*現在記載できる登場人物のみ掲示。
『キャスター陣営』
・早眞冬児
この物語の主人公。魔術師を義父にもつ一般人。不遇な苦しみに囚われる少女を救うために聖杯統合戦に参加することを決意する。
・キャスター(一騎目)
冬児のサーヴァント。紫と白の装束を纏った日本風の顔立ちの少女。
『アサシン陣営』
・平桔平
バイクが好きな青年。魔術師殺しに興味を持つ。バーサーカーに襲われ生死不明。
・アサシン(現在不明)
全身白い装束を纏った幼い容姿の暗殺者。頑なに言葉を発しようとしない。一騎目、二騎目共に消滅させられたと確認されている。
『シールダー陣営』
・不明
白髪の老人だと思われていたが、死亡。正体は定かではない。
・シールダー(現在不明) 日本の武将。攻撃を無効化させる鎧を宝具としていたが、一騎目はライダーによって消滅させられる。
『ライダー陣営』
・矢部崎結香
冬児の幼馴染である眼鏡の少女。冬児に対して異常なまでの愛情を見せる。
・ライダー(一騎目)
黄金の舟に乗るサーヴァント。常に上から目線の性格だが、愛に生きるマスターには情を見せる。
『アーチャー陣営』
・ライングル
イタリアの大マフィア『クリムゾン』の代理ボス。内気な少年で戦いにも気乗りではない。
・フラン
アーチャーのマスターであるラインの護衛。過去の事件から肉体の四分の一を別の何かに変えられている。
・アーチャー(一騎目)
青丹色の髪と金属を幾つも身につけた青年。真名はインドの叙事詩『マハーラーバタ』にも載る大英雄、アルジュナ。
・ルツ&マーク
フラン同様、ラインの護衛。
『ランサー陣営』
・ハクア・フリューゲルス・シニュアノーズ
ランサーのマスターであり、地図には載っていないある国の第一王女。勝気な性格。
・ランサー(一騎目)
全身を青で統一している槍兵。真紅の槍を振り回し、獰猛な獣を連想させる戦い方を好む。
『バーサーカー(?)陣営』
・赤ん坊
事実上バーサーカーのマスターであり令呪も宿している。が、当然話すことも自分で歩くこともできない。
・バーサーカー(一騎目)
肩から二対の大蛇を生やす漆黒の騎士。狂戦士というクラスに当てはまりながら、狂化を無効化していることから、教会からはバーサーカーとはまた違うクラスなのではないかと思われている。
『???』
・軍服の女 喝馬町北部にてアルジュナと激闘を繰り広げたサーヴァント。固有結界を使っていることがアルジュナによって見破られた。
【参加者以外の登場人物】
・壬生カグラ
冬児の代わりに元々聖杯統合戦に参加する筈だった少女。何者かの襲撃に会い、人の形を保てていない。
・アストル・ハーデンベルト
教会にも協会にも属さない独自の宗教組織『バルドリア』の大師父。自分達の教祖の意思を実現させるため今回の聖杯統合戦を起こした。
・アレーシア・ハーデンベルト
聖杯統合戦における監督役。アストルの実娘であり、息子を一人持つ。基本的に温厚な性格で抜けているため争いには向かない。
・キレイ・ハーデンベルト
アレーシアの息子。アレーシアの護衛役として付いてきてるが、日本に来てからやっていることはほぼ家事のみである。
○【聖杯統合戦四日目・喝馬町・某ホテル】
冬児やフランやキャスターが喝馬町の中心地で、シールダーや
ライン達が根城とするそのホテルの一角には何重にも掛けられた対魔術的、あるいは対物理的防護が施されており、篭城するには持ってこいの場所だった。
今もサブマシンガンを手にしたマークが、窓から入り込む月の光を確かめると共にに外の様子を確認する。
「日が過ぎましたね。まだ連絡は無しか」
マークの言葉に連動して、ルツも手にした受話器に目を向ける。このアジトに帰ってきてからその受話器が鳴ったことは一度もなく、当然、電話を掛けてくる筈の相手が無事かどうか確かめる方法はライン達には無い。
「フラン姐さんなら大丈夫っすよ」
自分に対しても含んでいるのだろう、そんな気休めを口にしたルツも、いつものお調子者な様子は見せずに静かに出入り口の前で腕を組んで佇んでいた。
二人の主であるラインも同じ神妙な面持ちでソファに座り込んでいた。
「……」
彼らの間に会話は無く、また静寂が部屋を包むかと思われたが、不意にノックの音が響く。
「「――!!」」
すぐに反応したのはマークとルツだ。二人は反射的というにはあまりに素早く警戒態勢を取る。お互いのサブマシンガンの銃口を出入り口へと向け、守護するべきラインを部屋の隅に誘導する。
