Fate/ragnarok gate   作:フーリン式

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相対する日

 

「誰だと聞かれれば――キャスターのサーヴァント。そう応える他ないの」

 

 尋ねられた疑問に答えながら歩みを進めることなく状況を見定めるキャスター。

 眼前にいるのが倒すべき敵で、眼下に広がるのは水銀で錬成された魔法陣で、その奥に見えるのが聖杯だ。

 魔法陣は聖杯に直結していることからして、目の前の男が聖杯に何らかの儀式的行動をしているのは明確だ。

 その真相は未だ知りえないが、聞くまでもないのも事実。自らの目的は敵を倒すことそのものではなく、その奥にある聖杯にある。

 

「異国の色男よ。我はお主の持っているその釜が必要なのじゃ。どうだ、首尾よく譲ってはくれんかの?」

「うんと素直に応えると思うかい?」

 

 冷笑を浮かべた男――サンジェルマンがキャスターを睨みつける。

 その様子からして、どうにも普段の余裕は持ち合わせていないようで、普段の彼を知っている者には僅かな焦りと憤りを感じさせることだろう。

 文明を救済する。その願いを叶える為にここまで力を尽くして来たというのに、それを阻止しようとする僅かな可能性がまた目の前に現れた。

 それ以前に、自分の背後に位置する聖杯は、“サンジェルマンが追い求めた聖杯ではない”。

 誰かは明確ではない。しかし確かに誰かに摩り替えられた。

 莫大な魔力を持つ聖杯であることには変わり無いのだが、この場にある聖杯ではサンジェルマンが思い描き続けてきた世界を実現出来はしないのだ。

 聖杯を聖杯に摩り替えるなど、そんな馬鹿げたことができる男を――サンジェルマンは1人しか知らない。 

 そんな冗談にもならない行為を笑いのけながらやる男は1人しかいない。

 

 確かに此処にあるのはサンジェルマンには必要のない聖杯だ。

 しかし、何処の馬の骨かもわからない極東のサーヴァント風情においそれと渡すわけにはいかない。

 この遺跡に入って来れた時点で、彼らは自分にとって脅威的な存在なのだ。

 許す訳にはいかない。その存在を許す訳にはいかない。

 

「去れ、過去の遺物(サーヴァント)。これより先はこれからの人々が創り出す新しい時代だ。君のような先人類は早く或るべき場所に帰るべきだ」

  

 嫌悪感を顕にしながら口にする男を見据えて、キャスターも意地悪く、首を傾げ、絹のような美しい黒髪を頬に触れさせながら流し眼ともとれる視線を相手に向ける。

 

「そう言うな。歴史の残骸と言う意味では、お互いそう変わりないように見えるが?」

 

 キャスターはサンジェルマンの正体を知らない。

 その名前は愚か、その大本がこの地球元来の生物であることを知らない。真っ当な進化を遂げた現人類とは、また別の過程で生まれた旧人類だということを知らない。 

 しかし彼女は魔術師である。呪術師、巫女と生前は様々な呼び名をつけられた彼女ではあるが、今は魔術師のサーヴァントとしてこの場に立っている。

 その双眸から脳内に送られる情報の中には、今現在瞳に映し出されているサンジェルマンの情報も確かに組み込まれていた。

 足元に伸びた水銀から莫大な魔力を吸い上げている、凶悪な化物の姿。その中心に存在する超密度の“賢者の石(エーテル)”のことも。

 

「随分と沢山喰らっておるな。お主、どれ程生きておる?もはやその肉体。とうに限界を超えているようにも見えるが?」

 

 魔術師としての的確な指摘。

 サンジェルマンはそれに苦笑することもなく、恥じることもなく、正面から受け止めて胸に手を当てながら事実を返す。

 

「人類を救済するには些細な犠牲だよ。神でもない、英雄でもない、偉人でもない。彼らがこの星に残すことは何もない。ならばこの星に文明を残すことに、彼らは協力すべきだ」

 

 サンジェルマンは言っていることはある程度錬金術の心得がある者、アトラス院辺りの魔術師であるならば簡単に理解でき、そして青冷めることであろう。

 何しろサンジェルマンは、“過去を元にして未来を観測する”という理を第一とする錬金術の先導者でありながら、“過去を喰らって未来を書き換える”という荒事を行っていると口にしているのだから。

 超密度の魔力結晶である賢者の石は、現代の廃れた魔術師ではほぼ製造は不可能とされている。

 しかし、製造方法はさておき、その材料を集めるのは至って簡単。

 賢者の石は、十分な魔力と大量の魂魄さえ用意すれば製造できる代物だ。

 といっても、その十分な魔力と大量の魂魄という2つの材料は、どちらも並大抵の量などではない。

 一言と喩えれば、何処ぞの大国の人々を全員殺したら漸く1つ完成する。

 勿論、不老不死を可能としない簡単なものや、サンジェルマンより高名な魔術師であるならばもっと簡単に賢者の石を製造することは可能なのだろうが、サンジェルマンはこの方法で自身の為の賢者の石を造り続けた。

 それが何処から得た知識だったかは、もう定かではない。

 数千年前か、数万年前か。とにかく随分と昔に何処ぞの魔法使いが気紛れに教えてくれた気がする。

 サンジェルマンはただそれを模倣し、賢者の石から得られる莫大なエネルギーと知識量に酔い痴れた。

 まさかこの時の魔法使いもまさか思いもしなかっただろう。

 地球にただ飛来しただけの微生物が、たった1つの賢者の石から膨大な魔力量を持つ怪物になるとは。

 

