Fate/ragnarok gate   作:フーリン式

35 / 93
《キャラクター紹介》
*現在記載できる登場人物のみ掲示。

『キャスター陣営』
・早眞冬児
この物語の主人公。魔術師を義父にもつ一般人。不遇な苦しみに囚われる少女を救うために聖杯統合戦に参加することを決意する。 蒼銀の鎧を身に纏い、英雄に近い能力を身に宿すことができる。
・キャスター(二騎目) 
山羊の被り物をした奇妙なサーヴァント。腕は細く、とてもじゃないが健全な英雄とは思えない出で立ちをしている。

『アサシン陣営』
・ランサーと相討ちになり現在不明。サンジェルマンが欠片を所持。

『シールダー陣営』
・ロワナ.ハンス
国からの命令で極秘理にナチスに潜入していた所、危機的状況に陥り、それをサーヴァントを召喚することで克服する。軍人の為運動神経は銃の扱いは上手いが、頭はそう良くない。
・シールダー(3体目)
白い長髪と赤と白の盾を持った女性のように美しい風貌の男性。その真名はローマ史上にも名高く名が残る皇帝、ヌマ・ポンピリウス。


『ライダー陣営』
・矢部崎結香
冬児の幼馴染である眼鏡の少女。冬児に対して異常なまでの愛情を見せる。 黄金の魔眼を持つ。
・ライダー(一騎目)
黄金の舟に乗るサーヴァント。常に上から目線の性格だが、愛に生きるマスターには情を見せる。

『アーチャー陣営』
・ライングル
イタリアの大マフィア『クリムゾン』の代理ボス。内気な少年で戦いにも気乗りではない。
・フラン
アーチャーのマスターであるラインの護衛。過去の事件から肉体の四分の一を別の何かに変えられている。
・アーチャー(一騎目)
青丹色の髪と金属を幾つも身につけた青年。真名はインドの叙事詩『マハーラーバタ』にも載る大英雄、アルジュナ。
・ルツ&マーク
フラン同様、ラインの護衛。

『ランサー陣営』
・紅い甲冑の騎士
先が二つに別れた真っ白な鎧を持った騎士。その威圧的な鎧の風貌とは裏腹に、声色は草原のように爽快な少年のものである。メイカー、セイバーと行動を共にする。

『バーサーカー陣営』
・二体目が召喚されてない為現在不明。冬児が欠片を所持。

『メイカー陣営』
・ガルム ・ドルギスタン
ナチス現最高指導者。老人でありながら、卓越した武術を身につけ、聖杯を掴む勝つ為ならば手段を選ばない。
・メイカー(一体目)
軍服の長身の女。真名は第二次世界大戦において世界を混乱に陥れた軍人、アドルフ・ヒトラー。宝具は固有結界であり、自らの思想の全てをこの世界に出現させる。
・セイバー(二体目)
赤い天狗面を被った日本風の刀持ち。剣術に長けておらず、悪鬼の様な戦い方で場を奔走する。

【参加者以外の登場人物】
「バルドリア」
・アストル・ハーデンベルト
教会にも協会にも属さない独自の宗教組織『バルドリア』の大師父。自分達の教祖の意思を実現させるため今回の聖杯統合戦を起こした。
・アレーシア・ハーデンベルト
聖杯統合戦における監督役。アストルの実娘であり、息子を一人持つ。基本的に温厚な性格で抜けているため争いには向かない。
・キレイ・ハーデンベルト
アレーシアの息子。アレーシアの護衛役として付いてきてるが、日本に来てからやっていることはほぼ家事のみである。
・トワイス
オリジンの欠片が擬人化させられた姿。現在は少女の姿をしている。


「聖堂協会」
・熊
埋葬機関所属。№不明。竜種(実物かどうかは不明)の骨から作られた大剣を片手に異端者を狩りに喝馬町に来た。ちなみに熊というのは本名ではない。

「その他」
・壬生カグラ
冬児の代わりに元々聖杯統合戦に参加する筈だった少女。何者かの襲撃に会い、人の形を保てていない。
・壬生安山
カグラの父親。既に死亡している模様。
・早眞トーリ
冬児の父親。
・サンジェルマン伯爵
歴史上の人物の名を語る中年。堂々と魔術協会に喧嘩を売る。


