Fate/ragnarok gate   作:フーリン式

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王――1

 

 目を瞑れば広がる光景。

 自分は臨まれる英霊として、聖杯を掴む為に使われるサーヴァントとして、現代に再び根を下ろした。

 自分を呼び出したのは信じられないくらい弱気な少年。

 一見、小動物を思わせるような少年(マスター)は、召喚されたばかりの私を見るなり悲鳴を上げた。 

 化物でも見るような目で彼は私を見ていた。

 それは今思えば、私を呼び出してしまったことによって戦争に巻き込まれるのが確定しまったことによる恐怖から溢れた悲鳴なのだろうが、その時は私はそれが気付けなかった。

 召喚されたばかりで頭が回らなかったのだろう。

 

 尻餅を着いた主。

 何とか良き関係を築こうと手を伸ばしたと同時に、周りに潜んでいた男達が一斉に私に向かって銃口を向ける。

 サーヴァントにそんなものが有効な訳がないが、それでも敵意を剥き出しにしてきたのだからただ事ではない状況に置かれていることは理解できた。

 銃口が向けられたのとほぼ同時に、私と主である少年の元に近付いてくる影があった。

 影は私と少年、その間に丁度入り込んで膝を折ると、これまた敵意剥き出しの表情で、差し伸べた私の手を払い除けて少年の身体を抱擁した。

 

 それが、私と主であるライン殿。そしてその恋人であるフラン殿との出会い。

 最悪とも呼べる主従の出会い。

 

 

 

 

 

 

 

 

「準備はいいですか、ランサー」

 

 戦場に立っているとは思えない、不思議な程に落ち着いた声でアルジュナがパーシヴァルに尋ねる。

 パーシヴァルもまた、甲冑のせいで表情は読み取れないものの息を整えた落ち着いた声でそれに向き合う。

 

「勿論」

 

 二人が見据えるのは、玉座にて佇む絶対不動の王。

 彼が手にする宝具を使われれば、一度この遺跡は瓦礫の山と化すだろう。

 アルジュナとパーシヴァルも一度は見た創世の嵐。 

 言うなればアレは使った瞬間に決着が付いている。  

 発動すれば地上を原書の姿に戻し、張り巡らされた魔力図は現代の姿を崩壊させる。

 現し世を糧として楽園を創り出す宝具。

 “聖なる掟を守るもの(ゲート・オブ・エリドゥ)”。

 古き世を創り出すが故にそれ以降の存在を否定し、断絶する宝具。使われればどんな攻撃も防御もただ呑み込まれるのみ。

 それは前回、山中で死合った時にパーシヴァルの宝具が呑み込まれたが証明している。

 例えどんな宝具であろうと、あれを打ち破ることなど出来やしないだろう。

 

 

 

 ――アルジュナが持つ、唯一の宝具を除いては。

 

 

 

「マスター、今残ってる令呪を全て私に託して頂けませんか」

 

 背中を向けたままのアルジュナの言葉。

 

「!?」

「お前……!?」

 

 その言葉にラインとフランは当然ながら驚き、アルジュナの表情を伺うも其処からは微塵も冗談を言っている様子は見受けられない。

 幼子を見守るようないつもの優しい表情は消え、眼光は鋭く、唯一人の敵だけを見据えて殺気を解かない。 

 それが自分達に向けられている訳ではないから2人は恐怖こそ感じていないが、遠目から見ただけでもその姿はあまりに過剰な威圧感を感じさせていた。

 

「我が勝利を信じて頂きたい」

 

 令呪というものの使用法は、強力過ぎるサーヴァントを御する為に使用される強制命令権というのが主流であるが、その存在の根本はサーヴァントを統べる程の力を持つ多大な魔力の塊である。

 つまり、その力はサーヴァントの行動を制限するだけに非ず。上手く使えば、瞬間移動の真似事、単純なものでは令呪に蓄えられた魔力を使ってサーヴァントのステータスを底上げすることだって出来る。

