Fate/ragnarok gate   作:フーリン式

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《キャラクター紹介》
*現在記載できる登場人物のみ掲示。

『キャスター陣営』
・早眞冬児
この物語の主人公。魔術師を義父にもつ一般人。不遇な苦しみに囚われる少女を救うために聖杯統合戦に参加することを決意する。
過去に別の場所で行われた聖杯戦争の聖杯を使い、7種の英霊をその身に宿すことが可能。
・キャスター(二騎目) 
山羊の被り物をした奇妙なサーヴァント。腕は細く、とてもじゃないが健全な英雄とは思えない出で立ちをしている。真名はアレイスター・クローリー。
・バーサーカー(ニ騎目)
圧倒的な巨体と人一人を容易に潰すことができる棍棒を持つ大男。狂化していても辛うじて敵味方の区別はついている。その真名はミノタウロス殺しを果たした大英雄、テセウス。

『アサシン陣営』
・サンジェルマン伯爵
歴史上の人物の名を語る中年。堂々と魔術協会に喧嘩を売る。強力かつ大量の人造人間ホムンクルスを所持している。監督役であるキレイと手を組む。
・アサシン(四体目)
海を思わせる青い髪が印象的な青年。背中には槍と弓、腰には二本の刀を持つ。その真名はトロイの木馬で有名な策略家、オデュッセウス
・ライダー(ニ体目)
マゼンタ色の髪を持つ妖艶な女性。英雄でもなく戦士でもなく、その身は化物を産んだただの怪物であるという。礼節は弁えている。

『アーチャー陣営』
・ライングル
イタリアの大マフィア『クリムゾン』の代理ボス。内気な少年で戦いにも気乗りではない。
・フラン
アーチャーのマスターであるラインの護衛。過去の事件から肉体の四分の一を死徒に変えられている。
・アーチャー(一騎目)
青丹色の髪と金属を幾つも身につけた青年。真名はインドの叙事詩『マハーラーバタ』にも載る大英雄、アルジュナ。 現在は行方不明である。
・ルツ&マーク
フラン同様、ラインの護衛。

【参加者以外の登場人物】
「バルドリア」
・キレイ・ハーデンベルト
アレーシアの息子。アレーシアの護衛役として付いてきていたが、肉親二人が死亡後聖杯統合戦の監督役として勤める。
・トワイス
オリジンの欠片が擬人化させられた姿。キレイによって元の欠片へと戻され、消失した。
・オリジン(一体目)
監督役によって呼び出された強力なサーヴァント。自我を失わされており、現在は欠片との繋がりを切断されているが自身の魔力でこの世界に限界し続けている。
・オリジン(二体目)
かの英雄王よりも前にこの世界に君臨していた王。その戦闘能力は前任のオリジンをも凌ぎ、手にした錫杖を一振りするだけで多次元空間へと繋がる孔を作り出す。


「聖堂協会」
・熊
埋葬機関所属。№不明。竜種(実物かどうかは不明)の骨から作られた大剣を片手に異端者を狩りに喝馬町に来た。ちなみに熊というのは本名ではない。

「その他」
・矢部崎結香
聖杯戦争に参加していたマスター。敗退した後も受肉したサーヴァントと共に冬児をサポートする。
・かぐや姫
受肉した元ライダー。黄金の木舟と不思議な力を持つ5種の道具を使う。
・壬生カグヤ
冬児の代わりに元々聖杯統合戦に参加する筈だった少女。何者かの襲撃に会い、人の形を保てていない。
・壬生安山
カグラの父親。既に死亡している模様。
・早眞トーリ
早眞冬児の養父。


戦争

 

 運命は出会う。

 この日、この時、この夜。二人の青年は出会ってしまった。

 とても良いとは呼べない、最悪の出会いだ。

 片や、同僚の命令で仕方無く聖杯統合戦において最もイレギュラーの名に相応しい早眞冬児と接触せよとの任務を果たすために、大量の人造人間(ホムンクルス)を連れて早眞に襲撃を果たし、

 片や、襲撃を受けた為反撃出るも自身のサーヴァントを傷めつけられて乱心した青年。

 

 二人は睨み合う。

 英霊化し、東方の暗殺者をその身に宿した早眞冬児は阿修羅のような形相を白い骸骨の面に隠しながら、秘技の名を口にする。

 

「“孤城百腕(ザバーニーヤ)”」

 

 名を呼ぶ・相手の頭を掴む、という条件さえ揃えば必殺の二つ名を語るに相応しい異形の技を成す対人宝具。

 早眞冬児がその名を口にした時点から既に、敵の頭を掴んだその黒き腕は変貌を初め、皮膚が形を変えて次々と胎児や赤子のような手へと変わり敵の顔に触れていく。

 このまま腕の中に敵が飲み込まれるのを待つだけだと思っていた矢先、冷ややかな手に触れられて相手はまともな判断がつかなくなったのか、途端懐から取り出した鋭利な短刀で自身の首を掻き切った。