新たなサーヴァント

聖杯戦争の紛いもの、聖杯統合戦が極東の一端喝馬町で開始されてから遂に1週間が経過した。

聖杯に繋がる孔が大きく広がったせいで無尽蔵な魔力が10に割られた聖杯の欠片にそれぞれ送り込まれ、幾らでも英霊を召喚できるようになったシステムのせいで、既に10体以上ものサーヴァントがこの世に呼び出され、そして消滅した。

その一人に、かつて日本という口を統治した女王が居た。

彼女の行った様々な偉業は一定以上の義務教育を受けた日本人なら誰もが知っている。他国との繋がりが少なかった自国に他の諸国との繋がりを作らせ、鬼道という術を使い人々を導いた女は、当然ながら現代にはもう存在していなかった。

それがひょんなことから、魔術の血を受け継いだだけの少年によって現代に呼び出され、少年のサーヴァントとして戦うことになったのが丁度7日前。

彼女は先の戦いで狂戦士を仕留める為に命を落とし、少年は1人世界に残された。

短期間に立て続けに信頼する女性を二人も失い、彼の精神は崩壊寸前まで陥ったが、あらゆることが転機して彼はまた戦う意志を持つことになる。

彼が新たなサーヴァントを呼び出す為にもう一度その欠片を握り閉めたのは、聖杯統合戦が開始してから7日目になったその瞬間だった。

 

 

「お前が俺のサーヴァント……」

目の前に召喚された新たなパートナーに息を呑む。

その風貌は前回手を取り合ったサーヴァントとは大きく掛け離れていた。魔術の英霊(キャスター)らしいといえば、前回のキャスターより大いにそう言えるが、それは胡散臭という言葉の同義語に当たる。

山羊の頭蓋骨の被り物で顔は一切見えず、全身を藍色のローブで隠し、僅かに見える首元の肌の色は青白く生気を感じさせない。

胡乱(うろん)とした相手に警戒心を解かずに居ると、先に呼び出された“新たなキャスター”の方が、声高に笑い始めた。

「キヒッ。キャハハハハハハハッ!!!」

「!!?」

いきなり巨大な山羊の頭蓋骨が肩を震わせながら笑い始め、冬児は一気に躊躇いでしまう。

キャスターは腹を抱えて笑いながら細い手を山羊の頭蓋骨に当て、鼻先を撫でながらゆっくりと言語を口にする。

「キヒッキヒヒヒッ。いや、失敬失敬。我輩を呼び出したご主人様がどんなのかと思いましたが、まさか貴殿のような小童とは。実に滑稽。実に愉快!まさしく我がマスターに相応しい凡庸さよ!!」

言葉の内容からして新たなキャスターは自身のマスターを完全に馬鹿にしていた。

身長は冬時よりも高く、斜め上から冬児を見下ろしてその姿を両手の親指と人差し指で作った四角の枠の中に収める。

「魔術回路は出来は良いにしても、使ってないせいで錆びかけてる。そのせいで魔力の循環が悪いなぁ。まぁなんとかなりますか。体力レベルは並程度。困りましたねぇ。私は戦闘一切できないから貴殿に戦って頂かないといけないのに」

「あっあの」

「おぉっと待ってください、小虫のように無力なご主人様。貴殿が訊きたいのはこうだ。我輩の真名は?我輩の宝具は?我輩の能力値は?我輩の伝説は? 

