※連続投稿ですので、お手数ですがもしまだならこの前回からお読み下さい。
《キャラクター紹介》
*現在記載できる登場人物のみ掲示。
『キャスター陣営』
・早眞冬児
この物語の主人公。魔術師を義父にもつ一般人。不遇な苦しみに囚われる少女を救うために聖杯統合戦に参加することを決意する。 蒼銀の鎧を身に纏い、英雄に近い能力を身に宿すことができる。
・キャスター(二騎目)
山羊の被り物をした奇妙なサーヴァント。腕は細く、とてもじゃないが健全な英雄とは思えない出で立ちをしている。真名はアレイスター・クローリー。
・バーサーカー(ニ騎目)
圧倒的な巨体と人一人を容易に潰すことができる棍棒を持つ大男。狂化していても辛うじて敵味方の区別はついている。その真名はミノタウロス殺しを果たした大英雄、テセウス。
『アサシン陣営』
・サンジェルマン伯爵
歴史上の人物の名を語る中年。堂々と魔術協会に喧嘩を売る。強力かつ大量の人造人間ホムンクルスを所持している。監督役であるキレイと手を組む。
・アサシン(四体目)
海を思わせる青い髪が印象的な青年。背中には槍と弓、腰には二本の刀を持つ。その真名はトロイの木馬で有名な策略家、オデュッセウス
『アーチャー陣営』
・ライングル
イタリアの大マフィア『クリムゾン』の代理ボス。内気な少年で戦いにも気乗りではない。
・フラン
アーチャーのマスターであるラインの護衛。過去の事件から肉体の四分の一を死徒に変えられている。
・アーチャー(一騎目)
青丹色の髪と金属を幾つも身につけた青年。真名はインドの叙事詩『マハーラーバタ』にも載る大英雄、アルジュナ。 現在は行方不明である。
・ルツ&マーク
フラン同様、ラインの護衛。
【参加者以外の登場人物】
「バルドリア」
・キレイ・ハーデンベルト
アレーシアの息子。アレーシアの護衛役として付いてきていたが、肉親二人が死亡後聖杯統合戦の監督役として勤める。
・トワイス
オリジンの欠片が擬人化させられた姿。キレイによって元の欠片へと戻され、消失した。
・オリジン(一体目)
監督役によって呼び出された強力なサーヴァント。自我を失わされており、現在は欠片との繋がりを切断されているが自身の魔力でこの世界に限界し続けている。
・オリジン(二体目)
かの英雄王よりも前にこの世界に君臨していた王。その戦闘能力は前任のオリジンをも凌ぎ、手にした錫杖を一振りするだけで多次元空間へと繋がる孔を作り出す。
「聖堂協会」
・熊
埋葬機関所属。№不明。竜種(実物かどうかは不明)の骨から作られた大剣を片手に異端者を狩りに喝馬町に来た。ちなみに熊というのは本名ではない。
「その他」
・壬生カグヤ
冬児の代わりに元々聖杯統合戦に参加する筈だった少女。何者かの襲撃に会い、人の形を保てていない。
・壬生安山
カグラの父親。既に死亡している模様。
・早眞トーリ
早眞冬児の養父。
○
既に十ニ体ものサーヴァントがこの地上に召喚され、そして戦いによって、或いは策略によって息絶えた。
その証拠に喝馬町第一教会に保管されている小聖杯には既に、魔術師が一生使っても使い切れない膨大な魔力が貯蔵されている。
「いやぁ……凄まじい。いや、禍々しい。一体これのどこが神秘だというのか。英霊達の無念を腹に蓄えるその姿、
「何だ?長生きの自慢か?マスター」
教会の地下、不感知の魔術や結界が幾層にも貼られた部屋で一人独白に吹けるサンジェルマンに、背後に現れたアサシンが声を掛ける。
「おやアサシン。帰ってきたってことは、メイカーはやられたのかな?」
「ご名答。正に戦争だったな、ありゃ」
「神話が殆ど戦いと愛の物語であるギリシャ出身の英雄が何を言うのやら」
「何だとぉ?苦労して帰ってきたサーヴァントへの労いの言葉もねぇのかい。マスター」
「君の7つある宝具なら何があろうと帰ってこれると確信してるよアサシン。それと君のマスターは私ではなくキレイだ」
へいへいと顎鬚を撫でながら返事をするアサシンだが、軽くあしらったサンジェルマンも決して彼の力量を甘く見ている訳ではない。
英雄、オデュッセウス。本来ならばアーチャーとして呼び出されたほうがしっくり来る英霊であるが、アーチャーで呼び出しては宝具が弓だけに限定される為、アサシンとして呼び出したほうが強力になるという極めて異例なサーヴァントだ。
