*現在記載できる登場人物のみ掲示。
『キャスター陣営』
・早眞冬児
この物語の主人公。魔術師を義父にもつ一般人。不遇な苦しみに囚われる少女を救うために聖杯統合戦に参加することを決意する。 蒼銀の鎧を身に纏い、英雄に近い能力を身に宿すことができる。
・キャスター(二騎目)
山羊の被り物をした奇妙なサーヴァント。腕は細く、とてもじゃないが健全な英雄とは思えない出で立ちをしている。真名はアレイスター・クローリー。
・バーサーカー(ニ騎目)
圧倒的な巨体と人一人を容易に潰すことができる棍棒を持つ大男。狂化していても辛うじて敵味方の区別はついている。その真名はミノタウロス殺しを果たした大英雄、テセウス。
『アサシン陣営』
・サンジェルマン伯爵
歴史上の人物の名を語る中年。堂々と魔術協会に喧嘩を売る。強力かつ大量の人造人間ホムンクルスを所持している。監督役であるキレイと手を組む。
・アサシン(四体目)
海を思わせる青い髪が印象的な青年。背中には槍と弓、腰には二本の刀を持つ。その真名はトロイの木馬で有名な策略家、オデュッセウス。
『シールダー陣営』
・ロワナ.ハンス
国からの命令で極秘理にナチスに潜入していた所、危機的状況に陥り、それをサーヴァントを召喚することで克服する。軍人の為運動神経は銃の扱いは上手いが、頭はそう良くない。
・シールダー(3体目)
白い長髪と赤と白の盾を持った女性のように美しい風貌の男性。その真名はローマ史上にも名高く名が残る皇帝、ヌマ・ポンピリウス。
『ライダー陣営』
・矢部崎結香
冬児の幼馴染である眼鏡の少女。冬児に対して異常なまでの愛情を見せる。 黄金の魔眼を持つ。
・ライダー(一騎目)
黄金の舟に乗るサーヴァント。常に上から目線の性格だが、愛に生きるマスターには情を見せる。その真名は日本最古の物語の人物、かぐや姫。
『アーチャー陣営』
・ライングル
イタリアの大マフィア『クリムゾン』の代理ボス。内気な少年で戦いにも気乗りではない。
・フラン
アーチャーのマスターであるラインの護衛。過去の事件から肉体の四分の一を死徒に変えられている。
・アーチャー(一騎目)
青丹色の髪と金属を幾つも身につけた青年。真名はインドの叙事詩『マハーラーバタ』にも載る大英雄、アルジュナ。
・ルツ&マーク
フラン同様、ラインの護衛。
『メイカー陣営』
・ガルム ・ドルギスタン
ナチス現最高指導者。老人でありながら、卓越した武術を身につけ、聖杯を掴む勝つ為ならば手段を選ばない。
・メイカー(一体目)
軍服の長身の女。真名は第二次世界大戦において世界を混乱に陥れた軍人、アドルフ・ヒトラー。宝具は固有結界であり、自らの思想の全てをこの世界に出現させる。
・セイバー(二体目)
赤い天狗面を被った日本風の刀持ち。剣術に長けておらず、悪鬼の様な戦い方で場を奔走する。その正体は日本三大悪妖怪の一柱、崇徳上皇。
・ランサー(二体目)
紅い甲冑の騎士で、先が二つに別れた真っ白な槍を持つ。その威圧的な鎧の風貌とは裏腹に、声色は草原のように爽快な少年のものである。メイカー、セイバーと行動を共にする。
【参加者以外の登場人物】
「バルドリア」
・キレイ・ハーデンベルト
アレーシアの息子。アレーシアの護衛役として付いてきていたが、肉親二人が死亡後聖杯統合戦の監督役として勤める。
・トワイス
オリジンの欠片が擬人化させられた姿。現在は少女の姿をしている。
「聖堂協会」
・熊
埋葬機関所属。№不明。竜種(実物かどうかは不明)の骨から作られた大剣を片手に異端者を狩りに喝馬町に来た。ちなみに熊というのは本名ではない。
「その他」
・壬生カグラ
冬児の代わりに元々聖杯統合戦に参加する筈だった少女。何者かの襲撃に会い、人の形を保てていない。
・壬生安山
カグラの父親。既に死亡している模様。
・早眞トーリ
早眞冬児の養父。
