*現在記載できる登場人物のみ掲示。
『キャスター陣営』
・早眞冬児
この物語の主人公。魔術師を義父にもつ一般人。不遇な苦しみに囚われる少女を救うために聖杯統合戦に参加することを決意する。 蒼銀の鎧を身に纏い、英雄に近い能力を身に宿すことができる。
・キャスター(二騎目)
山羊の被り物をした奇妙なサーヴァント。腕は細く、とてもじゃないが健全な英雄とは思えない出で立ちをしている。
・バーサーカー(ニ騎目)
圧倒的な巨体と人一人を容易に潰すことができる棍棒を持つ大男。狂化していても辛うじて敵味方の区別はついている。その真名はミノタウロス殺しを果たした大英雄、テセウス。
『アサシン陣営』
・サンジェルマン伯爵
歴史上の人物の名を語る中年。堂々と魔術協会に喧嘩を売る。強力かつ大量の人造人間ホムンクルスを所持している。監督役であるキレイと手を組む。
・アサシン(四体目)
海を思わせる青い髪が印象的な青年。背中には槍と弓、腰には二本の刀を持つ。その真名はトロイの木馬で有名な策略家、オデュッセウス。
『シールダー陣営』
・ロワナ.ハンス
国からの命令で極秘理にナチスに潜入していた所、危機的状況に陥り、それをサーヴァントを召喚することで克服する。軍人の為運動神経は銃の扱いは上手いが、頭はそう良くない。
・シールダー(3体目)
白い長髪と赤と白の盾を持った女性のように美しい風貌の男性。その真名はローマ史上にも名高く名が残る皇帝、ヌマ・ポンピリウス。
『ライダー陣営』
・矢部崎結香
冬児の幼馴染である眼鏡の少女。冬児に対して異常なまでの愛情を見せる。 黄金の魔眼を持つ。
・ライダー(一騎目)
黄金の舟に乗るサーヴァント。常に上から目線の性格だが、愛に生きるマスターには情を見せる。
『アーチャー陣営』
・ライングル
イタリアの大マフィア『クリムゾン』の代理ボス。内気な少年で戦いにも気乗りではない。
・フラン
アーチャーのマスターであるラインの護衛。過去の事件から肉体の四分の一を死徒に変えられている。
・アーチャー(一騎目)
青丹色の髪と金属を幾つも身につけた青年。真名はインドの叙事詩『マハーラーバタ』にも載る大英雄、アルジュナ。
・ルツ&マーク
フラン同様、ラインの護衛。
『メイカー陣営』
・ガルム ・ドルギスタン
ナチス現最高指導者。老人でありながら、卓越した武術を身につけ、聖杯を掴む勝つ為ならば手段を選ばない。
・メイカー(一体目)
軍服の長身の女。真名は第二次世界大戦において世界を混乱に陥れた軍人、アドルフ・ヒトラー。宝具は固有結界であり、自らの思想の全てをこの世界に出現させる。
・セイバー(二体目)
赤い天狗面を被った日本風の刀持ち。剣術に長けておらず、悪鬼の様な戦い方で場を奔走する。
・ライダー(二体目)
紅い甲冑の騎士で、先が二つに別れた真っ白な槍を持つ。その威圧的な鎧の風貌とは裏腹に、声色は草原のように爽快な少年のものである。メイカー、セイバーと行動を共にする。
【参加者以外の登場人物】
「バルドリア」
・キレイ・ハーデンベルト
アレーシアの息子。アレーシアの護衛役として付いてきていたが、肉親二人が死亡後聖杯統合戦の監督役として勤める。
・トワイス
オリジンの欠片が擬人化させられた姿。現在は少女の姿をしている。
「聖堂協会」
・熊
埋葬機関所属。№不明。竜種(実物かどうかは不明)の骨から作られた大剣を片手に異端者を狩りに喝馬町に来た。ちなみに熊というのは本名ではない。
「その他」
・壬生カグラ
冬児の代わりに元々聖杯統合戦に参加する筈だった少女。何者かの襲撃に会い、人の形を保てていない。
・壬生安山
カグラの父親。既に死亡している模様。
・早眞トーリ
冬児の父親。封印指定を受けている。
○
決戦まで残り数時間といった夜。
すぐ近くで大量の
否、サーヴァント達の中では気付いている者も一部いたが混乱を引き起こさない様にあえて自身のマスターには伝えないでいた。
当然、そんな戦闘が起こっていることもいざ知らず呑気に趣味に没頭するサーヴァントも存在するのだが。