先程も記述したように、この部屋にはあらゆる者の侵入を防ぐための防壁が施されているのだ。まずノックされること自体有り得ない。そういう作りにしたからこそ、アルジュナとラインが距離を置くことをフランは容認したのだ。
しかしノックの音はこちらが反応するまで続く。一度目は紳士的に、二度目は少し強めに、三度目になるともはや拳を殴り付けているに等しい音が鳴り響く。
更にはノックする者の声が外からライン達が篭城する部屋に入り込んでくる。
「ちょっと!早く開けなさいよ!!私が来てあげてるのよ!?」
「ら、ライダー。そんな乱暴に……!」
「!!」
声だけ聞くと部屋の外にいるのは複数だと確認でき、更に年若い少女達だとも理解できる。
しかしマークは聞き逃さなかった。今、外から聞こえる少女の声のうち、後の方の少女はもう一人のことを“ライダー”と呼んだのだ。
それだけでノックの相手が自分達の敵だという可能性が一気に跳ね上がる。
「……マスター。アンタってホント馬鹿ね。阿呆ね。何早々に私のこと呼んでるのよ。中の奴等にますます警戒させるでしょ?」
「あっ」
扉の外から聞こえる少女同士の会話に耳を傾けながらマークとルツは静かにその場に待機する。
防壁において、自分達は最善を尽くした。敵がそれでも入ってくるというのら主人を守るのは自分達の仕事だ。
銃口を構えたまま相手の出方を待つ。
「あぁ、もう面倒くさいわ。やるわよマスター。こうなったら強行突破よ強行突破」
その言葉を聞いたと同時に部屋の中の三人の額に冷や汗がつたる。
だがそれも束の間、次の瞬間には木製の防衛仕様の扉は木っ端微塵に破壊され、外壁から黄金の木舟が部屋の中に侵入してくる、かと思われたが横幅があっていないのか枠に引っかかって入れていない。
「あぁもう!これ以上小さくしたら私まで凝縮されちゃうじゃない!!アンタ行きなさいよ!!」
黄金の木舟の主に足蹴にされ、木舟の船体の一部の不自然な場所が開き、中から眼鏡の少女が現れる。今の世には珍しい何処からどう見ても大人しい文学少女といった趣の少女は、申し訳なさそうに、非礼だと承知の上で自分の願いを口にする。
「あっあの、御免なさい……冬児くんのために一緒に来てもらえますか?」
○【同時刻・喝馬町中心部】
イメージとしては軍隊蟻が正しい。
たった四人の獲物を巨大なビルに追い詰めている、規則正しく獰猛な軍隊蟻。冬児、キャスター、フランの三人はその存在感に圧倒される。
そこで唖然としている中央の三人の前に、他の兵隊達より明らかに位の高い風貌の男が立つ。体格だけなら冬児達の背後で座っているシールダーに遅れを取らぬほどの巨漢であり、深く被られた戦闘帽から見える蒼い片目は見る者全てに畏怖の感情を与える。
「聞けキャスター、そのマスター。アーチャーのマスターの愛人、そしてシールダーよ。我々は血の第三帝国の使者である。大人しく投降するなら命は保証しよう」
黒い蟻の指導者の声は低く、落ち着きのある声だった。それこそ老紳士のそれだ。
「だができればそうはしないでくれよ。私としては戦闘が有るに越したことはない」
が、その全てを彼の言動が打ち消した。
彼は無害ということを最初に伝えたというのに、既に戦闘態勢に入っていたのだ。
「我が名はガルム・ドルギスタン。
私は闘争を臨む。血が煮えたぎるような闘争を臨む。再度通告しよう、できれば大人しく投降しないでくれ。限界の限界まで足掻いてくれ」
その表情に笑みは無く、鍛えられた四肢をゴキゴキと鳴らす。
が、その場で動く者はガルム以外居なかった。冬児は恐怖で、キャスターは計算して、フランは意気消沈して動けずにいた。
誰一人動かぬその現状にガルムは溜息を付いて再度言葉を発する。勿論、血の煮えたぎるような闘争を臨む彼が言葉にするのは只の世間話などではなく、敵を焚き付けるための挑発である。
「我が軍がアーチャーのマスターを確保した」
「ッ!!!」
それは確かに冬児達にとって驚くべき事態だった。最悪の結果だと言ってもいい。
だが何故最悪かと細かく理由を言うと、ある人物の怒りを一心不乱に買ってしまうことになってしまうからだ。
その人物は既に両の手に二丁拳銃を握り、走り去る獣が如くガルムへと突っ込んでいく。
「てめぇェッ!!ラインに何をしたぁぁぁぁ!!」
激怒したフランから打ち込まれる弾丸の嵐がガルムを襲う。
