Fate/ragnarok gate   作:フーリン式

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英霊達は自分の夢を見る

 

 財宝が山積みにされている蔵の中を、1つの影が壁や床を足踏みにして動き回る。

 それは何の意味もない獣の徘徊ではなく、影を追って撓らせられる十数本の火炎の鞭を回避する為の戦士の動きに他ならない。

 オリジンの財宝や完成仕掛けの聖杯には強固なプロテクトが備わっている為、壁や床に当たろうと傷がつくことはないが、その衝撃音、飛び散る熱量からその鞭がどれ程の攻撃力を有しているか見て取れる。

 

 絶え間なく連撃で襲い掛かる攻撃に対して、オデュッセウスは何も回避に全力を注いでいるわけではない。

 オデュッセウスはトロイア戦争を終わらせた策略家としても有名だが、数多くの試練を乗り越えた後に不敬にも自分の妻に求婚した男共を一人残らず自慢の弓矢で射抜いたとされている。

 数にして丁度20度目の鞭の攻撃を避けた時、巨大な金のオブジェを足蹴にしたオデュッセウスはほぼ縦に回転するような形で矢を放つ。

 それもただのではない。

 相手は強力なサーヴァントを喰らった不死身の怪物。遠慮も油断もできる相手ではないのだ。

 故にこそ一撃一撃が必殺でなくては倒せない。

 それも確実に当たる“1”でなくてはならない。

 

「“殲滅通しの十二斧(ドデカ・テスコウリ)”」

 

 相当の老樹から造られたであろう、アルジュナの火神の弓矢とも比べても僅かに劣るも遜色ない弓から放たれる青い閃光。

 それは一度は収束するも、空中で分散すればそれぞれ違う方向からサンジェルマンの五体の急所全てに目掛けて加速する。

 その数にして十二。

 

「……なるほど。確かに、何の魔術もなしに手放した矢に追尾機能を付ける。只の技術でこれを成し遂げている君は天才だ」

 

 言葉を紡ぎながらサンジェルマンが片方の掌を上げる。

 その間にして1秒から2秒。

 

「相当な努力を積んだのだろうが……。

 ――圧倒的な力の前では、それは無いに等しい」

 

 瞬間。何もなかった筈の地面からマグマの噴火の如く、灼熱の大劫火が拭き上げると、オデュッセウスが放った必殺の矢を文字通り尽く消し去ってしまう。

 

「な――」

 

 驚くべきは攻撃に対するその反射速度。

 2体目のオリジン・アルリムが使用する自動防御と似たものを感じ思い浮かべ、そうしてオデュッセウスは自分の考えは的を得ていると納得する。 

 しかし、原理としては違うのだろう。

 アルリムのアレは、『元来のこの星の所有者』であったアルリムに対して、僅かに残った星の意思や意志を持たぬ精霊種紛いの魍魎共が勝手に守っているものだが、

 サンジェルマンのアレは、ラ・ムーの保有スキルによるものだ。

 

 名を“太陽信仰”。

 この世に太陽を信仰する者がいる限り、それを糧としてあらゆる不可能を可能にする超常スキル。

 人であるならば、生物であるならば、頭上で煌々と輝くあの星に対して何の感情も抱かないということはないだろう。

 暖かみをくれる太陽。

 光で人々に安心をくれる太陽。

 暑さで生きていることを実感させてくれる太陽。

 太古から現在に至るまでに、様々な宗教もあの存在を神格化してきた。

 それは未だ届かぬ人の思い。見えていても近づくことさえできぬその存在に対して、人々は憧憬の念を抱くのだ。

 1体目のオリジン、ラ・ムーはそんな生物の常識的観念を力とする。

 太陽を信仰する者が世界に存在する限り、その力は熱エネルギーとしてサンジェルマンの身体に蓄えられる。

 しかし、内包できるエネルギーには限界があり、漏れ出した分は当然ながら外に放出されるのである。

 

