ラウラの問題は一度保留にしておこう。ただでさえ通えること自体が奇跡なので、今はこの幸運を大事にしておこう。
ちなみに今は俺は一人で、ラウラは先程会った凰や布仏に任せておき、俺は織斑先生に呼び出されたので仕方なく、本当に仕方なく行く。別れる時に涙目になるラウラが可愛かったので理性が吹き飛びそうになった。
(最近多いよな、呼び出し)
別に俺は悪いことをしたわけではない。呼び出されてすることはほとんどが雑用だ。最近ではもうすぐ始まる臨海学校のしおり作製をした。
いつもは職員室なんだが、今回は朝だからか寮長室らしい。周りが「いよいよ魔王が千冬様を犯すんだわ」と言い始めていたんだが、
荷物は財布とスマホとミュージックプレイヤーぐらいで、後はラウラが持つと言うので持たせているが、椅子に座って大事そうに俺の鞄を持ち、周りを警戒するラウラの姿を想像するだけで萌えてしまった。
ドアをノックし、ノブに手をかけると、
『待て』
何故か重苦しい声を出す織斑先生。
するとドアが少し開き、片手で台車を出す。
「これを持って本校舎の事務室に行ってくれ。後は事務員に従え」
「はぁ…」
それを受け取ると、織斑先生はドアを閉める。
(まさか、引きこもり?)
いやいや、あんな暴力大魔神の織斑千冬が引きこもりなんて絶対にないな。
そう思いながら本校舎に台車を抱えながら歩いていると、何人かがこっちを見る。
「あれ、桂木悠夜じゃない?」
「そういえば最近、千冬様を従えているって話よね?」
何だろう。絶対にありえない話をしていることだけは確かなんだが。
気にせず歩いて事務室に行くと、そこで机が渡された。
後は教室に持っていくだけでいいらしく、台車をまた事務室に戻せという話だ。
ちなみに机を台車で運ぶのには理由があった。
そもそもIS学園は従来の勉強机とは違ってハイテクであり、簡易パソコンとしてインターネットに接続できるようになっている。それなりの耐久性はあるという話で、少しぶつけても問題はないだろうが一応は念のためらしい。
(というかまた転校生が来るのかよ)
これで今年四人目だなと思っていると、後ろから声をかけられた。
「桂木君、久しぶり」
「……………いや、その言葉はヤバイだろ」
そう返すのは、話しかけてきたのが化けて出てきた人間だからだ。
「デュノアインダストリーのテストパイロットを務めてます。シャルロット・
その教室は静まり返っている。そりゃそうだろう。死んだと思った奴がこうして生きているんだから。
「えっと、デュノア君なの?」
「よく間違われますが、別人です」
実は本人だったりするんだが、公式的にはシャルル・デュノアとして転校してきた女は死んだことになっている。
(まさか、戻ってくるとはなぁ)
織斑が言うには夜にデュノアの荷物は回収され一人で暮らしているって話だったが、よもやそれが取り置きされているとは思わなかったのだろう。ちなみに織斑が言っていたのを俺は聞いただけで、直接話してはいない。
まぁ、当然と言えば当然かもしれないが、クラスは騒がしくなった。
「質問は後にしろ。さて、今日は通常授業の日だったな。IS学園生とはいえお前たちも扱いは高校生だ。赤点など取ってくれるなよ、特に織斑」
その時に織斑を見た織斑先生。そして今度は俺を見てくるのでラウラを膝の上に乗せてガードする。
「それと、来週から始まる校外特別実習機関だが、全員忘れ物などするなよ。三日間だが学園を離れることになる。自由時間は好きに遊んでいいが、羽目を外し過ぎないようにしろ」
そう言ってしおりを配り始める。それは俺が閉じたしおりで、一枚一枚丁寧に端っこを折ったので自分で言うのもなんだがかなり綺麗に折れていた。
ちなみに自由時間は本当に自由なので布団を敷いて一日中寝ようかと思っている。たまには自由が欲しいです。
「ではHRを終わる。各人、今日もしっかりと勉学に励めよ」
「あの、織斑先生。今日は山田先生はお休みですか?」
鷹月がそう質問する。確かに今日は珍しくいない。
「山田先生は校外実習の現場視察に行っているので今日は不在だ。なので山田先生の仕事は私が今日一日代わりに担当する」
「ええっ、山ちゃん一足先に海に行ってるんですか!? いいな~!」
「ずるい! 私にも一声かけてくれればいいのに!」
「あー、泳いでるのかなー。泳いでいるんだろうなー」
なるほど、それで俺が呼ばれたわけだ。まぁ、日頃から忙しそうだしゆっくりしてくれればいいんだが。
「あー、いちいち騒ぐな。鬱陶しい。山田先生は仕事で行っているんだ。遊びではない」
そう説明すると少し伸びた返事をするクラスメイトたちだった。
■■■
その日の放課後、俺は轡木研究所に来ていた。
