Fate/ragnarok gate   作:フーリン式

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《キャラクター紹介》
*現在記載できる登場人物のみ掲示。

『キャスター陣営』
・早眞冬児
この物語の主人公。魔術師を義父にもつ一般人。不遇な苦しみに囚われる少女を救うために聖杯統合戦に参加することを決意する。
過去に別の場所で行われた聖杯戦争の聖杯を使い、7種の英霊をその身に宿すことが可能。
・バーサーカー(ニ騎目)
圧倒的な巨体と人一人を容易に潰すことができる棍棒を持つ大男。狂化していても辛うじて敵味方の区別はついている。その真名はミノタウロス殺しを果たした大英雄、テセウス。

『アーチャー陣営』
・ライングル
イタリアの大マフィア『クリムゾン』の代理ボス。内気な少年で戦いにも気乗りではない。
・フラン
アーチャーのマスターであるラインの護衛。過去の事件から肉体の四分の一を死徒に変えられている。
・アーチャー(一騎目)
青丹色の髪と金属を幾つも身につけた青年。真名はインドの叙事詩『マハーラーバタ』にも載る大英雄、アルジュナ。 現在は行方不明である。
・ルツ&マーク
フラン同様、ラインの護衛。

『ランサー陣営』
・矢部咲結香
一度は聖杯統合戦から敗退したが、元サーヴァントであるかぐや姫と新たなサーヴァントであるランサーを連れて、想い人のために再戦を決意する。
・かぐや姫
元ライダーのサーヴァントであるが、オリジンによって受肉させられた。宝具やスキルの行使は未だ可能であるが、人間と同じようにお腹も減ってしまう。
・ランサー
銀髪を風に靡かせる白い槍持ちの美少年。その真名は聖杯伝説に名を轟かせる円卓の騎士・パーシヴァル。

【参加者以外の登場人物】
「バルドリア」
・キレイ・ハーデンベルト
アレーシアの息子。アレーシアの護衛役として付いてきていたが、肉親二人が死亡後聖杯統合戦の監督役として勤める。
・サンジェルマン伯爵
歴史上の人物の名を語る中年。堂々と魔術協会に喧嘩を売る。強力かつ大量の人造人間ホムンクルスを所持している。監督役であるキレイと手を組む。
・オリジン(一体目)
監督役によって呼び出された強力なサーヴァント。自我を失わされており、現在は欠片との繋がりを切断されているが自身の魔力でこの世界に限界し続けている。
・オリジン(二体目)
かの英雄王よりも前にこの世界に君臨していた王、アルリム。その戦闘能力は前任のオリジンをも凌ぎ、手にした錫杖を一振りするだけで多次元空間へと繋がる孔を作り出す。
・アサシン(四体目)
海を思わせる青い髪が印象的な青年。背中には槍と弓、腰には二本の剣を持つ。その真名はトロイの木馬で有名な策略家、オデュッセウス
・ライダー(ニ体目)
マゼンタ色の髪を持つ妖艶な女性。英雄でもなく戦士でもなく、その身は化物を産んだただの怪物であるという。礼節は弁えている。
・キャスター(二体目)
山羊の頭蓋骨を被った偽物の魔術師、アレイスター・クローリー。元の主を裏切り他のマスターの元へ降る。
・セイバー(三体目)
黒いレンチコート、黒いスボン、黒い手袋、黒い靴を履いた、十字架を首に掛けた男。腰には長刀を携えている。


「聖堂協会」
・熊
埋葬機関所属。№不明。竜種(実物かどうかは不明)の骨から作られた大剣を片手に異端者を狩りに喝馬町に来た。ちなみに熊というのは本名ではない。

「その他」
・壬生カグヤ
冬児の代わりに元々聖杯統合戦に参加する筈だった少女。何者かの襲撃に会い、人の形を保てていない。
・壬生安山
カグラの父親。既に死亡している模様。
・早眞トーリ
早眞冬児の養父。


二つの十字架

 

