「お前は良いのか?」
ちびま○子ちゃんの居間のような部屋で、更識重治が桂木陽子に問いかけた。
「何がじゃ?」
「息子の敵討ちだ。さっき息子から連絡があっただろう?」
その質問に陽子はまるで気にしていない風に答えた。
「ふーむ。まぁ、普通ならばここで切れるもんじゃろうが、生憎ワシにはそういうのは興味がなくての」
「………お前は相変わらずだな」
「それにじゃ、ワシが手を下したところで建物一戸が壊れるのは流石に勿体無いのでの」
そう答えた陽子はせんべいをかじりながら持っていたライトノベルのページを捲った。
■■■
―――悠夜side
―――父親が死んだ
そう、更識姉妹の父親からはっきりと伝えられた俺の動揺はなかった。
「ああ、そうですか。じゃああのニュースの腐敗死体は」
「……君の父親だ」
―――やっぱり
そう思った俺は何度か頷き、質問した。
「―――それだけですか?」
この時、周りにいる人間は驚いた。当たり前だろう。父親が殺されたことを伝えられたというのにその息子が口にしたのは「それだけなのか?」なのだから。
「桂木、お前の父親の亡くなられたのだぞ? 他に言うことがあるだろう」
織斑先生がそう言ってくるが、俺は慌てて首を振る。
「な、何を言っているんですか、織斑先生。俺は何の力も持っていないただの雑魚ですよ。そんなのがどこかの主人公みたいに家族を殺されたからって「さぁ、復讐だ!」なんて言って人を殺せるように見えます? 相手がISを纏っているからあんな遠慮がない攻撃ができますが、一般人にあんな攻撃はできませんよ……考えることは可能ですけど」
そう言うと織斑先生がなんとも言えない顔をした。おそらく落胆しているのだろうか。根性無しとでも思っているのだろう。
だが俺からISを取ったら死なない程度の罠を張るしかできない、闘争力ならぬ逃走力が高いだけの一般人でしかない。本当に変な期待をしないでもらいたいものだ。
「悠夜君、君に謝りたいことがある」
更識姉妹の父親がそう言った。
「あの、何です?」
「君の父親を守っていたのは、我々だ」
そう言われても「へぇ~」という反応しかできない―――いや、したくなかった。
「我々が殺したも同然、なんてテンプレみたいな言葉を吐かないでくださいよ。どうせって言い方は不適切でしょうけど、あなたの所でも死人が出ているんでしょ?」
「……何故そう言える」
「あなたが見捨てていない限り、ちゃんと護衛は残していたはずですよ。それで、その人も死んでいる」
ヘラヘラしている顔でそう答えると、観念したのかはわからないけど、茂樹さんは頷いた。
「……そうだ。見張りは全員殺されていた」
「見張りの家族の人たちには悪いですが、その死人の中にあなたがいなくて良かったですよ」
そう言った俺は一つの提案をする。
「すみません。このことはまだ公表しないでくれませんか? 少なくとも、一般の人はもちろん、山田先生にも」
「……何故だ?」
睨んでくる織斑先生は今日は何故か恐ろしく感じた。
「だって山田先生に言ってみたら無駄に気を遣ってくるでしょ。そういうの、うざいんですよ」
織斑先生が我慢できなかったのか、こっちに来ようとしたがそれを学園長が止めてくれた。
「じゃあ、俺は帰ります」
そう言って俺は学園長室から出て行った。
■■■
「どうして止めたんですか、学園長!」
悠夜が出て行った後、千冬が怒鳴るように菊代に尋ねる。そのことで十蔵が介入するかと思ったが、そのつもりはないのか一歩も動いていなかった。
「あなたが怒って何になるというのですか?」
冷たい視線を千冬に飛ばす菊代。
「確かにあそこまで否定するのは普通では考えられません。少なくとも異常なレベルです」
「だったら何故!?」
「それでも彼は、今この時間を大切にしようとしているのですよ。優勝した友達を祝う為に」
言われた千冬は抵抗を止める。
「落ち着きなさい、二人とも」
十蔵がそう言うと菊代と千冬は動きを止めた。
「今は見守ることにしましょう」
「ですが―――」
「織斑先生、あなたはたまに専用機持ちを見本として戦わせているようですね。それはしばらく中止―――は無理だとしても、桂木君が選出することは止めて下さい。今の状況で選んだ場合、相手をのみならず最悪の場合一般生徒を殺しかねないでしょう。それと、できるだけ彼のしたいことはさせてください。サボりを咎めることもできれば控えてください。今の彼は、きっかけさえあれば爆発する恐れがある」
淡々と命令する十蔵の言葉にただ頷く千冬。それほど重い事態だと理解しているのだろう。それに千冬にも心当たりがあった。それはラウラを相手に戦った時のことだ。その後の爆弾もそうだが、明らかに普段から感じている雰囲気とは違っていたのは確かだろう。あの悠夜の性格だったら、いくら千冬でも生身の状態でいるなら普通は撃たない。千冬も悠夜に嫌われていることは知っているが、今まで撃たれたことがないことからあの時は本当に驚いたのだから。
「それと茂樹君は女尊男卑の動きを追ってください。おそらく犯人は―――」
「亡国の可能性も考えましたが、女性用の靴跡が多かったので女権団の連中と思われます。それに、修吾を殺す理由はありますがそれならば死体は残さず持ち帰るか、修吾が持つ技術力が並大抵ではないので誘拐したか、どちらにしろ放置するわけがありません」
「でしょうね」
頷いた十蔵は殺気を無意識に放ち始める。
