Fate/ragnarok gate   作:フーリン式

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《キャラクター紹介》
*現在記載できる登場人物のみ掲示。

『キャスター陣営』
・早眞冬児
この物語の主人公。魔術師を義父にもつ一般人。不遇な苦しみに囚われる少女を救うために聖杯統合戦に参加することを決意する。
・キャスター(一騎目)
冬児のサーヴァント。紫と白の装束を纏った日本風の顔立ちの少女。

『アサシン陣営』
・平桔平
バイクが好きな青年。魔術師殺しに興味を持つ。バーサーカーに襲われ生死不明。
・アサシン(現在不明)
全身白い装束を纏った幼い容姿の暗殺者。頑なに言葉を発しようとしない。一騎目、二騎目共に消滅させられたと確認されている。

『シールダー陣営』
・不明
白髪の老人だと思われていたが、死亡。正体は定かではない。
・シールダー(現在不明) 日本の武将。攻撃を無効化させる鎧を宝具としていたが、一騎目はライダーによって消滅させられる。
『ライダー陣営』
・矢部崎結香
冬児の幼馴染である眼鏡の少女。冬児に対して異常なまでの愛情を見せる。
・ライダー(一騎目)
黄金の舟に乗るサーヴァント。常に上から目線の性格だが、愛に生きるマスターには情を見せる。

『アーチャー陣営』
・ライングル
イタリアの大マフィア『クリムゾン』の代理ボス。内気な少年で戦いにも気乗りではない。
・フラン
アーチャーのマスターであるラインの護衛。過去の事件から肉体の四分の一を別の何かに変えられている。
・アーチャー(一騎目)
青丹色の髪と金属を幾つも身につけた青年。真名はインドの叙事詩『マハーラーバタ』にも載る大英雄、アルジュナ。
・ルツ&マーク
フラン同様、ラインの護衛。

『ランサー陣営』
・ハクア・フリューゲルス・シニュアノーズ
ランサーのマスターであり、地図には載っていないある国の第一王女。勝気な性格。
・ランサー(一騎目)
全身を青で統一している槍兵。真紅の槍を振り回し、獰猛な獣を連想させる戦い方を好む。

『バーサーカー(?)陣営』
・赤ん坊
事実上バーサーカーのマスターであり令呪も宿している。が、当然話すことも自分で歩くこともできない。
・バーサーカー(一騎目)
肩から二対の大蛇を生やす漆黒の騎士。狂戦士というクラスに当てはまりながら、狂化を無効化していることから、教会からはバーサーカーとはまた違うクラスなのではないかと思われている。

『???』
・軍服の女 喝馬町北部にてアルジュナと激闘を繰り広げたサーヴァント。固有結界を使っていることがアルジュナによって見破られた。

【参加者以外の登場人物】
・アストル・ハーデンベルト
教会にも協会にも属さない独自の宗教組織『バルドリア』の大師父。自分達の教祖の意思を実現させるため今回の聖杯統合戦を起こした。
・アレーシア・ハーデンベルト
聖杯統合戦における監督役。アストルの実娘であり、息子を一人持つ。基本的に温厚な性格で抜けているため争いには向かない。
・キレイ・ハーデンベルト
アレーシアの息子。アレーシアの護衛役として付いてきてるが、日本に来てからやっていることはほぼ家事のみである。


開戦

◯【ロンドン・時計塔】

ロンドン時計塔。

表向きは英国の観光地の代表とされる場所だが、裏では『協会』という名の、魔術師達のコミュニティの場となっている建造物。というのは名ばかりで、個人の研究に没頭する魔術師ばかりが住まうとも言われている。

その歴史は長く、魔術師が激減している近年でも未だに強力な力を保持している。他二つ、巨大な力を持つ協会は存在していたが片方は没落、もう片方も辛うじて生き残っている状態にある。

前記にも上げたように、原因は魔術回路を食い尽くす病原菌のせいであるとされ、多くの魔術師達もそれの真相解明に挑んできた。多くの魔術師がその問題を遂ぞ解けずに破れ、いつの間にか自分自身がその病にかかって魔術師としての命を絶たれた。

