みではないのだろうか。
そう思い込むことで自分は救われていると思いたいだけなのではないかと。
そんな思い込みを『好き』という気持ちに変えてラインに押し付けているだけではないのかと。
だが同時にこうともう思うのだ。
そう思えるだけで、私はもう、救われているのではないかと。
――私に誰かを愛する言葉を教えてくれたライン。
だから私は、その言葉をまた伝えるために、目の前の敵と戦う。
●
「━−━━━−━−――━━━_━━━−―ッ! !」
吹き荒れるは拳打の嵐。打っているのは、相手に飛び道具が効かないことが解り戦闘方法を近接戦闘に変えた女の方だった。
女は肩の少し下ぐらいまで伸びた髪を躊躇いもなく乱しながら、獣のような声を上げ攻撃を続ける。
対する紅き槍でその攻撃を弾く、蒼き槍兵。
「チィッ!」
槍兵、ランサーもただ相手の嵐のような攻撃を受けているだけではなかった。
拳を弾き返し隙があれば相手が死なずに戦闘不能になるような部位を狙い穿つ。
それをもう何十回も続けているというのに、目の前の女はいつまで経っても息絶えない。
――不死性、とまではいかねぇだろうが。即効性の治癒能力かなんかか。
そこまで理解していたとしてもランサーに状況を変えるのは難しい。
無論、彼自身が英霊としての本気を出せば彼女を倒すことも可能だが、それはできない。
もしも自分達だけでは倒せない英霊と出会った場合、他のマスター達にも助けを求める必要があるかもしれない。それが今回の戦いにおいてランサーのマスターが気にしている不安要素の一つだ。
この女は、そのマスターの一人である坊主の恋人かなにかの筈。手早く殺すことなどランサーにはできなかった。
「ったく」
ランサーは一つ溜息を漏らすと、後方に向かって一歩。倒れ込むようにして足を下げる。
対するフランの拳は空を切り、自分の頭より下にいる敵に対しての反応が遅れてしまった。
それが最大の命取り。
一線。
ランサーの槍がフランの身体を薙ぎ払う。
勿論長物の武器である以上、フランの身体を傷つけることはできずただ打撃を与えるというものだけの攻撃だった。
しかしそれが今、治癒能力のある怪物としてランサーを襲っていたフランに最もと効果的な攻撃なった。
「━―−━━」
痛み。
脊椎動物の殆どが持つとされ、不死の生物の最大の弱点とも言われる。
不死であるが故に死ぬことができず、極端な話、太陽にでも突っ込んでしまえばその物体は永遠の痛みに耐えきれず精神が死んでしまうのではないだろうか。いや勿論、太陽そのものを破壊できたり、その熱に適応できる奴がいたとしたら別だろうが。そんな者は中々いまい。
フランのくらった鈍痛も然り、治癒能力では回復できない脳の正常な信号だ。
そこから連続して繰り出されるのは槍の『刺す』という攻撃方法ではなく、槍の身の長さを生かした連続打撃。
「はぁっ!!」
フランは感じる。例え肉体を少し人間から離れたものに変えようと、相手は格の違う英霊なのだと。
怪物を倒すのは何時の時代だって英雄の仕事なのだから。
治癒能力をもつ怪物の身体は着々と痛めつけられていく。太刀打ちで、銅金で、石突で。
猛獣のような打撃の嵐は続き、水月に向けられた石突で止められた。
「━━━━━がはっ」
「しまいだ姉ちゃん」
内部に向けられたが衝撃に耐えきれず、フランは腹部を抱えるようにして膝から崩れ落ちる。その姿に情けも躊躇いもないように、ランサーの紅い槍の穂が女の首に付けられる。
「まぁ良くやった方だと思うぜ、人間にしてはな。見たところ四分の一程度肉体を別の何か変えられるようだが、俺を倒すには至らねぇわな。
てめぇが首跳ねられて死ぬかどうか知らねぇが仕方ねぇ。少々心は痛むが、死んだら運が悪かったと思って」
ランサーは槍を持った腕に力を入れ、
「死んでく、――ッ!!」
――その槍を後方から来る攻撃の防御に使った。
●
「てめぇは………なんだ」
ランサーの額から汗が流れる。
恐怖している訳ではないが、ただ目の前にいる男が解らない。
異様なほどの魔力は放ちながらそれとは、また違うものも醸し出している。
今思えばさっきの攻撃を槍で防御できたのはここまでわかりやすい気を出してくれていたからかもしれない。
そこにいたのは青年だった。
青丹色の髪。色の濃い褐色の肌に金の装飾を幾つも付け全体的には黒で統一している。
今風で言うと優男といった雰囲気だった。
だがそれ故に禍々しいとさえも思える。
――この男は明らかに格が違っている。
「すいません。そちらの御仁をこちらへ渡して頂けますか?」
男は涼やかな笑みでランサーに笑いかける。
その手に鋼の剣を持って。
「なんだ。用があるのならまず名乗れよ。見たところ“セイバー”って雰囲気だが?」
「すいません。そちらの御仁をこちらへ渡して頂けますか?」
「……」
――会話できねぇ。