「きひっ、きひひひひっ……」
早眞邸の地下室に奇怪な笑い声が響く。壁や床が石造りになっており、密封性が高いせいか四方から声が連鎖し、妖魔の巣窟の様な不快さを演出する。
山羊の頭蓋骨を被った男はその被り物の下で狂った笑みを浮かべながら、魔術師である早眞冬児の父、早眞トーリの工房を踏み荒らすが如く其処にあった魔術道具を手に取る。
実際に使ってる訳ではない。手にし、目玉もないのに頭蓋骨の目元に近付けてよく観察するとまた次の道具に手を伸ばす。
それは古代の魔術師が現代の魔術師の工房を見て嘲笑っているのとは程遠く、興味津々にまるで目に焼き付ける様にその道具を見つめているようだった。
「そこで何をやっている?」
その光景を更に背後から眺めている者が居た。
山羊の頭が鬱陶しそうに振り返ると、先程会ったばかりのブロンド髪がよく似合う女が石造りの階段の上で此方を睨んできている。
大抵の異性であれば誰もが目を見張るその容姿も、奇怪な容姿と精神の
姿を確認するだけでキャスターは視線を自分の手元に移した。金髪の美女よりも壊れかけの魔術道具に目を見張る男に、それを意識してないにしてもフランは苛立ちを覚えて壁に拳を叩き付ける。
拳を通して屋敷全体が大きく振動したが、それでもキャスターは再度振り向こうとはしなかった。
関わりたくはないというよりかは、完全に興味が無いといった様子だった。
それに再びフランは激昂し拳を壁に叩き付ける。今度は振動するどころか、石造りの壁が一部粉砕した。
壁の石が瓦礫となって崩れるのと同じ程のテンポで、フランが激しく呼吸を繰り返す。
それで漸くキャスターも慈悲の心が芽生えたのか振り向くことは無いものの、質問に答えてやろうと頭蓋骨の被り物に隠された口を開く。
「特には。主人の父君が魔術師だと聞いたので同じ魔術師として視察に。貴方様は何故此処に?アーチャーのマスターの愛人殿」
「ッ!!お前が如何にも裏切りそうな見た目してるから、脳天気なお前のご主人様に代わって見張りにな」
その言葉を対してキャスターは「左様ですか」と一言返して作業に没頭する。ただ見るだけではあるが、その行動は構造まで確かめているかの様な動きだった。
その仕草にフランは苛立ちを覚えつつも、この場を離れる訳にはいかないと煙草を咥えて壁に背を付く。幸いフランが其処に残ろうともキャスターがお得意の悪態をつくことはなかった。
このサーヴァントと出会ってからフランはこのサーヴァントを一度も信用してはいない。
山羊の頭蓋骨、黒の燕尾服の上に纏った藍のローブ、青白く健康的とは決して言えない肌の色、やや掠れた声。
この見た目で怪しくないと言う奴は聖人ぐらい清き心を持つものだけだろう。
それに世界各地で行われている聖杯戦争でも、裏切ることで有名なクラスは特にキャスターだ。どうもどちらかが柔軟な思想を持った人間でないと魔術師というのは中々相容れないらしい。
それに関しては今回の聖杯戦争において、参加しているマスターは殆ど魔術師ではないから安心だ。皆何らかの手で不完全な魔術回路を手に入れた紛い者ばかりなのだから。
ただ魔術師同士のいざこざが無いにしても、このサーヴァントは何故か信用してはならないとフランの感が彼女自身に訴えている。それは彼女の中に混ざる死徒の血が告げているのかもしれない。宿主の危険を、事前に。
「そういえば」
不意にかけられた声にフランは意識を外に戻す。気が付けば一通り魔術道具や魔道書に目を通したキャスターが顔と思われる山羊の頭蓋を横に向けて此方に目を向けていた。
最も、山羊の頭蓋骨には眼球が無いが為に実際は目を向けられているかどうかは解らないのだが。しかし、山羊の頭蓋骨のただただ空虚な目玉の穴が、此方を視ている気がしてならなかったのだ。
「アーチャーのマスター殿はもう何日も捕まっているのでしたなぁ」
「それが、何だ」
フランは咄嗟に身構えたが、力が入った肩に豪く細い腕が置かれる。告げられる言葉の色は何とも穏やかだった。
「早く救出できるといいですな」
そんな良い人の