「全く、不合理だなぁ。元より決まっていることが挑んで廃人と化すなんてさ」

時計塔の地下の地下。創立から二千年の時経て、その在り方を大きく変えた時計塔でも地下だけは変わらない。

変わらないというのは、『時計塔の魔術師の工房のほとんどは地下にあり、下へ行けば行くほど狂気度が増すダンジョンと化している』という点である。

その一つ。何十冊もの本と天体、それと珈琲を浮かべた部屋に居るのは、男一人。

男は年代物の黒縁眼鏡を掛けて、一人でにブツブツ呟いては本に自分の考えを書き写す。

「うーん……いや。これだと翁が言ってたみたいに怪物が起きるな。それはバルドリアにとっても不味いだろうけど、オレにとっても不味い。まだ死にたくない」

続いて天体を動かすと悩ましげに頭の後ろで腕を組んで寝転がる。

「どうやっても止められないなら、どう先に残すか考えるしか無いかぁ……。ったく、こういうときのマジシャン5だってのに誰も居ないし……」

男が何かに対して愚痴を口にしていると、後方、唯一の扉からノックの音がした。

本来そこには『扉など無いのだが』、部屋の主である男に許された者のみその扉に手を掛けることができる。

男は珈琲を一口、口にしてから興味無さそうに後方に向かって返事をする。

「はいはいどうぞー。勝手に入って」

その言葉に返事は返されず、代わりに扉がすぐに開けられオカッパ頭の十代半ばの少女が入ってきた。

両の眼は長く伸びたパッツンの前髪に隠され、小さな手には緑色の大きな本が腹部の辺りで抱えられており、友達作りが苦手な奥手な少女という印象を相手に覚えさせる。

そんな少女に、部屋の主である男はまるで詰問するように言葉を掛ける。

「何の用だい聖母の蛇。今度は君の主人の依頼か、それともどこかの学部長からの苦情の報告かな。悪いけど後にしてくれないか?今からまた計算しなくちゃいけなくてね。全く自分でも嫌になるよ。僕は錬金術士じゃないんだけどね、変な魔術を見つけてしまったせいで半ばホルマリン漬けにされてしまった。まぁ今の生活は不自由ではないけどさ」

驚く程饒舌に、自分は協会に囚われていると暴露した男は、喋りながらまた紙と鉛筆を取り出しては図式を書き始める。

少女はその間言葉を発することは無かったが、一通り男の話が終わると男の元まで走り出す。

男の側で止まった少女は、男の作業を止めるかの如く手にしていた大きな本を相手の目の前で開ける。

男もその行動にやっと少女に目を向け、続いて開かれた書物にも向ける。

そこに書かれていたのは達筆な字による命令文。誰が書いたかなんて男にはすぐに理解できたし、理解できたからこそ無視なんて出来る訳が無かった。

男は苦笑しながらその書き手のことを思い出す。

「……今度は貴方が俺を使いますか、先生」

開かれたそのページには、力強い文字の羅列の後に偉く大仰なサインが綴られていた。

 

『日本にて行われている聖杯戦争について話が在る。そこから出ろ。

 

――ロード・エルメロイⅡ世』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◯【聖杯戦争開始四日目・喝馬町・都心】

喝馬町は巨大な山々に町ごと隔離された、一種の要塞都市のような作りになっている。少し比喩が過ぎるかのような例えだが、実際に山から街の中心部に近づく程、近代化が進んでいるかのような作りになっており、広大な城下町の中央に城が建っているかのような情景を連想させる。