 

「!!?」

 

 冬児は絶句する。

 自分が仕留める筈だった相手が急に自害したのもそうだが、それ以前に相手には躊躇いが無かったのがより冬児の思考を混乱させた。

 刃物の鋭さも相まって、本人の手によって数分の狂いもなく真っ直ぐと首が切断され、頭の部分だけが冬児の腕に引き込まれていく。

 残った首無しの胴体は地に伏すものだと冬児も、その背後に腰を下ろすキャスターも予想していたのだが、瞬間、赤い電流のようなものが首無しの死体から発生する。

 数秒と経たず、首から小さな触手のようなものが何本も生え、そこからきめ細やかな糸が生え、肉を持ち、血が流れ、皮膚ができ、髪が生える。開いた瞼の奥には眼球まで確かに存在する。色が薄く黒に近い茶髪、生気の無い黒い瞳からは異様な覇気を感じられる。

 新しく生まれたその頭は冬児が先程捕食した、敵の頭部と数分違わず同じものだ。

 

 早眞冬児は知らない。

 目の前の男が聖杯戦争の監督役であり、その身にあらゆる不可逆(ダメージ)を無視することができる絶対治癒の賢者の石を埋め込んでいることを。

 

 瞬間、冬児の目の前に肌色の塊が接近する。

 よく鍛錬された硬度の高い拳。それに監督役として持ち得た令呪による強化が施され、その硬度は既に金剛石を超えている。

 いくら英雄化していたとしてもアサシンのクラスのサーヴァントの耐久力のはたかが知れている。

 

「ッ!!!」

 

 間一髪、冬児はアサシンの俊敏さでギリギリ回避する。

 

「━━シュッ!!」

 

 しかし、キレイはその動きを読んでいたのか突き出した右の拳に身を任せて冬児に一瞬背中を見せるとそのまま左の足で回し蹴りを決める。

 此方は的中。令呪で強化された靴と踵は見事冬児の横腹を刳り、その身体を後方へとふっ飛ばす。

 

「ッ!!!?━━がぁっ!!」

 

 腹部が破裂するような感覚に見舞われながらも、冬児は意識を失ってはいなかった。この狭い空間で、壁に激突するよりも早く大きく身体を旋回させて空中で身を起こし、壁に足をつくとそのまま両の足裏を付けて再接近する。

 冬児の武器は基本必殺の手腕のみ。

 黒衣が宙を舞い、悪魔の名を象った手が再びキレイの額に伸びる。

 幾ら不死に近い肉体をもっていたとしても、肉体そのものを他の生物に捕食されるというのは良い感覚である筈が無い。成功すれば魂魄ごと分解する強力な呪腕。

 それに一度触れられれば、誰もが恐怖し顔を背けたくなるというのに━━キレイ・ハーデンベルトは険のある表情でそれをみつめるのみだった。

 何故ならキレイ・ハーデンベルトは知っていたから。

 暗殺者とは闇に、影に紛れ対象を速やかに抹殺する者のことをさす。

 光の中に現れた暗殺者など、恐るに足らないということを。

 慌てる様子も無く、ただ与えられた業務を来なすように片腕で冬児の呪腕を払い除けると、もう片方の手で既に一度ダメージを与えた副部に掌底を決める。勿論、令呪による強化はかかしておらず、英霊化した冬児にとっても大ダメージとなる。

 

「━━━━ッ」

 

 そこで、早眞冬児の動きは止まる。

 空中で一瞬静止し、その後に服の襟を捕まれ柔道の背負投のように地面に背中から叩きつけられる。最も、キレイの一連の動きには無駄が無く、背負うことなどせずに空中で放り投げたと例えた方が的確なのかもしれないが。

 肺の中にあった空気が全て抜け、麻痺した肺が何とか酸素を吸い込もうと悲鳴を上げる。

 

「慢心、だな」

 

 投げかけられた小さく低い声。そこで初めて、早眞冬児は消失しそうな意識の中相手の存在の断片を確認した。

 

「確かに、屋敷の中に侵入した人造人間(ホムンクルス)如き、英霊を3体も所持している貴様らならば容易く対処することができるだろう。

 故にお前は、消耗を抑えてか“暗殺者”の殻を被って戦闘に参加した」

 

 キレイが右手を払うような仕草をすると、指の間にそれぞれ赤い柄が挟まれている。

 聖堂教会の代行者が使うとされる“黒鍵”という細い刃とほぼ同じ構造で作られているその武器は、時に触れられなくなる霊体に対して効果的なダメージを与えることができる。相手が霊体であるサーヴァント化を成しているのなら有効なのではないかという考えの元での行動だ。

