*現在記載できる登場人物のみ掲示。
『キャスター陣営』
・早眞冬児
この物語の主人公。魔術師を義父にもつ一般人。不遇な苦しみに囚われる少女を救うために聖杯統合戦に参加することを決意する。 蒼銀の鎧を身に纏い、英雄に近い能力を身に宿すことができる。
・キャスター(一騎目)
冬児のサーヴァント。紫と白の装束を纏った日本風の顔立ちの少女。
『アサシン陣営』
・不明
・アサシン(3体目)
地下空洞にて聖杯の核を守っていたがランサーと相打ちになり死亡。真名は人類史初の殺人者、“カイン”。
『シールダー陣営』
・不明
白髪の老人だと思われていたが、死亡。正体は定かではない。
・シールダー(二体目)
西洋の老騎士。最期は英霊としての威厳を守る為に、冬児とキャスターを守って消滅する。
『ライダー陣営』
・矢部崎結香
冬児の幼馴染である眼鏡の少女。冬児に対して異常なまでの愛情を見せる。 黄金の魔眼を持つ。
・ライダー(一騎目)
黄金の舟に乗るサーヴァント。常に上から目線の性格だが、愛に生きるマスターには情を見せる。
『アーチャー陣営』
・ライングル
イタリアの大マフィア『クリムゾン』の代理ボス。内気な少年で戦いにも気乗りではない。
・フラン
アーチャーのマスターであるラインの護衛。過去の事件から肉体の四分の一を別の何かに変えられている。
・アーチャー(一騎目)
青丹色の髪と金属を幾つも身につけた青年。真名はインドの叙事詩『マハーラーバタ』にも載る大英雄、アルジュナ。
・ルツ&マーク
フラン同様、ラインの護衛。
『ランサー陣営』
・現在未確認。マスターであるハクアが謎のサーヴァントに斬り殺され、欠片はその後行方不明。
『バーサーカー(?)陣営』
・赤ん坊
事実上バーサーカーのマスターであり令呪も宿している。が、当然話すことも自分で歩くこともできない。
・バーサーカー(一騎目)
肩から二対の大蛇を生やす漆黒の騎士。聖杯統合戦四日目にて悪竜と化したことから、ペルシアの叙事詩『シャー・ナーメ』に登場する王、ザッハークだと判明した。
『メイカー陣営』
・ガルム ・ドルギスタン
ナチス現最高指導者。老人でありながら、卓越した武術を身につけ、聖杯を掴む勝つ為ならば手段を選ばない。
・メイカー(一体目)
軍服の長身の女。真名は第二次世界大戦において世界を混乱に陥れた軍人、アドルフ・ヒトラー。宝具は固有結界であり、自らの思想の全てをこの世界に出現させる。
【参加者以外の登場人物】
「バルドリア」
・アストル・ハーデンベルト
教会にも協会にも属さない独自の宗教組織『バルドリア』の大師父。自分達の教祖の意思を実現させるため今回の聖杯統合戦を起こした。
・アレーシア・ハーデンベルト
聖杯統合戦における監督役。アストルの実娘であり、息子を一人持つ。基本的に温厚な性格で抜けているため争いには向かない。
・キレイ・ハーデンベルト
アレーシアの息子。アレーシアの護衛役として付いてきてるが、日本に来てからやっていることはほぼ家事のみである。
・トワイス
オリジンの欠片が擬人化させられた姿。現在は少女の姿をしている。
「聖堂協会」
・熊
埋葬機関所属。№不明。竜種(実物かどうかは不明)の骨から作られた大剣を片手に異端者を狩りに喝馬町に来た。ちなみに熊というのは本名ではない。
「その他」
・壬生カグラ
冬児の代わりに元々聖杯統合戦に参加する筈だった少女。何者かの襲撃に会い、人の形を保てていない。
・壬生安山
カグラの父親。既に死亡している模様。
・早眞トーリ
冬児の父親。
・サンジェルマン伯爵
歴史上の人物の名を語る中年。堂々と魔術協会に喧嘩を売る
○【聖杯統合戦四日目・喝馬町・ナチス地下基地】
着々と南部の海岸に向けて、悪竜が進行しているのと同刻。
その進行を止める勇者達を遠くから見つめている者達が居た。
「話が違います!!」
その一人、ライダーのマスター、矢部咲結香は同盟を結んだ相手であるメイカーに憤りを表した表情で声を荒げる。
「何のことだユカ」
「何って……!!私が貴方達に力を貸せば、冬児くんには手を出さない約束でしょう!?」
