たまたま散歩していた森で真っ白い人魂と会い、導かれるように森の奥へと連れてこられた妖牙だったのだが、そこには巨大なクレーターが開いていた。飛ばされた木やクレーターの跡を見ると、古いものではなく最近できたものに見えた。地は割れ、木片が散らばり、弾幕を撃ち合ったのか、そこらの岩や木々に弾幕で焼けた痕跡がくっきり残っている。
でもこんな巨大クレーターができるほどの弾幕を撃ったとすれば一大事だが、そんな地形がおかしいとかを言っている場合でもなかった。
クレーターの真ん中に、白髪の少女が倒れている。人魂はその少女を気にするように素早く飛んで行きそいつの近くで止まった。
妖牙「お、おい!大丈夫か!?」
焦った妖牙はすぐさま少女に近づこうとしたが、クレーターで目の前が谷の様に深かったため、一端自分を落ち着かせてから翼を広げ飛んで行った。
クレーターの奥深くまで来てみると、もう人間用蟻地獄のみたいに見えてくる。ここまで深いと、翼なしで這い上がるのは難しいと思ったが、身体能力が高ければいけなくもない、地面の表面が固くひび割れているから足をかけて登れば良いのだろう。
底に降りた妖牙は少女に駆け寄り脈を確認するため手首に触れた。脈は異常ないみたいで息もしているようだが、皮膚がズタズタになっているむごい姿を長くは見ていられない。
妖牙(周りのことは後だ!とにかくこいつを早く手当てしないと!)
妖牙はその少女を抱き抱え、すぐにその場から飛び立ち博麗神社へと急いだ。そのときに少女が気になるのか、人魂も妖牙に付いてきた。
霊夢「もう、妖牙はどこに行ったのよ。」
既に霊夢は食事の用意を済ませて妖牙の帰宅を待っていた。
チルノ「もういいじゃん、先食べちゃおうよ。」
ルーミア「もう少し待ってみるのかー。」
チルノとルーミアもさりげなく食事にありついていた。
霊夢は二人の記憶が戻ったことだし、別に泊まって行っても良いと言って家に残していた。
霊夢「ったく、しょうがないわね・・・ん?」
待っていても目の前のちゃぶ台に置かれているご馳走が冷めるだけだし、待つのはあきらめて先に食べようとしたとき、霊夢の耳に聞き覚えのある羽音が聞こえてきた。
霊夢「あ!妖牙遅い!もう食べ始めてるよ!」
妖牙「そんなことより、こいつを見てくれ!」
そう言って傷だらけの少女を縁側に下ろした。
霊夢「え、よ、妖夢!!何でこんな怪我を!?」
妖牙「説明は後だ!早く手当てを!」
妖夢を急いで手当てし始める二人を見ながら呆然としているルーミアと平然と箸を進ませているチルノであった。
妖夢の体は大量ながら一つ一つ強力な弾幕を雨のように浴びて、エネルギー弾のはずなのにまるで切り傷のような深い傷が体中に刻まれていた。
とりあえず妖夢の体はミイラのように包帯だらけになり、隣の部屋に寝かしておいた。人魂は一向に起きない妖夢の近くにとどまっていた。
妖牙も気になっていたが、さすがに腹の虫が鳴いたため、まだ冷めていないキノコと山菜の混ぜご飯を食べ始めていた。チルノは妖夢があんなことになっているのにも関わらず、米一粒残らず平らげてその場で寝てしまっていた。ルーミアもチルノに釣られたのか完全に食べきっていた。妖牙も霊夢もチルノたちのことを無視して食べているが、やっぱり妖夢のことが気になって食事もあまり喉を通らなかった。
妖牙「・・・大丈夫だろうな。」
霊夢「ええ、妖夢ならあのくらいの怪我どうってことないはずだし、もうすぐ目が覚めるって。」
霊夢の言う通りだ。地面に大穴が空くほどのエネルギーを喰らって生きている奴なら、治療さえすれば目を覚ますだろう。
妖牙「そういえば、あの妖夢って奴が居たところがとんでもないことになっていたんだが、霊夢何か知らないか?」
霊夢「さあ?強いて言えば、最近近くの森で轟音が響いたぐらいだけど。」
妖牙「その轟音!何か知らないのか!」
