*現在記載できる登場人物のみ掲示。
『キャスター陣営』
・早眞冬児
この物語の主人公。魔術師を義父にもつ一般人。不遇な苦しみに囚われる少女を救うために聖杯統合戦に参加することを決意する。
過去に別の場所で行われた聖杯戦争の聖杯を使い、7種の英霊をその身に宿すことが可能。
・バーサーカー(ニ騎目)
圧倒的な巨体と人一人を容易に潰すことができる棍棒を持つ大男。狂化していても辛うじて敵味方の区別はついている。その真名はミノタウロス殺しを果たした大英雄、テセウス。
『アーチャー陣営』
・ライングル
イタリアの大マフィア『クリムゾン』の代理ボス。内気な少年で戦いにも気乗りではない。
・フラン
アーチャーのマスターであるラインの護衛。過去の事件から肉体の四分の一を死徒に変えられている。
・アーチャー(一騎目)
青丹色の髪と金属を幾つも身につけた青年。真名はインドの叙事詩『マハーラーバタ』にも載る大英雄、アルジュナ。 現在は行方不明である。
・ルツ&マーク
フラン同様、ラインの護衛。
『ランサー陣営』
・矢部咲結香
一度は聖杯統合戦から敗退したが、元サーヴァントであるかぐや姫と新たなサーヴァントであるランサーを連れて、想い人のために再戦を決意する。
・かぐや姫
元ライダーのサーヴァントであるが、オリジンによって受肉させられた。宝具やスキルの行使は未だ可能であるが、人間と同じようにお腹も減ってしまう。
・ランサー
銀髪を風に靡かせる白い槍持ちの美少年。その真名は聖杯伝説に名を轟かせる円卓の騎士・パーシヴァル。
【参加者以外の登場人物】
「バルドリア」
・キレイ・ハーデンベルト
アレーシアの息子。アレーシアの護衛役として付いてきていたが、肉親二人が死亡後聖杯統合戦の監督役として勤める。
・サンジェルマン伯爵
歴史上の人物の名を語る中年。堂々と魔術協会に喧嘩を売る。強力かつ大量の人造人間ホムンクルスを所持している。監督役であるキレイと手を組む。
・オリジン(一体目)
監督役によって呼び出された強力なサーヴァント。自我を失わされており、現在は欠片との繋がりを切断されているが自身の魔力でこの世界に限界し続けている。
・オリジン(二体目)
かの英雄王よりも前にこの世界に君臨していた王、アルリム。その戦闘能力は前任のオリジンをも凌ぎ、手にした錫杖を一振りするだけで多次元空間へと繋がる孔を作り出す。
・アサシン(四体目)
海を思わせる青い髪が印象的な青年。背中には槍と弓、腰には二本の剣を持つ。その真名はトロイの木馬で有名な策略家、オデュッセウス
・ライダー(ニ体目)
マゼンタ色の髪を持つ妖艶な女性。英雄でもなく戦士でもなく、その身は化物を産んだただの怪物であるという。礼節は弁えている。
・キャスター(二体目)
山羊の頭蓋骨を被った偽物の魔術師、アレイスター・クローリー。元の主を裏切り他のマスターの元へ降る。
・セイバー(三体目)
黒いレンチコート、黒いスボン、黒い手袋、黒い靴を履いた、十字架を首に掛けた男。腰には長刀を携えている。
「聖堂協会」
・熊
埋葬機関所属。№不明。竜種(実物かどうかは不明)の骨から作られた大剣を片手に異端者を狩りに喝馬町に来た。ちなみに熊というのは本名ではない。
「その他」
・壬生カグヤ
冬児の代わりに元々聖杯統合戦に参加する筈だった少女。何者かの襲撃に会い、人の形を保てていない。
・壬生安山
カグラの父親。既に死亡している模様。
・早眞トーリ
早眞冬児の養父。
⇒
死神に背中を取られた。
聖職者が感じたのは簡単に言えばそんな直感的な恐怖だった。
セイバーのサーヴァントの宝具発動。セイバーというサーヴァントは、その名の通り剣を持つ英霊のことを指す。
故に、何となくではあるが、剣士の英霊の宝具は剣に由来するものだと思っていて、決めつけていた。
聖剣からの大規模の魔力放出であれ、それは剣という武器そのものから生み出される力の波だ。
