「うん、うまい!」
「おいしいのかー。」
たらいに入った氷の塊を砕き、ルーミアが持ってきた練乳で味付けしたかき氷が非常にうまく、既に三杯目に突入していた。
ルーミアが持っていた練乳は霊夢の家にあったものではない別の瓶だったようで、チルノが残っていた氷といっしょに食べきってあった。ルーミアがいなかったら今頃氷水でも飲んでいただろう。
「ふう、助かったよ。ありがとな、ルーミア。」
「そーなのかー。ところでお前誰なのかー。」
「そういや名前教えてなかったな。俺は妖牙、人間だ。」
人間ではあるのだが普通の人間とは言い難いかもしれない。翼が付いていて弾幕と特殊能力が使える人間なんて、もう人間と言えるか怪しいくらいだ。
「人間、なのかー。」
ルーミアがそう呟いてなぜか目を輝かせた。恐らく人間を初めて見たとかそういう理由だろうと思うことにしたのだが、その後すぐにジュルッと舌を舐めずりルーミアの口から顎へとよだれが垂れている。まだかき氷が足りないのかと妖牙は思い聞いてみた。
「まだ食い足りないか。あとどれだけ食うつもりだ?」
その答えは妖牙が思っていたのとは違っていた。
自分の思っていたものと違う返答が返ってくるのはよくあることだし、違っていても話が大きくそれるようなことは言わないと思っていた。
「おやつはもういいのかー。昼御飯にするのかー。」
そんなことを言っても今周りで食べれる物は見当たらないし、勝手に霊夢の家の物を漁るのも気が引ける。
ちなみに霊夢は爆睡、チルノはトイレだろうか今は居間にいない。
「じゃあ何だ。そこら辺のキノコとか採取するのか?」
「目の前の肉を食べるのかー。」
もうジョークとかいいからと思ったのだが、妖牙の体を舐め回すように見ており近づいて来たときに口から生臭い匂いがして勘づいた。
(あ、これ誰か食ったな。とすると・・・!)
ルーミアも霊夢やチルノのようにこの幻想郷の住人であることは薄々感じていた。森林の中に立っている神社に用がありそうなのは参拝者くらいだし、最近まったく来なかったのにいきなり女子一人で来る訳ない。
そしてルーミアは霊夢やチルノのように妖牙を一人の人間として見てくれたが、今のルーミアにはさっきのような優しい感じは消えており目の前の肉に今すぐにかぶりつきそうだ。
(こりゃ、また戦うことになったか。)
「分かった。でも条件がある。ここは巻き込まれそうな奴らがいるし、あの鳥居辺りで弾幕勝負に勝ったら腕ぐらいはやろう。」
決死の覚悟で言っている。別に軽い弾を撃って逃げるという手もあったが妖牙には気になっていたことがあるため弾幕勝負を申し込んだ。
あの本のことだ。もしルーミアと戦った後に本に新たな文章が刻まれたら、その能力を使えるようになっているかもしれない。
そしたら全て解決に近い、この世界の奴らと出会い勝負して勝てば能力が手に入るという、よくあるゲームのパターンが実体化したと思えば良い。
(なに、負けて腕を食われかけたらルーミアの歯と体中をS極同士の磁石にすればどうにかなるだろう。)
お互いが磁力で反発すれば食われないという甘い考えだが、何もしないで勝負をするよりはましだ。
負けたときの保険を兼ねる。
これは現実でもよくあるから、卑怯とかは全く思わなかった。そもそもこういう時のためにあるのが生命保険とか火災保険だから、例え世界が変わろうとこれだけは残しておく、ある意味一つの戦法とも言える。
(まあこの世界に元の常識は不要かもしれないけどな。)
「別に良いのかー。」
妖牙とルーミアは鳥居と本堂の間に場所を変え、さっそく妖牙が弾を出したが、それはまだルーミアに飛んで行かないで右手の上で浮いている。でもその弾はチルノのときのような鋭くそれでいて早かったものでは無く、バスケットボールぐらい大きく速度は落ちている気がする。まるでチルノのパーフェクトフリーズの弾のようだ。あの後からイメージだけはしていたのでエネルギーの調節の仕方は何となくだが出来るようになっていた。
(よし。これで能力を使えば・・。)
妖牙はチルノの能力を発動した。空中にあった弾はエネルギー弾から完全に氷の塊と変化し妖牙の手に着地した。
妖牙が確認しておきたかったことの一つ、チルノの弾を見たとき弾幕に何か手を加えられるかと思い試してみたかったのだ。
「攻撃しないのかー。ならこっちからいくのかー。」
そう言うと同時にルーミアはチルノのように丸い弾幕を前方に向かって飛ばしてきた。だがその弾幕は意外と遅くワンパターンだったため歩いて避けられた。
「どうした!その程度か!」
チルノの弾幕とレベルが違いすぎていたから、調子に乗って挑発してみた。だが妖牙の言葉が頭に来たのか、いきなり手を限界まで広げ唸り声をあげ始めた。手からは普通のものとは違うエネルギーがたまっていると感じ取った。
(いや!こういうときは手の向きを見ていれば・・・。)
よくあるパターンだ。銃火器の射出口を見ればどの方向に銃弾が放たれるかが分かる。例えどんな弾幕が出ようが、先のことを考えていれば問題ない。
そう思っていたのだが次の瞬間ルーミアを包み込むように黒い霧のようなものが発生し、手の向きどころか本人が何処にいるかすら分からなくなってしまった。
(くっ!?これがルーミアの能力か!?)