冬児が居を構える早眞の館は街の南側に位置するが、丁度中心部と山沿いとの真ん中に建っているのでそれほど不自由はない。

が、今現在。冬児は心安らぐ自分の館を離れ、協力者と共にその中心部に向かっていた。

六人乗るには少し無理がある黒いベンツ。その中にキャスター陣営、アーチャー陣営の同盟関係にある二つの陣営は乗っていた。

車に乗った当初は運転席と助手席に座るルツとマークが場が少しでも明るくなるように話題を振っていたが、高速に乗る頃にはそんな気概も失せていた。

沈黙に包まれた空間、それを切ったのは車内なので煙草に火を付けることを我慢しずっとそれを咥えたままだったフランだった。

――厳密には溜まっていた怒りを爆発させたに過ぎないのだが。

「だぁあああああ!!!!何でこんなにぎゅうぎゅうに敷き詰められてんだよ!!」

「うわっ!!?」

突然の咆哮に思わず冬児も身じろいでしまい、半ばラインも涙目になっていた。

「おっ落ち着けって、」

冬児が暴走金髪女を止めようとするのを聞かず、当の本人は冬児の横のサーヴァントに指を指し激昂を向ける。

「おい!!お前は何で車に乗ってんだよ!!」

「何故って、それは我も主様に付いていくからに決まっておろう?そんなことも分からんのかこのヤクザ娘は」

「そうじゃなくて、霊体化できんだろアンタ!!アーチャーはしてんだろうが!アーチャーは!!」

激昂は響き、益々車の中は騒がしくなっていく。走っている所が高速道路では無く、防音対策が整っていなかったらちょっとした騒ぎになっていたかもしれない。

だが、この走る密室空間の内部の会話を聞くものが他にいた。

 

 

 

「――ファイア」

その声はどこから聞こえたのか。

次の瞬間には、六人が乗るベンツに弾丸の雨が降り注ぎ、防弾使用の扉や窓を次々と蜂の巣変えていく。

もはや円状の形を保っていないタイヤが残り一つになったとき、車は大きくバランスを崩し何度もコンクリートを回転する。

斜めに縦に横に、数回ほど回転した所で今度は爆発が起こった。明らかに車の燃料だけが原因ではなく、高速道路そのものに爆弾が仕掛けられていたと考えられる。

付近には運良く他の車は走っておらず、被害を受けたのは冬児達が乗っていた車だけだった。

その結果を見て、惨状のすぐ近く、ライトの上に器用に立っている女は満足気に嗤う。

「止め。良くやった諸君。サーヴァントはともかく、マスター二人は確実に息の根が止まっただろう。私は諸君らの新たな武勇に敬意を表そう。残った二体のサーヴァントは私が殺る。諸君らは帰還したまえ」

通信機越しに部下にそう伝えると、軍服姿の女はライトから、爆発で照らされたコンクリートの上に降りる。

彼女が行ったのは、キャスター・アーチャー陣営への奇襲に他ならなかった。ただの全方向からの銃撃と爆発程度でサーヴァントは倒せないことは重々承知している。

だから彼女自ら出てきたのだ。

「さて、アーチャーかキャスターか。出てくるのはどちらだ?」

軍服の女サーヴァントは片手に西洋刀を握りながら、一歩一歩姿勢を崩さぬまま爆炎えと近づいていく。

アーチャーとキャスター。既にどちらとも面識のある軍服の女は彼らの力量を、少々不十分ながらも理解していた。

片やインドの大英雄と、片や素性は掴めぬものの英雄一人を一時的に行動不能にする程の魔術の使い手。

この二つの対策も行っているために女は今ここに居る。二人同時に戦うことになったとしても、彼女の計算に狂いが生じることはないだろう。

「―――!!」

が、計算違いのことというのは存外、簡単に起きるものなのだ。

それは例えば、相手が強大する力を保持しており、自分がその力を本当の意味で見余っていたときなど。

――雷撃はすぐに起こった。

「やはり仕掛けてきましたか。キャスターの読み通りですね」

何かが弾ける音が軍服の女に近づいて来る。

それはさながら人が歩くというより、自然の脅威そのものが迫ってくるかのような感覚を、軍服の女サーヴァントに連想させる。

爆炎の中から雷撃と共に現れたのは、神代の弓使い、アルジュナだった。

彼の度の過ぎるような屈託のない笑みと言動に、軍服の女は思わず内心怒りと疑問を覚える。

「やはり……だと?」

対するアルジュナは爆炎の中から無傷で出てくると笑みを浮かべたまま相手の言葉に頷き言葉を紡ぐ。

「私達には貴人方が襲撃に来るのを予想しておりました。ですので通常使用する筈だったこのルートには私のみが参上して、残りの仲間は別のルートで目的地まで移動しています」