しかし、目の前のサーヴァント、西洋風の服装をしながら日本刀に近しい武器を持っていた男の宝具は剣でも刀でもなく―― 一振りの“大鎌”であった。
黒色の、それも爬虫類であろう生物の鱗で装飾された巨大な鎌。
出現したと同時に巨大な鎌が此方の背後を取る。
それも当然、鎌とは“刈り取る”ための武器である。
曲線の刃が聖職者の背中を包み込み、逃げ場を無くす。
無論、この状態での回避は不可能だ。横へ逃げようとも後ろに逃げようとも、前方の敵を倒そうとも、何をどうしてもこの鎌は必ず聖職者の背中に直撃する。
ならば、回避できないのであるというのであれば、ダメージを少しでも軽減するしかない。
「“主は霊である。そして主の霊のあるところには自由がある”」
人体はその大部分を水と肉によって形作られる。
即ち物質。物質界に存在する限り、同じ物質の影響を受けない存在はいない。
逆に幽霊や死霊などの霊的存在は其処から逸脱するとされている。英霊であるサーヴァントもその一端とされているが、前者よりも更に高位な存在である為物質への関与も可能とされている。
それがサーヴァントの実体化と呼ぶが、聖職者が今口に出した術はそれの人間版と言ってもいい。
つまり、元々物質であったものの霊体化。それも一時的なものによるが、自身の魂魄を完全に肉体と同調し、物質である肉体を自然霊と変化させる。
だからといって元は人の身、完全に自然と一体化などできる訳ではない。
「ッ!!」
霊体化した体を通り抜ける鎌。
同時に聖職者は大きく後方に跳躍して距離を取り、伝統の上に飛び乗るが、その表情は胸を抑えて苦しげである。
実際に胴体を斬られたような感覚は、未だ聖職者の身体に残る。
それもその筈、聖職者の術は肉体を霊体にするためだけのものであり、つまりは物質的関与を無くすだけに他ならない。
斬られた傷は残らずとも、斬られたことは現実であるため痛みは残る。
普通ならばショック死しそうな激痛は、予め飲んでおいた感覚麻痺剤と気合でどうにかなる。
しかし、流石にサーヴァントの宝具ともなれば、ダメージも多大なようで、聖職者は胸を抑えながらハンバーガーショップから出てきた大鎌使い・セイバーに声を掛けた。
その正体に関しては、宝具開放と同時に検討がついている。
「貴様……碓氷貞光か……」
聖職者の苦しげな問に、セイバーの冷ややか面持ちが応える。
「如何にも。知られているとは……少々意外だな」
碓氷貞光。
平安時代の武将、源頼光を君主とし、渡辺綱、坂田金時、卜部季武と共に源頼光四天王と称された名高い武将。
現代の文献にはほとんど伝承が残っていないが、山で放浪していた坂田金時の勧誘、四万温泉の発見、大蛇の討伐、大妖怪酒呑童子の撃破に至るまで、功績は大きい。
鬼退治に大蛇退治。つまり、日本における“人外退治の英雄”の一人である。
その肉体・精神・運命は十一面観世音菩薩の加護を受けているとさえ、自身に降りかかるあらゆる厄災を軽減、もしくは無効化する。
「刃が通らなかったのも、
碓氷貞光が信仰した十一面観世音菩薩は、10種類の現世での利益“十種勝利”と4種類の来世での果報“四種功徳”を信仰者に与えるとされている。
刃を無効化、病気にならない、金銭面で不自由しないなど、計十四のその加護はサーヴァントの保有スキルに近しい。
続いて、セイバーが今手にしている胡乱とした雰囲気の大鎌こそがかの大蛇を退治した宝具。十一面観世音菩薩より託された、日本版の神造兵器。
「名を“碓氷山定光員金剛寺・鎌明”」
聖職者はその装いを見て息を呑む。
1メートルは越すであろう刃から長く黒く伸びた柄に至るまで、大蛇の鱗が張り巡らされたそれは現代において有り得ない規模武器だ。
大剣を振り回す聖職者が言えたことではないが、まず人の持てる大きさと質量ではない。
セイバーは今、その何十キロあるかも予測できない重さの大鎌を片手で掴んで肩に乗せているのだ。