その理由は彼の持つ複数の宝具にある。
オデュッセウスは神話において、トロイア戦争を終結に導いたり、故郷を目指して船で旅したりと、最期に自身の息子に殺されるまでにそれなりの大冒険を行っている。
故に彼の伝承は様々で、それが宝具として昇華している。
例えば有名なものでいえばやはりトロイの木馬である。トロイア戦争において硬直した戦場を変える為にオデュッセウスが考案したその作戦は、巨大な木馬の中に兵士を入れ、油断した敵兵達を奇襲するというものだった。
その逸話が宝具として昇華し、彼の身に“
このような多彩な宝具を持つアサシンだからこそ、サンジェルマンはメイカーへ一時的に手渡したのだ。
危惧していたアーチャーと新たなバーサーカーの戦力を確認する為に。もし目的が達成できなかったとしても、例え記憶だろうと己の痕跡を全てを消す宝具、“
暗躍し、奇襲し、こと生存するという点において、オデュッセウスほど適任なサーヴァントはいないとサンジェルマンは確信しているのだ。
だから誰とも本気で戦わなくていいと支持していた筈なのだが。
「いやぁ、思いの外いい相手とぶつかった」
などとアサシンは上機嫌で口走っていた為誰かと激突したのだろう。それに一瞬頭を悩ませていたが、アサシンはそれを引いてもお釣りが出るほどの土産話を持ってきていた。
「早眞冬児の肉体に……聖杯……?」
サンジェルマンが伝えられた報告の内容を表情を綻ばせながら呟くと、アサシンは煙草を吹かしながら真剣な表情で頷いた。
「メイカーの言葉だが、確かにそれっぽいことを奴はやってやがった。何てたってあの話に聞くヘラクレスさんの技使ってたんだからな」
ヘラクレスといえば、オデュッセウスがその鎧を勝ち取るためにアイアスと激闘を繰り広げた大英雄、アキレウスと肩を並べるギリシャのニ大英雄の一人だ。
アサシンの話によると、早眞冬児の肉体には何処ぞの聖杯戦争で使われた聖杯が埋め込まれており、その戦争で召喚されたサーヴァント達の記録を使ってその身に英雄の力を宿すことができるらしい。
だからあの男はヘラクレス同様、ベズワルの力も鎧としてその身に宿すことができていたのだ。
現在確認されている2体のサーヴァントの情報から各地の聖杯戦争の記録を洗い流さないとならなくなった。
話を終えた後のアサシンは妙に自慢気というか、楽し気にサンジェルマンの顔を伺ってくる。
「どうだ?あの男は十分に脅威か?」
「――いいや」
サンジェルマンは笑っていた。
アサシンの言葉を否定しながら、内心ではそれを認めていた。
聖杯を体内に宿している?英霊を肉体への擬似的召喚?
馬鹿げている。そんなことができるのはせいぜい宝石の翁ぐらいだと思っていたが……。
「存外、侮れないな。今の魔術師も」
アサシンが首を傾げる中、サンジェルマンは祭壇の上で浮遊する小聖杯を見詰めながら言葉を漏らす。
だが、誰がどれほどの力を持とうと変わらない。聖杯を求めるというこの物語も既に佳境に入り込んでるのだ。
これから起こることは全て後の祭りに他ならない。勝敗は既に決し始めている。
鍵は2つ。
キレイ・ハーデンベルトにある行動を起こさせ、その彼にある思想を抱かせること。それが重要だ。
サンジェルマン自身が行えば最も効率的に聖杯は発動するのだが、それではいけない。
自分は今を生きながら過去の生物だ。
この世の結末を知りたい。その願いを叶える為には自分のような過去の生物ではなく、今の人間がそれを作らねばならないのだ。
結末。結末。そう結末だ。
誰もが予想する展開か、それとも予想だにしない展開か。
どちらでも構わない。どちらにしても面白いからだ。
ただその2つに至るにはまだスパイスが足りない。
サンジェルマンは魔術師の名にそぐわない現代機器を懐から取り出すと、それを耳にあて誰かと通話し始めた。その光景を不思議そうに見守っていたアサシンに、通話を終えたサンジェルマンが笑みを浮かべて振り返る。
「アサシン、良かったね。決まったよ」
「??何がだよ?」
「君の再就職場所」
笑顔で意味不明な言葉を並べられ、アサシンはまた煙草を咥えながら首を傾げた。