軍服の女はその言葉を聞いて横目で都市部の更に中心部に目を向けると、背後に控えていた部下に残りの連中を捜索するように命令する。

――が。

「あがぁっ!!?」

部隊を束ねて冬児達を捜索しに向かおうとした軍服のサーヴァントの部下は、いつのまにか全員脳点を一撃で射ち抜かれて、射殺されていた。数十人もの数、しかも高速道路の下で待機していた部隊も含めて全てだ。

疑う筈もない。そんな神業ができる男など、現段階では目の前にしかいないのだからと、軍服のサーヴァントは冷や汗をかきなが息を呑む。

前方には一人。弓使いでありながら、無尽蔵な魔力を持ち、足元に雷の魔力放出を放ち続けている。

「釣れないことをしないでくださいよ。もう少し、私と踊っていってはどうですか?」

 

 

 

 

 

 

「……デコイ、破壊されました。現在アーチャーがサーヴァントと交戦中です」

「よし、アイツなら負けることはないだろう。それにしても、ホントに予言なんて当たるんだな。教えてくれないとは思うけど、何者だアンタ?」

アルジュナと軍服のサーヴァントが激突した高速道路とは別側、少し離れた道から冬児達は目的地へと向かっていた。

走行中の車体の窓から、炎が舞い上がり始めた高速道路を除き見ながら、フランは冬児の横に座るキャスターに声を掛ける。

対するキャスターは、声を掛けて来たフランに目を向けることなく不敵な笑みを浮かべながら腕を組んだまま口を開く。

「何、我はただの一介の呪術師に過ぎんさ。預言者とも呼ばれたがな。今のがその証明だと思ってくれたらいい」

シールダーのマスターの工房に攻め込み、早々に決着を付ける。

つい先程決められたこの作戦は、フラン達の情報力と、同じくつい先程判明したキャスターの予言能力が存在して、初めて結構することになった。

キャスターの予言能力は宝具という訳ではなく、彼女のスキルのようなものらしい。故に視える未来も近しいものだけで、靄が掛かったようにしか予測できないのだが、それによって自分達が遅かれ早かれ他の陣営から襲撃されることが解った。

最初はそんな不明瞭な力を、冬児も含めその場にいる誰もが半信半疑にしか信じなかったが、彼女のその迷いのない目を見て最終的には信じるしか無くなった。

その後、遅かれ早かれ誰かに襲撃されるのなら先に目的を済ませておきたいとフランが発言し、現在に至った。

わざわざ最新のホログラムまで使ってデコイを走らせたのは、事前に襲撃されることが予期できていたためである。

「まぁアタシ達の命に比べりゃ、金なんて何億積もうが関係ないよねぇ♪ね?ライン♪」

「えっあ、そっそうだね……」

沈黙を保っていた少年の表情は、真横のシートに座るフランに抱擁されたことによって少しだけ和らいだ。

「それにアーチャーには我から魔力供給を行っておる」

そう言葉にしながらキャスターは自身の懐から小さな小鼓を取り出した。

数センチ程の四角い箱、それこそがキャスターの宝具に他ならなかった。それを見て上機嫌だったフランは少し渋い顔をする。

「よく宝具なんて使ってくれる気になったな。その、“契約結びの宝具”ってやつ」

言われてキャスターも僅かな微笑を浮かべながら指で挟んだ自身の宝具を左右に振る。

「何、例えバレたとしても戦闘に何ら影響を与えない宝具じゃ。それに我の宝具はこれだけではないからな」

そう自慢気げに語るキャスターを横目に、この場でずっとくらい表情を続ける一人を冬児は見ていた。

見ているのは冬児だけだが、この場にいる誰もが彼の沈鬱な心情を感じ取っていたのだが……。

「……」

 