 既に勝利したようなものだがキレイは祖父に「常に油断だけはするな」と教えられていた為、全力で対処に当たる。

 

「貴様がもし三騎士や狂戦士の殻を被っていたならば私に勝機など元より無かっただろう。騎乗兵や魔術師でも万に一つの可能性だった。

 しかし貴様は暗殺者を選んでしまった。

 私が最も相手をするのを得意とする存在を、その身に宿してしまったのだ」

 

 キレイ・ハーデンベルトは前任の監督役、アレーシア・ハーデンベルトを魔術協会や聖堂教会からの刺客から守護する為に古今東西のあらゆる技能に成通している。

 その中でも最も気を張らなければいけなかったのは暗殺だ。

 毒、射撃、寝込み、突き落とし。

 暗殺者はどいつもこいつも、人に紛れ、影に紛れ、闇に紛れる。

 そういったものを感知する嗅覚はキレイは誰よりも優れていたし、卓越した暗殺者達は自身の技に人生をかける為、他の技能が低いことが一般的だということも理解していた。

 東方の暗殺教団の翁――ハサン・ザーバッハの名を語る英霊達の情報も、暗殺者達の思考を読み取る為に既に頭に叩き込んである。

 

「慢心と判断のミスがお前の決定的な死の要因だ」

 

 キレイは言葉を並び終えると同時に手から黒鍵を投擲し、それが脳天に突き刺さるよりも早く蹲っていた冬児は大きくその身体を横転させた。

 黒の塊が横転した瞬間、キレイと同じ様にそれからも数方の刃物が射出され、黒鍵は見事早眞冬児の身体を貫き、射出された刃物はキレイに過擦り傷を負わせた。

 頬に出来たダメージの内にも入らない小さな傷を腕で拭い、キレイは変わらない無表情で早眞冬児の頭を潰してしまおうと手を伸ばす。

 掴めばそれだけで終わるこの勝負は――

 

「…………?」

 

 されどまだ終わることはない。

 伸ばされたキレイの手は冬児の頭を掴んでいる筈なのに空を切る。何かを掴んでいる感覚などある筈が無い。

 すぐにキレイは何が起きたのか気が付き、1階へと続く階段に目を向ける。

 

 さっきの刃には感覚麻痺系の毒が塗られており、キレイは数秒前の視界をまるで3Dムービーでも見せられているかのように視認していたに過ぎない。

 その間、当然ながら現在の早眞冬児はキレイに気付かれず動くことが可能で、てっきり自身のサーヴァントを連れて逃げ出したと考えていた。

 どちらにしても黒鍵で与えた傷は深い。瀕死の身体で階段を駆け上がろうとそんなものに意味は無いと考えていた

 

 しかし、早眞冬児はまだこの場所に残っていた。

 階段の一段目で項垂れる自身のサーヴァントを守る様に、サーヴァント化が切れた身で痛々しく立ち続けている。

 腹部と右太腿には黒鍵が突き刺さったままだったが、キレイが目を向けたのと同時に叫びを上げてその二本を引き抜く。吹き出した血が場を鉄臭い匂いで覆ったが、それを気にするものはこの場には居ない。

 

「理解できんな」

 

 キレイ・ハーデンベルトが言葉を掛ける。その声には僅かな苛立ちが篭っていることを、今の冬児には理解出来る筈も無い。

 

「何故、他者の為にそれほど命を貼れる?

 そのサーヴァントは強力な者ではないだろう。この聖杯戦争は幾らでも代えがきく。そんなものとは手を打って、どこぞの魔女でも呼び出した方がいいのではないか?」

 

 正体を知らないかのようにキレイは言葉を並べるが、彼は監督役である為、霊気盤によって聖杯統合戦に参加した全てのサーヴァントのステータスを頭に叩き込んである。無論、それはキャスターも例外ではないが、早眞冬児のような他の聖杯の手を借りてサーヴァントの力を呼び出すようなイレギュラー別だ。

 

「答えろ、早眞冬児。貴様は何のために聖杯を求める?」

 

 キレイが此処まで冬児に固執する理由。それは一概に1つの探究心と言ってもいい。

 自分には無いものを持っている青年。

 愛を知り、好意を知り、物事に分別を付けることができる男。

 早眞邸を襲う前に、其処に陣取っている聖杯統合戦関係者の情報はサンジェルマンによって粗方教えられたが、何故か早眞冬児の情報だけはあの男は能力と経歴の一部以外口にしようとしなかった。