彼女の心に怒りを感じさせた要因は、一重に大型のディスプレイに映る戦闘風景のせいだった。軍隊が早眞冬児とそのサーヴァントを囲み、一斉射撃を繰り返している情景。
結香からしてみたらその光景を見せられ続けることは地獄に等しく、間違いなく苦痛として全身を駆け巡った。
「アレは仕方のないことだ。ガルムの独断行動なのだからな、私には止められん。
それに約束を破ったというのなら、あの場で戦っているライダーをどう説明するつもりだ?ユカ」
ディスプレイには確かに、アーチャーを屋根に乗せて悪竜と戦っているライダーの姿が映っている。
「君とて私とあのアーチャーに因縁があるのは知っているだろう?同盟関係にありながら、それをサーヴァントの背に乗せて戦うなどと」
メイカーは少々意地悪く嗤いかける。しかし対する結香の方は冷静さを取り戻した顔立ちで
「何処に行く?」
「―――」
問に答えることはなく、結香は扉に手を掛ける。
眼鏡の奥に隠れた彼女の黄金の双眸には、既に想い人の姿しか映っていない。
○【ほぼ同刻・喝馬町南部・海上】
悪竜が毒蟲を吐く。
英雄はその開いた口に透かさず炎を纏った矢を放つ。
しかし悪竜の対魔力はそれを通さず、怯むことなく続いて攻撃を繰り出す。
悪竜に意思はなく、あるのはただ目の前の物を破壊する衝動のみ。
振り払われた爪を、牙を、息吹を、英雄を乗せた黄金の木舟は悠々と避ける。理性を無くした
が、そのライダーも現在は少々冷静さを無くしてしまっていた。
「マスターっ!ねぇマスターっ!あぁもう、あの娘、回線切ってるわね!!」
「どうしたのですかライダー。おっと」
必死に主に向かって呼び掛けるライダー。アルジュナも悠々と攻撃を撃ち返しながら彼女に呼び掛けているが、彼女からの返答はない。
それほどまでに切羽詰まっていたのだ。何しろ、こちらに来ると言ってからというもの、自分のマスターと連絡がつかないのだから。
「マスター!!?マスター!!!返事しなさい!!行っちゃダメ!!」
黄金の木舟の主は、黄金の双眼を持つ少女に悲痛な叫びを上げる。
○【ほぼ同刻・喝馬町南部・海岸】
蒼銀の戦士の黄金の剣が、軍隊を斬り裂く。
魔術師の色とりどりの勾玉が、戦車や飛行する戦闘機を爆破する。
二人は背中合わせで敵を倒し、文字通り圧倒していたが、それも無限では無かった。
蒼銀の戦士である早眞冬児には魔力不足というタイムリミットが迫る。
魔術師であるキャスターは、本来篭城戦を得意とするサーヴァントであり、前線は不向きであることから徐々にに押され始めている。それ処か己のマスターが危機に陥り始めているため、そちらのサポートに気が回って自分を守り切れていない。
結果、序盤安定していた二人の戦況は大きく傾き始めていた。
「キャスターっ!!俺は守らなくていいからっ、はぁっ!!自分の身体に気を回してくれ!」
「何を言っておる!お主がいなくては始まらんだろうが!!」
互いに互いを気遣えることで何とか二人は生き延びていたが、現在に関してはそれが仇となって決定打を打てずにいた。
しかし銃声が止むことはない。砲撃が止むことはない。キャスターが障壁で止めているミサイル攻撃も、いずれ障壁を破壊して二人に降り注ぐだろう。
「クッソぉ!!」
冬児が黄金の剣を振り払う。それによって2、3人の兵士に傷が付けられる代わりに押し寄せるように他の兵士達が迫ってくる。
もはや呆然一方になりつつあった、その時。
――紅い閃光が飛来する。
「なっ」
――紅い閃光は地面に触れると同時に純粋な魔力の渦となり、冬児とキャスターごとその場の軍隊を飲み込む。
○
竜が雄叫びを上げる深夜の町を少女は駆け抜ける。
目指すは山上の喝馬町第一教会。
理由は愛する人を救う為に、監督役に助けを求めること。
「教会まで……あと少し……」
目的は軍に圧倒されている早眞冬児を救うことにあるが、監督役にはバーサーカーに太刀打ちできないから力を貸せと伝える。狙いは監督役が放つ“攻撃”で軍の目を奪い、その隙に冬児をライダーの黄金の木舟に乗せて戦線を離脱することにある。
必ず上手くいくとは言えないが、それでも可能性はある。
