Fate/ragnarok gate   作:フーリン式

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煌めきの蒼

 

 最強の弓兵がこの聖杯統合戦から姿を消したのと時ほぼ同じくして、原初の王が創り出した遺跡の中を闊歩する女の姿があった。

 女はまだ成人前の年端もいかぬ少女といった印象を見る者に与え、その小さな矮躯には白と紫でバランスの取れた着物が身に着けられている。あまりに立派な着物のせいか、着物を着ているというよりも、少女が着物に着られていると表現したほうが正しいようにも見える。

 少女が歩く先は常に暗闇であるが、少女が迷うことはない。

 少女の前には常に水色に輝く蝶が飛んでおり、少女は常にそれを目印として歩くことで迷わずに迷宮のような遺跡を歩いていたのだ。

 かれこれ数十分歩き続けているような気もするが、果たして宝具であるこの遺跡の中が外の世界の時間と感覚を共有しているかは定かでない。

 この中で何十分歩き続けようと、外の世界ではもしかしたら数秒の出来事なのかもしれないし、逆に数日の出来事なのかもしれない。

 しかし、今更気にしても仕方ない。少女に残された選択肢は唯一、歩き続けることのみ。

 それでも本来肉体労働は専門外の少女は此処に来て弱音を1言吐く。

 

「……帰りたい」

 

 正確には、引き返して主の元へと向かいたいというのが彼女の意思であったのだが、それはできないと自分を戒める意味も込めて首を横に振る。

 主に聖杯を探すように頼まれた。では自分の成すべきことは決まっている。

 聖杯を見つけ、その所有権を己が主に託す。

 全ては主様の為。主様の願いを現実のものとするため。

 道標たる蝶はそんなキャスターの気持ちも知らずに暗い闇の中で必死に羽を羽ばたかせる。

 やがて蝶は更に深い闇の前で止まる。

 闇は深淵と喩えた方が遥かに似合う色黒さで、一目見ただけでそれがただの暗闇でないことが判る。

 先は見えず、其処からは何も生まれない。風も光も、道さえも続いているかどうかも定かではない。

 しかし、それが決して自分を害するものではないことを、キャスターは知っていた。

 何しろその深淵を象っているのは、あの趣味の悪い山羊の頭蓋骨が好きそうな如何にもオカルトチックな骨の外装なのだから。

 このような歴史的な遺跡にアンバランスな扉を作るのはあの男以外あり得ないだろう。

 

「全く、悪趣味な……何故主様はあのような英霊を呼び出したのだ」

 

 皮肉を言えど、その言葉に本当の意味での嫌悪は含まれていない。

 深淵を象る扉の外装に目を移し、何を思ったのか一瞬目を瞑ってから、キャスターは蝶よりも先に深淵の中に足を踏み入れる。

 今度は、蛍の輝きのように水色の光る蝶がその背中を追って深淵の中へと入り込んで行った。

 

 

 

 

 

 

 サンジェルマン伯爵が唆し、キレイ・ハーデンベルトが監督役の責務を放棄したことで此度の聖杯統合戦は完全に崩壊した。

 喝馬町全体に張られた結界によって中の情報は外に漏れない。

 その中には当然喝馬町に元々住んでいた人々も含まれ、彼らは『有り得ないことを理解できない』という暗示を掛けられていることで、今ライダーが生み出した巨獣達によって踏み潰されていることにも気がついていないだろう。

 何処ぞの地方都市である喝馬町の住人がどれ程かは解らない。この聖杯統合戦が行われている間、不幸にも外からこの町に訪れた人間がどれ程なのかは定かではない。

 どれ程居ようと、確実に言えることは、その大半は土に帰ったということだけだ。

 多くの犠牲。きっとその中にはこれから世に羽ばたくであろう幼子達も沢山居たのだろう。静かに死を迎えたかった老人達も少なからずいたのだろう。

 しかし例外はない。悪平等にも巨獣達は、狂乱に陥ったサーヴァント達は人々を塵芥とみなして喰い殺す。

 何とも酷い。これが人間にやることか。

 

 

 以外にもそう思っていたのは、こんな状況を作り出した張本人であるサンジェルマン伯爵であった。

 

 徐々に日の光が崩れた町を照らす。

 巨獣、人造人間、サーヴァント。人外達が荒れ狂ったこの町は、もう元の穏やかな日常を取り戻すことはないだろう。

 この町にはもう建物と呼べる建物などもう残っていないのかもしれない。

 それを建て直す者も、この町にはもういないだろう。

 

「……些細な犠牲だ」

 

 そう言って自分で自分の心を誤魔化したのは、一体何万回目だろうか。

 きっとあの聡明な王の時も、お菓子が大好きな女王の前時も、最期まで人々の期待に応えた聖人の前でも、変わらずそう思った筈だ。

 十を救うために一を殺す。

 百を救うために十を切り捨てる。

 千を救うために百を見捨てる。

 それだけのことだ。今までだってやってきた、当たり前の選択肢だ。

 だがしかし、漸くその地獄のような選択から開放される此度の聖杯統合戦においては、その地獄を見る心にも今までは違って僅かな感情が生まれる。

 聖杯さえ掴めば破滅の道を辿る人類を救える。

 それだけを指名として、それだけを生きる理由として、自分は生き過ぎた。

 色んな死を見てきて、色んな死を哀しんだ。

 であるならば、此処で終わるわけにはいかない。

 自己の欲の為に聖杯を求める奴らに、人類を救わんとする大義を阻止されてたまるものか。

 