 アルジュナが言いたいことは後者であり、恐らくほとんどの聖杯戦争で呼び出されても最強と名乗れるに相応しい実力を持つアルジュナが、令呪によるブーストがなければ勝てない相手が居るということだ。

 一々言うまでもないが、それこそがオリジンのサーヴァント。原初の王(アルリム)

 

 

「………ッ」

 

 断る理由など無い。むしろ今ラインが令呪を使わなければ状況は改善どころか益々悪化していく。

 ラインとフランで重複契約を行っているとはいえ、アルジュナを使役するにあたっての魔力消費量は冗談にもならない。

 そのアルジュナが宝具を全力で解放するのだ。吸い上げられる魔力量は今までの比ではなく、それこそ令呪でも使わなければ使用できるかどうかも怪しいのだろう。

 ただラインはそれを使うのを躊躇っていた。

 原因は何てことはない些細な理由。

 繫がりが無くなる。ただそれだけなのだ。

 これまで未熟な自分を支えてくれた最優のサーヴァントとの唯一の繫がりが途絶えることに、ラインは微妙な戸惑いを感じていたのだ。

 別にそれで関係が消えてしまう訳ではない。

 ラインとアルジュナ、それにフラン。令呪を使い切ったからと言ってこれまで積み立てて来た関係の全てが崩れ落ちる訳ではない。

 ただしかし、それでも、形あるものが崩れ去るのを見るのはどうしても辛いところがあった。

 そんな主を見かねてか、アルジュナは振り向くことすらしないものの、苦笑気味に、懐かしそうに、口を開く。

 

「形あるものが消えようとも、消えないものがあります」

 

 それ以上は語らない。多くは語らず、語る必要は無く。

 消えないもの。自分達の間には確かな“絆”があると信じているからこそ、それ以上語ることがないのだ。

 

「―――」

 

 少年は息を呑む。

 気づいた時には、赤い令呪が刻まれた右の手の甲を頼れる男の背に向けていた。

 瞬間移動でも、自害を命令するのでもない。

 信頼するサーヴァントに告げる願いは唯一(ただひとつ)

 

「“皆で勝って 皆で帰りたい”」

 

 命令どころか、願いとも呼べるどうかも怪しい少年の1つの意見に、されど令呪はそれを己が使われるべき糧と認識して2つ消費される。

 1つは勝利を掴むこと。

 2つは皆であの穏やかな日常に戻ること。

 その2つは確かな力となり、大英雄の体に纏われる。

 

「……承知しました」

 

 静かな祈りのような声。

 その後も、ラインとフランは不安気に戦況を見守ろうとしていたが、不意に振り返ったアルジュナがそれをよしとはしなかった。

 

「此処は私達に任せて、マスター達は早く脱出してください」

「!?」

「………」

 

 突然のアルジュナの提案に、ラインは素直に驚愕し、フランは不本意そうであるものの当然のように納得した。

 大英雄同士の全力の戦いともなると、その余波だけで周囲にどれほどの被害が及ぶことか。それが判らないフランでも無く、決心した時にはもうラインの手を握りしめて外へと足を動かし始めていた。

 

「ふ、フラン!?」

 

 驚きながらも声を上げるラインを心苦しくもスルーし、フランは視線を向けないまま天井に叫ぶようにして友人に激励を掛ける。

 

「負けんなよ!!」

 

 アルジュナもまた、そんな友人の激励に、背を向けたまま目を瞑ったまま不敵な笑みを浮かべて答える。

 

「ええ、勿論。我が父と主の名にかけて」

 

 

 

 

 意外なことに、些事を告げる訳でもなく、オリジンはただその光景を眩しげに眺めていた。

 羨ましいという訳では無かったが、ただその在り方は罪ではないと素直に彼の王は認めていたのだ。

 彼がこの星を納めていた頃から随分と時が経った。

 多くのものが変わり、過去のものは徐々に息絶えていったが、それでも変わらぬものもやはりあるのだ。

 

