Fate/ragnarok gate   作:フーリン式

24 / 93
《キャラクター紹介》
*現在記載できる登場人物のみ掲示。

『キャスター陣営』
・早眞冬児
この物語の主人公。魔術師を義父にもつ一般人。不遇な苦しみに囚われる少女を救うために聖杯統合戦に参加することを決意する。
・キャスター(一騎目)
冬児のサーヴァント。紫と白の装束を纏った日本風の顔立ちの少女。

『アサシン陣営』
・平桔平
バイクが好きな青年。魔術師殺しに興味を持つ。バーサーカーに襲われ生死不明。
・アサシン(現在不明)
全身白い装束を纏った幼い容姿の暗殺者。頑なに言葉を発しようとしない。一騎目、二騎目共に消滅させられたと確認されている。

『シールダー陣営』
・不明
白髪の老人だと思われていたが、死亡。正体は定かではない。
・シールダー(現在不明)
日本の武将。攻撃を無効化させる鎧を宝具としていたが、一騎目はライダーによって消滅させられる。

『ライダー陣営』
・矢部崎結香
冬児の幼馴染である眼鏡の少女。冬児に対して異常なまでの愛情を見せる。
・ライダー(一騎目)
黄金の舟に乗るサーヴァント。常に上から目線の性格だが、愛に生きるマスターには情を見せる。

『アーチャー陣営』
・ライングル
イタリアの大マフィア『ラース』の代理ボス。内気な少年で戦いにも気乗りではない。
・フラン
アーチャーのマスターであるラインの護衛。過去の事件から肉体の四分の一を別の何かに変えられている。
・アーチャー(一騎目)
青丹色の髪と金属を幾つも身につけた青年。真名はインドの叙事詩『マハーラーバタ』にも載る大英雄、アルジュナ。
・ルツ&マーク
フラン同様、ラインの護衛。

『ランサー陣営』
・ハクア・フリューゲルス・シニュアノーズ
ランサーのマスターであり、地図には載っていないある国の第一王女。勝気な性格。
・ランサー(一騎目)
全身を青で統一している槍兵。真紅の槍を振り回し、獰猛な獣を連想させる戦い方を好む。

『バーサーカー(?)陣営』
・赤ん坊
事実上バーサーカーのマスターであり令呪も宿している。が、当然話すことも自分で歩くこともできない。
・バーサーカー(一騎目)
肩から二対の大蛇を生やす漆黒の騎士。狂戦士というクラスに当てはまりながら、狂化を無効化していることから、教会からはバーサーカーとはまた違うクラスなのではないかと思われている。

『???』
・軍服の女
喝馬町北部にてアルジュナと激闘を繰り広げたサーヴァント。固有結界を使っていることがアルジュナによって見破られた。

【参加者以外の登場人物】
・アストル・ハーデンベルト
教会にも協会にも属さない独自の宗教組織『バルドリア』の大師父。自分達の教祖の意思を実現させるため今回の聖杯統合戦を起こした。
・アレーシア・ハーデンベルト
聖杯統合戦における監督役。アストルの実娘であり、息子を一人持つ。基本的に温厚な性格で抜けているため争いには向かない。
・キレイ・ハーデンベルト
アレーシアの息子。アレーシアの護衛役として付いてきてるが、日本に来てからやっていることはほぼ家事のみである。


共闘

――きっかけは些細なことだった。

『せっかくですし、協力関係を結ぶのならどちらかの砦に参りましょう』

そう言い出したのは誰だったか。もはや思い出すのも悍ましい。

その一言がこんな悲惨な出来事を引き起こすなんて。

物語の中心人物は一人。登場人物が倒れた部屋の中心で宙に向かって叫ぶ。

「なんでさーーーーっ!!!」

 

話は数十分前に遡る。

 

 

 

 

 

 

