《キャラクター紹介》
*現在記載できる登場人物のみ掲示。
『キャスター陣営』
・早眞冬児
この物語の主人公。魔術師を義父にもつ一般人。不遇な苦しみに囚われる少女を救うために聖杯統合戦に参加することを決意する。 蒼銀の鎧を身に纏い、英雄に近い能力を身に宿すことができる。
・キャスター(二騎目)
山羊の被り物をした奇妙なサーヴァント。腕は細く、とてもじゃないが健全な英雄とは思えない出で立ちをしている。
『アサシン陣営』
・ランサーと相討ちになり現在不明。サンジェルマンが欠片を所持。
『シールダー陣営』
・ロワナ.ハンス
国からの命令で極秘理にナチスに潜入していた所、危機的状況に陥り、それをサーヴァントを召喚することで克服する。軍人の為運動神経は銃の扱いは上手いが、頭はそう良くない。
・シールダー(3体目)
白い長髪と赤と白の盾を持った女性のように美しい風貌の男性。その真名はローマ史上にも名高く名が残る皇帝、ヌマ・ポンピリウス。
『ライダー陣営』
・矢部崎結香
冬児の幼馴染である眼鏡の少女。冬児に対して異常なまでの愛情を見せる。 黄金の魔眼を持つ。
・ライダー(一騎目)
黄金の舟に乗るサーヴァント。常に上から目線の性格だが、愛に生きるマスターには情を見せる。
『アーチャー陣営』
・ライングル
イタリアの大マフィア『クリムゾン』の代理ボス。内気な少年で戦いにも気乗りではない。
・フラン
アーチャーのマスターであるラインの護衛。過去の事件から肉体の四分の一を死徒に変えられている。
・アーチャー(一騎目)
青丹色の髪と金属を幾つも身につけた青年。真名はインドの叙事詩『マハーラーバタ』にも載る大英雄、アルジュナ。
・ルツ&マーク
フラン同様、ラインの護衛。
『ランサー陣営』
・紅い甲冑の騎士
先が二つに別れた真っ白な鎧を持った騎士。その威圧的な鎧の風貌とは裏腹に、声色は草原のように爽快な少年のものである。メイカー、セイバーと行動を共にする。
『バーサーカー陣営』
・二体目が召喚されてない為現在不明。冬児が欠片を所持。
『メイカー陣営』
・ガルム ・ドルギスタン
ナチス現最高指導者。老人でありながら、卓越した武術を身につけ、聖杯を掴む勝つ為ならば手段を選ばない。
・メイカー(一体目)
軍服の長身の女。真名は第二次世界大戦において世界を混乱に陥れた軍人、アドルフ・ヒトラー。宝具は固有結界であり、自らの思想の全てをこの世界に出現させる。
・セイバー(二体目)
赤い天狗面を被った日本風の刀持ち。剣術に長けておらず、悪鬼の様な戦い方で場を奔走する。
【参加者以外の登場人物】
「バルドリア」
・アストル・ハーデンベルト
教会にも協会にも属さない独自の宗教組織『バルドリア』の大師父。自分達の教祖の意思を実現させるため今回の聖杯統合戦を起こした。死亡した。
・アレーシア・ハーデンベルト
聖杯統合戦における監督役。アストルの実娘であり、息子を一人持つ。基本的に温厚な性格で抜けているため争いには向かない。 死亡した。
・キレイ・ハーデンベルト
アレーシアの息子。アレーシアの護衛役として付いてきてるが、日本に来てからやっていることはほぼ家事のみである。
・トワイス
オリジンの欠片が擬人化させられた姿。現在は少女の姿をしている。
「聖堂協会」
・熊
埋葬機関所属。№不明。竜種(実物かどうかは不明)の骨から作られた大剣を片手に異端者を狩りに喝馬町に来た。ちなみに熊というのは本名ではない。
「その他」
・壬生カグラ
冬児の代わりに元々聖杯統合戦に参加する筈だった少女。何者かの襲撃に会い、人の形を保てていない。
・壬生安山
カグラの父親。既に死亡している模様。
・早眞トーリ
冬児の父親。
・サンジェルマン伯爵
歴史上の人物の名を語る中年。堂々と魔術協会に喧嘩を売る。強力かつ大量の
○
「
それが早眞冬児の今までの経緯を話したキャスターの反応だった。彼は山羊の頭蓋骨を被っている為感情が読み取り難いが、その声は明らかに自身のマスターに向けて嘆息している。