○
目が回る。
全身を駆け巡る痛み、目眩、吐き気。つい数日前のあの日を思い出す。
早眞冬児という少年が聖杯統合戦という戦争に参加したあの日。運命の夜。
しかし今現在体を駆け巡る痛みはあの時よりも鋭く、そして刻々と人間としての機能を停止させに来ていた。
「君のことを調べたよ。早眞くん」
床に這いつくばっている少年に軍服の女が語りかける。冬児にはその声はまるで反響する様に全方向から聞こえ、メイカーが何処に立っているのか見当もつかない。
「養父は封印指定の魔術師。君自身も魔術師としての素質があり、そして養父から受け継いだ英雄を身に宿す鎧を持っている。中々格好が良い設定じゃないか。B級映画にも至らない駄作の主人公のようだ」
メイカーは手帳の様なものを見ながら話をしているのか、僅かに紙が擦れる音が聞こえる。
「君自身は至って普通の人間、というのが我らが同包からの報告だった。私自身資料には目を通したのだが、君の人生自体に魔術師が深く関係しているのは確かだが、君自身には何の変化もない。が、一点奇妙な点が見受けられた」
冬児が胃や腸の中に溜め込んでいたものを吐き出したところでメイカーは鷹の様な目付きでその姿を睨んだ。
メイカーが手にした手帳には聖杯統合戦が始まる1日前の出来事が記されていた。早眞冬児が壬生カグラをアサシン陣営から救出しに行き、最初のキャスターを出現させたあの夜の出来事。あの時点で十の欠片から十の英霊が、サーヴァントとしてこの地上に再び現界した。
が、本来それは有り得る筈の無いことだったのだ。
十のサーヴァントが出現することではない。そんなもの過去の文献では7対7の戦争が行われていたという記録もある。
有り得ない筈が無いとメイカーに思わせた要因は、他でもない、凡百だと思われていた早眞冬児だった。
彼がサーヴァントを呼び起こせるのがおかしい、否彼が生きているのがおかしいのだ。
「君は一体目のアサシンとそのマスターにズタズタに体を引き裂かれ、嬲られ、そして本来壬生家の人間がキャスターを呼び出す為に用意した工房へと階段から転がり落ちた。
既に瀕死の状態だった君が石の階段を転がり落ちてまだ生きている、それは何とも虫の良すぎる話だと思ったのだが……魔術的な加護も受けてない君がどうやって生き残ったのか、私には検討が付かないよ」
そう。早眞冬児はあの夜、あの場所で死ぬ筈だった。
しかし彼の意識が冥界を彷徨うことは無く、彼の意識は別の場所へと向かった。
それは早眞冬児自身もメイカーも知らない、ある場所へと。
「私はそれが聞きたかったのだが、今となってはどうでもいいことだ。時間だ。そろそろ私は行くよ。外で兵士達が待っている」
彼女を止めることは早眞冬児には出来ない。
もとよりその意識はその身体から既に抜け出していた。
○
火炎が飛ぶ。
何かに触れれば暴発するその火炎を白き槍が弾き落とす。
真紅の鎧、白い槍を持ったランサーは未だかつて無いほどに高揚していた。
楽しくない、不満だと相手を本気にさせたつもりが、今ではそんな軽口も叩けないほどに相手の猛攻に押され始めている。
一息も付けない程に必殺の矢が全方向から飛んでくる。
その槍を弾き返しながら、数発弾き返せず真紅の鎧に確実に傷を付けられながら、ランサーは笑っていた。
何という男だ、何という英雄だと。
かの大英雄は円卓に連なる自分をこうも簡単に攻めることができるのかと。
笑いながら、反撃の隙を伺いながら、真紅の鎧で全身を防御した青年は森を飛び交う隠者へと声を掛ける。
「はははははっ!!凄いなっアーチャーっ!!君はトリスタンよりも弓が上手みたいだっ!!」
「お褒めに預かり光栄です」
相手を褒めた所でランサーは僅かな油断をしてしまった。背後に出現したアーチャーの気配に気が付けず、鎧を貫通して右太腿と左肩に矢が突き刺さる。
