*現在記載できる登場人物のみ掲示。
『キャスター陣営』
・早眞冬児
この物語の主人公。魔術師を義父にもつ一般人。不遇な苦しみに囚われる少女を救うために聖杯統合戦に参加することを決意する。
過去に別の場所で行われた聖杯戦争の聖杯を使い、7種の英霊をその身に宿すことが可能。
・バーサーカー(ニ騎目)
圧倒的な巨体と人一人を容易に潰すことができる棍棒を持つ大男。狂化していても辛うじて敵味方の区別はついている。その真名はミノタウロス殺しを果たした大英雄、テセウス。
『アーチャー陣営』
・ライングル
イタリアの大マフィア『クリムゾン』の代理ボス。内気な少年で戦いにも気乗りではない。
・フラン
アーチャーのマスターであるラインの護衛。過去の事件から肉体の四分の一を死徒に変えられている。
・アーチャー(一騎目)
青丹色の髪と金属を幾つも身につけた青年。真名はインドの叙事詩『マハーラーバタ』にも載る大英雄、アルジュナ。 現在は行方不明である。
・ルツ&マーク
フラン同様、ラインの護衛。
【参加者以外の登場人物】
「バルドリア」
・キレイ・ハーデンベルト
アレーシアの息子。アレーシアの護衛役として付いてきていたが、肉親二人が死亡後聖杯統合戦の監督役として勤める。
・サンジェルマン伯爵
歴史上の人物の名を語る中年。堂々と魔術協会に喧嘩を売る。強力かつ大量の人造人間ホムンクルスを所持している。監督役であるキレイと手を組む。
・オリジン(一体目)
監督役によって呼び出された強力なサーヴァント。自我を失わされており、現在は欠片との繋がりを切断されているが自身の魔力でこの世界に限界し続けている。
・オリジン(二体目)
かの英雄王よりも前にこの世界に君臨していた王、アルリム。その戦闘能力は前任のオリジンをも凌ぎ、手にした錫杖を一振りするだけで多次元空間へと繋がる孔を作り出す。
・アサシン(四体目)
海を思わせる青い髪が印象的な青年。背中には槍と弓、腰には二本の刀を持つ。その真名はトロイの木馬で有名な策略家、オデュッセウス
・ライダー(ニ体目)
マゼンタ色の髪を持つ妖艶な女性。英雄でもなく戦士でもなく、その身は化物を産んだただの怪物であるという。礼節は弁えている。
・キャスター(二体目)
山羊の頭蓋骨を被った偽物の魔術師、アレイスター・クローリー。元の主を裏切り他のマスターの元へ降る。
・セイバー(三体目)
黒いレンチコート、黒いスボン、黒い手袋、黒い靴を履いた、十字架を首に掛けた男。腰には長刀を携えている。
「聖堂協会」
・熊
埋葬機関所属。№不明。竜種(実物かどうかは不明)の骨から作られた大剣を片手に異端者を狩りに喝馬町に来た。ちなみに熊というのは本名ではない。
「その他」
・矢部崎結香
聖杯戦争に参加していたマスター。敗退した後も受肉したサーヴァントと共に冬児をサポートする。
・かぐや姫
受肉した元ライダー。黄金の木舟と不思議な力を持つ5種の道具を使う。
・壬生カグヤ
冬児の代わりに元々聖杯統合戦に参加する筈だった少女。何者かの襲撃に会い、人の形を保てていない。
・壬生安山
カグラの父親。既に死亡している模様。
・早眞トーリ
早眞冬児の養父。
○
少年は怯える。
それは形のあるものではない。少年自身、はっきりとその正体を掴めているわけではないのだ。
ただ、確かにその恐怖は彼の中をまるで蛇のように這いずり回っていた。
恐怖は、頭から四肢の先を行っては戻りを繰り返し、それが震えとして具現し寒さに怯えるが如く彼の身体を苦しめる。
脳裏に蔓延る。恐怖。恐怖。恐怖。
戦いに対する恐怖は消えはしない。
何故今まで自分があんな場所にいたのか、何故恐れを知りながら立っていたのか、失う恐怖を知りながらまだ前を見ていたのか。
解らない。今となっては違う世界の違う人間の心境を映画として見ているような気分だった。
あれは自分ではなく、今の自分とは別人だ。