「マスター。貴殿は何故早くそれを言わないのです?頭に蛆虫でも湧いているのかと、我輩心配になりますよ」
このサーヴァントは人を小馬鹿にすることしかできないのでは、と冬児は内心腹をたてながら懐から取り出した
キャスターはそれを冬児の手から奪い取り、掲げるようにして含み笑いをし始める。
「おっおい!?」
「ヒッヒヒヒッ。これで私も栄光ある魔術師の一人に………ヒヒヒッ」
奇怪に笑い始める相手に青冷めて若干引いていると、山羊男は急に動きを止め、首だけをまるで糸に吊られた人形の様に奇怪に動かし自身のマスターへと向ける。
忙しい男だと冬児はその様子を半目で見つめる。
「あと一つ。我輩マスターに尋ねておきたいのですが」
「なんだよ」
「マスターのなんでしたっけ?“
肉体に英雄を宿すというあの石の有効時間は魔力さえあれば引き伸ばせるんでしたよね?」
不意にかけられた問に冬児は頷きで肯定する。
「性格には肉体そのものじゃなくて、ベズワルっていう英雄の肉体を鎧として具現化させるんだ。親父が作った概念武装で“三度のみ使用者に必ず勝利”を齎す」
過去にベズワル=ビャルキという戦士がレイレという国に居た。
彼は熊のような力を持つ勇猛な戦士として名を轟かせ、その精神は高潔なものだった。ある時、彼の父が謀略により命を奪われたのを機に、獣の肉体を一部持つ兄弟達にも抜けなかった“魔剣”を彼は引き抜く。
この魔剣は生涯で三度しか使えず、されどこの魔剣を継承した者は勝利を約束される。
数々の勇姿を神話に刻んだ後、彼の魔剣は三度目の使用後大神オーディンの神槍グングニルによって碎かれた。
早眞冬児の父、早眞トーリは優秀な魔術師であり、彼はその英雄の特性に目を付けた。
何処からか入手してきた彼の魔剣の破片から鎧の短剣を。彼の兄から授かった魔法の鞘で鎧を召喚する装置である魔石を作った。
それを手に早眞冬児は先日、初めて変身を果たした。バーサーカー討伐戦の時のその圧倒的強さは冬児自身も体感したのだ。
されどあれは彼自身の力ではない。早眞冬児自身はただの人間でしかないのだ。ただの無力な人間。恐ろしいのはそれを覆うベズワルの鎧。
物理的防御力はもちろん、ランクB相当の対魔力、鎧を着るだけで全ステータスはC以上となる。剣を握り魔力を開放することでベズワルの宝具すら使用可能だ。
しかしそれは三度まで。所詮は鎧を着ているのではなく、鎧に着られているだけにすぎない。身に余る力には成約がある。
どれ程無傷だろうと鎧がその身体に顕現するのは三度まで。それを過ぎると鎧を召喚する魔石は粉々に砕けてしまう。修復できるのはそれこそ鎧を製造した早眞トーリぐらいなものだろうが、彼は現在この町に居ない為期待できない。
しかし一つ、使い方を考えればその鎧を顕現させる時間を長引かせることができる。
「魔力の供給。まるでサーヴァントのようですね」
キャスターの言うとおりだ。この鎧は魔力を糧として存在するサーヴァントと同じく、使用者に流れる魔力を糧としてその力を持ち主に宿す。
それならば冬児が魔力をずっと供給しとけばいいだろうという結論に至るが、現状はそう簡単にいかない。
冬児は魔術師では無いがために魔力回路が十分に使われておらず魔力量が少ないわけではないが多いわけでもない。それに、第一に何日も全身を覆う鎧を着てられる訳がない。人間として。
「人間辞めないと聖杯戦争には勝てないと思いますけどねー」
キャスターの横槍を無視しながらも冬児は考える。
これからのことを必死に。そうすると彼の中から良案が生まれる前に、その問題とは別の力が玄関から会いに来た。間の抜けたインターホンの音が屋敷に響く。
誰だろうと、魔術師の屋敷らしくないモニターで玄関前の風景を見ると其処にはよく知る友人達が立っていた。
「フラン……?」
屋敷に入った瞬間のフランの表情はあまりに不機嫌そうだった。それはいつも穏やかな笑みを浮かべるアルジュナが思わず苦笑を浮かべている程に。
自分が招き入れるのも待たずに玄関が開いた瞬間にズカズカと屋敷の中に入り込んだフランは迷わず広間へと歩を進める。