「!!?」

 

 急激に上昇し始める室温。身を焦がすような、というよりかは実際に身を焦がしてくる熱さに耐えながらも、オデュッセウスが諦めその場に留まることはない。

 床を蹴り、滑るようにして宝物庫の出口を開くと、そのままサンジェルマンから距離を取るために廊下を疾走する。

 

 あの神話を駆け抜けたオデュッセウスの脚力は並のものではなく、すぐにその姿は見えなくなるがサンジェルマンがそれを焦って追うことはない。

 サンジェルマンには元々持っていた瞬間移動紛いの魔術があるし、何よりスコルとハーティという人質がいる。

 彼ら2人のために謀反を起こしたオデュッセウスが、まさかその2人を置いて逃げるとは思えないので其処で待機しておけば自ずと鼠は自分から罠に掛かってくれる。

 そう予想して一度ラ・ムーの力を解除しようとした矢先、どれだけ走ってきたのか、激しく息を切らした侍女方の人造人間(ホムンクルス)が両膝に手を付いて何か言いたげにサンジェルマンに目を向けている。

 

「どうした?ホーク」

 

 サンジェルマンが侍女方人造人間(ホムンクルス)の名を呼ぶと、人造人間(ホムンクルス)は額から頬に流れる汗を拭くことなく早口で要件を口にする。

 

「ほ、報告します!!別室でお休みになっていたスコルくんとハーティちゃんが消失しました!!」

「――!?………どういうことだ………アサシンか?」

「い、いえ」

 

 ホークと呼ばれた人造人間(ホムンクルス)は、宝物庫から漏れ出してくる熱気に更に汗線を刺激され首筋などからも汗を垂らしながらも、走っている間ずっと握り締めていたせいでぐしゃぐしゃになった紙をサンジェルマンに渡す。

 それはどうやらスコルとハーティが寝ていた部屋にあったメモ帳の用紙のようで、その中央には青いペンで、

 

『良い子達はヒーローが預かった

               紅色の騎士 』

 

 と、粗い文字が書き込まれていた。

 

「…………ッ!!!」

 

 既にぐしゃぐしゃになったメモ用紙をサンジェルマンが再び握り締めて形を変形させると、同時に憤怒を表すかのように用紙は一瞬にして燃え粕となる。

 主の怒りに狼狽していた人造人間(ホムンクルス)は状況を察して、一礼だけ残しその場から離れる。

 残ったサンジェルマンは憤怒に揺れる焔を更に燃え滾らせながら、右手で空中に直線を描く。

 

 するとその瞬間、サンジェルマンの姿は宝物庫から一瞬にして消失した。

 

 

 

 

 

  

 

 森の中を走る。

 追跡して来た者は道中で全て仕留めた為、もう背後に気配はない。

 徐々に小さくなっていく遺跡に目もくれず、日の光に照らされ始める森の中を、オデュッセウスは只一人駆け抜けた。

 暫く走っていると、小さな池とそれに隣接する小さな小屋が見えてくる。

 元々は何処かの金持ちが気まぐれで造った、別荘とも呼べない物置らしいのだが、誰も使っていないようなので数日前からランサーのサーヴァントが寝床にしていたらしい。

 普通であるならば、同じサーヴァントであるオデュッセウスは敵の拠点に入るわけだからそれなりに警戒すべきなのだが、彼は何の迷いもなく錆びれた扉を片手で開いて中に入る。

 小屋の中は換気性が悪いのか空気が篭っており、またまともな家具と呼べるものがない。

 物珍しい物も幾つかあったが、オデュッセウスはそれらに目もくれず一点にのみ目を向けていた。

 中央。荒く敷かれたシーツの上に寝かされる、白髪の双子の姿を見て、オデュッセウスは心から安堵した。

 

「………良かった」

 

