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聖杯戦争の終局。
その舞台となった神話の遺跡は、持ち主であるオリジンのサーヴァント・アルリムが消滅したことでその形を現世に止められずに消滅していく。
さながら砂の城が崩れ去っていくかのように、遺跡の内部にいた者は、例えどのような武術の達人であろうとパニックを隠せなかったことだろう。
「うっうわぁぁぁぁぁぁ!!?」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ほら速く!!もっと速く飛べねぇのかこのおんぼろは木舟は!!」
「うるっさいわね!!やってるわよ!!こんな優雅さの欠片もない飛び方させて、後で覚えておきなさいよ!!」
明らかに店員オーバーな黄金の木舟が、内部崩壊も始めた遺跡の中をひたすら滑空する。
崩れ去っていく瓦礫を避け、崩れ落ちていく地面に巻き込まれて跡形もなく消し飛ぶホムンクルスに目も向けず、ただ黄金の木舟は飛び続けた。
このまま行けば一番近い大窓から外に出られると木舟を旋回させたのも束の間、次の瞬間それまでその姿すら見せなかった幾つ者侵入者迎撃システム達が一斉に目を覚まし、空中散歩する木舟に連続照射で襲いかかる。
「ひっ!?」
間一髪のところでそれに気がついた操縦士であるかぐや姫が何とか回避するも、侵入者を迎撃せんとする魔力放射の数は徐々にその数を増やしていき無視できないところまで増加していく。
それまでオリジンが制御していた防衛機能の数々が、命令を下す主を失ったことで次々と自動防衛を始めてしまったのだ。
熱放射に当てられて溶け切る床や、砕けて細かくなって飛ぶ瓦礫。
そんなもの達から同乗者を守らなければならないという使命を背負ったかぐや姫のプレッシャーは、形容詞し難いものだっただろう。
きっと、そのままでは瓦礫に当たらなくても緊張でミスを犯し、壁に激突していたかもしれない。
震える両手で舵を取るライダーの手に、結香がそっと自身の手を重ねなければ。
「……マス、タァ……」
「貴女はもう私のサーヴァントじゃないから、もうその呼び方やめて。……そしたら、そう。私もかぐやちゃん、て呼ぶから」
眼鏡の少女の優しげな笑み。
カグヤちゃん、と彼女が呼ぶ人物はもう一人居る。
今はもう会うことができないあの少女は、きっと結香の想い人が助けてくれる。
ならば自分達は此処から生き残り、彼らが安心して笑えるような場所を作ってやらないといけない。
その為に生きないと。
「……うん」
その想いがきっとかぐや姫にも伝わったのだろう。
すぐ側にはこの時代で始めてできた友人がいる。ならば臆することなど何も有りはしない。
舵を握る両手は力強く、その心が迷うことはない。
されど彼女は騎乗兵のクラスで呼ばれど、その本質は騎兵でもなければ舵を取るべき船人でもない。“舟に乗って月へと還った”。それが彼女の伝承であり、彼女が騎乗兵のサーヴァントとして呼び出された要因だ。
故にどちらにしても彼女に優れた運転技術はなく、如何に気力を振り絞ろうと、その回避力にはいずれ限界が訪れる。
数度目の瓦礫を回避をした時、一際巨大な瓦礫が木舟の頭上に降り掛かってくる。
もう駄目だ。誰もがそう思ったその瞬間、巨大な瓦礫は幾つかの小規模な瓦礫へと砕かれ分裂する。
何が起こったかなど木舟の中で身を縮こまらせていた4人は知りもしなかっただろう。
唯一人、瓦礫に踏み潰されるだけの未来を変えた“騎士”と契約していた結香を除いては。
「――ッ!!」
「おい!危ねぇぞ!!」
咄嗟に木舟の窓から顔を外に出そうとする結香をフランが止める。
振り向いた彼女の表情は冷たく凍っていて、何処までも悲痛な表情に、面と向かっているフランさえもその心が徐々に凍っていくのを感じる。
「ランサーさん、が……」
その乾いた声の一言でフランも全てを理解し、彼女もまた木舟の中で振り返る。
置いてきてしまった彼の騎士や、あの勇敢な弓兵のことを思わずにはいられなかった。