 それにどういう意図があるのかは解らないが、しかしだからこそキレイは早眞冬児という人物に興味が湧いた。

 魔術師の一族の血を引き優秀な魔術回路を持ちながら魔術師として神秘の為に日々を費やそうとせず、

 聖杯という圧倒的な力を持っているというのに力に溺れず、

 情愛というものに流されやすい男。

 悪平等な自分とも、自分が見てきたあらゆる人間とも違う性質の男だ。

 解らない。解らない。故に興味が湧く。

 この男ならば、自分が長年追い求めてきた願いを口にできるのではないかと思えた。

 祖父と母が頭を抱え、

 サンジェルマンが悪ではないと笑い、

 アサシンが哀れむように見つめ、

 ライダーは何も言わずに抱き締めてきた。

 

 『人間が人間を愛する理由とは何か?』

 

 その理由を聞きたい。問い質したい。

 科学的であるならばそれを受け入れよう。神秘的であるならばその線からまた調べなおそう。或いはそれ以外であるならば私はまたも探求し続けよう。

 だからこそ聞き届けたい。

 誰もが答えられなかった、その願いの答えを。

 

 ――しかし、

 

「………わからない」

 

 朦朧として立ち続けている早眞冬児の口から発せられた言葉は、キレイが一番聞きたくない言葉だった。

 

「……なん、だと……?」

 

 僅かに声が震える。キレイの心境は僅かな怒りが滲み出ていた。それはまるで、幼い子供が母親に玩具を買ってと強請り当然のように断られた時のような、原始的で一方的な怒り。

 

「そんな筈は無い……ならば何故貴様は聖杯を望む?願いが無いのならば願望器など必要ない。

 答えろ………答えろ!!早眞冬児!!」

 

 キレイの声と心が同時に熱く煮えたぎる。おかしなことだ。久しく感じていたなかった感情を、今になって少しだけ取り戻すとは。

 知っている筈だ。この男は、その答えを。

 ならば問わねばなるまい。問わなければならない。

 激昂したキレイの前、しかし早眞冬児はただ虚ろな表情で首を横に振るだけだ。

 

「………最初は、カグヤを助ける為だった……。

 でも、途中で沢山仲間ができて、友達ができて……何度も失った………」

 

 瀕死のダメージをくらい、朦朧とした意識の中それでも青年は言葉を紡ぎ続けた。

 それは数度の英霊化を持って得た肉体面の強さだけではなく、彼の、早眞冬児という人間本人の意志の強さが力となって現れているのだ。

 

「守りたかったんだ………誰一人として欠けることなんてあっちゃならなかった………皆、皆、生きたがってて、生きる為にこんな殺し合いに参加したんだ………」

 

 途切れ途切れだった冬児の言葉に、熱が篭もる。

 

「無駄になんかさせたくない……!! 

 皆、皆確かに此処に居たから。笑っていたから。

 だから、決めたんだ。これは願いなんかじゃない……俺の我儘だ」

 

 何とか立ち続けていた冬児の手がキレイの胸ぐらへと伸びる。

 死に体の人間の悪足掻きだと、普段なら払い退ける所だが。

 

「!!!」

 

 キレイは大きく後ろに後退する。

 その額からは汗が流れ、表情は僅かながら苦悶に歪んでいた。

 この時、キレイは恐らく初めて『恐怖』というものを実感した。

 それは未知への恐怖。大凡自分が持ちえない何かを抱きながら立ち続ける。キレイにとって早眞冬児という人間はどうしようもない程自分とは違う存在、化物に見える。

 しかし生まれる未知への探究心。

 どうしようもなく殺したいのに、どうしようもなくその言葉を聞きたい。

 未だかつて自分の心がこれほど湧きだったことがあっただろうかと感情の気薄な筈だった青年は自問自答する。

 

「方法は解らない………でも、アイツラを救えるなら……それがお前らの言う聖杯で可能だと言うのなら………俺は…………俺はッ!!!」

 

 早眞冬児が声を荒げる。

 結果、この二人が和解することなどない。

 人間は同族を嫌悪し、尚且つ自分とは違うものに興味を惹かれながらも本当の意味で手を取り合うことも無い。

 その点で言えばこの二人はどこまでいっても相見えることは無いだろう。

 あと一言。早眞冬児が言葉を投げかければ殺し合いが始まる。

 等の二人もその準備は出来ている。

 お互いの意識は互いに向けられ、他のものに気を使っている余裕など無い。

 だからこそ気が付かなかったのだ。

 その人物に背を向けていた冬児も、位置からしてその人物の動きを知れたキレイも。

 

「ッ」

 

 途端に走る、鋭く刺すような痛み。

 痛みは冬児が感じたもので、振り向くとそこにはよく知った“山羊の頭蓋骨”が在る。

 しかし彼はもう動けないのでは無かったかと冬児は首を傾げそうになるが、何とか視線を下に移す。

 すると痛みの中心である腰の上辺りに短刀と思わしき刃が突き刺さっており、その短刀を握るのは自身のサーヴァントである筈のキャスターだ。

 