 悪鬼達が蔓延る道路の上を、突風が如き焔が舞う。

 黒い霧のようなものを纏ったサーヴァント達と人造人間(ホムンクルス)達の中心に位置する戦士が、その人が使うものとは到底思えない大槍を振り回す度に数十体の身体が引き裂かれる。

 それは槍の切先による殺傷力であったり、大槍から吹き出る桁違いの魔力を纏った火炎であったり、大槍を振り回したことで舞い上がる風圧であったり。

 理由はそれぞれではあるが、ただその戦士の攻撃は、一度で数十体の敵を難なく倒す。

 

「ぐぎがぁッ!!!」

 

 三度目の攻撃。英霊化し、伝説の大英雄の力をその身に宿した冬児の攻撃を受け止めた存在が居た。

 黒い霧のようなものがかかった、日本の武士風の鎧武者。

 冬児はその姿を知っており、初めて見たのは数日前だというのにもう数ヶ月も前の事のように思い出す。

 キャスターと矢部咲結香と共に倒した、1体目のシールダーのサーヴァント。

 並の物理攻撃を無力化する鎧と、剣先から雷光の如き一撃を炸裂させる宝具を持つ武士。

 数日前は恐ろしくて仕方無かったというのに、冬児はあの時では考えられないほど涼やかな笑みでそれと対峙した。

 

「よう。久しぶりだな」

 

 英雄宜しく、勇ましい笑みを浮かべ冬児は大地を蹴って一気に接近する。

 

「ッ!!?」

 

 急速すぎるその速度に武者は反応することができない。

 何しろBランクのスピードに合わせて、足の裏から炎の属性を持つ魔力放出で加速している。

 そのスピードはAランク、ないしA+まで跳ね上がる。

 直感スキルは愚か、正気すら失っているシールダーでは何が起こったかさえ理解できないだろう。

 

「あぐがぁッ!!?」

 

 理解もできないまま、シールダーは大槍で胸を貫かれる。

 冬児は姿勢を低くして、下から突き上げるようにしてシールダーの胸を貫いたのだ。

 対する胸を貫かれたシールダーは動かない。自分の死地を理解したのか、先程までの凶悪な面構えは変貌し、無表情でただ無気力に放心している。

 大槍から放出した焔でシールダーの肉体が焼け溶けていく。

 やがてその肉体がただの魔力の塵と変わると、周囲の人造人間(ホムンクルス)達が唸りを上げ、それぞれ持った武器、もしくは肉体、もしくは魔術で冬児の身体に集中砲火する。

 塵も積もれば山となる。それ1つ1つはサーヴァントに対して無力な攻撃だとしても、合わされば強大な力となる。

 戦闘機十数機の連続射撃と同等の集中砲火を受けながらも―――大英雄の殻を被った早眞冬児は無傷だった。

 精悍とした表情で人造人間(ホムンクルス)達の攻撃を受けれるのは、彼が殻を被った英霊から借り受けた、1つの宝具がその真価を発揮しているからに他ならない。

 “日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ)”。

 光そのものが鎧となって具現化する、黄金の防御型宝具。マハーバーラタ曰く、その鎧は皮膚と一体化し、持ち主に太陽の如き輝きと不死性を齎すとされている。

 借り受けたに過ぎない冬児にはその鎧は皮膚と一体化ではなく、脱衣可能な鎧としてしか具現していないが、その効果は十分に発揮されている。

 神々でさえ破壊不可能とされる最高位の宝具。

 人の知識で製造された人造人間(ホムンクルス)と、理性を失い宝具も十分に使えないサーヴァント達が束になろうと、そのダメージが冬児に通ることはない。

 それはこれから数時間かかろうと、数日かかろうと変わりはない。

 しかし、冬児達はそんな無益な戦いに構っている暇などない。

 威力だけなら合わせてBランク相当の対城宝具の攻撃を受けながら、冬児は片手で槍を力強く握って構える。

 

「バーサーカーッ!!上に跳べ!!」

 

