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遺跡までの空路を渡って来る脚として使った舟を回収し、冬児、キャスター、アルジュナの3人は遺跡の中へと堂々と進んでいく。
昔のRPGの、魔王が眠っている巨大な墳墓を思わせるような外見をしていながら、中に入って見ても魔物の一匹もいやしない。
代わりに3人を出迎えたのは中世の侍女服にその身を扮したホムンクルスだ。
後ろで束ねられた黒髪と丸い眼鏡から清楚が溢れているが、表情は氷の様に冷たく、生気といったものは感じられない。
「……あの」
英霊化しているとはいえ、不用意にも敵に近づこうとする冬児を片手で抑えて、従者であるキャスターが深々と一礼する侍女型ホムンクルスに声を掛ける。
「歓迎は喜ばしいが、お主の主はどうした?それとも今からお主のお仲間が来て我らと乱れ狂うつもりか?」
妙に嘲るキャスターの口調にも、侍女型ホムンクルスはその取ってつけられたような表情を崩すことなく、恐らく主に設定されたであろう言葉の羅列を相手に返す。
「私は貴方様方が此方に来た場合、案内するようにお命じ仕っただけですので。貴方様方と戦闘を行うつもりはございません」
「それが罠ではないとどう証明する?」
「必要とあらば五体の何処を切り刻んで頂いて貰っても構いません。しかし、脚を痛みつけるのであれば、ご案内させて頂く時に何方かに運んで頂くことになるのですがよろしいですか?」
感情の篭ってないが故に冗談とも思えない言葉の数々。
信用するわけではないが、このままこの場所にいても拉致が明かないと想い、侍女型ホムンクルスの主は誰なのか気になった冬児が声を掛ける。
「アンタは俺らを誰に案内しろと言われてるんだ?」
こんな現状を作り出した黒幕か。
実際、何となくではあるが、3人の中で冬児だけその存在に心当たりが在った。
ホムンクルスが口にする言葉もまた、その予想と1字として変わらない名前を紡ぎ出す。
「この聖杯統合戦の現監督役、キレイ・ハーデンベルト様でございます」
冬児は驚くこともなくその表情から色が消え、アルジュナは勘付いたように目を閉じ、キャスターは訳もわからずにホムンクルスに問い直した。
「監督役……?聖杯戦争というルールそのものが破綻しておきながら、今更監督役が何の用だと言うのだ?」
キャスターは、監督役であるキレイ・ハーデンベルトが早眞邸を襲撃したことを知らない。
唯、何者かがこの異質な聖杯戦争・聖杯統合戦を崩壊させ、その中心人物がこの遺跡を出現させたということだけ伝えておいた。
全てを話すのには時間が足りなかったからだ。
頭に疑問詞を浮かべるキャスターの肩に手を添えてから、冬児が一歩前に出る。
「悪い二人共。俺、行かなくちゃ」
覚悟を決めた表情で侍女型ホムンクルスの元に歩んで行こうとする主の背中を、
「な、あ、主様!?」
突然の状況に少々狼狽したキャスターが半笑いのままその手を握って止める。
「いきなりどうしたと言うのだ!?罠という可能性も――」
「どうしても倒さなくちゃいけない奴が居るんだ」
驚くほどに落ち着いた声。
「な、ならば我も!!」
「いや、キャスターにはもしもの時の為に聖杯を探して欲しい。奴が持っていなかったとしても、この遺跡の何処かに聖杯は隠されている筈だ」
「しかし――」
「ごめんキャスター。話したいことは山程あるけど、それは全部終わってから」
一度だけ彼女の手を握り返し、キャスターが呆けている間にその手から冬児は自分の手を引き抜く。
継いで冬児は、毒が抜けて随分と顔色の良くなったアルジュナに目を向ける。
「ライン達のこと、任せていいか?」
「ええ。貴方は思う存分に貴方の戦いに集中してください。我が友よ」
自身の胸に手を当て、微笑を浮かべながら信じてくれるアルジュナに深い感謝を。
