「いやぁ、いいものを見せてもらいましたな」
「しかしあの二人のゲテモノぶりは異常ですわ。あの研究所は一体何のためにあんな効率が悪いものを作るのだろうか」
そんな会話が返り際に行われるも、各々の車までのことだった。
タッグトーナメントがすべて終了し、VIP席の人たちは各々解散している。
ほとんどの人間はIS学園側で用意されているホテル『KUTHUWA』のVIPルームで泊まり、明日の朝一で帰ったりするようだ。
「ジュール」
そしてフランスのデュノア社から出張してきたアネット・デュノアは執事であるジュールを呼ぶ。
「……何でしょうか?」
「あの男もどき、今夜中に誘拐しておいて。母親同様、男を従わせるための餌にするわ。羨ましいけど、スタイルは良い方だからそこそこ使えるわよ。なんならあなた、してみる?」
「……いえ。わかりました―――と言う気はまったくないんですよ」
「はい?」
するとジュールは持っていた銃を抜き、アネットの頭に向ける。
「……ゲームオーバーです、奥様。あなたには表舞台から退場していただきましょう」
「何のつもり、ジュール。まさかあなた、あの使えない娘に恋でもした? そういえばあなた、あの娘の世話をよく焼いていたものね」
笑いながらそう言うアネット。だがジュールは一向に銃をしまわなかった。
「……あなた、本気? こんなことをして、あなたの家族はもちろん、リゼットも黙っていないわよ」
「…それはないですね」
ジュールはアネットに死刑宣告のようにはっきりと告げた。
「実はこれ、リゼット様の命令です。そしてリゼット様から「すべて証拠を揃えています」という伝言を言付かっています」
だがアネットは怯まず、不敵に笑う。
「あなた忘れていない? 私たち女にはISが―――」
「これですか?」
そう言ってジュールはある物を見せる。
そこにはいざと言う時に会社から貸し出されたラファール・リヴァイヴの待機状態のネックレスがあった。
■■■
その頃、デュノア社の社長室ではシルヴァン・デュノアは呆然としていた。
当たり前だろう。次々と政府の重役たちが入ってきたかと思うとシルヴァンに向かって矢継ぎ早に意義を申し立ててくるのだ。ただこの面子は全員シャルル―――いや、シャルロット・デュノアというリゼットの義理の姉を男として入学させる為に賄賂を贈った者たちだ。
「おやおや、どうやらおそろいのようですわね」
急に聞き覚えがある声が聞こえたシルヴァンは唯一の出入り口を見る。そこには警察の制服を身につけていた男たちを従えたリゼットがいた。
「リゼット、これは一体―――」
「察しが悪いですわ、お父様。どうしてお母様はお父様みたいな察しが悪い男と結婚したんでしょうか?」
そう暴言を吐くリゼットに対して、シルヴァンは厳しい口調で言った。
「何の真似だ。答えろ」
「私はこの会社を買収しに来ましたの。だって―――もう手遅れでしょう?」
笑顔でそう答える実の娘にシルヴァンは睨みつける。
「手遅れ? 何を言っている。まだこの会社は―――」
「いえいえ。もうわかってますのよ。そこにいる方々と共謀してお姉様を入学させたのでしょう?」
まるで見ていたかのように話すリゼットにシルヴァンは焦り始めた。
「実はもう既にわかっていますのよ。お姉様の性別を偽造して「三人目の男」としてIS学園に入学させたことを。そしてそのことは既にIS委員会の副委員長に報告していますわ」
クスクスと笑うリゼットに対してシルヴァンは初めて恐怖する。
(こいつはどこまで知っているんだ………)
リゼットの言うとおり、確かにそれは本当のことだった。そしてそれは妻のアネットも知っていること―――いや、彼女が持ちかけたことなのだ。
「……いいか、これはだな―――」
「ああ、お母様ならば今頃ジュールが捕まえているのでご心配なく」
「!?」