 攻撃を放つ直前、自身のサーヴァントに命令する。令呪無しの命令に狂戦士が従うかどうかは不安だったが、

 

「ッ!!!」

 

 進言したと同時に、少し離れた所で戦っていたテセウスが、周りの人造人間(ホムンクルス)達を混紡で薙ぎ払うと、並列するビルを足場にして大きく跳躍する。

 冬児はそれをギリギリで確認すると、他の人造人間(ホムンクルス)達が行動を起こさない内に自身の槍を引き絞った。

 神々をも射殺す大槍は火炎を纏い、ただ一人を突き刺すのではなく、群衆どころか“国”そのものを破壊する対国宝具としてその真価を発揮する。

 

「“梵天よ、我を呪え(ブラフマーストラ・クンダーラ)”」

 

 突如、地面に突き立てられた烈火の大槍。

 それは宝具の開帳と共に蜘蛛の巣のように地上に炎の散らばらせ、火山の噴火の如き勢いで次々と人造人間(ホムンクルス)達を燃やし尽くしていく。

 炎の威力はそれこそ神代の魔術以上のものだ。巻き込まれた人造人間(ホムンクルス)達は、悲鳴すら上げられずに次々と炭に変わってはその場で崩れ去っていく。

 相手が固まっていてくれたおかげか、その一度の攻撃で粗方の人造人間(ホムンクルス)達は消滅させることができた。

 何とか炎から逃れ生き残った人造人間(ホムンクルス)達も、今や武器は握りど攻められずにいる。

 人の身でありながら英霊さながらの力で戦う冬児に臆しているのだ。

 下手にうってもやられる。束になってもやられる。

 自分達ではどうあってもやられる。

 となると、彼ら人造人間(ホムンクルス)達にとって英霊を倒すのに頼りになるのは、やはり同じサーヴァントに他ならない。

 不意の殺気に冬児は大槍を構え、その斜め前にバーサーカーがビルから大きく跳躍して降り立ち混紡を振るう。

 どんな敵であろうと負けるつもりは無かったが、研ぎ澄まされた戦士としての意識は一瞬、早眞冬児という一人の青年のものに戻ってしまう。

 原因は現れたその二つの殺気の片方にあった。

 

「……………っ」

 

 予想していた為、そう驚きはしない。

 現れた二つの殺気の正体は、蘇り黒い霧のようなものを身に纏った英霊に他ならなかった。

 片方は赤い槍を背に乗せ、獰猛な獣の様相で冬児達を睨む青い装甲の槍兵。

 確かにそのサーヴァントはとてつもない力を秘めているかのように見えたが、そちらではない。

 冬児の戦意を欠けさせたのはもう片方。

 紫と白の装束を身に纏い、地を擦るほど長く伸ばした黒い絹のような髪が特徴的な、赤い瞳の女。

 その姿に見覚えがある、その姿に冬児は息を呑み、万感の想いと共にそれを吐き出した。

 

「……久しぶりだな」

  

 待ち望んだ再開も喜べず、彼は“彼女”に苦しげな笑顔を向けることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 既に逃げ場の無い地獄と化した喝馬町。その道ではなく、上空を移動する影が、戦闘しているサーヴァント達の他に1人。

 彼女は“本来の姿”に近い形態、即ち下半身を大蛇のそれに変えながら、夜の町をビルへビルへと移動していく。

 彼女のクラスはライダー。隠密能力を持たない彼女が本来このような目立った行動を取れば、大規模な千里眼を持つアーチャーに見つかるのは必然であるが、今現在その厄介なアーチャーも蘇った悪竜・ザッハークに苦戦しているとの情報が入っている。