何より監督役は自分達からバーサーカー討伐をマスター側に頼んだのだから、多少はこちらの要件を聞いてもらわないと困る。
そうして山道を駆け抜けている内に前方から人影を見つけた。
ブロンドの髪の、綺麗な女の人。
――聖杯統合戦初日に見た監督役の女性だ。
名前は確かアレーシアとかなんとか言っていたが、今はそんなことは関係ない。
結香は迷わずその姿に声を掛ける。
「すっすいません!!」
●
「ん」
丁度時同じくしてアレーシアの目にも前方から迫ってくる結香の姿が目に入ったらしく、一瞬幽霊か何かと見間違えて身体を震わせたが、すぐに監督役としての表情を取り戻す。
「貴女は確か……ライダーの」
「はぁはぁ……えっえぇ………ライダー、の、マスターの………矢部咲結香です……」
アレーシアから見たら目の前のマスターは何故か疲弊しており、自分を探しているように見えた。
「何か御用ですか?」
「えぇ………。バーサーカーの討伐のことなんですが」
結香の言葉が最後まで言い終える前にアレーシアは自分から言葉を紡ぐ。
「ええ、私もその件で急いでいた所です」
「えっ……」
地下空洞で聖杯の核を隠匿している警備班と連絡が付かなくなった為、調査班を送ってみると最悪の結果が秘密結社バルドリアを待ち受けていた。
警備班は全員殺害され、警備に当たらせていた暗殺者のサーヴァントも消滅しており、聖杯の核は何者かによって強奪されているという結果。
辛うじて息をしていた警備の一人に話を訊くと、襲撃はランサーの陣営による犯行だったらしい。そのランサーのマスターも現在は行方不明である。
バーサーカーの謎の暴走、聖杯の核の強奪。
何から何まで不審な点が多く、それが益々アレーシアの頭を悩ませた。
だから一つ一つ、効率よく解決していこうという結論に彼女は至る。それが最善だと。
故に彼女は監督役の拠点である教会から足を踏み出しこの場にいるのだから。息子には危険だと反対されるだろうが、護衛を何人か連れているし、何より“オリジン”の力を見て自分に危害を加えようとする輩はいないだろうと内心安心仕切っていた。
「当初は悪竜を教会まで連れて来てもらうよう貴女方マスターに御願いしておりましたが、それではやはり町への被害の拡大が検討されます。
よって、私自ら戦場に出向いてバーサーカーを討伐致します」
淡々と、あくまで事務的にアレーシアは話を進める。
結香にはどうやって自分と同じくらいか弱そうな女性があんな化物を倒すのか理解できなかったが、すぐに想い人の闘ってる姿を思い出し、アレーシアの意思など関係なく彼女の手を取って走り出す。
「ふぇ!!?えっ!!?」
「すいませんっ!私も走るの苦手なんですけどついてきてくださいっ!!」
「えっ、ちょっ!!?わっ私もなんです!!」
○
閃光の正体は人の姿を人外だった。
赤い天狗の面で顔を隠し、服装は身なりの良い和装で、右手に日本刀を持ち冬児達に背を向ける形で突如出現した。
その背中は怒りを感じているのか小刻みに震えている。
その内、その
「セイバー殿。ここで何、」
出現の理由を問いかけた軍人は、最後まで要件を言えずに首を跳ねられた。
突如出現した天狗面のサーヴァントの日本刀によって、一瞬で。
「!!!」
その瞬間に、軍人達が天狗面のサーヴァントに感じていた僅かながらの敬意が、全て敵意に変化する。
全ての銃口、砲台、刃が、たった一体の赤いサーヴァントに向けられる。
しかし天狗面のサーヴァントからは絶えることなく殺意の波動が流れ続けている。それは時間が増すほどに色濃くなり、明確な殺人行動としてこの世界に限界する。
「あぁぁぁぁああああぁぁぁあああ!!!!!」
天狗面のサーヴァント、セイバーの刀が揺れる。
叫びに応じて突撃してきた軍人達は、次々と刀の錆に変えられる。何の魔術か、それとも本当にただの剣術なのか、セイバーが刀を一振りするだけで彼を中心とした全方向に斬撃が跳ぶ。
「何だ………あっ」
その惨劇を目の当たりにし呆気に取られている間に冬児の鎧は消失していた。元より冬児の使われていない魔術回路とは不釣り合いな燃費の悪い武装だったのだ。短時間で消えるのは当然である。