よっぽど狂っているのか、それともクソ真面目なのか。
とにかくいけすかない奴だとランサーは心の中で思う。
「すいません、これも『義務』ですので。驚くぐらい何もなくこちらへ引き渡してくれると助かります」
青年は凛とした姿のままこちらへ笑いかける。
そんな中でランサーは考えていた。
戦うべきか、逃げるべきかだ。この女を引き渡したところで目の前のこの男が見逃してくれるかは解らない。
ならどうするべきだ。
考えていた。そんなこと考えている間に、背後の怪物が既に回復していることにも気が付かずに。
ランサーの背後に忍び寄ったそれは、ランサーより小さな身ながら必死相手の身体を抑えつける。
「あ、“アーチャー”!!ここここここ、この人は、ぼぼっぼくが抑えつけたから!!僕ごと!!早く!!!」
ランサーを抑えつけていた、というかそれをしている気持ちになっていたのは、離れた場所で隠れていた筈のラインだった。
「ら、ライン!?」
「……おい坊主。俺までお笑い空間に巻き込むんじゃねぇよ」
突然の登場にフランは当然ながら驚き、ランサーはランサーで呆れたりもしていた。
そんなこと知る由もないラインは冷静さを失った表情と声で自分のサーヴァントへと叫びかける。
「あっああああぁあっ!!はっはやく!!はやく!!ひとおもいに!!でっでも痛くしないで!!!」
ガチガチ歯を鳴らせ、目元には大粒の涙を浮かべながら自分に命令するマスターを、
「いけません!!マスター!!」
サーヴァントが止める。
「今日は私が調理した“スブタ”を食べてもらう約束の筈です。昨日本を読んで覚えました、死なれては食べてもらえません」
「あっあんたまたあの殺人料理をラインに食べさせる気!?許さない!!そんなの許さないからな!!」
「何を言うのですフラン殿。私は主であるマスターを思って少しでも仲が深まったらいいなと料理を覚えようとしているのに、そんな言い方ないではありませんか!」
「うっせぇ!!昨日私も死にかけたんだよ!!」
ランサーは槍を肩に乗せながら思う。
――俺、帰っていいかな。
●
「んじゃ、俺は帰っていいんだな?」
「ええ、マスターが決めたことですから。貴方も本気でフラン殿の命を奪おうとした雰囲気じゃありませんでしたし」
他の陣営達なら考えられないだろうが、ランサーとアーチャーという、聖杯統合戦の顔ともいえる二騎の戦いはこの場では行われなかった。
理由は交換条件。ランサーが万全を出せない状態でアーチャーと戦うのは不利だと感じ、アーチャーも自分のマスターが失禁寸前だからという理由で合意ということになった。
「いやだが良かったぜ。てめぇな誰これ関係なく戦う戦闘狂だったら今頃俺はお陀仏だ」
「そんのようなご謙遜なさらずとも。貴方は立派な騎士です、我らが合間見えるときはそれ相応の舞台が必要となりましょう」
この時既にアーチャーに対するランサーの印象は、気に食わない奴から中々話のわかる奴に変わっていた。
二人は握手は交わさないものの目で語りあった後、ランサーは風の流れと共に消えていった。
それを見送ったあと、アーチャーは屈託のない笑みを浮かべながら背後で倒れている自分の主たちに目を向ける。
片方の女の方は気の抜けた表情で平らな岩に座り込んでおり、少年の方は女に膝枕されながら魂の抜けた表情で動かないでいた。
「お二人共大丈夫ですか?」
「……大丈夫、だと?」
言葉と共に、ジト目と殺気まで菓子箱に入れて送ってくるので、アーチャーは目を背ける。
「いっいえ、その、ですね、フラン殿。弁解をさせてくださったりはぁ」
「却下。来るのおせぇんだよ!!クソ!!!」
「ひっひどいっ。そして女性が使うべき言葉ではないっ」
不意に、アーチャーが砕けた表情を止め、目ぼしいものは何もない森を見つめる。ただ木が生え揃っていて先に崖にでもなっているのか常人には先はよく見えもしない。
フランも一度はそちらに目を向け何もないのを確認しもう一度アーチャーに目を向ける。
――目を向けた先には、既に“弓”を持って戦闘態勢に入っている自分側のサーヴァントの姿。
「“炎天よ 裁きと化せ―チャンドラダヌス―”」
放たれるは正に人知を超えた一線。
目も開けられるような眩い光を放ち眼にも止まらぬ速さで何百メートル離れた所にある喝馬町のもう一つの山を文字通り、比喩などではない「火の海」に変える。
「暗殺者、ですか。もう二体目が出ていたとは」
言葉ではそう言うものの以外にも思わないよう表情のまま英雄は静かに弓を下ろす。
その姿は正に英雄。
人の身などとうに超え、半神の身でありながら人を愛し、家族を愛し、異兄弟でありなが宿敵である相手を倒した、ある国の大英雄。
彼の弓は太陽を撃ち抜いたとさえ謳われている。
――その英雄の名は
「……アルジュナ、アンタは……」
※反省点
アルジュナさんの強さがあんまり際立ってないのとランサーの正体隠すつもりない