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現在の状況に不相応ながら、生前にもこんなことがあったなとアルジュナは1人想う。
落下する身体。追撃をかけてくる獣達。対抗する自分。
サーヴァントとして呼び出された以上、敵は同じく英霊だと思っていた。
ザッハークのようなイレギュラーは別として、それこそ数々の英雄を相手取った神話の怪物達が現代に現れるなどあり得る筈がなかった。ない筈だった。
「ルォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
ビルから落下するアルジュナの身体に追撃をしかけるように、『九つの首の竜』が全方向から攻撃を仕掛けてくる。
アルジュナの読み通りであれば、この竜は恐らくギリシャの大英雄と対峙した伝説の毒竜。触れるどころか、その吐息に当てられただけでもほぼ確実に絶命してしまうと伝承には残っている。
世界各地に残る神話の中でもトップクラスの幻獣。正しく英雄が相手するのに相応しい敵である。
それが3体。
上空で飛翔しながら九つの首で追尾してくる毒竜と、
地上で待ち構える二体の巨獣。三首の暗黒狗と、それ1牙で聖杯並の魔力量を誇る牙を持った魔猪。
強大な敵であろう。しかし、伝説の弓兵が臆することはない。
やることはいつだって変わらないのだ。
弓を持った左の腕を伸ばし、矢尻を右手の指で摘んで引き絞る。
「“
アルジュナの弓から、追尾してくる九つの首の竜の頭の間を通り抜け、空へと辿り着く雷光。
一瞬のことではあるが、卓越した武人であるならばそれが“矢の射出”だということに気が付けたかもしれない。
雷光を纏って上空へと射ち放れた矢は、一瞬だけ停止したかと思うと、凄烈にも九つの首全てに枝分かれした落雷を落とす。
「ルォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!???」
倒せずとも多少のダメージは与えられた筈とアルジュナは空中で身体を半回転させ、仰向けで空中を向いていた身体を地面の二体の巨獣に向ける。
アルジュナを敵視する獣達は双方共、仲間が1体ダメージを与えられたことに油断を無くしたようであった。
「流石に、伝説の幻獣達ともなると思考回路は人と変わりませんか」
継いでアルジュナは狗と猪、双方に向けて弓を引き絞る。
三つ首の狂犬は大地を刳るどころか、近くの建物を粉砕しながらもその勢いは留まることを知らず、三つ首全ての口を開いてアルジュナを捉えんと牙を向く。
常人、よしんば英雄でもその形相を見ただけで正気を失いかねない迫力であったが、アルジュナは驚くことに吹き出しながらも戦意を喪失させていなかった。
「確か貴方の首は交代で眠るのでは無かったのですか?元気なもので――ぐ!!?」
その油断とも呼べぬ軽口が仇となったか。
構わず矢を放とうとしたアルジュナの側面を狂獣の猪が突き飛ばす。
よく強い衝撃を受けた時、トラックやらなんやらと例えるものがいるが、この衝撃を例えるのであれば隕石が身体に直撃したというのが最も近いだろう。
側面から激突され、地面に水平方向に吹っ飛んでいくアルジュナ。その身体は聳え立ったビルを2つほど突き抜けたところで勢いを無くし、降下していったかと想うと、続いて上空から現れた九つ首の毒竜の足によって踏み潰される。
「ッ!!?――がぁっ!!」
コンクリートの地面にクレーターのような巨大な足跡ができ、その中心には未だ弓を持ったままでいるものの両手両足を開いたアルジュナの姿。
そんな大英雄の姿を近くのビルの屋上から傍観する影が1つ。
影は己が身体の一部である大蛇の尾を執拗に動かしながら、自身が生み出した仔達に油断なく命令を下す。
「躊躇しても手心を加えてもダメよ。そいつだけは、その霊核の一片も残さずに潰しなさい。貴女達なら簡単に踏み潰せるでしょう?」
大英雄を蟻のように扱える。
ライダー・エキドナの心の内にあるのは、冷淡な声色とは別に燃え上がるような歓喜の嵐だった。
今すぐにでも恍惚とした表情で勝利を宣言したい。愛しい人に自分を褒めてもらいたい。
でも、それではいけない。エキドナはどんな英雄も偉人も悪人も化物も、一度の油断で人生を破綻させてきたことを知っている。
化物であるからこそ、彼女は知っているのだ。
正義に味方されている
