Fate/ragnarok gate   作:フーリン式

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《キャラクター紹介》
*現在記載できる登場人物のみ掲示。

『キャスター陣営』
・早眞冬児
この物語の主人公。魔術師を義父にもつ一般人。不遇な苦しみに囚われる少女を救うために聖杯統合戦に参加することを決意する。
過去に別の場所で行われた聖杯戦争の聖杯を使い、7種の英霊をその身に宿すことが可能。
・キャスター(二騎目) 
山羊の被り物をした奇妙なサーヴァント。腕は細く、とてもじゃないが健全な英雄とは思えない出で立ちをしている。真名はアレイスター・クローリー。
・バーサーカー(ニ騎目)
圧倒的な巨体と人一人を容易に潰すことができる棍棒を持つ大男。狂化していても辛うじて敵味方の区別はついている。その真名はミノタウロス殺しを果たした大英雄、テセウス。

『アサシン陣営』
・サンジェルマン伯爵
歴史上の人物の名を語る中年。堂々と魔術協会に喧嘩を売る。強力かつ大量の人造人間ホムンクルスを所持している。監督役であるキレイと手を組む。
・アサシン(四体目)
海を思わせる青い髪が印象的な青年。背中には槍と弓、腰には二本の刀を持つ。その真名はトロイの木馬で有名な策略家、オデュッセウス
・ライダー(ニ体目)
マゼンタ色の髪を持つ妖艶な女性。英雄でもなく戦士でもなく、その身は化物を産んだただの怪物であるという。礼節は弁えている。

『アーチャー陣営』
・ライングル
イタリアの大マフィア『クリムゾン』の代理ボス。内気な少年で戦いにも気乗りではない。
・フラン
アーチャーのマスターであるラインの護衛。過去の事件から肉体の四分の一を死徒に変えられている。
・アーチャー(一騎目)
青丹色の髪と金属を幾つも身につけた青年。真名はインドの叙事詩『マハーラーバタ』にも載る大英雄、アルジュナ。 現在は行方不明である。
・ルツ&マーク
フラン同様、ラインの護衛。

【参加者以外の登場人物】
「バルドリア」
・キレイ・ハーデンベルト
アレーシアの息子。アレーシアの護衛役として付いてきていたが、肉親二人が死亡後聖杯統合戦の監督役として勤める。
・トワイス
オリジンの欠片が擬人化させられた姿。キレイによって元の欠片へと戻され、消失した。
・オリジン(一体目)
監督役によって呼び出された強力なサーヴァント。自我を失わされており、現在は欠片との繋がりを切断されているが自身の魔力でこの世界に限界し続けている。
・オリジン(二体目)
かの英雄王よりも前にこの世界に君臨していた王。その戦闘能力は前任のオリジンをも凌ぎ、手にした錫杖を一振りするだけで多次元空間へと繋がる孔を作り出す。


「聖堂協会」
・熊
埋葬機関所属。№不明。竜種(実物かどうかは不明)の骨から作られた大剣を片手に異端者を狩りに喝馬町に来た。ちなみに熊というのは本名ではない。

「その他」
・矢部崎結香
聖杯戦争に参加していたマスター。敗退した後も受肉したサーヴァントと共に冬児をサポートする。
・かぐや姫
受肉した元ライダー。黄金の木舟と不思議な力を持つ5種の道具を使う。
・壬生カグヤ
冬児の代わりに元々聖杯統合戦に参加する筈だった少女。何者かの襲撃に会い、人の形を保てていない。
・壬生安山
カグラの父親。既に死亡している模様。
・早眞トーリ
早眞冬児の養父。



心臓と腕

 

 早眞冬児は地下から1階へと続く階段を駆け上がる。

 暗闇の中突き進むとすぐに硝煙の臭いが漂い始め、1階は既に瓦礫の山と化していた。

 

「━━━━――――━━━━━━━――ッ!!!」

 

