IS~歪んだ思考を持つ男~   作:reizen

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たぶんこれ、無効だと言われそうだなぁ


#36 契約時には注意しよう

 倉持技研はすべてのISの祖となった白騎士を解析した施設ということもあってか、日本のIS企業の中では一、二を争うほど優秀な会社だ。

 その責任者――倉持哲司は恐怖と絶望で胃が押しつぶされそうになっていた。

 

(何で……何で既にマルチロックオン・システムが完成しているんだ…!!)

 

 自分の企業が作るはずだった第三世代兵器のマルチロックオン・システム。それが先程の試合でいきなり披露されたのだ。

 

(…そうか、あの餓鬼がその情報を売ってあのジジイの研究所のところに行ったんだな)

 

 ふと、自分のところにいた日本の代表候補生だった高校生を思い出す。

 

(まだ織斑一夏の専用機を優先させたことで怒っていたのか……まったく、器量の狭い女だ。せっかくコアを持ち出す許可もしてやったというのに)

 

 内心毒づきながら移動する哲司。だが、その足は襲い掛かってきた恐怖で止まってしまった。

 

「先日はどうも、倉持さん」

 

 正面には以前簪が持っていたコア云々で代表として簪と共に現れた男―――轡木十蔵が立っており、長身で細身の哲司を阻む。十蔵は笑顔だが、その目はまったく笑っていなかった。

 

「お久しぶりです、轡木さん。先程の試合、彼女は中々良い動きをしていましたね」

「ええ。本当にあなたはバカなことをしてくれて助かりました」

 

 最近積もり続けているストレスのせいか、二言目には十蔵の言葉が少し戻っていた。

 

「ば、バカなこと、とは?」

「あなたが一人目を優先したことで、彼女の心がこちらに向いてくれて助かりましたよ。いやぁ、あれほどの機体を扱える操縦者、中々いないんですよぉ。どいつもこいつもマトモに操れねぇゴミばかりでねぇ」

 

 今、二人はアリーナの移動廊下で話しており、女性職員はもちろん、IS学園の生徒たちも通っている。そんな中で十蔵はそんな暴言を吐いており、何人かは十蔵を睨むが、すぐに視線を外した。言うまでもなく、怖いのだろう。

 

「しかも一部彼女のお願いが含まれているんですよ。それも理由が「二人目にはISでは勝ちたい」ということですよ。笑えますよね」

 

 ―――あなたもそろそろどちらが強いかって気付いているでしょう?

 

 ふざけて話す十蔵だが、哲司も大人だ。無理に返すことなんてせずに逆に質問をする。

 

「そういえば完成したんですね、マルチロックオン・システム」

「実は黒鋼には搭載しているんですよ」

 

 ―――お前らが躍起になって開発しているみたいだけどな(笑)

 

 哲司にはそう聞こえ、握りこぶしを作る。

 

「ではまた明日。決勝が楽しみですねぇ」

 

 十蔵はそう言って哲司の横を通りすぎる。近くにあったモニターは明日の予定が張り出されてあり、そこには一夏・シャルルペアと簪・本音ペアが明日一回勝てば当たることを示唆しているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――悠夜side

 

 結局俺は一人勝ち。賭けた金額すべてもらい、自分の部屋に戻った。

 本当は近くで賞賛したかったが、そもそも彼女の努力を無駄にした原因は俺にあったから会いづらかったのだ。

 そして翌日、俺は織斑先生に呼ばれて通信室へと向かっていた。今日は二戦して、午後から決勝らしい。一戦目を見ようと思ったが、織斑・デュノアペアの連携は既に知っているので止めて先にこっちにきたわけだ。

 いくら嫌われているとは、見に行きたくないわけではないのだがなぁ。

 リーダー式のドアがあり、俺はそこに生徒証を読み取らせるとドアが開いた。

 

「失礼します」

「桂木か。空いている席に座れ」

「わかりました」

 