弱者であった自分。そして今はもうそう名乗ることさえできないほどとても小さな存在となった自分。
少年はただ震える。多くの者に守られながら、彼はまだ莫大な不安と暗闇の中に居る。
もう、外の言葉など聞きたくないというのに、無慈悲にも扉から何かがぶつかる音が耳に入る。
それは三度。打ち付ける音が連続し、同時に少年はまた恐怖に呑まれた。
自分を苦しめる者が来た。新たな恐怖が自分を襲いに来た。
狂騒めいた感情を抱き、少年がその『音』に応じることはなかった。
暫くすると、何かを扉に打ち付けるような音は次第に少年にとって聞き慣れた『声』へと変わる。
「――マスター」
「 」
少年の呼吸が止まる。
しかしそれは一瞬で、その声の主を理解すると、再び少年の震えは激しくなっていく。
額を、頬を、首筋を抜けていく汗はただの冷や汗と呼ぶには限度を越すほど洪水量を増し、身体の震えももはや痙攣と言っていいほど早くなる。
そんな状態を知ってか知らずか、外からの『声』は再度部屋の中に閉じ籠る少年に言葉を掛ける。
「マスター。まずは、貴方の命に叛き、今この場に居ることをお許し頂きたい」
扉の外の『声』は低い声で謝罪した。
声だけでも解る。暗き、途切れそうな声は明らかに本心から謝罪を口にしているのだ。
その謝罪の言葉に、少年は何故彼が謝っているのかよく理解できなかった。
確かに彼は少年の『自分の前からいなくなれ』という命令から叛いていた。声の主が其処に居るのは持ち前の対魔力で令呪による強制命令に無理矢理対抗しているからだろう。
帰ってきたサーヴァントに、少年は返すことが見つからない。
その命は少年自身、何故あんなことを言ったのかよく覚えおらず、それに対する謝罪をされても少年は何と答えればいいかわからないのだ。
それ以前に、やはり少年の心を蝕むのは恐怖。
声を出そうにも、彼の身体を這いずり回る恐怖が喉元を掴んでそれを止める。
代わりに部屋の中に響くのは、やはり何処か苦しげな青年の声のみである。
「私は、貴方をお守りすることができなかった。その事に関して私が貴方に言い訳をするつもりはない。どのような処罰でも受け入れましょう。貴方が死ねと申すのであれば、それさえも受け入れましょう」
それは不条理だと、少年は思う。
何しろ青年は何も悪くなく、全て少年自身が弱いことがいけないのだと知っているから。
自分の不徳の致すところだというのに、青年はそれを自分の責だという。
その事実がまた、少年の心を深く締め上げた。
「ですが、主よ」
青年の声は続く。
輝く王冠とまで呼ばれた大英雄。誰もが彼を愛し、敬服したと言われている。
彼が間違いを口にすることなど、あってはならないのだ。
「貴方のことを待っている人がいます。貴方を誰よりも必要としている女性がいます」
何も間違っていない。邪悪のない、清らかな英雄。
その声を聞くことこそが、
「だから、どうか主よ」
「うるさいっ!!!!」
――ラインにとって、何よりも辛かった。
「お前なんて知らない!!お前と僕は同じじゃない!!お前みたいな強い奴が、わ、わかった風に言うなよぉ!!」
「―――」
突然の怒鳴り声に、青年の声は制止した。
対する少年は、涙で顔をボロ雑巾のようにしながらも、喉が痛むのを堪えて必死に今まで溜め込んできた言葉を綴る。
「ぼ、僕は、僕は弱いんだ!!だ、だから、だから皆に守ってもらってきたっ!!
それが当たり前だって、こ、こんな僕でも、いつか誰かを助けられるように、なるから!!だから、今はこのままでいいって!!」
甘えていた。現状に。環境に。
いつかなれる。
だから今は溺れていい。頼っていい。そう決めつけて、少年は理由を決めて頑張らないでいた。
自分を慕ってくれる近くにいる友人達に、甘えていた。
「でも違ったんだ!!僕は何もしなかっただけだったんだ!!何も変わってなんかいなかった!!!