 咆哮が響く。バーサーカーだろう。

 しかし屋敷の中ではない。中庭で恐らく戦闘しているのだと思われる。

 自分も早くそちらに向かおうと足を進めんと一歩踏み出そうとすると、不意に背筋に悪漢が走る。

 リビングへと続く扉を横切ろうと踏み出した右足に重心を掛け、思いっきり後方へ跳ぶ。

 

 すると案の定、目の前に黒い鉛の塊が飛来し、すぐ横の壁に大穴を作った。

 

「ッ!!?」

「だっはーっ!!んだよんだよ!!当たんねぇじゃん!!当たんねぇじゃんさぁ!!」

「うだうだ言わないで、さっさと次に備えな。相手は英霊と変わりないらしいんだから」

 

 声はリビングの中から聞こえてくる。

 どちらも若い青年の声だ。

 恐らくは、キャスターの言っていた人造人間(ホムンクルス)の集団の一派。

 冬児はすぐに壁に背中を付けて、状況を確認せんと思い切った行動に出た。

 

「お前らが人造人間(ホムンクルス)か!!?」

 

 大声で問うと、意外にもあっさり返答は返ってくる。

 

「ああそうさ!!俺らがアンタらを殺す執行者さ!!」

 

 返答が返ってきたのと時同じくして、黒い鉛の玉がめり込んでいた壁が突如外側から粉砕する。

 バラバラに砕け散った壁の中から現れたのは、巨大な拳だった。人の頭4つ分の体積はあるであろうその巨大な拳は明らかに冬児の命を狙っての一撃だ。

 

「!!?」

 

 その拳を冬児はしゃがむことで紙一重で回避する。

 

 先程から冬児の身体に訴えかけているこの超人的な超直感は、冬児の肉体に宿る聖杯の力によるものだろう。

 しかし、それは冬児がまだ人間として機能としている時に使えるアドバンテージに過ぎない。

 

「“聖杯・起動”」

 

 冬児が聖杯を起動させる為の石を胸に叩きつける。

 するとすぐに光が生じ、目の前にまたあの椅子が現れた。

 同じ英霊の手は二度も借りれない。

 早眞冬児が選ぶ、次なる英霊のクラスは――。

 

 

 

 

 

 早眞邸二階・客間。

 現在、ラインが療養中のその部屋に向かって、フランは全速力で屋敷の中を走り抜ける。

 

「あ?」

「――ッ」

 

 途中、窓から侵入して来た人造人間(ホムンクルス)と出会ったが、死徒化したフランの敵ではない。

 勢い良く顎を蹴り上げてやると簡単に首が引き千切れて活動を停止させる。

 今のところ相手自体は敵にも入らない雑魚ばかりだが、それ以外にもフランを苦しめる敵はいた。

 人造人間(ホムンクルス)を1体倒した後で、フランの視界は急激にその形を変え、先へと続く廊下はまるで千里まで続いているかのように変貌する。

 

「………クッソがぁッ………!!」

 

 ふらいついて壁に肩をついてすぐに理解した。

 これは敵が生み出した幻覚などではない。己の内の人外の部分の負荷で肉体が悲鳴を上げているに過ぎないのだ。

 途中まで問題ないと思われたフランの両足は動くことを止め、過呼吸になりながらその場に蹲る。汗が吹き出し、唾液の中に血の味が混じってきた。既に奥歯の2、3本かは肉食獣の犬歯のような形状に変貌を遂げている。

 動かない。しかし、動かなくては守れない。

 この先に居る筈の愛する人を。

 

「アイツ、ターゲットじゃありませーんか?」

「そういうことダ。狩ったらお父様からご褒美貰えるらしいよ」

「マジかっ!!」

 

 この状況に合わぬ少年達の軽い会話。

 満身創痍のフランが振り向くと、先程首を引き千切った人造人間(ホムンクルス)と同じような格好と髪の色をした少年達が小ぶりの西洋刀らしき武器をそれぞれ持って此方に笑みを浮かべている。

