Fate/ragnarok gate   作:フーリン式

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《キャラクター紹介》

『キャスター陣営』
・早眞冬児
聖杯戦争に巻き込まれた男子大学生。愛する女の子を救うために戦うことを決意する。
・キャスター(一騎目)
真名不明。日本風の顔立ちの紫の着物装束の美少女。

『アサシン陣営』
・平桔平
バイクが好きな青年。喝馬町のオーナー・壬生家を壊滅させるが、キャスターの手によって大ダメージを受ける。
・アサシン(一騎目)
真名不明。雪のように白い肌をもつ可憐な暗殺者。宝具は巨大な獣。

『シールダー陣営』
・不明
白髪の老人。正体は定かではない。
・シールダー(現在不明)
日本の武将。攻撃を無効化させる鎧を宝具としていたが、ライダーによって消滅させられる。

『ライダー陣営』
・矢部崎結香
冬児の幼馴染である眼鏡の少女。冬児に対して異常なまでの愛情を見せる。
・ライダー(一騎目)
黄金の舟に乗るサーヴァント。常に上から目線の性格だが、愛に生きるマスターには情を見せる。

『アーチャー陣営』
・ライングル
イタリアの大マフィア『クリムゾン』の代理ボス。内気な少年で戦いにも気乗りではない。
・フラン
アーチャーのマスターであるラインの護衛。過去の事件から肉体の四分の一を別の何かに変えられている。
・アーチャー(一騎目)
青丹色の髪と金属を幾つも身につけた青年。真名はインドの叙事詩『マハーラーバタ』にも載る大英雄、アルジュナ。
・ルツ&マーク
フラン同様、ラインの護衛。

『ランサー陣営』
・ハクア・フリューゲルス・シニュアノーズ
ランサーのマスターであり、地図には載っていないある国の第一王女。勝気な性格。
・ランサー(一騎目)
全身を青で統一している槍兵。真紅の槍を振り回し、獰猛な獣を連想させる戦い方を好む。

『バーサーカー陣営』
・赤ん坊
事実上バーサーカーのマスターであり令呪も宿している。が、当然話すことも自分で歩くこともできない。
・バーサーカー(一騎目)
肩から二対の大蛇を生やす漆黒の騎士。狂戦士というクラスに当てはまりながら、狂化を無効化していることから、教会からはバーサーカーとはまた違うクラスなのではないかと思われている。


『参加者以外』
・壬生カグラ
喝馬町のオーナーの娘。平桔平によって身体を肉の塊に変えられる。
・アストル・ハーデンベルト
教会にも協会にも属さない独自の宗教組織『バルドリア』の大師父。自分達の教祖の意思を実現させるため今回の聖杯統合戦を起こした。
・アレーシア・ハーデンベルト
聖杯統合戦における監督役。アストルの実娘であり、息子を一人持つ。基本的に温厚な性格で抜けているため争いには向かない。
・キレイ・ハーデンベルト
アレーシアの息子。アレーシアの護衛役として付いてきてるが、日本に来てからやっていることはほぼ家事のみである。


狂気と最強

いつの日か、唐突にトーリに聞いたことがあった。

「強くなる方法?」

トーリはきょとんとした顔で小学生低学年ぐらいだった俺に聞き返し、少し苦笑しながら言葉を紡ぐ。

「そうだね。うーーん……その強さを何に使うかによるけど、お前は何の為に強くなりたいんだい?トージ」

優しい笑みを浮かべながら、トーリ、親父は自分の長く赤い髪を揺らしながら尋ねてきた。

その時の記憶ははっきりとしておらず、たぶんカグラを守る為とかなんとか顔真っ赤にして言った筈。

だって俺の返答を聞いたトーリの表情は、あまりにも愉快なものを見たといったようなもので、同時にとても嬉しそうだったから。

「うん、いいよ。それでこそ俺の息子だよお前は。男が強くなりたい理由なんてそれで十分さ」

眼鏡の奥の眼を細めながら、同じソファの横に座る俺の頭を撫でてくれる。

そのときいつものようにはぐらかされたかと思ったが、トーリは胸元から黒い塊を取り出した。

「強くなりたいと言ってもお前はそもそも魔術側とは関係のない人間だ。なら習得すべき強さはこういうものだろう」

トーリはすぐにその塊を自分に渡そうとはせず、右の手の平をこちらの手を掴んでくると塊を置き、それをお互い手で挟むように右手を重ねた。

「いいかいトージ。これから俺がお前に教えることは誰かを救うために使うものじゃない。

何かを奪う為に使うものだ。仮にこの力を使ってお前が、大事な人を、カグラちゃんを守れたとしてもそれは一つの結果に過ぎない。この力を使うことで奪われる人間がいることを忘れちゃいけないよ」

珍しく真剣な顔をした親父の顔を見ても、昔の俺にはいまいちその言葉の意味が理解できなかった。

何故、救うことではなく奪うことになってしまうのか、と。

 

「トーリ!!」

名前を呼ぶ。

それは父の名前だった。血は繋がっていなかったが、確かに絆を感じられた父の名前。

背を追う。

しかし伸ばした手は届かず空を掻く。

居なくなる。みんな自分の前から居なくなる。

「そうやっていい訳して逃げるの」

振り返る。

そこには居る。自分が殺させた本当の両親の姿。自分が殺した大切だった人々。

大切だったのに思い出せない。その顔はどれも黒いクレヨンで塗り潰されているようだった。

わからないわからない。

 

「誰だお前ら!!」

 

『わからないの?』

 

振り返る。目を凝らす。

一人だけ、塗り潰されていない奴がいる。

よく知った姿で俺を睨んでいる。

何で、何で、何で。

 