程なくして火炎を纏った矢は爆発し、更に魔力で編んだ鎧を砕く。
「つぅ………!!」
フラフラと揺れ、爆発によって素顔を顕にさせられてもランサーは先程と何ら変わることなく槍を構える。
赤き鎧の中から現れた騎士の顔は、想像よりも遥かに幼かった。アルジュナは20代前半辺の姿で現界しているが、彼は明らかに10代半ばのあどけなさがまだまだ抜けない顔の作りをしている。
声だけで予想はしていたが、風に揺れる銀髪も合わせて美少年といった感じだ。
当の本人は鎧が壊されたのが相当不服なのか、何処に居るかも解らないアルジュナに向けて膨れ面を見せる。
「ぶー……僕の鎧……」
相当大切なものだったのか、それとも単に壊されたのが気に食わないだけなのか。
肩と太腿から血が流れながらも、関係なしにランサーは槍を振り回し肩に乗せると息を吐いて苦笑する。
「まぁ、流石だね。驚いたよ、本当に強いんだね」
戦闘が一時中断されたことでアルジュナは魔力消費を極力抑えながら息を潜めた。森と同化するかの如く気配を消したアルジュナの居場所は、Aクラスの直感を持つランサーでも探知することはできず、その件に関しては諦めることにして話すのを続ける。
「生前はどんな化物と戦ってきたのか、どんな長い道を歩いてきたのか。君の真名を聞いてない僕は知る由もない。でも、君が大英雄だってことはよくわかった。僕のところの王様より凄いんじゃないかな……たぶん」
まるで自身の主君のことをよく知らないように語る少年にアルジュナは顔には出さず心の中で微笑む。
しかし、その微笑みは一瞬にして消え去ることになる。
穏やかな風が変わり、殺気とはまた違う肌が痺れる様な迫力がアルジュナを襲う。
「へー……そこか」
アルジュナが身構える。
言葉の後にランサーが確かに此方に目を向けて笑ったからだ。
ランサーが槍を片手で持ち上げる様にして構える。槍の位置は肩の上、槍を持ってない方の手は遥か後方よ木の上に立つアルジュナへと向けられている。それもアルジュナの弓兵としての実力、千里眼があってこそ見える距離だというのに、ランサーはそれ無しにアルジュナへと狙い定めている様に見受けられる。
来る。アルジュナは確信する。
恐らくは槍の投擲。宝具の開帳。
彼の宝具がどれほどのものなのかは解らないが、迎え撃つならば自身も全力でなければとアルジュナも弓を引き絞る。
ブリテンの『円卓の騎士』とインドの『
もしかすれば町一つが消し飛ぶかもしれないその戦いを、一つの気配が止める。
圧倒的破棄のぶつかり合いの間に現れた小さな存在。
ランサーにはそれが酷くか弱い生物に見え、アルジュナにはそれがとても大切に見えた。
弓を引き絞る手の力が軽く弱まるほど、その小さな非力な存在はアルジュナの意識を惹きつける。
「マスター……!!」
其処に立ち尽くしていたのはメイカーに幽閉されていた筈のアルジュナのマスター、ラインだった。
「………」
「マスター……?」
彼の姿に一瞬安堵の色を見せたアルジュナだったが、その様子を見てそれは呆然とした不安に移り変わる。
何かがおかしい。虚ろな眼、生気の無い表情。
確かにそれはいつものラインが見せるものとは違うが、それだけではない。
唐突に嫌な予感がしてアルジュナは木から降りて己がマスターに近付いて行く。その間、ランサーが仕掛けてくる可能性もあったが、彼が真の騎士だというのであれば不意打ちなどする筈もないとアルジュナは期待にも似た確信を抱いていた。
当然、仮にも円卓の騎士に連なるものが不意打ちなどする筈も無く、ランサーは多少不服そうにしながらもその光景を傍観することにした。
それに深く感謝し、アルジュナはゆっくりと足取りを進める。己がマスターの真意を知る為。彼に絶対の信頼を置いたアルジュナは迷うこと無く歩を進める。
そんな彼の歩行を、誰でもないラインが止める。
