そういえばどこでテストをするのかと聞くのを忘れた俺だったが、第三アリーナでは搬入作業が行われていたのでそこに行くと研究員がいた。
そこでお礼も兼ねて轡木さんにお土産を渡すと、大層喜んでくれたそうな。
「む~」
現在、俺は布仏を膝に乗っけられていて、膝の上には不機嫌な布仏が頬を膨らませていた。
「布仏、頼むから機嫌を直してくれないか?」
「………」
「ほ、本音さん?」
「なぁに?」
現金すぎるよこのコ!?
そのことで少しばかり戦慄していると、俺はため息を吐いた。
「あのさ、俺は織斑の馬鹿みたいに自由に恋愛とかができるわけじゃないんだよ」
「じゃあ、私のことは友達として―――」
「
「でもぉ」
さっきからその問答を繰り返していると、見かねた布仏先輩がこっちに来た。
「準備ができましたよ、桂木君。本音も、そこで座ってたら邪魔になるでしょう?」
「……はぁい」
布仏が降りてくれたおかげで自由になった俺は、先輩と布仏と一緒に俺の機体の所へと移動した。
六枚三対のウイングスラスター、個別で固定されている
「桂木君、随分と待たせてしまってもうしわけない」
「いえ。こちらは好意で造ってもらっている身。むしろ自分のために自分の理想を体現してもらえたことの方が嬉しいです」
普通、ド素人が考えたものをISと採用するわけがない。
ここで俺は一つ気になっていたことを尋ねた。
「ですが轡木さん、お渡しした資料には小型武装に関してのレポートもあったのですが、さすがにそれは使えませんよね?」
すると轡木さんはにっこりと笑う。
「いえ。この
「わかりました」
返事をして、黒鋼に触れる。装甲が開いて俺は中に入る。
人体を認識したのか、装甲はひとりでに閉じて起動を始めた。
――ACCESS――
重苦しい機械声が響き渡り、ハイパーセンサーが起動したのか様々なデータが投射し始めた。同時に妙な感じがしてきて、違和感を感じる。
「桂木君、そのままアリーナへ向かってください」
「わかりました」
指示に従い、歩行でカタパルト射出口まで移動して脚部装甲を接続させる。
辺りに人がいないことを確認し、黒鋼を発進させた。
姿勢を正して地面近くをホバリングすると、ハイパーセンサーがミステリアス・レイディの反応を捕らえたことを示した。……って、ミステリアス・レイディ?
「……更識楯無」
「驚いたかしら?」
「ああ。生徒会の仕事を片付けていると思っていた」
ここにいるということは黒鋼の一次移行の手伝いだろう。それも―――
『桂木君、もう予想は着いていると思いますが、更識君と戦ってください』
答えあわせをするかのように答える轡木さん。たぶん普通なら拒否するだろうけど、今回使用しているのは専用機―――しかも俺が考えたものを既存の技術で完成させた黒鋼だ。
「わかりました」
そう答えると更識は驚いた風にこっちを見る。
「意外ね。この状況なら間違いなく断ると思ったのに」
「俺も打鉄なら断っているさ。でも、今は黒鋼だからな」
武装一覧で使用可能な武器を確認、近接ブレード《葵》を左腕に付けられた鞘から抜く。
「悪いがこれは俺にとってはゲームだ。そして俺の言うゲームは―――本気の戦いだ」
《葵》の峰を右肩に乗せる。これの構えは俺の正装みたいなもので、SRsで手加減できない相手の時は大抵こうした。……と言っても慣れ始めた俺に最初から本気を出させた奴はたった一人しかいないが。
「行くわよ、桂木君」
「それはこっちの台詞だ、更識」
試合の開始のブザーが鳴り、俺たちは攻撃を開始した。
■■■
夕日が赤く入院中の悠夜を照らす。
入院中でも勉強をする悠夜の周りには楯無が部屋から持ってきた教科書とノートで埋め尽くされ、使用済みのノートは未使用のノートの高さを超えていた。
悠夜が今使っている部屋は個室で、周りに一切気を使う必要はない。だから平然とノートや教科書を置く机を用意できたが、実はその机も使われていない別室の部屋から持ってきたものである。
「林檎、剥けたわよ」
お見舞いに来ていた楯無はそう言って淵にフォークが二つ置かれている皿を運んできて、スペースのある机の上に置いた。
だが悠夜はその林檎に興味を示さず、ずっと「IS技能大全」という、操縦時に使える加速方法などが載っている本を読んでいた。
「なぁ更識。瞬時加速って使えるか?」
唐突に悠夜は楯無に尋ねると、楯無は「もちろん」と答えた。
「じゃあ、どういう風に使ってる?」
「どういう風って?」
「イメージだよ。この説明ってさ、例としてのイメージとかも書いてないし、そもそも素人に原理とか説明してもわかるかって話だ」
悠夜の言葉を楯無は理解する。だがそれも操縦者に必要なものなので教えないといけないと考えていると、
「でもこれ、深呼吸に似ているよな?」
「……はい?」
「だって説明じゃ「後部スラスターからエネルギーを放出、それを内部に一度取り込み、圧縮して放出する」って書いてあるけど、呼吸で言えば息を吐いて再び吸う。そして今度は思いっきり吐く。だから深呼吸」
すると楯無は笑い始め、悠夜は顔を赤くする。
「確かにそうね。今までそんなこと考えたことなかったわ」
「だろ」
そんな会話を繰り広げられた後日、悠夜は見事50回目でコツを掴み、150回目では既に使用可能となっていた。
開始直後、楯無は蛇腹剣《ラスティー・ネイル》を横に振り、手の動きで何かが来ると察した悠夜は《葵》を盾にして防御する。
現在初期設定のためか使える武装は打鉄に標準搭載されている近接ブレード《葵》とアサルトライフル《焔備》のみであり、
そのため今の悠夜は本来の戦い方をするため手数を増やすべく時間を稼がなければならないのだが、そのことを忘れ正面から楯無と戦っていた。
楯無は鞭で武器を奪う要領で《ラスティー・ネイル》を《葵》に引っ掛けようとするが、悠夜は得意の
すぐに楯無は《ラスティー・ネイル》を左手に持ち替えて右手には《蒼流旋》を展開。先端近くに装備されているガトリングを発射しようとすると悠夜はスラスターで砂を巻き上げた。
「PICをマニュアルに設定」
悠夜がそう指示するとディスプレイに「PIC設定」のページが開き、「manual」の部分が選択されることを知らせた。
それを確認した悠夜は地面すれすれを移動し始める。
(このタイミングでPICをマニュアルに? ……でも、桂木君ならそれは可能ね)
悠夜の趣味を知る楯無は悠夜の無謀な行動ともいえる設定変更に対してほとんど驚かず、すぐに
最初は急な変更で機体バランスを失った悠夜だが、次第に慣れていき、さっきと同じように地面すれすれを移動し始めた。
楯無は《ラスティー・ネイル》を振るい、悠夜の集中力を乱そうとする。
(当てることが目的じゃないけど、集中力が全く切れないわね)
悠夜の集中力が続いていることを感心する楯無。すると悠夜はバランスを崩し、地面を削る。
すぐに体勢を立て直そうとする悠夜が、またすぐにバランスを崩した。
(一体どういうこと?)