○【聖杯統合戦・三日目・喝馬町・早眞邸】

惨劇が起こる少し前。

聖杯統合戦においてキャスターのマスターである早眞冬児の屋敷には、同じく聖杯統合戦において何らかの役割を持つ者達が集まっていた。

来客は五人。

「………」

「………」

この屋敷に住んでいる冬児とキャスターを合わせてこの場には七人いる筈なのだが会話は無い。本来、七人もいれば軽いパーティーぐらいできる人数なのだ。

それなのに何の会話もなく各々が立ったり座ったり、壁に背中を任せたりおろおろしたり。 

「あっあのぉ」

こんな状況を見かねて話を切り出したのはこの場で最も浮いている青丹髪の青年だった。

「自己紹介でもしませんか?ほっほら、お互い身分どころか名前も解らぬ身ですし。解り合うのはそれからでも」

「あぁ?」

「ひっ」

青年が声を出したことでやっと話がしやすくなりそうだった空気を、突如現れた殺気の塊がぶった斬る。

テーブルを挟んで二つのソファが並べられていて、片方には当然の如く、冬児が半ば緊張気味で、キャスターは優雅に珈琲を愉しんでいる。

そしてもう片方。こっちに座っているのがこの屋敷に来てから殺気を放ち続けている本人だった。

肩の辺りまで伸びたブロンドの髪。金髪の女性は一応女性としてのエチケットを守りながら、それでいて牽制を取るかのように殺気を放ち続けている。

が、いつまでもそうやっていても仕方ないと判断したのか。やがて一つ溜息をつきちらちら様子を伺っていた冬児に、マスターと認めた上で口を開く。

「あたしはフランレル。勘違いしないで欲しいんだけど、そこのバカのマスターは私じゃなくてこっちのラインだから」

名前を呼ばれた少年は冬児に興味を示しているものの、決して自分から話そうとせず、冬児がなんとか愛想笑いで心を通わそうとしても金髪の女性の背後から出てこようとしない。

それでもなんとか冬児が印象を良くしようと笑顔で努めると、

「おい」

「へっ」

憤怒の篭った声がその行為を無駄なものどころか敵対行為として掻き消す。

「『なにラインにガンつけてんだジャッポーネの童貞クソガキ。一生×××でしか×××出来ない身体にしてやろうか?(※イタリア語)』」

「えっ!?えっ!?なっなに言ってるか解らないけど俺絶対酷いこと言われてるよね!?なぁキャスター!?」

「うむ、我もさっぱりだ」

呑気なキャスター陣営に対して、アーチャー陣営の護衛二人、ルツとマークは半分苦笑・半分申し訳なさそうに頭を抱えている。

そのサーヴァントも同様に自分の味方の失態に流石に愛想笑いに雲をかけている。

冬児も涙目から通常の表情に戻ると、なんとかまた相手を怒らせないように様子を伺いながら話しかける。

そもそも自分には怒られる理由など無かった筈なのだが……。

「えっえと、フランレル、さんは?らっラインくんとはどういったご関係で……?」

「あん?んだよ、見てわかんねぇのか?」

話せば話すほど口が悪くなっていく金髪の女性は、背後に隠れた少年の首に手を回して、まるで聖夜にイチャつくカップルのように流し目で冬児に目を向ける。

「婚約者候補だ。お互いにな」

「へっ?婚約者、じゃなくて?」

「バカ、それはラインがあたしにガチで告ったら初めてそうなるんだよ。それまであたしは婚約者候補で十分幸せなのさ。

それぐらいわかれよな……これだから童貞は」

「おい聞こえてんだからな!!?」

「あの、お二人共そろそろ……」

まるでコメディを見ているかのような空間をそろそろ打ち切りにしないと話が進まないと、声を出してくれたのはアーチャー陣営の部下二人の大きい方、ルツだった。

「すいません早眞冬児さん。姐さんの口が悪、もといストッパーが効かないのは別に貴方だからとい訳ではなくて、そちらにおられるラインさんとそのお父上以外にはみんなそうなんです」