『トージが私を【死なせてる】のよ。貴方が、あのとき私を殺してくれなかったから』

 

やめろ、やめろ、やめろ。

それを変えるために戦っているというのに、なんでそんなことを言うんだ。

 

『大丈夫。トージは何もしなくていいわ』

 

言うな、言うな、言うな。

お前がそれを言うな。

何で今その言葉を口にしようとするんだ。

それ言ったら何もかも終わる。終わる。終わる。

 

終わる終わる終わる終わる終わる終わる終わる終わる終わるトわる終わる終わる終わる終わー終わる終わる終わる終わるジわる終わる終わる終わる終わる終わる終わる終わる終わる終わるノわる終わる終わる終わる終わる終わる終わる終わる終ユる終わる終わる終わる終わる終わる終わる終わる終わる終わる終わる終わるメわる終わる終わる終わる終わる終わる終わる終わハ終わる終わる終わる終わる終わる終ワる終わる終わる終わる終わる終わる終わる終わるタわる終わる終わる終わる終わるシわる終わる終わる終わる終わる終ガる終わる終わる終わる終わる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○【聖杯統合戦三日目・早眞邸】

「マスターッ!!」

「!!!」

目を覚まして最初に見たのは、焦った表情を浮かべながら自分の名を呼ぶキャスターの姿だった。

彼女は自分が目を覚ましたのを確認すると、先程までの狼狽していた様子から、ほっと安堵の息を漏らす。

「………キャスター…?」

「ふむ、おはよう主様。朝から随分とサーヴァントの心を揺らがせるのだなお主は」

嫌味は入ってないだろうが若干の刺の入った言い方に早眞冬児は頭を掻いた。

そうやって後頭部に手を持ってきて初めて気づく。

――自分が尋常ではない量の汗をかいていることに。

「えっ……」

既に身体も冷え切っており、汗は頭以外搔いていなかったが、冬児には何も見に覚えなくただ呆然と汗のついた手を見るのみだった。

「大変だったのだぞ。朝方珈琲飲んでいたら、地下から男の呻き声が聞こえ、等々マスターの隠された性癖が暴露されるのかとドギマギしながら来たのだから」

「語弊ありすぎだろ」

何はともあれキャスターが起こしてくれて助かったと、冬児は安堵の息を漏らす。

それと同時に、何故助かったと思ったのか、それも忘れてしまっていた。何か嫌な夢を見ていたのは確かだが、さしてどうでも良い夢だった気もする。

冬児はそこまで気にすることでもないと考えることを止め、言葉を紡ぎ始めたキャスターに耳を傾けた。

「それにしてもマスター。この屋敷は広い割には人が少なすぎやしないかえ。実際、ここを探し当てるのにも随分と時間が掛かったのじゃが使用人の一人もいやしない」

使用人って……。

「うちは別に金持ちじゃないからな。家がでかいってだけで毎月仕送りだけで生活するの大変なんだから」

「なんと。ならこの屋敷は本当にお主一人の所有物なのか?」

「実質そうかな。一応トーリ、親父のものだけどもう何年も帰って来てないからさ」

そう言って周りを見渡す。

そこでようやく冬児は思い出した。自分が何故自分の部屋ではなくこんな大広間で寝ているのかを。

しかも正確にはこの部屋はただの大広間などではない。

キャスターもそれに気づきすかさず冬児に質問せんと口を開く。

「それはそうとマスター。この広間は何の為の部屋なのだ?」

キャスターが訝しげに周辺を見渡すのも無理はない。今現在の屋敷の主人である冬児の眼から見てもこの部屋は異質なのだ。

部屋全体は縦に長いといった形状で、四方に広がるのはコンクリートの壁に釘で無理矢理貼り付けられた様々な形の木の板の数々。他にも天井に埋め込められた物、裏に鉄パイプとで縛りつけている物など何故か様々なバリエーションが用意されている。

どれもこれも妙に年期が入っており腐敗が進んでいるため、もはや何の道具で破壊されたかさえわからない。

冬児は答えるべきかと、顎に手を当てながら少し迷いながらも、それは今ではないと首を振る。

「いや、俺も今朝見つけたんだよ。親父の隠し部屋かなんかみたいで」

「隠し部屋?」

さすがにキャスターも疑問に思ったようだが、まぁいい、とそれ以上聞かず自分より先に立ち上がる。

冬児が疑問に思っていると、キャスターは呆れ顔を浮かべ溜息を吐く。

「何をまさに鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしておる。昨日の晩、お主が言ったのだろう」

差し伸べられた手の主は掴むと消えそうな儚い笑みを浮かべながら、冬児を連れ出そうと言葉を紡ぐ。

「戦地把握のために今日一日この町を案内してくれると」

 

 

 

 

 

 

 

 

○【喝馬町・商店街】

――冬児は後悔した。

さすがに町の案内だけではキャスターも飽きるだろうと思って、まぁ何件か店に入るのも良いだろうと。

がそれが間違いだった。

否、そんな甘ったれた考えは通用しなかった。

「ん!あれはなんだマスター!!入ってみよう!!」

「マスター!!マスター!!あれ!!なんだあの奇怪な生き物は!?なに!?木愚瑠巳!?なんだそれは!!?」 

「次はあれだ!!あれだマスター!!」

はしゃぎ回るその背中を見て今は会えない彼女の影を合わせながら、

何時の時代でも女の人って変わらないんだなぁ……。

と、ある意味関心していた。

 