 その間に自分がやることは1つ。

 同じく蘇ったあるサーヴァントを抹殺し、その後オリジンが出現させた遺跡へと接近しつつある敵の車を破壊すること。

 蘇ったサーヴァントの抹殺と、敵のマスター達が乗った車の破壊。どちらが容易いかと問われれば、今のライダーの状況からいうと前者だ。

 情報によると車の方にはサーヴァントが2体同乗しているらしく、そのうち片方はランサーのサーヴァント。

 それも円卓の騎士に名を連ねるパーシヴァル卿だというのだから、万全でなくてはただの怪物である“エキドナ”には勝ち目はないだろう。

 ライダーにとっての万全。それは彼女の子宮に確かに存在する、同じく“化物達”を呼び起こした状態に他ならない。

 

「ん……もう少し待っててね……。あと少しでお前“達”を出してやれるから………」

 

 移動しながらライダーは自身の下腹部を愛おしそうに撫でる。

 臍から股、太腿の付け根にかけて、彼女の身体には今現在紫色の紋章のようなものが広がっている。

 彼女の逸話を知る人物であれば、彼女の宝具が何であり、あの紋章が何を意味するかなど想定できないわけがないだろう。

 ライダーの宝具。規格外、即ちEX級の効果を持つその宝具を使用すれば、地獄と化したこの喝馬町を更なる混沌に沈めることができるだろうが、彼女は未だそれを外に排出せずにじっと自分の中で育てていた。

 彼女のマスター、キレイ・ハーデンベルトが聖杯と不完全ながら繋がりを持った今、彼女の中には無尽蔵とも取れる魔力が流れ込んでくる。

 つまり栄養は十分。あとは時を待つのみ。

 その時さえ聖杯から流れ込んでくる魔力が短縮してくれているため、既に2、3体は排出できる準備はできているのだが、それを理性を失ったサーヴァントたかが1人のために使うわけにはいかない。 

 あくまで彼女が任務を遂行するのは彼女自身の力のみである。

 化物といえど、彼女はあのゴルゴン三姉妹の内の1人の血を受け継ぐ神話の怪物。

 目的の異郷の英霊1人程度、殺せない筈がない。

 そう相手がその英霊1人であるというのであれば、仕留められない筈がないのだ。

 

「“あなたの鞭、あなたの杖、それがわたしを力づける”」

「ッ!!?」

 

 新たな声は、ビルからビルへと移動するライダーの更に上、完全なる上空から現れる。

 月光すら無い曇った空の元現れるのは藍色の装束の聖職者。

 自身の身体の周りに無数の紙吹雪を飛ばしながら、片手で大凡人が持つものとは到底思えない大剣を振りかぶっている。

 ライダーは聞いていた。サンジェルマンから、この町に潜むもう1つの脅威のことを。

 喝馬町に聖堂教会の代行者、それも埋葬機関に連なるものが潜入していると。

 実力としてはサーヴァントにも匹敵する化物揃いの元メンバーの埋葬機関の足元にも及ばないが、信仰心と代行者としては一流。

 たまたま欠ができた為、他のメンバーには遠く及ばないにしてもなし崩しに埋葬機関に名を連ねたが、その力は正しくサーヴァントに近いものを持つ。

 “現代の竜殺し”、“執行者”、“殲滅戦車”。

 数ある通名のうちどれもが彼に似つかわしいとされる。

 そんな彼を親しく“熊”などと呼ぶものなど、彼の友人である早眞冬児ぐらいのものだろう。

 

「見つけたぞ」

 

 上空から現れた聖職者が笑うこともなく無表情で、はっきりとした言葉もなく相手へ死を宣告する。

 脚の長い長身に、踵まで伸びた修道服を着た眼鏡の男。

 左手に持つのは何らかの生物の骨によって構成された大剣で、右手に持つのは恐らく霊体にも効果がある洗礼詠唱の効果を施された黒鍵。

 風切り音を共に投擲された四本の黒鍵。

 それら四つは空中をそれぞれ別々に蛇のように動き回りながら軌跡を作り、四方向からライダーの身体を貫かんと襲いかかる。

 浮遊状態、逃げ場のない攻撃に対してライダーがとったのは自分の下腹部から頭の先までを長く伸びた大蛇の尾で包むことだった。

 エキドナの下半身は大蛇のそれである。その鱗は硬く、並大抵のものは通す筈が無いが、洗礼詠唱で霊体に対して攻撃力を増した黒鍵が相手となると話は別になってくる。

 一本、二本、それから三本、四本と。黒鍵が次々とライダーの身体に突き刺さる。

 

