三人が会話をしている時に段々と手を付けられなくなってきて、もはや訓練機で止めるのは難しいだろう。
そしてラウラの怒りを代弁するかのように、異形は訓練機から離れてVIP席に向けて刃を振り下ろす。緊急的に物理シャッターが降ろされたが、たった一撃でへこんだ。
ラファール・リヴァイヴからなる遊撃班がそれを止めようとするが、それよりも早く通常口径とは違って大きな弾丸がその機体の頭部を貫いた。
「この事態に対処している全機体に告ぐ。今すぐこのアリーナ内から出てピットに戻ってすべての通路を塞げ」
悠夜が
「何を言っているのよ! そんなことできるわけないじゃない!」
「今はプライドを優先するより、効率の良さを考えろ。お前ら如きが適う相手じゃないことぐらい、容易にわかるだろ。まぁもっとも―――エネルギー切れの時に流れ弾が当たって死んだって俺の責任じゃないからいいけど―――なッ!!」
注意を引く為に悠夜は《バイル・ゲヴェール》で発砲する。それらが次々と異形へと当たり始めたことから異形は悠夜へ攻撃を仕掛ける。
(サードアイ・システム……始動)
すると黒鋼の周りを球体が回り始め、ヘッドギアの部分で固定される。
鋭く、早い連撃が繰り出されるが、その素早さすら遅く感じる―――が、それでもかなり早く悠夜でも裁くのがやっとのことのようだ。
「行け!」
《燕》八基が分離し、各々が異形のリズムを崩す為に不規則に攻撃を仕掛ける。
だが異形はそれにも容易く対応した。
(どれだけ規格外なんだよ、あの女は)
そう思ってしまうほど無理はない。異形の対応スピードが並みの人間ではできない芸当であり、普通の人なら確実にシールドエネルギーが半分近くは削れているはずの不規則な攻撃を即座に対応しているのだから。
(だが、こんなところで躓いていられるわけがないか)
そう思った悠夜は思わず笑みを見せる。
(ボーデヴィッヒの疲労が並みじゃない。それに変なものがボーデヴィッヒに直接付いているし……零落白夜みたいな攻撃は俺には使えない……仕方ない。本当は許可をとる必要があるけど―――)
不規則なビット射撃を裁かせながら考えていると、突然黒鋼の
『どうしましたか、桂木君。さっきから手が止まっているようですが』
『轡木さん!?』
今話したい人物から通信が来た事を喜ぶと同時に良すぎるタイミングに悠夜は驚きを隠せなかった。
『ちょうど良かった。轡木さん、
『私に許可をとる必要なんてありませんよ。思いっきりやりなさい』
瞬間、異形の周りは爆発する。
そこから瞬時加速を使って離脱する異形だが、またすぐ爆発に巻き込まれ、右手と左足は吹き飛ばされた。
さらに追い討ちをかけるように両肩、右足に集中して攻撃される。左手に近接ブレードを展開するが、今度は左手が集中的に爆破とレーザーで攻撃された。
そして悠夜は《バイル・ゲヴェール》を左から横薙ぎし、さらには体ごとゲヴェールを振って縦にも一筋入れて両手を突っ込んだ。
その間に《燕》をブースターに付属しているシールドビットに連結させた。
「こじ開けろ!」
連結させた物体《クロスシールド》はラウラに外傷を負わさないように進入、そして入り口をこじ開けるように回り始めた。
悠夜は無謀を承知で中に少し入り、入り口で足を掛ける。そして《サードアイ》から伝わる情報を頼りにビームクローを展開してラウラと機体を繋いでいる細長い管を切断していった。
(これ以上は中に入らないと……)
掌部装甲以外の装甲をすべて消し、《クロスシールド》とビームクロー、そしてサードアイとハイパーセンサーの情報を頼りにラウラに付いている管を一本一本取り外す。途中、通信回路を通じて千冬や真耶の声が漏れたが、VTシステムの中に入ったからか、それも断片的なものと変わりつつあった。
《……ケテ》
(!? ……なんだ、これ?)
悠夜の頭に急に声が響いてきた。
だが悠夜は無視することを選択し、残っている管を切断し、ラウラを引きずり出した。
(……更識簪に謝らせるために出したけど)
―――これも得ってやつかな
異形が崩れていく中、悠夜はそんなことを思っていた。
■■■
―――悠夜side
目を開くと、そこは見慣れてしまった天井だった。
上体を起こすとそこには誰もいない。どうやら俺は気絶したようで保健室に運ばれたまでは良かったが、誰もいなかった―――と思ってた。
「あの、何をしているんですか?」
何故か隣でメガネを外して寝ている布仏先輩。
「添い寝です」
「添い寝…ですか?」
「はい」
何で添い寝?
わけがわからないとはまさにこのことだろう。
「とても可愛かったので、つい」
「あの、まるで可愛い弟を見る目で俺を見ないでください」
「よしよし」
俺の意見が華麗にスルーされた件!