結果は見事的中せず、全て華麗とも豪快とも捕れる脚技でいなされてしまう。
それでもフランは止まらない。過去の事件から常人を逸した彼女の運動能力は、怒りによって更に倍増しガルムへと迷わず接近していく。その間何発も連続で弾丸が撃ち込まれたが、その全てがガルムの脚技によって無力化される。
その光景だけでも、常人代表のような立場にいる早真冬児には信じられない光景に等しかった。
「アアァァァァアアァァアァアァアァァァガァァァァァァ!!!!!」
「――そうか、そんなものか」
人のモノとは思えない叫び声をものともせず、ガルムは体制を崩さない。
只そこに立っている。それだけで人に威圧感を与え空気を震わせる。
ガルム・ドキルスタンは突進してくる敵に対して片足を少しだけ背後に引く。それまるで弓の弦のように。
振り絞った片足は急速にスピードを上げて前方へと動き出し、空中に弧を描いてフランの腹部を強打する。
「――っかはぁっ!!」
フランの超人的な再生スピードでも追いつかない。元よりフランの身体はただ傷が塞がるだけで、打撃系統の技とは相性が悪い。彼女の身体はガルムの一撃によって空中へと跳ね上がり、そのまま頭を掴まれ頭部から地面に激突する。
ガルムの驚異的な攻撃力は蹴り技だけに留まらず、腕力も人の身を超えているのだろう。フランの頭を中心として衝撃波が走り、地面に大きな罅が割れる。
瞬間的に終了した戦闘の末、場には静寂が訪れる。冬児とキャスターはその光景に驚愕して喉から声が出ず、冬児達を囲むように陣形を取る軍勢達は元より自分の意思で声を出すつもりは無い。
そこでようやく冬児は気づく。この軍隊は数で殲滅するために自分達を囲んでいるのではない。
このガルム・ドキルスタンという男の前から自分達を逃さないための壁として、その場に陣形をとっているのだ。
「あっ有り得ない……」
ここ数日有り得ないものを見続けた冬児でさえそう口にさせた。
ガルムは自分の足元で血を流しながら倒れているフランを見向きもしないまま、冬児とキャスターに目を向ける。その双眸は既に次の獲物を探していた。
「さぁ次はどちらだ。それとも大人しく投降するのか?」
闘争を臨む獣は手袋を嵌めた指を自らの眼前に持ってきて力強く鳴らす。
冬児は考える。既に勝機は無いのではなかろうかと。
キャスターは元より近接戦闘タイプのサーヴァントではない。この前のシールダー戦、大学にて行われた一戦では彼女の奇策が通じたからこそ難を逃れたのだ、そう何度も奇跡は起きまい。
彼女の宝具の一つ、“映した者の動きを止める鏡”も、例えガルム一人を拘束出来たとしても残りの軍隊を押し留めることまではできないだろう。何より、陣地でもない場所でキャスターにそんな魔力は無い。
そう考えて横目で彼女を見ると同じように渋柿を食べたような顔をしている。やはり勝算は無いのだろう。
――終わり、か。
いや、諦めるのはまだ早いと心の中で自分を叱りながら冬児は首を横に振る。
ここで諦めてもまだ勝算はあるかもしれない。敵がどのサーヴァントの使いかは分からないが、即刻自分達を殺さないところを見ると、少なくとも今は敵対するつもりはないのだろう。ここは大人しく付いていき、まずはラインの安全を確保する。
「俺達が投降するなら、フラン、そこの女の手当もしてもらえるのか?アーチャーのマスターの安全は?」
キャスターの横から一歩前に出て冬児はガルムと対峙する。身長差、気迫の違い、声の迫力、実際の年齢、どれをとっても双方の間には大きな差がある。傍から見たらそれこそ子供が大人に強がりを言っているようにしか見えない光景だった。
それに対し、ガルムは少し残念そうな、拍子抜けと言わんばかりの表情で言葉を紡ぐ。
「勿論保証する」
「……そうか」
冬児が次に言わんとすることが理解できたのか、キャスターは複雑そうな表情で冬児を見つめ、それが解っているからこそ冬児はこれ以上心配をかけまいと口を開いた。
このままいけば彼等はこの戦争から退場していただろう。ガルムの軍隊に連れて行かれ、命は助けられたとしてもマスターの権限を奪われ、冬児は恋人を、ラインは父親を、救えないまま聖杯統合戦という舞台から脱落していただろう。
が、それでは物語は進まない。
彼と彼等の願いの譲受、こんな所で覆されない。
――状況を変えるものは空から現れる。
「“主は天の元に 我が血肉は貴方の元に”」
●