そしてそして、現代に蘇った英霊も落ち着きを取り戻し、やっとのことで冬児も猫背にした背を正し始めた。

とうの英霊、キャスターの方は軽く両手を上げて体を伸ばすことで全回復する程度にしか疲労していなかった。

今も彼女はツヤツヤとした笑みを浮かべながら長く続く茶色いタイルの道に踊るようなスキップを刻んでいる。

「ふむ♪一応現世の知識は聖杯から与えられてはいるが、こういう娯楽施設についての知識はおろそかでな。手抜きというかなんというか、知らぬことが多いのだ」

冬児よりも何歩か前を進む彼女の足取りは軽く、そのうち浮き上がりそうである。

まったく、何も知らない人がこの光景を見たらどう思うのやら。

というか第一に霊体化したらいいのではないかという疑問が浮かぶが、そこは何というかご愛嬌。朝、冬児がそう言うとキャスターは涙を浮かべながら上目遣いで迫ってきたのだ。

女の子に涙目で買い物に付き合ってくれと言われて、断れる男子がいるだろうか?無理だろう?俺は無理だ。

だからまたキャスターには着替えてもらった。

キャスターの格好は、ここに来るまではまたカグラの服を着てもらっていたのだが、彼女が服屋を見つけると同時に期待を胸にした目で見てきたので、とりあえず気に入られた物を買ってあげた。

冬真っ盛りであり寒いのでとりあえず暖かくなるもの、とは言ったのだが、それでもセンスの良い服を選べるのが女子凄いところ。自分よりも先に歩く彼女のすぐ後ろを首に巻いたマフラーが尻尾のように追いかけていく。

冬児はその様子を声を出さず静かに見つめていた。

自分がこんな気持ちになって良いのだろうか。

そんな感情を持っている自分に少々の違和感を感じていたからだ。

わざわざ大学を休んでまでここに来たのは聖杯統合戦に勝つためだ。それは即ち、誰よりも大事な人を救うことに繋がるから。

なのに何故自分はこんな感情を抱いている?

忘れようとしているのか?カグラを。

もしそうなら、自分の知らないところでそう思っているのなら、俺はなんて、

そのとき上の空の心を持った体に、角から現れた他者の身体がぶつかる。

「おわっ」

仮にも男である筈の冬児の身はぶつかり地面へと投げ出された。

そのままタイルの上に打ち付けられる筈だったその身は前方にいた屈強な体に支えられる。

「おっと、っと」

右手だけで冬児を支え続けているのは藍色のコート着た長身の青年だった。60㌔はある冬児の体を片手だけで引っ張り上げ再び地面に両足をつかせる。

色の濃い褐色の肌に青丹の髪からして日本人離れした青年は頭を軽く掻きながら申し訳無さそうに眉を下げた笑みを浮かべる。

「いやぁすいません。前を見てなかったもので」

本当に思ってそうな心からの謝罪に冬児もつい我に返り、

「こっこちらこそ」

と若干キョドりながら返してしまう。

「マスター?」

「あっああ。いや、なんでも、」

自分のパートナーの声を聞きその声に目を向けると、そこにはもう青年の姿などなかった。もう行ったのか、後ろを振り向いても褐色肌の青年の姿はない。

冬児はそこで考えるのを妥協し、目を前方戻すとキャスターが前を向きながら話しかけて来ていた。

「次は何処に向かうのかえ?そろそろ小腹が空いた時間ではあるが」

キャスターの提案ともとれる言葉に、冬児は立ち止まる。

「そうか…なら丁度いいや」

ボソリとした小さな声で冬児は呟いた。

 

 

●【喝馬町・空無茶屋】

妙に仰々しい雰囲気の店に入った二人が見たのは、明治の風景だった。派手な色は柱に塗られた赤だけでそれ以外は茶や黒だけだった。

香る匂いは茶葉のもので、それを吸うだけで僅かに心が落ち着く。

店の中は作業音は聞こえるものの目に見えるところに人はいない。

冬児はキャスターを先導し、窓際の陽のあたる席に座る。

「なぁマスター」

以下に英霊といえど突然何も言われずこんな場に連れて来られては、黙っていた口も開く。

「ここは何の店なのだ?」

「ああ、ここは」

冬児が返答しようとすると途端に右側に気配を感じる。

テーブルを挟んで向かい合う二人が目を向けると、赤いエプロンを付けた背の高い男が一人、突っ立ていた。

両目は鼻の先まで伸びた前髪で、鼻と口は大きめのマスクで隠されていて表情どころか顔の造形すらまったく掴めない。

「あっ鳩さん」

動かない相手に疑問を懐きかけていたキャスターをよそに冬児は長年の友人に話しかけるような気さくな声で長身の男へ話かける。

「今日は劉さんは?」

鳩と呼ばれた男は静かに首を振る。声は出さないのか出せないのか、それを追求するものはここには居らず、彼は無言のままメニュー表を冬児へ手渡した。

「また急ぎの仕事か。ま、いいか。とりあえず手が空いたら呼んでくれるよう言っといて。あといつものこの一番安いやつ二つ」

冬児が指でも数を伝えたのを確認すると、鳩は渡したメニューを手に取り一度だけ浅くお辞儀して店の奥へ入って行った。

その光景を黙ってみていたキャスターの質問は決まっており、鳩が奥へ入っていくのを確認するとテーブルの上に身を乗り出して追求してこようとせんする。

冬児は椅子の上で少し身を引きながら困ったような表情を浮かべ、

「なっなんだよ」

と額に汗を流しながら言うと、キャスターは冬児が予想していなかった質問を口にする。

「――アレはなんだ?」

なんだ、と聞かれ思わず首を傾げてしまう。

「何って、鳩さん。ここのバイトで俺の友達」

単的に説明の義務を果たす冬児に、キャスターは若干の苛立ちを持ちながらもまぁいいかと流す。その後乗り出していた身を潜めもう一度指定先に戻るとふんぞり返るように両腕を胸の下で組んだ。

