Fate/ragnarok gate   作:フーリン式

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そして雛鳥は

 

 オリジンの創り出した遺跡は巨大な城と呼べるほど広く、そして入り組んでいる。

 さながら勇者を惑わす迷宮のように次々と現れる道を辿っていくのには、人間の脚だけではどうにも時間的に限界があった。

 その為、遺跡へと侵入したフラン達はランサーのサーヴァント・パーシヴァルと行動を別にした後すぐにかぐや姫の宝具である黄金の木舟を呼び出して遺跡の中を疾走した。

 空中浮遊する黄金の木舟を使えば脚で探索するよりも遥かに効率的にこの遺跡を探索することができる。

 しかし、問題が一点。

 大きさ的に、木舟に乗れるのは精々頑張って2人までと言ったところで、当然ながら操れるのはかぐや姫だけとなるので1人は決定する。

 残る、フラン、ライン、結香の中から誰が木舟に乗るか。

 悩む間もなく、結香とかぐや姫を除いたイタリア人マフィア2人は裏で合わせていた訳でもないのに当然のように結香が乗ることを進めた。

 実際、戦力としては魔眼を持つ結香よりも、下手したらそこいらの中学生よりも弱いラインの方が圧倒的に頼りないのであるが、それでもラインは自分よりも結香の安全を求めた。

 反対する意見もなく、その物言わせぬ眼差しに皆は納得させられて、フランとライン、そしてかぐや姫と結香は行動を別にして聖杯探索を始めた。

 

 

 別れてから数分後。不思議なほど罠が無い遺跡内を移動しながら、フランはついすぐ後ろをついてくる愛する少年に疑問を投げ掛けてしまった。

 

「ライン……何かあった?」

 

 走りながら放たれた問。

 それに対して、問を投げかけられたラインは不信感さえ抱いていないものの、少々気になった様子で首を傾げる。

 

「どうして?」

「あ、いや」

 

 素直に問を問で返されて、フランは何と答えようか迷っていながらも、此方も素直にと曲がり角を曲がる前に壁に背中を合わせてから返答する。

 

「いつものラインなら、ああいう時に真っ先に自分が隠れたいって言うから……あ、いや、それはラインが自分の力量を判ってるからって言うか。別に悪いことじゃないんだよ」

 

 気を遣いながらのフランの答え。

 それは臆病者で非力なラインを知る者なら至極真っ当な問でもあり、少年はフランと同じように壁に背を合わせながら苦笑することもなく覚悟を決めた眼で頷く。

 

「うん……本当は逃げたいんだ。怖くて怖くて仕方ないんだけど……」

 

 言葉を紡ぐ少年の手と脚は震えている。

 それでも逃げ出そうともせずに言葉を並べ続けていることに、フランは大きな衝撃を受けていた。

 

「でも、これまでと一緒じゃ駄目だって判ったから。

 皆が戦ってるのに、僕だけ逃げる訳にはいかない」

 

 強い意思。或いはそれは決意とも呼べるものかもしれない。

 少年の真っ直ぐな瞳に、女もまた『彼を絶対に守る』という覚悟で答えようと勇ましく指の関節を鳴らす。

 

 長い廊下を超えた先に、前方に見える装飾が少なくもそれなりな大きさの両開きの扉が出現する。

 扉を目にしたフランは僅かにその目を細める。

 確信とも呼べぬ不確かなものだが、只漠然と嫌な感じがする。

 殺傷力のある罠、ならば別に問題はない。

 フランの治癒能力は実物の死徒と大差ないほど強力なものだ。その力は日に日に人間の部分を侵食していくという形で強まっていき、今では首をふっとばされようが10秒あれば全回復する。

 勿論、彼女がこの世に存在する者である限り、全く代償が無い訳ではない。

 

「ああ、そういえば。ライン、貧血になったりしてない?気分悪くない?」

「え、うっうん。大丈夫……此処に来る前にいっぱい食べたから……強いて言うならちょっと横っ腹が痛いぐらいかな」

「おぶる?」

「いっいやいいよ!!」

 

 フランの常人離れした身体能力と再生能力は、幼少期に彼女が出会った人ならざる者から無理矢理植え付けられた異形の力そのものである。

 その力はフィクションで語られる“吸血鬼”と呼ばれる種族のそれに類似し、その代償もまた共通する。

 他者からの吸血。それも彼女が受け付けるのは人間の血液のみ。

 映画や漫画のような吸血には抵抗があった為、これまでは本国から保存していた献血パックを注射器で注入していたが、流石に滞在期間が長かったからかストックが切れてしまった。