とはいえ年上の女性に撫でられるのは嬉しかったり。
「って、そうじゃないですよ!」
「どうしましたか?」
「いや、あの、あの後どうなったのかなって……」
ボーデヴィッヒのこともそうだが、試合のことがなにより気になった。
「実は詳しいことは言えませんが、ボーデヴィッヒさんに搭載されていたあのシステムは違法のものでした。そして試合終了の判断はまだされていませんでしたから―――」
「俺たちの負けってことですか?」
「そうなります」
そう言われて少し後悔する。あそこで何かを言っている織斑を有無を言わさず潰しておけばよかったと。
「ところで、ボーデヴィッヒは……」
「まだ寝ています。もうそろそろ三日目に入るところです」
「そうですか……まだ……」
―――三日目?
少し違和感を覚えて、布仏先輩に聞いてみた。
「えっと、今って何曜日ですか?」
確か、俺たちが戦っていたのは月曜日だったはずだ。
だが今の会話が正しければ―――
「あと一時間くらいで木曜日ですね」
「………なるほど。俺はまた寝ているんですね」
そう言うと先輩は俺の頬を引っ張った。
「痛いですか?」
「痛いです。ギブです。もうふざけたことを言わないので許してくだしゃい」
「よろしい」
何がよろしいのかわからないが、とりあえず忘れよう。
「それとこれからのスケジュールですが、明日は朝食後に桂木君の事情聴取が行われます。それからはおそらく自由時間になるでしょう。なのでまだ残っている方々の応援に言ったらどうですか?」
「え?」
あれだけの騒動があったのに試合をしているんですか?
口にしていなかったがどうやら顔で察したようで、先輩は頷いた。
「当初は危ないからということで中止になりそうでしたが、それだと一、二年生はともかく、三年生はアピールの場が減ってしまいます。騒動の翌日からですが、第二試合から順当に試合が行われていますよ。専用機持ちは言わずもがな、簪様と組んでいる私の愚妹もなんとか残っています」
そう聞いた俺は安堵して力が抜けた。
■■■
時刻は16時を回った頃、1年生の部ではDブロックのブロック内決勝戦が行われていた。ブロック内優勝をすれば自然とベスト4進出となり、明日の準決勝に出場できる。
その試合は専用機持ちが三人も出ることから注目されていたが、密かにかけられている賭博では鈴音・セシリアペアの方によくかけられていた。そして対戦相手の簪・本音ペアにかけているのはたった一人だけだった。
「楯無」
「悠夜君、もう平気なの?」
「ああ。まぁ二日も寝ていればな」
そう。悠夜である。
自分が目に掛けている三人が出ると知って急いできたようで、途中やっていた賭博に1000円入れてきたのである。ちなみにそれを担当していた黛薫子はガタガタと震えていたが、悠夜にはその理由がわからなかった。
「桂木、お前復活したのか!」
するとダリル・ケイシーが近くにいたのか悠夜に話しかけた。その隣にはフォルテ・サファイアの姿もある。
「ええ。なんとか」
「でもあの爆発は凄かったッスね……エグさが」
「そうだな。オレはそっちの方じゃなくて正面からぶつかって欲しかったんだが」
「いやぁ」
「「褒めてない(ッス)」」
二人に突っ込まれる悠夜。それを楯無と虚は少しばかりおもしろくなさそうだった。
「悠夜君。こっちで一緒に見ない?」
そう言って楯無は悠夜の腕を自分の腕を交差させて引っ張る。するとそれにいち早く反応したフォルテは、
「先輩、愛しい後輩が牛女に取られてしまうッスよ!」
「いや、別にオレはそういう意味で桂木と話しているわけじゃ―――」
「おい楯無、今すぐ開放しろ」
手すりを掴んでどこかに行こうとする楯無を止める。
「あれ? お二人ともいつの間に仲良くなったんッスか? !? まさか二人とも、もう大人の階段を上って今二ヵ月半目なんですか!?」
「落ち着いてくださいよサファイア先輩。そんな間抜けなことはゴミ……織斑だけで十分です」
そう説明する悠夜。
すると下から四人が現れ、悠夜はその中で簪が乗るISに目を付けた。
「……マジで?」
思わずそう言ってしまい、ダリルは悠夜に質問する。
「何だ? あの機体を知っているのか?」
悠夜とラウラが寝ていたのは周知のことなのでダリルにしてみれば簪の機体を悠夜は知らないはずだ。
「知ってるも何も、あれって
「いや、何でそんなに―――」
「しかもメインがスーパー型なので胸部からはビームが発射されるだけでなく、絶妙なタイミングでロケットパンチも撃ってくるんです」
「えっと、桂木君? いきなりどうしたんッスか?」
「さらに言えばそのロケットパンチ、複雑な軌道で攻撃してくるから中々当たらないんですよ。まさかISとはいえここまで再現できるなんて、あ、元の方はもっと凄いんですよ。素早い剣戟に突撃する際の気迫、まさしくダイン○ンガーと同等かそれ以上で―――」
「後でえっちなご褒美を上げるので、静かにしてくださいね」
虚は悠夜の耳元でそう言うと、途端に悠夜は膝を付いてしまった。
(え? 何今の?)
未だガクガクと震える膝を見て悠夜は犯人の顔を見る。そこには満足そうにしている虚の姿があった。
ということでVTシステム、倒した後の簡単な説明などをぶっこんでみました。