「そうなんすよ、姐さん誰にでも口悪いっすから気にしないで」

「あんだとおらぁっ!!」

「ひでぶっ!?」

話し方でも解るように部下二人は実に対照的だった。片方の大柄な男は一見強面といった感じで見たものに威圧感を与える風貌をしているが、口調は特に礼儀正しく服装もビッシリスーツに決めている。

対してもう一人の方は外国にも居るんだなぁと日本人に思わせるような定形的なチャラ男だった。フランとは違ったおそらく天然物ではない雑に染め上げた銀髪に口にピアス。上司に対しての敬意はあるようだが基本的に軽口を使っている。今だって口が悪いと上司に言ってしまったために正当な暴力を受けている。  

「うっうーん……」

周りに結構な数の変人が居た冬児もこの状況に思わず苦笑を続けるしかなくなる。

「えっと、まっマスター?というかフランさんでもどちらでも構いませんからお早く要件を…キャスターのマスターさんにも都合というがありますでしょうし」

なんてアーチャーは嬉しいこと言ってくれ、

「えっ!?えっえっと、よっよっよーけんっんん!?そっそうだよネっ!!?」

「あぁ、いいよライン。私が言う」

「いてて、ラインさん、しっかしてくださいっすよー」

「おいルツ。姐さんに殺されたいのか。もう黙っとけ」

――なんだろう。このファミリー感。

――キャスターもキャスターで黙ってるし。

「キャスターのマスター」

唐突に向けられた直向きな声は、ブロンド髪の女性のものだ。彼女は咳払い一つせずそのまま次の話題を切り出そうと拳を作った右手をテーブルの上に半ば叩きつけるように置き、言葉を紡ぐ。

「ここに私達が招かれているってことはもう決定ってことでいいんだな?」

彼女が言ってることは同盟を結ぶという件についてだ。

冬児としてもそれは有り難い。自分は魔術師ではないためキャスターに十分に魔力提供をできておらず、今までの戦闘を乗り越えてこれたのも、キャスターがあらかじめ魔力が混入されている魔術道具のおかげに過ぎない。

それはつまり無限ではない。

ならば節約も踏まえて戦力UPという点で他の陣営と手を組むという利点は大にあるのだ。

それもあの女軍人のサーヴァントとあれ程の激闘を繰り広げた弓のサーヴァントが相手だ。断る理由がない。

しかし、それなら解らない事が冬児にはあった。

「何でだ?」

「何がだ」

この間一秒。冬児も負けじと次に話そうと考えていた言葉を紡ぎ出す。

「だから手を組む理由だよ。確かにさっきの戦いの最後で、そこのアーチャーは女軍人のサーヴァントに殺されそうになったけど俺にはそれが手を組む理由になるとは思えない」

「ふむ、それは何故だ?マスター」

問を投げてきたのは、意外にも自分の隣に座っているキャスターで、彼女は左手に持ったソーサーに珈琲の入ったカップを置くと楽しげな表情を浮かべている。

「いや確証はないんだけどさ、なんか『隠してる』みたいだったんだよ。それが何かは俺にもわからないぞ?でもなんかあの時、ゾクってしたんだ。

正直、アーチャーとあの女軍人のサーヴァントが戦っているのを見て俺は震えていたんだ。怖かった訳じゃない、でも震えていた。好きなスポーツのスーパープレイを見て心が奮えるのと同じ。