 当然ですねぇ。マスターとして自身のサーヴァントの情報を把握するのは当然です」

キャスターは一人妙に芝居掛かった口調でペラペラ喋り、巨大な頭蓋骨を上下運動させるとそのままの軽い口調で言葉を紡いだ。

「しかし教えられません。ていうか教えたくありません」

「………はっ!!?」

しっかりと三拍子空けてから冬児は驚愕の表情を顕にする。それがまたキャスターを愉快な気持ちにさせたのか彼はケラケラ笑って余計に冬児の不安を煽らせるのだった。

「おま、何でっ!!?」

前回共闘していたキャスターも、精神攻撃などの危険性も考えて最後まで真名は教えてくれなかったが、教えたくないと言われるのは流石にショックだったらしく、回答の追求をせずにはいられなかった。

だというのにキャスターは以前何が可笑しいのか腹を抱えながら笑っている。

「そんなもの、貴殿がまだ我輩の信頼を勝ち取っていないから決まっているでしょう?未熟なご主人様」

「――」

言われてまぁ納得してしまった。

確かに、英霊の全部が全部高潔な者ばかりではないのだ。彼等も元は正せば人間である。良い性格の奴もいれば、悪い性格の奴もいて、その中には勿論弄れた面倒臭い性格の奴も居るだろう。

自分の周りにはキャスターやアルジュナ、ライダーといった品行方正なサーヴァントしか居なかったから油断していた。

冬児は目の前の山羊男と会話するのが億劫になりつつも、少しの間黙考してから口を開く。

「じゃぁ俺に教えられることは?」

「あぁ〜……そうですねぇ。我が宝具ぐらいですかね」

「ッ!!?宝具は教えられるのかよ!?」

「えぇ。どうせ宝具教えても貴殿程度の人間と言いますか、殆ど人間が我輩の正体に気が付きませんし」

山羊男(キャスター)がローブを翻す。不気味な雰囲気を放っていたローブの中は一転して高貴な燕尾服の着ているが、その全てを山羊の頭蓋骨が台無しにする。

彼がローブの中から取り出したのは、灰色のブックカバーの古びた厚い本だった。

「――我が宝具は“奇跡を生み出す”」

 

 

 

 

数時間後。

夜の町を徘徊するのは危険として、日が昇るまではこのまま壬生の家で様子を見ることになった。

途中何度も睡魔に襲われたが、今にもこちらの寝首をかって来そうな隣人が月を見ながらぶつぶつ言葉を発している為何とか堪えようとはした。

結果、一時間で爆睡。

起きた頃には時計の針は9の数字を指しており、座ったまま眠っていた自分の傍らでは、山羊男が1人壬生の家の中の物を漁っていた。

「これは使えますねぇ……あぁこれもこれも。流石本物の魔術師様の家は違うと言いますか、おやこれもこれもこれも」

「………」

唖然とした。寝て起きて開口一番がこれとは。

自分が呼び出したサーヴァントが、英霊と呼ばれる存在が、人の家の物を勝手に漁って盗人のようなことをしている。

すぐさま冬児は起き上がりキャスターに向かって叱責する。

「おいこら山羊男!!人の家で何してんだ!!?」

「人の家って、ここはご主人様の住居ではないでしょう?」

軽々しく冬児の言葉を足らいながらキャスターは物色を止める気が無いようで、ついには畳まで剥がし始めた。

その様子に流石の冬児も堪忍袋の緒が切れたようで、ずかずかと音を鳴らしながら床を歩き自身のサーヴァントの肩を掴んで制止させる。

「ここは俺の恋人の家なんだよ!!そんなことさせてまるか!!」

「ではその恋人とやら何処に?」

一瞬、時が静止させられる。山羊の頭蓋骨にある筈のない眼球がこちらを見ているかのような錯覚を覚えさせられる。

「人の家、という割にはこの屋敷には貴殿と我輩以外人の気配が一切致しません。ここは元々魔術師が住んでいただけの、ただの廃墟だ」

「お前……!!」

「おや、癪に触ったようですねぇ?しかしとて貴殿はもっと自分の命を考えるべきだ。此処に在るのは其れなりに使える魔術道具ばかり。無力なご主人様(きでん)と無力な従者(わがはい)。常識や美的感覚には囚われていてはとても生き残れません」