 といっても普段はあまり使わないのか、パイプ椅子が並べられていた。二つあるのだが、左側は小柄な銀髪ことラウラ・ボーデヴィッヒが座っていた。

 

(………ああ)

 

 俺はこいつの過去を知っている。

 といっても断片的なものだが、人としてまともな生まれ方をしていないことや、人間としてではなく物として扱われていたこと、そして誰も人としての教育をしていないこともだ。科学者が親代わりみたいだったが、ISがまともに扱えなかった時期があったようで、その時なんてまるでゴミを扱っている雰囲気だった。正直織斑先生個人にあそこまでべったりだったのは理解できる。むしろ同情とかしてしまった。

 

 そこまで考えたら画面に男が映った。一言で言えばハゲでサングラスをしている。……周りから見て室内なんだが、サングラスは取らないようだ。

 

『映っているかね?』

「はい。お久しぶりです、ベルナー少将」

 

 入室時から顔を伏せている状態だったボーデヴィッヒ。男の名前を聞いた途端、ビクッとなった。

 

『そうかそうか。で、君が二人目の男性操縦者、桂木悠夜君か。始めまして。ドイツ空軍IS部隊総括長を任せているブルーノ・ベルナー少将だ。君の高名はこちらにも聞き及んでいるよ』

「はじめまして。桂木悠夜です」

 

 立ってから軽く会釈する。

 

『そう畏まらなくていいよ。さて、失礼だが身内話をさせてもらおう。桂木君、君にも関係あることだからよく聞いてくれたまえ』

「わかりました」

 

 というかベルナー少将、日本語上手いな。

 

『さて、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐。VTシステムのことはこちらにも聞き及んでいるよ。やってくれたな』

「いえ、ですがあれは―――」

『言い訳は無用だ。理由はどうあれ君は特一級の危険物を勝手に学園に持ちこんだことには変わりない』

「………」

 

 そう言われてボーデヴィッヒは黙り込む。あれ、そんな危険物だったのか。よく勝てたな。さすがは轡木印の黒鋼。全スペックが伊達じゃない。

 

『よって君には代表候補生とドイツ国籍を剥奪するものとする。これは君に伝えたことで成立するものとする』

 

 それを聞いたボーデヴィッヒは無反応―――いや、小さく「わかりました」と答えていた。

 

『見苦しいところをお見せしたな、桂木君』

「いえ。お気になさらず」

 

 黒鋼の凄さを再確認したから。

 

『さて、すまないがこちらもそろそろ眠くてね。悪いがすぐに本題に入らせて構わないだろうか?』

「はい。見たい試合なんて決勝(しかも対戦相手がどっちにしろあの二人にボコボコにされるのを見る)だけなので」

『それは結構。何、君には損な話ではない』

 

 そんな前置きはいいので本題に入ってください。

 

『君にはVTシステムの処理をしてもらったお礼をしなくてはいけないと思ってね。こちらでも色々考えたのだが、何分金だと君を甘く見ているようで中々骨が折れたよ』

 

 じゃあもう折っとけよとか思ってませんよ~。

 

『それで君には彼女を―――ラウラ・ボーデヴィッヒをプレゼントしようと思う』

 

 ……実はさっきの剥奪の件で一つ気になったことがあった。ラウラ・ボーデヴィッヒの処置のことだ。

 ベルナー少将は「代表候補生と国籍」のみの剥奪を言い渡したのみで、一つだけ「軍」の除籍は言っていない。いや、勝手にそうなるものだとは普通は思うけど、生憎俺はひねくれているから少し疑っていた。

 

「貴様、そんなことを認めると思っているのか!!」

 

 織斑先生が勝手に噛み付くが、ベルナー少将はそれをあしらう。

 