「で、話があるのだろう?我はいつでもうぇるかむだぞ」

「…気づいてたのか」

「たわけ、我を誰だと思っておる。まぁ真名は教えていないが………とにかく!3日も一緒にいるのだ、否応でもお主の考えぐらい予想がつく」

キャスターは少し照れたように口を尖らせながら言葉を走らせる。

その表情に若干の好感を覚えながら、冬児は話を切り出す決意をした。

「話そうと思ったのは俺のことだ」

冬児の真剣な面構えを見てキャスターは僅かに表情を揺らがせる。 

鳩と呼ばれた少年が茶を運んできて、ようやく冬児は昔話を語るために口を開いた。

「俺の家はさ、代々魔術師の家系でさ。俺の父親も元々はそこの人間だったらしいんだ」

「らしい?」

「ああ、覚えていないんだ。今の父親は、養父でさ。親戚だから血は繋がってるんだけど……でもま、その本当の父親のことは俺はほとんど覚えていない」

冬児は嘘はついていなかった。時折見る夢のことを彼女に話しても、それは仕方のないことだと解っていたから。

「本当の父親はな、親父の話しじゃ家っていうか、魔術師のことを凄い嫌っていてさ。枯渇した魔術師問題とか、後継者争いとか、そういうのが嫌で家を飛び出したらしいんだ。

それで母さんと出会って俺が生まれたらしい」

「簡単に言うが、お主の両親は随分と波乱万丈な日々を送っていたのだろうな」

まぁそうだろうな、と冬児も半笑いを浮かべながら自分の言葉に頷く。

魔術師はこの半世紀で激減した。

なにも魔術回路を持った子供が生まれなくなっただけではなく、“魔術師が魔術回路を失った”という事例もある。

カグラの話では原因すら解っておらず、最終的には体毛が白に染まり、まるで廃人のようになるという。

となると魔術回路を持って生まれた魔術師の家系の人間は、当然ながら一族の中でも重宝される。

「俺の父親も魔術回路を持ってたみたいで、抜け出してからも家からの追ってが凄かったみたいなんだよ。それでどんどんおかしくなっちゃったみたいで」

冬児は一息。片手に持った茶杯をテーブルに置き、思いふけるような顔で窓の外を見つめる。

「まぁなんていうか、家庭内暴力っていうか、虐待っていうか。そんな感じのことをされてたんだよ」

聞いたキャスターの表情は、少々曇っている様子だった。

彼女が生きていた時代では親が仔を殴ることを良しとしていたのか、それとも単に善悪の区別がつかないだけなのか。

返答がないことを確認して冬児はそのまま話をすすめることにする。

「母親も止めることなんてできなかったんだろうな、終盤は父親のことが怖くなって一緒になって俺を殴ってた。

でも俺はそのとき苦しくなかったんだ」

「何故だ?」

彼女の最もな疑問に冬児は軽く頷きを返してから答えようとする。

「だってそうすれば全部上手くいくからさ。両親は仲良く暮らせるし、俺は二人の笑顔を見られる。だから良かったんだ。俺が痛い思いをすれば全部丸く収まったんだから」

でも、と冬児は目を細めて言葉を紡ぐ。

「ある日、ついに母親が俺を殺そうとした。

その時ぐらいは俺も抵抗すれば良かったんだけどな、その時の俺は馬鹿だしガキだったせいか、あぁこれで終わるのか、ぐらいにしか思ってなくて。父親もそれを止めないまま俺はそこで終わる筈だった」

「筈、だった?」

そこで一瞬の間を置いて、冬児は自分の誇りを語るかのように真っ直ぐな目でキャスターを見つめて静かに笑う。

「現れたんだよ、“ヒーロー”が」

 

親父、トーリがやったことはただの仕事だった。

本家からの命令で裏切り者の居場所まで来て、一家もろとも消去せよという命令。

トーリはその頃から凄い魔術師で本家からの要請があれば要件を済ませて対象を消去する。そんな自分のことをトーリはいつも悪く言っていたけれど俺はトーリのことが大好きだった。

だってトーリは、自分の家を裏切ってまで、俺のために罪滅ぼしをしてくれたんだから。

トーリが父親や母親消去した後、トーリは俺の養父になった。

姓を捨てて、名前を変えて、俺に新しい名前をくれた。

俺に全部をくれた。

名前をくれた。帰るべき家をくれた。ただ一人の家族をくれた。愛をくれた。しつけてくれた。甘やかしてくれた。叱ってくれた。大切なものをくれた。大切なものの守り方を教えてくれた。

唯一を除いてトーリは全てを与えてくれた。

だから、全てを与えてくれたから突然トーリは姿を消した。

いつも通りの屈託のない笑顔を浮かべながら俺にとってのヒーローはまた誰かのためにと、やるべきことがあるからと、何処かに消えた。

 

「ちょっと待てマスター」

話を一段落させたところでキャスターが難しい顔をして左手をこちらに向ける。

「間違っていたら申し訳ないのだが、

お主の父上が唯一与えなかったというのは、もしや『魔術の教え』のことかえ?」

冬児は少し驚きながらも、その通りだと頷きを返す。

すると、コートを脱ぎYシャツだけとなった日本人顔の少女は腕を組みながら訝しげな表情を浮かべている。

冬児もそんな表情に気づきパートナーに声をかける。

「なんだよ、何か引っかかることがあるのか?」

「当然だ。最初に言ったろう、我を呼び出した召喚者が魔術師ではないとはな、と。

お主に魔術師の才能があることは元々解っていたからこそ、お主が何故魔術の心得が無いのか気になっていたのだ。今の話を聞いて才能がある理由は解ったが、貴様の父親が何故魔術を教えなかったのかは――」