ラインがアルジュナへと向けた掌の裏には令呪が刻まれている。本来マスターに従順であり、また主に幸が巡る様に振る舞うアルジュナへは、よっぽどのことがない限り強制命令権など必要ない。
「“我が従僕に告げる――”」
使うにしてもサーヴァントが不在の時に襲撃に合い、サーヴァントを呼び戻す為の『強制転移』ぐらいのもので――
「“アルジュナ 僕の前から姿を消せ”ぇっ!!!」
ラインの手の甲に刻まれた令呪が一画欠ける。その瞬間、アルジュナの身体を眩い光が包み込んだ。
「っ!!?まずいっ、マスっ━━」
アルジュナの対魔力でも防げぬ令呪の縛りが彼を何処かへ転送する。それはこの地上か、はたまた座か。それは令呪を使用したラインにも解らない。そんなことを考える気力も、彼にはもう残されていない。
ただ、今この時この瞬間、最強の英霊であったアルジュナは聖杯統合戦から姿を消した。
○
「はい、また僕の勝ち♪」
少女が盤の上に最後の一手を打って無邪気に笑う。対面する青年の方は渋い表情で既に決着がついたその盤を見つめていた。
別段悔しい訳ではないが、勝負に勝たなければならない理由があった為、青年はもう一度盤の上に駒を並べ始める。そんな様子を見ながら少女はまた楽しそうに笑いながら言葉を挟んだ。
「今日は豪く頑張るじゃないかキレイっ。僕は遊び相手が出来て嬉しいけどさ」
少女は嬉々として青年が駒を並べるのを見つめる。
青年、キレイには解らなった。少女が何故こんな表情が出来るのかが。
少女はキレイの祖父によって作り出された、人造生命体だ。それもただの人造生命体ではない。
今回の聖杯戦争、喝場町における聖杯統合戦において監督役が自身の身を守る為に使う聖杯の欠片、即ちあらゆる事例の原初の英霊の再臨を促すオリジンの欠片を擬人化させた生命体なのだ。
目的は監督役が強力な戦力を有しているのを外部にバラさない為だろうが、それにしては目の前の少女は意志を持ち過ぎていた。
「トワイス」
「!……なんだい?」
久しぶりにキレイに名前を呼ばれたのが照れ臭かったのか嬉しかったのか、砕けた表情を見せながら
当のキレイ自身は至っていつもの無表情を崩さないまま、盤の上に駒を並び終えてから目の前の彼女に質問する。
「貴様は理不尽だとは思わないのか?」
「?何が?」
「貴様の現状がだ。欠片の具現」
トワイスの表情が固まる。その表情を見ても構わずキレイは言葉を紡ごうと口を開き、自陣の駒を一つ動かした。
「元は魔力を貯蔵する為だけの道具であったとしても、貴様は今意思を得ている。貴様は口ではあーだこーだ論理に合わぬことを言うが、本心は口にしない。だから一体目のオリジンのサーヴァント、“ラ・ムー”を切り捨てて2体目のオリジンを呼び出そうと提案した時も自分の意見を口にしなかった」
聖杯統合戦の監督役、アレーシア・ハーデンベルトとアストル・ハーデンベルトを、自身をフランスの伯爵であり魔術師でもあるサンジェルマンと名乗る男が殺害した後、男はキレイに協定関係を結ぶことを申し付けた。
サンジェルマンは聖杯の完成を求めるものではあったが、聖杯を私欲の為に行使しようと考える者ではなかった。
サンジェルマンの配下には数万の人造人間の軍勢とアサシンのサーヴァント。敵に回すと厄介だが、此方で管理できるのであれば有益になる。
彼と手を組んだキレイだが、この行動はサンジェルマンにとって少しだけ意外でもあった。キレイ自身が知る由もないが、肉親が二人も殺されているというのに業務に意識を回し、あまつさえその
勿論、長い時を生きたサンジェルマンにとって“凶人”と呼ばれる者は何人も見てきた。しかしこんな若い内から、肉親から最大限の愛を持って育てられてきた子供がこんな行動が出来るというのが彼にとっては意外だったのだ。
故にサンジェルマンは、気に入った子供の為に一つ提案をした。