「“悪鬼の首を断頭し 迷い人の生を救う”」
天から舞い降りたソレは、地上に伏したかと思うと七本の釘をガルムへと投げつける。
勿論それに反応できないガルムではない。七本全てを十八番の蹴り技でいなそうとまた片足を振り絞る。そのまま放たれた一撃は見事七本の槍全てを撃墜させる、かと思われた。
「ッ!!!」
が、その全てが蹴りに弾かれることなくガルムの脚に突き刺さる。
突き刺さった釘は次の瞬間からは風化を始め、ガルムの脚を拘束する粉末状の拘束具に姿を変える。
「“主を敬え 主を信じよ 理の通じぬ者には断罪を”」
ガルムの危機に乗じて陣形を保っていた軍隊が一斉に銃を構える。その狙いは只一人、空中から現れた聖職者に向けられていた。
只一人のために次々と放たれる弾丸の豪雨。
例えどんな英雄だろうと逃れることはできないその弾丸を、聖職者は手にした“大剣”で薙ぎ払う。
それは凡そ人が持つべき武器では無かった。それはあまりに強大すぎた。一振りで弾丸の嵐を消し飛ばし、生み出した風圧は軍隊を塵へと変える。
「“血潮を止めよ 我らは皆迷い人である”」
ガルムは聖職者が口ずさむ詠唱の意味を理解していた。
その詠唱は自分には意味を成さない、否、自分のような生きている人間には意味を成さない奇蹟なのだ。
洗礼詠唱。その詠唱が効果を与えるのは、確立した肉体を持たぬ魂魄のみである。
「跳べ貴様ら!!直にくらうぞ!!」
故に、ガルムは自軍に叫んだ既に遅かった。
詠唱によって既に溜まりきった魔力が聖職者が持つ大剣の刃の根本の部分にある宝石、擬似エーテルに装填され輝きを放つ。聖職者はそれを地面に力強く突き刺し、最後の一文を読み上げる。
「“
次の瞬間には擬似エーテルから眩い光が放出され、攻撃を続けていた軍隊を足元から包む茨が召喚されていた。
茨は冬児やガルムの足元を通っても何ら反応しなかったが、霊体に対しては敏感で、足の裏を通ったと同時に茨で梗塞し、昇華させる。
「ひっ!」
それはサーヴァントであるキャスターやシールダーも例外ではなく、キャスターは一目散に冬児の身に乗り移って避難している。シールダーの方は既に動くつもりはないのか、全身を茨に大人しく巻き付かれている。
「成る程、あの軍隊は霊体だったか。宝具によって一時的出現させれた擬似サーヴァントといった所か」
「キャスター、冷静なのは良い事だけどいつまで俺の身体にしがみついてるんだ?」
「無論、茨が消えるまでだ。耐えろよマスター、我のような華奢な女子の身体ぐらい、数刻でも支えていられるだろう?」
「あっあぁ……」
確かに重くも無いし負担は少ないのだが、場の緊張感によるストレスは消えない。それよりも冬児には気になることがあった。
「アイツ……」
突如として現れた聖職者。冬児からしたら混乱以外の何者でもないのだが、その背中に、冬児は何故か見覚えがあった。
大剣から流れるように規模を広げる茨。それは次々と軍隊を縛り付け昇華させていく。ガルムはその危機を悟り既に何十人者部下を霊体化させこの場から離脱させている。それでいて自らは表情を悦に歪めている。
相手は実に奇怪で奇妙な聖職者。ガルムは年齢に不相応な邪悪な笑みを浮かべ、前方の聖職者に弾んだ心で声をかける。
「そうか……貴様、埋葬機関の人間だな」
「異端者と語る言葉を俺は持ち合わせていない」
全ての擬似サーヴァントの軍勢が昇華、もしくは撤退すると、聖職者は地面に突き刺した大剣を引き抜き、肩に乗せる。
「俺は忠実なる神の下僕。ナチス・ドイツ、現最高顧問ガルム・ドギルスタン。神の名において貴様を断頭する」
「――良い。実に良い。貴様のような男は大好きだ」
聖職者が灰色の大剣を振り回す。何か巨大な生物の骨で製造されたそれを片手で振り上げ、ガルムの頭上に振り下ろす。
ガルムも瞬時に対応する。彼の両足が青紫色の輝きを放ち始め、新たな激突が生まれようとした瞬間。
●
突如、何かの咆哮かのような高鳴り。
その場にいる誰もが遠くから迫ってくる何かに目を向ける。それ自体から巨大な光を放ち、冬児達とビルを照らしながら急速なスピードで接近してくる。
「仕方ないな」
唖然とする冬児とキャスターの前に影が落ちる。確認するまでもなく、それは先程まで茨に巻き付かれていたシールダーで、まるで光から二人を守るかのように盾を構える。
「お前っ!?」
「喚くな小僧。死に体といっても儂は英雄としてこの世に呼ばれた。死に際ぐらい人を救わなくてどうする」