そう言ってキャスターが目線を斜め下から冬児に戻したとき、彼女は何かに気づいたかのように目を見開き、そして少し寂しそうに笑った。

その表情にまた冬児が疑問を抱いていると今度はキャスターがそれを読み取り口を開いた。

「いや、そうか。そうだな。成程、我が気づかぬのも無理はない、か」

「なんだよ。やっぱり俺には才能がないって話か?」

冬児が苦笑しながら両腕を肩の位置まで持ち上げていると、キャスターは静に首を横に振った。

「違う、違うぞマスター。

お主の父上はな、代を重ねることで意味を成す魔術師としてではなく、一人の親としてお主を育てたのだ」

キャスターは背筋を正した真剣な表情のまま言葉を紡ぐ。

「お主の血縁者である父上は魔導の道から抜け出した。しかしそんな男でも一人の父親、一族の命令だとはいえそれを殺めるということはその家族全員の人生を狂わせることに変わりはない。

だからお主の父上はお主に魔術を教えなかったのだろうな。お主を傷つけないように。本当の父親のようにお主を育てるために」

言われて冬児は言葉を失う。

そんなこと、考えたことも無かった。

トーリはただ逃げ出した者の息子である自分には魔術を教えたくなかった、それだけの理由だと思っていた。

でも、キャスターの言ったとおりなら、トーリは紛れもなく――。

「が、待て。それなら一つ、説明のつかぬことがある」

ふいに魔術師の英霊は難しい顔で腑に落ちない点があると口にする。

それはこの聖杯統合戦が始まって以来、ずっとキャスターが抱えていた大きな疑問でもあった。

「マスター。確かお主、アサシン戦、そしてこの前のシールダー戦でも“戦闘不能になるほどの傷”を負っていた筈だな。

我はお主が常時発動方の魔術を施している、または無意識に施されていると思っていたが、今の話だとその可能性が低くなる」

キャスターは訝しげるような半目で冬児を見つめながら言葉を紡ぐ。

「マスター、お主、何をした?」

その言葉に返答はない。

否、冬児は返答ができなかった。

思い当たるふしがないとういうことは無い。ただ、それが確信かどうか冬児自身、検討もつかなかったからだ。

数秒の沈黙が続いた後、キャスターは疲れを吐き出すかのように目を瞑り大きく息を吐いた。

「…すまぬな。色々と憶測だけで長く語ってしまった。この話はまたにしよう」

「!!いやっ」

冬児は少しだけ身を乗り出すようにして弁解する。

「話して、良かったよ。ありがとう、キャスター」

柔らかに笑う少年の笑顔に、キャスターもまた同じような笑みを浮かべる。

彼らの間には最初にあったか壁はもう無い。

お互いを信じ合い助け合う本当の意味でのパートナーになりかけていた。

 

 

それからしばらくして、彼らの飲んでいた中国茶が底を付いた同じ頃に、奥の方から店員が出てくる。

マスクを付けた長身の店員、先程も冬児に鳩と呼ばれた青年は二人の座るテーブルの前まで来ると、右手の人差し指で店の奥を指差す。

「んっわかった」

冬児にはその意味がわかったのかテーブルに手をついて立ち上がる。

それをポカンとした表情で見積める彼女に笑いかける。

「付いて来てくれるか、キャスター」

 

鳩に続き二人は店の奥へと入って行く。

店の中はそう広くなく少し進んだだけで行き止まりになった。

最もそれは客から見ての行き止まりという意味で、店の人間からしたらまだ店の中に変わりない。『関係者以外立入禁止』。そう書かれた札が吊るされている戸を、鳩と呼ばれる青年が音も立てず開く。