○
キレイ・ハーデンベルトは空を見上げる。
深淵なる宙に彩られるのは僅かな星の光のみ。
それを美しいと感じるものもいるのだろう。彼自身も視覚的には微かにそう思う。
が、ただそれだけだ。
その美しいと思う気持ちは、本やテレビで『星は美しいと語った』誰かの受け折にすぎず、自分の感情ではない。実際は宙に浮かぶ星など部屋に取り付けられている電球と何ら変わらないとさえ思えてしまう。
「あら?何を物思いに更けているのです?マスターぁ」
背後から甘い声が纏わり付いてくる。恥ずかしげも無く密着してくる身体は女人のものだ。
甘く艶めかしい、濃密な女の声。絹のような
女の美しさは異常だ。男であるならば誰もが卒倒しかねない美しさをその身に宿し、それに見合う扇情的なドレスを着ているというのに、キレイはまるで無機物を見るような目で女に目を移らせる。
「離れろ、“ライダー”」
「あら、妾は貴方は一心同体。別に良いではありませんか……それとも女の体はお嫌い……?」
ライダーの指がキレイの胸の上で滑る。まるで爬虫類の如く、舐め回すように動く指にキレイは僅かな嫌悪感を懐きその手を掴む。
ライダーはそれを手を握られたと思ったのだろう、蠱惑的な笑みを浮かべてわざとらしく「きゃっ♡」と悲鳴を漏らすと、振り向いた主に上目遣いで視線を向け返す。例え向けられた視線が嫌悪を顕にしたものだとしても。
「あら、情熱的な視線……。ゾクゾクしてしまいますわぁ……♡」
「………」
恍惚とした表情にキレイは頭を悩ませる。
サンジェルマンの支持で呼び出した英霊。ギリシャ所以の聖遺物だと聞いたから、召喚するまではどんな英雄が呼び出されるのかと少しばかり期待していたが、呼び出された存在は屈強な英雄でも誇りの胸に抱いた女戦士でもなく、娼婦のような妖艶さを身に纏った女だった。
その後真名を聞かされた時益々キレイは頭を悩ませることになるのだが、サンジェルマンにとってはこの女を呼び出すことこそが狙いだったらしく、彼女を見た途端のサンジェルマンの喜びようといったら異常だった。一瞬ただの助平親父だと思わせるほどに。
サンジェルマンの話によると、彼女こそ“最強のライダー”であるらしい。
確かに、ライダーの騎乗スキルと宝具は規格外のランク“EX”だ。しかし……。
「ねぇマスター。寝室に向かいませんかぁ?妾ぁっ。もう我慢の限界ですぅ……」
「………」
幾ら強力な宝具を持っていても本人がこの性格ではどうかと思う。キレイはトワイスとはまた違った言動の相手に頭を悩ませつつ、掴んだ手を乱暴に離して教会の中へ入っていこうとした。
ライダーはというとその様子に口を尖らせジト目で背中を見つめていた。
「あぁんっ……いけず。どんな男の人でも妾のような美女に迫られればイチコロなのですが……もしかして、淑女のほうがお好み?攻められるより攻めたいタイプ?それとも嫌よ嫌よも好きのうちっていうマゾさんがあえて嫌がる素振りを見せることでもっと虐めてほしいっていうアレ、」
「――令呪を持って命ず」
「あぁっ!!ごめんなさいマスターッ!!冗談!!ほんの冗談でございますぅっ!!」
令呪が刻まれた腕を見せるとあっさりと引き下がった女を見て溜息を吐き、教会の中に入ろうとドアノブに手を掛けると今度は真剣な声色でライダーが語りかけてくる。といっても、彼女はどんな声を出そうとも妖艶さが欠けないのだが。
「でもマスター……私の宝具の発動方法は知っているでしょう?貴方の願いの為にも、妾の願いの為にも、貴方は妾と交わらなければならないのですよぉ?」
長い髪を揺らし自身の唇に人差し指を添えて嗤うその姿は
「貴様の宝具はどうしても、そうしなければならないのか?」
「ええ♪それこそが妾、多くの怪物を産んだ化物のシンボルですから♪」
「………」
すぐには返答せず眉間に指を添える。そのままキレイは何も言わずに教会の中へと入っていった。
そんな主の背中を見てライダーは困ったような笑みを浮かべて首を傾げ、見当違いの言葉を発した。
「もしかして……タタナイのかしら……?」
●