伝承通りの怪力なのだと聖職者は理解し、次の攻撃方法を考える。
刃は効かない。火はそれほど効果がない。確か、毒や溺死に対しての体制も十一面観世音菩薩の加護には付属されていた筈。
異教の信者と戦う為に脳内に叩き込んだ知識がまさかこんな所で役に立つとはと、聖職者は無表情ながらも幸運に感謝し、腰のポケットから符を何枚か取り出す。
やがてそれを手でバラバラに破り捨てると大剣の上に振り撒く。
その間、セイバーは何も攻撃をしかけてこなかったが、代わりにと変わらずの冷ややかな声で聖職者に語りかける。
「………貴殿の腕と首。某の見間違いでなければ、異形のものの皮膚と酷似しているのだが」
セイバーが目を付けていたのは聖職者の片腕と首の一部、その部分だけが奇妙なことに葡萄のような色に変色していたのだ。
それだけではなく、サーヴァントであるセイバーの視力は、その葡萄のような肌から時折小さな手のようなものが生えていることが解る。
それは異形、人外達の肉片に酷似しているとセイバーは推測し、半ば確信している。
故に矛盾している。
異教という異教を断罪する筈の聖堂教会の代行者が、何故自身の体の中にその異教の根源のようなものを宿しているのか。
聖職者は指摘されるとさも当然のように変色された肌を指でなぞりながら、当たり前のように言葉を返す。
「彼らもまた、主によって生み出された生き物だ。
その在り方が悪であれど、それが迷える子羊であるのであれば、私は救う」
つまりは今まで倒してきた悪鬼を秘密裏に自身の身体の中で匿っている。聖職者はそれ肉として切り落とされた腕や、皮膚を再現しているのだ。
「………それが異教のものでも、貴殿は受け入れられるのか?」
問に、聖職者は首を横に振る。
「私が手を貸せるのは“無意識に悪事を働いてしまう”、“本能的に悪を肯定してしまう”様な存在だけだ。
進んで自身の意思に邪教に手を染めた人間などには私は手を差し伸べない。それは人間の愚かさが招いた罪だからな」
悪鬼すら愛する博愛主義かと思えば、やはり異教は異教として断罪する。
この男は聖人ではなく、狂信者だと再び理解して、大鎌を構えたセイバーが再びアスファルトを抉るほどの脚力で跳躍し、一気に聖職者の目の前まで躍り出る。
凍った空気を、大鎌の巨大な刃が斬り裂く。
サーヴァントの宝具を二度も直接くらうのは不味いと思ったのか、聖職者は先程のセイバーと同じく、電柱の上から更に斜め後ろに跳ぶ。
大剣を持ったままでもそれなりの反射神経とスピードで跳んだ筈だったが、空中に浮遊した聖職者の片足首に、大鎌の柄に纏わりついていた蛇の体が纏わり付く。
「ッ!!?動くのかそれ!!?」
「誰が装飾だと言った……フッ!!」
冷たく返しながら、聖職者が佇んでいた伝統の上に両足を降ろしたセイバーが大鎌を地面と水平に振り払う。
結果、蛇の尾と大鎌に引きずられた身体は空中を横移動して建設中の大きな建物に激突する。
コンクリートの壁に激突し、舞い散った砂埃。
まさかこの程度で死ぬとは思っていないセイバーは続けて建物の中へと跳躍するが、突如として大鎌を引く重みが消えたことを察知して、自分の体の前で大鎌を旋回させる。
すると、聖職者が姿を消した砂埃の中から幾つかの刃がセイバーへと飛来してくる。
それは代行者が使う黒鍵という細い刃の武器のようで、事前に大鎌を旋回させたセイバーには弾かれて傷をつけることはできない。
黒鍵を全て弾き返したセイバーは砂埃が身体に纏わりつくのも構わずにその中へ突っ込んで行く。
どんな攻撃にも対処できるように小さく振りかぶった大鎌は、されど砂埃に人の気配を感じ取れなかったことで揮われることはない。
人の気配がするとしたら――背後。
「AAAaaaaaaaaaaaaaaッ!!」
聞いたことのある絶叫。背後に振り向けば、獣の表情で変色した片腕を振り上げる聖職者。