キレイが所属する機関の最終目標が聖杯を起動する所にあるのであれば、もっと戦力を増強するべきだと。
開き過ぎた孔はこれからもっと強大なサーヴァントを呼び出す。それこそ英雄に囚われず、魔獣・一時的に力を抑えられた神霊が召喚される可能性もある。
そうなると、聖杯統合戦を監督する立場として、そして聖杯を起動しなければならない者として戦力の増強は必要だった。
サンジェルマンが提案した戦力の増強とは最強のサーヴァント、オリジンを意のままに使うこと。
しかし前任の監督役、アレーシア達がトワイスを使って召喚したオリジンのサーヴァントは誰かに向ける敵意というものが消失していた。というよりかは自身の意志が消失している、力だけを持った人形と言った様子。
あらゆる太陽信仰の元素である“ラ・ムー”の力は絶大で、それこそ暴走し竜化した
強力ではあるが使役するのに莫大な令呪を使うサーヴァント。実質、令呪を大量にその身に刻んだ監督役以外では使役するのもままならず、例え監督役でもそう何度もその力を使うことはできない。
力は強いが燃費は悪い。何処ぞの兵器と似たようなものだ。
そこでサンジェルマンは、いつものにやけ面をその顔面に貼り付けながら提案した。
――じゃ、一回欠片との回線を切って、別のサーヴァントを召喚しよう。
欠片との繋がりを立つ。確かにそれは令呪があれば可能だ。またオリジンは強力な英霊で欠片との回路を切った後でも、他の英霊達とは違って一週間ほどは限界し続けることは可能だ。
英霊の再召喚も、通常の聖杯戦争ならまだしも、今回の聖杯統合戦なら容易に行うことができる。
つまりは元のオリジンを残し、放置して、別のオリジンを呼び出す。
キレイは反論せずその意見を承諾したが、ギリシャ神話の英雄であるアサシンだけは首を横に振った。彼の無骨なまでの真っ直ぐさが精神がそれを良しとは思わなかったのだろう。その後、サンジェルマンの役者口調の説得により、納得さえできなかった承諾させることはできた。
対してオリジンの実質的支配者にあたる
自分は英霊を呼び出す為のただの道具に過ぎず、彼らをどう扱うかは好きにすればいいと。
その時からキレイの心には、僅かな不信感がまるで染みのように残り続けていた。
「貴様は欠片が人間であろうとした姿だ。本来はただの道具に過ぎないが、貴様は自分の意思を持ち、その意思で好きなように姿を変えられる。
以前は少年であり、その前は老婆であり、その前は成人男性だった。貴様が暇を持て余す為だけに姿を変えているというのならば話はそれまでだが――」
キレイが自身の駒を動かす。それと同時に毅然とした態度でトワイスに問い掛けた。
「貴様は、人を愛しているが故に姿を変えるのではないか?」
「………」
返答は無い。駒を動かす様子もない。仕方がないので相手の返答を促す様にキレイは自身の意見を述べ続ける。
「何故貴様が人を愛すのかは私には解らない。何しろ私は人の愛が解らない。だから私に
人でありながら漠然とした善性と悪性の区別が無く、ただあることを受け入れるキレイにとって、道具でありながら好きなものを好きだと言ったり言わなかったりするトワイスは、自分よりも眩しい物に見えた。
ただその感情は、憧れと言うには余りに無機質でもあるのだが。
「私にはそれの善悪の区別すら付かない。聖人ならば貴様を良しとするだろうし、人間を正義とする崇拝者であるならば貴様を良しとはしないだろう。
ただそんなことを置いておいて、私は貴様に問いたい。貴様の口から聞きたいのだ」
キレイが覚悟を決めた双眸でトワイスを睨み、そして言葉が紡がれた。
「お前は、本当に人間を愛しているか?」
「ああ、僕は間違いなく人間を愛してる」
返答は余りにも早かった。
自分から言葉にしてすっきりとしたのか、トワイスは穏やかな笑みをキレイに向ける。
対するキレイは珍しく面をくらい、僅かの間目を見開いたかと思うとトワイスへと質問を続けた。