悩んだ表情で礼拝堂に入ってきたキレイを開幕一番で出迎えたのは、恥知らずにもこんな場で煙草を吸っているアサシンで、彼は外の様子を見ていたのかくつくつと愉快気に笑いながら此方を指差してきている。
流石にその表情には苛立ちを覚えキレイも口を三角にしてむっとした。
「………何だ」
「いっいや、ぶふぅっ。なっなんでもないっ………っ」
わざとらしく口を抑え腹を抱えた様子が妙に腹立って、令呪を使ってやろうかと思ったが、奥から出てきたサンジェルマンが苦笑しながらそれを止める。
「こらこら止めなさいアサシン。うら若い青少年にはあんないけないお姉さん早いだろ?そういうことだよ」
「どういうことだ。私は何も思っていない」
「ぶふぅっっ。そっそうだなっ。童貞にはまだ早いかっ」
「アサシン。貴様自害させられたいのか……?」
和気藹々と話す男連中の声を聞いて外から話題のライダーが入ってくる。サンジェルマンはその姿に気がつくと手を振って挨拶した。
「やぁライダー」
「こんばんは伯爵様。マスター、それと下品なアサシン」
「おい俺だけなんで待遇違うんだよ」
ライダーはアサシンの追求を無視し、奥やかしく扉を開くと外から人が数人入ってくる。
一人はびっしりと黒いスーツを着た小太りの中年の男で、見事に携えた口髭を指でなぞっている。
その男の後をついてくるように対象的な真っ白い髪の瓜二つの少年少女が入って来た。
キレイを含め、サンジェルマン以外は誰だか解っていない様子で、入ってきた先頭の中年男はキレイを無視して肥えた手でサンジェルマンに握手を求める。
「はじめましてサンジェルマン伯爵。此度は聖杯統合戦に呼んで頂けて光栄の極みです」
「いえいえフォルギス殿。此方こそ手を貸して頂いて感謝します」
珍しくあのサンジェルマンが教師面ではなく、一人の人物を敬うようにして握手を返す。
キレイが訝しげな視線を送っているとサンジェルマンは思い出したかのように、中年男に手を向けて紹介をする。
「あぁ紹介するのが遅れていたね。彼はガバラ・アスタリーク・フォルギス。此度の聖杯統合戦において私達を支援してくれる、協力者さ。
フォルギス殿、此方我が同胞のキレイ・ハーデンベルト。まだ若いですが見事に監督役として勤め、思慮深く、腕も確かです」
「おお、そうですかっ」
まだ状況の整理もつかないキレイの手を油切った手で握りしめ、フォルギスは軽薄な笑みを浮かべた。
「よろしくお願い致しますぞ」
一般人であるならば見た目でまず嫌悪するのだろうが、キレイはどうにも目の前の中年男が、内面的な意味で心底を疑わしく思ってしまった。
その間にサンジェルマンが中年男の背後に立つ少年少女の元まで駆け寄り、中腰になって何処から取り出したのかわからない棒付きの飴玉を二人分差し出す。
「こんにちは。お名前は何かな?」
「………」
「………」
「挨拶をせんか!!馬鹿者共!!」
黙り込む少年少女達を見てキレイの手を乱暴に払い除けて、フォルギスは人が変わったように激昂した。づかづかと地団駄を踏むように礼拝堂の床を歩き、今振り上げた平手で少年少女の頬を引っ叩こうとしたのを――
「おい」
それまで傍観していたアサシンが止めた。
フォルギスも魔術師なのだろう。常人とは遥かに遠い存在であるサーヴァントの姿を見て息を呑み、振り上げた腕からは徐々に力が抜ける。そうしなければアサシンの握力によってその腕は握り潰されていたことだろう。
「………」
「……ぐっ、サーヴァント風情が………!!」
「その辺にしておきなさいアサシン。フォルギス殿、子供はそう簡単に手を上げるものではない。そこのアサシンは高潔な英雄でね。曲がったことは嫌いなのだよ」
フォルギスは怯えながらもアサシンのことを睨んでいたが、サンジェルマンにまで口を出されてしまい大人しく引き下がった。
そうしてサンジェルマンは変わらない微笑みを浮かべて再度少年少女に目を向けて飴を差し出す。
「お名前、教えてくれるかな?」
「………スコル」
「………ハーティ」
少年の方が先に答え少女のほうが後に答えた。
実は言うとサンジェルマンは先にフォルギスから彼らの名を聞いていたのだが、彼らとコミュニケーションを取るために最初に名前を訊いたのだ。
それを悟らせないようにサンジェルマンは優しい笑みをにっこりと浮かべ、二人の手を取った。