「………えっ」

 

 驚愕した冬児の表情が、徐々に理解できないという苦悶に歪む。

 

「マスター。貴方は頑張りました。しかし、哀しいことに貴方では吾輩の願いは叶えられない」

 

 キャスターの冷たい声が主の胸を貫き、突き刺さった短刀は引き抜かれる。

 冬児は肉体的負荷に加えて、信頼していたサーヴァントに裏切られるという精神的負荷を負わされ、再び地面に倒れ伏す。

 その身体は二、三度痙攣を続け、電池が切れたかのように停止した。

 

 

 その光景にキレイ・ハーデンベルトは何とも言えない気持ちになる。

 その心には既に先程まで燃え上がっていた未知への探究心など微塵も存在しておらず、またも答えを得られなかったという消失感だけがその胸の内に漂い続けた。

 そうしてゆっくりと彼は視線を対象物B、キャスターに向けて答えの解ってるいる質問を口にする。

 

「何故……自分の主を殺した?」

 

 するとキャスターは、死に体の筈の身体でさも当然のように首を横に振った。否、その身体はよく見ると死に体などではない。

 霊核を失い、ただ滅びゆくだけの筈だったボロボロの身体は、既に肉と魔力を取り戻している。

 大方、最初から意地汚く生き延びるつもりで魔術で偽装でもしていたのだろう。

 

「何故って、それは貴方の方が勝利する確率が高そうだからですよ。我々は聖杯を求めるサーヴァントです。

 マスターは聖杯に手を届くのに近い相手が良い。既に負けが確定しているマスターなどに誰が付き添いますか?」

「………貴様、それでも英雄か?」

「おかしなこと言う。そんな訳が無いでしょう」

 

 苛立ちの篭ったキレイの問に、キャスターはさも当然だと言わんばかりに返した。

 彼はもう元のマスターのことなど目もくれずに、それに致命傷を与えた人物に向かって跪いている。

 その姿に英霊としての誇りも、サーヴァントとしての覚悟も感じられる筈が無い。

 キレイはその姿に冷ややかな侮蔑を送り、しかしとて欠片の回収は聖杯完成の為に必須だと理解していた。

 それが納得できるかものかどうかは解らないが、答えを得る機会を奪ったこの男を今すぐにでも殺してしまいという激情を抑えつけて再度問い掛ける。今度は単なる探究心ではなく、任せられた仕事に関係する疑問だ。

 

「お前を現世と結び付ける欠片は何処にある?」

「我が手元に」

 

 キャスターはそう言って懐から金属の欠片を取り出す。藍色に輝くその姿は正しく聖杯の欠片と呼ぶに相応しい魔力を放っている。

 

「……まぁいい。お前の審議は後で決める」

「有り難き幸せ」

 

 そう言ってこの場から立ち去ろうとするキレイの背後を山羊の頭蓋骨を被った男が追っていく。

 途中、地面に横たわる元の主の与野を素通りしたが、キャスターがそれに目を向けることは無かった。

 それは興味が無いというより、もう話しても意味がないという意志の現れだったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 喝馬町山岳。

 早眞が未確認の人造人間(ホムンクルス)とそれを率いる不死の青年に襲われるのと時同じくして、そこで行われていた戦闘よりも遥かに格が違う規模の戦いが、北西にある山岳では行われていた。

 立ち込めるは暴風。舞い散るは火の粉ではなく万物を焼き尽くす炎そのもの。

 その中で尚平成を保ったまま動かずにいる男と、それに向かって武器を構える影が2つ。

 影のうちの1つはもはや隠れることなど次々と灰に変わる木々の幹や枝を足場にして次々と矢を放つ。

 射出された矢1本1本が火の神の恩恵を受けた必殺の矢だ。火神・アグニが英雄アルジュナに託した矢が尽きることはない。

 アルジュナの技量があれば一度射ち出した矢を数度方向転換することだってできる。

 当たれば爆発。故に必中必殺。神器と神技が合わさってこそ成せる業。

 

 しかし、その1つ1つを打ち落とすものがいる。

 

「ふっ」

 

 喉、胸、両手両足、行動を阻害する全ての攻撃を錫杖1つで打ち落とす。

 確実に対処するのではなく、ほとんどいなすかのような錫杖の扱い方でただ矢の弾道を変える。

 アルジュナの猛攻にその男も余裕という訳ではない。常に気を張らなければアルジュナの矢は男の体を貫き、瞬く間に後を追って射出される矢に体を針の筵にされてしまうだろう。