「――――ッ!!!」

 

 炙られるような痛みに耐えながらも身体に巻き付けた尾の間から見た外の光景に、ライダーは更なる絶望を与えられる。

 黒鍵を投擲した聖職者が、フリーになった右手を大剣の柄に添えて両手持ちで振りかぶっていたのだから。

 双方未だビルとビルの間で空中浮遊を続けている為、逃げ場など何処にもある筈が無い。

 聖職者の大剣が青い光を放つ。

 自分の死期を予想しながらも、ライダーがほぼ本能的に諦めずに行った行動は、身に宿る我が子への情愛と防衛本能。

 身体に巻き付けた尾を下腹部に集中させ、両手で下腹部を抱き抱えるようにして耐える。

 外に出すには少し時期が早いが、いっそのことそうしてしまったほうが中の子の為ではないかと決断しそうになったところで、ライダーの身体がふと上に浮いた。

 一瞬、まるで誰かに抱き抱えられたかのような感覚。

 しかしそれはすぐに無くなり、ライダーはその代わりとして自身の前方に現れた新たな存在を確認してから漸くその意味に気が付いた。

 黒のレンチコート。手にするのは日本刀。

 その姿を知っている。サンジェルマン伯爵が新たに呼び出していたこの国のサーヴァント。

 名も聞いたことがない英霊だったけれど、その逸話を聞いて身震いをしたのを覚えている。

 

「ッ!!?」

 

 突如現れた新たな登場人物によって聖職者の薙ぎ払いは阻止された。

 驚くべき事に、何と止めた相手は『空中で』しかも大剣よりも遥かに細い『刀』で、その攻撃を止めたのだ。

 空中であるが故に、両者の鍔迫り合いが続くことは無い。

 火花が散り、鈍い金属音が鳴り、空中から地上にぶつかる前に、双方は分裂して各々が地面に降り立った。

 聖職者は股を開いて地面に両足を擦りながら。

 日本刀を持った男は大蛇の如き女を軽々と受け止めて地上に音も無く着地しながら。

 双方、まずは攻撃することなく様子を伺っている。

 

 そんな中、助けられたライダーだけが唖然とした様子で黒衣の日本刀持ちに話し掛けていた。

 

「せ、セイバー……」

 

 語りかけると、日本刀持ちは冷たい視線のまま、ライダーに目を向ける。

 冷え切った視線はまるで絶対零度のようでもある。

 

「娼婦よ。主からの言伝だ。

 “城への即時撤退。出産に備えろ”とのことだ」

「………主っていうのは、サンジェルマン伯爵のこと?」

 

 問に日本刀持ちは頷きだけで返した。寡黙でありながら精悍な顔立ちは、それだけで冗談を言うような男でないことがわかる。

 ライダーは少し考え、それから全てを納得するとセイバーの手を払い退けて元来た道をまた這いずり回りながら戻っていった。

 

 

 残ったのは、共に“十字架”を持つ2人。

 ただし片方が持つ十字架、日本刀持ちの十字架の方はアクセサリーのようなもので、聖職者が持つような堅苦しいものとは違う。

 少しすると、聖職者の方が大剣を構えながら声を掛けた。無論、先程から殺気は解いてなどいない。

 

「先に聞きたい。お前は同教か?同じ神を信じる者か?」

 

 聖職者の問はやはり相手の首に掛けられた“十字架”を見てのものだったのだろう。

 相手はサーヴァント、つまり過去の英雄・偉人となる。

 もし相手が名のある聖人だった場合、聖職者はすぐ戦闘いうわけにもいかなくなるのだ。見たところ相手は東洋人。例えばそう、メジャーなところでいうと天草四郎などがそうだ。