「毒を放ちなさい!」
エキドナの掛け声と共に、狂獣の猪は他2体から大きく距離を取り、狗と竜は合計12の頭の口を開いた。
曰く、ヘラクレスが冥界より連れ帰った三つ首の番犬は、見たこともない太陽の光に驚いて吠え、その際飛び散った唾液が猛毒植物であるトリカブトになったとされている。
同じく、ヘラクレスが退治した九つ首の毒竜は精霊種ですら苦しめる凶悪な毒を持っていたされる。
片方だけでもこの世の動植物全てを絶命させられる程の危険な毒を持つというのに、今その2つが同時に倒れ込むアルジュナへと襲い掛かる。
一度は踏み付けられ、全身に毒液がへばりついたアルジュナは動くことがない。
「………ッ!!」
状況は完璧にエキドナが有利に働いていた筈なのだが、突如三つ首の番犬の身体が大きく後退して跳躍する。
例外もあるが不死に近い体を持つ九つ首の毒竜とは違い、三つ首の番犬は他の毒の耐性を持っていない。そのためアルジュナの近くから離脱するのは当然のことなのだが、それ以前に牙を剥き出し唸る表情は明らかに敵に向けられるものである。
その様子を遠目ながらも不審に思ったエキドナは首を傾げて目を細める。
2体が放った毒の霧が少しずつ晴れてきて、今頃致死量の毒で運が良ければ死んでいるか悪ければ悶苦しんでいるアルジュナの姿が見れるかと思ったが―――その姿はエキドナの瞳には映らない。
代わりにエキドナの魔眼に映ったのは、夜空を掛ける神輿のような舟と、それを引く有り得ないものの姿である。
否、有り得ないなんてことは有り得ない。何しろ自分もそれを召喚しているようなものなのだから。
しかし、やはり信じたくない。あんなものが早々召喚されては聖杯戦争という戦い自体無茶苦茶になる。
しかし、実際に其処に居た。エキドナは唇を震わせながら目の前の現実を口にする。
「そんな………竜種を使役するサーヴァントなんて………!!」
●
「…………っ」
気がつけば先程よりも空が近くにある。
意識を取り戻したアルジュナが初めて目にしたのは暗い空の色で、次に見たのは懐かしい顔だった。
「おぉ!!おぉっ!!意識を取り戻したぞ主様!!このすけこまし生きておった!!」
懐かしい顔に懐かしい声。そして彼女が主と呼ぶ青年も近くにいるだろうか、視線を更に別方向に移動させると、彼は似合わない格好をして手綱を引いていた。
否、それは普段なら似合わないというだけで、“英霊化”した今なら相応に似合っているといえる。
黒だった髪の色は眩いばかりの鬱金色に代り、服装は中華系の貴族の格好に似ている。それも相当位の高いもののようで、自ら手綱を握っているのがおかしいぐらいだ。
そこまで考えて、アルジュナは『手綱』という単語に疑問を覚える。よくよく考えてみれば空が近くにきたのもおかしな話で、答えを求めるように見知った少女の顔を見ると、彼女は困った表情をしていながら答えてくれる。
「驚くべきものよな……英霊の力を自分の中に取り込むなど………何処ぞの皇帝らしいぞ。あの姿は」
英霊化。それならばこの空を駆ける舟にも納得がいく。
体を巡る毒に判断力を削がれながらも、何とかアルジュナは状況を整理しようと奮起していると、振り返った青年は、先程冷徹な槍兵の殻を被った時とは別人のような顔立ちをしながら此方に笑いかけてきた。
「よ、良かった!無事だったんだな、アルジュナ」
「………ええ。貴方も、彼女を助けられたようで……何よりです………ごふっ………ッ!!!」
アルジュナはキャスターを見て弱々しく微笑むも、その口元からは耐えることなく血が流れ、皮膚は時間が経つたびに青黒く腫れ上がるのが増している。
「これは……」
キャスターもそれを見て心配そうに皮膚に触れようとするも、苦しそうに体を仰け反らせたアルジュナに止められる。
「触っては、いけませんよ……貴女にまで移っては、トージが貴方を救った意味がない……」
アルジュナの身体を蝕む毒は尋常のものではない。
本来ならば全身をくまなく食い千切る激痛に耐えられる筈も無く、泣き叫ぶか気絶するか、どちらにしても我慢できる筈が無いのだが、アルジュナは強靭な肉体と精神力で辛うじてそれに耐えていた。
アルジュナの微笑。いつもなら頼り甲斐のあるその表情は今では酷く頼りなく見える。
キャスターもどうしたらいいかわからず困り果てていたところに、誰もが予期していなかった存在が主へと声を掛ける。