 

 ――気色の悪いガキ共。

 

 そう内心苛立ちながら、フランは胸ポケットから何とか拳銃を取り出して、一瞬で仰向けに体制を変えて数発放った。

 

「おっと」

 

 少年達はその悪足掻きにも等しい攻撃を避ける動作もせず、その代わり木の床から浮き上がった水銀の塊がそれを止める。

 見間違える筈も無く魔術による自動防御だ。

 相手は二人、それも魔術を使える敵。部が悪すぎると判断したフランは、されどその場から動くことができなかった。

 今にもバケツ一杯分の血液を吐き出しそうになる喉を自身で締め付けて、何とか正気を保とうとする。

 しかし、そうしている間にも敵である人造人間(ホムンクルス)達は手に持った西洋刀をまるで玩具のようにクルクル回しながら接近してくる。

 

「ねぇねぇお姉さん。お姉さん、化物なんでしょ?」

「なら化物らしく戦って見せてよ。僕ら英雄になりたいんだ」

「ほら、英雄って化物倒した奴のことを言うんでしょ?」

「ねぇねぇ。ほら」

 

 無垢な子供の頼み事。そう思ってしまった自分に呆れ返って、フランは血を吹き出すのも厭わないで思わず笑みを零す。

 

「かっ、ははっ」

「?何笑ってんのさ?」

「馬鹿じゃないの?状況わかってるー?」

 

 苛立ちも含めた子供の意地の悪い笑みに対して、フランは負傷しているにも関わらずそれ以上に悪どい笑みを浮かべながら中指を立てた。

 

「うっせぇよガキ共。てめぇらが英雄なんかになれるかよ。

 名乗りたかったら精々うちの色男倒してから言え。それが無理なら家に帰ってママに泣きついてな」

 

 最後のは完全に相手が母父要らずの人造人間(ホムンクルス)に対しての皮肉が混じっているだろう。

 喋るのも辛いというのにフランがこんな言葉を並べたのは、何も相手を無差別に挑発したかったからではない。 

 

「こいつ、死刑確定、だよね?」

「うん、そだね」

「―――」

 

 本気で苛立っている少年達に目を向けているようでいて、フランの視線はその後方に向けられていた。

 少年達は気が付いていないが、その背後には月光を連想させる輝きを柔らかに放つ小雀な少女が立っている。

 少女が首に掛ける首飾りは、“龍の首の珠”と呼ばれるEランクにも満たない擬似的な竜の吐息を出現させる宝具である。

 

「放ちなさい」

「えっ?」

 

 少年達が振り向いた時にはもう遅い。

 首飾りから少し距離を開けた所に歪な魔法陣が現れ、そこから青緑の焔が少年達だけを喰らう規模で燃え盛った。

 

「ッ!!?ァァァァァっ!!!??」

「あつぃっ!!!?あつつついぃいいいっ!!?」

 

 人造人間(ホムンクルス)の少年達は悲鳴を上げ、やがて動きを止めると液状になって姿を消した。

 

 

 少しだが静けさを取り戻した廊下には少年達が消失して、二人の女だけが立っている。

 勿論、フランとかぐや姫の二人だ。

 

「―――んだよ」

「―――なんでもないけど?」

 

 双方は礼も言わず、またそれ以上会話することもない。

 元よりそりが合わない二人なのだから仕方ない。

 だからと言ってこのままお互い険悪なムードなままいても仕方ないと、フランの方が先に立ち上がって声を掛けようとしたが、腕にさえ力が入らない。

 

「…………ッ」

「貴女、相当悪いのね」

 

 同情含んだかぐや姫の声に苛立ちを覚えながらも、額に当てられるその手に逆らう力も無い。

 

「病とかなら私の側にいるだけで治るし、瀕死状態でも“蓬莱の玉の枝”はまだ使ってないから助けてあげられるんだけど、流石に化物を治す薬は持ってないわ」

「チッ。いらねぇよ、んなもん……!!」

 