セイバーはそれを見ても一切動じず、冷静に大鎌の先端部に付いたまた別の小ぶりの刃物で突き刺したが、奇妙なことに、聖職者の身体に手応えはない。
柔らかいとか、水のようだとか以前に、まず感覚が無いのだ。
空気でも突き刺したような感覚に、背後から衝撃を受けながらセイバーは冷静に判断する。
「成る程、投擲した黒鍵に符でも付けて幻覚作用を――」
冷静に判断しながらも、背後から頬を殴られセイバーの身体は僅かに吹っ飛ぶ。
地面に両の足の裏をつけて煙を巻き上げながら勢いを消し、建物から出ていくことは無くとも、外れそうになった顎を無理矢理片手でくっつけたその表情は僅かながら苦しげだ。
殴った正体はやはり聖職者。先程の幻影ではなく実態を持つ本物だ。
恐らくは先程の幻影は投擲した黒鍵に何らかの術式を組み込んで発動させたものだろう。またはあの黒鍵自体が既に幻影であったか。
投擲された黒鍵に気を取られている隙に背後を取る。
こんな世界で生きるものとして初歩的な戦法ではあるが、引っ掛かるようでは自分もまだまだだとセイバーは一人反省し、大鎌を片手で振り被る。
対する聖職者も大剣を両手持ちにし相対を所望しているようだった。
凶器によるダメージは、セイバーには攻撃としてその威力は半減される。
それが解っていながら大剣を再び握り締めたということは、聖職者にも何か考えがあるのだろう。
故に油断できないと、セイバーはサーヴァントを相手取る時と同じような心持ちで聖職者の前に立ちはだかる。
既にセイバーの聖職者への認識は、一人の英霊に向けるものに近しいそれに変わっている。
現代の英雄と呼ぶに相応しい男であるだろう。
だからこそ、セイバーは問いておきたい疑問がある。否、実際はそれは疑問などとは呼べないただの好奇心もかもしれないが、それでもセイバーは冷徹な表情のまた眼前の聖職者にそれを投げかけた。
「青年。貴殿は我らの目的を知っているのか?」
セイバーの目的。それは主の願いを叶えることにあり、今現在の主であるサンジェルマンの願いとは、要約すると“現段階で存在する人類の救済”にある。
神経を蝕み、魔術回路ごと食らって人の生の意味を喰らう病原体。
サンジェルマンに話によると、その病原体は
それは人間だけに害をなす病原体であり、そのことにサンジェルマンは憤怒し、そして彼は今も聖杯を求めいる。
運命を変えるため。人間という種族が何千年もかけて培ってきた文明を無きものとさせないために。
セイバー自身、その行いは正しいと思う。今の文明が破壊されれば、過去の記録も全て無かったことにされてしまうのだ。
仲間や部下達と駆け回ったあの日々が、全て無かったことに、何の結果も残さない無駄にされると言われたならば、どんな英雄だろうとそれを悲痛と思うだろう。何しろ自分が生きていたこと自体を無かったことにされるようなものなのだから。
ならば、神に仕える聖職者であるならばどうだろう。
東方正教の人間は、主は平和を望み、信徒はそれに殉ずるという考え方だと聞いたことがある。ならばかつての十字軍進行は正当化されるのかという問題になるのだが、表向きは何処の宗教も平和を望み、人類の発展を臨んでいる筈だ。
ならば、この男は味方になるのではないか。
この男が真に平和を愛すると言うのであれば、真実を教え、此方側に引き込むことも可能だ。
「……知らん」
やはり、聖職者は知らなかった。知らずとしてこの場でセイバーと雌雄を決していたのだ。
この聖職者は狂信者なれど、独善的に戦うものではないとセイバーは何となく理解している。その強さもサーヴァントに一撃という名の攻撃をくらわせる程凄まじい。
ならば此方側に引き込むことも可能な筈だ。
共に世界の調和を目指す者同士、手を取り合うことも可能な筈だ。
「貴様らが何を目的としているかなど知らん」
セイバーが勧誘するよりも前に、聖職者は精悍な顔立ちで言葉を紡ぎ始める。
