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午後八時。
最後の授業だけお互い別だったので終わった方が先に大学のベンチで待っておくことになった。
そして先に終わったのは自分の方でまだ光の残ってる夜に一人、冬児はベンチに座り込んでいた。
「……なんでかなぁ」
昼間カグヤが言っていた“儀式”という言葉が気になっていた。
こんなことを人に言っても仕方ないかもしれないけど、というか誰も信じないと思うから言わないけど。
――俺の彼女は『魔術師』と呼ばれる人間らしい。
だからと言って箒で空を飛ぶ訳でもないし、猫や竜に変身する訳でもない。
できないことはないらしいが、彼女はそんなことよりもっと手っ取り早く目的を果たすことができるそうだ。
カグヤの家、壬生家はカグヤで八代目とする歴史ある魔術師の一族。
三代目のときからこの喝馬町に住まうようになったらしく今ではこの町のセカンドオーナーを務める程の名門となっているらしい。
勿論そんなこと誰にでも言える訳が無いし、もし魔術師でもない一般人にでもバレたらその人物を即抹消するのが魔術師のルールらしい。例えそれがどんなに親しい人間でも。
ならなんでこんな自分が彼女が魔術師であることを知ってのうのうと生きているのか。
答えは何の捻りも無く簡単だ。冬児も魔術師の血筋を受け継いでその事情知っているから。
「と言っても、そんなのに興味ないんだけどなぁ」
冬児には魔術師になる意思はない。
親からすると父親の方。
そちらが自分の家系にとって継承者になる筈だった。
が、奴はそれから逃げた。
『魔術師』という異質から逃げた。
その後父親は母親となる女性と結婚し、数年後俺が産まれ、更に数年後、本家から来たという見知らぬ叔父に俺は引き取られることとなる。
叔父も魔術師ではあったらしいのだが、本家の裏切り者である両親の息子の自分に魔術の話をしたりはほとんどしなかった。
だから自分にできることは何も無い。
彼女が魔術師で、これから死地に赴く様な事態になっても何もできない。
空虚感、いやそこに何かが溜まる訳でもないから虚無感なのかもしれない。
「諦めるのは自由だけどそれじゃ弱虫なままだよ?」
気がつくと自分の横に、年端もいかない少年が座っていてこちらに笑顔を向けていた。
年齢は中学生くらいだろうか。
服装もブレザーではなく、今時珍しいが黒の学ランを着ている。
少年は声変わりもしていない明るい声でこちらの返答も聞かず続ける。
「弱虫は悪いことじゃないよ。弱虫は愛しくて可愛いからね。でもね覚えておいてお兄ちゃん」
悪態も悪心もなく。
少年は純粋な笑みを作った。
「虫は踏み躙られるものなんだよ。お兄ちゃんも、お兄ちゃんの好きな人もね」
「?……なにを」
言っているんだ、と言いいかけたところで夕日の光が目に入る。眩しくて視界を手で抑えている内に、少年は姿を消していた。
代わりに暗闇のそこから現れるのは、麦のような浅い茶色の髪をしたロングスカートの学生。カグヤが来た。
彼女が視界に入ったときには不思議な少年のことなど気にも留めていなかった。