「スコルくん。ハーティちゃん。君達にはこれから重責を背負ってもらうことになる。でもそれは私達にとっても重大な事なんだ。手を貸してくれるかい?」
「ええそりゃ勿論」
「サンジェルマンはガキ共に聞いてんだろうが。黙れおっさん」
横槍を入れてきたフォルギスに、明らかにフォルギスより若々しい風貌のアサシンが釘を指し双方睨み合う。
サンジェルマンもアサシンの意見に同意しているらしく、フォルギスの言葉は無視して少年少女達から返答が帰ってくるのをただ待った。
しばらくして沈黙し続けていた少年少女のうち、少年の方が小さく息を漏らす様に返答する。
「僕らにしか……できないことなら……」
少年が少女の方に目を向けると、少女は少年の腕に掴まりながら同じ様に一度だけ頷いた。その様子にフォルギスは忌々しげに舌打ちをし、サンジェルマンは満足げに頷く。
「ああ、ありがとう。二人共、お腹は減ってないかい?アサシン、二人を奥へ」
「あ?何で俺が?」
「何でって、私以外じゃ君がこの中で一番適任だろう?」
アサシンは周りに目を向ける。一人は軽薄で暴力的な親父で、一人は無表情かつ人の心が解らない青年で、一人は明らかにR-18な女だった。
これは致し方ないと頭を掻き、少年少女達の元へわざわざ迎えに行かずとも多少歩くのを遅くして付いてこい人差しでちょいちょいと合図する。
少年少女は二人で顔を見合わせ、ヒソヒソと喋った頷き、その背中を追っていった。
アサシンと少年少女達が去った後、サンジェルマンは変わらない笑みでライダーに目を向ける。別に敵意を向けたものではないが、この場に自分はいるべきではないと察したのだろう。ライダーはその場にいる全員に恭しく頭を下げて一礼すると霊体化して姿を消した。
フォルギスはその様子に呆気に取られていたが、サンジェルマンは礼拝堂の椅子の1つに腰を掛け低くした声色で話し始める。
「確かに、彼らが起動呪文を知っているのですね?」
「え、ああ。ええ。呪文自体なら私も読み上げることができるのですが、どうにもあの魔術師の血族じゃないと聖杯は反応しないようでして……」
突然キレイにとっては意味のわからない話をしだす二人に訝しげな目線を送っていると、サンジェルマンはわざとキレイがいるのを気がついたような素振りをして視線を合わせる。
「さっきの少年達はね、君ら“バルドリア”が神として崇めてきた魔術師の末裔なんだよ」
「!!」
今回の聖杯統合戦の発端であった特殊宗教組織バルドリア。巨大な力を持たずとも、その歴史は長く、始まりは一人の魔術師であったとキレイは母親や祖父に教えられていた。
その魔術師はいずれくるであろう人類の滅亡を憂い、その運命を変えようと同士と共に奮起したらしい。
その成果が擬似の聖杯。願いを叶える万能の釜の模造品である。
余談であるが、その同士のうちの一人がキレイやアレーシアの先祖である。
魔術師の願いは裏切り者の手によって一度は叶わずじまいになってしまったが、その後同士の末裔達によって聖杯は十に別けられ現存している。
彼らは来る時まで英霊を呼び出すことできる欠片を秘匿し続け、そして最も聖杯と魔力的相性が良い極東の地方都市にて聖杯戦争を始めた。
それが聖杯統合戦。此度の聖杯戦争だ。
監督役の護衛として戦地に渡るにあたってそれなりの情報は聞かされてはいたが、起原の魔術師たる方の血族がいるとは聞いていなかった。
「2人、ともか?」
「ああ2人共。全く瓜二つだよ」
続けられたサンジェルマンの言葉は少年少女の顔が互いに似ていることをさしたかと思ったが、まるで昔を懐かしんでいるようにも見えた。
しかし、子息がいるのは別にいい。その程度であれば別に聖杯戦争に何の支障もきたさない。
「しかし、何故こんな所に連れてきた?こんな所に来たところであんな子供は何の役にもたたんだろう」
「尊敬する主の子息に対してもその態度とは君は本当にあれだね。悪い意味で平等主義者だ。
彼らにはこの聖杯統合戦を盛り上げる為、そして君をバージョンアップさせる為に重大な儀式を執り行ってもらわねばならない」
「バージョンアップ……?何を言っている?」
バージョンアップ?それもサーヴァントではなく自分を?