そんなこと、誰よりも知ってたんだ!!」
幼い頃からずっと守られてきていた。
成長しても、親の権力に守られてきた。
それが普通だと、そう教えられたし思っていた。
それが普通ではないと知った時、彼はどれ程自分を恥じただろうか。
過呼吸じみた呼吸になりながらも、少年は小さな声で弱々しく、自分を責めるように言葉を紡ぐ。
「……それでも、変わった男の子を見たんだ………この場所で……僕と同じ、弱い男の子だったのに……今じゃ皆を救うヒーローになってる男の子がさ……」
少年が思い出すのは、この異郷の地で出会った一人の青年。
出会った時は、彼も自分と同じような周りに流されるだけの弱者に過ぎなかった。
でも、彼は次第に強くなった。ただ単に腕力が強くなったというわけではないのだ。
『ただ一人を救う意思』を、『皆の命を無駄にしない覚悟』に変えたのだ。
その背中を思い出し、青年と自身のサーヴァントはもしかしたらよく似ていたかもしれないと少年はふと思ってしまった。
「……僕なんかとは全然違うよ……早眞くんも……お前も………。全然………全然違うんだよ……」
少年の項垂れた声が、真っ暗な部屋に反響し、扉の前にいる青年の耳にも入る。
青年はその声を聞き、悲痛だと思った。
それは同時に、英雄としてではなく、一人の『友人』として、目の前の少年を救いたいと彼の心を奮い立たせる。
青年が一度視線を上げる。其処には廊下の天井しか無いのだが、彼が見据えていたのはそんなものではなかった。
視覚、ではなく心で今彼は思い出しているのだ。
本来ならば思い出す必要などないほどに深く刻まれた、遠い日の記憶のことを。
青年は一息つくと、部屋の中と同じく明かりもついていない廊下に両膝をついた。
日本人の正座に近い座り方をすると、青年はゆっくりと息を整え、再度少年に向けて語り出す。
「マスター。聞いてください。
私はね、貴方と同じようにとても臆病だったのです」
少年からの返答はない。聞いているかどうかもわからない。聞いていたとしたら恐らく信じて貰えていないのだろう。
それでも、青年は聞いているものとして話を進めようと言葉を紡いだ。
「何も戦が怖い訳ではありませんでした。こういっては何ですが、私はそれなりに腕がたつと自負していましたし、正直なところ皆に英雄と持ち上げられたのは嬉しかった。
兄や弟達と笑いあえた日々は、本当に楽しかったんです」
思い出す。遠き日の栄光。それに曇りがさしたのは、一体いつからだったろうか。
「恐れを知らない私は、ある日、初めて恐怖を知り、逃げ出そうとしました」
彼は語る。あの戦い。後にインドにて幅広く語られることになる、宿敵との戦い、クルクシェートラの戦いのことを。
「今まで敵国を機械のように殲滅してきた私に、初めて敵を討つ恐怖が生まれた。
その戦いの敵は、紛れもない。私の親族だったのです」
叔父。或いは従兄弟。そういった者達の命を奪わなければいけないことに、大英雄は初めて苦悩した。
「我が行いは善行なのか。果たして、親族に、矢を向けることが、本当に正しいことなのか。
私は怯えていたんですよ。ただ、漠然とした恐怖に」
その時、大英雄は弓を引き絞ることができなかったという。
手を離せば簡単に命を奪えることを、彼は銃数年ぶりに恐怖した。
「そんな時にね、私の友人が言ってくれたんですよ。いつも通りに、意地悪な笑みを浮かべながらね」
――んなもん気にすんな。構わずぶっ殺せ。
「―――」
「おかしいでしょう?彼は自分のことを神の映し身だとその場でカミングアウトしたっていうのに、同時にそんな無茶苦茶なことを言ったんですよ?」
大英雄が苦笑する。扉に阻まれた少年には見えないが、その表情は何処か誇らしげでもあった。
口にする友人のことを、心から信頼している顕れなのだろう。
「ただ彼は、気にするなと。どのような蛮行をしようとも、それは人のすることだから。人のすることに間違いなど無い。お前のすることに誤りなどないと、彼はそう何度も言ってくれましたよ。
神の写し身である俺でさえ好き勝手女食ってんだから、半分人間のお前が気負うことはない、って。普段は皮肉屋の癖に、その時だけはやけに優しくてね」
大英雄が自身の腕の肌の色を見て懐かしげに笑みを零す。
「我が宿敵と雌雄を決した時も、彼は私と一緒に戦ってくれました。彼だけではない。多くの人が私を支援し、矢を放つ度に歓声を送ってくれた」
そう。その戦いこそ、後の世にも広く語られることになる二人の大英雄の戦い。
インドの神話的叙事詩マハーバーラタに載る最大の戦争。雷霆神インドラの息子・アルジュナと、太陽神スーリヤの息子・カルナの戦い。
「マスター。私は、恐ろしかったんです。何しろ“彼”は、私など及びつかない本物の戦士でしたから。
不死の肉体を持ち、卓越した、いえ神々すら慄く弓の使い手でもあった彼と戦うことを、私は恐怖していたのです。こうしてサーヴァントとして呼び出された今でも思うのです。私は、彼には一生敵わないと」
その言葉に少年は内心首を傾げた。
何故なら青年の、敵わないというその言葉は矛盾しているから。
記録には、“大英雄アルジュナはカルナの首を弓で貫いて勝利した”と記されている。
つまり、彼は勝負に勝ったのだ。
なのに、敵わないとは何故?