シールダーは何処か誇らしげに冬児に笑いかけると、魔力の枯渇と聖職者の詠唱によって朽ち果てる寸前の身体だというのに自らの盾を最大展開させる。
その背中は正に、弱気を守る英雄のそれだった。
●
「―――もうか」
咆哮の正体をガルムは知っていた。故に彼は瞬時に身体を大きく捻らせ、側面に回転する。
そこでようやく聖職者は気がつく。自らに迫る脅威の正体を。
巨大な鋼鉄の塊。側面に張り巡らされた車輪は勢いを留めることをせず、先頭の車体には人一人の身体を容易を飲み込むほど馬鹿でかい砲台が積まれている。
「
――彼がその名を口にすると同時に砲撃は始まる。
真っ直ぐにしか進まないその列車は徐々にスピードを上げ、建物や木々を破壊しながら聖職者へと迫る。無論、それだけでは収まらず、聖職者に向かって初撃が撃ち込まれる。
「むぅっ!!」
咄嗟に聖職者は、大剣の側面を自分に向け、武器を盾として扱う。
砲台付き巨大列車の砲撃は見事聖職者の大剣に命中し、その身体を一気に後方のビルまで吹っ飛ばす。
無論、ここまで激しい戦闘を繰り広げてきた怪物がこの程度で死に絶える訳がなく、吹っ飛ばされた先のビルに両足を付けて突進してくる列車に双眸を向ける。
どういう原理なのか、辛うじて視認できる冬児には理解できないが、聖職者はビルの壁に垂直に立っていた。その前方、千差万別全てを破壊しながら一直線に列車は突進してくる。
が、聖職者が臆することはなかった。
神を信じるが故に。己の力を知りすぎているが故に。
聖職者は僅かに横目で冬児達が無事なのを確認すると、己に宿る全魔力を大剣へと注ぎ込み、房総列車を破壊するための一撃へと変える――――!!
「
●
三日月型の蒼く輝く斬撃。
残念ながら、冬児にはそうとしかその一撃を捉えられなかった。
聖職者の大剣から振り放たれた、一撃というにはあまりに強大すぎる範囲攻撃は見事砲台付き列車を消し炭へと変えた。
ついでに言うなら、喝馬町という町の一部もだが……それは列車がやったものも大きいためここでは追求しないでおこう。
「………フッ」
その微かな声に冬児は目を向けるが、その時には既に遅く、一人の英雄として自分達を救った盾の騎士はその場から消滅していた。
遂ぞ彼の名前さえ知らぬまま、短い出会いではあったが冬児はその人物のことを忘れないだろう。その騎士は彼が今まで出会った中で一番英霊らしい男だったのだから。
「何という武人だ。あの鉄の塊の砲撃と、建物に貼り付いている男の斬撃を受けながらも我らを守るとは……。魔力が枯渇していたとはいえ、戦っていたのならば我らは間違いなく敗戦者と化していただろう」
冬児の身体にしがみついていたキャスターがそう口にし、合わせて冬児も頷きを返す。
そこで背後の足音に気が付く。振り向くと、聖職者がビルから降り立って冬児の眼前に立ち尽くしていた。
戦闘の後の風に揺れる銀髪、少し老けた青年顔に仏頂面。氷のような瞳は黙って冬児を見下ろしている。
咄嗟にキャスターが冬児の前に出ようとするが、冬児が彼女の肩を掴んでそれを静止する。
「主様……?」
その行動に疑問を持ったのはキャスターで、首を傾げて主を見ると、冬児もまた真剣な表情で聖職者を見つめ返していた。それから一息も付かぬまま彼は聖職者に向かって意外な言葉を放つ。
「久しぶりだな、熊。お前に聞きたいことがある。これから少し時間を作れ」
その言葉に、聖職者はようやく薄いものでありながら笑みを見せた。
○
「何故、
眼前、親衛隊が運転する車に乗りながら、同じく座席に座っている軍服の女にガルムは質問する。その顔は無表情そのものだが、声には僅かに大好きな
そんな感情に気がついているからか、あえて軍服の女、『アドルフ・ヒトラー』という名の女は手にした拳銃を磨きながら、笑みを浮かべて口を開く。
「アーチャーからの猛威を抜けるために親衛隊と
ガルムを見つめるヒトラーの眼に、本当の意味で彼は映っていない。
メイカーとして彼女を現界させてから、ガルムは彼女の本当の意味での笑みを何度も見てきた。彼女もまた、自分と同じように血肉踊る闘争を臨む。
故に、彼女の宝具もまたその理想を色濃く表している。
『
生前、アドルフ・ヒトラーという名の女が思い描いた思想・理念をそのまま世界に映し出させるという、無色の固有結界。彼女の心象世界に存在する、人民・兵士・兵器・はたまた妄想に至るまで、彼女が望めば彼女に送られる魔力が赦す限りそれは形を持って現れる。