それを見越してすぐにキャスターが冬児を守護するような形で前に出る。
「同士討ち、かどうかは解らんがとにかく様子を見た方が良さそうだ」
冬児達が剣を取らなくても戦闘は続いていた。
○
海上では刻々と陸に接近する
陸では突如現れた
彼らが気付いていないだけで、喝馬町地下空洞では、必殺の赤槍を持つ
数刻前には新たな
「まさにこの数時間には聖杯統合戦に参加する全てのサーヴァント達が何かしらの行動を起こしていたのだ。
実に面白い」
――それを遠くから見つめる男は不敵に嗤う。
口元を歪ませ、自慢のシルクハットを浅く被って、双眼に遠視の魔術を懸けて後方の部下3人に微笑みかける。
「見給え諸君。英雄達が挙って名乗りを上げ殺し合いを繰り返す。愉しいなぁ愉しいなぁ。これほどまでに滑稽な光景を私は見たことがない」
“永遠を旅する伯爵”は嗤う。
この世界中に循環し続けている賢者の石の溶解炉を通して、ありとあらゆる現象や伝承を見て、伯爵は愉快だと嗤う。
「さぁ大崩落の開始だ諸君。少しずつ、少しずつ、されど大きな
その言葉と同時に3つの影はその場から霧散するように姿を消す。
聖杯統合戦という、とてつもなく大規模な戯れの根本を覆す為に。
○
「あぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁっ!!!」
赤い仮面の剣士が唸りを上げ、同時に剣を振り次々と軍隊の数を減らしていく。
その凶悪極まる姿は、その場にいる者達に、海上にいる本物のバーサーカーよりも狂戦士の器が当て嵌まるのではないかと思わせる。
セイバーが遂に戦車を両断した所で空間に歪が生じた。
霧のようなものが空間に現れ、歪みが生じ、それは時が経て一つの確固たる形に変わる。
特徴的な軍服。肩に記されているのはナチスドイツの赤いマーク。
世の男性を魅了する健康的な肉体を持ちながらも、されど決して男になど媚びぬ威厳を持った女が其処に現れた。
それはこの場にいる殲滅寸前軍隊を固有結界から出現させた諜報人である、メイカーことアドルフ・ヒトラーであった。
ヒトラーはその惨状を目にし、怒りを噛み締めるような様子を見せてから赤い仮面の男と対峙する。
「これはどういうことだ、セイバー。私は貴様に基地にてシールダーの欠片を守れと言った筈だが?」
「知らん………知らん知らん知らん知らんッ!!
娯楽の一貫として貴様の遊戯付き合ってやっていたが、もう辛抱ならん!!あの盾持ちめがっ!!この俺をコケにしおって!!!殺す!!俺が殺す!!」
確かに怒りを感じてはいるが決して表に出さないメイカーと、口にすることで更に怒りを扇情的に爆発させるセイバーの姿は、同じ感情を抱いていても対照的に見えた。
赤い天狗面の剣士は自身の和服を翻し、刀の先端をメイカーに向ける。
「俺を従わせたければ力で捩じ伏せろ圧政者!!
俺は頗る機嫌が悪い!!この情欲を抑えれれさえすれば貴様の遊戯にもう一度付き合ってやる!!だからかかってこい!!剣を持て!槍を持て!弓を持て!貴様の持つ塵芥の全てを持って俺を楽しませろ!!」
セイバーは興奮仕切った様子で声を張り上げ、その場に居る者達を圧倒する。その姿はまさに血肉を貪り、暴走する悪鬼のそれである。
対するメイカーは動揺する様子も無く、静かに目を瞑ると右手に西洋刀を出現させる。先日アーチャーと死闘を繰り広げられた時にも使われていた鉄十字入りの芯の細い剣。
メイカーはそれを自分の背後に立っている全ての軍隊に見える様に掲げると、まるでパフォーマンスでもするかのように、妙に慣れた口調で演説を始める。
「諸君!見ての通り彼は私達の敵になった!!
されど臆することはない!!
諸君等はなんだ!!!
血を啜り、死体の上を歩き、霊体の身となった今でも鉄血の肉体を持つ諸君らは何だ!!」
彼女の演説が進む度に場の指揮が向上する。簡単に言うと今にも挫けそうだった精神のバイタルが回復しているのだ。
「私が答えよう!!
諸君等は“
目的を達成する為にその肉体を再びこの地上に限界させた名も無き英雄達よ!!