その殺気は濃厚すぎて近くにいた茂樹はもちろん、菊代や千冬ですら恐怖し始めた。
(…いい度胸じゃねえか、カス共が)
まるで「今度会ったら即刻消す」と言わんばかりに怒りすらも顕にする十蔵。彼や陽子、そして重治ならば一日で壊滅させれる規模だが、悠夜が来る前に陽子から送られてきたメールがあったからこそ我慢している。
『今回の件は悠夜のサポートのみに徹するんじゃ。くれぐれも自ら動くな』
一番動きたいのはなによりも陽子のはず―――そう思った十蔵は本当に辛うじて動きを止めている。もしそれがなければ―――今頃日本のとある地点にはクレーターが作られていただろう。
■■■
―――悠夜side
空気を読んだのか開いている購買部で2ℓや1.5ℓのジュースを買って運んでいると、少し大きなケーキを乗せた台車を押している鷹月とばったり会った。
「桂木君、どうしてここに?」
「買い物だよ」
そう言ってジュースが入った袋を見せる。
「というか鷹月、まだ制服なんだな」
「……まぁ、ちょっと恥ずかしいと思って」
「パジャマ……ああ、ネグリジェだから?」
女子校だからありそうだと思い、ライオンのぬいぐるみを抱えて艦長席に座る女艦長の姿を思い出しながらそう言うと、
「桂木君、それはセクハラよ」
「そうか。悪かったな」
本音を言えば見たいですけどね。そう思わないとやる気がしない。
「まぁ、私だったから良かったけど、他の女の子だったら間違いなく訴えられていたよ。ただでさえ桂木君はあの爆弾や賭けで一人勝ちして恨まれているんだし」
「ホント、意味わからないよなその基準。どうせ誰かしらに抱かれるんだから今更隠したって仕方ないんだし」
自分に自制が聞かずについ本音を言ってしまった。
「……何かあったの?」
違和感を感じたのか鷹月が聞いてくる。
「いや、何もないけど」
「嘘ね。いつもの桂木君だったら私たちを警戒してあんまり話さないし、それに気を遣っているつもりか愛想笑いで私たちを回避しようとするから」
と、たまに容赦なくズカズカと領域を入るかのように色々と言ってくる本音みたいに言ってきた。
「というか俺ってそんな風に映っていたのか」
「ええ。少なくとも、クラス内では君のことを良いと思うのは本音くらいよ」
はっきり断言する鷹月。そこまで言う必要はないだろ。
少し悲しんでいると鷹月が俺に聞いてきた。
「次、どっちに曲がるの」
「右」
「そう」
すると鷹月も右に曲がる。俺の記憶が正しければ鷹月は左だったはずだ。
「いつの間に部屋替えしたんだ?」
「してないわ。ただ、君の部屋に用があるのよ」
と言ってくる鷹月に対して俺はある推論が浮かぶと同時に疑問に思うことがあったが、その疑問はすぐにケーキで解消された。
「なるほど。だからこの時間にあんなところでうろついていたのか」
「な、何が?」
「いや、さっきまで本音のためにそのケーキを食堂の厨房で作っていたんだろ?」
そう言うと鷹月は驚く。
「どうしてそれを?」
「簡単な推理だよ。本当だったら食堂でされるはずの二人の優勝パーティが何故かされていなかったけど、一時間ぐらい前にオーブンが開いたからさっきまで作っていた。そして俺の部屋でやっているのを誰かから聞いて、作り終えて俺の部屋に行く途中にばったり会った。ちなみにオーブンが先に開いていたのは、女は「デザートは別腹」とか言ってたくさん食べるから、最初のうちに作り終えてた」
「正解。ちなみに聞いたのは生徒会長よ。たぶんあの人も妹さんのお祝いに来ていたんだと思うだけど……」
体が震え始める鷹月。その時点で察してしまった。
「笑顔でその光景を見ていたんだけど、まったく目が笑ってなかった」
「極度のシスコンだから仕方がない。ってのはともかく、どうしてあの二人のお祝いじゃなくて男子二人が祝われているのか知ってるか?」
「……怒らない?」
「怒らない」
やっぱり俺が原因だろうなとか思っていると、
「その、あの戦いは更識さんの機体が強すぎたから勝てたからって、圧倒的な機体性能の差だって。私はあまりそんなことはないって言ったんだけど、周りが―――」
「……まさかと思うが、谷本とか―――」
「癒子達なら既に部屋にいると思う。凰さんも一緒だったし」
それは意外だった。
凰のことだから織斑の方にいると思ったが、どうやらそうではないらしい。
「最初は凰さんも参加していたんだけど、その話を聞いてみたいで」
「それで抜けて先に行ったと。さすが軽量級だな」
茶化しながらそう言うと、鷹月が続ける。
「それに本音を祝うと桂木君も来るかもしれないからって」
「………否定しないな」
どうやらあの「爆☆裂☆ダイナマイツ♪」はかなり不評だったようだ。
部屋に着いたのでノックして入ると、俺は早速別の場所で時間を潰しておいた方がいいかもしれないと思った。もう満員だからだ。
「わぁ~ケーキだ~それにゆうやんだ~」
「俺はケーキのおまけか?」
「ううん~。それとね~さっきかいちょーに聞いたらね~、この部屋に泊まっていいんだって~」
「「「ダメ!!」」」
すると谷本、相川、鏡が待ったをかける。
「本音、そんなことしたら食べられるんだよ! エッチなことをされるんだよ!」
「ですが今までそのようは報告を聞いたことはありませんが?」
「もしかして桂木君って、ヘタレ」
「………今度模擬戦で俺VS訓練機全員であの爆弾使おうかな」
瞬間全員顔を青くする。まったく。俺がヘタレなわけがないだろう……へタレだから我慢しているわけじゃ、ないからな?