でも女軍人のサーヴァントがアーチャーの額貫こうとしたとき、それとは違った意味で震えた」

冬児は自分の握り拳をもう片方の手で覆い被せながら語り続ける。

「怖かった。あの時確かに俺は恐怖を感じていたんだ」

主の語が終わると、その従者はふむと一口カップに口を付ける。

その表情は何処か満足気で弱音を吐いた自分のマスターを貶す気などある訳がなかった。

「さて、我の愛すべきマスターはこう言っている訳なのだが……。

アーチャー。どうだ?」

「――ええ」

返答は応答だった。続けてその口から語られるのは宝具の内容だろう、そう考えたフランはいち早くアーチャーの口を抑えようとしたが、屈託のない笑顔と供に片手で諭される。

そしてアーチャーの表情から笑顔が消える。視線は前方、フラン達を挟んだ向こう側のキャスター陣営に。

「我が真名は“アルジュナ”。

パーンダヴァ五王子の一人にして純粋な行為の実行者」

――一瞬の間。それから数秒も経たず、

「なっ!?」

「あぁぁっ!!?」

「ふぇっっ!?」

マスター二人とその片方の婚約者候補一人が間抜けな声を連続して出す。

「ちょ、ちょ、おまっ、アルジュナァッ!!!てめぇ何、簡単に真名口走って!!」

「えっ、だってこの方々とは同盟を結ぶのでしょう?ならその方がいろいろと効率が。それに今フランさんも呼びましたよ、私の名前」

「よくねぇよ!!結局最後には敵になるだろうがぁぁぁぁっ!!!」

アーチャー、もといアルジュナの胸ぐら掴んだフランの激昂は続く。対して怒りの原因であるアルジュナは飄々とした様子の笑顔を浮かべるのみで、

「何も心配要りませんフラン殿。私、負けませんからっ!」

「ッッッッッッッ!!!!」

冬児には青筋が切れた音が確かに聞こえた。

怖い。英雄も怖いけどあの女の人も十分に怖い。

「フッフランさん、本題!本題!もう早くしましょう!」

この中で一番年長者であるマークがフランとアルジュナの間に割って入り、なんとか仲介する。

フランは獣のように唸り、その間、その婚約者候補と言われているラインは一切動こうとしなかった。

正直に言って冬児にはこの大人しそうな少年がマスターには思えなかった。どちらかと言うとその横の怖いお姉さんの方が、と目を向けた時にはそのお姉さんのもこちらに目線を戻していた。ものすっごく不機嫌そうな目だけど。