開いた瞬間、冬児とキャスターの脳裏に入り込んだのは、強い香の塊だった。

艶めかしい匂いの先にあったのは、部屋全体を包み込む巨大な薬棚と、その前に佇む一人の小雀な老人。

老人は部屋に入ってくる冬児達に目も向けず、黙々と座布団の上で書類に目を通している。

鳩は二人を部屋に入れると戸を閉め、自分は店の表へ戻って行った。

キャスターを後ろに冬児は眉を下げた笑みを老人に向ける。

「劉さん。久しぶり」

冬児の声を聞き、老人は数秒を時間を掛けてから半目ともとれるような目で冬児に目を向ける。

それから溜息を吐き、また視線を机の上の書類に戻す。

「なんネ、早眞の坊カ。エラく大き、なったネ」

親戚からの心のこもっていない新年の挨拶のような言葉に、冬児も苦笑する。

「なんのようネ。早眞のアホンダラ、ツケ返す気になったカ?うちの店、ロハ、違うネ」

「いや、悪いけど今日は親父のお使いじゃないんだよ」

そこで書類の上で線を書いていた手が止まった。

劉と呼ばれた老人はゆっくりと視線を上に向ける。向かい合った冬児と劉の表情はほぼ同じといったような真顔で、先に口を開いたのは堅物そうな老人の方だった。

「――なんネ。やっと“覚悟”できたカ?」

低いトーンで話す老人の声に、当時もまた真剣な表情で頷いた。

老人はその決意を確認すると、ペンを書類の上に置き、机の引き出しを開いた。そこから木で出来た“鍵”を取り出し、冬児に机の上に差し出すように置く。

「十四番の棚ネ。勝手に持っていくといいアルよ。

ったく、あと二年遅かったら全部ウチの店の物になってますタのに」

ぶつぶつ小言を言う老人をよそに、冬児は木で出来た鍵を取り、十四番と書かれた棚の前まで足を運ぶ。

薬膳棚の一つ一つにも鍵が付けられおり、冬児の持っている木の鍵と十四番と書かれた棚の鍵穴は形が合った。

冬児は無言のまま鍵穴に鍵を入れ、右回りに回し、引く。

開いた棚の中、仰々しく閉まってあった物もまた、“鍵”だった。違うのはさっきのは木で出来た鍵で、今度のは黒い“カードキー”だったことだ。

「……」

「やっぱりやめるカ?」

冬児がカードキーを見つめていると、老人はふいにそんなことを言ってきた。

冬児は我に返り、またも苦笑を老人に返してからカードキーを持ってキャスターの前まで歩いて行く。

「いいや貰っていく。ずっと預かっててくれてありがとう劉さん。代金は今度返すよ」

「会々。そうしてくれると助かるネ」

老人がまた書類に目を通したのと同時刻にカードキーを受け取った冬児と疑問を抱えたままのキャスターは店を後にした。

 

 

 

 

 

冬児とキャスターが空無茶屋を後にし、二人は日が沈んだ空の下、自分達の屋敷へ帰宅中だった。

その長い道の途中にキャスターが疑問を口にする時間は十分にある。

「なぁマスター。さっきあの老人からなにを受け取ったのだ?」

キャスターの質問に横を歩いている冬児は僅かに表情を曇らせる。

「……いっ言わなくちゃダメかな」

「?言えないようなことなのか?」

最もな質問に冬児の更に表情を曇らせる。

「あっいや、そんなこともないんだけも……なんというか、まだ言いたくないっていうか、期待させたくないっていうか」

「??なんだそれは?お主は秘密事が多すぎるぞ、自重せよ」

更に最もなことを言われ更に更に冬児は表情を曇らせ、もはや顎に手まで添えて考えていた。

別に隠すようなことではないが今言うべきことでもない気がする、と心の中で葛藤があったからだ。

――そんな葛藤の最中、不可解な音が耳に入ってきた。

音は続き、自分たちの足が進むほど大きくなっているようにも感じられる。

金属と金属、いやそれ以上の高度な物質同士がぶつかり合う音。

気づけば自分の背後を歩いていたキャスターが自分の盾になるかの如く前方に立ち尽くしていた。

「やれやれ、何匹か商店街付近にいる気がしていたがやっと尻尾を出しおったか。陣地を広げておいて正解だった」

ぶつぶつ独り言を口にしたキャスターは、左足を軸にして背後に立つ冬児に振り返る。その表情にはもう昼までの同い年あたりの少女のそれは消えている。

「マスター、どうやらこの先にサーヴァント同士の戦いが行われているようじゃ。それもかなりの使い手同士の戦いと見える。我が先導しお主を必ず護る故、

ここは視察といこうではないか」

不敵に笑うキャスターには自分を護れるという自信があるのだろう。

冬児もこれからのことを考え、いずれ戦わなくてはならないかもしれないと頷きを返す。

数分後、彼らが見たのは、

まさに『戦争』だった。

 

 

 

――飛び散るは火花。

――乱れ狂うは無数の銃火器類による大量破壊と、それを受け流す青丹の閃光。

――冬児が見たソレは人知など疾うに超えた、英雄同士の戦いだった。

片方は軍服を着た女性だった。

キャスターよりもう少し上の気品溢れる女性といった感じで、彼女自身はまったく動かず、ただ背後から多種多様な兵器を放出している。

それは弾丸だったり、砲台だったり、戦車だったり、はたまた“兵士そのもの”だったり。

無制限とでも言わんばかりのスピードで大量に攻撃をしかけてくる軍人に対するは、閃光。

片方は青年だった。

全身を金の装飾品で包んだ黒い服の閃光。それが冬児に理解できた最低限度だった。

ただその青丹髪の青年は何か武器を持っているようで、女軍人から攻撃を受ける度にその武器で受け流す、もしくは相殺している。

それは剣のように見えるが、もしかしたら槍かもしれないし、弓かもしれない。強い輝きのせいか、それともあまり速く動くせいか、形を掴むことすらできない。

しばらくすると銃火器による弾丸の嵐が止み、それを好機と取った青年の方が一気に間合いを詰める。その間何十人もの兵士が青年に襲いかかったが、青年の勢いが留まることは無く、兵士達を巻き込み吹っ飛ばしながら疾走する。