「貴様の言うとおり、人間はやはり美しいな。サンジェルマン」

 

 犬の餌にもならないと侮蔑していた男の言葉を思い出しながら、オリジンはくつくつと愉快気に声を漏らす。

 嬉しそうに、ただ嬉しそうに。

 王は孤高である。しかし王は、民なくしては王ではない。

 その矛盾。多くの王がぶち当たってきた矛盾を、このオリジンのサーヴァント、アルリムは当然のように受け入れていた。

 故にこそ想う。

 王と民は同等の存在ではない。しかし、手を取り合わなくて言い訳でもない。

 目の前の彼らこそその体現。 

 サーヴァントとマスター、強者と弱者。主従の関係に結ばれながら、彼らは手を取り合って最悪の道に挑み続けている。 

 何とも美しい。否、それ以上の言葉で褒め称えなければいけない後の時代の勇者達よ。

 

「嗚呼、掛かってくるといい。この(オレ)自ら道を示してやろう」

 

 

 

 

 

 そうして1つの終幕に向かって戦士達は、或いは勇者は疾走する。

 最初に動き出したのは紅の甲冑に身を包んだ騎士で、彼は序盤から最大加速力で地面を蹴りつけると、そのまま水平方向に一気に走り出す。

 元々Aランク相当の俊敏性を持つパーシヴァルの脚力に、更に魔力放出のブーストが加算されて、その爆発力といえばそれだけで周囲にいる者に被害を与えてしまう程だろう。

 

「シャァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 唸り声を上げながら、一度も減速することなく、加速に加速を加えた状態で槍を構えるパーシヴァル。

 

 聖杯の騎士。そう呼ばれる三人の騎士でありながら、パーシヴァルには目立った功績はない。

 残り二人の内、彼が“おじさん”と呼ぶ騎士もまたそれ程目立った功績は無かったが、あの騎士。

 誰よりも清らかな騎士と称されたあの男の功績は、三人の中でも最も優れたものだっただろう。

 

 ――見てるかな。

 

 今は亡き二人の友人のことを思い出す。

 自分がどれだけ悪戯しても何事にも動じなかったあの清らかな騎士と、いつも自分達の面倒を見てくれたあの騎士。

 毎日毎日、語り合ったあの日々を何故か今思い出し、そして懐かしく、恋しく思う。

 

 ――この戦いに勝ったら褒めてくれるかな。

 

 考えてから、虚しい願いだと想う自分を自粛する。

 それはありえない。彼等とは、それこそ聖杯戦争で同時で呼ばれでもしない限りもう会うことはない。

 それに、ただ友人に褒められたい。

 そんなことの為にパーシヴァルはこの場に立っている訳ではない。

 

 パーシヴァルには宝具として昇華できる逸話も多くはなく、持っているのは招待を隠す紅い鎧と白く染まったかつての愛槍。

 白き槍の正体は、聖杯の気に当てられたただの青銅の槍である。

 普段は兵士が使っていた安物と変わりない作りをしているが、一度その力を解き放てば最強の“聖遺物”としてその目を開く。

 聖杯と名の付く武具の開放。即ちそれは魔力の吸収と暴発を意味する。

 この聖杯統合戦において、パーシヴァルが敵の攻撃を受けてたのは数度。

 しかし、そのたった数度でも、それは紛れもなく高密度な魔力生命体であるサーヴァントが放った攻撃だ。

 故に、“魔力を吸い取る力を持つ”パーシヴァルの槍は、その全ての魔力の味を占めていた。

 

 

 無論、一度その宝具を無力化したオリジンはそのことに気が付いている。

 実際には『吸収』と『暴発』の内、『吸収』しか無力化していないのだが、『吸収』するということはそれを蓄えているという事実は容易に想像できる。

 何人ものサーヴァントの攻撃を吸収した魔力爆発ともなれば威力は絶大。

 しかしながら、オリジンが焦り慌てふためく可能性など微塵もありはしない。

 