楯無は警戒しつつ蒼流旋のガトリングを悠夜に撃つ。反応が遅れてマトモにダメージが入った。
(………つぅ)
急に頭を抑える悠夜。様子がおかしいと思ったのか、楯無は十蔵に通信を繋いだ。
『轡木さん、あれは……』
『もしかしたら彼でも合わなかったのかもしれません。更識君、すぐに彼を止めてください』
『わかりました』
楯無は悠夜に近づいていった。
■■■
――-悠夜side
それが起こったのは急だった。
視界がぶれ始め、定まらなくなっていって更識との正確な位置すらも把握できずにいた。
「桂木君!!」
更識がこちらに近づいてきて、俺に声をかけてくる。
―――タエテ
頭の中に声が響き、その反動なのか揺さぶられるように頭が痛くなってきた。
「桂木君!!」
「下がれ」
それだけ言って大した気迫もないのに俺は更識を睨みつける。
「でも、あなた―――」
「気にするな、もう引いた」
うそだ。本当は頭が痛すぎるが、それでもあってないようなプライドに突き動かされて俺は立ち上がる。
《葵》を展開して油断している更識に切りかかるが、更識は《蒼流旋》でそれを受けとめた。
「今すぐ止まりなさい、桂木君。いくらあなたが戦おうとしても体が追いついていないわよ」
「……へぇ」
―――モウスコシ
《葵》を軸にして更識の上を飛ぶ。振り返り様にアサルトライフル《焔備》を展開して更識を攻撃した。
更識はすぐさまミステリアス・レイディのアクアベールで弾丸を受け止める。
―――アトスコシ
そろそろ終わりが近づいているからか、段々と頭痛が引き始めた。
「桂木君、もう止めて」
「いや、今度はマジで大丈夫だから。遠慮なく来い」
どうやらアドレナリンと言うものが大量に分泌されているようで、俺の闘争心を奮い立てる。
「来ないなら、こっちから行かせてもらう!」
そう叫ぶかのように声を出すと同時に息を吐く。そして思いっきり吸い込み、再び吐き出すと同時に加速した。
それを最初から読んでいたのか更識は射線上から離脱して俺に狙いを定めようとする。自分の真下から前の方に移動させたのは瞬時加速の方を読んでいたからだろう。
更識は俺が深呼吸の法則を使わないと瞬時加速を行うことができないことを知っている。だからわざと深呼吸して手札を見せる形でフェイントを見せた。
途端に俺の体が黒く光り始め、さっきまであった妙な違和感が一切感じなくなった。
「やっと終わったわね」
更識の言葉通り、ディスプレイには「
「どうする? 続ける?」
その問いに俺は迷いなく答える。
「もちろんだ。こんな良い展開で、終わらせるなんて勿体無いだろ?」
「ええ」
《ラスティー・ネイル》を収納した更識は《蒼流旋》を構え、《葵》がいつの間にか消滅していることに気付いた俺は、更識と同じように《
■■■
第三アリーナ内の観客席と廊下の間に存在する階段で、一人隠れて戦いの行く末を見守る女生徒がいた。
彼女は事情があって轡木十蔵によって招待されており、別に隠れる必要はないのだが、関係者以外で呼ばれているのが彼女一人だからか生来臆病な彼女は隠れて試合を見ていた。
だが黒鋼が一次移行してから試合は玄人同士の戦いが行われているように見え、そのどこか熟練された動きを見てその女生徒は確信した。
(……やっぱり、そうなんだ)
それは彼女の姉が動かしたばかりの二人目の男性IS操縦者に圧されていることに対して「敵」と認識した、というわけではない。ただの確信。
だが彼女―――更識簪にとって二人目こと桂木悠夜は恋愛でも友人でも先輩でもない―――所謂
むしろ彼女にとって
同時に専用機持ちでありながら
まさかここまで改変が長くなるなんて思わなかった。
まだ事後処理とか、そういう諸々が残っているので、それをなんとか一話で終わらせたい。
戦闘機云々に関しては自話に触れたいです。