勿論広間にはあの奇怪なキャスターが居る訳で……。
「ヒッヒヒッ。ヒヒヒヒヒヒッ………」
「………」
広間で一人、
「何とも面妖なサーヴァントを呼び出しましたね、トージ」
「ハッハハハ……」
アルジュナの言葉に笑いで答えつつ、ちらっと鬼の顔を見る。すると意外にもフランは怒りを見せた表情ではなく、しかしとて笑顔という訳では無い。真面目な表情で視線をキャスターから冬児に移すとけんのある声色で冬児に話かける。
「お前は、まだ戦うつもりなんだな」
その問に一瞬躊躇いながらも、しっかりと自分の意思を持って頷きで返す。
「俺はまだ何も諦めて何かいない。勿論、ラインをメイカーから取り返すことも」
その言葉がどうやら正解だった様で、フランは満足気に頷くと冬児の肩を叩く。
「良かった。お前がそういう奴でアタシは安心したよ」
「っ。そりゃ良かった」
早眞冬児とフランの信頼関係は、大凡本来ならば敵同士という間柄ではないだろうと言わせない所まで成長してしまっていた。
「んでこちらシールダーのマスターだ」
「ハハッ。どうもどうも」
午後3時。フランが連れてきたのは新たな同盟希望者だった。
名をロワナ・ハンス。ドイツの軍人で、一昨日あたりまでメイカーの下で潜入捜査をしていたらしい。しかしメイカーの在り方に意を唱え、離反を行った所セイバーらしきサーヴァントの力を何故か借りてシールダーを呼び出してしまい、聖杯統合戦に参加する嵌になってしまったらしい。
とりあえず広間のソファに座ってもらったが、冬児はシールダーのマスターの顔に見覚えがあった。それはロワナも一緒であったがお互いあえて詮索しないことにする。
二人が出会ったのはつい数時間前で、町で気分を悪くした冬児を助けたのが、まだメイカーと相対してなかった時のロワナだったのだが二人共脳天気なせいかそれに気が付かなかっただけの話だ。
「ハンス。お前のサーヴァントを」
「ん?あぁ、シールダー。出てきてくれないかな」
「はい、マスター」
ロワナの呼び掛けに豪く優しい声が現れる。
全身白の装具を纏ったその姿は、男性である筈なのに何処か女性的な美しささえ感じさせる。妖艶、ではなく芸術的な意味で。そういう意味でも、彼は浮世離れしており、人間を超えたサーヴァントと呼ぶに相応しかった。
「シールダーです。真名を応えよとのことでしたらお教えしますが?」
「いや流石にそれは」
止めに入る冬児をロワナは不思議そうな顔で見据える。
「何でだい?別に真名なんて……」
「マスター。彼はまだ貴方の願いを知りませんよ」
シールダーの耳打ちに、ロワナは「あぁ」と気が付いた。
そうして1つ咳払いをするとロワナは人懐っこい笑みを浮かべながらこの場にいる全員に向かって言葉を紡いだ。
「実は言うと、僕は聖杯が欲しくなくてね。願いというのはあの女、メイカーを倒してナチスを崩壊させた時点で達成できるんだ。だからこの戦いが終わったあと、シールダーを君らのどちらかに託したい」
ロワナの発言は、今までのどのマスターとも違っていた。
確かに彼の目的はナチスを倒すことにあるだろう。しかし万能の願望器である聖杯を欲しないということは、即ち叶えたい願いが無いというのと同義になる。
「別に無欲って訳じゃないんだよ?ただその、何というか。僕は目の前の人々を助けられて、それで自分もハッピーっていうのが一番なんだ。人と殺し合ってまで叶えたい願いなんか無い」
その在り方にフランは鼻を鳴らし、冬児は納得した。
そうだ。誰もが聖杯を求めている訳ではないのだ。誰もが我欲の為に、他者を陥れる訳ではないのだ。
そうして彼が思いを一通り話し終えると、フランが手を鳴らしてその場の目を集める。
「取り上げず、シールダーの欠片を誰が貰うかとかは後の話だ。全部メイカーに勝った後の話。今は明日行う戦いのことだけ考えよう」
フランは持ってきた鞄からタブレットを取り出すと、それを全員が見えるようにテーブルの上に置く。この中に魔術師が入ればこんな機械など使わなくとも伝えたいことを伝えられるのだろうが、あいにく冬児はただの学生で、フランはマフィア、ロワナは軍人だった。一見すればよくもまぁこんなにヘンテコな職業の人間が集まったものである。