「……ある陣営を倒すのに、あんたらに協力してもらいたい」

「ある陣営?」

当然ながらそう首を傾げる冬児の前に一枚の写真が取り出される。

写真に映っているのは、黒髪とそれに対照的な真っ白な肌をもつ、眼鏡の男だった。

「ジェイ・フコス・アルバ。ライダーが倒した一体目、そして二体目のシールダーを恐らく召喚しているマスターだ」

ライダー、という聞き慣れない言葉を流しそれよりも大きな疑問を冬児は口にする。

「ほっ他のマスターの情報を持ってるのか!?」

「??なんだ、あんたらは情報収集さえまともにやってないのか。うちはとりあえずシールダーのマスターの他に後2つ、情報を掴んでいる」

あんらも含めてな、と、フランは写真を置いたテーブルに少し身を乗り出すようにして冬児に指を2本突き出す。

「だからだ。このシールダーのマスターを“捕獲”することができたら残り2つの情報も教えやってもいい」

「!!」

言われて冬児は息を呑む。

最初は巻き込まれただけだった。今も戦う覚悟を身に着けたと言ってもこちらから仕掛ける気は無かった。

だがそれでも相手の情報を持っているというだけでも十分な戦力になるのではないだろうか。

それを考え、もう喉元まで「yes」という一言が出かかっていたが、その寸前で横のパートナーに目を向ける。

キャスターはそんな主を見て眉を下げた笑顔で口を開く。

「そんな困った顔をするなマスター。我も同盟には賛成だぞ。それに、こやつらには裏切ろうにもそう簡単には裏切れん」

キャスターはティーカップをテーブルに置き、自分の胸の前で腕を組み半目でアルジュナを見る。

「外装的には修復しているように見せているが、アーチャー。お主の腹の風穴、完治するのにせいぜい四日は掛かるな?」

「おや見破られていましたか。さすがキャスター」

キャスターの言葉に冬児もアルジュナに目を向ける。

そこには無傷の英霊が一人立っている。まるで先程の戦闘など行われていたかったかのように、その身体に傷など一つもない。

「いくら相手が女性とはいえ油断しておりました。

一応コーティングはしてみたものの、やはり英霊には通用しませんね。見栄えが悪くなるのでこのまま続けますが」

「……ふぅむ。

フランとやら。つまりお主らにはそこの規格外アーチャーの回復を待つよりも早くそのシールダーのマスターを捕獲したい訳だな」

キャスターは続いてフランに目を向けて問を投げ、フランも身を乗り出したまま頷く。

「……この男だけは……生かしておけないんだ」

フランが今はまでよりも更に重々しく口を開くと、横にいる少年の表情も僅かに重みを増していた。フランは身を乗り出すのを止めソファにきちんと腰をかけると、膝に手を置き真っ直ぐ冬児に目を向ける。その様子に、今までの印象とは違うものを感じつい冬児も姿勢を正してしまう。

「クロイツフェルト・ヤコブ病、という病を耳にしたことはあるか?」

「?あの認知症になるっていう病気か?」

「大まかにな。実際はもっと深刻な病で、認知症の他に視力低下や歩行障害。アルツハイマー病と症状が似ているがために治療が追いつかず死んでからこの病気だと解ったケースあったらしい」

「??」

冬児は話が進むほど何を伝えたいのかますます解らなくなっていった。いきなり耳にする事も少ないような病気の名前を口にされたのだ、それも無理はない。

ただ、彼女が何か決死の覚悟で重大なことを伝えようとしていることは、彼女のテーブルに置かれた握り拳のおかげで感じ取れることができた。

そしてしばし沈黙の末、彼女は思い立ったように口を開く。

「こんなことを言うとクレイジーと勘違いされてもおかしくねぇんだが……

お前。もうすぐ地球が終わるって言ったら信じるか?」

「――はぁ?」

馬鹿にしたつもりはない。

ただ本能的にそう聞き返してしまった。

急に右手が疼き出した、とか、俺に近づくな不幸を呼ぶぞ、とか言い出した友人に対して当然のようにかける言葉と同じ様に。

相手の方もそう返されることが言う前から解っていたようで頭を抱えながら半ば語るのも嫌そうな表情をする。

「地球が終わるって、なんだよそれ。何かの映画の予告か?」

「……そうであったらどれほど良かったか」

金髪の守護者は静にそう口にすると、このままじゃやってられないとばかりに自分の部下から煙草を奪い取って吹かし始めた。

薄い唇に咥えた煙草を二本の指で口からどかせば、奥から出てきた煙が室内を立ち籠めていく。

この場では冬児も流石に「禁煙です」なんて空気の読めない言葉は言えず、相手から次の言が出るまでまっすぐ立ち昇る煙草の煙を見つめるしかなかった。

そしてフランはもう一度煙草を咥える前に語りだすことにする。

「クロイツフェルト・ヤコブ病、それに似た病が何十年か前から発症し出している。症状には二種類あって、一つは全身の細胞の退行運動を促すこと。そして二つ目は――魔術師の命そのものと呼ばれる魔術回路の破壊だ」

「!!」

聞いて冬児は驚愕する。

フランはその表情を見て少し満足したのか少々饒舌に語りを続ける。

「ここに来る前お前のことを少し調べさせてもらった。

日本のハヤマ家っていったらこの衰退した魔術界の中でも相当上位クラスの名家だ。何でもお前の親父さんは本家と縁切りした身でも、相当な権力者らしいじゃないか。何だか知らないが大層な魔術礼装を作ったとかで。

まっ肝心の息子の方が魔術のまの字も知らないんじゃ仕方ないがな」

「うっ………だからなんだよ」

「壬生家」

一瞬、冬児の思考が止まる。

その名前は知っている。知りすぎているほどに。

「ハヤマ家ほどではないが未だ現存する魔術師の一族の一つとして数えられている家系。この喝馬町の管理者も壬生家が代々受け継いでいるらしいが………お前、ここの次代当主と知り合いだったな」