 血液を摂取しなければそれだけ吸血衝動が速まり理性が徐々に溶けていく。麻薬、とまではいかないが一種の薬物症状と類似する禁断症状を治す為には、血液を摂取する他無い。

 最初はそこいらの一般人を適当に気絶させてその間に血を奪ってしまえば良いという考えだったが、それはすぐに血相を変えた冬児と結香によって止められた。

 町に張られた結界のせいでまともな理性など持ち合わせていない一般人がどうなろうが知ったとことではないというのがフランの考えだったが、どうにも日本の学生達の考えとは合致しなかったらしい。

 振り出しに戻った問題に、解決策を提示したのだが他でもない、ラインだったのだ。

 

 今、フランの背後を追って走る彼の首には灰色のフードに隠れるようにして、何かに噛まれたかのような跡がある。

 その犯人を見つけることは容易く、その歯型は一寸の狂いも無くフランの歯型と合致するのだ。

 ラインの血液を貰うことについて、フランとしては『吸血鬼の吸血は求愛行動』などという与太話を耳にしていた為大して抵抗は無かったが、それでも今までずっと自分の中で禁忌としていた『直接血を摂取する』という行動に僅かな抵抗を感じていた。

 しかし、その手を握り締めた少年は静かに首を横に振る。

 

「僕にも、何か役立たせて」

 

 何も出来ない者が言う、何よりも勇気ある一言。

 その一言に感化され、フランはこの遺跡に突入する前にラインの首筋に牙を立てた。

 

 それからのフランの体調は絶好調。

 筋力は倍増。感覚は冴え渡り、遙か遠くの虫の鳴き声まで聞き分けることができる。

 愛する人の血を飲むと此処まで身体は絶好調になるものかと、肌の艶具合も良くなったのではと馬鹿なことを考えているのも数秒。呼吸を整えて再度周りに敵がいないか気配探知を行う。

 視覚、聴覚、嗅覚。人外に身体を近づけることで手に入れたその常人紛いの感覚を鋭わせて、周囲に敵がいないことを確認すると、先行してフランが両開きの扉を蹴破る。

 

「――!?」

 

 扉を開いたと同時に、中の様子を見て絶句するフラン。

 小走りでそれに続くラインもまた、フランの背後から扉の先の現状を見て、言葉を無くした。

 

 

 

 

 其処に膝を付くは紅い騎士。

 全身に複数の傷跡を付けられながらも、自慢の白き槍を杖が代わりに立ち上がるあの槍使いが、先程見た時よりも明らかに疲労した様子で其処に佇んでいた。

 しかし、それはフラン達にとってはおかしな話だ。

 彼程の英霊があの様な現状に陥っているのも奇妙だが、何よりも彼が、ランサーのサーヴァント・パーシヴァルが此処にいるのがおかしい。

 彼とはついさっき分かれ道で別行動を取った筈だ。

 だが、彼は今目の前に居る。

 幾らこの遺跡が迷宮じみているとはいえ、はっきりと別方向に行こうと意識した者同士を合わせる程悪趣味な造りになっていないとは思うが。

 

 そんな思考を続けていたフランに、今まで膝をついたパーシヴァルに目線を奪われて気が付かなかった奥の男から声が掛けられる。

 

「そう驚くな、蛭の娘。貴様らは意図して此処に来たわけではない。我が城に足を踏み入れたその瞬間から、(オレ)に導かれ、なるべくして此処に辿り着いたのだ」

 

 フランが視線を向けたその先。

 絢爛豪華な玉座に座る、日輪の如き橙色の髪を生やした男。

 上半身はほぼ裸で、腰からの下半身には黄金の甲冑が装備されており、一目見ただけでもそれが『頭の悪いサーヴァント』だということが理解できる。

 ただ、強い。

 恐らく、これまであったどの戦士やどの英霊よりも強い。

 あのアルジュナでさえ、この英霊と雌雄を決するのは難しいのかもしれない。

 そう思わせるだけの男。つまり、アルジュナから報告のあった出会ってはいけない最悪のサーヴァントだとフランは納得する。

 

「オリジン……」

「くはっ。(オレ)を知るか、蛭の小娘。

 だが万夫不当の豪傑ならともかく、貴様のような小娘が(オレ)に目を向けるでないわ。跪け」

「!!?」

 

 言葉の圧力、というやつだろうか。

 実際、『跪け』というオリジンの一言が、フランにはまるで巨大な重りを実際に乗せられているかのように感じてしまう。

 押し潰される。あの眼に、言葉に、威圧感に。

 

「潰れろ」

 