『織斑千冬、これは我々ドイツとその所有物であるラウラ・ボーデヴィッヒ、そして桂木君の問題だ。学園の教員になったそうだが、君にはもう関係ないことだ』

「だが、まだボーデヴィッヒはそれを了承しているわけでは―――」

『意外に察しが悪いんだな。彼女は代表候補生を外され、国籍すら除籍された。つまり残っているのは我々ドイツ軍の私物というレッテルだけだ』

 

 一体何が狙いなんだろうか。

 そもそも人間が人間を物として扱えるのだろうかという疑問はあったが、おそらくそれは―――

 

「なるほど。ラウラ・ボーデヴィッヒがドイツ軍の資金で作り出された()()だから、これを「我々の物として、桂木悠夜にプレゼントしようと?」

『察しがいいな。ああ、もちろんだが御代はいらない。文字通りプレゼントだからね。なに、確かに手はかかるかもしれないが、いくら物だと言っても温もりがあるオ○ホだったか? その代わりには使えるだろう』

 

 と向こうが言ったところで織斑先生は何か叫んだ。

 

「ゲスが…」

『なんとでも言いたまえ。所詮は負け犬の遠吠えにしかならないがな』

 

 笑うベルナー少将。まぁ、言うとおりだな。

 今回の件に織斑千冬が介入できない。特記事項第21に「本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする」とあるが、それはその意志が表された場合にのみ有効だ。だから織斑千冬は教員と介入できないのだ。

 

「わかりました。そのお話、受けましょう」

『おぉ』

「何!?」

「ただし、今からそちらに送る書類を完全に理解したならばの話ですが」

 

 そう言って俺は織斑先生の前にある操作パネルの中に文書プログラムを開き、すぐに文面を書き込んで、自分の直筆サインも入れた。

 とある部分を探し、目的のものを見つける。

 それを使ってベルナー少将に送ると、彼はサインしようとしたので俺は止めた。

 

「待ってください、ベルナー少将。本当に良いんですか?」

『何がだ?』

「そんな簡単にサインをして、本当に良いんですか? ちゃんと理解したんですか? 本当にすべて把握したんですか? 最近の若いものはどうのこうのって大人は言いますが、最近の大人は若者以上にアホなんですよ?」

 

 あえて挑発するように言うと、ベルナー少将は怒りながら言った。

 

『大人を舐めるなよ、小僧。我々はパソコンが一般化された時代を生きてきたんだ。それにこんな少ない文章とサイン欄があるだけのもの、数秒あれば読める』

 

 ちなみに文面には「これは絶対義務が発生するものであり、破ることは許されない」「ラウラ・ボーデヴィッヒとは今後一切の接触・介入行為を禁じる」「クーリングオフは無効とする」「サインは買い手はその国の絶対的代表者の代役として、売り手は必ず買うことを選んだ者がサインするもので、以後この誓約書の件は二人の了解無しに改変されることはなく、片方が許可をしてももう片方が許可をしなければ一切の改変行為は無効」と書かれてあり、後は空白で下に俺とベルナー少将の分のサイン欄が設けられているだけだった。

 そう。少なくとも向こうは思ってしまっているだろう。

 

『これでいいだろう?』

 

 すると向こうからその誓約書が送られてきたので、俺はそれを持ってきていたUSBに保存する。

 

『まぁ、君とは今後とも会う機会があるだろう。その時は―――』

「よろしく頼む、なんて言葉通用しないぜ、少将さんよ」

 

 そう言うとベルナー少将はあまりの豹変に驚いて俺を観察した。

 

『どういうことだ?』

「まだ文面は開いているだろ? そこをちゃんと―――ドラッグして読んでみろよ」

 

 言われたとおりにしているのか、ベルナー少将はパソコンを操作すると一気に顔が青ざめた。

 そう。ドラッグしたところにはさらに文章があるのだ。

 

『これは一体どういうことだ!?』

「どうもこうも。ただ文面を背景と同化させていただけだ。それに俺はさっきから言っていただろ? 「ちゃんと確認・理解したか?」って」

『こんなもの、出鱈目だ!!』

「おぉっと。ちゃんとそこは明文化していたぜ。「一切の改変行為は無効」って。それに俺は許可をしないから」

 

