Fate/ragnarok gate   作:フーリン式

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戦争前夜その③

○【イタリア・某所・路地裏】

 

 ――僕にとって世界は二つある。

 

 一つは今彼自身が認識している世界。

 親がいて、子供がいて、愛を育んでいく素敵な世界。僕はこの世界が彼は大好きだ。

 綺麗なものが綺麗なままで生きていけるこの世界は美しいとさえ思う。勿論それには努力という名の要素が必要不可欠になるかも知れないけど、努力というのも素晴らしいものに違いない。

 だからそれを許容ししっかり納めてくれるこの世界を彼は愛することができるのだ。

 

「ボス、終わりましたぜ」

 

 そしてこれがもう一つの世界。

 部下のマークとルツが立っている所の真ん中に、椅子に布やらで拘束された女が涙目で暴れている。

 

「名前はアナ・フレバーズ。

先日起きた『ハイスビル爆破事件』の犯人の仲間です。事件当時は犯人達はジャックオランタンとか名乗ってたらしいですけど本当はただのイギリスのゴロツキ集団らしくて」

「嘘かもしんないんで一応何発か殴っておいたんですけど、それぐらいしか吐かなくて」

「へっ、へぇ」

 

 マークとルツの報告に自分が苦笑してるのがわかる。

 それでこの人は涙目なのか、と呑気に考えているのは少し悪い気もする。

 誠実なマークはともかく、ややちゃらけたルツに任せていてはこの人の顔が肉団子になりそうなので、とりあえず話を聞こうと椅子の前まで歩いて行った。

 

「あっあのあの……質問してもいいですか?」

「ひぃっ!!?」

「ひぇえ!!?」

「いやボス。なんでアンタまでビビってんすか」

 

 そうは言われても自分はかなりの臆病なのだ。椅子に座った女の恐怖の表情を見ただけでも足がすくんでいるんだし。

 悲嘆に満ちた女性の表情というのは、想像以上に見るものに罪悪感を与える。

 

「やっやっぱり逃がしてあげない…?」

「えぇっ!!?ちょ、ボス!!?」

「また始まった……。人が良すぎるんだよボスは。おい、誰かフラン姐さん呼んでこい」

 

 自分の発言で、またファミリーのみんなが苦労しているのを見て溜め息が出る。

 ――だいたい、僕にはこんな家業向かないんだ。

 父親がどこぞの裏社会の権力者で、只今療養中というから仕方なく手を貸してるとはいえ。息子にマフィアの代理ボスやれという父親もどうかと思う。

 

「ああもう……」

「ちょ、ちょっとそこのお兄さん…」

 

 考え事にふけていると、拘束された女がこちらに声をかけていた。

 

「わっ私を逃がしてくれるのかい……?」

「……保証はできません。みっみんながどうするか、わからないし…」

「そっそうだよな…」

 

 女は自分と同じように深く溜め息をつき俯く。

 

「私には病気の妹がいてね……」

「!!」

 

 そこにあったのは一人の優しい姉の姿。

 

「私が帰らないと……妹は、ううっ。今回のことだって妹のために」

 そんな姿を見せられたら、相手を拘束していた布を切らずにはいられなかった。

 

「あっあんた……」

「いいんです。さぁ早く妹さんのところへ!!」

「うっ、ありがとう」

 

 拘束を解かれた女は一目散に、マーク達がいる方とは別方向の路地を駆け抜けていく。

 走り始める瞬間、ものすごーーーく邪悪な笑みを浮かべていたのは気のせいだろう。

 

「ボス、姐さんがーーってええぇっ!??逃げてる!!??というか逃がしてる!!?」

「なにやってんすかボス!!」

「だって妹さんが」

「意味わかんねぇよ!!」

「なんでもいいから早く追え!!」

 

 慌ただしくファミリーのみんなが騒いでいる中、彼らマフィアがよく知った金髪が風に靡きながら目の前を通った。

 