『若。若の宝具であれば、その戦士を治せるかもしれませんぞ』
一拍置いてから、冬児は己に声を掛けた人物は誰かと背後に振り向きキャスターとアルジュナに目を向けるも、どうやらそんな素振りは見せていない。
聞き間違いかと前方にまた目を向けると、其処には此方に振り返っている緑光する巨大な龍が一匹いた。
「………えっ」
『時間がありません若。その戦士は使える』
人語を喋る巨大な龍。
予想外の提案者の登場に頭を悩ませていると、更に追い打ちをかけるように頭の中に住まう協力者が「朕の力を貸しているのだからさっさと應龍の言うことを聞いて白澤図を使え!」と急かしてくる。
断ろうにも頭の中の協力者は言うことを聞かないと頭痛を酷くしてきそうだし、この緑光する龍は何だか信用できそうな気もしていた。
何より、仲間を助けたいというのが第一なのだが。
「ど、どうすればいい……?」
『若がただ念じれば白澤図の方から答えてくれましょう。あれはあらゆる厄災を退ける書ですから』
そう言った應龍は身体を真上に動かしたかと思うと左に旋回し、同時にとてつもない突風が冬児達の身体を襲う。
突風の正体は3体の狂獣の中で唯一飛翔可能な毒竜で、どうやら冬児達を追って空中戦に持ち込んできたらしい。
「――ッ!!」
冬児の手綱を握る力が強くなる。
冬児が今殻を被ったライダーのサーヴァント。それは恐らく前回力を借りたランサーのサーヴァントやアルジュナと同じく、聖杯戦争で最強という名を頂くのに相応しいだけの力を持っており、それに見合う宝具も複数借り受けることできる。
前方で遺跡に向かうのを通せんぼする九つ首の毒竜や、地上で屯う2体の狂獣と戦うための宝具も持ち合わせているが、その宝具を今使うと残った二人を守れなくなる可能性が高い。
何より、アルジュナに掛かった毒を治癒させなくては遺跡に侵入した後も厳しい戦いになる。
手綱を握ることしかできない冬児に対し、至って冷静な應龍は己が羽を羽ばたかせ、その巨体を前方の毒竜へと向ける。
『若。此処は儂に任せて貴方はそこの戦士を早く治されよ』
「おっおま――應龍……!」
『恐れながら若。儂はこれでも神に仕える神龍……予想通りの展開など期待しないで頂きたい』
その言葉を最後として、應龍の巨大な羽が羽撃き、言葉にならぬ咆哮が毒竜に向かって放たれる。
同時に、毒竜の九つの頭全てからアルジュナを苦しめる毒素を含んだ霧が放たれる。常人であるならば、触れるだけで死亡が確定する死の霧だが、それが冬児達に近づくことはない。
●
戦況を少し遠くから監視していたエキドナ。
彼女が驚愕したのは、神龍を呼び出すほどの技量を持つものが存在することもだが、その次に現れた『暗黒色の雲』だった。
それは突如出現し、風向など気にしない様子で九つ首の毒竜の頭上で形作られる。それ見てエキドナは聞こえる筈もないのに遥か遠くの我が子に向かって叫ぶ。
「避けなさい!!敵は天候を操ってる!!」
●
エキドナの声も虚しく、形作られた雲から放たれた雷は見事九つの首全てに直撃。
同時に降り注いだ豪雨のおかげで毒素を含んだ霧も既に霧散してその真価を発揮することなく消失している。
しかし、九つ首の毒竜はまだ死んではいない。
「ルォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
中央の首が叫び、同時に他の首も次々と焼け焦げた皮膚を落として元の容姿へと戻っていく。
神話通り、“ヒュドラ”は1つだけ存在する核とも言える首を削ぎ落とさない限り何度でも復活する。
故に應龍は己が体を翻して毒竜の首に噛みつき、その本体を噛み切った。
「ルォオオオ―――オオオオオオオオオオオオオオ!!!」
『駄蛇が……親元から離れられんままとは、何とも乳臭いものよ』
当然、ヒュドラの毒はその皮膚にも流れており、触れただけでも猛毒として全身を駆け回り死亡は確定するものだが。
神龍たる應龍はそれをものともしない様子で、唾を吐く要領で口から毒を吐き捨てた。
●
「あ――っ……」
應龍とヒュドラの激しい攻防が続けられている間、宝具を取り出した冬児は、頭の中の協力者とキャスターの助言の元何とかアルジュナの毒を取り除くことに成功していた。
いくら神の血が流れているとはいえ、アルジュナは大半が人間であるため毒の効果が切れても應龍のようにはいかない。
青黒く腫れた肌は少しずつ戻ってきているが、意識はまだはっきりとしていなかった。