 額に当てられた手をフランが何とか払い除ける。

 元より治る筈もないし、意味もない気休めも必要ない。

 這いつくばってでもラインの元へと向かおうとしたが、その肩をかぐや姫のか細い手が止める。

 

「何すんだよ……」

「貴女こそそんなボロボロの身体でどうするつもり。

 あの子の部屋に行くんでしょ。急がなくても大丈夫よ、2階の敵は全部私が倒しといたから」

 

 フランが振り向く。するとそこには真剣な顔で佇むライダーが頷いている。

 確かに、1階や窓の外では未だ此方側と侵入者達による戦闘が繰り広げられ騒音が続いているが、二人が居る2階からはその音は消えている。

 先程倒した少年達が最後だったようだ。

 それを理解して一息付きそうになったフランに肩を貸して、かぐや姫は立ち上がる。

 と言っても、比較的に小雀であるかぐや姫と女性としては大きい体格であるフランではアンバランスさが酷く、ランクEの筋力持ちであるライダーの足はプルプル震えている。

 

「……無理すんなよ?」

「だ、大丈夫よっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 見えない。それどころか、今この場に居るかどうかも解らない。

 1階でこの屋敷の主である早眞冬児と交戦していた人造人間(ホムンクルス)3体は、現状の異様な光景に目を疑っていた。

 簡潔に言うと、敵が完全に姿を消した。

 闇に消えたのか、影に消えたのか、それとも世界に溶け込んだのか。

 逃げたのかもしれないが、まだ近くにいるのかもしれない。

 しかし、早眞冬児という存在は完全に気配探知ができる状態から逸脱している。

 

 恐らくは聖杯の力を借りて“暗殺者(アサシン)”の力を借りたのだろう、と人造人間(ホムンクルス)の中の1体が気が付く。

 ならば危険だ。闇討ちされる可能性が高い。

 

「お前ら!!背中を合わせて互いに距離を――」

「――え?」

 

 壁をぶち抜いたリーダー各の巨漢の男が他二人に支持を出そうと振り向いた時には、その内の一人の頭に黒い腕が乗っかっている。

 その腕の主はまるでその人造人間の上で逆立ちするような形で体制を保っており、少しすると含みの籠もった声で借り受けた秘儀の名を口にした。

 

「“孤城百腕(ザバーニーヤ)”」

 

 瞬間、頭を掴んでいた(かいな)から無数の小さな触手のようなものが伸びる。否、それはそれぞれが小さな“腕”だ。

 黒色の小さな手はペタリペタリと人造人間(ホムンクルス)の身体に触れると、次の瞬間にはまるで捕食するようにその身体を飲み込んだ。

 

 その不気味さを通り越した暗澹とした姿に、思わず残りの二体の人造人間(ホムンクルス)は表情を苦悶に歪め、すぐさま各々の戦闘態勢に入る。

 狙いは同包を殺した、もしくは捕食したと思われる黒い肌のローブの男。

 対象的な白い骸骨の面を被ったそれは――暗殺者の殻を被った早眞冬児に他ならない。

 

「オォオオオオオオオオオッ!!!」

 

 相手が暗殺者のクラスのサーヴァントの殻を被っているというのであれば、次闇に紛れられたら確実に自分達のうちのどちらかが殺される。

 そう判断した巨漢の人造人間(ホムンクルス)が金剛石の如き硬度を誇る巨大な拳を黒い姿の冬児へと叩き付ける。

 

 しかし、手応えは空中に浮遊する糸を殴ったかのように無いに等しかった。

 気が付けば暗殺者と化した早眞冬児の身体は黒い霧となって霧散し、次の瞬間には人造人間(ホムンクルス)の巨大な腕に纏わりついている。

 其処から伸ばされる細く黒い腕は巨漢の人造人間(ホムンクルス)の頭を片手で掴む。

 

「ひっ」

 