 戦えない訳ではないが、もしそんな人物が何か高名な思いを持ってこの戦いに参加しているというのであれば、例え相手を倒すのが友の頼みといえどそれを無視しなければいけなくなる。

 しかし、そんな心配は杞憂であったのか、日本刀持ちは目を瞑って首を横に振った。

 

「いや、某は貴殿と同教では無い。これは……趣味のようなものだ」

 

 涼やかなその表情はやはり冗談を行っているようにはとても見えない。

 どうやらこの日本刀持ちは本気でファッションとして十字架を身に着けているらしい。

 現代に蘇った英霊とは、サーヴァントとは、このようなものなのかと聖職者は頭を掻いた。

 ただそれは一瞬。次の瞬間には会話は戦闘へと切り替わる。

 聖職者がアスファルトの地面を力強く蹴る。すると、相当の硬度を持つ地面がまるで硝子細工のように砕け散り、当の聖職者本人は地面と水平方向に大きく推進した。

 ジェット噴出のように加速する聖職者。敵の姿を目の前に補足して背後に振りかぶった大剣を振り下ろす。

 ビル1つ消し飛ばす威力を誇るであろうその一撃を、

 

「様子見のつもりか」

 

 セイバーと呼ばれる侍は、その一言と片手で刀を振るっただけで弾き返した。

 

「―――」

 

 完璧に決まったと思った攻撃。無論、聖職者も驚かないわけがない。

 攻撃が弾かれた今、聖職者の両手は弾かれた大剣と共に肩より上にあり、胸と腹はガラ空きな状態だ。

 それをセイバーが逃すわけがなく、大剣よりも遥かに小回りが効く日本刀で、そのまま胸を刺突せんと刀を揮う。

 点での攻撃。防ぐことはほぼ不可能の刺突はあと数ミリで聖職者の胸を貫こうとしていた。

 

「“主よ、みことばもて我らを守りたまえ”」

 

 刃が触れるその瞬間、後方へと飛んでいた聖職者の両腕は、力任せと呼ぶにはあり得ない力の動きで再度振り下ろされる。

 

「っ!!」

 

 その速度はセイバーが聖職者の胸を貫くよりも速く、必然的にセイバーは回避の行動を取らなければいけなくなる。

 刺突と同時に突き出した前足とは別の足、後ろ足の踵に力を込め、聖職者の斜め右に重心を預けて跳ぶ。

 後方に回避しても2メートルを越す大剣が相手では分が悪いとしての判断で、これは結果として正しい判断である。

 セイバーには大きく二つの固有スキルが備わっており、その二つは更に其処から大きく枝分かれするかの如く多種多様なスキル効果を持っているのだが、その中に“刃物によるダメージを軽減する”という効果を持つものがある。

 仮にランク付けするならば、Bランクの物理防御力を本来の耐久力に上乗せするそのスキルの効果によって、セイバーはダメージを少し足りともくらわない筈だった。

 そう予想して、セイバーは大剣の振り下ろしを回避し、聖職者の背後に回り込むと、大きく旋回し、そのまま刀を鞘に抑えた抜刀術の構えで聖職者の背中に攻撃を加える予定であった。

 

「――――やらせるかァァァァァァァァァ!!!」

「ッ!!?」

 

 目が合っていた。

 聖職者の後方に回り込み、完璧は隙をついての一撃は、既に振り向き再度大剣を振り上げる聖職者によって阻止される。

 考えてから行動しているのではなく、完全に身体が勝手に主を守ろうと先に動き出している。

 自動操縦と呼ぶに相応しい有り得ない反射速度。それ以上にその精神についていける肉体がまず有り得ない。

 サーヴァントの直感スキルに似ているが、というよりもあれは。

 

「執念……何と苛烈な」

「Aaaaaaaaaaaaッ!!!」

 