そして放っておいたら泣き出しそうな自分のサーヴァントの頭を撫でてやりながら、彼女のよく知る“早眞冬児”として、彼は無邪気に笑って魅せた。
「頼むよ、キャスター」
「――ッ、お主は……お主は卑怯だ………」
――我が断われぬのを知っていて言っておるだろうに。
内心、悔しさも似た感情を抱きながら、キャスターは俯き、そして眉を釣り上げた強気な表情で己が主の胸に拳を当てた。
「負けるでないぞ。此処に、お主を待っている女が1人居るのを忘れるな」
誰よりも元気になる声援。それに力強く頷くと、早眞冬児は踵を返して侍女型ホムンクルスと共に遺跡の深淵へと溶けていった。
「いつの間にか、大人になるのだな」
遠く小さくなっていく主の背中を見送りながら、ふとキャスターが独り言の様に呟く。その表情は寂しげで、片手は自身の着物の裾を強く握りしめている。
「我は生涯子供を持てんでおったが、愛する子の旅立ちを見送るというのは、斯様な気持ちであるのだな……」
「心配、ですか?」
背後からのアルジュナの言葉に、キャスターはゆっくりと首を横に振る。
「いいや。我が主様にはもう1人、帰りを待っている女がいるでな。彼奴はその女を助けるまでは果てはせんよ」
未だ本当の姿を見たことがない、愛する主の愛する人。
一度は語り合ってみたいものだと想い、しかしどうしてもそれはできないとも彼女は知っている。
自分は所詮サーヴァント。聖杯を掴む為に呼び出され、聖杯を誰かが握れば用無しと消える傭兵なようなもの。
早眞冬児が聖杯を手にすれば壬生カグヤは元の姿を取り戻し、キャスターは座へと還る。
それでいい。素直にキャスターはそう思う。
彼女が想うは恋心ではなく、親心。
旅路を辿る子の行く末を、親は唯見守るのみ。
「お主こそ早く行かないでいいのか?」
微笑を浮かべながらキャスターがアルジュナに振り向くと、面白いことにアルジュナは足から徐々に消えかけていた。
それがサーヴァントの消失ではなく、令呪による強制転移だと気が付くと、キャスターは苦笑してそれを見送るように言葉を掛ける。
今現在、オリジンとランサーが戦闘を繰り広げておりその救援としてアルジュナが呼び出されているとも知らずに、何ともいつもどうりの砕けたテンポで。
「無用な心配であったか」
「そうでもありませんよ」
アルジュナにとっても想定外の事態だったのが、困ったように苦笑しながらも、転移が胸の辺りまで進んでくると、彼は真っ直ぐとした視線でキャスターを見据える。
「どうかお気をつけて」
そう一言残すと、その場からアルジュナと呼べる残留原子は一切消失し、その場に残るはキャスター1人のみ。
この後の行動として、普通ならば幾ら止められたとはいえ主の後を追うのがサーヴァントの行動として正しいのだろうが……。
止められたからには訳がある。
キャスターは少々頭を働かせ、冬児が宿敵の元へ行ったのと、アルジュナが何か強大な敵の元へと向かったことを整理すると、己の使命を改めて予想する。
「ま、別の視点からの聖杯探索が妥当か……」
そう思って伸びをしてからどの通路を辿ろうかと、迷宮のような遺跡の内装に目を悩ませていると、
ふと目の前を“黒い蝶”が通る。
「―――」
妖艶と呼称できる程に艶やかな蝶に目を奪われていると、その蝶は幾つか乱雑する通路のうち、右から二番目の通路の闇へと消えていく。
しかし、蝶はそれ自体が光を放っているのか、通路からはまるでキャスターを誘うように水色の光がちらりちらりと垣間見えていた。
罠、と考えるのが妥当だろう。
「まぁ、何の手掛かりもないしの」
頭を掻いて仁王立ちしていたのを解いて、キャスターは誘われるようにして黒い蝶の後を追っていった。
※今回の反省点
短めです。
相も変わらずのFGOの話題で申し訳ないのですが、イベントの最後が中々に歯応えがあって嬉しい限りです。