「アルジュナっ!アルジュナっ!」
「主様は手綱を握れ。此奴は我がなんとかする。
はよ起きよ!!阿呆!!料理下手!!黒焦げ!!」
目を覚まさないアルジュナにキャスターが馬乗りで往復ビンタをかましているのを横目に、冬児が再び前を向くと其処には頼れる従龍の姿があって、冬児の身体と同じくらいの大きさの目玉で此方を見つめていた。
『上手くいったようで何よりで若』
「ああいや、お前とお前のご主人のおかげだよ」
『あまり褒めてはいけない。儂も彼奴も調子乗り――おぉっと!!』
得意気に流暢に語っていた應龍の身体が大きく上昇し、同時に下から獣の嘶きが響く。
地鳴りのような音がなったことを聞いたのをみると、どうやら三つ首の番犬か巨牙の魔猪が冬児達を追ってきたらしい。
遺跡は目の前ではあるが、その2体のスピードもどうやら冬児達に追いつけるだけのもののようで、刻一刻と距離は詰められている。
天空を駆けている限り冬児達に危険はないが、遺跡に辿り着かれては仲間に危険が及ぶ。
「………」
冬児は考える。
この場であの狂獣達の相手を出来るとしたら、それは自分の他にいないだろう。キャスターはそもそも前線に出るような能力は有していないし敵はあの巨体だ。アルジュナも動くまでにものの数分かかる。回復を待っていれば2体とも遺跡に辿り着くだろう。
手綱を握る力が強まりいざ切り出そうとしていると、不意に誰かに服の裾を引っ張られた。
目を向けると、どうやらキャスターが冬児の服を引っぱていたようで、彼女はもう片方の手で迫る狂獣達の方を指差していた。
「主様……あれは……」
狂獣達の背後。其処に佇んでいたのは、狂獣達と僅かに劣る大きさなれど、船としては充分巨大と呼べる“黒帆の戦艦”だった。
黒帆の戦艦。そんな宝具を使えるサーヴァントのついて、冬児は1人しか心当たりがない。
「あれは……」
戦艦は瞬く間に狂獣達との間の距離を詰め、三つ首の番犬の背中に激突する。
「グォオオオオオオオオオオオオッ!!!」
勢いに負けた番犬が地面に滑り落ちるのと同時に、船は衝撃に砕け散る。
徐々に跡形もなく消え去っていく戦艦に目を凝らしていると、その帆から何かが射出し、続いて大猪の眉間に降り立つと何度も何度も“棍棒”を揮っている。
何とも無謀な戦いだ。どれだけ武器を揮おうとも、体のサイズからして勝敗など既に決しているというのに。
知っている。早眞冬児はその
「バーサー……――ッ」
無意識に声が止まった。その意味が自覚できたのは数秒後。
必死に戦うサーヴァントに対して、マスターである自分が情けのない声など出せない。
『若。儂も奴等の足止めに向かってくる』
「なっ……!?」
『何、心配いらん。あの戦士だけでは狂獣2体を相手取るのは文字通り骨身を削るだろうが、儂がいればそのようなこともあるまい。若は騎乗兵の変身をしばらく解かないでくれたらいい』
「………倒せるんだな?」
冬児の心配そうな問に應龍は言葉ではなく、体を翻して船との繋がりを切ったことで応えた。
その大きな眼が一瞬船の上の戦士達の武運を祈るように瞑られると、次の瞬間には翼を羽ばたかせて狂獣達の元へと羽ばたいていく。
去っていく龍の姿を目にしながら、一人でに動く船の手綱を握った冬児は歯痒そうに奥歯を噛み、その肩にキャスターの手が添えられる。
「お主の責ではない。彼奴らは自分から戦場を選んだのだ」
理解していても、やはり無力な自分が悔しいと冬児は思う。
緩やかに落下していく船の先には、目的地の遺跡がある。
「――ああ、解ってる。行こう」
どれほどの時間が残されているかは分からないが、今はただ、仲間の幸運を祈るのみ。
※今回の反省点
また投稿が遅れてしまいました!!
投稿が遅れた理由としては、うたわれるものというゲームをやっていたことによります。
最初は偽りの仮面のアニメを見ながらそんなに意識して見てなかったのですが、だんだん面白くなってきて、前作の「散りゆく者への子守唄」を購入。クリア後、感動してすぐに「偽りの仮面」のゲームを購入した只今プレイ中です。
でも、週1投稿は欠かしませんので!!
あとそれと、続いて私事ですが新年早々良いことが……。
お正月ガチャを引いたところ、
何と初の☆5鯖であるAUOが当たりました!!やったね!!
と、報告したかっただけです。ごめんなさい←
今年もよろしくお願いします。