 巨漢の男がそれを振り解こうとするのも束の間、骸骨の面は己が借り受けた神秘の名を口にする。

 

「“孤城百腕(ザバーニーヤ)”」

 

 名を口にしたと同時に黒くしなやかな腕から伸びる無数の小さな手。それが巨漢の人造人間(ホムンクルス)の眼、鼻、口、耳を掴み、頭を丸々覆うと一瞬にしてその姿が虚無へと消えた。

 

 かつて東洋のある地方で暗殺教団と呼ばれた集団が存在していた。

 信仰心が熱い彼らは代々、教団の中から最も優れた暗殺者を時代ごとに長にする。長となったものはそれ以前の過去の一切を捨て、ある一人の暗殺者となって残りの生涯を全うする。

 それが山の翁。ハサン・ザーバッハ。

 早眞冬児が力を借り受けた、その名を受け継いだ暗殺者の両手からは無数の赤子の手が伸び、あらゆる生物をその皮膚の中に取り込む秘術を持っていたと言われている。

 余談だが、これは歴代のハサンの中でも最も信仰心が薄かったとされている。

 それでも十分に狂信者と言えるレベルの信仰ぶりなのだが、その中でも彼は信仰を第一とするよりも、自分が奪った命で誰かを救えることを第一とした変わった暗殺者だった。

 そんな彼だったからこそ、恋人を救いたいと願う早眞冬児に手を貸し、力を貸したのかもしれないが。

 

 

 ――童。なるべく早く済ませなさい。この秘技はあまり人に見せるべきものではない。

 

 頭の中で暗殺者が冬児に語りかける。冷ややかな声が、冬児にはとても心強く思える。

 その声を信じ、冬児は闇に溶けるように大きく身体を旋回させ最後の一人に手を伸ばす。

 A+ランクの気配遮断スキルによって、攻撃が当たる寸前までは対象には絶対に冬児の姿は見えない。

 3体目の人造人間(ホムンクルス)をその腕中に沈めることも、また容易だった。

 

  

 3体の人造人間(ホムンクルス)を倒した後、冬児は庭へと出た。外で戦っている筈の自身のサーヴァントの様子を伺う為だが、その心配はどうやら不要だったらしい。

 

「━━━―――━━━━━━━―――――━━━━ッ!!!」

 

 狂獣の咆哮。

 反響する雄叫びと共に、地面の上、塀の上、使い魔に乗って空中を漂う人造人間(ホムンクルス)達を狂戦士がそれぞれ一撃の名の元に断罪する。

 

「なっなんだこい、あぎぃっ!!?」

 

 何処へ逃げようとしてもバーサーカーには関係ない。

 既にこの辺り周辺には彼が持つ『糸』が張り巡らされている。

 彼が持つ宝具の1つ、“我掴む運命の朱糸(ランパネイン・ペプロメノ・ニマ)”は簡単に言うと魔法一歩手前の瞬間移動、奇跡の行使を可能とする。

 それは彼が足を踏み入れた場所のみを限定とする効果ではあるが、それでも彼が望みでもすればいつでも一度行った場所に戻ることができる。

 今やバーサーカーはその宝具を最大限に使い、多方向に散らばる人造人間(ホムンクルス)達を次々と棍棒で殴り倒す。

 その様子を見て、思わず冬児は己が呼び出したサーヴァントの強さを再確認し、溜息を漏らした。

 

「心配する以前の問題だな……」

 

 そうして踵を返して屋敷の中へと戻る。

 次に様子を見ないといけないのはフラン達だ。

 急いで階段へと進もうと足を伸ばしたところで、丁度2階から降りてくる影があった。

 常時気配遮断の効果は周囲に反映されてるとはいえ、直接触れられでもしたらその効果は切れる。

 すぐに迎撃できるよう準備した所で、前方の人影がよく知った相手だと気が付く。

 絹のような黒い髪とそれに似合うフリルのスカートを着た少女、かぐや姫だ。

 