山羊の男の言い分は理に叶っている。理に叶っているからこそ腹が立つのだ。

生きる為に、勝ち残る為に、恋人の家を荒らさなければいけないほど切羽詰っているというこの状況がとてもつもなく情けないと感じてしまう。

「第一に、こんな触媒でサーヴァントを召喚するから我輩のようなサーヴァントを呼び出してしまうのです」

キャスターが作業がてらに掴み上げたのは一冊の雑誌だった。何の変哲もない、本屋の雑誌コーナーに置かれているような薄いオカルト雑誌。

其れは大分と前に早眞冬児が壬生カグラに誕生日プレゼントとして渡したもので、思わず失笑を買った一品だ。

召喚の最中、カグラの置き手紙通りにやったつもりが何故かサーヴァントがいつまで経っても召喚できず、休憩がてらに読み始めたその雑誌が、よもや触媒になるとは思わなかった。

そうして呼び出されたのがこのサーヴァント。昌く、現代のオカルト雑誌に載るような如何にもといったような風貌が益々胡散臭さを際立たせる魔術師のサーヴァント。

「私は魔術師ですが魔術回路なんてものは備わってありませんのでねぇ。戦闘に関しては一切期待しないで頂きたい」

訳の分からないことを言い出しつつも、どうやら本当に戦闘は得意でないようだった。

前回のキャスターは見かけによらず戦うことができていたが、目の前のこの男はそれが全くできないと声高らかに公言しており、眠る前に脚がもつれて転けたのを見てしまった。

――何か、勝てる気がしない。

冬児は己の無力さとサーヴァントの残念さに心の中で溜息をつきつつ、己がサーヴァントと共に本来の住処へ帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖杯統合戦において、監督役を務める機関バルドリアが居を構えるのは、丘の上の大きな教会。

青と白の外用は清らかそのもので、内装も普通の教会と何ら変わりないような作りなっており、普段は監督役であるアレーシアがシスターとして住民の来訪を受け付ける。

と言っても来るのは昼間に老人2、3人程度で、そう苦労することはない。

それどころかこの場所は意図的にあまり人が来れないような作りにしてあるのだ。教会に張られた人払いの結界と、町全体に張られた“不感知”の暗示により、人々は教会来れなくなっている。

教会に張っている結界は元々バルドリアの総意で決められていたが、不感知の暗示に関しては後から総師父が追加で決定した。一応は魔術の秘匿や面倒臭いことへの対応措置だと。これによってバーサーカーの騒動も、難なく対応することができた。

ならば街の人々を全員外に出してしまえばいいのでは、と安直な質問した女がいたが、

――そんなことをしてはサーヴァント達に食わせる魔力源が無くなるだろう。

と師父の最もな意見に突き返された。尚これは明らかに真っ当な人の思考ではないと思われるが。

「はぁ……」

思い出してその女、アレーシア・ハーデンベルトは溜息をつく。

原因は度重なるストレスにもあった。

聖杯の核の奪取。仕事が続いたことで息子が結局学校生活を強制的に終えてしまったこと。人員の不足やら、その他前回の狂戦士(ザッハーク)騒動での町への被害措置。

立て続けに面倒なことが起こってアレーシアの胃は崩壊寸前にまで陥っていた。

聖杯統合戦が始まってから早7日。戦争は父の予想通り日が増すごとに過激さを増し、呼び出されるサーヴァントも強力なものばかりになってきた。その内人の身さえ保っていれば神話の登場キャラクター達が次々と登場するのではないかと口にした幹部が居たが、とんでもない。そんなことになったら益々胃が凭れる。