フランのタブレットに映されているのは喝馬町全体を上空から撮った地図。
喝馬町は町と言うには広すぎる敷地面積を持っており、南部の海岸を覗いて町の全体を外壁とも呼べる山岳が覆っている。地図には所々に×印や○印が書かれており、それには今彼らが居る早眞邸も含まれている。
「×はここまでサーヴァント同士の戦闘が行われた場所。○は私達マスターが潜伏してる場所だ。勿論、私が把握している所だけしか映ってないが。
メイカーの基地があるのは此処、北部の山の下だ」
「地下……?」
冬児の言葉にフランは頷きで返す。
「ハンスの話だとそうらしい。
で、軍を相手にするんだ。奴等の兵力の話だが、お前は確かメイカーの宝具をバーサーカー討伐した時に見たんだよな?」
「ああ。その前も、前のシールダーを倒しに行った時にも」
アルジュナ曰く、あれは固有結界だと言う。世界に侵食するというのに、世界の色を変えない固有結界。
アドルフ・ヒトラーがそこに立っているだけで、彼女の周りを固有結界とし、無尽蔵とも呼べる数の武器・兵器・兵士を呼び出すことができる宝具。
「“
「一昔前の兵器とはいえ、無尽蔵に出されたりしたら厄介どころの騒ぎじゃないな……」
「僕が教えられた通りなら、兵士の数はざっと2000って所かな。あの女の宝具だけじゃなく、本国からナチスの思想を継ぐ残党達を連れてきて兵力を増強したみたいだ」
「2000対8か……」
絶望的な数だ。キャスター陣営、アーチャー陣営、シールダー陣営。この8人だけで2000人と戦うなんて……。
「ん?8?」
そうして冬児は違和感の正体に気が付いた。フランは8と口にしたのだ。しかしそれでは数に合わない。此処に居る人間は、全部で6人なのだから。
そうするとフランは思い出したかのような口振りで言葉を紡ぐ。
「あぁ、ライダー陣営も手を貸してくれるそうだ」
「ッ!?や、矢部崎が!!?」
そう言えば彼女も聖杯統合戦に参したマスターだったのだと今になって思い出す。
矢部崎結香は
ただこの家は魔術師の一族だったという結果だけが何代も後の子孫達にも語り継がれ、それは奇跡的な隔世遺伝を通して魔術回路を身につけた矢部崎結香の耳にも当然入っていた。
それから彼女はひょんなことから聖杯統合戦に参加することになってしまい、その魔眼を駆使して戦場に立つことになってしまった。
何年も幼馴染という関係を貫いてきた冬児も彼女の家が魔術師の一族だったとは知らず、先日のバーサーカー騒動で彼女がライダーのマスターであることを知ったのだった。
「何だ、嫌なのか?」
「あ、嫌っていうか……なっ何でもない」
彼女を戦場に連れて行くのは止めようと言葉にしかけた。が、喉まで出かかったその言葉を抑え込む。
聖杯統合戦に参加しているということ、矢部崎にも何かしらの願いがあるのだ。果たしてそれを止める権利が自分にあるのかと自問自答し、結果ある訳が無いという答えに至り、無理矢理にでも納得することにした。
「ライダーのマスターには作戦決行日に集合してもらうことにする。これで残存兵力8名だが、正直言ってサーヴァントが4体も居るんだ。例え相手が2000だろうと、敵のサーヴァントはせいぜい2体か3体。勝てないことはない。何てたってこっちにはこの阿呆がいるんだからな」
フランが親指で背後のアルジュナを指差すと、彼は気概のある表情で頷いてみせる。
確かにアルジュナの力は相当なものだ。魔力消費の心配さえしなければ……と、冬児はそこで1つ疑問を抱いた。
「なぁフラン。アーチャーへの魔力供給って今どうなってるんだ?」
「ん?あぁ、言ってなかったか。ラインも私達も魔術師じゃないから魔術回路が備わってない。だから別のもので代用している」
通常、サーヴァントへの魔力供給の仕方は二種類しか無い。
1つはマスターからの魔力供給。これが通常の聖杯戦争において一般的な供給の方法。