耳慣れない言葉にキレイは首を傾げるもそれ込みでサンジェルマンは笑っているようにも見えた。
サンジェルマンは立ち上がり、頭に被ったシルクハットを深く被り直すと、今まで一番口角が釣り上がった不気味な笑みで強大な何かに対して宣戦布告する。
「さぁ開幕間近だ。この都市を火の海に変えるが、君たちはどうする?この時代の、そして過去の英雄達」
○
目が覚める。
後頭部に当たる柔らかい感触は愛用してる枕のもので、腹部にかけられたシーツもいつも早眞冬児がいつも就寝時に使っている物だ。
筋肉痛に似た痛みが体を襲って来るのを無視して、何とか辺に目を向ける。
見慣れた風景が目に止まる。使い慣れたソファや食器、テレビや冷蔵庫が目に入る。
「―――」
それだけであの戦場から帰ってこれたのだと安堵できた。
「やっと目を覚ましましたね。早眞くん」
不意の声に冬児は目を見開いた。
上半身だけ起き上がった自分の背後から聞こえる女性の声はよく聞いたことがある少女のものだった。
「矢部咲……」
名前を呼ぶと、彼女は眼鏡の下で申し訳なさそうに目を伏せながらもゆっくりと頷いた。
「おはようございます」
「お前……どうしてここに」
そうだ、彼女と黄金舟に乗るライダーは確か未確認のサーヴァントと戦い、そして敗退し負傷したと聞いていた。
しかし一見矢部咲は何一つ怪我をおってないように見える。
「早眞くんを心配してですよ。ほら、横になってください」
「いっいや、それよりフランとロワナさんは!!?」
無理矢理寝かしつけようとする結香の手を傷つけないように払い除けて、一緒に戦った仲間二人の安否を確認する。自身のサーヴァントの方は未だ二人共魔力供給が行われているから問題ないと確信できるが、あの二人は生身の人間だ。
もしかしたらメイカーにやられてと悪漢が襲ってきていた冬児の期待に応えるように、結香も沈んだ表情で迷ったように口を開く。
「フランさんは……無事です。今は傷の治癒に時間が掛かっているようですが、命に別状はありません」
「!よっ良かった……」
冬児は安堵する。
そうだ、元よりフランには常人離れした治癒能力が備わっている。彼女の性格を考えても、そう簡単に死ぬ筈がないのだ。
「じゃぁロワナさんも」
「………」
冬児が期待を込めた視線を送ると、結香は益々表情を曇らせた。
彼女が悪いわけでも無いのに、口にするのをとても申し訳なさそうに声を震えさせて。
「シールダーのマスターさんは………」
溜め込まれ、一瞬迷いがながらも矢部咲結香は事実を紡ぐ。
「戦死……されました……」
「―――」
一瞬思考が止まる。
ロワナ・ハンスと早眞冬児の付き合いは長くはない。むしろ会って数日程度の仲だ。
それでも知り合い、そして目的の為に意気投合した人物が命を落としたと聞いただけで何とも言えない虚無感が冬児を襲う。
しばらく放心し、結香もそれ以上何を言っていいかわからず黙り込んでいると、部屋の奥から壁を叩く音が響く。
二人して目を向けると、其処には現代風の衣装を着て長い髪を腰辺りで束ねた少女がしかめ面で立っている。
「いいかしら?」
声を聞いて漸く気が付く。その彼女の正体が、ライダーのサーヴァントである“かぐや姫”だということに。
「私のマスターからある程度の事情は聞いたのね?」
結香の横、座布団の上に姿勢良く座った尋ねて来たので冬児は戸惑いながらも頷きを返す。
それからライダーは自身の主に目を向けて了解を取ってから言葉を紡いだ。
「結論から言うとメイカーは消滅したわ。欠片は回収できなかったけど、ナチスの兵隊達も消失。元よりメイカーの宝具によって呼び出された出来損ないのサーヴァントの軍勢だったからでしょう。
次にシールダー陣営も消失。マスターの方は誰にやられたかは解らないけれど、シールダーは魔力供給が行われなくて自然消滅でしょう。此方は欠片を回収してるわ」
ライダーは懐から淡く黄金に輝く木箱を取り出すと、それを開く。中には自分が持っているキャスターやバーサーカーの欠片と同一のものだと思われる聖杯の欠片が保管されている。
「シールダーも、か……」
またもや肩が重くなる感覚を覚えながら冬児は布団を握り締める。
その様子を見てライダーは眉を下げ、次の瞬間には何をするのかと思えば一息ついて、深々しく両手と額を床につけて怪我人の冬児に謝罪した。
「……えっ!!?なっ何してるんだ……!?ライダー……」
その様子にマスターである結香も驚きを隠せずに口元に両手を当てて忽然としている。
「御免なさい。私達が、いえ、私があんなサーヴァントに負けたから貴方達は必要以上に傷付いてしまった。予定通りに進んだのならアーチャーは消えなかったし、貴方達も負傷しなかった筈。余計な犠牲も出なかったかもしれない」
「ッ………」
ライダーの言葉に結香はハッとして同じく申し訳なさそうな表情になり俯く。
確かにライダー達が予定通りメイカー討伐についてきてくれていたのなら結果は変わっていたかもしれない。