「大丈夫!!下には敵は、ってがっ骸骨!!?何こいつ魑魅魍魎!!?」

 

 英霊化して容姿が変わった冬児を見て当然のような反応をするかぐや姫を落ち着かせようと、直ぐ様冬児は仮面を脱いで素顔を見せる。

 

「まっ待て!俺だ!!」

「え、とっ冬児……?ああ。それが英霊化なのね……」

 

 首尾よく納得してくれたかぐや姫の背後からは、フランとそれに担がれたラインの姿が見える。

 ラインは意気消沈した様子で、フランの方は体力的に辛そうだった。ふと、フランと目が合う。

 

「………」

「………」

 

 気まずい。そう思いながらも、冬児は意を決して一言だけ告げることにした。

 

「俺決めたよ。フラン」

「………?」

 

 フランは何か言いたげだ。しかしそれを今聞く時間はない。3人の安産は確認できた。

 ならば最後に地下にて待機している結香とキャスターを連れてこの場を脱出することが先決だ。

 

 

 

 

 

 

「あ、あの。キャスターさん」

 

 唐突な少女の呼び声に、山羊の頭蓋骨を被った偽魔術師が振り向く。

 当然ながら少女からしたらその姿は不気味以外で形容し難く、表情など読める筈がない。

 ただそれでも少女は意を決して訊かなければならないことがった。

 

「何でしょう?マスターの愛人殿」

「あ、あの……貴方は、何で冬児くんに手を貸してくれるんですか?」

 

 結香の質問は最もであり、聖杯戦争に参加していた元マスターとしては少々的外れでもあった。

 聖杯戦争に参加したサーヴァントがマスターに手を貸す理由など、それがよっぽど高潔な英霊でもない限りほぼ1つに等しい。

 

「願いを叶える為ですよ。それ以外にありません――と、我輩返したいところですが」

 

 キャスターが肩を竦める。その姿は何処か自嘲的だった。

 

「残念ながら我輩の願いは既に叶っています。

 何故なら、生前、どんなに願っても手に入らなかったものは既にこの手にありますから」

 

 キャスターが懐から取り出したのは、1冊の蔵書だ。

 彼が持つニつの宝具。“嘘の書(ザ・ブック・オブ・ライ)”と“法の書(リベル・エル・ヴェル・レギス)”は双方とも『魔術』という奇跡を生み出す宝具。

 その二つは現存さえすれど、一般的には馬鹿げたオカルト本ぐらいにしか思われていない。

 違わないとキャスターは思う。実際にあんなものは偽物の紛い物の魔導書だ。

 奇跡も不可思議も、全てアレイスター・クローリーが想像したでっち上げに過ぎない。

 どんなに願っても魔術なんて使えなかった。

 どんなに祈っても悪魔なんて呼び出せなかった。

 だというのに今は自分が魔術を得意とするサーヴァントとしてこんな場に呼び出されている。

 おかしな話だとキャスターは嗤う。

 何しろ、自分を呼び出したマスターは、自分が一番魔術回路(欲しかったもの)を持っている癖に、それをついこないだまで使おうともしていなかったのだから。  

 

 

「最初はね、途中で後ろから短刀で胸を突き刺してやろうかと思っていましたよ」

 

 不気味な山羊の頭蓋骨が物騒な言葉を口にして首を傾げる。

 結香は驚くよりも前に呆れそうになったが、続いてキャスターは言葉を紡いだ。

 

「だけど、止めました。いえ、止めてしまいました。

 だって彼、我輩が思い描いた魔術師とは遠く離れた存在でしたから。

 才能を持っただけの、ただの人間でしたから」

 

 キャスターが自身の被り物に触れる。青白い手からは生気は感じられないが、しかし確かに力が篭っていた。

 

「ただの人間だったから、血統を第一とする魔術師のように我輩のような輩を卑下せずに接してくれた。

 全く、お人好しにもほとがあります。普通怖がって気持ち悪がるでしょうに」

 