 しかし、男は嗤っていた。

 それは命の奪い合いである戦いが与えてくれる死への高揚感。

 彼が生きていた時代、そも戦士も暗殺者と呼ばれる人種は存在しなかった。

 猿が人の思考を持ってすぐの時代から彼は他の同類を統治した。聡明な判断力とそれ見合う力。

 彼のそれはある人物、否ある幻想種から学ばされた力ではある。

 猿を人に変えた王。

 掟を守護する王。

 人類最古の王。

 それこそが2体目のオリジンであり、マハーバーラタの大英雄アルジュナとアーサー王伝説の英雄パーシヴァルを苦戦へと導いていた。

 

 アルジュナが絶え間なく弓を射出し、その間を縫うようにパーシヴァルが敵へと接近する。

 敏捷Aランクのパーシヴァルの速度は並の英雄の比ではなく、数十メートル離れた場所から刹那の間にオリジンの眼前に接近する。

 手にした宝具は伝説的な聖槍。触れれば“万物に属さないモノ”を打ち払う能力を発揮し、それはサーヴァントという得意な存在でさえ消失させることが可能だ。

 しかし、それは触れられればの話。

 体制を低くしたパーシヴァルが右手で引き絞った槍でオリジンの胸を刺突しようと突き出す。

 しかしそれが肉に触れることはなく、直前に赤い線状のものが入った結界が展開され、その攻撃は弾き返された。

 その光景に思わずパーシヴァルは素で舌打ちをする。

 

「自動防御とか、反則でしょ!!」

「そう言うな。これでも極力範囲は抑えてある。貴様らの技量ならば十分突破できるレベルだ」

 

 敵の声にパーシヴァルは反応して、そのまま踵で地面をもう一度踏みつけて再度加速しようとする。

 その瞬間、パーシヴァルの超直感は主の危険を最大速で警告する。それも今までに無いほどの脅威が迫っている、と。 

 

「下がりなさい!!ランサー!!」

 

 それにアルジュナも同じ様に気が付き、急いでパーシヴァルに警告するが時すでに遅し。

 オリジンは既に錫杖を地面に突き立て、片手を上げている。

 

「"[nam]-lugal an-ta èd-dè-a-ba(天より王権が下される時、)

 

 [eri]duki nam-lugal-la(王権はエリドゥにあった)"」

 

 何かの呪文か否か。アルジュナとパーシヴァルには理解できない言葉の羅列が並べられた後、オリジンの背後に巨大な門が現れる。

 門は1つの芸術品と言っていいほど細部まで作りが拘っているが、しかしそれに統一性は無い。

 例えるならば古今東西の神々や文化が入り混じった宴を表しているようだ。

 芸術家が冗談混じりに作ったかのような発送でありながら、その姿は形容し難い程に完成している。

 扉が開く。中から絢爛とした光と共に出てくる物体がある。

 それは剣か。さも武器であるかどうか。

 それは“王剣”ではなく“王権”だ。

 まだ武器も文化もそれほど確立していなかった時代、世界最古の都市であるエリドゥには1人の王が居た。

 世界が大洪水に巻き込まれる前の話。一人で二万年以上も生き、まだ自己としての認識を持っていなかった人々を導いた王が居た。

 王はある時、神より天命を聞くこととなる。

 王権は我が都市にある。それを掴む者は誰か。

 それを掴んだものがオリジンであり、彼は見事に王として振る舞った。

 以降、誰もが彼を王として認めることとなる。

 彼が統治した間、争いなど起きる筈が無かった。誰もが彼を認めていたから。

 しかし事実、彼はそうなるとは思っていなかった。自分の代ではなくても、数百、数千、数万年後には必ず戦争が起こるだろうと予期していたのだ。

 故に彼は自信らが信仰する神に願い、一口(ひとふり)の武器を創造してもらった。

 それさえあればあらゆる脅威を打ち払うことができるという。

 彼が生きてきた数万年。終ぞ使うことは無かったその武器を、オリジンは――否、“人類最古の王(アルリム)”は握り締める。

 門より取り出されたその武器の色は金であり、恐らく刀であれば刃の部分があるであろう場所には蒼の亀裂が入ったドリルのようなものが着いている。

 それが大きく回転し、と同時に周囲に変化が生じ始める。

 アルジュナの猛攻により燃え盛り灰となった木々が元の色を取り戻して生え盛り、所々の雑草しか無かった草原が更にその密度を増す。

 空気の瑞々しさは増し、昆虫や微生物を含む全ての動植物達が“命”を取り戻す。

 それは神話の世界の体現だ。

 過去、確かに地上に存在していた世界。

 人の文明は浅く、大地では幻想種と精霊種が戯れ、それを神々が見守る。

 あの景色を再現することが可能なオリジンの宝具こそ、原初の楽園をこの地投影する固有結界――“聖なる掟を守護する都市(ゲート・オブ・エリドゥ)”。

 そしてそれを統治する王が持つ武器こそ、王剣であり王権ある、神の写し見。

 

「では目覚めよ!!