しかし、そんなことは、もしものことなのである。
「顔を上げてくれライダー、それに矢部咲。お前達が悪いわけじゃないんだ。敵はその、正体不明のサーヴァントなんだろ?」
「でも」
「でもじゃない。もういいから、それより俺はライダーに聞きたいことがあったんだ」
彼女達を安心させる為に作った笑顔を一度消して、真面目な表情でライダーを見据える。
それはメイカー討伐戦前に聞いた情報の不備を確かためる為だった。
「受肉したって、ホントか?」
「………ええ。見ての通りね」
ライダーは苦笑しながら両手を広げる。
確かにライダーは名実共に“人”になっていた。
そりゃ、元が人界を超えたサーヴァントである為、魔術回路や身体能力はその時の名残を残しているのだろうが、何というか感覚的にそれは人だと認識せざるおえなくなっている。
サーヴァントを見た時、魔術回路が備わっている人間ならば一目でそれが自分とは違う次元の存在だと理解できるのだが、彼女を見ている今もその感覚は起きない。
「欠片も奪われて欠片との接続も断絶されたけど、私は自分の魔力回路を有して自家発電できてる。今はお腹だって空くわ。どうやら私は、知らず知らずのうちに二度目の生を与えられてたみたい」
「でも……」
「そう、目的がわからない。でも理由は解ってるわ」
ライダーは小さな肩を竦め、自分を受肉させたサーヴァントのことを頭に思い浮かべながら適用する言葉を並べた。
「きっと、アレはただ愉しみたいだけの存在なのよ。善とか悪とか関係なく、ただ愉しみたいだけの人間。きっと何処かの王族ね。欠片の方は奪って行ったけど」
「………?」
冬児には楽しみたいからサーヴァントを受肉させる意味がわからなかったが、それでも話を続けることにして質問する。
「その、お前を受肉させた奴のクラスって解るか?」
「さぁ……錫杖らしきものを持っていたからキャスターかと思ったけど、トージが既にあの気味の悪いの連れてるから違うと思ったから解らないわ」
「あっああそうだ。キャスターとバーサーカーは何処にいるんだ?姿が見えないんだが……」
ただ霊体化しているだけなら気配を感じ取ることができるのだが、二人の気配は感じられない。近くにいることは何となく解るのだが。
「キャスターなら庭じゃない?いきなり私達の所に来て貴方達が負傷していることを伝えると、自分だけ逸早く屋敷に戻って黙り込んで月眺めてるんですもの。アレはあれかしら?月からの来訪者たる私をからかってるの?」
「そ、そういうことじゃないと思うよライダー……」
キャスターが黙って外に?
あのお喋りなサーヴァントが黙りこくっているのはおかしいと思い後で様子を見に行こうと思いつつ、冬児は頬を掻きながら二人を見た。何処か言いにく気な冬児を見てライダーと結香は揃って首を傾げ、冬児は吐き出すように言葉を並べる。
「あの、悪いんだけど着替えたいから一度出てもらえるか……?いつまでもこのままってのは……」
気がつくと自分はメイカー戦の時から衣服を変えておらず、血で濡れた上着は脱がされて下はパンツ1枚にされていた。結香とライダー、揃って目線を下に向けていなかったのはそういうことだろう。結香に至っては冬児の姿を見ただけで真っ赤になる始末だが。
「あ――はっはいっ!!」
慌てて出ていこうとする結香とは対照的に、ライダーは何故かそこに居座っていた。
「なっ何してるのライダーっ!!」
「あっ、そっそうよね。殿方の着替えって見たことなかったからつい……」
流石箱入り娘で有名なかぐや姫。恥じらいながらも色んなことに興味津々だった。
同じ名前の自分の恋人にもその恥じらいを教えてあげたいと思ってた矢先――
「同じ名前……?」
と、そんな素朴な疑問が口に出た。
そういえばそうなのだ。冬児が救出せんとする恋人の名も、ライダーのサーヴァントとして限界する彼女も同じく名は「かぐや」なのだ。
偶然だ。紛れもない偶然なのだが。こんなことはあるのだろうかと考えてしまう。
恐らく魂が抜けたようになっていたのだろう。意識が少し飛んでいた冬児の肩に、優しく手が乗せられる。
それはライダーのもので、彼女は冬児に優しく微笑みかけると首を振りながらその疑問を否定した。
「私は、貴方の
「―――」
そんなことは解っている。
解っているが、その共通点に何らかの可能性を抱いてしまった自分も事実。
知り合いの死。それは肉の塊となったカグヤの変貌と、光の中に消えたキャスターの姿を思い出させ、僅かながらも彼の心を揺さぶっていたのかもしれない。
冬児は少しの間目を見開き続け、反省するように自身の前髪を掴むと蹲りながら彼女達に謝罪した。
「すま……なぃ……」
「………いいえ」
それからすぐにライダーと結香は部屋から出ていった。
誰も、自分しかいない部屋で一人、沈黙に耐えられない振り子時計の音のみがその空間を支配する。
