幻想郷物語 ~記憶の章~   作:妖牙=飴んぼ

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第十三幕 流れ者の怪物

博霊神社から森を見た時はただ多くの木々が地平線まで続いてるように見えたが、ここ妖怪の山は違う。森の中にたたずむ巨大な山、そこから流れ落ちる滝でできた長い川、そして妖牙達の目の前には大きな湖が広がっていた。

 

 

妖牙「久しぶりの青だな、なんか泳ぎたくなってきた。」

 

 

霊夢「ちょ、ちょっと、まだ行かないの。いつもならいいけど、今は異変真っ最中なのよ。」

 

 

目の前には目的地がしっかり見えてるのだが、妖牙達のいる場所はまだスキマの中だ。今は、スキマの隙間から紫が上半身だけを出して山と湖の様子をうかがっている。記憶が消えてる奴に多人数で見つかったら大変という事で、安全が確保されるまでその場から動くなと紫は言った。

 

 

紫「でもあれね、いつもなら空には一匹ぐらい天狗が飛んでるはずなのに、今日に限って一匹も飛んでないわね。」

 

 

?「確かに最近は天狗さん達の姿を見なくなったね。前は翼の音がこの黒穴の中まで聞こえるほどいましたから。」

 

 

紫「そうそう。本来なら飛んでる天狗らの様子で判断しようと思ったけど、仕方ないから河童にでも聞いてみるかしら。」

 

 

?「さっき私も河童に今の事を聞こうとしたのですが、何やらおびえるようにして湖の奥に入ってしまいました。顔合わせはしているのですが、なぜなのでしょう?」

 

 

紫「まさか河童も?そしたらここらの妖怪皆記憶がないのかしら。厄介ね。」

 

 

妖夢「紫さん、さっきから誰と話してるのですか?」

 

 

紫「へ?」

 

 

紫がふと気づき声のする方を振り向くと、スキマの横に同じような穴が開いていて、そこから紫と同じ体勢をとった何者かがいた。男の顔は黒のフードに隠れていて見ることができないが、深い青色の神父服を着た男は笑みを浮かべていた。

 

 

紫「うわっ!あんた何者!?名前は!?」

 

 

?「名前・・・ああ、残念だが教える事はできませんよ。」

 

 

紫「っ!なんでよ?」

 

 

?「教える事ができない、そう言った方が正しいかも知れませんね。自分の名前など五十年も前に忘れてしまいましたから。強いて呼んで頂けるのなら、そのまま「神父」とお呼びください。」

 

 

紫「忘れたって、あなたは妖怪でありながら五十年間で名前を忘れるほどボケているのかしら。」

 

 

神父「ん?私はあなたにいつ妖怪と言いましたか?」

 

 

妖牙「ちょっと紫どいて。」

 

 

横から話を聞いていた妖牙がスキマから這い出してきてフードの男を顔を合わせた。

 

 

紫「ちょ!まだ出ては駄目だって!敵がいるかもしれないわよ!」

 

 

妖牙「お前の声音が大きすぎるから、周りに何かいたら既に手をうってるわ。そんな事よりお前は妖怪じゃないのか?」

 

 

神父「はい。私が人間であるのは確かです。」

 

 

妖牙「なんでそんな事がわかるんだ?」

 

 

神父「はっきり言って私が人間であると決めつけられる証拠はありません。しかし、私には分かるのです。私は人間だったと、こことは別世界で生まれ、誰かに愛されていたと。」

 

 

霊夢「そうなの?」

 

 

神父「はい。でも、ここに来て何週間かしてから、この湖に住む河童さんに人間がこの世界に転送される仕組みを聞いたのです。」

 

 

霊夢&魔理沙&妖夢&紫「・・・。」

 

 

妖牙「どうした皆?」

 

 

?「あなたは知らないのですか?この世界に他の人間から転送される仕組み、それは・・・周りの者達から忘れ去られること。」

 

 

妖牙「!?」

 

 

霊夢「妖牙は森の中の光に飲まれたのよね、でも神父さんは幻想郷に人が迷い込むいつものケースと同じ。私なら迷い込んだ人間を元の世界に返す事もできるのに、何で早く相談しなかったの?」

 

 