 同時に、この場所を提供してくれたランサーに深く感謝する。

 あの時、偶然にもあのサーヴァントと出会わなければ、こんな場所を見つけてスコルとハーティを匿うことはできなかっただろう。

 円卓の騎士のパーシヴァル。成る程、話した感じ爽やかなで生意気な少年という印象が強かったが、誉れ高き騎士であることには変わりないようだ。

 

「………」

 

 時折、苦しげに声を漏らす双子の髪をオデュッセウスは一度だけ優しく撫でる。

 側にいてやりたい。しかし、それでこの子達が助かるわけではない。

 聖杯を開く為の鍵とされているこの子達を救う為には、元凶となる聖杯そのものを破壊するしかない。

 ランサーには恩義がある。それを返す為に、サンジェルマンとオリジンを倒すのには手を貸すが、その後の聖杯奪還に関しては話は別だ。

 何方にしても聖杯を起動させられてはスコルとハーティの負担は益々重くなる。

 それだけは避けねばならないし、させるつもりもない。

 オデュッセウスは立ち上がり、外に出てから、自身の宝具を連動して発動させる。

 

「“城塞を越える戦場の木馬(トロージャン・ホース)

 “草原を微ぐ西風(ゼピュルロス)”」

 

 完全に姿を消す宝具と、

 光を反射させる魔風を生み出す宝具。

 それによって、スコルとハーティが寝かしつけられたあの小さな小屋は、この世界から完全にその姿を消した。

 今その姿を視認できるものも、感覚的に見つけることが可能なものもそういないだろう。

 小屋を隠すと、オデュッセウスは大英雄から授かった槍を片手に踵を返す。

 進路は先程駆けて来た道。自分の足跡を辿るようにして、その姿は一度霊体となって消失してから山の中を再び駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 町の中心部で未だ行われる、英雄と神話の怪物達との闘争。

 それからなし崩し的に離脱した早眞冬児、キャスター、アルジュナはゆっくりと下降した舟から降りて現在遺跡の入り口のすぐ目の前に来ていた。

 早眞冬児は未だ“騎乗兵”の変身を解かず、サーヴァントとして異例ではあるが、その横で絶えずキャスターが主である早眞冬児に魔力を送っていた。

 送っているといっても、彼女が消失する以前に早眞邸に隠していた幾つかの勾玉を砕いて、その分の魔力を冬児の身体に送っているに過ぎないのだが、應龍の召喚で魔力を大幅に消耗した冬児には気休めでも良い薬になる。

 

「主様?辛くはないか?」

 

 心配そうに下から覗き込んでくるキャスター。

 

「ん、ああ。大丈夫だよ」

 

 冬児はいつも通りの歳相応の笑みを浮かべて相手の頭を撫でて返答をした。

 それに恥ずかしさ半分、半分気持ち良さそうに受け答えするキャスターを見ながら感傷に浸っていると、すぐ後ろに気配がする。

 首だけ動かして冬児が振り返ると、そこは足を引きずりながらも立ち上がる大英雄が立っていた。

 

「大丈夫なのか……?アルジュナ」 

 

 先程自身のサーヴァントに言われたようにそう言葉を掛けると、大英雄もまたいつもの穏やかな笑みで、とはいかず少々苦しそうに眉を曲げた笑みを返してくる。

 

「ええ……とは言えませんね。右脚の方がまだ思うように言うことを聴いてくれません」

 

 そう言ってアルジュナは右脚を動かしてみせるが、どうにも動きが機械的で遅い。

 結果として、白澤図による猛毒の摘出は成功した。

 ただ、少しだけ治療するのが遅かったらしく、体の隅々まで行き渡った毒に関しては治すのが難しい。

 それに関してはアルジュナの自然治癒に任すしかないとのことなのだが、日常生活を送るならまだしも、此処は戦場である。

 ましてやアルジュナは弓の名手。脚が動かないとなると一大事どころの話ではない。

 動かない射手の位置は一度外すとすぐにバレる。

 此方側の最大戦力とも言ってもいいアルジュナがこの様子では、ただでさえ劣勢な戦況は更に絶望的なものとなる。

 

