なぜか今まで見てきた能力の名が書かれている本「キオクノカケラ」を見つけた妖牙は、霊夢やチルノと共に本堂の横の居間で休んでいる。
霊夢は色々と疲れた関係でぐっすりと眠っており、その隣でチルノは霊夢のおごりのかき氷を休まず食べ続けている。やっぱり氷の妖精だからこの猛暑はきついのだろう。熱中症対策と言えばかき氷を食べるのはいいと思う。(後で頭がキーンとなっても知らないが)
妖牙はさっき拾った「キオクノカケラ」を読み返していたが、やはり書かれていたのは能力名が三個あるだけであった。
「・・・やっぱこれ、意味分からん。」
書かれている能力の共通点と言えば、妖牙が今までに見たことのある能力ということ。妖牙と霊夢にチルノ、それぞれが持つ能力が記されているのだが、なぜそれがこの本に記されているのか、そして何の意味があるのかは分からないままであった。
(考えてもわからん。・・・一回休んでから考え直すか。)
ずっとヒントも無い状況で考えても結論は出てこないし、この蒸し暑い中長い間考えていた時にふと後ろを見たら、まだチルノが練乳のたっぷりとかかったかき氷を食べていたので食欲が沸いた。妖牙は立ち上がりチルノに氷が余っていないか聞いてみたが、
「え?氷はもう無いよ。あたいが全部食べたからな。」
そう言って暑さで溶けた水とシロップの混ざったジュースのような物を飲み干し喉を潤した。まあ何となく気づいていたが、妖牙が本のことを気にしている内に相当な量の氷を食べてしまったようだ。チルノは満足げな顔でその場に寝ころがり女子という面影もない大きなゲップをかました。
「ファー・・・。水は残ってるから、自分で作ってくれば。」
食べすぎたから頭痛くなって転がり回る姿を思い描いたのだが、それよりも食べた後の睡魔の方が強かったらしく完全に夢の中に落ちる前に、
「ついでにあたいのぶんもよろしく・・・。」
と小声で言って眠ってしまった。
「ったく、人使いの荒い妖精だな。」
多分眠ったから聞こえてないと思う。別に起きていても戸惑うことは無いが、本を読みたいがために弾幕を飛ばしてくる奴だから「なんだとーこの野郎!」とか言って、またここを戦場にすることも否定できないからそのような愚痴はなるべく控えておきたかった。その前に自分の家で暴れられた巫女の弾幕が飛んでくる。
ただ、目の前で甘くも臭いゲップを出されたときは愚痴よりも先にチルノの頭をサッカーボールよろしく踏むか蹴るかしていただろう。今になって自分のメンタルが高くて良かったと思う妖牙であった。
裏口を出たところに直径五十センチほどの金盥があったからこれを借りることにした。ただ日光がガンガン当たっているから掴むのに抵抗がある。それでも食欲がたらいに触れろと言うように手のひらを叩きつけた。これは火傷するかと思ったのだが、どういうことか熱気を発しているはずのたらいに触っても熱くない。不思議とは思ったがとりあえず気にしないでたらいを抱えて持って行った。
本堂裏の水道でたらいに水を入れたのは良いのだが、これをどうやって凍らせるのか悩んだ。ちなみに水は金盥の熱でぬるめのお湯みたいになっていた。
一番早いのはチルノ呼んで凍らせてもらいたいのだけど、チルノも霊夢のように爆睡してるだろうからやっぱり妖牙自信の能力で水を氷に変えることにした。でも自分の能力とはいえ、変化したものが食べても安全な物か確かめていなかったため正直怖い。
(やっぱり引きずってでも連れてくるか。)
そう思って居間の方に行こうとしたとき弾幕を打とうとした時のように両手に違和感を覚えた。だがそれは強いエネルギーとかではなく、単純に手のひらが急激に冷たくなっていた。
(なんか、別のエネルギーって感じだが・・・まさかな。)
妖牙はさっきの感じを思い出し、自分の手をたらいの水面にかざしてみた。すると手のひらの中心が今までに経験したことの無いほど冷たくなり、たらいいっぱいにあった水は一瞬のうちに氷と化してしまった。物質を変化させる能力を使った訳ではない、ただ何か別の力で凍らせたのだと思った。そしてなぜかあの本が一部でも関係していると思う。
水が氷になるのは元から持っていた能力でも出来ることだが、「物体変換術」と言わなかったからその能力でこうなったとは思えない。しかも、水どころか金盥とその下の土までもが凍っている。氷になったのではなく単に凍ってしまったのだ。その関係で金盥は下の土部分と固まってしまい、たらいを持ち上げてみると凍った土が裏に張りついてしまっている。
(とにかくまた考える必要がありそうだな。)
それよりも先に妖牙は自分の腹を満たすことを優先したかったので、すぐさま自分の拳を鉄に変え氷を砕いた。妖牙が軽く手首を振るだけで分厚い氷は粉々に粉砕され、最終的に一つ一つの氷が砂のように細かくなり練乳でもかけたら最高と思える一品になった。チルノが練乳ぶっかけてたから余りがまだあるだろう。
「よしっ、じゃあ取ってくるか。」
「何を取って来るのかー。」
「練乳。甘いの好きだし最高だよ。」
「それってこれなのかー。」
妖牙のすぐ後ろから小さい手が伸びてきて、練乳の入った瓶手渡してきた。
「そうそうそれ!ありがとう・・・って誰?」
瓶を手にとるときふいに後ろを振り向いたのだが、そこには見覚えの無い少女が立っていた。
赤いリボンと黒いワンピースを着ている普通の少女だが、この世界で「普通」という言葉は通用しないことはとっくに分かっているから、いつでも凍らせられるように地味に構えた。
「ってか、お前いつからそこにいた?」
「気づいてなかったのかー?さっきからいたのかー。」
きっと気づかなかったのは、氷作っているときに集中してたから周りのことが分からなかったのだろう。
その前に語尾が疑問形だから話がややこしくなりそうだ。
「ちなみにお前、名前は?」
「ん?ルーミア。」