「それは、それは何故だ?」
「何故って。君は僕のことを見透かしていたんだと思ってたけど、そんなことは無いのかな?」
いつもの調子を取り戻し、トワイスはクスクスと楽しげに笑いながら自身の駒を動かした。キレイは黙って自身の駒を進めることで相手の言葉の続きを促し、トワイスはそれを理解した上で言葉を紡いだ。
「僕は人間が好きだ。それは多分、
「それは人類の主か?それとも我らバルドリアの主か?」
「後者」
トワイスが鼻歌交じりにそう口にして駒を動かす。キレイは次の手に頭を悩ませながらも返答を口にする。その後少しの間駒を動かす二人の手が止まることはなかった。
「それがそのまま貴様の考え方に直結するものなのか?」
「勿論さ。でも、そうだね。変化はあった。
僕は初めて意思を持った時よりも、もっと人間が好きになったから」
トワイスが駒を進める。それは盤の上でのこのゲームにおいて、キレイとの勝敗を決める最も効果的な一手であった。
思わずキレイが顔を上げる。そこにはまるでこの世の全てを愛そうとする聖人の様な笑みを浮かべた少女が一人。
「だから理不尽なんかじゃないのさ。大好きな
キレイには理解ができない。何かを好み、何かを愛するという考え方が。
問い掛けたのは自分で、答えが必要だったのも自分だ。
なのにどうしようもなく納得がいかない。在るのはトワイスに対しての怒りではなく、自分に対する僅かな不信感。
だからキレイはほんの僅かに唇を震わせながらその正体さえも突き止めようとしたのだが――
「――ならば、ならば」
「それ以上は僕にも答えてあげられない。それを理解して君が人の善性を支持するのか、悪性を良しとするのか、君が決めることだ。だから、その為に必要だというのであれば」
トワイスが意気込んだ様に上着を脱ぐ。胸元に記された
赤い文様は、
「これさえ抜き取れば1体目のオリジンは君の思うがままだ。君の言うとおり僕は人間が大好きでね。命令したりするのは嫌なのさ。君のお母さんはバーサーカー討伐の時に令呪使ったらしいけど、どう?元気してる?」
「……ああ」
トワイスには母が死んだことを伝えていない。
人間が好きなトワイスのことだ。母の死を聞けば悲嘆に溢れかえるだろう。
ただキレイにはそれが許せない。自分の抱けなかった感情を、トワイスが抱くのはどうしようもなく羨ましいと感じてしまうから。
キレイは立ち上がる。手を手刀にし、目の前で穏やかな笑みを浮かべる少女に離別の言葉を掛ける。
「思い残すことは?」
「道具にそれを聞くかい?……でも、そうだね。友人の行く末を一緒に肩を並べて見れなくて残念だ」
恐らくは自分に投げられたであろう言葉を聞いてキレイは眉一つ動かさず、そうかと応える。
心ある人間であれば人の姿をした道具を殺すことに心を痛めるだろう。
「では、さらばだ」
だがそれを彼が感じることはない。
●
礼拝堂に内側から扉が開く音が響く。
椅子に腰掛けていたサンジェルマンは軽薄な笑みを浮かべ、入ってきたキレイを迎え、アサシンは別任務の為不在、既に召喚された2体目のオリジンは姿を見せていなかった。
入室したキレイの右手にはトワイスの胸に埋め込んであった本体――オリジンの欠片が握られている。
サンジェルマンはそれを見て嬉々とした様子で言葉を並べる。
「ご苦労様だよキレイくん。感想とかはあるかな?」
「無い。それよりこれでいいのか?」
さして興味のないように血で濡れた欠片をサンジェルマンに手渡し、自身は目を背ける。
サンジェルマンはそれさえも含めて面白いと想い、欠片を手の上で遊ぶ様にバウンドさせながらキレイに意識を向ける。
「ああ、問題ない。欠片の娘はどうなったんだい?」
「それを抜き取れば自然に消えた。元より欠片を基盤に作られた霊体、サーヴァントの様なものだったのだ。核が無くなれば自然と朽ちる」