「それはもしかしたら善行なのかもしれん。我が友が道を間違えており、貴様らがそれを正そうとしているのかもしれん。
――だがな、今やそんなことは関係ない」
堰を切ったかのような聖職者の声。同時に、彼は手にした大剣を鞭のように振り回す。
「碓氷貞光。貴様は十一面観世音菩薩の加護を受けているのだったな。
つまりは仏教徒だ。異教徒だ。その存在は悪だ」
振り回された大剣が地面を刳り、大地に爪痕を残していく。
「この私が。埋葬機関の代行者が。貴様のような異端者を見過ごす訳がない。
主に背き、主に仇なし、主に目を背け偽造の存在に縋る異端者め。
我が刃は主の雷。我が剣は主の代行。我が怒りは主と共に在り。覚悟しろよ異教徒。私は貴様を見逃さない。逃さない。殺す。塵1つに至るまで、一切合切粉砕してやる」
大剣が風を切る轟音が鳴り響き、大剣が突き出すようにして構えられる。
セイバーはその狂信者ぶりを見て話し合いは不可能だと悟り、少しだけ悩ましげに額に手を当てる。
「……そこまで狂うか」
「闘争本能で動く男が何を抜かす」
「……………何?」
思考が一瞬停止し、セイバーは聖職者を睥睨する。
されど聖職者は臆することなく、状況を見ながらセイバーに語りかけた。
「闘争は貴様らの本能だろう。戦っている時の貴様は、今のような死体顔では無かったぞ」
言われてセイバーは自身の頬を触り、同じことを言った同士が1人居たなと内心笑みを浮かべて大鎌を構えた。
大剣と大鎌。
ファンタジーに代表される2つの武器が相対すると、見たものに怪獣映画に等しい迫力を魅せるが、今この場にその光景を第三者として見つめるものは誰一人としていない。
当人同士だけ。つまり止めるものも乱入するものも無し。双方もどちらかが死ぬまで止まるつもりは無い。
「頼光が四天王の1人、碓氷貞光。参る」
「埋葬機関所属………いや、異教徒に名乗る名など持ち合わせていない。掛かってこい。容赦なく殺してやる」
挑発的な聖職者の笑みを合図として、双方は互いの生を狙って獲物を振り払った。
両者、獲物は長物であり大重量の武器。
一度刃がぶつかり、鍔迫り合いあえば両者の足元の床は衝撃で罅割れ、同時に起こる真空波で次々と貼り付けられたばかりの窓ガラスが割れていく。
重い金属音を立てて、聖職者が後方に跳び空中で大剣を振り被る。
すると大剣の柄の部分の青い魔石が青白く絢爛と輝きだし、その場に熱と魔力が篭もり始める。
愚かな、とはセイバーは想わない。
確かに先程の聖職者の宝具にも及ぶ一撃は、セイバーの保有スキル“十種勝利”の前では無意味に等しかった。
しかし、だからといって脅威でないと決めつけるのは戦士として浅はかに等しい。
どんなときでも油断なく、曇り無い一撃を相手に当てる。
自分にできることなどそれぐらいしかないと、セイバーは自覚している。
「“
振り下ろされた大剣。其処から放出されるのは半円状の超熱合体。
しかし、灼熱の炎なれど、菩薩よりあらゆる籠を受けるセイバーには何のダメージも無い。
床を蹴り、構わず炎の中を突進するセイバーはふと自身の異変に気が付いた。
「――ッ!!」
自身の服の裾が焦げている。
セイバーの“十種勝利”の効果は、何もセイバーの肉体だけということはない。その魂にかけるまで深く加護されているため、装飾品に至るまでそれは付属されている筈なのだ。
しかし今現在、それを無いものと化すかのように聖職者の炎はセイバーの身を焦がしている。
「“聖符外装・外主式典”」
何処からともなく反響する声は聖職者のものだ。
「主以外のあらゆる恩恵を弱体化させる“符”だ。
貴様のような異教徒には効果的な武器だろう」
言われてから、セイバーはあの聖職者が電柱の上で何やら破り捨てた紙切れを大剣に振りまいていたのを思い出した。
精々、大剣の威力を向上させる程度のものだと推測していたが、その予測は大きく彼の運命を違えることとなる。
しかし、熱が皮膚に当たったからといって、セイバーが止まるわけがない。