「正直、あのクソババアは邪魔だったんですよ。本当、いつもいつも私のご主人様を罵倒して、しまいにはご主人様の数少ない写真をびりびりに破いて捨てるなんてことをするから」
話すたびにリゼットの瞳から光が消えていく。
その間に警察官は次々と男たちを逮捕していく。最後の一人がシルヴァンに手錠をかけようとしたが、リゼットが止めた。
「その手錠は私に。実の親の犯罪を止める責任は娘である私にあると思います」
予め言い含められていたのだろう。その警察官はリゼットに手錠を渡して撤収した。
もっとも彼らは何人かで運ぶことにし、最後の一人であるシルヴァンを捕まえるために外で待機するが。
「何故だ。何故こんな真似をする、リゼット。この会社が倒産すれば、お前も路頭に迷うのだぞ」
「その心配はありませんわ。デュノアカンパニーは我々デュノアインダストリーに吸収される予定ですので」
それを聞いたシルヴァンはそれを聞いて呆れる。
「何を言っている! 確かにお前は人より金を持っているが―――」
「インダストリーにはスポンサーが付いていますの。だから、買える」
そう言い切るリゼットはそこから移動し、実の父親のシルヴァンに手錠をかけた。
「さようなら、お父様。牢獄内で反省してくださいな」
リゼットはそう言い、シルヴァンを警察―――正式名称をIS委員会直属不正管理委員会に引き渡した。
■■■
その頃、IS学園では―――
「……一体何の用ですか?」
食堂で行われていた「残念会」を抜けてきたシャルル・デュノア。彼は―――いや、彼女はとある二人に呼び出されていた。
―――オマエノヒミツヲシッテイル
それがメールで送られてきたシャルルは気が気でなかった。だからすぐに言い訳をして外に出て、送り主にであるその人物と出会った。
「初めまして、シャルル君―――シャルロット・デュノアちゃん」
―――消さなきゃ
「止めたほうがいいわよ」
既に相手は獲物をシャルロットの首に得物を向けていて、シャルロットは身動きが身動きが取れない。
「残念ね。せっかく可愛い顔をしているというのに、こんな子がスパイだなんて。でも仕方ないわね―――」
そう言って相手は向けていた得物を少し引き、
「さようなら―――」
刺そうとした瞬間、その相手の頭部辺りから何かで叩かれた音がした。
「何をしているんですか、会長」
「いや、こういう風にしたら迫力が増すかなぁって」
「そんな迫力は要りませんよ……」
恐怖であまり顔を見てなかったシャルロット。改めてその顔を見ると、データでは知っているが直接は会ったことはなかったことを思い出した。
「…更識、楯無」
「もう、そんな怖い目で見ないで。今から殺s―――」
―――スパァンッ!!
今度はちゃんと視界に捉え、シャルロットは驚いていた。
資料で更識がどんな存在か知っていたシャルロットにとって、従者である虚が主人の楯無を殴るのは新鮮だったからである。
「話が進まないので私から説明させていただきます」
そう言って虚はスーツケースのチャックを開け、そこから骨を一箇所に集めて出す。
「シャルル・デュノアには今日ここで死んでもらいます」
「え!?」
「と言ってもあなたに死んでもらうわけではありません。この骨があなたの代わりです。わかりやすく言えば、デュノア社の息子であるあなたは実はスラムにいる全く関係のない女の子であり、母親を人質にされたことで無理矢理従わされたこと、だけど織斑一夏の優しさに惚れ、罪悪感を感じて自殺すること、そして母親に対しての謝罪文を書いてください」
シャルロットは目を白黒した。いきなり死ねと言われたと思ったら今度は遺書を書けと言われて混乱している。
「で、でもそんなことをして、みんなが納得するわけ―――」
「これを」
そう言って虚はどこか女の子らしい可愛気のある便箋を差し出す。差出人は「
「あのこれ、確かIS委員会の副委員長なのでは―――」
「ええ」
シャルロットは怪しみながらその手紙を弄んでいると、楯無が言った。