防御していた箇所とは別の場所を殴られた様な感覚を味わってフランは唖然としつつも、握り締めてクシャクシャになった煙草を手から落とし誰も居なくなった背後に振り返ると、一言漏らした。
「何だあいつ……?」
○
「あぁ……うん。いや気にするな。矢部崎を頼むよ、ライダー。ああ。じゃあな」
フランが地下室から帰って来たとほぼ同時に冬児の携帯が激しく振動した。
電話の相手の切羽詰まった様子から最初は誰だか解らなかったが、話の内容と一度だけ耳にしたことがある声のおかげで、途中であの黄金の木舟を操るライダーだと気が付いた。
話の内容を聞くに確かに彼女の焦燥具合が頷けた。
正体不明の
撃退したかと思ったら次に出現した強力な黄金のサーヴァント。
そのサーヴァントは敵対することなくライダーを受肉させた。
驚愕の出来事の連続であったが、会いに行きたいという冬児の言葉をライダーは断った。ライダーのマスターである結香が精神的に衰弱し切っているらしい。
理由は断定できないが、ライダーが受肉したことでいきなり魔力供給の配線が切れたことが関係してるらしい。
聖杯を使っての受肉となるとこうはならなかっただろうが、黄金のサーヴァントが行った方法は少々無理矢理な外法だったらしく。配線が無理矢理切られたことで多大な不具合が起きてると。
ライダーは黄金のサーヴァントの何らかの技法によって一個体の生命体としてこの地上に再臨してしまったが為に、魔力の自家発電が可能になった。つまりはマスターからの魔力供給はもう必要無くなり、サーヴァントでも無くなったらしい。
彼女がこれからどうするのかは不明だが、とりあけず結香が目覚めるまでは彼女の傍に居るらしい。
「ということは、ライダーは参戦できなくなった訳か」
フランの言葉に場が緊迫する。
それはつまり、最大の軌道力を無くしたことを意味するのだから。
「まぁ仕方ねぇか……別にアイツらが悪いわけじゃねぇ。いきなり襲ってきやがった何処かのアホ共が悪い。……クソっ。タイミング悪ぃ……いや、こちらの作戦を知って敢えて……」
そこでフランの訝しげな目線が一瞬だけ冬児とロワナに向けられるが、少しすると鼻で笑って首を振った。
「いや無い無い。人畜無害野郎と正義マンが裏切りとかする訳ねぇ」
「なっなんかその言い方、素直に喜べないんだが……」
「正義マン!!それ良いね!!!」
「あ、嬉しいんですね、ロワナさんは」
自分で作ってしまった緊迫感を消す為に敢えて軽い言葉をフランは発したのだろう。
戦力が欠けた。その事実はこれからの彼らの行動に大きく影響を及ぼすだろうが、ネガティブな意見で陰湿な空気になることだけは避けられた。
一番不安だったキャスターもこの瞬間だけは空気を読んで悪態をつかなかったと冬児は安堵をしたが、どうやら地下室から持ち出した魔術道具に興味を示してそれどころではなかったようだった。
「さて、ライダーが戦いに参戦できなくなったことで作戦を少し改めなくてはいけなくなった。誰か案はあるか?」
フランの呼びかけに皆が考え始める。
当初の予定ではメイカー達が選挙する地下基地に潜入するのはアルジュナ・バーサーカー・キャスター・冬児・フラン・ロワナの6人で、早急にラインとマークとルツを救出後、3人はライダーに任せて戦場から離脱させ、次にメイカーを討つというのが作戦だった。
ざっくりかつ大胆な作戦だが、まともに戦うことなく人命救助を第一に考えての作戦であるならば、英霊が4人もいてできない筈が無い。
しかし、逃す係かつ後々から後方支援をしてもらう予定だったライダーが戦場に参加できない。
「たぶんアイツらは衰弱し切ってる。それを抱えてとなると……少ししんどいか。チッ。ラインはともかく、他二人のガタイがでかすぎる」
「でも、助けるんだろう?」
「………当たり前だ。あいつ等はアタシの
フランは恥ずかしげに答え、アルジュナは嬉しそうに微笑んだ。
きっとその意志が変わることはないのだろう。早眞冬児が何としても壬生カグラを元の姿に戻したいように、ロワナ・ハンスがメイカーの横暴から祖国を守りたいように、フランもまた家族もしくは仲間を守る為なら何だってする筈なのだ。