神性を持つ者に追加ダメージを与える槍然り、砲台付き巨大列車然り、制作段階までいったものの遂ぞ作られることのなかった未確認飛行物体型の航空機など。
また、アドルフ・ヒトラーといえば、その度を越したカリスマ性が有名であり、彼女は自身のそんな特性でさえ宝具と化した。
真の意味でナチスに屈する者が居るほど彼女の戦闘力が跳ね上がる宝具。生前の逸話をそのような形で宝具と化し、彼女は伝説の弓使いと有志を決して見せたのだ。
闘争に対して、どこまでも貪欲。どこまでも強欲。
だから今彼女が浮かべている笑みの意味も言わずもがな理解できる。
あの眼は未来だけを視て、それを楽しんでいる。彼女にとって、
ただただ闘争を臨む。願望と理想の化物を目の前にガルムは一度だけ息を呑む。
――我らはこの女の復活を糧として、本当の意味での第三帝国の復活とするのだ。
ガルムもただそれだけのために60年間生きていたに等しい。
ただそれだけのために、自分を、闘争を臨む奇人に変え、今の今までナチス最高顧問として歴史の裏で暗躍してきたのだから。
メイカー、アドルフ・ヒトラーは磨き上げた黒い拳銃を持ち上げ、その銃口に自分の顎を置くと邪悪な笑みを浮かべて窓の外の輝く球体に目を向ける。
「では行こうかガルム。“月のお姫様”が地下でお待ちだ」
○
ガルムとそのサーヴァントが姿を消した後、それに気づいた冬児とキャスターはフランの無事を確認し、聖職者と相対していた。砲撃と斬撃、どちらの攻撃も直撃しなかっただけに過ぎないのかもしれないが、フランの再生能力は魔術とは違った域で度を超えているようだった。
冬児が驚いたのは、再生し始めたフランを見て安堵している自分達を差し置いて、聖職者の男がフランの首を断頭しようとしたことにある。
聖職者が振り下ろした大剣をキャスターが宝具の石で出来た鏡で静止してから、均衡状態が続いている。
「その鏡をどけろ
「お主こそその大剣をどけろ。聞いたと頃、我が主様の旧友の様に推測できるが、そこな女は今現在我らと共闘する仲だ。手出しすればこちらも相応の対処をしなければならなくなる」
聖職者が力を強める程、フランを守るためにキャスターは手にした勾玉に送る魔力量を増大させる。そんな光景を見てられなくなった冬児は急いで聖職者へと駆け寄ってその肩を掴む。
「おい熊!!お前何して!」
「何って、俺は仕事を熟そうとしているだけだ、早眞。俺が教会の人間であることをお前も知っているだろう?」
確かに冬児は、友人である目の前の青年が聖職者であることを理解していた。しかし、そのお勤めというやつが人間を殺すことだなんて聞いていないし、聞いていたとしても到底容認できるものではない。
「安心しろ。コイツは人間じゃない。お前もさっき見ただろ。異常なでの再生能力、怪力、速さ、我らが主を冒涜する悪鬼そのものではないか。元より、俺はこいつをこの手で滅するためだけにこの場に参上したのだから」
言って聖職者は更に大剣を握る力を強める。キャスターは僅かに額に汗を浮かべている。あの大剣は、聖職者の力はキャスターの勾玉の防御力を凌駕する程の破壊力を持っているのだろう。
それが理解できたがために冬児も聖職者の肩を掴む力を更に強める。
「だから待てって!!俺達は今聖杯統合戦ってやつに参加してるんだ!今そいつを殺された困る!!」
「知らん。それは俺の預かり知らぬことだ。お前には手を出さない、聖杯が欲しければ勝手に争え。聖遺物の回収は第八秘蹟会の仕事だ」
あくまで引く気が無いのか、依然大剣はフランの首を斬り落とそうと力を強められている。そろそろキャスターも苦しそうな表情を浮かべ始め次の勾玉を取り出そうとしたその時、この場において打開の策を唯一手にする男が動く。
「熊!今見逃したら、今度あんみつ堂のどら焼きいくらでも奢ってやる!!」
――それは聞くにあまりに拍子抜けな打開策だった。
キャスターなど驚きを通り越して呆れた眼で己がマスターを見つめている。自分の主はもしかしたら阿呆なのかもしれない、と。
しかし、彼が口にした打開策は見事作用し、狂信者の様に大剣を振り下ろそうとしていた聖職者の動きを止め、戦闘態勢を解かせた。
「……仕方ないな。約束は必ず守れよ、早眞」
「ああ、勿論。でも話は聞かせてくれよ」
――そんなことで、そんなことでいいのかお主ら!?