今こそこの偽りの平穏を崩す為に目の前の障害を崩そうではないか!!全ては我等が大儀の為に!!」
彼女の熱烈な演説に応えるように兵士達の口から同じ言葉が発せられる。
《勝利万歳
かつて民衆の全てが彼女を賛美したのと同じ様に、軍隊の全てが彼女に向かって挙ってそう唱える。
我々が勝利を掴むのだと。我々こそが勝利なのだと。
そうして兵士達は剣を持ち、銃を持ち、砲台を調整して、
誰かが開戦と言う前に殺し合いは始まっていた。
○
「―――!!!」
数時間、海上で悪竜と激闘を繰り広げていたアルジュナは、遥か後方からある悪感を感じる。
それは身の毛のよだつ様な、自分でさえ一撃の名の元に消滅させられる程の強力な力。その不明瞭な力を陸から感じながら、アルジュナは足元の舟を運転する相方に声を掛ける。
「ライダーさんライダーさん」
「何っ!!?」
思ったよりもライダーの声色には余裕が無かった。さしもの英雄も、数時間の戦闘を迎えるとなると精神力を大幅に消費してしまう。それも巨大な悪竜から放たれる、無数の蟲と大規模魔術を回避し続けていると尚更だ。
「ここから、いいえこの悪竜から離れた方がいい。もうすぐ良くないものがここを埋め尽くします」
「……アンタになんでそんなことわかるのよ」
当然の疑問に、アルジュナは屈託のない笑みを浮かべて返答する。
「勘です」
「―――」
言わずとも、ライダーの額に青筋が浮かび上がったことは誰が見ても理解できるだろう。唯一理解できていないのはそれを引き起こした弓兵一人。
「撤退を。仲間達の安否も気になります」
「フッ。アルジュナ、貴方みたいな生粋の武人にも敵に背を向けて逃げるなんて選択肢が残ってるのね」
完全に腹立たされた腹癒せにそうライダーが皮肉を告げると、アルジュナは変わらない爽やかな声で自分の考えを開陳する。
「私は本来臆病者なのですよ。私の知らない所で友人が命を落とすなんて、怖くて仕方がない」
そんなことを口にした。
男嫌いの筈のライダーの意識が一瞬奪われる。
が、戦場はそんな一瞬の間すら許さず、続けて雷が落ち、大量の羽虫が襲い掛かってくる。
「ッ!!ったく、解ったわよ!!陸に戻るわよ!!」
「ええ」
ライダーが操縦する黄金の木舟は大きく旋回して陸へと戻っていった。
○
何度見ても目を疑う。
それがその情景を見た、早眞冬児の率直な感想だった。
無数の兵士。無数の戦闘機。無数の弾丸。
その全てを斬る。自身も攻撃を受けながらも次々と敵を撃退する剣士。
その光景に感動すら冬児は覚えてしまっていた。
そう、この光景は幻想なのだ。あのままカグラと普通の生活を送っていては決して見られなかった幻想。
触れれば一度命を刈り取られる、実態を持つ幻想なのだ。
――その幻想を壊す現実の声は思ったよりも早く聞こえた。
「早眞くん!!」
――聞き覚えのある声がした
●
「矢部咲……!!?」
矢部咲結香。
幼少の頃、友達が自分以外いなかった筈のカグラが連れてきた二人目の友達。
昔から眼鏡を掛けていて、何処までも普通で、でも何処かおっちょこちょいで、誰に対しても優しくて、背が小さくて、朗らかな笑みが愛らしい――自分の友達。
こんな所に来る筈もない、俺の友達。
「僅かに魔力の痕跡が残っていたからまさかとは思っていたが……主様へのあまり敵意の無さに予想しておらんかった。いや、そこな監督役と同伴しているのが何よりの証拠か」
キャスター、何を言っているんだ。
止めろ、そいつは俺の友達だ。魔術に何か、ましてやこんな争い何かとは無縁の奴なんだ。
「
そう初めて下の名で呼ばれてハッとした。
彼女の切なそうな表情を目に映す。
それは自分が一度も見たことがない表情だった。
それは彼女が自分に一度も見せたことがない表情だった。
「私はライダーのマスターです」
事実はあっさりと、彼女自身の口から聞かされた。
●
「――えっ」
身体が熱くなる。
それは矢部咲の言葉を信じたくない自分自身の心が、悲鳴を上げている証拠だ。
ライダー?ライダーと言ったか?さっき出会ったあのサーヴァントのマスターが矢部咲?