 今聖杯はサンジェルマンの目の前にある。

 オリジンの創り出した巨大遺跡。その屋上に位置する祭壇の上でサンジェルマンは絶え間なく、ただ聖杯が完成するその時を持つ。

 徐々にその場を照らす陽光に、サンジェルマンは目が眩む。

 いつの間にそんなに時間が経ったのか。気がつけば世が明けていた。

 これが我らが大義を照らす希望の光となるのなら、嫌悪している他の星のことも好きになれるかもしれない。などとサンジェルマンは苦笑しながら、杖を地面に叩き付ける。

 同時に土で出来た地面に次々と赤い亀裂が張る。よく見れば、それは削られた地面に水銀が流されているだけに過ぎないのだが、その水銀というのがただの水銀ではない。

 オリジンの宝具である“聖なる掟を守るもの(ゲート・オブ・エリドゥ)”。幻獣や宝具級の武具を容易く取り出すことができるその王の国。

 その宝具を使い、サンジェルマンは幻想種の生き血を水銀に混ぜた。

 それを熱で炙り、自身の魔力を混ぜ込むことで、サンジェルマンは自身の魔力回路と直結した新たな魔力回路を創り出した。

 言うなれば、人体にある内の魔術回路に対して、水銀で製造された外の魔術回路。

 その外の魔術回路は、決してサンジェルマン自身にだけ繋がれている訳ではない。

 地表に彫られた幾層もの魔法陣。その線が辿っ先にあるのは、今はまだ十二分にその輝きを放てていない黄金の釜。

 聖杯は未だ完成していない。

 実質には、小聖杯の方は既に完成している。別世界への穴を開くだけの魔力は、呼び出した十数体の英霊達によって小聖杯の中に貯まりに溜まっている。

 しかし、等の大聖杯の方が未だその形を完成させていないのだ。

 此度の聖杯戦争は聖杯統合戦。ただ呼び出したサーヴァント達を殺し合わせるだけでは聖杯の所有権は手に入れられず、切り分けられた十の欠片を1つに集めることによって初めて聖杯は願望器として完成する。

 つまり、聖杯の基盤をサンジェルマンが所持していようと、聖杯を完成させるまではその所有権は彼にあるわけではない。

 わけではないのだが、もう既に彼の中には聖杯統合戦を終えた後、その後にどのように人類を救済しようかという計画だけが練り上げられていた。

 神秘としてはこの上ない、地上の始まりを作った地上最古の英雄。原初の王――アルリム。

 数多の神獣や幻獣を従える魔獣の聖母――エキドナ。

 他二人には引けを取るも、強さとしては人外揃いの源四天王の中でもトップクラスの1人――碓氷貞光。

 それに加え、蘇った狂乱状態のサーヴァント。そして万単位のホムンクルス達。

 もはやサンジェルマン伯爵の野望の前に敗北の二文字は立ち塞がらない。

 ならばこんな余興に頭を使うべきではない。

 己はその先。別の世界にて、どのように人類を導くを考えなくてはならない。

 

 

「―――ん」

 

 それは些細な違いであった。

 まるでいつも手にしている小道具が用途も見た目も全く同じ別物変わっているような感覚。

 あり得る筈はないのだが、そんな微妙な違和感をサンジェルマンは完成しかけの聖杯から感じ、そしてもう一度目を凝らして自身の目を疑った。

 

「な――あっ?」

 

 確かにサンジェルマンの眼前。水銀で作られた魔術路の先には“聖杯”と呼ばれる聖遺物が存在していた。

 爛々と輝き、莫大な魔力を持つその盃は、正しく聖杯と呼ぶに相応しい。

 それ1つあれば世界中の魔術師のあらゆる悲願を叶えることができるだろう。

 しかしそれは違う。

 サンジェルマンの頭に思い浮かぶ幾つもの不安。

 些細なずれはこれまで生きてきた中で幾つもあったものの、彼の人生において、彼の予想を外れる事態などそう存在していなかった。

 それは誰もが彼のことを信頼していたから。造形の良い顔も、余裕を感じさせる口調も、膨大な知識は、魔術師としてだけではなく、全てはサンジェルマン伯爵という男を信頼させる大きなアドバンテージになる。

 故に人々は簡単に彼を信頼することになり、彼が操る人々は彼を裏切ることをしなかった。

 例外とあれば原初の王あるあのオリジンのサーヴァントぐらいだったが、それ以外に例外は無い筈だった。

 なのに。なのになのに。

 

「何だ――何だこれは」

 

 聖杯(それ)はサンジェルマンの知っている聖杯ではない。

 彼が何百年前から計画し、人類を救わんとする為に追い求めた聖杯ではない。

 この聖杯統合戦において掴まんと参加者達が死闘を繰り広げてまで欲した、あの十の欠片に別れた聖杯ではない。

 ではこれはなんだ?あの聖杯は何処にいった?

 誰が何の為に?

 

「ん?何だ、もう完成しておるのか?」

 

 粛々と聖杯完成の準備を勧めてきたサンジェルマンだったが、不意にその意識が少しだけ欠けられる。

 その現況である声の主は誰かと振り向くと、其処には深淵から身体を出したばかりの着物の少女の姿があった。

 紫と白のバランスの取れた着物に地面に引き摺られるほど長い黒髪。東洋人らしい童顔に加えて、その背丈の小ささが異国の者には一瞬子供かと勘違いさせる。

 されどサンジェルマンは気が付いている。

 この空間に入ってこられるのは、サンジェルマン唯一人だ。例え、キレイやオリジンであろうとも入れないようにと、強力な結界を幾つも張った。

 なのにその女は其処に居た。

 まるで知人の家に入り込んだ気軽さで、腰に手を当てて不敵に笑う少女。

 

 

「見つけたぞ、黒幕」

 

「貴様は――誰だ」

 

 

 

 

 






空の境界のコラボやったーとだけ伝えさせてください。
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