霊夢「いや、そのときはいつものように誰かが弾幕勝負してたんじゃないかって思ったから。今思えば結構強いスペルでも使ったのかもしれないわね。」
妖牙「そうか、やっぱり誰かと勝負してたのか。」
しかし、あんなに傷だらけにする必要は無いと思う。
もしかすると、チルノのように軽い気持ちでやったのではないのかもしれない。あのクレーターも、軽い力で作り出せるものではなさそうだ。チルノのようにあまり強くない奴から、その地形を簡単に戦場に変えられるような危険な奴もいるのかもしれない。
妖牙(だとしたら、俺もいつかそんな奴にあう前に戦力を・・・って)
妖牙「・・・あれ。あの、今さっき言ってたスペルって何?」
霊夢「え。妖牙はスペルカード持ってなかったの?」
だからスペルカードって何だと言いたくなった。弾幕勝負で使う物らしいが、それが戦力になるものならあって困ることはないだろう。
妖牙「なあ、そのスペルカードっての俺用のも作れるか。」
霊夢「うん、別に今からでもつくれるわよ。どんな物がいいか考えれば?」
そう言われて目の前のちゃぶ台に肘を乗せて、どういう戦力が欲しいか考え始めた。
妖牙「うーん、ちなみに霊夢のスペルカードはどんなやつなんだ?」
いきなりスペルカードという後に影響しそうな物を自分の考えだけでまとめるのも怖いし、幻想郷に長く居る霊夢に聞いた方が、なお良いと思ったからだ。
霊夢「私のは色々あるけど、まあやっぱり「夢想封印」ね。色鮮やかな弾幕が、相手を追尾して攻撃する!といった感じかしら。」
妖牙には見たところ穏やかそうな霊夢が、そんなえぐい弾幕を撃ってくると思うとかなり意外に思える。というか、妖牙の前でチルノやルーミアが使った技もスペルカードだったと今気づいた。
妖牙(「パーフェクトフリーズ」に「ムーンライトレイ」、「夢想封印」か。結構バリエーション豊富なんだな。)
自分で考えた物がそのまま技となるから種類豊富なのは当たり前だが、それでもチルノが弾幕を凍らせたように、ルーミアが弾幕と共にレーザーを撃ったように、ただの地味な銃撃戦ではなく、互いの技を見ながら勝負すると思うと少しだけ楽しく思えてきたまだ見てないが霊夢の「夢想封印」も良いスペルなのだろう。
霊夢「あ、言っとくけど。自分の能力に関係しなきゃだめだからね。」
妖牙「大丈夫、何となく気づいてるから。っていうかどうやって作るの?」
三人のスペルにはこれといった共通点は無いから、自分の能力に関係するようにして結局思うがままに決めてしまった。いつのまにか戦力よりも、自分が満足するスペルにしていた。もしチルノやルーミアに会わないままスペルを決めていたら、妖牙は完全に力しか見ていなかっただろう。そのことを思うと妖牙も安心して久しぶりに良いため息をついた。
霊夢「えっとまず、自分の意識を集中する。」
そう言われ何となく正座をして目をつぶった。緊張の瞬間に妖牙は、
妖牙(こういうことした後って必ずめまいがするんだよな。)
・・・どうでもいいことを思っていた。それより霊夢が次のことを説明し始めた。
霊夢「それで、あんたが考えていたスペルを思い浮かべる、その後に何か感じたら成功よ。」
妖牙の頭の中に一つのスペルが思い浮かんできた。それは妖牙の「物質を変化させる程度の能力」を元としたスペル。
使うと妖牙の真上にある雲と敵を触らずともネオジム磁石に変化させ、弾幕が追尾するかのように敵に落とすスペル、ネオジム磁石という世界で一番強い磁石をさらに何キロ離れていても飛んできてしまうほど強くして、互いをぶつからせる技。
その名は、ネオジムと雲の英語クラウドをむりやりくっつけた「ネオズンクラウン」というスペルだ。妖牙はそのスペルを思い浮かべ、それを実現させるために必死に念じた。
妖牙(俺にもスペルを!強くありながら、特殊な力を!)
