気がついた。
白く広い空間の中に、ただぽつんと妖牙は立っていた。寝ていたとかそんなのではなく、いつのまにかここに立っていたのだ。
終わりが無さそうな地平線の彼方まで何も無い、不思議な場所である。
「・・・あれ?俺、何でここにいるんだっけ?」
今覚えていることといっても、京都の竹林の中で巨大な穴から零れていた光に飲まれたことぐらい。何があってここに突っ立っているのかは何も覚えていない。
・・・ついでに荷物が無くなっているため少し不安になってしまった。恐らく、竹林の中でびしょぬれにでもなっているだろう。
(携帯とか財布とか入ってるから、盗まれなければ良いんだけどな・・。)
自分の今の状況より金目のものが盗まれるかどうか、正直どうでも良いことを考え込んでいたとき、どこからか誰かの声が聞こえてきた。
(・・ソナタノモトメルチカラハ、ナンダ?)
いきなりの出来事に妖牙はあせり振り返って見たが誰もいない。視界にあるのは真っ白な世界、妖牙の他にはちりひとつ転がっていない。
「誰だ。どこにいる?」
落ち着いて冷静に問いかけてみるが、声の主はこちらの質問には答えず話を続けている。
(・・ドンナチカラデモイイ。イッテミロ。)
その何者かは質問に答えず、妖牙が求める力とかをしつこく聞いてきた。
このとき妖牙はふと、あることに気づいた。この声をすでに聞いたことがある、夢の中でだ。
あの夢で何か話してきた声によく似ている。そう思って、また何者かに問いかけた。
「なあ、お前以前どこかで会ったりした?」
「・・・モトメルチカラハ、ナンダ?」
(こちらの話も聞けってのに。でも力?何を言ってる?このまま黙っていても話が進まないし・・。)
「じゃあ、物質を変化させる力かな。」
よく、学校の授業中にふと妄想の世界に入ってしまい、自分が何かそこら辺の石がダイヤとかに変えられたら・・、とか思ったからそれにした。それが叶ったらもう大金持ちになれる。
(・・・税金多く取られそうだな。)
今考えなくてもいいことを勝手に考え始めてしまった。こうなるとなかなか考えるのを止めないのだが、そんな常識的な事を心配する前に、妖牙は自分にとって夢のような提案を出したかったので、考えるのを止めて伝えてみた。
「あ、できれば羽もつけてほしい。黒い鳥の翼みたいなやつ。」
そういう力が使えるのであるなら見た目もそれっぽくしたかった。妖牙の中では一年中黒がラッキーカラーであり、私服はほぼ毎日黒ばかりである。ちなみに今の服装も黒のジャンパーに黒のズボンを履いている。つまりそれほど黒という色にこだわっていて、翼もカラスのような立派な物が欲しかった。
本当に力とやらが使えるのかは怪しいところだが、自然と現実逃避し始めたため使えようが使えまいがどうでも良くなっていた。
小さい頃の記憶に「怪しい人にあったら逃げなさい。」と親に常々言われたことを思い出し、余計に心配になってきた。
(・・ヨロシイ。ソナタノセニ「クロキツバサ」ヲ、ソシテ「ブッシツヲヘンカサセルテイドノノウリョク」ヲ)
(いや、程度って。十分便利な能力だろ。)
そう思っていたとき、目の前にまたあのときの光が現れて飲み込まれていく。
光はあの竹林で漏れていた物より強く、ゆっくりと妖牙との距離を縮めてくる。
意識が無くなる直前で謎の声が妖牙に告げた。
(・・デハ、イクガヨイ。ワスレラレタモノタチガツドウバショ「ゲンソウキョウ」ヘ!)
「・・・幻想郷?」