本当に、本当に信じたくない悪い冗談だ。
早く誰か、否定してくれ。
「もういいでしょうか?」
口を開いたのは沈鬱な表情をして立ち尽くしている矢部咲ではなく、その横に立っている金髪の女だった。
聖杯統合戦初日に見た、監督役の女。
監督役のアジトである教会から滅多に出ない筈なのに、彼女は今数人の護衛を連れて矢部咲結香と共に此処に現れたのだ。
「皆さんの私情は皆さん表情からお察ししますが、今はあのバーサーカーを討伐することだけに気持ちを向けて頂けると幸いです」
そう言って監督役の女、アレーシアが指差した方向を見ると、もうすぐそこまでバーサーカーは迫って来ていた。
凄まじい程に巨大な肉体は大英雄であるアルジュナの攻撃を受けていても尚健在で、力を蓄積している様にも視える。
「町を向けての攻撃が収まっています。恐らく強大な一撃を放つ為に魔力を溜めているいるのでしょう」
「被害はどれ程だ」
キャスターの言葉にアレーシアは静かに横に首を振る。
「神話では、彼は地球上に存在する全生物の3分の1を喰らうとされています。その暗黒竜の本気の一撃となれば、いくら紛いものといえどもこの町ごと消し飛ぶのは間違いないかと」
その言葉は何よりもその場にいる全員の心に突き刺さった。
即ちそれは、次の攻撃が来たら、自分達の命は途切れることと同義語なのだから。
「しかし勝率が0な訳ではありません」
そう言ってアレーシアは自分の両腕の裾を捲る。
白く細い両腕には、尋常では考えられない様な数の“令呪”が刻まれていた。その全てが未使用のまま。
「これを使って、監督役の護衛任務を担うサーヴァント、“オリジン”に必殺の一撃を放たせます。勿論あの暗黒竜に向かって」
「そんなことができるのなら何故今までやらなかったのだ」
「“オリジン”は強力なサーヴァント故、1つの令呪程度の強制力では無効化してしまうのです。それに例え私の身に宿った全ての令呪を使おうとも二度の使用が限度。
ですから確実に攻撃を当てる為にはあの暗黒竜の動きを止めて頂く必要があるのです。勿論貴方方に」
「監督役殿」
アレーシアの言葉に、ようやく剣を止めたメイカーが手を上げて質問する。
「その“貴方方”、というのには私、もしくはそこの剣士も含まれているのかな」
「勿論強制はできません。そのような力は私にはありませんから。
――ただ私に力が無くても、オリジンには此処に居る全てを焼き尽くす力があることをお忘れなく」
その言葉だけで全てが語られていた。
混乱を隠せずにいた冬児も、明らかに苛々していたセイバーの表情も、同じく深刻なものへと変化する。
「要は手伝わなきゃ殺すってことなんでしょ?」
続いた声は上空。見上げればそこには黄金の舟が浮かんでおり、すぐに弓兵が一人降下してくる。
「私とその色欲バカは手伝うわよ。どっちもマスターの命が大切なの」
黄金の舟の主は自分で言っていて照れくさいのか、その声には少々浮ついた様子があった。そのマスターである矢部咲結香は自分の従者のその言葉が嬉しかったのか、安堵の笑みを零す。
「私も手を貸そう。聖杯を手にする前にこの舞台を焼け野原にされてはたまらない」
ライダーに続くようにメイカーはそう口にしながら、横目で先程殺し合いを行っていたセイバーに目を向ける。
赤い仮面の男は尚不機嫌な表情で、左の手に持った日本刀を右手に持った鞘に仕舞う。
「俺は手を貸さんぞ。今の俺は頗る機嫌が悪い上に、貴様らの様な腑抜けに手を貸すなどありえん」
そう言って踵を返し、天狗面の男はその場から姿を消す。
誰も彼を止めるものは居なかったし、臆病者と罵る者も勿論ながら存在しなかった。
彼の殺気はそれこそ、後一歩誰かが機嫌を損ねれば爆発してしまう程高まっていたからだ。
セイバーの背中が霊体化して消えるのを見送ると、ほぼ同時にキャスターが自身の主に目を向ける。
「我らはどうする?」
そう問われて、冬児は少し離れた場所に立っている結香に目を向ける。
聞きたいことは山ほどある。気に入らないこともたくさんある。腹が立つこともたくさんある。
――だから生き残らなくてはならない。
この場を生き残って、自分は彼女に訊かなければいけないことがたくさんある。
だから、だから、と早眞冬児は心の中で接続する。
「ああ。変わらずだキャスター。倒すぞ」
その言葉に満足そうに頷くサーヴァントと共に、終焉への一歩を歩み出す。
●
「アレーシア様」