 結香は一瞬、自身の耳ではなく目を疑った。

 その黄金の魔眼に見間違いなどある筈がないのだが、

 確かに彼女には見てしまったのだ。

 いつもは表情が読み取れないその山羊の頭蓋骨の口角が、僅かに釣り上がっていたのを。

 

 

「だから我輩は彼が聖杯を手にした後の世界を見てみたい。

 ですから、」

「申し訳ないがお前がそれを見ることはないぞ。キャスターのサーヴァント」

 

 

 僅かな気配。

 キャスターと結香が慌てて入り口へと目を向けると、其処には神父服を着た若い青年が立っていた。

 歳は冬児と同じくらいだろうか。

 どうやって入ってきたのか、などは愚問だ。魔術的力で結界を解除したのであればキャスターがすぐに気がつく。

 つまり――

 

「ただの物理的攻撃のみであの結界を破壊したのですか……」

 

 神父服の青年はその言葉には返答しない。しかし、視線は動き、キャスターから結香へと向けられる。

 同時に結香は果てしない恐怖と共に、ある1つの事実に気がついた。

 見たことがある。この青年の顔を、彼女は知っていた。

 親しい知人という訳ではない。出会ったのは一度きり。前任のバーサーカー、ザッハークが狂乱して暴走した時に監督役の護衛として居た青年だ。

 ではそんな彼が何故この場所にいる。

 招待不明の人造人間(ホムンクルス)が攻めてきたこの危機的状況の場に、何故存在しているのか。

 

「矢部崎結香だな……ふむ。やはり令呪は消失しているか。マスターとしては貴様はもう参加できないようだな」

 

 神父服の青年が構える。構えからして中国拳法のそれだが、そんなことを結香とキャスターが解るわけもない。

 キャスターもまた瞬時に手にした宝具を開いて防御系の魔術を出来うる限り自身と結香の周りに展開した。

 

「正気ですか?サーヴァント相手に、生身の人間が」

「何、サーヴァント相手でも人間が勝てない訳ではない。時、場所、状況が人間にとって好都合であるならば、勝てる道理もあるということだ」

 

 瞬間、青年の姿がまるでテレビのノイズのように掻き消えると、キャスターが用意した防御の全てを()()して、その懐に入り込んだ。

 キャスターの目の前、完全に入り込んだその場所でキャスターが気付くよりも早く神父服の青年は贅沢にも令呪と賢者の石で強化したその拳で殴り付ける。

 

「ふぅぅ―――ふっ!!」

「ッ!!!?」

 

 キャスターの胸に言葉にならない鈍痛が走る。

 滴る血に目を下に向けると、青年の腕があった。

 正確には見えるのは手首から後ろまでで、その先は自身の身体にめり込んでいる。

 逆に振り返ると、キャスターの背後には少年の手があった。その手には赤く鼓動する肉の塊が握られている。

 キャスターが呼吸する度に呼応するように動く肉の塊が、自身の心臓だと理解した瞬間に、自然とキャスターは声を出していた。

 

「………勝手、に、暇を頂くことを、お許しくだ、さい………マス、ター……」

 

 次の瞬間、神父服の青年がキャスターの胸に貫通した腕を引き抜くと同時にキャスターの身体は大きく背後に仰け反った。

 霊核を失った サーヴァントは既に消滅を開始し、その身体は闇へと解けていく。

 

 

 

 ――かと思われた。

 

 

「………?」

 

 完全に敵を抹殺したと油断ではなく確信した神父服の青年は、一瞬この世界から消えようとするサーヴァントから目を離してしまった。

 それこそが最大の過ちであり、もう一度目を向ければそこにはサーヴァントの姿は無い。驚くべきことに、それと同時に矢部崎結香の姿も、この場から消失していたのだ。

 

「―――」

 

 青年が振り向くと、其処には細い道を走る2つの影がある。

 

 