「早く開けたら?」
「は、はい」
言われてすぐにシャルロットは手紙を開ける。よく見る形式の宛名と、文が綴られていた。
『初めまして、と言うべきだろう。すでにそこにいる人間から私の素性は知っているだろうが改めて自己紹介させてもらおう。私の名前はクロヴィス・ジアン。今はIS委員会の副委員長をさせてもらっている。君の事情はデュノアの一人娘のリゼットから話を聞いたよ。どうやら大変なことになっていたようだな。これは何分愚痴になるのだが、二人目の扱いでいろいろと委員長がうるさいせいで手間取っていた。
さて、話は変わるが同封されているもう一つの紙を見てもらいたい。そこには君が私の孫だという証拠が存在している』
文に従ってシャルロットはもう一つの紙を見ると、それはDNA鑑定書だった。確かにフランス語でそう表記されていて、同時に付属されている毛髪がシャルロットのものであることが証明されていた。
『まずは謝罪させてもらおう、シャルロット。今まで君を放置していて済まなかった。無論、それで済ませられるとは思っていない。だからこの手紙を確認し次第、君に同封されている住所に訪ねてもらいたい。ただし、読んですぐにだ』
とここまで読んだシャルロットは、次に出る国際便にフランス行きのものがあるか不安になった。
―――ガサガサッ
物音がして、楯無と虚は構える。だが茂みの中から現れたのは、シャルロットがよく知る人物だった。
「ジュールさん」
「シャルロット様。すぐに準備を。デュノアのプライベートジェットをご用意しています」
「でもそれは―――」
「犯罪者が使っていたものですが問題ないでしょう」
そうきっぱりというジュールにシャルロットの彼に対する印象は寡黙から微Sに代わったのだった。
■■■
―――悠夜side
何故か優勝者ではなく準優勝者コンビが食堂で祝われたので、俺たち三人でその祝勝会をしていた。
だがその途中でやっていたニュース番組で少し気になることを言っていたので気が気ではなかった。
(そして呼び出されてしまった、と)
とうとう嫌な予感が最高潮となった。
もう一度ニュースのことを思い出す。
『今日昼11時ごろ、渋谷のアパートで若い男性の腐敗遺体が発見され―――』
そして写真は出たのだが、それが父親だった。いや、名前が違った。違ったはずなんだ。
思い出さないようにして学園長室に向かう。そこでノックして返事をもらったので入ると、そこは普段と違った面子が揃っていた。
まずは学園長の轡木菊代さん。そして理事長兼研究所の所長兼用務員の轡木十蔵さん。そして何故か織斑先生もいた。ただ、更識がいない代わりに見慣れない男の姿があった。
全員がどこか重苦しい雰囲気を放っており、全員が同情的な視線で俺を見ていた。
「十蔵さん、構わないでしょうか?」
「ええ。先にどうぞ」
その男性は少し怖く、何故か疲れているような顔をしていた。
「初めまして、だな、桂木悠夜君。更識
「いえ。こちらこそ四人にはいつも色々手伝ってもらって、本当に感謝しています」
手を差し出してきたのでパジャマだが軽く拭って手を握る。
「それこそこちらこそだ。二人の仲を修復してくれたこと、感謝している」
「その代わりにいつも良い物を見せてもらっているので」
そう言うと殺気が飛んできた気がしたが、どうやら勘違いのようだ。
「……そのことについて詳しく問いただしてみたいが、どうやら叶わないようだな」
「………いや、別に良い物ってヌードとかじゃないですよ?」
「わかってる。その、スマン。いや、謝って済むことでないのは十分承知している」
再び重苦しい雰囲気を出す更識さん。いや、茂樹さんって呼んだ方がいいのか?
とか考えていると、更識さんの口からさっきの不安を裏付けされる言葉が紡がれた。
「先程のニュースはもう見ているかもしれないが―――
―――君のお父さんが……桂木