 

●【2時間前・早眞邸】

アルジュナのお手製殺人酢豚を食べてから数時間後。目を覚ました一同は、互いに持っている情報を出し合って、シールダーとそのマスターを撃破するための作戦を小一時間ほど考えていた。

誰もが日の出を見るまでは決まらないと考えていたがそんなことはなく、思ったよりも早急に作戦内容は決まった。

「じゃぁ、最終的にはアタシと、それと早眞冬児とキャスターでシールダーのマスターの工房に侵入して撃破、それでいいんだな?」

フランが前方のソファに座る冬児とキャスターに指をさすと、当の二人は首を縦に振る。

その光景を見て何に対してか、腑に落ちない様子でフランは頭を掻いていた。

当然、そんな顔されては作戦内容に納得した冬児にも僅かに懸念を抱いてしまう。

「なんだよ。何か文句あるのか?フラン」

名前を初めて呼ばれたことに少々戸惑いながらも、フランは自分の心に渦巻いている疑問の念を吐き出す。

「いや、アタシとしてはそれで別にいいんだけど……。アンタ、魔術師の父親が居るってだけのただの人間なんだろ?

じゃぁなんでラインと一緒に隠れてようとは思わないわけ?」

フランは横に座っているラインを親指でさして疑問を口にする。

リスクの削減のため、戦闘能力が皆無のラインは護衛のルツとマークと共にアジトに隠れてもらうことにした。

ラインのサーヴァントであるアルジュナも、襲撃してくる筈の敵対勢力を一掃したら、冬児達と合流することなく、ラインの元へ駆けつけるように言ってある。

もし冬児達が戦死した場合、シールダー打倒の希望を少しでも残すためである。

しかしその理由で説明がつくのなら、それは冬児にも当てはまると言っていい。

既に3度もサーヴァントの戦いに巻き込まれているとはいえ、早眞冬児自身には全く戦闘能力が無く、今生きているのも奇跡に違いない。それは一重に、キャスターから支給された防具と彼自身の幸運による恩恵に過ぎないのだ。

フランは再度親切心のつもりで、さっきとまるで同じ内容の問を冬児に投げかける。

「アンタ自身も足手まといになるかもしれないのに、何で付いてこようと思うわけ?」

その問の返答を口にする前に、冬児の心に迷いが生まれる。

それは単純な恐怖。一人には喜ばれ、一人には間違いなく殴られる。

しかし結局、彼はその答えを口にしてしまうことになる。

「キャスターがそこに行くなら、マスターの俺だって一緒に行くさ。仲間なんだからさ」

「――ぁっるじ、さまぁっ!!」

予想通りの反応見せたのは、やはり冬児の横に座っていた過保護系サーヴァントで、言葉を聞き届けた同時に自分の主の首に手を回して抱きついては、御機嫌な表情を浮かべている。