心の中でそうツッコむキャスターの心情も知らないまま、旧友の間等にある男二人は会話を続ける。
「お前、この街で聖杯統合戦が行われていることは知らなかったのか?確か一昨日あたりに矢部咲にメール送ってたみたいだけど」
「ん?矢部咲にメールを送ったのはもっと前だ。それに、日本に帰ってきたのは5日前だ」
そう言われて冬児の頭に僅かな疑問が生まれるが、もしかしたら自分の聞き間違いだったのかもしれないと納得することにした。
そんなことよりも知りたいのは、何故目の前の友人が、自分の仲間を斬りつけたのかということだ。
「じゃぁ次。何でフランを斬りつけた?というかその格好はなんだ、ホントに聖職者なのかよお前」
改めて全身を見ると、熊と呼ばれる青年の姿は普通の聖職者とは少しだけ違っていた。所々彼独自の
それでいて、肩に大剣を担いでふてぶてしく煙草まで吸ってる。どこが聖職者だと誰かツッコんでくれ。
「神父とかではないからな。俺の仕事は主に敵対する存在の抹消、もしくは殲滅。神をの名の元に正当なる裁きを与える者、それが我ら埋葬機関だ。
そこの女は不完全ではあるが、死徒と呼ばれる主の思考に敵対する存在の一つだ。抹消せずにはいられない」
友人である冬児の仲間のフランを、熊と呼ばれる聖職者は忌憚のない冷たい眼光で睨み付ける。彼にとって主に背く全ての存在は悪でしかないのだろう。冬児達がこの場から居なくなればそれこそすぐにでもフランの首を再び断頭しかねない。
そんな思考を感じ取ったのか冬児はフランを守るように、未だ意識のない彼女の前に立って、あくまで懇意に友人と会話する。
「お前の義務は分かったけど、それでも俺も譲れない。フランは俺達に協力してくれてるんだ。俺は願いを叶えるために、この戦争に負けるわけにはいかないんだ」
その言葉を聞いて、僅かに聖職者は不信にも似た感情を抱く。
「珍しい。お前が願いなどという言葉を口にするとは。誰よりも無欲なのがお前の美点では無かったのか」
思わずそんなの知らねぇよ冬児はツッコミそうになったが、シリアスな雰囲気を壊さないためにもぐっとこらえて言葉を紡ぐ。
「カグラが聖杯戦争に巻き込まれて死にかけている。俺はそれを救わないといけない」
「!!壬生が……」
その言葉を聞いて聖職者の表情が揺らぐ。それは冬児と同じく、この町に滞在していた時に知り合った友人が痛手を与えられたことによる、痛烈な感情に他ならない。
彼は主の敵に対しては、例え相手が年端もいかぬ子供であろうとも一切合切の容赦なく、神の名の元に罰を与えられる程の強靭な精神力を持つ男ではあるが、それと同じ位人間という同種を溺愛する人格者でもあるのだ。
僅かに曇らせた表情のまま聖職者は言葉を発せないまま、悲嘆を混ぜた眼で冬児を見つめる。
「だからせめて今は見過ごしてくれ。勿論、聖杯戦争が終わったあとでもお前がフランを狙うなら俺も黙っていられないが、せめて今だけは見逃してくれ。こっちも精神的に参ってるんだ……頼む」
冬児は誠心誠意を込めたつもりで頭を下げる。そんな主の様子をキャスターは決して情けないなどとは思わず、仲間の為に平気で頭を下げられるその姿に敬意にも似た表情を抱いていた。
その心情は聖職者も通ずるものがあり、途中で直視することができず両の瞼を閉ざして視るのを止めた。それも決してその姿が情けないからだという訳ではなく、その心意気に答えてよいものかと思考していたからである。
少しばかりの沈黙、友人の意思を尊重しようと頷きを向けようと聖職者が目を見開いた瞬間、悪漢を感じ即座に後方に飛翔する。
「熊っ!!?」
友人がいきなり飛翔したことに驚きを隠せない冬児だったが、その光景に見向きもしないで熊は僅かに名残惜しい心情でその場を後にする。
飛翔した瞬間に見えた、複数の人影。おそらく冬児達の敵ではないが、自分の敵だということを理解した熊は即座に止まることなく山道を目指す。
「話はまた今度だ、早眞」
そう漏らして、聖職者は日の出前の町を掛けて行った。
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「どうしたんだアイツ……」