「万を決しての捨て身の全力疾走か?それにしては掩護が弱すぎるのではないか?」

 

 オリジンが蛇の如き紅い双眸で見つめるのは何も接近してくるパーシヴァルだけではない。

 その後方。丁度、弓を引き絞って十五本の火の矢を同時に放ったアルジュナにも、同様に視線と警戒心を向けていた。

 速度的にパーシヴァルが宝具を開放するよりも速くオリジンの元に辿り着いた十数本の矢は、オリジンに直撃するや否や、一本で戦力的手榴弾5つ分程の馬火力を露にし、オリジンの周りの床を抉る。

 しかし、爆煙から再び姿を現したオリジンには当然傷はなく、煙も合間って彼を守護する金色の壁も少しだけ視界に映る。

 それは半透明な爬虫類の鱗のような巨大で分厚い障壁で、莫大な魔力を糧として形作られているようだった。

 アルジュナの弓での連撃をも防ぐ鉄壁の障壁を崩すことは、並大抵の宝具では不可能であろう。

 それこそ特殊な条件付きの宝具でなければ突破することは不可能だろうが、

 ――運の良いことに、聖杯の騎士の槍はその条件に当て嵌まる。

 この世全ての“(けがれ)”を祓うことを概念として植え付けられたその槍は、触れただけでその全てを一変残さず吸収する。

 パーシヴァルは地面を滑るようにしてオリジンに接近しながら、障壁に激突する寸前のところで後方に大きく跳躍し、槍を振り被る。

 其処から繋がる攻撃方法といえば、もはや槍の投擲以外有り得ない。

 パーシヴァルの持つ白き槍が朝霜の如き輝きを放ち、その真価を発揮する。

 

「“穿ち滴る聖者の槍(ロンゴミアント・ロンギヌス)”ッ!!」

 

 

 

 

 衝撃と障壁。

 あらゆる魔を祓う聖槍と、主に対する一切の敵対行動を自動的に無効化する魔術障壁が激突すれば、それだけで辺り一面に矛盾による暴発が起こる。

 結果。結果として、聖杯から無尽蔵に魔力を供給されているオリジンの障壁が崩れることはなく、パーシヴァルの聖槍の効果は『数秒の間小さな穴を空けられる』程度だった。

 

「ぐ――――おぉおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 雄叫びを上げるパーシヴァル。

 決して諦めないといった様子で障壁を意地でも破ろうとする騎士の姿を目にしながら原初の王が想った事は、嘲り様な冷ややかな視線だった。

 

 ――下手な芝居を。

 

 オリジンの聡明な思考力は既に敵陣の狙いを読み取っていた。

 敵であるパーシヴァルの狙いは障壁を突破することではなく、その手前。

 障壁を破り、ほんの小さな穴を空け続けることにある。

 何しろそのほんの小さな穴さえあれば、あの弓兵の矢は容易く通り抜けることができるのだから。

 

 

 ――来るか。万夫不当の英霊よ。

 

 

 未だ自身は動かず、涼しい顔のまま仁王立ちする原初の王の水晶玉には唯一人の男しか映ってない。

 殺気を解かず、しかしそれを大気に紛らせて、それでも我が首を狙う不当な蛮族。

 そうでなくてはらない。それでこそ挑まれ、それに応える意味がある。

 それまで動かなかったオリジンの片手に力が入り、その手に握られた螺旋剣が呼応するように金切り声を上げる。

 大地を刳り、海を割り、宇宙を砕く。

 全てを破壊し、全てを創造する。

 この世の始まりの神に託されたオリジンのみが持つ神造兵器に相対できる宝具など、この世に存在しているのだろうか。

 

 

 

 

 否、確かに存在している。

 絶対なる王者を倒さんと牙を隠し続けた獣は、今この時その牙を惜しむことなく剥き出しにするのだった。

 

 

 

 




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