青年の持つ武器がほぼノーモーションで女軍人の喉元を刳り取ろうとした刹那、

女軍人の手にいつのまにか握られていた“サーベル”によってその攻撃は阻止される。

途端に吹き荒れる暴風。

「ぐっ!?」

「……」

冬児が反射的に防御の姿勢を取っている間にもキャスターは一秒一刻も見逃さないように繰り広げられている戦闘を監視していた。

「フッ……中々やるな“アーチャー”。その腕、大層な英霊と見えるが、貴様何処の出身だ。肌の色からして“劣等種族”に見えるが」

先に口を開いたのは女軍人の方だった。

それに対し、動くのを止め姿を顕にした武器、弓を手にしたサーヴァント、“アーチャー”は凡そ戦いなど好まなさそうな笑みを浮かべながら返答を返す。

「褐色肌の人種を差別するとは、貴女は白人至上主義者という理想を持つ方ですか。

まぁ、褒められた点に関しては、二日連続ですし、英雄冥利に尽きると言いますか、悪い気はしませんがっね!」

刹那。アーチャーは一度武器を離す。当然、女軍人のサーベルと鬩ぎ合っていたアーチャーの弓は宙に飛び、無気力なアーチャーの体は反動で後方に一回転する。

否、アーチャーは女軍人の力を自身のバク転に使う回転エネルギーに変えたのだった。

一周。空中で回転したアーチャーは、既に体制を取っていた。

――目の前の敵を殲滅するための体制を。

「“炎天よ 裁きと化せ”」

詠唱は短く。新たにアーチャーの手に握られた武器もまた弓だった。

黄金で造られながら全体からは燃え盛るような濃い橙色の気を放っている。

来る。宝具だ。

魔術師ではない冬児にすらそれは理解できた。

何しろ見ているだけで足がすくませる程迫力のある身のこなしと武器だ。アサシンの獣やシールダーの斬撃を見ていなかったら自分も意識を無くしていたかもしれないと感じる。

アーチャーは粛々と、宝具を開放するため呪文を口にする。

それは威力と被害を抑えるため。

しかし、それはアーチャー、アルジュナの中での手加減が反映されることを意味する。

アルジュナの持つ対城宝具、“チャンドラダヌス”。火の神より与えられたそれは留まることは無い炎を生み出し、大森林を消し炭に変えるほどの威力を持つ。

「“―チャンドラダヌス”」

 

 

一瞬の出来事だった。

アルジュナが無線か何かで仲間と交信を取ったかと思うと、次の瞬間には辺りは焼け野原と化していた。

地面は抉れ、タイルは剥がれ、後方にある山まで削れている。まるで隕石でも落下したような惨状に、冬児はただ、口を開けて見ていることしかできなかった。

ぱちぱちと次々へと何かが燃え尽きていく音が聞こえ、そんな惨状を気にも止めないようにアルジュナは一人焼け野原の上に立つ。

が、その目の中にある炎もまた燃え続けるままだった。

「出てきたらどうです?

そうですね、クラスについては判断しかねますが。

“キャスター”、でしょうか。そこの茂みに隠れているお二人と死んだふりをしている貴女もですよ」

最初から気がついていたかのようにアルジュナは冬児とキャスターが隠れている茂みを指さし、加えて目線は焼け野原と化した前方を見据えていた。

その問にキャスターは迷うことなく立ち上がることで応える。

「どうやらお主の方が英霊として幾分か格上のようだなアーチャー」

キャスターは紛れもない強敵に臆することもなく、不敵な笑みを浮かべながら相手に言葉を告げる。

対するアーチャーは視線さえ一度キャスターに向けたものの、吹き飛んだ軍人の女から警戒心を解いておらず煙の先を見つめたままだった。

「随分と謙虚な方ですねキャスター……だと思うのですが間違いではないでしょうか。私の見立では、貴女から覇者の気を感じましたが…気のせいでしたか?」

「ご明察。それと、謙虚なのは我の美点であって、負けを認めている訳ではないぞ。まぁその話は追々として、

来るぞ。アーチャー」

次の瞬間、アーチャーとキャスターは寒気を感じた。

二体とも決して恐怖した訳ではない。

――ただ、思い出していた。

当たり前のことを言うようだが、サーヴァントとして呼び出された英霊にも人生があった。つまりは格時代に一人の人間として生きた時間があった。どんなに高名な英霊であろうと、不運というのは必ず付き纏う。

この場にいるアーチャーとキャスターというクラスを持つ二体のサーヴァントは、互いにそんな不運に見割れた時と同じ感覚を胸に抱いていた。

「………、!!」

風が吹いた。

月明かりの夜に相応しい微風などではない。

それ自体が大きな威力を持った、暴風である。

冬児とキャスターが風の通った方に目を向けると、既に戦闘は再開されていた。

「………ッ!!」

「どうした、アーチャー。押されているぞ」

片や濃密な魔力を纏うサーベルで敵を抑えつけている女軍人、

もう片方の褐色肌の青年はそれから自分の遠距離射撃用の武器で身を守るのに精一杯といった様子だった。

「“宝具”、ですか」

「不正解。だが悪くない答えだ、雷神の息子」

刹那。女軍人の姿が消えるかと思うと、アーチャーは頭上に気配を感じた。

そこまでは予想できた。予想できた、がその後の攻撃を予想することなど、この場にいる誰にもできなかったろう。

女軍人は真っ直ぐに伸びたサーベルと同じように自分の体も直線に伸ばすと、そのままアーチャーの眉間目掛けて急降下した。

まるで舞うかのような攻撃にアーチャーは一切の迷いなく迎撃しようと矢を取り出し弓を構える。

が、それが間違いだった。

「………!!!しま、ッ!!」

 

 

それは腹を焼くかのような鈍痛。

それでありながら刺された傷からは無尽蔵に自分の体内骨子を次々と破壊されている感覚に陥る。

アーチャーが地を見れば自分を中心とした四方から槍が突き出していた。

ようやく理解した。

目の前の女軍人の宝具についてだ。

彼女が何もない所から武器や兵を出現させ、戦わせていたのは彼女の宝具による効果だと理解はしていた。

が、その宝具の真髄はそんな単純な物ではない。

考えれば可笑しな話だ。何が可笑しいかって、丁度ついさっき自分のことをキャスターだと名乗った少女がいるし、

まず女性とはいえ軍服を着用し西洋刀での接近戦を得意とする相手。

だから気づけなかったのだ。

彼女が既に、宝具である『魔術』を使用していることに。

「固、有結界……!!しかも無色、だと………!!」

アーチャーの回答に対して軍服の女は何も答えない。

代わりにアーチャーに送られたのはサーベルでの一撃だった。

通常のアーチャーなら例え四方から槍が刺さっていようと、何の蔵祖もなく回避できる攻撃だ。しかも反撃という名の菓子折りまで付けることができる。それほどまでにアーチャー、アルジュナという名の青年は高潔な英霊だった。