急にその場を後にした友人の背中が見えなくなった後、冬児はキャスターとフランを担いでその場を後にした。
シールダーマスター確保を目的に都心まで来たというのに、肝心のシールダーのマスターは既に息絶え、戦う筈だったシールダーは何物かによって既に瀕死状態でありながら自分達を守って消滅、それから謎のナチス登場に、旧友が無双しながら登場。冬児の常識人たる脳みそは限界を迎えつつあった。
それでいてフランは目を覚まさず、当然ながらナチスに連れ去られたライン達とも連絡がつかない。
状況は絶望的だった。一度は去ったものの、またいつあの軍隊が自分達を襲ってくるかもわからない。
「アーチャーは、無事かな」
彼が負けるとは思えない。神話の英雄の体現者、アルジュナ。彼は貴重な戦力であるためこの状況を打破するためにも力を借りたいのだが、依然彼も姿を現さない。想像したくはないが彼が消滅するのは冬児達にとって最悪の転回だ。
悪い考えばかりが頭に浮かび、どんどん気分が悪くなる。
そんな主の心情を理解したのか、その従者であるキャスターは大仰なまでな笑みを浮かべ主に向ける。
「心配するな主様っ!元より
例えるのなら太陽のような笑みに冬児は心が震える。この数日間、いつも自分を安心させてくれる少女の笑み。自分はこの笑顔に何か返せてるのだろうか。
また僅かに心に余裕が生まれたところで、本日何度目かの新たな来訪者が現れる。
その者は青の礼装を着用し、無骨なまでの無表情で冬児とキャスターの行く手を阻むように道路に佇んでいた。静寂の夜に吹く冷たい風に、その者の朱の髪が揺れる。
「キャスター。及びキャスターのマスター、早眞冬児だな」
「そうだが、お主は何者だ?まずは自分から名乗るのが流儀というものだろう。混血人」
そう返答されて、朱い髪の主は先程出会ったガルムとはまた違う、決して溶けることない永久凍土のような無表情で口を開く。
「失敬。私はキレイ・ハーデンベルト。聖杯統合戦における、監督役の護衛役をしている」
キレイはその証明のつもりで一枚の紙を冬児達に見せつける。それはキレイがこの聖杯統合戦を作り上げた組織、バルドリアの直属の兵士である証明書であり、参加者達に対する手紙でもあった。その内容をキレイが暗記した通りに読み上げる。
「本日、午前零時に、喝馬町南部の羅黒川にてバーサーカーのサーヴァント、“ザッハーク”が巨竜となって暴走中。各マスターはこれの討伐に務めよ」
「なっ……!!?」
言われて思い出した。丁度その時間あたりに、何か得体の知れないものの咆哮が聞こえたことを。自分達はそれを砲台付き巨大列車のものだと認識していたが、あれは無機物が発するにはあまりに化物じみていた。
「何故、我らがバーサーカーの討伐を行わなければならない?」
当然の如く放れたキャスターの疑問に、これまた当然の如くどこまでも事務的に冬児と同じほどの歳の青年が続けて応える。
「アレは既に聖杯統合戦から遺脱しているというのが、我らが師父の考えだ。既に一般市民に対する殺戮行為も始まっている。
特に殲滅までは求めていない。貴公らに頼みたいのは悪竜と化したバーサーカーを丘の上の教会まで誘導してもらい、注意を引いてもらうことだけだ。それさえしてもらえれば、活躍した者にそれ相応の報酬を支払おうというのが、こちらの方針だ」
淡々と言葉を紡ぐキレイについで冬児が疑問を投げかける。
「報酬ってのは、何だ」
「追加の令呪、もしくは強力なサーヴァントの聖遺物だ」
今回の聖杯戦争において、その報酬のどちらも魅力的なものなのは確かだ。しかしそれに参加するかどうか、冬児達にとっては別である。
戦力的にも、精神的にも大きく疲弊している今現在の状況において、そんな大規模な殲滅戦に参加するのは無謀なのではないか。
冬児は頭の中でそう考えたが、その思いはまさかの自分自身の従者によって打ち砕かれる。
「分かった、その話受けよう」
「――えっ!!?」
キャスターは迷いのない表情でそう答えた後、また、心配事を無くさせるあの笑顔をこちらに向けた。
※今回の反省点
新キャラ出しすぎ&何に影響されたのかすぐにバレそう。