神父「・・戻る気などございません。私はこの世界で生きる事を決めたのです。」

 

 

霊夢「何で!?」

 

 

神父「ここに来たという事は、私は周りから忘れられたという事ですよね。そうなら戻る必要はないです。だから私は五十年もの間、湖の横でこの黒穴の中で時が流れる様を見てきました。私が年をとり、姿を変えながらも、なるべく姿を隠してこの世界を知ってきました。前の世界の事なんてほんのわずかしか覚えていません。」

 

 

妖牙「・・・神父。」

 

 

神父「良いのです。これで、これで・・。」

 

 

紫「・・・・あなt[椛]「うわああああああああああああ!!」

 

 

皆「!?」

 

 

紫が語りかけようとした時、山の上から一匹の妖怪が叫びながら湖に落下していった。そして、落ちていく時にその妖怪の手から離れて地面に突き刺さった剣を見て理解した。

 

今、絶叫しながら落ちたのが訪ねようとしていた白狼天狗だったという事を。

 

 

魔理沙「椛!?」

 

 

妖牙「い、今のがか!」

 

 

妖夢「助けないと!」

 

 

妖夢がその場から走り出し、椛の落ちた水源へと走り出す。そのとき紫の目に山の上から降りてくる何者かの姿を捕らえた。

 

 

紫「! 妖夢!行っては駄目!何か来る!」

 

 

妖夢は紫の言葉を聞き、椛が落ちてきた崖を見上げると、そこには山の側面を垂直に駆け降りてくる赤い何かが見えた。それは壁を蹴って宙を舞い、妖夢の目の前辺りで着地した。危険を察した妖夢はすぐに下がり腰の楼観剣と白楼剣を抜き出し、相手の姿を確認する。そして妖夢とその場に居た全員がそいつの姿を見て驚いた。

 

そいつは茶色っぽい髪に赤いパーカー、白いズボンの妖牙と同じくらいの人間だった。これには場の妖怪ら全員にとって驚愕の光景だったが、一番驚いたのは妖牙である。

 

目の前の人間は妖牙のように現代の服を着ていたからだ。この幻想郷では前の世界とは違って普通の服を着ている人がいない。だから現代日本の若者のような人間がここにいるだけで驚いていた。

 

 

妖夢「あ、あんた。本当に人間なの!?」

 

 

パーカー「え?人間かって?」

 

 

妖夢「あんたの運動神経はどうみても人間ができる事とは到底思えないんだけど。」

 

 

パーカー「はあ、なるほど。人間はこんな事もできないのか。教えてくれてありがとよ。」

 

 

そいつはそう言って椛の剣が刺さった場所まで行き、それを抜き取った。

 

 

パーカー「ほう、まあまあな物だな。まあ、脅す程度なら十分か。」

 

 

独り言の様に話して、そいつは今来た絶壁を登ろうとする。だがそうはさせないと言わんばかりに霊夢と魔理沙が道を塞ぐ。

 

 

妖牙「俺と妖夢が湖から椛の奴を引っ張り上げる!霊夢!魔理沙!そいつは頼む!」

 

 

霊夢「端から分かってるわよ。」

 

 

魔理沙「ここは通さないぜ!お前には聞きたい事がいくつかあるからな!」

 

 

敵が二人も立ちはだかっているのにも関わらず、そいつの顔には少しの笑みが浮かんでいる。

 

 

パーカー「・・・へえ、通してくれないのね。分かった分かった。」

 

 

それらの行動を見ていた紫の隣で奴の顔を見て何を悟ったのか、神父は出していた上半身を黒穴の中へと引っ込める。

 

 

紫「ん?どうしたの?」

 

 

紫がそう聞くと神父は焦りながらも、

 

 

 

 

 

神父「正気を保っていたいのなら身!いや目を隠せ!!!」

 

 

 

 

 

そう言ってすぐさま黒穴の入り口を閉じた。紫は神父の焦りようを見るに、何かが起こると感じ、パーカーを着た奴から目を背けてその場にしゃがみ込んだ。

 

 

 

 

 

そして、その後すぐに、今の行動が正しかったと実感した。

 

 

 

 

 