冬児は蹲りながら自身の拳を目の前に持ってきて、何かに耐えきれずその拳を思いっきり自身の額に叩き付けた。
「クソっ………!!!」
痛みと共に脳内に駆け巡るのは失った人々の記憶。
考えてもどうしようもないことだ。取り戻すには聖杯が必要なのだから。
その為には自分が強くなり、また他の者の強さが必要だ。
知らず知らずのうちに足は進む。
目的地は決まっている。サーヴァントが待つ屋敷の庭だ
明かりの付けられていない廊下を歩き、1階のリビングに辿り着くと此方が来るのを予想していたのか窓は開いていた。
広い庭の中心には鬱蒼と茂る雑草に紛れるように山羊の頭が一人立っている。月光に照らされるその姿はいつもより妙に神秘的で、骸骨にある筈もない目玉が此方を見据える。
「目覚めたのですかマスター。気分は如何です?」
「結構悪い。お前はどうなんだよ」
「我輩ですか?我輩はぁ―――そうですね。最高とも呼べますし、最悪とも呼べます。或いはそのどちらでもないかもしれない。曖昧な心境は言葉にすることが何よりも難しい」
語り部のように呟くキャスターは未だ上空に顔を上げながら被り物の側面だけをこちらに向けている。
軽口自体は変わってないがその言葉には何となく意思が込められていない。
生気が無いわけでも元気が無いわけでもない。
ただこれから先を話す内容の比べれば、こんな言葉には意味はないと敢えて意思を植え付けていないような。
「そういえばマスター。マスターは“死徒”という種族をご存知ですか?」
「?死徒……?」
確かフランがそんな名前を出していた気がする。
イメージとしては一般人が持つ“吸血鬼”に近いが、実際は“吸血能力を持つもの”を総じて死徒と呼ぶらしい。
お伽話の中だけ赦された存在に思われるが、魔術師同様彼らも世界に存在しており、ひっそりともしくは大々的に人間社会に影響を及ぼして生活しているらしい。
幼初期、まだラインと出会っていなかったフランは両親と共に海外に旅行に行き、其処で死徒と出会ったらしい。
数日間の失語症の後、彼女は人体の4分の1を人ではない化物に変えられた。
「驚異的な回復能力と人の域ではできない得意な魔術行使。それは人間をやめればこそできるもの」
「??だから何だよ」
キャスターが伝えたい言葉の意味が解らない。
首を傾げるとキャスターは月から目を離し、今度は鬱蒼と茂る雑草を見ながら息を吐くように呟く。
「元より限界だったのです。彼女は傷付き過ぎていた」
「だから何を――」
「フラン殿はもう少しで息絶えます」
空気が一瞬で凍る。
「―――は?」
だってそれはありえないことだ。
フランはどんなに傷ついても治癒する能力の持ち主で。
「ですからそれは彼女の中に存在する死徒の再生能力です。恐らくメイカーのマスター、あの男の概念礼装の力で内部の死徒の部分を“分解”されたのでしょう。回復は遅く、額の傷も完全には治癒していません」
確かにガルムの概念礼装はそういう能力だ。常人ならざる筋肉と分解の効果が働き、あらゆるを粉砕する。それが、強固な他の概念であっても。
「本当に、助からないのか……?」
震えた声で解りきったことを尋ねると、キャスターは予想外に首を横に振った。つまり助ける手段があるということだ。
「どうやって!!?」
「私の宝具です。最初に言ったでしょう?マスター」
キャスターはマントの下の燕尾服の中から蔵書を取り出す。それは古びていて、手入れがされておらず、所々切り傷が付いている太い蔵書だった。
それ自体からは何の魔力も感じられない。
しかしキャスターは、それが己が宝具だと言って主に向かって掲げてみせた。
「我が宝具は奇跡を作り出す。それは即ち、“どんな魔術行使・もしくは魔法に近しい魔術でも実現可能”なのです」
瞬間、キャスターの手にした宝具が輝きを放つ。
まるでその名を呼ばれることを待っているかのように、暗闇を照らす一冊の
「しかし、これを使うとき、貴方は選ばなくてはいけない。マスター」
「………何をだよ?」
選ぶも何も冬児は既に決めている。
フランを救う方法があるのなら、例えそれがどれだけ莫大な魔力を消費するにしても使わなければならないと。
しかしキャスターが言っているのはそんなことではなく、選ぶのは手段ではなく、助けるべき命のことをさす。
「言ったでしょう?これはどんな魔術行使・或いは魔法に近しい魔術も可能とする。
それはつまり、肉塊と化した
「!!!」
冬児の呼吸が止まる。
今早眞冬児は、自身のサーヴァントによって、救うべき友人と叶えるべき願いを天秤に掛けられているのだから。
※今回の反省点
他サイトにてオリジナル作品書いてて、調子に乗ってしまいあっちにばかり行ってました。
FGOのイベントが忙しかったでござる。
これから1話1話書く重量が増えそうなので投稿ペースが遅れそうです。すいません(境ホラ読み直したせい)。
ゴールデンは諦めますよ。ホント好きなんですけどね!!ホント!!でも!!石が!!石が!!