「あの馬鹿おぼっちゃんすぐ騙されたわね!!これでみんなの元へ帰れ、」

「誰が馬鹿おぼっちゃんだぁぁぁぁああああ!!!」

 

 遠く離れた路地裏で、ローキックがかまされた、気がする。

「ぐぅえええええっ!!??」

 

 それと同時に悲鳴が聞こえた、気がする。

 悲鳴が鳴り響いた時には屈強な男達は皆、持参した耳栓を耳に詰めていたので何も聞いていない。

 

「この豚が!!!ラインに色目使ってんじゃねぇよ!!殺すぞ!!!というか死ね!!今死ね!!殺してやるよ!!てめぇなんか死んだ後に○○○で×××な店に売っぱらってやる!!」

 

 ファミリーの屈強な男たちも皆顔を青ざめてもう足を止めている。勿論、語り手の彼もその中の一人だ。

 しばらくもしないで、さっきの女の人が逃げた方向から、背の高い金髪の女性が歩いてくる。片手に逃げ出した女を引きずって。

 

「ねっ姐さん……」

「あぁ?てめぇ、マーク。なにこんなアバズレ女逃がしてんだよ。玉潰すぞ。ついでにルツ!!!このクソガキまたジョセフィーヌの店で酒代つけたらしいなぁ!!?ちょっとこい!!半殺しだ!!」

 

 金髪の女性の一喝に、さすがのマークとルツも真っ青になる。

 

「ふっフラン?」

 

 これはいけないと金髪の女性、フランレルに腰を引きながら声をかけると、彼女はこちらを見て、さっき追いかけていたときとは違ったスキップ歩方で駆け出し、前のめりにジャンプしてくる。

 

「ライーン!!」

「えっ!!?まっうわぁっ!!?」

 

 フランは一変、あどけなさを残した少女の顔でラインに抱きついてくる。

 自分より身長の高い人間におもいっきり抱きつかれると、ほとんど津波に襲われているのと変わらないので耐えれず地面に倒れたのは言うまでもない。

 

「うわ、すげぇ変わりよう」

「姐さん権力とか関係なくボスのこと溺愛してるからなぁ。ボスが今17で、姐さんと3つしか歳離れてねぇのに、未だに一緒にシャワー浴びたりしてるらしいぜ」

「マジかよ!!?あの極悪ボディになにされてんだ!!?」

 

 ファミリー連中の話し声が聞こえたのか。フランは上半身の体制を立て直し、懐から取り出した大型リボルバーの銃口を声を発していた二人に向ける、

 

「下衆な話してんじゃねぇよガキ共。脳天の風通り良くして欲しいのか」

「すいません!!姐さん!!」

「やっやめようよファミリー同士で!!フラン!!」

「うんっ!ラインが言うなら止める!」

 

 フランは大人しく銃を直してくれたが、自分の口からはまた溜め息が出る。

 フランはうちのファミリーの幹部。通称、【ブラッドハンド】と呼ばれる凄腕で、実際彼女が血を浴びたのは、自分の傷含め肩から下だけらしい。

 歳が自分以外のファミリーの人間よりも下だが姐さんと呼ばれている理由は、そのデタラメな戦闘能力からきているという。

 

「でもライン、ダメじゃない。この女は大事な人質でもあるんだから」

「ごめん……でも、かっ可哀想だと思って……」

 

 それを殺すとか君言ってたけどね、とは言えない。

さすがに怒られるかと思って目を伏せたが、そんな気配は無く、見上げるとそこには彼女の笑顔があった。

 

「もう、ラインったら優しいんだから。素敵」

 

 そしてキスされ、周りの男連中は歓喜の声をあげた。

 ――あっああ、なんだかなぁ……。

 

「ボス!!」

 

 歓喜の声とは別の慌ただしい声が一つ、自分の元に駆け寄ってくる。フランも唇を離してくれ、報告を話そうと息を荒げている部下に目を向ける。

 

「れ、例の!!例の爆破事件について、改めて情報がわかりました!!」

 

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