○
かつて、この小さな小さな島国を収める女王が居た。
女王と呼ばれた少女は、1人の王としてではなく、
彼女は国を栄えさせる道具として生き続けた。
長くは生きた。しかし彼女には生涯愛する異性というものは存在しなかった。
弟には確かに情愛を感じていた。しかしそれは、他の民とは少し違う程度で、彼女が本当に愛していたかどうかと問われるとそれは定かではない。
ただ淡々と、淡々と。彼女は機械のように国を栄えさせた。
人々を鬼道で導く巫女として。人々を鬼道で操る魔女として。
ただ、一度彼女が人間らしかったことがあったとすればそれは憧れたことだ。
野を素足で走る子供達。
和気藹々と談笑する男女の姿。
仲慎ましい家族。
何百人の生贄などには興味は無い。
女王という位に立ちながら自分が決して手に入れることのできないその存在に彼女は瞠目した。
かつて、この国を収めた神霊が居た。
神霊は“太陽の化身”とも呼ばれ、親兄弟、皆が神霊であったとされる。
決して争い事を好まず、暴挙に還り出た弟を嘆いて岩の中に引き篭もったこともあったという。
彼女は、そんな神霊と“同一視”された。
決して彼女自身が神霊であった訳ではない。
彼女は機械のようでも人であった。奇妙な術を使えても、彼女はどこまでも人であったのだ。
しかし周りの人間はそれを認めなかった。
彼女は選ばれた人間で、自分達とは違う。
そんな理想を押し付けられた女はやはり嘆く。
手に入れたくもないものばかり自分の身体に後付されて、本当に手に入れたいものは手に入れられない。
一体何が違っていたというのか。
野を走る少女と自分。彼女達と自分は何が違っていたのだろう。
英霊となった今ではそれを知る由もない。
彼女は英霊。サーヴァント。
また人々に道具として使われるだけだと思っていた。
しかし、彼女は予想は偉くあっさりと外れることになる。
『頼むよキャスター』
あの笑顔を忘れられない。
瞼の裏にまで焼き付いた、あの青年の表情を忘れることはできない。
彼は違う。己とは違う。
誰かを愛し、愛し続けることができた。
異形と化した恋人を見ても、彼は変わらず愛することができたのだ。
彼女の父と呼ばれた神ですらできなかったというのに。
神霊ですら、英霊ですらできなかった『絶対の愛』を、彼は見事果たしているのだ。
ならば、誰が、誰が諦められようか。
胸を割くような痛みは決して恋ではない。
内側から抉られるような痛みは、愛する我が子の望みを阻もうとする敵対者への憤りだ。
立ち上がることはできる。魔力は十分に満ちた。
後は覚悟だけ。
これより己が真名は反転する。
この国をかつて収めた女王は、
この国を照らした神霊へと変革する。
○次回の更新
本日中か明日。