 

「はぁはぁ……!!」

「走りなさい!!今はとにかく走るのです!!上に行けば我が主が貴女を守ってくれる!!」

 

 心臓にぽっかりと穴が空いているというのに、キャスターは息を切らして逃げる結香を逃がす為に何度も背中を押す。

 細い腕は今にも折れそうで、キャスター自身も走るのは苦手なのか今にも気絶しそうなほど息を切らしているのが解る。何しろ既にサーヴァントの心臓とも呼べる霊核は消失してしまっている。

 どちらにしてもキャスターが消えるのは必然だった。

 

「きゃ、キャスターさん……!!」

 

 結香は涙が溢れそうになるのを必死に堪えてただ走る。もう目の前には1階へと続く階段があった。

 やはり自分もと立ち止まろうとした結香の背中を押し、奇妙な魔術師の背中が最後に目に入る。

 彼は結香に向けて自身の宝具である“緑色の蔵書”を投げ渡すと、それっきり振り向こうとはしなかった。

 

「行きなさい」

 

 ただ一言。今まで一番力強くそう言い切ると、それ以上語りかける言葉は無いと山羊の頭蓋骨は語っていた。

 

「―――ッ」

 

 だから振り返ることなく少女は階段を駆け上がる。

 きっと助けを呼んでくるからと、先にいる彼の元へと走って行った。

 

 

 

 

 結香が行ったあとこの地下に残ったのは、神父服の青年とキャスターだけになる。

 別段驚いている様子も慌てた素振りも見せず、部屋の奥の影から神父服の青年が現れると、キャスターはまたも愉快気に肩を竦めた。

 

「いやはや……まさかこのような事態に陥るとは……最後まで生き残れるなどと夢は見ていませんでしたが、こんな所で消えるとも思っていませんでした。

 できれば、そうですね。この星に衝突する隕石を防いで死にたかった、何て笑い話にもなりませんかね?」

 

 例え霊核(しんぞう)を失おうと、キャスターの軽口は収まらない。

 普段のキャスターを知らない神父服の青年はただ酔狂な男だと思い、構える。

 手負いだろうと容赦無く確実に敵を仕留める為にある、死の技法を。

 

「言い残すことはそれで十分か?」

 

 キャスターが階段に腰を下ろす。流石に限界だったようだ。

 空気が抜けるだけの息を漏らして、ただの死が迫るのを待つ。

 二度目の死はどのようなものかと期待したものだが、あながち一度目とそう変わりはしない。死には絶望がつきまとい、そして何処か満足感があった。

 自分がこれまでしてきたことは決して無駄ではなかった。一度目の死では得られなかった、死への満足感。

 故にキャスターは死を受け入れる。ならばこの先は自分が出張ることではないと。

 

 

 ――確実な死が迫ってきた瞬間、彼は確かに音を聞いた。

 

 

 それは本来聞こえる筈のない足音。

 『気配遮断』と名のつくスキルを有しているものの気配は、決して誰にも判別できない。

 だというのに聞こえる。キャスターには理解できる。

 

「まったく……」

 

 お人好しが過ぎるんだからと。

 

 接近してくる影は決して悪しきものではない。

 それは普通な青年。偽善を持ちながら、本当の愛を抱く我が主。

 

 

 瞬間、神父服の青年――『キレイ・ハーデンベルト』も理解した。

 

 何かは解らない。本当に目の前に現れるかどうかも予測できない。

 しかし確かに察知した。

 今この瞬間、自分という存在にとって確実に最大の脅威となりうるであろう男の存在を。

 

 神風の如く階段から駆け下りてきたその黒い影は、キャスターの頭上を通り過ぎ、黒色の腕で敵であるキレイの頭を掴むと、明らかに怒りを込めた低く唸るような声で呟いた。

 

 

「“孤城百腕(ザバーニーヤ)”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※今回の反省点
2話連日投稿です。

うちのハサンは一味違うぜ。
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