続いて生者の魂をサーヴァントに食らわせて供給する方法。これは外法の手段として知られている。
魔術師というのは本来秘匿を守るものであり、サーヴァントととしても英雄であるが故に無関係な人々の
それに冬児にはアルジュナがそんなことをする様な英雄には見えなかった。高潔な武人であり善人である。それが大英雄、純粋な行為の執行者であるアルジュナへの冬児の印象だった。
実際、フラン達はそんなことをアルジュナへ強制させていない。フランは服の裾を捲ると左腕の皮膚を顕にする。
そこには彼女の白く美しい肌にビッシリと、『まるで生き物のような血管』が常に蠢いていた。
「何だ……これ……」
「“刻印虫”。私の身体の中にはそういう虫が何匹か入ってる」
虫という言葉に思わず冬児は悲観的な表情になってしまう。
されどフラン自身はそんなことはなく至って平気そうな表情で服の裾を元の位置まで引き下げる。
「要するに身体の組織と引き換えに一時的に魔術回路の役割を果たしてくれる寄生虫だ。うちのファミリーが裏の市場から買ったらしくてな、ボスとラインと幹部以外のほとんど人間がこれを体内に飼ってアルジュナに魔力を送ってる」
アルジュナの表情を見ると、その表情はいつもと違って沈鬱なものに変わっていた。とても申し訳なさそうな自分を恥じているかのような表情。
それに気が付き、フランはアルジュナの肩をバシバシ叩いて珍しく優しい笑みを見せる。
「何お前が似合わない顔してんだよ。アタシらが勝手にお前を呼び出して戦わせてんだ。お前が気負いすることじゃない」
「しかし――」
「これはアタシ達の戦いだ。そうだろ?」
忌憚のない笑みを見せるフランに、冬児は脳裏に過ぎった疑問を突き立てる。
「それは、それはラインは知ってるのか?」
一度躊躇ってから、しかしはっきりと告げた。
一瞬彼女の顔面から表情というものが消失する。しかしすぐに色を取り戻し、取り繕ったかのような笑顔でフランは頬を掻く。冬児を直視できずに部屋の済に目線を置き換える彼女の姿は実際の年齢より幼い様にも感じられた。
「あの子は、知らなくていいんだよ」
切なげにそう一言発したフランに、冬児はそれ以上何かを尋ねることはできなかった。
これも矢部崎同様、彼等の問題だ。自分が割り込むべき問題ではない。
彼女達が救いを求めているのなら冬児は何の迷いもなく手を伸ばすが、虫については一切助けなど求めていない。それは彼女達自身が、他の誰でもない、自分達の意思で決めたのだ。
またも暫しの間沈黙がこの空間を支配する。
脳天気で空気を読めない奴と軍でも評判だったロワナでさえ、この空気に対応出来ずに目を泳がせている。
少しするとアルジュナとシールダーの人格者コンビが目を合わせ、アルジュナがシールダーに手を向けて譲るジェスチャーをし、シールダーは一息吐いてから声を出した。
「皆さん。話の間を折ってしまい大変申し訳ないのですが、私達は皆さんに伝えなければいけないことがあります」
この嫌な空気を破壊してくれたサーヴァントに歓喜の目をロワナは向けると、シールダーもこちらに視線を向けていた。
そうして兵士はようやく思い出す。召喚し、彼と語り合った夜、彼が自分に語った意思を。
それを代弁しようとロワナは傍らのフランには先に告げたのを承知で、この場に居る全員にその事実を告げる。
「悪いんだけどさ。シールダーは戦闘に参加できないんだ」
「!?それって……!?」
驚いているのは冬児だけで、フランやアルジュナはその事実を先に聞かされていた為至って冷静な表情で彼の話を聞いた。
ロワナ何となく気不味そうにしながらも友人の為だと何とか話を切り出した。
「彼は何て言うか……戦うことを嫌ってるんだよ。でもそれっておかしくないっていうか。暴力が好きな奴らの方がおかしいっていうか……」
何とか無い頭を捻り上手いことを言おうとするロワナだが、彼の言葉続く程益々話がわからなくなっていく。
少しするとシールダーが溜息をつき、自分のことを庇う様に話してくれるマスターに穏やかな笑みを浮かべ、迷うこと無く普通の英霊ならば隠すべき真名を悠々と口にする。