そう願っていたとき、妖牙の中から何か温かい物を感じた。それはだんだんと妖牙の中から溢れだしていき、最後に一気に温かさが凝縮されて少し胸が熱く感じたが、そんな感じの物はすぐに無くなってしまった。
妖牙「・・・成功したのか?」
霊夢「何か温かい物を感じたのなら。」
妖牙(そうか、これでOKならいいや。)
正直、能力を手に入れたときのように叫びたくなるほどうれしかったが、隣で怪我人が寝てるし、そもそも夜中にうるさくするのも迷惑になりそうだから控えておいた。
妖牙「とにかく、スペルも手に入ったことだし一回寝るか。」
霊夢「そうね、明日になったら能力を確認しようか。」
妖牙「だな。」
そう言って布団を敷こうとしたとき、隣の妖夢が寝ている部屋から人魂が出てきた。ただ、隣の部屋と居間の間に扉があるのだが、人魂らしく難なくすり抜けてきた。
妖牙「うわっ!びびった~、ったくなんだよ。この人魂はさっきからもう・・。」
霊夢「妖牙、それは人魂じゃなくて半霊だから。妖夢の半分だから。」
妖牙「半分って・・、つまり妖夢は既に半分死んでるのか?」
霊夢はこくりとうなずいた。
それよりも半霊の様子がおかしい。半霊はさっきのクレーターのところにいたときみたいに、携帯のマナーモードのようにぶるぶると震えている。でも妖牙には半霊がこうやって反応するとき、何を伝えたいかが少し分かっていた。
妖牙は立ち上がって妖夢のいる部屋の扉を開けた。そこには既に目を覚ました妖夢が息づかいを荒くしながら何かを探していた。
妖牙「?おい、お前が妖夢か。」
そう訪ねるようにして妖夢に近づこうとしたとき、妖夢の目線がこちらに向いた。妖夢は妖牙の全身を細かく見始め、腰辺りを見ているときに目つきが変わった。妖牙の腰には森の奥で刺さっていた剣がある。持ち主が誰か分かるまで持っているつもりだった。
妖夢「・・・お前か。」
妖牙「?」
妖夢「お前か、私の楼観剣を盗んだのは!」
そう言って妖夢の右の腰から剣を抜き出し、何も言わず妖牙の肩めがけて振り下ろしてきた。
しかし剣がたまたま部屋の扉に引っ掛かって威力が弱まり、何とか直撃は避けたが、それでも妖牙の肩に剣の先が通り、肉が裂けて血がどろどろと流れ落ちてきた。
妖牙「痛っ!!」
例え直撃じゃなくても刃物にあたれば痛い物は痛い。
なぜかそのとき切られた肩から黒い煙が出てきたが、目の前の血の付いた剣を持っている少女に気を取られて気づいていない。
霊夢「妖夢っ!何するの!!」
妖夢も肩を切られ床に倒れ込んだ妖牙に気を取られて,隙ができたところを霊夢に取り押された。
妖夢「放せっ!!こいつが私の楼観剣を盗んだんだ!!」
妖牙「ちげーよ、これはたまたま刺さっていたやつで、持ち主に返そうとしてただけだ。」
妖夢「・・・え?」
妖牙「ほら、お前のなんだろ。返すよ。」
妖牙は腰の剣を抜いて妖夢に差し出した。妖夢は次第に落ち着きを取り戻すと、楼観剣を返してもらい、左の腰に差した。
妖夢「・・・ごめんなさい。痛くないですか。」
と、今さっきまでとはまるで違う口調で無事かどうか聞いてきた。
妖牙「ああ、大丈夫だ。ちょっと痛い程度だよ。」
そう言って切られた肩を確認した。血はしばらくすれば止まりそうだが、それよりもなぜか傷口から黒い煙が大量に出てきて、外でそれが固まっていた。
妖牙「なんだ!?」
やがて傷口から煙が出なくなり、固まった煙が形を変え始めた。それは腕と足を生やし、人間のような姿をした生物になった。だがその生物にはその場にいる三人には見覚えがあった。それは真っ黒い肌をして目が充血して赤く、コウモリのような翼が生えた人のようだが、その顔は妖牙そっくりだった。
?「・・ヒヒッ。」
それは悪そうな笑みを浮かべてこちらを睨んでいる。妖牙にはまるで鏡を見ているようで、肩の痛みも分からなくなるほど不気味な時間だ。
妖牙「おい!お前は誰だ!答えろ!!」
妖牙がそいつに質問を投げかけたが、ただそいつは、こちらを見てただ笑っているだけだ。
しばらくしてそれは後ろを振り返って、一言だけ妖牙に伝えた。
妖魔「フヒヒッ。・・・妖魔。」
妖牙「妖魔?」
妖魔と名乗ったそれは、それだけ言って森の奥へ消えて行ってしまった。