「うむっ!お主のことは我が守護するぞ、主様!付いてきても何ら問題はない!」

「はっははは……はっ…」

必死の抱擁をかましてくるキャスターをいなしながらも、冬児は少々緊張しながら横目でフランの様子を伺う。

冬児はてっきり、こんな的確ではない理由を口にしたことを怒られると予想していたのだが、結果は違っていた。

返答を聞いたフランの表情は納得、むしろ冬児の意見が最も正しいと言わんばかりの満足気な表情だった。

「そっか……。お前も、そういう選択ができる奴なんだな……」

僅かな微笑と小さく呟かれた声を冬児は感じ取ることができなかった。

「えっ」

「何でもない。当の本人がそう言うなら、もうアタシは止めないよ。死にたいのなら勝手にすればいい」

冬児の顔に見向きもしないまま吐き捨てられた言葉は、何故か嫌味さを感じさせず、どこか親しみを込められているようにも感じられた。

それで少し気が緩んだのか、冬児はここまで沈黙を保ち続けていた少年に言葉を掛ける。

「ラインは、どうするんだ?」

「――ッ!!!」

途端にラインの身体はビクリと過剰な反応を示す。

それはもはや冬児に怯えるというよりかは、冬児の言葉の意味そのものに恐怖しているようだった。

そんな想い人の様子を見てすぐにフランがフォローに入ろうと前に乗り出す。

「てめぇっ、余計なことを!!」

「いいんだ!!フラン!!いいんだ……」

想い人を守ろうと声を荒げたフランを制したのも、また涙目で頭を抱えた想い人その人だった。

「ごめん……ごめんなさい………僕は行けないよハヤマくん……」

彼は震えた声で、この場にいる全員に謝罪するために、頭を深く深く伏せて謝罪の言葉を綴る。

「僕は弱い人間だから、きっとフラン達に付いて行くっても足手まといになるだろう……ううん、僕は無力だから。そんなことじゃきっと済まないよ」

「ライン……」

少年の怯えはこの状況を知っている者からしたらとても情けなく見えてしまうだろう。しかし、この怯えを咎める者もまたこの場には居ない。

恐怖するということは生物として当たり前の機能なのだ。故に彼は当たり前のように、自分の死と親しい人間が傷つくことを恐れている。

誰もが皆『誰かを救うために動ける』訳ではない。そんな世の中では世界中の人々が

故に彼は一人の登場人物として、頭を抱えて、涙を溢し、荒くなる呼吸のせいで痛みを伴った胸を抑えながら、拒絶する。

「僕は――僕は行かない。皆の邪魔にならないようにホテルに隠れているよ」

 

 

 

 

 

 

○【喝馬町・都心】

深夜。日の光も射さぬ夜の町の一番巨大なビルの前に立つ影は4つ。

1つは、早眞冬児。愛する少女の不遇な運命の真相を知る為にここに居る。

2つは、キャスター。前記の主の願いを叶える為だけに彼の側に立っている。

3つめは、フラン。愛する人の父親の病の現況を叩きのめす為にこの場で拳を握りしめている。

4つめは、常人の目に余る白銀色の盾を持った巨漢の男。その姿形、威厳ある趣から人目でサーヴァントだと理解できてしまう。

持っている武具からそのクラスも然り。

「2体目の……“シールダー”」

フランが思いついたかのようにそう口にすると、言われた巨漢の男は満足気な顔で頷いた。

「如何にも。どうやらこの戦ではその名で通っているらしいな、儂は」

鼻の下から顎、頬にかけて伸びる白髭を撫でてから、その手でシールダーは呼び掛けに応じるようにして地面に突き刺さった槍に手を掛ける。白銀の巨盾を右手に、禍々しく魔力を放出する紫の槍は左手に刃の先端が地面を穿つ形で構えている。