オリジンを制御する為に令呪の整備をしていると、不意に背後から、キャスター陣営に協力を求めに行っていた息子に声を掛けられた。自分がこの場に現れるまで姿を消していたのだろう。
場に準じて自分のことを母としてではなく監督役として扱う息子には悪いと思いながらも、あえていつも通りにアレーシアは彼に言葉を掛ける。
「キレイ。貴方は先に教会に戻っていて頂戴。御爺様だけでは、少々頼りないから。貴方が手を貸せばあの人も喜ぶわ」
「……了解しました」
そう一言低く口にしてキレイはその場から離脱する。
こういうのを職権濫用と呼ぶのだろうかと、アレーシアは内心で苦笑する。
もしバーサーカーを倒せたとしても、その後にオリジンの力を見てをなお反乱を起こそうと輩がいないとも限らない。その為に自分を守護する者は多い方がいいのだが、
それでもアレーシアにはキレイをこの場に留めておくことができなかったのだ。
「やっぱり、ちょっと過保護すぎるのかしら……」
そう最後に呟いて、何処か嫌ではない笑みを零し、アレーシアは再度戦場へと足を進めた。
○
「では参りましょうか」
「結局アンタを乗せるのね……」
最前線。
弓を持ったアルジュナと、それを乗せて黄金の木舟を再び悪竜を目標として出港させるライダー。
眼前には既に魔力を溜め始め、背を紫色に煌めかせるバーサーカーの姿。
対峙し、弓を構えるアルジュナの両腕にもまた、それを迎え撃とうと魔力の塊が纏わりついている。
それは悪竜たるバーサーカーの三つの首が同時に開いたのと同じ時に弓に回り始める。
双方の魔力が十分に溜まった時だろう――アルジュナがゆっくりを口を開いた。
「“
●
瞬間、海上でこの世のモノとは思えない一撃同士がぶつかり合う。
衝撃は陸にて戦況を見守っている者達にも伝わり、恐らくはその誰もがあれほどまでの破壊力を目にしたことはないだろう。それは第二次世界大戦を引き起こしたメイカーも、絶え間なくアルジュナに魔力を送っているキャスターなどのサーヴァントも含めてだ。
「あれが“
そう口にしながら、戦況を見守るメイカーの口元は歪んでいたが、すぐに空気を読むように真面目な表情に変わり、次々と魔力注入済の勾玉を空にしていくキャスターに目を向ける。
「キャスター。お前の魔力はいつまで保つ?」
「さてな――思ったよりもアーチャー目の燃費が悪いようで、あやつめ。お主と戦っていた時も大分と力をセーブしていたようだぞ」
「フン。そんなことは解ってる。さっさと答えろ」
「烏が十度鳴くほどまでは保つ。お主も用意することだな」
キャスターが嫌味らしくそう口にしたというのに、メイカーの方は全く違った笑みを浮かべて左の腕を上げる。
すると何処からともなく消炎の臭いが辺りに漂い、気付いた頃にはメイカーの背後にはいつぞやの巨大な大砲装備済列車が出現していた。
「装甲は取り敢えず厚くしておいたが、あの状態のバーサーカーには紙ほどの意味もなさないだろう」
「いえ十分です。貴方方は一秒でも多く彼を取ることだけを考えてください」
アレーシアの両腕に刻まれた令呪が激しく輝き出す。
1つは命令の為に、残りの6つは全てオリジンへの魔力供給の為に。
目に見えるほどの濃い魔力の霧と共に、その姿は徐々に世界に色を出す。
「監督役殿、そちらはどれ程掛かる?」
「あと――30秒程」
霞んだアレーシアの声を耳にし、メイカーが片手を振り下げると巨大列車が悪竜に向かって突進する。一緒に海上に出現したレールを渡り、悪竜の三つの首から放たれる
それまで二人で対処に当たっていたアルジュナとライダーは更に上空に上がって攻撃を続ける。
しかし、尚悪竜の進行は止まらない。
それどころか勢いは増すばかり。
何処からそれ程多大な魔力が流れて来るのか。
何処から生まれた怨念が彼を突き動かすのか。
対処に当たっている誰も、その真相は知りはしないが、その誰もが同じ思いを頭に浮かべていた。
――幻想獣を相手にするというのはこれほど苦戦するものなのか。
猛者である英雄達が束になろうと全く歯がたたない。傷も付けられず、時間が経つほど強大さを増す攻撃の進行を抑えることがやっとだった。
おそらくこのままでは数秒と持たず全てが廃に還るだろう。
「仕方がないか……」
その中で今の今まで掩護に回っていた英雄が、誰にも聞こえないように、信頼する主にさえ聞こえないようなか細い声で呟いた。
自身の石の鏡を抱えて。
※今回の反省点
少しだけ投稿遅れました!すいません!