 質力を抑えてではあるが、何試し撃ちだ。遠慮せずに飲み込んでしまえっ!!」

 

 途端にオリジンの手にした武器から展開される、創生の嵐。

 オリジンの手にした武器の先端から太い血管のような糸が地上に張り巡らされると、同時に移し鏡の如く天空にも同じ文様が張り巡らされている。

 天と地。次に生まれたのはその間に存在する小さな黒い球心体だ。

 それは質量を持つものではない。また物質でもない。

 ただ、()()()()()()()確実に終わる何かだ。

 

 

「ッ!!!アーチャー!!!僕ごと巻き込む形でいいから君が撃てる全力を放って!!」

 

 ランサーが叫ぶ。オリジンの出現させた球心体の正体を直感的に知ってしまったからだろう。

 あれが本格的に動き出したら洒落にならないと、自身も槍を引き絞る。

 全力の魔力放出だ。

 

「ランサー!!?」

「いいから!!行くよ!!」

 

 アルジュナの疑問を背に、ランサーが勢い良く飛び出す。

 狙いはオリジン本体ではなく、球心体の方で既に準備も出来ている。

 槍に纏わりついた聖骸布を外し、その白き槍身を顕にする。

 

「御免よ。できるだけ使わないつもりでいたんだけど、僕に力を貸しておくれ」

 

 地面を滑るように走りながら、紅の甲冑のランサーが槍を大きく旋回させ狙いを定める。

 

 聖杯の騎士、パーシヴァルには取り立て目立った武勇は無い。

 その名が世に轟いたのは聖杯探索物語が起源であり、武勇に関しては円卓の騎士最強のランスロットやガウェインに比べると遠く及ばないとされている。

 少年時代は騎士になる為に元々紅の甲冑の持ち主であった騎士を倒したという功績もあるが、そんなものは英雄になるには物足りない称号だ。

 曲者揃いの中の円卓の騎士の中で彼が誰にも負けないことがあったとしたら、それは純粋であったこと。

 いつもいつだって直感的に行動し、良いことがあれば笑い、悪いことがあれば怒り、嫌なことがあったら泣いた。

 それは時には武器にもなり、弱手にもなる。純粋であるが故に強さと弱さ。

 多くの騎士は彼のことを騎士道に準ずるには呼べない騎士だと口にしたが、決して気に食わないと言わなかった。

 それは皆、彼のことが本心から嫌いになれなかったからなのだ。

 何の悪気も無く毎日を過ごす彼のことを、騎士達は仲間だと認めていた。

 彼の手に握られた槍はその証明でもある。

 誰もに認められた彼だからこそ、黒1つ無い真っ白な心の彼だからこそ、あの聖槍を手にすることができる。

 

「行くよ――“穿ち滴る聖者の槍(ロンゴミアント・ロンギヌス)”ッ!!!」

 

 途端、ランサーの宝具である聖槍が最大展開される。

 槍の能力は至って単純であり、魔力の槍が触れた魔力を吸収することができるというものだ。

 ランサー、パーシヴァルの槍は普段はただの鉄と青銅で造られた槍に過ぎない。

 通常ならばDランク相当の宝具にしか満たないその槍の真髄は宝具開放時に発揮される。

 パーシヴァルはアーサー王伝説において、ガラハッド・ボールスという二人の騎士と共に聖杯を見つけた人物である。

 言うまででもないが、聖杯というのは元来ある聖人の血を注いだ杯のことを指している。

 現代でさえ数多くの模造品が造られた聖杯だ。彼ら三人の騎士が見つけたのが実際に本当の聖杯であったかどうかは定かではないが、ただパーシヴァル本人はそうであると信じていた。

 何故なら彼が唯一心から尊敬する人物が見つけた宝物が、偽物である筈が無いと確信していたから。

 盲信的ではあるが、彼はそれを信じて疑おうとはしない。

 力を開放された聖槍は、あらゆる魔を吸い込み祓うことができる。

 魔力で活動するサーヴァントのオリジンが出現させた宝具であるとしたならば、自身の槍でどうにかできるというのがランサーの考えだった。

 

 ――しかし、

 

「!!?」

 

 物理法則とか、霊的法則とか、因果律とか、

 そういうものを全てを無視してオリジンの生み出した球体は止まらない。

 聖人の血を啜った聖遺物を自身の武器に擬態化させたパーシヴァルの槍はただ魔力を吸い上げる。その果てに待つのは小さな奇跡の具現だ。

 勿論、幾ら聖人の槍といっても限界はある。容量オーバーというやつだ。

 しかし、それは()()()だろうという過程の話。

 本来パーシヴァルの槍が吸い上げきれない魔力の構成物質など存在して良い筈が無いのだ。

 そして、その起きてはならないことはパーシヴァルの眼前で事実として起きている。

 