 再び振り下ろされた大剣。しかし、今度の攻撃には流石にセイバーも目が慣れる。

 振り下ろされた大剣を、俊敏な動きで横移動し回避。そこから大剣の腹をなぞるように聖職者へと接近すると、セイバーが持つ刀が再び鞘から抜き出され、聖職者の腹を薙ぎ払った。

 

 

 

 完璧に決まった攻撃。

 肉は斬り裂かれ、聖職者の腹からは洪水のように絶え間なく血が吹き出る。

 しかし、セイバーは未だ殺気を放ち、続いて二連撃目を放とうとしていた。

 容赦が無い、というよりかは容赦ができない。

 

「―――a.aaaaaaaaaAAAッ!!!」

 

 獣の咆哮。

 聖職者は腹部から絶え間なく流血を引き起こしながら、されど止まることなく自身も大剣を横に薙ぎ払った。

 セイバーはそれを上へと跳ぶことで回避し、右手に持った刀を胸を通して、左の肩の後ろに引き絞るようにして構える。

 空中からの攻撃、首を断ち斬れば如何に化物といえど死に絶えるだろう。

 

「ッ!!aaaaaaaaaaaッ!!」

 

 しかし、セイバーの揮った刀の剣先が聖職者の首の肉に触れようとした手前で、またも聖職者は常識紛いの反射速で上半身だけを後退させ、その致命的な一撃を回避する。

 

 セイバーは、相手が起こしている驚異的な反射力が本当にただの“気合”で起こされていることを理解した。

 魔術による強制回避であるとか、付属された超反射能力とかではなく、鍛錬と修練によって編み出された、驚異的な危機管理能力。それに鍛え上げられた肉体が合わさったからこそ、彼は神業的な回避を可能としていたのだ。

 

 流石にこのまま近接を維持するのは不味いと思ったのか、攻撃を回避した聖職者が次に取った行動は、両手に持った大剣に出来うる限りの魔力を注ぎ込むということだった。

 聖職者の魔術回路を通して、魔力が大剣の中の物質回路にエネルギーとして流れ込む。

 それは大剣の中心にある蒼い宝玉へと集まっていき、一定値まで魔力が高まると、宝玉は絢爛と輝き二人の身体を青白い光で包み込んだ。

 

「“竜殺しの一撃(ドロコズドロフォルニア)”ァァッ!!」

 

 数日前、1体目のメイカーが宝具で出現させた大砲付き列車を破壊した青白い極光。

 魔力の密度、生前と聖杯に与えられた知識から考えても、恐らくcランク相当の対軍宝具の威力は持っているだろう。

 だからこそ、直撃するわけにも、そもそも当たる訳にもいかない。

 

「隙が有り過ぎる」

 

 セイバーが刀を再び振り払う。

 敵の腕を切り落として攻撃を阻止する手筈だったのだが、勿論それは成功した。神速とまではいかなくても、彼の居合は達人級ではある。

 確かに腕は斬り落とすことができた。

 斬り落とされた腕は地面と落ち、断裂部からは絶え間なく出血している。

 しかし、その手には肝心の“大剣”が握られていない。

 それも当然。何しろ今大剣は斬り落とされた方の()、ではなく、未だ肩と繋がっている片方の手で片手持ちされて未だ輝きを放っているのだから。

 信じられないことに、聖職者は片腕を犠牲にして相手を殺すことを再優先に選んだのだ。

 腕を斬り落とされたというのに、一片も集中力が欠けることはない。

 

「“竜殺しの一撃(ドロコズドロフォルニア)”!!!」

 

 二度目の大技発動。

 今度こそ、出現したその青白い極光は巨大な半円状の斬撃となって、敵であるセイバーに直撃した。

 

 

 

 

 

 

 




○今回の反省点
初期の時点で、熊の設定を「代行者」って書くつもりが「埋葬機関」って書いてた……やべぇ、先輩に殺される……


 ノッブイベントお疲れ様でした。僕はぐだおだけは回収できませんでしたが、皆さんは回収できましたでしょうか。
 最後の天国は頭おかしい()
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