 汗が吹き出し、全身は高熱に掛かったように震え、すぐに呂律も満足に回らなくなる。

 どうしようもない不安感にフランが敗北しそうになっていると、すぐにその身体に暖かな手が添えられる。 

 不意に誰かに抱き締められた。

 怯えながらもフランがその相手を見つめると、信じられないことに、誰よりも支えて欲しかった人物に、今自分は支えられているのだと気付く。

 

「やめろよ」

 

 前方に佇むオリジンを睨み付けながら、震えた声で発言するライン。

 フランを抱きしめるその両腕も微かに震えているが、覇気こそ無いものの、その姿には確かな勇猛さが感じられる。

 勇猛さ。即ち勇者の武者震い。

 オリジンは王である自分に対しての失礼な物言いに怒ることもなく、面白いものを見たと言わんばかりに足を組んでは、肘掛けに腕を置いて拳の上に頬を付きながら凶悪な笑みを浮かべる。それは殺人鬼の狂ったような笑顔などではなく、覇者たる存在が魅せる余裕の尊顔である。

 

「畜生……いや、羽も持たぬ小虫のような力しか持たぬ小僧が、(オレ)に意を唱えるか?」

 

 言葉と共に、オリジンの表情からは凄烈なまでの威圧感が放たれており、例え英霊であろうとその様子を伺えば一度は畏怖してしまうことだろう。

 解りやすい程の悪役面。それがオリジンの狙いでもあった。

 見え透いている程の悪役を演じることで、オリジンはある人物がこの場に呼び出されることを狙っていたのだ。

 

 その狙いに、ラインもまた気付いていた。

 気付いていながらそれに乗ろうとしている。

 非力な自分にはそれ以外にこの状況を打開する策も選択肢も無い。

 ラインが自らの右手に視線を向けると、其処には未だ一度も使われていない令呪が三画。大輪の真っ赤な花を思わせる形のそれを使おうと思ったことは驚く程少ない。

 何しろラインのサーヴァントは高潔な弓使い。インドにおいても多大な知名度を誇る大英雄だ。

 反逆することなど有り得ず、ただ従者として自分に付き添ってくれた『友人』である。

 だからこそ、この令呪を使うのが怖い。

 それを使用してしまえば、自分と彼は二度とこれまでの関係を続けられなくなってしまうのではないか。

 彼の暖かで優しい信頼を失ってしまうのではないかと。

 

 

 つい数日前までの自分ならそうやって悩んで、怯えて、結局逃げていただろう。

 

「そうだ」 

 

 声は透き通り、震えは止まる。

 抱き締められたフランは愚か、立ち上がったばかりのパーシヴァルも目を見開き、その更に奥で腰を下ろしていたオリジンでさえ愉快気に口を歪めた。

 

「大事な人を守る為なら、僕は誰にだって文句を言ってやるさ。僕は喧嘩が弱いから、だから弱虫らしくお前ら強い奴らに口先だけで文句を言ってやるのさ」

 

 一度だけラインは、視線を胸の中から此方を見つめるフランに向ける。

 穏やかとも取れる微笑を浮かべながら、そうして彼はそんな表情からは全く考えもつかないような行動を取る。

 令呪が宿った右手。その手で中指を立て、あろうことかそれをオリジンに向けたのだ。

 

「“クソ喰らえ”ってね」

 

 堂々とした啖呵とも取れる言葉。

 その姿を間近から見たフランは、すぐにそれが普段の自分の真似だということに気が付く。

 客観的に見てみれば、いつもは震えるラインを背にしながら自分が敵を殴り倒していたというのに、今はその立場が逆になっている。

 何とも頼もしくなったのだろう。

 蝶よ花よと育てられたあのおぼっちゃまが、今ではこんなに……。

 感慨深くなってきたフランの思考を遮るように、この空間全体を威圧感が支配する。

 

「クク……クククハハハハハハハハハハハ。

 まさかこの(オレ)に斯様な些事を投げるものが居るとはな。いやはや……いや全く不敬よ。不敬よな」

 

 口では憤りを感じていると申しながらも、オリジンのその表情は何とも愉快気で怒りを感じている節など見受けれる筈がない。

 玉座から立ち上がったオリジンが右手を少し上げると、丁度掌辺に光が収束し、形を変え、そして空中に浮遊するようにして槍が出来上がる。

 完全に光で創られたその槍は最早まともな武器と呼べるかどうかも怪しいところだが、それ自体は多大なまでの殺傷能力と威力を有していることが見るだけで理解できた。

 

「ほれ褒美だ。有り難く受け取れ、小虫」

 