「もう一度言うぞサーヴァント。私は人類を救済する為に此処に居る。それを憚る理由が君にはあるのかい?」

「うむ。ある」

 

 明確な威圧感を含んだ問は、キャスターの冷ややかな眼光に返される。

 一体どんな答えが返ってくるのか。日本という小国にはあまり縁が無かったので、この国由来のサーヴァントであるキャスターの言葉にサンジェルマンは柄にもなく少し期待していると、キャスターは人差し指を相手に向けて宣言した。その尊顔に夢を語る子供のような表情を貼り付けて。

 

「我が主様は恋をしておってな」

「………なに?」

「だから、恋だ。心の内側から溢れる情熱。誰かが誰かを求める究極の求愛感情の始まりだ。それを叶えるためには聖杯が必要だ。もしやお主。星の数ほどこの地上を徘徊しておいて恋も知らぬと申すのではなかろうな?」

 

 まぁ自分も経験したことはないが、と付け足しながらキャスターは妙に芝居がかった動きで己のマスターの事情を口にする。

 人類救済と個人の恋愛。

 聖杯の奪い合うに至って、これほど釣り合わない天秤もそうはないだろう。

 キャスターの言葉を聞いた時、サンジェルマンが頭に思い浮かべたのは大量の疑問符で、その後に内から溢れたのは焔の如き憤怒。

 それは彼の内側にあるオリジンのサーヴァント――“ラ・ムー”の陽炎(ほのお)を潜在的に呼び覚まし、辺りに火柱を立てる。天にまで昇る火柱はさながら龍のようにも見える。

 

「君は、本気で言っているのか?たかが1人の人間の恋愛のために、人類を見捨てろと?文明を捨てろと?」

 

 サーヴァントに近づいたことでサンジェルマンの青い瞳は紅く濁りだし、更に怒りによって翳りもくわえられる。

 轟々と燃え盛る地上。それを見るだけでも、その中心に立つ男が明らかに不死性を持つだけの化物でないことが伺える。

 しかし、一気に上昇する気温や、途絶えることのない火柱など、超常的な現象を前にしてもキャスターの涼やかな表情が崩れることはなかった。

 恐らく彼女は生前にもにもこんな体験はしていなかった筈だというのに。その頬には汗1つ垂れていない。

 

「貴様の話は“すけーる”が大きくてよくわからん。別に今の世界が崩れようと我には関係のないことだ」

 

 腰に拳を当てて、堂々と宣言するキャスターに冗談を言っている色はこれっぽっちもない。

 それどころか不遜に話すその様子は自信満々に公演する何処ぞの政治家のようでもある。

 

「だから。貴様の事情などしらん。我こそもう一度口にしよう。悪いことは言わんからその後ろの釜を寄越せ」

 

 その言葉に返答するように、火柱がまた勢いを上げて燃え上がる。それ自体が莫大な魔力で精製されたオリジンの遺跡を一部焦がす程の熱量は、もはや魔法の域にまで達する強力な魔力行使だ。

 取り込んだラ・ムーの力、水銀による外の魔術回路で繋いだ聖杯の莫大な魔力、この星の文明が始まる以前から生きてきたサンジェルマンの魔術師としての知識。

 それがもたらす破格的な火属性の魔力行使。

 限界は無く、途絶えることはない劫火に、されどキャスターが臆した様子は全く無かった。

 それどころか、炎を出現させるサンジェルマンの在り方を見て、同情さえ交えた視線を向けている。

 

「そうか。それがお主の力か」

 

 正確にはそれは違う。

 これは太陽の焔を顕現させる力。本来名のある英霊の力であり、自分はその力を奪い取ったに過ぎない。

 それを潔く、しかし今では我が物顔に得意気に宣言しようとしたその瞬間、少し先に口を開いたキャスターの言葉に遮られる。

 

「だがまぁ、憐れよな。お主は強いが、それでも我には勝てん」

 

 そう口にしながら着物の袖を捲くるキャスター。其処から現れた人形のように白く細い腕を使って、今度は床に引き摺るように無造作に扱っていた自身の黒髪を束ね始める。

 その姿にサンジェルマンは唖然とした。

 何故目の前の女は戦う意志があるのか?

 通常、サーヴァントであってもここまでの戦力差を見せられては多少なりとも怯む筈だ。無論、それでも挑むからこそ英霊と呼ばれる存在になるのだが、キャスターの反応はあまりに淡々としていた。

 まるで見たことでもあるかのように。それ自体を脅威だと思っていないように。

 やがて彼女は、かつて盾の騎士と相対した時と同じような格好になると、不敵に笑って腰から短刀を取り出す。

 短刀は青銅で造られてはおらず、その刀身は魔力の篭った透明な石で造られていた。

 キャスターは片手で短刀の柄を握り、もう片方の手の人差し指と中指で刀身を撫でるようになぞると、不敵な笑みをサンジェルマンに向ける。

 

「もう一度だけ口にしてやろう。大人しくその釜を渡せ。お主では、我には勝てん」

 

 




※今回の反省点

ある程度書き溜めてるんですけど忙しくて連続投稿できないのが残念……。


空の境界コラボ。面倒くさいけど楽しくて、もうすぐ完走できそうです。何故ふじのんをサーヴァントにしなかったんやー!!
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