「…だったらなんだっていうんだよ」

知ってるも何も、そこの娘と恋人同士だったなんて言ったりしたら笑われそうなので冬児は喉まで出かかっていた言葉を飲み込む。

フランは間髪入れず部下の一人から手渡された地図をテーブルの上に広げる。

それは地元民の冬児からしたら一目で解る「喝馬町」の地図だった。

喝馬町は大きな山に全体を囲まれているため一見集落にも見えるような形をしている。そのため他の街に向かためには、街の最北最南にあるトンネルを潜って行くしかないなんてとんでもな形をしている街なのだ。

さっさと山を削ればいいなんて声も出ているが、そういう奴らは土砂災害のこととか考えてないんだろうなと心の中で溜息をつく。

冬児はもう一度地図に目を向ける。

地図自体は何の変哲もない紙で作られたもので、所々に赤いペンと青いペンで×印が付けられているだけだった。

「赤い印は今わかってるマスターの住居、または住居だった場所。青い印は既に戦闘が起こった場所だ」

その中でフランが指差したのは赤と青二種類で付けられた×印を東側の一点。

「この場所に、覚えはあるか?」

「カグラの……壬生家の屋敷がある場所だ」

そう、そこはあの惨劇が起きた場所だ。

冬児の愛する者が生きる肉塊に変えられ、そんな自分に希望を与えてくれたサーヴァントを呼び出した場所。

この時朧げではあるが冬児にはフランが言わんとしていることが解ったような気がした。

「私達は、というか私達のグループはこの戦争が始まる前からこの町を中心として関係者をてっぺんから爪先まで全部調べ尽くした。

それで解ったのが壬生家の正体だよ」

「正体?」

応答にフランは一度だけ頷きを返し口を開く。

「この壬生家、実は何代も前に魔術師としての血筋が失われている。この家に壬生家の血を引いた魔術師なんていなかった」

言葉を聞いて冬児は唖然とする。

数秒経ってようやく自分の元に戻ってきた思考をフル回転させ、反論するために立ち上がる。

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!!

それはおかしい!おかしいぞ!!壬生家は歴とした魔術師の家系の筈だ!!それはあんたもさっき言ってただろ!?現存する魔術師の一族の一つだって!」

「ああ、言った。私が言っているのは『壬生家の血を引く魔術師』がいないということだよ」

そこからフランは、荒々しくいきり立つ青年に頬に手をつきながらつまらなさそうに事実を口にする。

「壬生架九也は壬生家の人間じゃねぇんだよ」

 

 

 

 

 

フランの話が正しいとすると、壬生家はとっくの昔に廃れた魔術師の一族の一つだったらしい。

原因は例にもよってフランがさっき話した「魔術回路を破壊する病」。通称、アラヤ。

壬生家現当主、壬生安山は魔術師ではなかった。経歴を偽り、この町を収める魔術師としてこの地に居座っていたのだ。

理由は壬生家の家名を残すため。

魔術回路を持たぬ名前だけの当主にできることはその程度のことでしかなかった。家名を無くさぬため、名前だけでも後世に伝えるため魔術師として偽りの人生を歩む。それが衰退した魔術師の一族を背負う者の責務という名の呪いだった。

そんな日々を歩んでいくだけの男のもとに願いを叶える願望器の話が飛び込んだ。

どうにもその願望器は強力すぎるが故教会によって十に分けられ、それぞれ違う場所に保管されていたらしいが『バルドリア』とかいう宗教組織に最近また集められたらしい。

バルドリアが欲していたのは場所だった。協会にも教会にも見つからず儀式を再行でき、奇跡を再現する場所。

壬生安山はどこの管理者よりも早く自分の町をバルドリアに提供した。

理由は明白、一族のためだ。この戦いで自分が勝利者となって一族に魔術回路をもう一度宿す。

儀式を行う為の土地の代わりに壬生安山がバルドリアに要求したのは十に分けられた聖杯の欠片の一つだった。

この申し出にバルドリアは意外とすんなりと首を縦に振る。

こちらの理由も明白だった。要は誰でもよかったのだ。

マスターとなる人物が魔術師ではなくてもサーヴァントを召喚することができるのがこの聖杯戦争の醍醐味。バルドリアが欲しかったのは儀式を行うための土地のみ。参加者など誰でもいい。