――しかし身体が動かない。

解る。理解する。これは腹部に突き刺さっている四本の槍のせいだ。

おそらくある特性を持つ者の動きを制限する力を持つ槍。

自分がここまで行動を制限される特性を持つということは、

――対象は神性を持つものか。

アルジュナは雷霆神インドラを父親に持つ、半人半神の英雄である。インド神話において、神の王に属するインドラの子だ、神性も英霊の中でははトップレベルに属する者の一人だろう。

そのアルジュナにもし『神性を持つ者の動きを制限する』なんて効果を持った宝具が使われたら、結果は明白である。

「ぐっ」

動けないことはない。が、それでは魔力を大幅に使ってしまう。

自分のマスターは魔術師ではない。いくらこの時代に限界するための最低限の魔力が常に供給されるからといって追加の魔力供給が無ければいかな大英霊といえど戦い方を考えなければならない。

アルジュナは既に威力を抑えているとはいえ二度宝具を解禁している。

これ以上の無駄遣いは避けたい。

だから反射的に彼は迎撃ではなく、回避することを考えた。

膝の力を抜き、腹部に突き刺さった四本の槍がさらに深く刺さっていくことも顧みず。

「ッ!」

女軍人の突きは正確なものであった。

が、正確であるが故に方向転換が効かず、とっさに射程から離れたアルジュナには当たらず自身が出現させた四本の槍と相対し、刀身は砕け散る。

「忠告します。

避けねば、死にますよ」

「!!」

それを己への死の宣告と思ったのか、女軍人は目を見開き、回避するための体制に入る。距離を取るためだろう、底の高いヒールを槍に柄に合わせ跳ぼうとする。

が、

「行かせんよ」

「!!!」

身体は動かなかった。

かろうじて動く眼球で女軍人は自分の動きを制御している女の方に目を向ける。

その着物の女は両手に鏡を抱えていた。

石で出来た仰々しい鏡に映るのは片足を上げて動けなくなった自分の姿。

次に瞬きをした瞬間には決着が付くだろう。

「“焼き払え”」

熱を感じた。もう一度自分の敵に目を向けると、紅く、朱く燃えている。

真っ赤な炎を手にその眼は真っ赤に燃えている。

 

アルジュナの放つ太陽の矢は、

喝馬町の夜空を照らす、朱い流れ星となった。

 

 

 

 

 

 

 

アルジュナの二度目の宝具解禁後、

商店街を遥か後方にする場所にあり、先に進むと山道へと繋がる一連の道一体には、全面焦土の臭いが充満していた。

焼け、砕け、剥がれまくったタイルの上に聳え立つように立っている者が3つ。

その中の一人、腹部に風穴を空けた青年は、四本の槍から身体を引き抜くと、再生していく服部を抑えながら振り返ってもう一人に目を向ける。

「助けて頂いたことには感謝致しますが、何のつもりですか?」

「いや、お主に今ここで死なれても困るでな。不要と理解しながらもつい手助けしてしまったのだ」

キャスターは悠々とアーチャーと言葉を交わしているが、冬児はただ身体の中心から溢れ出してくる震えを抑えるしかなかった。

これが人智を超えた者達への恐怖から来るものなのか、はたまた憧れくるもなのか。今の冬児には理解することができなかった。

キャスターは武装を解き、元のロングスカートの格好に戻ると左の手の平をアーチャーに差し伸べる。その様子からして敵対心などまったく感じさせない。

「アーチャー」

言葉にアーチャーも静かにキャスターに目を合わせる。

「我らと組め。我らがそなたらのバックアップをしてやろう」

「――えっ」

唐突、そしてまさに突然だった。

やっと声が出た冬児も間抜けな表情のまま後方からキャスターの表情を伺う。

「理由を聞きたいか?」

アーチャーは何か言いたげだったが、観念したかのように頷きを返す。キャスターも満足そうに片目を伏せてから片腕は胸の前に、もう片方は口元に添えてから言葉を紡ぐ。

「この通り、うちのマスターは愛らしいほどに素人でな。それ故にいくらキャスターであるが故に陣地に篭っていたとしても勝算はあまりに低い。

そこで早くから考えていたことがあっての。その相手にお主はぴったりじゃ」

「それで、貴女はここで私が貴女を消すという選択肢を考えずにのこのこ出てきたと言うのですが?」

「いいやぁ。言ったろ?ぴったりじゃと。

お主は我が思った通りの男なら、高潔で、しかもよほどのお人好しだ」

その言葉にアーチャーはどう反応したらいいのかわからなかったのか、今までの真面目顔を止め少し照れたような幼さを見せる。

「どうじゃ?またも我の見立てが正しいのなら、お主も十分な魔力供給が来ていないと考えられるが?」

「……」

しばしの沈黙。見つめ合うにも睨み合っているにも取れる二人の時間を引き裂いたのは、

「ちょっと待った」

透き通るような綺麗な声の主だった。

「その話、アタシらも混ぜてもらっていいか」

「フラン殿……我が主まで」

アーチャーがそう口走った二人は、片方は緊迫した表情、もう一人は今にも泣き出しそうな顔で焦土の世界に現れた。




※反省点
念願のお姉さんキャラ出せたからってはしゃぎ過ぎた
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