次回から頑張ります
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あれはいつの日だったか。
どんな日だったか。
思い出すには遠すぎる過去。
でもなにが起こったか、それは覚えている。
身にかかった紅い液体を、目の前にいる眼鏡の男が拭いてくれる。
部屋には自分とその男しか生きているものは居らず、他にあるものといえば、充満している鉄の臭いと、どこもかしこも壊れて使用できない家具。それともはや動きもしない肉片ぐらいだ。
そのどれをも五感で感じられるはずなのに心はなんの関心も持たない。
自分は酷く空虚な人間だった。
「なぁ、二三個質問していいかな?」
男の質問に幼かった自分は応えない。
顔を見ることすらしてなかったと思う。
それでも男は床に転がった二つの肉片を指差して喋り続けた。
「とりあえずアレはああして良かったんだよね?」
肉片は元々動かない肉片ではなかった。
たぶん“親”と呼ばれる存在。動いて食事をして睡眠をとって子供に暴力を奮うような普通の親。普通の肉の塊。
父親の方は特に暴力を奮ってきた。仕事もちゃんとしていたし隣の部屋のおばさんの話ではそれ相応の地位もありかなりの人格者だって聞いたことがある。
だからといって家でもそうとは限らない。
母親の方は酒が入るとすぐに暴力を奮ってきた。父親とは違って拳ではなく平手。煙草の火を使うこともあった。母親は酒が切れるといつも俺を抱いて泣いていた。
ごめんねごめんねとそう繰り返す。
だから俺も我慢できたのかもしれない。
母親は味方かもしれないと思えたからだ。
でもある日、そんな子供の小さな希望を覆すかのように母親が包丁で我が子を刺そうとした。当然ながら逃げ惑う子供。それに見向きもしない父親。
ようやくながら子供は理解できた。今まで理解出来なかったのが馬鹿みたいに。
この家は狂ってる。
こいつらは狂っている。
そう思ったら声が出た。
――助けて。
数十日ぶりに出た声は掠れたもので、しかし何度も何度も言い続けた後捕まえられる寸前には部屋中に響いていた。
捕まえられたらどうだろう。母親は包丁を両手持ちにし俺に跨り泣きながら声をあげる。
「ごめんね……」
いつものように謝られた。
だからいつものようにしょうがない、とそう思った。
振り上げられた包丁が喉に触れる一歩手前で母親は肉片と化した。自分に掛けられていた重さは消え天井からは肉片と血が落ちてくる。
驚き狼狽えていた父親もすぐに肉片と化した。
いや、肉片にさせられた。
ギシギシと床をなにかが土足で進んでくる。
眼鏡をかけた朱の長髪の男。
おそらくこの部屋にいつのまにか入ってきたこの男が父親と母親を殺した張本人だろう。
男は肉片に見向きもせずこちらまで歩いてきて、子供の両脇を掴んでそっと立ち上がらせた。
表情は笑っていて、とてもこんな惨状には似合わない笑顔。
そうして男は言った。
――アレはああして良かったんだよね?
応えることもない。
構わず男はその後に俺の肌についた血を拭いてまた笑顔で言う。
「君の味方を殺したのは俺だ。
だから俺にその罪滅ぼしをさせてくれ」
それから男は子供の手をとって家だった場所から連れ出した。
それが俺とトーリの出会い。
幼い子供と魔法使いの出会い。