灼熱に身を焦がし、露出した顔や手の肌に火傷と呼ぶには酷すぎる負傷を負いながら、セイバーは辺に神経を集中させた。
足音、臭い、気配。第六感で使えるものを総動員して、鎌を自分を中心に円を描くようにして振る。
するとたちこもっていた灼熱が霧散し、その場から熱が消え冷たい空気がセイバーへと流れ込んでくる。
その最中、上空に気配がしたのに気が付く。
視線を合わせることもなく、セイバーは大鎌を空中に振り払った。
間合いは完璧。必ず相手の腸を斬り裂いたかと思えたその攻撃に、しかし手応えと呼ばれるものはない。
代わりに存在していたのは、セイバーの腹部に突き刺さる燃えるような痛みのみ。
「………がふっ」
今度はセイバーも振り向く。
其処にあったのは、正しく空中に存在していた筈のあの男。聖職者だ。
しかし、彼は今セイバーの背後に伏すようにして、大剣を突き刺している。
その更に後ろに黒鍵が二本、更にセイバーの前方に二本突き刺さっていることを確認して、漸くセイバーは、またも自分が化かされていたことに気が付いた。
黒鍵による幻覚魔術。
最初の派手な技は囮だったのだ。連発することによって相手に“熱を与えるだけの大技”だということを理解させ、それに意識を集中させる。
その間に聖職者が行ったのは、符を付属させた黒鍵の投擲だろう。
それによって、いつのまにか幻術をかけられたセイバーは、まんまと聖職者が背後に回ってきていたのに気が付かなかった。気が回らず、頭も回らなかった。
「聖職者の癖に外方の魔術に手を出すとは………些か、貴殿こそ異端者なのではないか……?」
大鎌をゆっくりと地面に近づけながら、セイバーが掠れ声で皮肉を吐く。その唇からは血が流れ、表情はやはり冷たいものであるが、喋る余裕はまだあるようだった。
対する聖職者もやはり勝利の余韻に浸って笑みなどみせないが、敗者であるセイバーの声に返答する気も無さそうだった。
容赦なくセイバーの腹から大剣が引き抜かれると、セイバーは振り向くことなく聖職者に背を向けたまま、地面に膝を付いた。
サーヴァントとといえど、もう立つ気力も残っていないらしい。
元より生き恥を晒してまで叶えたい願いなどない。
もし聖杯を手にすれば、一時だけでもかつての盟友達と語り合いたい、それだけがセイバーを突き動かしていたに過ぎない。
自分呼び出した主には悪いが、ここで朽ち果てるのみだと思っていたセイバーだったが、いつまでたってもその身体に二度目の致命傷が負わされることはない。
あの聖職者であれば異教徒に情けなど掛ける筈がないと、不審に思ってセイバーが顔だけ振り向くと、其処にいたのは葡萄のように変色していた片腕を失い地面に座り込んだ、聖職者の姿だった。
「貴殿……」
セイバーが少し驚きながらそう口ずさんだと同時に、二人が争っていた建物が大きく軋みを上げる。
当然といえば当然だが、サーヴァントとそれに近しい能力を持つ者との戦いが行われていたのだ。建物の原型を保っていろと命令する方が可笑しな話だろう。
傾く床に、セイバーは何とか大鎌を突き刺して耐えるも、聖職者の方は気を失っているのか転がっていった。
恐らく、出血量のせいもあるが、それ以上に“弱った肉体で魔を宿して戦っていた”ということが何よりも彼の身体を酷使し続けていたのだろう。
見えなくなる聖職者の姿。今はもう死んだのかどうかも定かではない。
大鎌で自身を支えていたセイバーも、重度の火傷と腹部の出血のせいでもはや実体化するのもやっとな状況だ。
目を瞑り、自身の第二の死地を悟る。
「あぁ………血肉踊った………良き戦いだった」
セイバーが大鎌から手を離す。
その体は既に崩れ掛けていたビルの底、地面へと落ちていく。
暗闇に溶け合いながらも、そうして誰もいなくなったそのビルと周辺の建物は、1時間にも及ばぬ死闘の末、完全に崩落した。
※今回の反省点
投稿時間、間違えてました!!