「我が真名はヌマ・ポンピリウス。貴方達の国では馴染みのない名前かもしれませんが、ローマという国で皇帝を務めておりました」
このタイミングでの真名の宣言に驚きつつも何の意味があるのだと冬児は首を傾げる。すると間を縫うようにロワナが言葉を紡いだ。
「えっと、彼は歴史上一度も戦争を行わなかった皇帝なんだよ。だから、その」
「信条として戦いたくないと」
フランの厳しい眼がロワナとシールダーの二人に突き刺さる。その迫力にロワナは思わず息を呑む。英霊顔負けの眼光。その意を令呪を使って無理矢理にでもシールダーを戦わせろという意思に汲み取ったロワナは、真面目な顔で首を横に振る。その胸には友人を守りたいという意思が確立している。
「――フッ」
途端に殺気に近しいものを放つフランの表情が解かれた。彼女の表情は笑顔とまではいかなくても何処か満足気なものに変わっている。
「別に強要させるつもり無いんだ。そういうことなら仕方ない」
「ご理解感謝します」
あの皇帝がフランに頭を垂れている。
その瞬間に、冬児とロワナの中にある逆らってはいけない女のカテゴリーの中のランキングがまた更新された。
シールダーの言い分は通った、しかし兵力が足りないという現状は変わらない。
皆が頭を捻っていると、ここまで沈黙を保っていた奇人が誰もが思い付く筈であった案を口にする。
「バーサーカー……狂戦士を呼び出しては如何ですかな?」
「!!」
そう、誰もが思いつく筈なのだ。いや正確には思い付いていた、しかし誰もそれをあえて口にしなかったのだ。
「キャスター、で良いのかそこの山羊男」
「左様。好きな様に呼び名は変えてくれて結構」
少々芝居がかった口調のキャスターに嘆息しつつも、フランは彼の恐らく両目と思わしき部分と目を合わせ口を開く。
「それは理解してる。だけど此処にサーヴァントを2体も使役できるようなマスターはいない」
その言い分は最もで、冬児もフランもロワナも魔術師ではない為魔力量がそう多い訳ではないのだ。通常の聖杯戦争でさえ、強力であればあるほど大量の魔力を消費するサーヴァントを複数使役するなんて考えを起こすものはいまい。
そんなことをすればどんなに腕が立つ魔術師でも一日と持たずその生を終えてしまうだろう。
「ノーノーノー。此処に居るではありませんか」
キャスターはフランの言葉を否定するとその脅迫的な山羊の頭とは裏腹に愉快気な声を出して自身の胸を張った。
「――はっ?」
その様子にその場にいる全員が口を開けて呆然とするが、すぐにその言葉の意味を理解する。
考えずとも解ることなのだが、キャスターというのは一部例外は居るものの根本的には“魔術を扱う者”がそのクラスを名乗ることが許されるのだ。
それは目の前のこの胡散臭い山羊男も例外ではない。
「つまり、
「ええその通り。別段珍しい事でも無いようですがね。過去にも何度かこういう事例はあったようですし」
彼が言うからには不可能ではないのであろう。それにその案に乗らない理由も無い。何しろ戦力が増えるのだから。
「だが魔力はどうするのです?貴方からバーサーカーに送られる魔力は、即ちトーリから貴方に流れる魔力では?」
「そこら辺は心配入りませんよ大英雄殿。この家のあちらこちらには前任のキャスターが残した魔力入りの勾玉が在る。それを使って我輩はある意味単独行動スキルさえも有していると言えますから」
不気味に笑う不気味な男。フランは信用してないのか怪訝な表情をしていたが、冬児は真っ直ぐと自身のサーヴァントに目を向けて嘆願する。
「頼めるか?」
「
そうしてキャスターは準備をすると一言残して一人応接間から出ていった。召喚する場所としては呼び出すのが狂戦士な訳だし、地下室が良いだろうと冬児が言っておいた。
一応カグラの身体を彼処に保管して居た為、前任のキャスターの護符と共に自分の部屋に移しておいた。
「あの山羊男、信用できんのか…?」