そうして彼女は祈りを捧げる。

既に神に対する信仰心など捨てていたが、こういう事態に陥った時に限っては別だ。

何か困ったことがあった時、人は祈らずにはいられない。

片膝を付き、両の手を組んで目を瞑る。

――どうか、平和でありますように。

とてもこの聖杯統合戦を起こした一人とは思えないような願いを頭に過ぎらせながら願っていると、アレーシアの耳に聞こえる筈のないノックの音が入ってきた。

ここに来るのは全て老人であり、彼等は何の遠慮も無く入ってきては礼拝堂でうたた寝してアレーシアと他愛もない会話をしてから帰っていく。そうしてここに来れるのは習慣性を持つ者だけ、つまり聖杯統合戦が始まるずっと前から規則的に教会に来ていたものだけが、本能的にこの場所に来ることが許されるのだ。それ以外の人間は人払いの結界によって来ることは叶わない筈なのだが。

振り向くと、そこには男が立っていた。中世風の貴族の服装に頭にシルクハットを被ったその男は、軽く一礼してから名乗りを上げる。

「お初にお目にかかるマドモアゼル。私はサンジェルマン。貸していたものを返しに貰いに来た」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

壬生家を出てから数分後。早眞邸に到着。

到着早々、キャスターは壬生家に居た時同様に家の物色を始める。サーヴァントは食事や睡眠を取らなくてもいいとは聞いていたが、昌く疲れ知らず。

冬児が家に帰って手を洗ってるのも束の間、広間に帰ってきた頃には家の中が荒らされていた。

壬生家の惨状を見てもう慣れたとはいえ頭を抑えたくなる。

すると不意にキャスターの動きが止まった。

「ご主人様。我輩を呼び出す前、ここに居たのは同じくキャスターのクラスのサーヴァントでありましたかな?」

「?ん、ああ言ってなかったな。そうだよ。お前みたいに変人じゃなくてちょっと元気過ぎるだけの良い娘だったよ」

少々嫌味っぽく吐き出したその言葉にキャスターが振り返る。もしかして機嫌を悪くしたかと不安になったが、どうやら違うようで暖炉の中から何かを取り出してこちらに見えるように掲げる。

キャスターが左の親指と人差し指で摘んでいる物、それは青い勾玉だった。

「それ……キャスターの……!」

「やはりそうでしか。先程からこの屋敷の物色をしておりますと、至る所にこの奇妙な石が在りました。そしてそのどれにも高密度の魔力が込められている」

キャスターが一度勾玉を手の中に入れて握り締め、開くと其処には大量の勾玉が現れた。魔術、というよりは手品の様な出し方だった。

「前任のキャスター殿は、どうやら相当貴殿に入れ込んでいたご様子で。

 自分が消えた後も何か残せる様にとこれを置き土産としたのでしょうなぁ」

然程興味の無さそうに口にするキャスターの言葉に冬児は目を開いてしまう。

そうだ、確かに彼女はそんなことしていた。

あの竜と化したバーサーカーと戦う前、彼女は何やら準備があると屋敷の中を(せわ)しく回っていた。

まさかあの時から自分が消える覚悟をしていたというのか。

それは十分に有り得る。何しろ彼女は、僅かながら未来予知を可能とする巫女だったのだから。

「―――ッ」

自分を深く恥じ入る。そして消えた彼女に最大限の敬意と感謝を胸に、一度だけ俯いて冬児はまた顔を上げた。

するといつの間にか山羊の頭蓋骨を被った男が目の前まで移動してきており、その不気味さに冬児は後退する。

「なっなんだよ」

「いえマスター。出来ればですが、貴殿が知っている限りで構わないので今まで戦況をお聞かせ願いますかね?あと貴殿が隠していることも、全て」

表情を変える筈のない山羊の頭蓋骨が、何故だか大きく口元を歪めて笑っている様に冬児には見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