「な……んだよこれ……」

 

 驚嘆するパーシヴァルの声も聞き入れず、“穿ち滴る聖者の槍(ロンゴミアント・ロンギヌス)”は黒い球体からただ魔力を吸い上げ続けるが、それが干からびることはない。

 それどころか黒い球体は時が経つほどに内包する魔力を増幅させているようにも思われた。

 その為、これ以上の搾取行為は無駄だと考えたパーシヴァルは後方に大きく跳んだ。数秒空中を浮遊するほどの大跳躍を魅せながら、パーシヴァルは己が槍を片手で握って構える。

 

 パーシヴァルの槍は至ってシンプルな2つの能力を有している。

 1つが先程見せた他者からの“魔力吸収(ドレイン)”能力。これは自身の魔術回路にも直結しており、魔力さえあればAランクの単独行動スキルと同じかそれ以上の効果を見込める。

 2つ目が吸収した魔力の開放、つまり大爆発を引き起こすこと。

 といっても、炎症能力のある爆発を引き起こす訳ではなく、聖槍の真髄はやはり魔を払うことにある。

 爆発した“穿ち滴る聖者の槍(ロンゴミアント・ロンギヌス)”は己を中心としてあらゆる“魔”を立ち払う。

 それは魔力を血肉として生きる、サーヴァントも例外ではない。

 

 パーシヴァルが槍を大きく引き絞る。柄を握る力が強すぎて、白い槍にはランサーの手から溢れた血が付着していた。

 

「アーチャーッ!!僕のがダメだったら次頼むよ!!同時撃ちだけはやめておくれ!!」

 

 それはパーシヴァルの槍があらゆる魔を打ち払う能力が有するが為に、もしアルジュナと同時発動にでもなってしまうと互いの威力を相殺し合うからであり、アルジュナも彼に言うことには間違いは無いと完璧なタイミングまで魔力を貯め続ける。

 ギリギリまで待ち自身らの宝具でオリジンの攻撃を打ち破った後、際限なく矢の豪雨を降らしてやろうとアルジュナは考えていたが、その考えに曇りが生じる。

 その正体はオリジンの遥か後方。街の方から溢れ出る『狂気』が関係している。

 極度の集中状態のせいで敏感になった五感が教えてくれたその狂気は、間違いなく喝馬町中心から生じている。

 目の前の規格外のサーヴァントには及ばずながらも十分強力な魔力の集合体。

 否、アルジュナの蒼き双眸に映るそれは一体の強大な魔力生命体などではなく――

 

 

「複数の……サーヴァント………!!?」

 

 

 驚嘆した声でアルジュナが呟いた。オリジンはその様子にやっと気が付いたかと嗤い、パーシヴァルは構わず槍を投げようとする。

 

「!!!」

 

 それに気が付き、アルジュナが大きく跳躍する。その狙いはパーシヴァルの宝具開放の即時中止にあり、彼はパーシヴァルの腰を片手で抱き抱えると、そのまま木々の隙間を縫って全力でオリジンから逃亡していく。

 その姿を見ながらオリジンが背中を撃ち抜く事は無く、それどころかその表情には僅かな恍惚が生まれており素直に見送ってしまっていた。

 

 

「なっ何するのさ!!?アーチャー!!?敵前逃亡なんて君らしくないよ!!?」

「……そんなことを言ってる場合では無くなりました」

「………?」

 

 パーシヴァルから見たアルジュナの姿は明らかに今まで一番暗いものに変わっている。それは絶望の色にも似ていた。

 森の中を疾走し、少しするとパーシヴァル自身にもその絶望の意味が解ってくる。

 

 

 森を抜けた先で見えたのは――地獄絵図だった。

 

 

「………何だよ、これ」

「………」

 

 パーシヴァルが呆け、アルジュナが唇を嚼む。

 

 喝馬町全土に広がる光景。

 それは“巨大な悪竜”が飛翔し街を焼き尽くしていき、“黒い羽翼を生やした怪物”が次々と人々を斬り殺し、装飾を黒に近い物に変えた“かつての英霊達”が世界を蹂躙する姿だった。

 

 其処にはもう数時間前までの偽りの平穏すら、残っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※今回の反省点
2週間も投稿が遅れました!!申し訳ない!!


と、言っている間にハロウィンイベントが終わり、オケアノス実装しましたね。出るかなと期待していたサーヴァントは出ませんでしたが、大好きな姐さんが出てくれて満足です。引きませんけど。

何気にFGOと本二次創作は鯖被りが今のところ起きてませんが、アステリオスくんとかイアソンとか関係のあるサーヴァントはいっぱい出てるので、絡んだらどうなるのかなーとニヤニヤしながらやってました。
皆さんがお目当てのサーヴァントを当てられることを願っています。
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