その後聖杯戦争、後に聖杯統合戦と呼ばれた戦いは数年後に控えた壬生安山は養子をとる。

類まれなる戦闘能力と魔術回路を持った子を他の土地の管理者から買ったのだ。

聖杯統合戦に参加することだけなら安山本人でもできる。ただ、戦闘が続くに連れ、どうしてもサーヴァントに魔力供給しなければならなくなるだろう。

そのために、自分の代わりに聖杯統合戦に参加させるための傀儡として子供を育てた。

それが壬生架九也。

十数年の歳月を経て壬生家の魔術を受け継いだ天才魔術師。

 

 

 

 

「が、安山はミスを侵してしまった。

養子として取り入れた子を愛してしまったんだと」

壬生安山は元々は架九也のことをただの道具として育てる筈だったが、曰くただの娘として愛してしまったらしい。

「壬生安山には妻が居なかった。理由はまた一族のため。妻を娶るということは外部からの侵入を許すということだ。魔術回路を持たぬ一族という汚名を外に漏らさないための処置だったんだろうな」

「じゃ、じゃぁ架九也は」

「実質的なこの街の管理者だったんだろうな。何しろこの衰退しきった魔術界の中であっても“天才”と謳われていた魔術師だったらしいしな」

――知らなかった。

それが今の話を聞いた上での冬児の感想だった。

自分の恋人が魔術師だったことは知ってるし、優秀だったのも知っている。

もしかしたら架九也自身も知らなかったのかもしれない。自分が天才だと言われていたことも養子だということも。

ただ何とも言えない消失感だけが冬児の胸にぽっかりとした穴を開けていた。

「おい、この程度で驚いたような表情をするなよな。こっからが本題なんだ」

フランは煙草を部下が用意した灰皿で磨り潰し、真っ直ぐな瞳で顎を少しだけ釣り上げた威圧的な態度で冬児を見つめる。

「聖杯統合戦前夜の壬生家での戦闘、あれはお前のところのキャスターとアサシンが起こしたものだな」

「ッ!!………どこでそれを」

「うちのアーチャーは夜目も効いてね。多少ながら魔力探知もできるから英霊同士の大きな魔力ぶつかり合い何てあったら造作もなく見つけられる」

それより、紡ぐ言葉の前に一瞬だけその視線はキャスターへと向けられ何事も無かったように冬児の元へと帰ってくる。

「あの日、私たちは先日から目をつけていた壬生家の当主がやっと重い腰を上げ英霊を召喚したものだと思っていた。

だが実際は違っていた。確かにサーヴァントは呼び出されはしたが、英霊を呼び出したのは天才の魔術師などではなく凡俗の一般人 (ぶがいしゃ)だった」

薄い唇に咥えられた煙草から立ち昇る煙はこの部屋の空気を不思議と安穏にさせていく。

「なぁ、お前は何だ。早眞冬児。

魔導の道に進むべき血筋に生まれながらその道を進まず、それでありながら魔導を否定しない。では何故お前は魔術を習わなかった?」

「それは――」

続く言葉は一本の先のように極自然と口に出る。

「それは、カグラがいたからだ」

沈黙は驚くほど簡単に言葉へと変わってくれた。

「俺が魔術なんか習わなくてもカグラがいた。

だから魔術なんて別に習わなくてもよかったんだ。空いた隙間は、全部あいつが埋めてくれたから」

歳相応に恥じることもせず、

ただ戦いに巻き込まれた少年は近い将来手を組む相手にそう堂々と答える。

またその有志を見た者達が想うのは関心かあるいは憧憬か。

どちらにしても長く続いた議論はもうすぐ終わりを迎えようとしていた。

 