「ほう。それは見てみたかった。……さて」
サンジェルマンがオリジンの欠片を持って歩き出す。少し歩くと祭壇の前で止まり、慣れた動きで跪く。
しかしキレイはすぐにあの男がフランスのサンジェルマン伯爵だということを再認識する。サンジェルマン伯爵といえば史実でも多くの王族と面識がある人物だ。自分より身分の高い者への接し方は他の誰よりも上手いのであろう。
だからこそあの悪竜の狂戦士も騙されたのだから。
「王よ。御身の写し身、此処に献上致します」
サンジェルマンの声に答えるかの如く、跪いたサンジェルマンの目の前の机の上に黄金の粒子が集まり出す。
粒子は大きく広がりそして1つに収束すると、人間の形をしてその姿を現す。燃え盛る様な橙の髪に黄金の鎧、両腕は胸の前で組んでサンジェルマンを見下すようにして口を開く。
「
「御身に此れを受け取ってもらわねば私共の願いに関わります。どうか」
「……よい。貴様の薄っぺらい誠意は伝わった。
それだけ言うと黄金のサーヴァント、2体目のオリジンはつまらなさそうにサンジェルマンから目を離し、キレイへと向ける。
威圧的な眼光に心が竦む。例え自分が罪を犯していなかったとしても何か悪行を働いたのではないかと思わせるほど強い光。
神獣の如き眼光を持つサーヴァントはキレイに向かってフンと鼻を鳴らすと、何か光る物を右手に出現させキレイへと投げ付けた。
受け取ってからキレイはその光る物の正体に気が付く。
其れは紛う事無き、聖杯の欠片の1つに他ならなかった。
「拾いものだ、くれてやる」
「では王よ。ライダーは既に?」
「いや、命を刈り取ってはいない。美しい花であろうと王手ずから摘む訳がなかろう。しかしまぁ、命は吹き込んでおいた」
「………?」
オリジンの言葉にサンジェルマンは僅かに首を傾げる。しかしオリジンは既に興味なさげに姿を消した。
サンジェルマンが跪くのを辞めたということは既に此処にはあの王は存在しないのだろう。
「あの王様は今まであったどの王様よりもキツイね……流石あの“英雄王”よりも前の王様だ」
サンジェルマンは肩を竦めると手にしたオリジンの欠片を懐にしまい、視線をキレイの手元にあるライダーの欠片に向ける。
「それ、使うのかい?使うんだったらいい触媒を渡すよ」
「……私は監督役だぞ?」
「アサシンは別任務中だし、君にも護衛は必要だろう?」
「必要ない」
「必要さ」
「………」
また何か企んでいると思いつつキレイは欠片を無造作にポケットに仕舞う。使うかは使わないかは今決めることでもない。
そんなことを考える暇も無く、キレイの心の奥底には僅かな疲労が渦巻いていたのだ。
※今回の反省点
話のぶつ切り方が下手すぎた。
近況報告。蛮神の心臓集まらなくて涙目だったら、英雄王が救いの手を差し伸べてくれたでござる。AUO、マジAUO。AP回復時間短縮も嬉しいです。
メイカー編はもうちょっと続きますよ。
没サーヴァント
名前:バーサーカー《》
登場話数:「」「」
マスター:早眞冬児
真名:酒呑童子
性別:女性
身長体重:164cm、300㎏←
属性:混沌・悪
イメージカラー:黒緑
特技:
好きなもの:/嫌いなもの:
天敵:
「能力」
筋力A 耐久A 敏捷C 魔力A 幸運E 宝具A
「クラス別能力」
狂化A
「詳細」
「技能」
「宝具」
『』
Rank: 種別:宝具 レンジ: 最大捕捉:
・
説明:途中まで考えてデータ消失と共に没になったサーヴァント。見た目美少女・でも中身鬼の大将だから質量やばめっていう設定で、テセウスが生み出される前はこのサーヴァントがキャスターによって召喚される予定でした。
考えついたのは去年辺りにExtraCCCやり終えた時、確定しかけたのはまた去年にアポクリの没サーヴァント集見た時。ゴールデンも途中まで参加予定で、絡ませるつもりでした(笑)グランドオーダーで使いたい。