不意にフランがそんなことを口にした。彼女の表情は未だに訝しげであり、煙草を吸いながら貧乏揺すりを止めない。
そんな様子に眉を下げ、何とか怒らせないようにしながら冬児が声をかける。
「信用してないなら、何で聖遺物渡してくれたんだよ」
「別に。減るもんじゃないから貸してやっただけだよ」
先日、喝馬町に現れた巨大な竜。その正体は聖杯統合戦によってこの世界に再び招かれた悪の王・ザッハークであり、聖杯統合戦に参加していた数多くの英雄が悪竜を止めようと奮起した。
結果、見事5体のサーヴァントによって悪竜は消滅。十分な魔力供給をされていなかったせいで、無敵とも呼べる
その後、討伐に参加した陣営に監督役からそれぞれ追加の令呪一画と求めるの者には聖遺物が支給された。アーチャー陣営だけは最もバーサーカー討伐に貢献した為
「どうせドロップアウトするだろうと思って預けてたのによぉ。あーあ。欠片一個無くして損したー」
「はっははは……」
そう言いながらもフランは本当に後悔している様子は無く、冬児も安心して皆の為に欠片を使うことができた。
聖遺物といえば、と冬児は思い出したかのように素朴な疑問をフランに投げ掛ける。
「そういえばアイツに何の聖遺物渡したんだ?」
「ん。んー……アレは言って解るもんでもねぇっていうか。召喚されるのはアタシでも予想が付かねぇんだ」
「??」
その意味が冬児には理解できない。
聖遺物というのは、サーヴァントを召喚する際に自分がより有利になる様に使われるものだと聞いてきる。誰だって訳のわからぬ奴を仲間にするより、伝説上で名を馳せた強力な英雄を仲間にしたいと思うだろう。
その理由で言うのならフランの背後に佇んでいる弓兵。アルジュナなんかが良い例だ。彼程の英雄ともなれば、呼び出す為に聖遺物でも使うのが基本だろう。
だからこそ理解できない。聖遺物を使っているのに、呼び出されるサーヴァントが確定してないっていうのは。
「簡単に言うと、アレは“船の破片”でな。その船はギリシャの英雄達が多く乗っていた船なんだ。つまりは」
「つまりはその船、アルゴー船に乗っていた英雄達全員の所縁の品に成る訳で、その中から誰が召喚されるか検討が付かないと」
珍しく頭の冴えたことを言うロワナを、隣な座っていたフランは鬼の形相で胸ぐらを掴むことで制する。
「その通り。でも私の台詞とってんじゃねぇよクソがぁぁぁ!!!!」
「えええええっ!!!?やっやめふごぉっ!!?」
フランの右ストレートが綺麗にロワナの左頬に
そして少しの振動。どうやらその振動は地下から来ているようだった。
となれば考えられる要因は一つ。その場にいるが全員が顔を見合わせて、キャスターがバーサーカーを召喚している地下室まで降りていった。
地下室。全面煉瓦造りで造形されたこの空間に、明らかにこの世のものとは思えない“巨体”が立っている。
冬児達が地下室に到着した頃には、有に2メートルを越すだろうその肉体が地下室に降り立っていた。
鋼と革とできた防具を身に纏い、右手には人一人軽々しく木っ端微塵にするであろう棍棒を握っている。
狂化の影響か赤く濁った双眸は彼が直接見てないものの心さえ震えさせ、その威圧感には流石のアルジュナも息を呑んだ。
その中、たった一人。彼に臆することも驚くこともせず、愉快そうに嗤いながら大仰に両手を伸ばした男がいる。
「おぉ!!遂ぞ遂ぞ遂ぞ!!!この悲願叶ったり!!我が手によって、初めて“使い魔”を召喚したぞ!!貴様は我が手足だバーサーカー!!狂戦士狂戦士狂戦士狂戦士狂戦士ィ!!!!ギリシャの大英雄よ!!貴様はこれから我が血肉と同一の存在となるのだ!!」
それからは彼は嗤っていた。
その姿はあまりに不気味で醜悪で、彼を使役している筈の冬児自身、彼の認識を改め始めていた。
○反省点
バトルなくて読みにくかったかもです。ごめんなさい。
さて夏休みシーズンに突入してグランドオーダー開始まで一歩近づきました。これからは不定期に2話連続更新とかもあるかもしれませんので、皆さん飽きずに読んで頂けると嬉しいです。
あと感想も頂けたらもっと嬉しいです