 

「協力しよう、よ……」

小さく言葉を発したのは、今の今まで固く口を閉ざしていた童顔の少年だった。

冬児のたった三文だけの力説が彼の心の扉を開いたのか、そこは誰にも解らないところだが自分達の主がそういう決断を下したのならフラン、ルツ、マークの三人もそれを受け入れるかしかなかった。

と言ってもフラン自体はまだ言い残したことがあるようで、まぁ後から言うと納得してからラインに抱きついていた。

「お前もそれでいいよな、ア」

そう言ってフランが背後に居る筈のサーヴァントに振り返ると、

そこにはサーヴァントは疎か人一人立ってはいない。

丁度その頃だろうか。彼女の顔がまるでブルーベリーのように急激に青くなっていったのは。

次の瞬間、フランは間髪入れず部下であるルツの胸ぐらを掴むとお互いの鼻が当たりそうな位置まで引き寄せる。普通ならフランほどの金髪美人にここまで至近距離に近づかれただけで動機がハイペースになるのだが、この場合は鬼の形相というアタッチメント付きだった。

「おい、ルツ……アーチャーはどこだ!!アーチャーは何処に行った!!?」

「ん?あやつならさっき夕飯を作ってくると言って部屋から出ていったぞ」

返答したのはキャスターで、フランの表情は未だに真っ青のままだ。

「………!!」

途端、フランがラインをお姫様抱っこして立ち上がり、まるで瞬間移動でもしたかのように扉まで移動する。抱えられたラインも状況を理解していない様子だ。

「じゃ、あたし達はこれからトイレで色々とすることがあるからこれで」

「姐さんが嫌いな下ネタを使うほど焦ってる!!」

「ちょ、姐さん!!俺達だけじゃアーチャーの飯は全部処理できないですよ!!」

「うるっせぇっ!!何とかしやがれこのスカポンタン共っ!!ファック!!」

――スカポンタンって……いるんだ、まだそんな言葉使う人…。

騒がしくなってきた談話室に、一つ音が鳴る。

香しい臭いと共に、その[[rb:地獄 >サーヴァント]]は帰還する。

両手にその地獄 (りょうり)を持って……。

 

 

 

 

 

そして時間は元に戻る。

ご存知の通り、アルジュナはインドの叙事詩において英国のアーサー王並の人気を誇る弓の英雄である。生前も神の息子として、王子の一人として、旅に出たことがあっても細かなことは従者である友がやってくれていた。

間違っても、間違っても、そんな男が『料理』などしたことがある筈もなく……。

「あっあれ?みっみなさん?」

「………」

つい数十分前まで賑わっていた談話室に立っているのは、エプロン姿のアルジュナと唯一アルジュナの料理を食べなかった冬児のみだった。

それぞれがそれぞれの形で、ソファやら床やら壁やらに身を任せ倒れている。

まさに地獄絵図。まさに阿鼻叫喚である。

「………あっえっと、あっアーチャー?その料理には何を、というかそれは料理なのか毒物なのか」

「??カレーですよ?」

カレーと言われ、冬児はゆっくりと首を傾げながら他の皆が食べた皿を見る。

そこには溢れださんばかりの泡が皿が熱いわけでもないのに溢れ出し、カレー言うからにはルーなのだろう。奇妙な緑の液体は次々と具とかしていっている。というか具でさえまともな食材かどうかさえ怪しい。

アルジュナって確かインドの叙事詩の英雄だよなぁと頭に思い浮かべつつ、

インド人=カレーという考えは早く辞めたほうがいいと心に誓う冬児であった。

 

 




※反省点
また料理下手英雄を呼び出してしまった……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。