Fate/ragnarok gate   作:フーリン式

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後日談
後日談〈その1〉


 

「聖杯が行方不明だと!?」

 

 イギリス・ロンドン。

 魔術師の総本山、時計塔の最高学府の校舎での授業を終え、自室へと帰ってきた長髪の教師が通信機器からの報告を受けて一目散に叫んだ言葉がそれだった。

 名をロード・エルメロイⅡ世。

 時計塔に名を連ねる貴族の一人であり、今時計塔で最も敬服される教授だ。

 彼は自身の魔術の才能の茫洋さとは裏腹に、他者を育てることに秀でていて、時計塔の次世代の魔術師達を調べるとほぼ彼の教えを受けていることが判明するらしい。

 今現在、かなり前の電話機でエルメロイが通話しているのもその弟子の1人で、相手は所謂封印指定を受けている魔術師であった。

 そんな人間が何の配慮もなしに直通回線で電話を掛けてきたことも問題だし、暫く行方を晦ましてからの突然の報告であった為、エルメロイの偏頭痛は頂点に達していた。

 またその報告というのが、頭痛の症状を更に悪化させるもので。

 

『いや、何か。うちの()()が取っちゃったみたいで』

「軽く言うなっ!!貴様、あれがどんなものか解って言っているのか!!?」

 

 普段は冷静沈着という風貌を見たものに感じさせるエルメロイの口調が、僅かに乱れて荒々しさを増す。

 それはかつて彼自身が聖杯戦争という血塗られた戦いに実際にマスターとして参加していることが要因なのだが、電話の奥の弟子はそんなこと預かり知らずに笑い声を上げる。

 

『先生、大声出したら耳が痛くなるからやめてくださいよぉ……』

「大声を出させているのは何処のどいつだ、馬鹿者」

『え?いや俺ドイツに今いませんよ?』

「――――」

 

 その何の責任感もない軽口に、もう一人の頭を悩ませる生徒のことを思い出し、流石に腹立たしさが頂点に達しそうになって電話を切ろうとした矢先に受話器の向こう側に居る教え子は声色をやや変えて本題に入ってきた。

 

『で、先生。協会(そっち)に動きってあります?』

 

 相手の声色から完全に旧知の仲としてではなく、魔術師の教え子としての感覚を読み取ったエルメロイは、背もたれに凭れ掛かりながらやや沈鬱な顔で返答した。

 

「まぁ無い訳がないな。極東の田舎町といえど、魔術戦で町1つが壊滅に陥ったのだ。魔術協会も聖堂教会も黙ってはいまい」

 

 極東の田舎町で聖杯戦争が行われた。

 賞品として持ち出された聖杯は、あらゆる願いを叶えるという万能の願望器という在り方とは――些か掛け離れたものであった。

 周囲の魔力を飲み込み、1つの少世界を創り出す。

 それは平行世界にも属さない、ほんの小さな微弱すぎる世界ではあるが、完全に隔離された自分だけの世界、とも言い換えられる。

 

「何が人類史が終わる、だ。こうも簡単に予想が外れるとなっては、運命卿の名が泣くな。ハヤマ」

『ハハハ……返す言葉もねぇや』

 

 数日前。時計塔を襲った、稀代の錬金術士『サンジェルマン伯爵』を名乗る男のテロ事件。

 かのアインツベルンよりも優れたホムンクルスを造り使役していたあの男の所在を、協会は探究心と威信に掛けて調べ上げたが、結局のところ発見するまでには至らなかった。

 いよいよ封印指定執行者や、不在であった魔導元帥『バルトメロイ・ローレライ』に連絡を取ろうとした矢先、聖杯戦争は終結したとの報告を聞き、それどころの騒ぎでは無くなった。

 魔術協会の精鋭が向かった時には、聖杯戦争の舞台となった喝馬町は壊滅状態。神代のものと思われる毒素が充満し、建物と呼べるものは存在していなかった。

 地面に在るのは二種類の死体だけで、人間かホムンクルスかの違いだけだ。

 人間はさておき、既に息絶えていたホムンクルスを調べたところ、協会の情報に含まれていない構造を幾つか発見。現代の魔術でも十分に実現可能と思われる未知の発見に、魔術師達はさぞ心を踊らせたことだろう。

 数日間の現場検証において解ったことは、生存者が誰一人としていなかったこと。

 喝馬町全体に張られていた結界が消失していることから見て、もし生存者がいたとしてもすぐに逃亡している可能性が高い。

 そう。もし聖杯を掴んだものがいたとしたら、既に逃亡していなければおかしな話だ。

 

「それで、お前の息子とやらは一体何を望んだんだ?」

 

 魔術師でもない子供の願いなど対して興味はなかったが、聖杯戦争に一度は参加した者としてエルメロイは受話器の向こう側の弟子に尋ねる。

 すると弟子は、他人事とはいえ少々口にするのを恥ずかしそうに口籠りながらも、意を決して言葉を吐いた。

 

『いや、なんか、好きな娘ができたみたいで……』

「―――」

 

 悩まし気な弟子の声とは裏腹に、実際頭を痛めたのはエルメロイの方だ。

 偽物や贋作といっても、聖杯と呼ばれる限りはそれは強力な魔術礼装のことを指している。

 そんな魔術師が喉から手が出る程欲している願望機を、よもや一般人がただの色恋沙汰の為に手にしたというのか。 

 世間にまだ関心のある魔術師であるエルメロイはともかく、老齢の熟練した大魔術師達が聞けば心臓発作を起こしかねない。 

 どうせ会話しているのは遠い地に居る人間だと、エルメロイは苛立ちを隠さずに不機嫌そうな面持ちで叱るように言葉を紡ぐ。

 

「それで、お前は自分の息子が聖杯を勝ち取って逃げたから、見逃してくれと?それなら私に言うのはお門違いも良い所だ。ソフィアリ家が黙っていな――」

『ああ、いえそういう話じゃなく』

 

 自分と同じく貴族の家柄の名を出したところでエルメロイの言葉は遮られ、電話の向こうの教え仔は旧知の恩師へ願いを口にした。

 

『女の子を1人、そっちで預かって欲しいんです。それも先生に見て欲しいんですよ』

「?私に誰かの面倒を見ろ、と?これでも忙しいのだが」

 

 そう言いながらも自身が教鞭をとる授業の確認をする辺りがこのロード・エルメロイⅡ世という男の人徳なのかもしれない。

 それを理解している教え子はエルメロイの反応に構わずに願いを口にし続ける。

 

『頼みますよ先生。先生じゃないとこんなこと頼めないんです』

「訳ありか?」

  

 そうではないと恩師にこんな無茶を頼んだりはしないだろう。

 教え子は一瞬だけ口にするのを躊躇ったようにしたものの、その後意を決して事実を告げた。

 

「――!……なるほどな。解った。しかし長くは見てやれない。才能を開花させるかは、その女次第だ」

『ありがとうございます。先生』

 

 誰とも知らず、此処に時計塔随一の教師に教えを受けられるラッキーな新たな入学者が誕生した。

  




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本日の15時。
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