今まで相対してきた中で一番戦士らしい男を前にして、されどキャスターは僅かな疑問を抱えることになる。

まだ戦闘を行ってもいないというのに、目の前のサーヴァントの魔力はもう枯渇仕切っているのに等しかった。

「何だ、もう気がついたのか魔術師。では致し方無いな」

ビルの前で冬児達を通せんぼせんとする老騎士はキャスターの考えを察すると潔く戦闘態勢を解いた。

その動きにキャスターは思わず拍子抜けしてしまったが、一応こちらは戦闘態勢を解かず右手に勾玉を握ったまま前方に佇む男に呼びかける。

「お主こそ何じゃ。戦うつもりがないのか?」

「あぁ悪いな。見ての通り我が身体は既に死に体でな、そよ風が吹くだけ塵と化すだろう」

そう弱音を吐きながらも威厳を失わせない彼の言動に三人は目を奪われる。

シールダーの姿は正に絵本で見るような身分の高い騎士のそれだった。もしかしたら王族かもしれない。

シールダーは今も尚頭上で輝き続けている月を見上げている。

「何故、魔力供給が成されていない?」

「それは貴様、マスターから魔力が送られていないからだわな。それと貴様らの前に珍妙な剣士と戦ったせいだ」

「剣士……?」

剣士という単語に脳内で未だ正体が見えないセイバーを連想するが、今はそんなことより重要な疑問を冬児は口にする。

「待て、お前マスターから魔力供給が送られていないって言ったな。お前のマスターも魔術師じゃなくて普通の人間なのか?だから魔力供給が送られていないとか」

「いや我がマスターは列記とした魔術師だ。ついぞ先程まで魔力供給も成されていた。

が、今は途切れた。死んだのであろうな」

「ッ!!」

豪くあっさりと主人の死を語る男に、またも三人は呆気に取られてしまう。シールダーは己の主の死に何のダメージも受けている様子が無かった。

「思えば奇食の悪い男だった。一国の主として数多くの民を見てきたつもりだったがあれ程気味の悪い男も久しぶりに見た。私の魔力を高めるために魂を狩り取った女を死姦しているのを見た時は、流石に吐き気が催した」

むしろ嫌いとでも言わんばかりに毒を吐くシールダー。その表情は嫌味を吐いているせいもあるのか、何処か疲れている様子だった。

「嘘……だろ……」

そう弱々しく言葉を零して、フランは膝から崩れ落ちた。この現状において一番ショックを受けているのは他でもない彼女だったのだ。

イタリアの大マフィア、ラースファミリー。

その筆頭はラインの実父であり、彼は原因不明の病によって刻々と数弱している。それは人間のあらゆる機能を少しずつ停止させ、魔術師達の世界でも“不治の病”として怖れられ、魔術師達の命とも呼ばれる魔術回路をも食い潰す。

ラインとフラン+護衛の二人が今回の聖杯統合戦に参加している理由もそこにあり、その不治の病の魔術的第一研究者がシールダーのマスターであった。つまりフラン達の目的は、聖杯統合戦に参加し、シールダーのマスターを捕獲して不治の病の改善法を聞き出すこと、あわよくば聖杯自体を入手してラインの父親の病を治すことにある。

フランは両膝を地面に付き、俯いて落胆する。

シールダーのマスターの死をもって、彼女達の目的への道は1つ閉ざされたのだ。

そんな彼女に追撃を掛けるようにシールダーの言が夜の闇に通る。

「重ねて悪いが、『それら』は貴様らへの来客だろう?対処しなくていいのかね」

シールダーの言葉に悪漢を感じ、冬児とキャスターは各々の背後へと振り返る。

その予想は見事的中することになる。

 

 

 

そこに在るのは軍勢だった。

アスファルトを埋め尽くすかの如く、群衆として聳え立つ黒の軍服達。それは更に集まり増え続け、地上に規則正しい黒き庭園を生み出していく。

一人一人が銃を持ち、剣を下げ、赤い腕章を腕に付けている。

いつからそこにいたのか。冬児達がビルの前に到着した時には既に群れをなしていないと有り得ない程の数を誇りながら、軍勢は突如としてそこに現れた。

その光景に冬児は思わず息を呑み、青冷め、声を震わせる。

冬児には目の前に広がる軍勢達の腕に着用されている腕章に見覚えあった。

赤い布地に、漢字の『卍』に似たマークが施されている、その印を冬児は知っている。

初めて見たのは社会の歴史の教科者。

ある国のある独裁者。世界を一度滅茶苦茶にした男が率いる帝国が世界にその存在と恐怖を知らしめさせたマーク。

人は忘れない。その存在を。

人々は忘れることができない。彼らへの畏怖を。

軍勢が持つ銃口の全てが中心にいる4つの影に向けられる。

彼らの中の指揮官が口にする。

彼らが彼らであるが故のあの代名詞を。

 

 

「勝利万歳 (ジーク・ハイル)

 

 

 

 

 

 

 




※反省点 
焦って文字数少なめ&最後完全趣味
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