頭の中でほとんど終わりまで構成はできているのに、それを文にするとなると語彙力が必要となるので書くのが遅くなってしまいます。もっと勉強したいです。
というか毎週のサーヴァント召喚が無くなって寂しい気分ですね(´・ω・`)皆さん目の前の夏まで頑張りましょう。
それでは。
クラス:アサシン《3体目》
登場話数:「槍兵穿つ」
マスター:???
真名:カイン
性別:男性
身長体重:169cm、36㎏
属性:混沌・悪
イメージカラー:黒
特技:農業(あまりやりたがらない)
好きなもの:何もしないこと/嫌いなもの:何かを禁じられること
天敵:弟
「能力」
筋力E 耐久E 敏捷C 魔力D 幸運C 宝具A++
「クラス別能力」
気配遮断D:暗殺を行ったのは一度だけで、それも不意打ちのようなものだったので。
「詳細」
カインとアベルは、アダムとイヴがエデンの園を追われた(失楽園)後に生まれた兄弟である。また、この二人の弟にセトがいる。カインは長じて農耕を行い、アベルは羊を放牧するようになった。
ある日2人は各々の収穫物をヤハウェに捧げる。カインは収穫物を、アベルは肥えた羊の初子を捧げたが、ヤハウェはアベルの供物に目を留めカインの供物は無視した。嫉妬にかられたカインはその後、野原にアベルを誘い殺害する。その後、ヤハウェにアベルの行方を問われたカインは「知りません。私は弟の監視者なのですか?」と答えた。これが人間のついた最初の嘘としている。しかし、大地に流されたアベルの血はヤハウェに向かって彼の死を訴えた。カインはこの罪により、エデンの東にあるノド(נוֹד、「流離い」の意)の地に追放されたという。この時ヤハウェは、もはやカインが耕作を行っても作物は収穫出来なくなる事を伝えた。また、追放された土地の者たちに殺されることを恐れたカインに対し、ヤハウェは彼を殺す者には七倍の復讐があることを伝え、カインには誰にも殺されないための刻印をしたという。
カインは息子エノクをもうけ、ノドの地で作った街にもエノクの名をつけた。
「技能」
道具作成D:魔力を帯びた器具を作成可能。カインは鍛冶師の祖とされている。
無辜の怪物A:生前のイメージによって、後に過去の在り方を捻じ曲げられなった怪物。能力・姿が変貌してしまう。
このスキルを外すことは出来ない。生前罪を犯したことであらゆる教徒たちから反発を受け、怪物のイメージまで植え付けられた。イヴは彼が弟の血を啜った夢を見たと記さているため、彼には『吸血鬼』としての特性、それとベオウルフと戦ったグレンデルの祖先ともされているため蒼き巨人にもなれる。吸血鬼としての特性は吸血鬼の始祖と呼ばれているため真祖に及ばずとも近いものとされている。本編では使用されない。
怪力B:魔物、魔獣のみが持つとされる攻撃特性で、一時的に筋力を増幅させる。一定時間筋力のランクが一つ上がり、持続時間は「怪力のランク」による。本編では使用されない。
「宝具」
『
Rank:E 種別:結界宝具 レンジ:1〜3 最大捕捉:1〜30
・極めて小さな結界。固有結界とも呼べない、ただの探知用の宝具。
『我が存在は人罰である』
Rank:A+ 種別:対人宝具 レンジ:―― 最大捕捉:1
・神が行った、彼に対しての最後の施しである。彼に対するあらゆる物理的・精神的攻撃は、危害を与えた者に七倍にして返される。なお、この宝具の発動時、カインの額に紅く光る角が現れる。自滅型としては最高峰の火力を誇る。
・説明
道連れ方最強サーヴァント。根暗で卑屈なのは彼が弟を殺した事を悔やんでいるからです。一撃で殺せなければ確実に相手を殺害できる最強の宝具は、間違いなく全身タトゥーさんの凶悪版です。この方は英雄でも何でもないですが、この二次創作のサーヴァントは何でもありなので、ご愛嬌。
CVは豊永さんとかにやってもらいたいです。