風の音が聞こえる。
強くも優しい日差し、それをカバーするかのように木々がかぶさる。自然の中の自然とでも言えるような雰囲気だ。
緑色のふかふかの芝生に倒れていた妖牙の意識が戻った。
「・・・こ、こは。」
状況を確認しようと起き上がろうとしたとき背中に違和感を覚えた。
気になり背に手を延ばすと指先に羽のような物が触れた。翼だ。黒くて少し大きめの翼が付いている。それはまるで、あの時に頼んだような翼が背中に生えている。
「・・・え?マジで?」
これが注文通りの翼なら動かせるはず。ためしに背に意識を集中して見るとすぐに翼が上下に動いた。羽ばたくような動作をしているようで、もう少し意識をすれば簡単に飛べるだろう。
(あいつがしたのか?ってことは能力の方も・・。)
妖牙が謎の声の主に望んだのは「物質を変化させる程度の能力」だ。これが使えるのであれば妖牙は周りから超人扱いされるだろう。
(その前に黒く染まった翼の生えてる人間という時点で化け物扱いになるかもしれないが。)
妖牙が倒れていたのは芝生があったから草原か野原にでもいるのかと思いきや、木々ばかりの森の中、細かくいうとその一本道の端に倒れていた。
とりあえず立ち上がり、近くにあった木に手を触れた。
(魔法使いっぽく呪文でも言えばいいのか?)
そう思い、そうっぽく言ってみた。
「物質変換術-砂!」
そのとき、手の触れた部分の色が変わっていき数秒で砂となっていく。あまりの出来事に驚愕し、元は葉であった砂の雨の餌食となった。少し口に入った。
「おえっ。げはっ。」
砂を吐き出し目の前の元は木だった砂の塊につばを飛ばし目を輝かせた。
「力・・・。本当に!」
興奮した。普通の人間では絶対不可能な能力を手に入れられたのだから。もちろん良い意味で。
そして妖牙は背に、いや黒翼に意識を集中し飛び立った。
地面を蹴った瞬間、風を切って、今まで経験したことの無い速さで上空に上がった。そしてそこから見える景色に驚きを隠せなかった。ビルや道路など現実的な人工物は何一つなく、山、川、森など豊かな自然が溢れている。まだ生物は見てないが、これほどの自然だ、必ず何かいるはず。この世界を見て妖牙は確信し、こう呟いた。
「ここが幻想郷か。・・良いところだ。」
良い風が吹いている。
美しい景色に見とれている時、遠くに神社らしき物が見えた。もしかすると、人がいるかもしれないと思った妖牙は、すぐさまその神社に飛んで行った。
近くの川が凍りつく、妖牙の後に何かが付いてきたようだ。