 オリジンの吐き掛けるような言葉と共に射出される光の槍。

 それは光速とまでは呼べないものの常人がどうにかできる速度ではなく、標的となっているラインに当たれば衝撃で周りのフランとパーシヴァルも吹っ飛ぶことになるだろう。

 そうさせる訳にはいかない。 

 迷わずそう考えて、中指を立てたままだったラインの右手が拳に変わる。

 同時に輝き出す令呪が、これから起こることを最早物語っていると言ってもいいだろう。

 

「ごめん………助けて………」

 

 刻一刻と迫る光の槍が直撃するその寸前に、

 

「アルジュナ」

 

 ラインは自身が最も信頼する人物の名を確かに口にした。

 

 

 

 

 

 

 一瞬の光の展開と衝撃音、その後時が静止する。

 突如現れた新たな存在。

 その存在は頭から足の先まで一瞬で身体を構成すると、流れるような動きでB〜Aランク相当の光の槍を『蹴り上げ』、天井に突き刺さるのを確認するまでもなく空中で旋回して地面に両足を付ける。

 黒い外套に青丹色の髪。手にした弓は神々しく、鍛えられた体は隅々まで色の濃い褐色に染まっている。

 ラインやフランにとって、敵か味方か。そんなことは確認するまでもない。

 

「……ありがとう、アルジュナ」

 

 こんな時に、気の利いた言葉など戦闘慣れしていないラインには思い付く筈も無い。

 だから素直に感謝の言葉を相手に述べ、相手もまたそれに応えて振り向き、そして片膝と片手を地面に付けて頭を垂れた。

 

「参上するのが遅くなって申し訳ありません、マスター」

 

 誠実な戦士の姿。

 それに見惚れそうになりながらも、ラインは唯一言だけ、彼の主として、友人として、無茶だと思いながらもアルジュナにしか頼めない願いを伝える。

 

「アルジュナ、オリジンを倒してくれ」

 

 願いに対する答えは――閉じた瞼での頷き。

 次の瞬間には立ち上がっていたアルジュナは、ゆっくりと歩き出し、パーシヴァルのすぐ隣まで歩みを進める。

 

「来るのが………遅いじゃないのさ」

 

 視界にアルジュナが映ると同時にそんな軽口を言ってみせるパーシヴァルだが、外装の紅の鎧とは違い、中身の傷は未だ癒えていないようで声は少々苦しげである。

 アルジュナはそれに含み笑いで返し――そうして、視線を遥か先の玉座の前に佇む王へと向ける。

 

「遅かったではないか」

 

 パーシヴァルの軽口とは違い、本当にアルジュナが来るのを待ち焦がれていたのだろう。

 全てを蹂躙せしとする王者の覇気が、大英雄であるアルジュナの皮膚にも強く感じられる。

 それでもアルジュナのあの穏和な笑みが崩れることはなく、弓も構えないまま言葉を返す。

 

「外の怪獣駆除に少々手間取りまして」

「ハッ。あのような畜生共に遅れを取るようでは(オレ)の相手など務まらんぞ」

 

 そう言いながらもオリジンは、アルジュナが出てきたことで手にした錫杖を振り、

 あの解析不可能な“剣のような螺旋状の武器”を出現させる。

 神造兵器と分類される強力なその“兵器”を目にして、僅かにパーシヴァルが眉を釣り上げた。

 

「うげ……またアレか………こんな室内で使って自殺行為じゃないのかね」

 

 飄々と軽口を口にしながらも、パーシヴァルはどうにも具合が悪そうに胸を抑える。

 そんな相棒に悪いと思いつつも、アルジュナは視線をオリジンから外さないまま背後から耳打ちするように自分の考えを述べる。

 

「!!………ッ、何だよ。そんなものがあるんならさっさと出せばいいのに」

 

 一瞬目を開き、そうしてからパーシヴァルは意地の悪い笑みをアルジュナに向ける。

 対してアルジュナは本当に申し訳なさそうに、それでいて何処か無念そうな表情で言葉を返せずにいる。

 

「………」

「解ってるよ。いいさ、道連れで」

 

 覚悟を決めたようにアルジュナにそう告げると、パーシヴァルは己の白き聖槍を縦に旋回させ、そして構える。

 アルジュナもまたその横に立つと己の代名詞とも言える武器、即ち弓を構える。

 二体の英霊が狙う獲物は唯一人。

 玉座の前で不遜に嗤う、原初の王。

 

 此方が負ければ全てが終わる。そう理解したアルジュナは、今まで意図的に避けて通っていた“最期の宝具”を頭に思い浮かべる。

 

()きます――これより最期の宝具の開帳を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※今回の反省点
キャラ変わってね?


イベント楽しい。オリジナルの小説を書くのも楽しい。
がんばります。明日も投稿します。
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