曲がらぬ信念。故に少し恐ろしいとアルジュナは考える。
もしその信念が折れた時、どうなってしまうのか。
○
夢を見た。
自分ではない誰かの夢。或いは過去。
立っているのは戦場。
数多くの兵士がいた。槍を持っていた。剣を持っていた。弓を持っていた。
気が付くと自分の傍らには見覚えがある顔が立っている。
何故彼が此処に居るのか、夢を見ている筈のラインには理解できない。
彼は遥か遠く、浮遊する黄金郷を見ながら呟いた。
――許してください。
そうして彼は弓を引き絞り、矢を放った。
彼の矢は一発一発外れること無く兵士達の急所に直撃し、遂には浮遊する黄金郷まで陥落させてしまった。
彼の味方の兵士達は大いに喜ぶ。
誰もが彼を英雄だと言う。誰もが彼を高潔な人間だと口にする。
しかしそれを彼自身は決して認めようとはしなかった。
自分はそんな人間ではない。数多の命を踏み躙り、逃げ惑う人々に弓を放って何が英雄か。
彼の心は晴れない。曇天の空は彼の父を思わせる。
そうして決戦の時は近付いた。
長く続いた戦争。残すは最大の強敵であるあの男、“施しの英雄”と武勇を決するだけになる。
しかし彼は怯えていた。生命を奪う事に。
今から戦う相手は今まで命を刈り取ってきた兵士達の様な雑兵ではない。本物の戦士、本物の英雄だ。自分が幾ら本気を出そうと勝てないかもしれない相手。
彼は怯えていた。それは自分の命が相手に奪われることに対してではなく、これ以上誰かの命が消え去ってしまうことを危惧して。
震える身体に友人の言葉が染み入る。
――アルジュナ。てめぇはてめぇの義務を果たせ
彼の友人。黒い肌の豪く勇猛な男が彼に意気込んでいる。
恐らく彼こそが彼の英雄の一人、クリシュナだろう。『マハーラバータ』において、英雄アルジュナの友人とされた神の化身。
つまりはこの風景は――。
またも世界が変わる。また戦場に戻って来た。
横に聳え立つは、純粋な行為の執行者、アルジュナ。
数メートル離れた岩の上に立つのは、施しの大英雄。
「貴様には逃げるという選択肢もあった筈では?」
施しの英雄が問を口にする。細見の身体とは裏腹に、その四肢からはあらゆるものを圧倒する闘気が溢れている。
ただ無造作に伸ばされた髪は、透き通るような白さを保ち、眼光は研ぎ澄まされた剣のように鋭い。剥き出しの胸元には埋め込まれた赤石がも相まって艷やかな妖しさを醸し出している。
普通の人間ならばそれに当てられただけでも失禁ものだ。
しかし、彼が臆することは無かった。
彼は火の神から授かった弓を手に、眼前の英雄に声を掛ける。
「例え我が身の前に数千の道があろうと、進むべき道は当の昔に決まっている」
そう口にして、純粋な行為の執行者は笑みを溢した。
勇猛で、自身の信じた正義を背負った一人の英雄は蒼き双眸で彼を見据えた。
そこで無表情なアルジュナの宿敵も僅かに表情を綻ばせた。
そうして彼等は武勇を決しあった。
ラインはようやく自覚する。いや、とうに自覚なら出来ていた。
それでもこの夢から覚めたく無いと思っていたのだ。
だってこれは彼の夢。自分が呼び出した、敬愛すべき彼の夢だったのだ。
○
「――てください。起きてください」
声だけで目覚めることはできた筈なのに、腹部に酷い鈍痛がする。長い夢を見ていたせいで定まらなかった意識は、籠もった様な空気と給仕服の女によって強制的に現実に引き戻される。
そうだ、自分は敵に捕まったのだと。
狂戦士を討伐しようと英霊達が集まり、力を決したあの夜に、ラインは部下二人と共に黄金の木舟の使い手に捕縛された。
気付いたときにはもう遅い。どれだけ抵抗しようと相手は英霊。自分達が足掻こうとも勝てる筈がなく、メイカーが支配するこの地下の独房に連れてこられた。
あれから何日経ったのか、もうラインは覚えてない。
ただここに居る間の時間は長く、そして苦痛で、それを感じる度に色んな人の顔を思い出した。
「夕飯だそうです。落ち着いてお食べになってください」