階段を下る。

教会の中心部にある螺旋階段。

それを下って礼拝堂へと降りていく。

本日の業務であるオリジンの欠片(トワイス)との会話は朝のうちに済ませた。自分の部屋の掃除と衣服の洗濯もまた然り。

キレイ・ハーデンベルトの一日は変わりなく過ぎていく。

彼の年齢はまだ二十歳に到達しておらず、青春を大いに楽しめる年齢の筈なのだが、生まれてこの方何かを楽しいと思ったことが無い。

感性が無い訳では無い。家族のことは他のものよりは大切に思えるし、仕事に関してもやり甲斐は感じている。

しかしそれは何というか、義務の様なものに感じられた。

家族だから愛さなくてはいけない、

仕事だから成し遂げなくてはいけない。

彼の精神に自分からやろうということは何一つ無かった。

祖父に言われ、母の静止も乗り越えて古今東西のあらゆる武術、ある程度の魔術を習ったが、そのどれもが自分を熱中させるまでに至らなかった。

母は言う。「私のせいだわ」と。

祖父は言う。「お前は素晴らしい」と。

どちらもどうでもいい。何を言われても我が心には響かなかった。

だから仕方なく、やるしかないことをすることにした。

どうせ満たされないのなら、何かをして誰かを満たせばいい。そうすれば自分も変わるのでは無いのかと。

階段を下りきる。礼拝堂のドアに手を掛けゆっくりと開く。

「母さん。他にやることは――」

途端に気が付く。鼻に付く、血と臓物の不快な臭い。

 

この時、キレイ・ハーデンベルトは恐ろしく冷静だった。

目の前で死に体となった肉親の姿を見ても尚彼は冷静だったのだ。

亡骸となった母と祖父の近くに立つのは、群青色の髪をした男。

弓を担ぎ、鎧を着て、耳飾りを揺らしながら礼拝堂に入ってきたキレイに目を向ける。猛禽類のような鋭い眼でキレイを見据えつつも頭を掻き、面倒臭そうに口を開く。

「あぁ?……んだよ、まだいやがったのか。おいそこの坊主。大人しく殺されてくれたら、」

――男の言葉が終わることなく、キレイは走り出した。

邂逅一番。鍛え上げた肉体から徒手空拳を放つ。狙うは心臓、キレイの拳の威力は魔術付与も合わさり例え鎧を着ていようが常人の心臓を容易に貫く。

結果は直撃。完全に相手の胸にクリーンヒットした。

「……おい。訳わかんねぇことしてんじゃねぇよ」

「!!」

男は声を出していた。それも痛みから来る苦悶の声ではなく、傷一つ付いていない肉体から発せられる余裕の言語。

キレイも肉親の死に多少なりとも動揺していたのか、だからこそ気が付かなかったのか。否、実際は群青色の髪の男自身の宝具(・・)がそれを遮ったのだ。

――サーヴァント。

群青色の髪の男はキレイの服の襟を掴むと、180㌢はあるであろうその身体を思いっ切り礼拝堂の巨大な十字架へと投げ付ける。

普通の人間であればその時点でノックアウトだ。

しかしキレイの運動神経と呼ばれるもの、つまりは筋肉は普通の人間のそれを逸しており、投げられた反動に負けずに空中で膝を折って一回転し、十字架を足蹴にしてもう一度群青色の男へと接近した。

まさか男も只の人間がこれ程やるとは思っておらず、いつの間にか出現させた槍を片手に迎え撃つ。

キレイには目の前のサーヴァントのクラスどころか、ステータスさえも読むことができない。本来、監督役を任されているアレーシアとその肉親二人には全てのサーヴァントの真名・クラス・ステータス・宝具を読み取る力があるのだが、その全てが作用しない。

それどころか拳と槍を撃ち合っていて気付く。

背に弓、手には槍、懐には剣。

三騎士全ての良い所を取り抜いた様な男に、益々キレイの考えは纏まらなくなる。

反対に群青色の髪の男は漢らしい笑みを浮かべている。

「よう、今の人間にクセしてよくやるじゃねぇか坊主。どうだ、俺の味をまだ知りてぇか?」

「―――」

言葉を発さない相手に男は肩を竦めて、槍を穿つ。

真っ直ぐに投擲されたそれをキレイはギリギリの所で避ける。すぐに懐から抜き取られた剣で追撃が迫る。恐らく、槍も剣もその刃に当たれば致命傷を受けるだろう。

あえてキレイはそれを()()()