どうやら彼女の能力は辺りを黒い霧だらけにして隠れる能力なのだろうか。しかし妙だ。霧にしては濃すぎて光の一つも届かない真っ暗な空間となっている。妖牙はそれを霧じゃないと思いそれをじっと見つめていたのだが、それが少しずつだがこちらに迫ってくる。でも霧は水蒸気のようなものだから払いのければいいと思い必死で手を動かしたのだが、少しも変化が起こらないで霧は近づいてくる。
「!?ならばチルノの力で!」
妖牙の前進から大量の冷気が放出される。もしもあれが霧なら、水蒸気を凍らせ気体から固体にすればどうにかなるだろうと思っていた。だがそれは少しも消えないまま妖牙を飲み込んでいき、ついには妖牙の視界は黒一色と化してしまった。
(やっぱり霧じゃない。光を通さない空間、恐らく俺の能力も効かない。要は物質を持たない無・・・闇か。)
ルーミアが出していたのは霧ではなく闇だ。そもそも闇は作り出すものではないが何度もいうようにこの世界に常識は通用しない、いやこの世界の人々にも通用しないだろう。
(まあ目の前にいるのは、また妖精の類だろうがな。)
そうこうしているとき、ルーミアが技の名前をいうと共に、あの小さい手から大きなエネルギーが放たれた。
「ムーンライトレイ!」
エネルギーはこの闇の中でも分かるほど強い青色の光の光線となった。その光線はまるで丸太のように太く見た目通り強そうで近くの木々に当たったようでバキバキと倒れる音がした。
「あぁ、これはまずいな。というかすげえな。」
その威力で不安と興味が生まれた妖牙がそう言ったとき、あのビームがこちらに向きをゆっくりと変えていく。このままでは二つのビームにサンドされてしまうだろう。
「ふふ、お前を食べてからどうしようかー。まだお腹すいてたらあっちの二人も食べとくのかー。」
(腕くらいならって言ったのにもう忘れてやがる。ここで負けたら霊夢やチルノも危ない。)
負けたらという不安に押しつぶれかけた妖牙は、空中にあった氷の弾を無意識につかみビームの中心部に向かって投げた。それはルーミアにヒットしたらしく、放たれていたビームが止まった。ルーミアは直撃したところが痛いようで暗闇の奥からうめき声が聞こえてくる。そしてその声に反応した妖牙は最後の一撃として自分の弾幕を大量に出し、さらにそれを凍らせチルノのように打ち放った。
「パーーフェクトフリーーズ!」
チルノが放った弾幕と同じように凍った弾幕ができて次々にルーミアのいる暗闇の中心に吸い込まれるように出て行くが、音がえげつなく少し爆発音も聞こえてくる。
そのとき光一つ届かなかった闇に一筋の光が差し込み、一つまた一つと闇が消えオレンジ色の空が見えてきた。
(もう夕方か・・・。じゃなくてルーミアだいじょぶか!?)
慌てて周りを確認すると地上にルーミアが落ちていた。今思えばルーミアやチルノ、霊夢もそうだがこの世界でこんなこと(弾幕勝負)ばかりしてる連中なら空から落ちようが怪我とかはしないのかもしれない。
妖牙がルーミアの近くまでいき一応呼吸を確かめたが、やはりといったところか気絶しているだけであった。
(はあ、どいつもこいつも心配かけさせて・・。)
この勝負は妖牙が勝ち取ったがそれよりも妖牙は気になることがある。
日も沈みそうだしルーミアはとりあえず霊夢たちの隣に居させておくことにした。しばらくすれば目が覚めるだろうが、隣でゆっくりしている場合じゃない。
妖牙はすぐそこに置きっぱなしにしてあったアルバムを手にとり能力が書かれていた場所を確認した。
「・・・やっぱりか。」
そこには「闇を操る程度の能力」と新しく書き込まれていた。