 段々と青筋を浮かび上がらせるベルナー少将。

 ちなみにドラッグした浮かんだ文字はこう書かれていた。

 

『今後、ドイツは桂木悠夜(以後「氏」と呼称)との交流は止むを得ない事情がない限り接触は禁じる。同時に個人的勧誘は一切不可とする』

『またこの誓約書の有効期限は永遠なるものとし、たとえ文面がすべて消えようとも守られるものとなる』

『同時にドイツが氏の血縁及び関係者と接触・誘拐などの犯罪行為を行った疑いがある場合、強制的に捜索され、無条件で捜索を手伝う』

『ドイツ関係者が上文の犯罪行為に加担していた場合、国家は賠償責任を負うだけでなく、氏または氏の関係者が望む償いを行うこと』

 

 つまりは「ドイツ人がなんらかの不愉快な行為をしたまたはその疑いがある場合、こっちが要求したことをすべて叶えろ」ということだ。

 

『ふざけるなよ、青二才のガキが』

「いやぁ」

『褒めてない!!』

 

 激怒するベルナー少将だが、こっちは慎重にならないといけないのでね。

 

「ではさようなら、ベルナー少将。良い取引だったよ」

『待て、まだ話は―――』

 

 強制的に通信を切ると同時に俺はボーデヴィッヒの手を蹴った。

 すると持っていた銃が吹き飛んで、壁にぶつかる。それを取りに行こうとするので先に回収した。

 

「返してくれ! それがなければ私は―――」

「死ぬつもりの女に拳銃を渡す趣味はないさ、俺はな」

 

 死ぬならよそで死んでくれ、と言いたいが個人的に死んでもらっては困る。

 

「私はもう、軍人ではない。どうせ貴様に殴られて死ぬなら、せめて物ではなく―――」

「ちょっと待て! どうしてそうなった!?」

 

 思わずボーデヴィッヒに突っ込んでしまった。というか本当にどうしてそうなった。

 

「私は、貴様の過去を見た。ISを触れた後のことを―――」

 

 そう言われて俺は固まってしまった。俺がボーデヴィッヒの過去を見たのと同様に、ボーデヴィッヒも俺の過去を見たらしい。

 

「お前は女を心から恨んでいる。だから契約ついでに私をドイツからもらったのだろう?」

 

 確かに俺はボーデヴィッヒの言う通り、心から女を恨んでいる。だがそれはあくまであんなことをした女たちであって、布仏や楯無たちを恨んでいるわけではない。まぁ、ボーデヴィッヒを潰そうとしたことはあったけど、あの過去を見せられてむしろ納得したというか、意見の齟齬はあるが、これから埋めていけば問題はないと思っている。

 

「いいかボーデヴィッヒ。確かに俺はあの契約をさせるために取引には応じた。が、どちらかというとお前の身柄をこっちの自由にした方が都合がいいんだよ。そうじゃないとお前を助けた意味がない」

 

 そう言って俺はボーデヴィッヒに―――ラウラに手を差し伸べた。

 

「謝りに行こう、ラウラ。あの日のことを更識簪に」

「…あの日?」

「俺が織斑千冬を否定して、お前が襲った日のことだ」

 

 そう言われて思い出したようで、同時にAICをことごとく回避されたことを思い出したようだ。

 

「お前は人間的な教育をろくに受けてないから謝ることなんて知らないだろうが、悪いことをしたら相手に謝ることだ」

 

 むしろ謝れない方が問題だ。

 

「だから一緒に行こう」

「……わかった」

 

 この時、俺はラウラが何を思ったのかわからないが、彼女が俺の手を取ったのは確かなことだった。




ということでラウラ回終了。普通、こんなことがまかり通るとは思ってませんが、ちゃんと言ったのだし、行ったのはパソコンの文書ソフトだし…と言い訳しておきます。
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