パーカー「・・・じゃあ、出ておいで。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奴が「出ておいで」と言って指を鳴らした瞬間、霊夢と魔理沙は何かの生物の姿で視界を遮られていた。その生物の体は日を隠すほどとてつもなく巨大で毒々しい体色をした爬虫類のような物だった。その場に二本足でたっている生物の背中には小さなコウモリの翼のような物も付いているが、とてもその巨体を宙に浮かべるほどの物ではないと目にとれる。

 

恐ろしい、その一言で済むものではないが、この怪物を見てからの第一声はそれしか出ないだろう。しかしそれを二人は発言していない。あまりの恐ろしさに絶句し、吐き気とめまいが訪れた。今まで何年もこの幻想郷を見てきた二人も、ここまで禍々しい怪物を見た事はなかった。二人はまるで石になったかのように、何も言う事はできなかった。

 

それは紫も同じだった。しゃがみ込んだ紫には、その怪物の影しか視界には映らないが、それでも怪物から恐怖を感じ、頭を上げる事ができない。

 

水中の中で倒れている椛を救出した妖牙と妖夢が、水面から顔を出そうと試みたが、水中の中からも怪物のシルエットは見え、動くことはできなかった。

 

この時、皆は思った。

 

この怪物はこの世界に居てはいけない者であり、今までにない恐怖を感じさせる怪物である事を。

 

 

パーカー「じゃあ俺はこれで、まったねえ!w」

 

 

皆が固まっている間にパーカーの男は山を駆け上り自分たちのいる地点からは奴を見ることはできなくなった。そして、怪物は自分の役目が終わったかのように、その巨体を小さな翼で持ち上げ、空の彼方へと姿を消した。怪物が消えてもその体をはっきりと見てしまった霊夢と魔理沙からは恐怖が消えない。霊夢はその場に崩れ落ち、魔理沙は森に響くほどの叫び声を上げた。

 

 

 

魔理沙「うわああああああぁぁぁぁぁっぁぁぁっぁああああぁあっぁあああ!!!」

 

 

 

途中、喉がかすれて声がしっかり出なくなりながらも、魔理沙は叫ぶ事を止めない。その叫び声を聞いて水中から椛を連れて戻ってきた妖牙は皆が恐怖に震えていて、まるで地獄の門の前にでもいる気分だった。誰もが地獄に突き落とされる前に恐怖という名の恐怖を体から放出したいと願っていた。それは妖牙も例外ではない。シルエットしか見えなかった妖牙も手足が恐怖で震えて止まらない。

 

 

 

 

 

神父「お前らああああああ落ち着けえええええええええええ!!!!」

 

 

 

 

 

皆「!?」

 

 

声のする方には黒穴から出て自分たちに呼びかけた神父の姿があった。

 

 

神父「あの怪物はもういない!だからお前さんたち、もう安心しろ!もう怪物はいない!」

 

 

魔理沙「はあっ、はあああっ、はあっはっ・・・はあっ・・」

 

 

紫「・・・あ、あんたのおかげね・・・あ、ありがと・・ね・」

 

 

神父「礼には及びません。そんなことよりまずい事になりましたよ。」

 

 

妖牙「まずい事って?」

 

 

神父「・・・まずい事ですよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖怪の山の頂上。ここには一つの神社が建てられているのだが、今は怪物の姿に圧倒されている二人と、剣で脅しながら一人の緑髪の巫女を抱え込んでいるパーカーの男の姿があった。

 

 

?1「スペルカード発動!「アンリメンバードクロップ」!」

 

 

?2「スペルカード発動!「水眼の如き美しき源泉」!」

 

 

二人は怯えながらもとんでもない量の弾幕を怪物に与えるが、それらの弾幕はすり抜けるかのように怪物の体の向こう側へ飛んで行く。もちろんダメージは入っていないだろう。

 

 

パーカー「これで一人・・・か、本当に教えてくれるのか?あいつは・・。」

 

 

?1「おい!お前!!」

 

 

パーカー「あっと、もう行かないとな。じゃあ巫女は頂いて行きますよ、神様達。」

 

 

そう言って男は巫女を担ぎながら山を駆け下り、森の中へと消え、それと共にいつのまにか怪物も姿を消していたのだった。

 

 

 

?1「っく!早苗――――!!」

 

 

 

その神の声は巫女に届きはしなかった。

 

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