自分一人の為によくこんなことをすると思う。
戦闘能力が無いことは相手も解っているというのに、両手両足と口は食事時以外は常に拘束され、変な格好をしたセイバーによって令呪は使えないようにされた。令呪を使われるとアーチャーを召喚される為の配慮だろう。
拘束を解かれても食事を口にしようとしないラインに給仕服の女は困り顔で尋ねかける。
「お食べに、なられないのですか?」
「………」
女には自分が衰弱しきって食事も口にできないように見えるのだろう。薬物投与などを恐れている訳ではない。そんなことが目的ならば、手っ取り早く注射器か何かで済ませるだろう。
つまりは、女の予想が正しい。ラインは衰弱している。ただし、肉体ではなく精神が。
このままでは薬物など使わずとも弱りきった精神は崩壊を始めるだろう。
それを感じ取ったかのように、ベッドの白いシーツの上に座り放心状態になったラインの手に、横に座った給仕服の女の手が重ねられる。
「ッ!!」
それが善行だとしても悪行だとしても、ラインの頭の中にフランという大切な人の顔が思い浮かべられることで拒絶反応が起き、その手を振り払おうとする。
振り払おうと力を入れた手はラインの意思とは関係なく、縦横無尽に動き給仕服の女の頬を甲の部分で引っ叩く。
当然ながら給仕服の女はそれを止めることなどできず、ラインは後になってから『女性の顔を殴った』という罪悪感に飲まれ慌てて謝罪の言葉を口にする。
「あっあの、ごめんな、さ、いっ」
弱りきった精神にその
表情はあからさまに狼狽し、目元には今にも溢れ落ちんばかりの涙が浮かべられている。
震え切り、クシャクシャにした紙のように表情を崩したラインを、給仕服の女は文句も弾劾の言葉を口にする訳でもなく、ただ抱き締める。
母のように、愛する人のように。
「いいのです。貴方が辛いのは解っています。安心していいいんですよ……私は、貴方の味方です」
言葉は甘い蜜の様に。崩壊しかけた精神を溶かす様に混ざり合う。
「貴方を辛い目に合わせるのは聖杯戦争という戦いでしょう……?ならば戦わなくてもいいではありませんか。貴方は化物達相手に十分に戦いました」
背中を撫でる仕草は逃げ場を無くすのと同時に心を穏やかなものにする。
「貴方を、貴方の愛する人を危ない目に合わせるのは、貴方のサーヴァントと戦いでしょう……?」
陶酔。弱りきった精神に逃げ場ない。目の前の女が、ラインには救いの手を差し伸べる女神のようにも思えた。
ラインが眠ったあと、当然のように独房から給仕服の女が出てきて鍵を閉める。
女は何事も無かったかのように石で出来た道を歩いて行く。
「趣味が悪いな。貴様も」
給仕の女に声が掛けられる。
赤い天狗の面、和服、刀。バーサーカーに負けず劣らずの狂気を発するサーヴァント、セイバーが何ともつまらなさそうな声で給仕服の女に語りかけていた。
「あの小僧を口説き落とし、弓兵に自害でもさせるつもりか?」
「アレは厄介すぎるからな。無駄な戦力消費はしたくはないと思わないかい?セイバー」
給仕服の女は異形の存在であるサーヴァントと会話しても臆することなく、否まるで彼の主人とでも言うべき態度でセイバーの問に答えながら束ねた髪を解く。
すると瞬く間に給仕服の女はセイバーが良く知る姿に変わる。
女のものとは思えないほどの鋭き眼光と、良く似合った軍服。ヒールは高く、腰にはセイバーとは違い西洋刀をぶら下げている。
その姿は、此度の聖杯戦争において一体目のサーヴァント、メイカーことアドルフヒトラーのものだった。
「今度こそ、大英雄を天から降ろそう」
※今回の反省点
グランドオーダーに夢中で執筆活動が現在進行形で遅れている可能性があること。
つつついに始まりましたグランドオーダー!!
もう興奮しきってペンが進むのやら進まないのやら!!
ただ、結構な数の色んな場所の英霊が出てるので、この二次創作のサーヴァントと被ったら少しだけやりにくくなるかなぁと心配です……ゲーム自体は面白いんですけどね。メンテは長い。仕方ない。