それは彼らの戦い以前の物語を知れば、自ずと頷ける答えが導き出せるのだ。
「彼は私と戦う前に二つの呪いと我が父から大いなる卑劣を浴びました」
それは神である自身の父を敬う青年からは、大凡発せられるはずの無い単語が混じっていた。
そう、大英雄アルジュナが不死身の英雄カルナに勝てたのは、単なる奇跡ではない。
英雄カルナは、施しの英雄とは他に、悲劇の英雄としても語られている。
1つに、彼は師から“ここ一番で奥義を出せなくなる”という呪いを受けたとされている。それは彼自身が悪だから師がそのような呪いを押し付けたというわけではないが、出生やらが関係しそのような不当な呪いを受けたとされている。
2つに、誤ってバラモンが飼う牛の命を奪ってしまったことから、緊急の際に戦車が動かなくなる呪いも受けた。
3つに、彼は生まれた当初、母によって不死身の肉体にされたと言い伝えられている。黄金の鎧と耳輪。この二具が彼の身体に宿る限り、彼は不死身とされていた。
アルジュナの父インドラはそれを危険視し、あろうことか戦場に降り立つ前に自身の父に祈りを捧げるカルナの前に姿を変えて現れ、鎧を差し出すように言った。
前述したように、カルナはまた施しの英雄とも呼ばれている。
本来であるならば、己の皮膚と一体化したその不死身の鎧は脱げるものではないが、カルナは姿を変えたインドラの正体を知りながらも、担当で自身の皮膚を切り裂いて鎧を明け渡したのだ。その時彼は、微笑さえ浮かべていたといわれている。
その姿に感銘を受けたインドラは己を恥、代わりに神さえ射ち殺す槍を差し出した。
しかし、鎧と交換したその槍を、カルナがアルジュナとの戦いで使ったとされる記述はどこにも無い。
「彼は、彼はいくつもの呪いや不備を受けてなお勇敢だった。恐れを知らず、ただ一人の戦士として私と戦ってくれました。
父の不備も追求せず、自身の呪いのことも話さず、その時できた全力で戦い、そして私に討たれた。しかし、それは私一人の勝利などではないのです」
青年は語る。かつての友の話をするかのように。
「私が彼に勝てたのは、私一人の力などではない。周りに守られ、支援され、共に闘ったからこそ得た勝利なのです」
青年は語る。誰かに守られるのは恥だと語る少年に。
「貴方弱い。そして、愚かでもあるかもしれない。
しかし、貴方は一人ではない。一人ではないのです。
迷ったのであれば手を引きましょう。
進めぬというのであれば背を貸しましょう。
戦えぬというのであれば共に戦いましょう。
人間は皆一人では息をするのも苦しいのですから」
その言葉に少年は思い出す。
自分が不甲斐ないと思っていたあの暗い記憶に、いつも横に居てくれた人々の笑顔を。
手を差し伸べ、一緒に行こうと行ってくれた、家族の姿を。
気が付いた時には少年は立ち上がっていた。
久しぶりに足に力を入れたせいか、よろよろと蹌踉めきながらも、明かりがついていなくて先が見えない床に両足をつけて僅かに光が漏れ出すあの扉まで。
涙でぐしゃぐしゃだった顔はもう拭いた。
ドアノブに手を掛けようとして、一瞬止まる。
指がドアノブに手を掛けることを恐れている。
開けばまた恐怖と絶望だらけの世界が待っている。
今でも怖いままだとのに、踏み出してもいいかもしれないと思えるのは、決して自分が、自分だけの力で成長したおかげではないのだと少年は理解している。
でもいつか。いつか自分一人でも立ち上がって、また違う誰かを救えるようになるために。
少年は両手に力を入れて、開けなかった扉を、今開いた。
「――えっ」
扉の先。部屋の外に立っていたのは、自身のサーヴァントだけではなかった。
満足気に微笑む青年と、自身のサーヴァント、
そして涙目で彼のことを出迎える、誰よりも彼が愛し、彼のことを愛している女性。
少年と女は出会った時のことを思い出す。
あの時も二人。立場は違えど、同じように涙を浮かべて情けのない声を出して泣いていたのだ。
少年の帰りを待っていた女性は一度だけ、涙を拭くような仕草をすると、目を真っ赤にしながら眩いばかりの笑顔で少年にずっと言いたかった言葉を掛けた。
「おかえり、ライン」
※今回の反省点
勢いで書き過ぎた。
この話数の内容はいつか書こうとラインというキャラクターができた当初から考えついていたストーリーなので、いざ形にするとここまできたかと、何というか不思議な感じがします。
もうこの後はしばらく戦闘描写多めになりそうです。
あと二話連続投稿だと思うので、明日の同じ時間にも投稿しますよー。