幻想郷物語 ~記憶の章~   作:妖牙=飴んぼ

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第三幕 幻想郷の巫女

馬鹿みたいに暑くて妖牙の髪と翼は色の関係上熱くなっている。飛んでいた時は風の影響で涼しく思えていたが、地上に降りると気温がどれだけ高いか嫌になるほど分かる。森にいたときあまり暑くなかったのは、木々の葉が重なり合って日光が遮断されていたからっぽい。

 

飛んでいるうちに何となく使い方も分かり、地上に下りた後黒翼は背中に吸い込まれるようにしまえた。消えた所には黒い入れ墨が入っているかのように黒い痕ができた。また意識を集中すればすぐ出せるだろう。

 

自然豊かなこの地で、緑ばかりある中に神社らしき建造物が見えたので来てみたのだが人の気配がない。これだけ静かな神社は妖牙の経験上初めて見たかもしれない。たくさんの見物客で賑わうどころかふざけて入ってきそうな子供の声一つ聞こえない。

 

だからと言ってしばらく人の手が加わっていないわけでもないみたいで、鳥居から本堂にかけて枝や葉があまり落ちていない。まるで誰かが隅々まで掃除した後のようだ。

 

ちなみにさっきまでいた森と逆方向に鳥居がある。

 

 

「とりあえずお参りしていくか。」

 

 

ここに来る前から財布の入った荷物はすでに無くしているため金はあまり持っていない。だがたまたまポケットに直で入れていた百円玉があったためそれを投げ込んだ。賽銭箱の中に「チャリーン」と金の落ちる良い音がした。

 

別になけなしの金を使う必要性はなかったのだが、この状況で金を使う場面はなさそうだし、もしも帰れたら大金持ちになれるんだからケチる必要はなかった。

 

願い事の方は、もう力を持ってしまったから本当に今願うことと言えば、

 

 

(この世界、幻想郷がどういう場所か分かりますように。元の場所へ帰れますように。)

 

 

今の状況では到底不可能な事だが、分からないことは神頼み。そういうものだ。

 

 

(・・・この世界で人と会えますように。)

 

 

森でもこの神社でも、いつもの町では必ずと言っていいほどたくさんの観光客や参拝客であふれ返っていたのに、こうして人が誰もいないと少し寂しくなってくる。

 

 

(誰でもいいから。頼む!)

 

 

そう願った時、本堂に繋がる住居らしきところから、何かがものすごい速さで迫ってきた。その生物は四足歩行で真っ赤に染まったGのような感じだ。それが目の前の賽銭箱に向かって突き進んで来た。

 

 

「え!?やばっ!とにかく武器を!」

 

 

武器と言っても足元に落ちていた二十センチほどの木の枝ぐらいしかない。これだけじゃ、あのUMA的な奴を叩くのはとてもじゃないがきつい。

 

 

「くそっ!何か他に・・・あっ!能力能力!物体変化術-鉄!」

 

 

すると枝はすぐに鉄の棒へと変化を遂げた。ただあの時のように木を砂に変えたのではない。砂になった場合は木の形を保てなくなり地面へ落ちたが、枝の形状は鉄になっただけで枝の先など所々尖っている部分がある。これを直接あのGっぽい生物に刺したらと考えるだけで寒けがした。

 

それでもあれが害のある生物ならば排除しなければならないと思い、いつでも刺せるように素早く身構えた。

 

そいつが目の前の賽銭箱に飛び乗った。妖牙はにじみ出る恐怖とそいつを刺さなければならないという意識がかみ合い、鉄の枝を振りかぶりそいつの背に向かって勢いよく振り下ろした。

 

だが枝が生物に刺さる直前で妖牙はあることに気づき手を止めた。

 

その生物は人間だったのだ。

 

黒髪の若い女性で頭に赤いリボンに白い袖、肩の出た赤いワンピースのような物を着ている。

 

ただその女性はこちらに目もくれず賽銭箱の蓋を開け、今さっき入れた百円玉を取り出し満足げに笑った。

 

 

「あのー、誰ですか。」

 

 

とりあえず敵ではなさそうなので、持っていた枝を投げ捨て恐る恐る話しかけてみた。

 

 

「あ!あんた参拝者!?」

 

 

「え!?あ、はい。ちなみに名前は妖牙。」

 

 

(参拝者が来るだけでこんなにテンションが高いものか?)

 

 

「妖牙?ありがとうね!お賽銭!」

 

 

たった百円賽銭入れただけでこんなに感謝されたのは初めてだ。普通の神社だったら、そこら辺の人が無言でお辞儀をするレベルなのに。

 

 

(何で?何でそんなにやさしいんだ?)

 

 

別に優しくしてくれない方が良いってわけじゃない。そもそもさっき「人と会いたい」とは願ったけども、さすがに叶うのが早すぎだし、ほんの数分までは静かだったのにこの人が来てから笑い声が響いている。

 

でも、その疑問はすぐに解けた。開けっ放しの賽銭箱の中を除いてみたら、さっき取り出した百円玉以外一円も入っていない。たぶん周りの雰囲気を見る限り、何らかの理由で他の参拝者が来ないのだろう。

 

 

「えっと、で誰?」

 

 

「あーごめんごめん。まずここは博麗神社。」

 

 

「博麗神社?」

 

 

「うん。そして私が博麗神社の巫女、博麗霊夢よ!」

 

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