当たれば死ぬ。だが、死ぬだけだ。

死ぬだけで相手に一発くらわせるチャンスができるのだ。

「ッ!!」

その在り方にさしもの英雄も度肝を抜かれる。

この少年は死が怖くないのか。万物のほぼ全てが恐れる死への恐怖が、彼には欠落している。

肩に入り心の臓に届かなくても出血多量で死ぬであろう攻撃を受けながらも少年は手を伸ばした。その表情に苦悶の色は一切無い。

在るのは目の前の敵を倒すという意志のみ。

何処までも機械(システム)的な思想と行動に、群青色のサーヴァントはもはや哀れみの目で彼のことを見ていた。

しかし、キレイ・ハーデンベルトの思想と行動がどれほど機械的でも、それを内包するのは人間の肉体である。致命傷を受ければ前記した通り死に至る。

彼は最期まで眼前の敵を見据えたまま、ズルズルと床に倒れ落ちた。

その光景を見て群青色のサーヴァントはばつが悪そうに頬を掻いて、背後に現れた影に問う。

「おいマスター。こいつどうするよ?」

「どうするって、君はその子を気に入っているんだろう?元々助けるつもりだったしさっさと連れてきなさい」

へいへいと返事をするサーヴァントにマスターと呼ばれた男、礼拝堂の長椅子に腰を下ろしているサンジェルマンは笑みを浮かべて手招きする。

彼の心の中にあるのは良い拾い物をしたという思いだけ。

虚ろな目で死にかけている少年の頬に触れ、サンジェルマンは意識の無い彼に向かってだけ伝えるように呟く。

「君にはこの世界の人柱の一つになってもらうよ」

「――ッカハ」

誰かの息が漏れた声がした。それはサンジェルマンでも群青色のサーヴァントでもキレイでもなく、十字架の下に転がっていた死体の内の1つ。 

 

「おや、まだ生きていたのかい」

何処か愉快気に近付いてくる男の姿を、腹部を貫かれ息絶えかけているアレーシアの虚ろな眼が何とか捉える。

唇を震わせて言葉を話そうとする。しかしそのどれもが言葉として発声できず、どんどん意識は遠のいていく。

そんなアレーシアの気持ちをしってか、サンジェルマンは片膝を付き、シルクハットを外して、彼女の左手を握る。その姿はとても紳士的で、数分前にサーヴァントが女に手を出すのは嫌だと言うからアレーシアを瀕死にまで追い込んだ男とは思えなかった。

「マドモアゼル。残念ながら、貴方達の悲願は達成されない。貴方達が()()()()の思想を継いでくれているのは知っているが、状況が変わってしまった。ですが嘆くことは無い。いつかきっと貴方達の願いが叶う時も来るでしょう」

サンジェルマンは人差し指でアレーシアの涙を拭いながら声をかける。対するアレーシアは震える唇でようやく言葉を発する。

自分と肉親を傷付けたことによる罵倒か、それとも助けてくれとの懇願か、アレーシアが口にしたのはそのどちらでもなく、

 

――息子を返して

 

その願いでしかなかった。

サンジェルマンは穏やか微笑みを浮かべて、彼女の手を握り手の甲にキスをして首を横に振った。

「それはできない」

最後の最後の願いさえも踏みにじられ、アレーシア・ハーデンベルトは息を引き取った。

かつては美しいかった青色の双眸にはもう何も映っていない。

サンジェルマンはその遺体を抱き抱え立ち上がると、瀕死のキレイを抱えたサーヴァントに声を掛ける。

「さて“アサシン”。残りの邪魔なバルドリアのメンバーを片付けたらここを我らの根城にしよう。どうせ、ここにオリジンの欠片もあるのだ」

聖杯統合戦開始7日目。

バルドリア総師父の予想通り、事態は急速に変化し始めていた。

 

 

 

 




※今回の反省点
勢いで書いたから誤字脱字多めかも。


何だか気分が乗ったので2日連続更新してしまいました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。