 そのような不安な想いが募り、どうにも暗い顔をしていたのだろう。

 冬児の内心を察したアルジュナは苦笑混じりに声を掛ける。

 

「こう言ってもらっても安心できないでしょうが、脚を使えずとも弓を引くことはできます。それに、弓を使えずとも私にはまだ戦う手段もありますから……」

「!あっ、いや、その」

 

 つい、アルジュナに気を遣わせてしまったと冬児は慌てて弁解しようとするが、やはりアルジュナの表情に止められる。

 言葉を掛けることなど不要。黙って信じていれば良いという、優しくも頼もしい笑顔。

 そんな表情に魅入っていると、ふと服の裾が引かれる。

 目を向けると其処には大袈裟に胸を張ったキャスターが小雀な身体で得意気な顔をしていた。

 

「我も居るから心配せんでもよいぞ!主様!何せ我はこの国随一のサーヴァントであるからな!」

 

 英雄二人に諭され、不安に思っていた自分に喝を入れる。

 どうにも自分はネガティブな気があるらしい。

 振り返って遺跡を見上げる。

 其処に居るであろう仲間達と宿敵。

 

「………」

 

 悩んでいる暇はない。決心がついた今だからこそ、早眞冬児は遺跡の中へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王の間。

 大広間と呼ぶに相応しい空間。巨大な門から伸びた赤い絨毯の先に、何段にも乗せられた階段の上に巨大な玉座が載せられている。

 金に色鮮やかな鉱石達。

 この世の贅を尽くした装飾が施された玉の座の上に腰を下ろす橙色の髪の王は、『地に這う紅い騎士』の姿を見てさもつまらなげに語る。

 

「興醒めだな。貴様には期待していたのだがなランサー。しかし、弓兵がいなければ貴様その程度か。弱くはない。しかしさして面白くもない。

 道化と呼ぶには余りに華がないぞ」

 

 冷たく投げ掛けられるオリジンの言葉に、ランサーは語ることなく、槍を地面に突き刺し、立ち上がることで応える。

 未だ諦めていないという意思表示だ。

 

 

 ランサー・パーシヴァルはこの玉座に辿りつく前、フラン達と行動を共にしていたが、途中で意図的に造られたかのような分かれ道に出会って、其処から1人で行動するようになった。

 自分なら1人でも大方のトラブルに対処できるし、何より二手に別れた方が早急に聖杯を見つけることができる。

 そう考えて行動していた所、途中でアサシンのサーヴァントに出会った。

 寄り道と解っていても、困っている子供達を救わないとなると本当に自分は騎士と名乗れなくなってしまう。

 自分達への協力と聖杯の在処を教えることを条件に、ランサーは双子を保護して自分の隠れ家に匿った。

 その後、アサシンに教えられた通りに道を進んで、この王の間への入り口を見つけた。

 考えうる限り、一番聖杯を所持しているだろうと考えてもおかしくない男が居る部屋。

 それを見過ごす訳にはいかず、間髪入れず飛び込んだパーシヴァルは、扉を開けたと同時に名乗りを上げて、最強のサーヴァントに挑んだ。

 

 

 が、結果は誇り高き騎士とは呼べぬ無残なもの。

 奴が手にした錫杖が一振りされただけで、遺跡から巨大な豪腕が生えてパーシヴァルを叩きのめす。

 何度挑もうとも、ランサーの槍がオリジンの身体に届くことはなく、無駄な時間だけが浪費されていく。

 

「立ち上がったはいいが、次はどうする?円卓の騎士とやら?」

 

 王の無慈悲な言葉は、騎士の心に深く響く。

 

 

 

 

 

 




※今回の反省点
群像劇書きたいのにやっぱり収集つかない。駄目だこりゃ。


最近はペースも早まって何とか終わりが見えてきました。最後までペダルを全力で漕いで頑張ります。
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