今回のクリスマスイベントはどうにもアイテムがよくなくてやる気がでませんが、ストーリーは面白いですね。ケーカで萌えるとは思わなんだ。
名前:セイバー《3体目》
マスター:サンジェルマン
真名:碓氷貞光
性別:男性
身長体重:178cm、62㎏
属性:秩序・中兼
イメージカラー:黒
特技:沈黙
好きなもの:音楽、かつての仲間/嫌いなもの:大蛇
天敵:源頼光、坂田金時
「能力」
筋力A 耐久B 敏捷B 魔力D 幸運B 宝具C
「クラス別能力」
対魔力(C)
騎乗(C)
「詳細」
源頼光に仕え、渡辺綱を筆頭とする頼光四天王の一人と称される。大江山の酒呑童子退治で有名。『今昔物語』には源頼光の三人の家来の一人として、その名が記されている(なお、『今昔物語』には四天王の筆頭渡辺綱の名前はない)。
越後から上野へと向かう道中、野宿する事になった貞光が読経をしていると「汝が読経の誠心に感じて四万の病悩を治する霊泉を授ける。我はこの山の神霊なり」とのお告げを受けた。そこで貞光が周囲を調べたところ温泉を見つけて「御夢想の湯」と呼び、これが四万温泉の由来になったという。
またある時、貞光が帰郷すると碓氷峠に巨大な大蛇が住み着き、人々を苦しめていた。そこで貞光は十一面観世音菩薩の加護のもと、大鎌を振るって大蛇を退治すると、碓氷山定光院金剛寺を建立し、そこに観音菩薩と大蛇の頭骨を祀ったという。
童話『金太郎』では、樵に身をやつし、強い人材を求めて旅をするさなか足柄山で金太郎(後に坂田金時)を見いだして源頼光のもとへ連れて行くという役割を与えられている。
最近の研究では平忠通は貞光(貞通)の子で、これが三浦氏・鎌倉氏らの先祖になったとも言われている。
「技能」
・十種勝利(━)……十一面観音菩薩の加護を得ているため以下のスキルが常に発動している。が、それぞれにE〜Aランクの効果付与がランダムで発動しているためかかりにくいものもあれば良く効くものもある。
離諸疾病A(病気にかからない)
一切如來攝受C(一切の如来に受け入れられる)
任運獲得金銀財寶諸穀麥等B(金銀財宝や食物などに不自由しない)
一切怨敵不能沮壞A(一切の怨敵から害を受けない)
任運獲得金銀財寶諸穀麥等B(金銀財宝や食物などに不自由しない)
一切怨敵不能沮壞A(一切の怨敵から害を受けない)
國王王子在於王宮先言慰問D(国王や王子が王宮で慰労してくれる)
不被毒藥蠱毒。寒熱等病皆不著身B(毒薬や虫の毒に当たらず、悪寒や発熱等の病状がひどく出ない。)
一切刀杖所不能害A(一切の凶器によって害を受けない)
水不能溺B(溺死しない)
火不能燒B(焼死しない)
不非命中夭E(不慮の事故で死なない)
・四種功德(━)…同じく十一面観音菩薩の加護によるスキル。
臨命終時得見如來(臨終の際に如来とまみえる)
不生於惡趣(悪趣、すなわち地獄・餓鬼・畜生に生まれ変わらない)
不非命終(早死にしない)
從此世界得生極樂國土(今生のあとに極楽浄土に生まれ変わる)
「宝具」
『碓氷山定光院金剛寺:鎌明』
Rank:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1〜5
・かつて大蛇を駆除したと謳われている黄金の大鎌。名前はセイバーが建てた寺から由来している。宝具としての性能は低く、龍種と爬虫類関係の種族に対してのダメージ増加能力程度しかない。
『神変鬼毒酒』
Rank:D 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1〜?
・一時的な身体能力の強化、または鬼などには毒として知られている。この薬を飲むと筋力、耐久、俊敏に+が付属される。本編では使用されていない。