というのも新兵器が完成したということで黒鋼を預けにきていたのである。
「で、ラウラも入れてよかったんですか?」
所長でもある轡木さんに尋ねると、「構いません」と返事が返ってきた。
「今のあなたは彼女がいれば安定するでしょう?」
「それもそうですが……」
ちなみに肝心のラウラは見るものすべてが珍しいのか、食い入るように見ている。
「……失礼ですがこの研究所って暇なんですか?」
「……まぁ、わからなくもないですが」
ラウラが見ているものは全部プラモデルであり、ガン○ムを初めとするリアルロボットやエ○ァ、それにO○系列の機体までも作成しているようだ。
「原因はあなたと更識簪君なんですがね」
「ホントすみませんね。それで、どこを改造するつもりなんですか?」
「前々から桂木君が要請していた足元です。本来ならば車輪にするはずだったんですが、今度の臨海学校でのテストに向けてホバー機能の強化をと思いまして。後はマントの装着でしょうか」
「マント?」
マントと言えばアンパ○マンが脳裏に浮かぶ。考えてみればあの自分の顔を上げるシーンって、人間に見立てると友食いだよな? 友達の顔を食っているんだから、友食い。
「はい。対エネルギー兵装として用意しようと思っています」
「つまり俺に海賊になれと?」
「ISは元々宇宙進出用ですから、さしずめ宇宙海賊とかですか?」
―――アハハハハハ
お互い笑いあっているが、この人が言うと冗談に聞こえないのが不思議だ。
しかし俺たちの会話には興味がないのか、ラウラはさっきからプラモデルに注目していた。
(今度外に出る時に一緒に買ってやるか)
妹というより娘の世話をしている感じで少し微笑ましかった。
■■■
日が進んで日曜日。
明日から臨海学校なんだが、その用意とラウラの着替えをために俺は一応変装していた。一応私服とはいえ、変装しなきゃばれるだろう。
もっとも名前でばれるが、考えてみれば「ユウヤ」という読みの名前なんてたくさんあるし気にしなくていいだろう。
黒鋼も既に手元に戻っているし、問題はない。
「………まだ来てないか」
先に出たはずのラウラの姿はない。一瞬攫われたと思ったが、ラウラは元軍人だからそれなりに戦えると思っている。
(いや、むしろその考えが甘いのか?)
いくらラウラでもISに対しては無力だし、やっぱり俺が常時付くべきだったか。ラウラに対しての恨みだったらドイツ人だったら持ってそうだしな。
(……どうしよ)
今更ながら事の重大さに気付いた俺はなんとか連絡がつかないか心配していると、
「何しているのよ、悠夜」
後ろから凰が俺に声をかけてきた。どうやら凰も買い物を行くようで私服に着替えているが、その隣にいる女のこの方が重要だった。
「どう? アタシの服を貸してあげたら意外に似合って―――」
部屋を出た時は制服だったのに、いつの間にか紺色のワンピースを着ていた。それが意外にも似合っていて、最近楯無によって強制的に手入れされていて綺麗になっている髪もあってますます綺麗さが際立っている。
そして気がついたときには、ラウラを思いっきり抱きしめていた。
「いや、ここって一応外だから……」
凰に言われて目を覚ました俺は、ラウラを降ろす。
「悪い。つい可愛くて」
「い、いえ。嬉しかったです」
「ってお前らは初々しいカップルか!!」
凰から突っ込まれて再び正気に戻ったところであることを提案した。
「そうだ凰、お前も一緒に来てくれないか?」
「な、何でですか!?」
「別にアタシはいいけど……お邪魔じゃない?」
と、俺とラウラを見て凰は言うが、俺はここで重要なことを思い出したのだ。
「今日は水着を買うついでにラウラの衣類も一式買おうと思ったんだけどな、あることに気付いた。俺、女のその手の店に入れない」
「………あ」
「………?」
凰も事の重要性を理解してくれたようだ。凰は頷き、その後にため息を吐いた。
「しょうがないわね。仕方がないからアタシも付いていってあげるわ」
「ナイスだ凰。後で何か奢ってやるが、せめて安いのにしてくれるとありがたい」
だって俺は働いていないぷー太郎だから。
「いや、別にいいわよそれくらい」
「そうか? まぁ、それは向こうで考えるとしてだ。二人とも、学生証は持ったか?」
本当なら「学生証」は大学から使われるものだが、IS学園の身分証明書が手帳とカードリーダー式の学生証になるのだが、その二つは分離が可能で大抵の人はあまり使わない手帳は鞄に入れて、財布に学生証を入れている。
「持っているぞ。しかし、これが何の役に立つというのだ?」
「俺が子供を誘拐して連れまわしている風だと勘違いされないためだ」
キッパリと言ってやると二人が納得した。
「……まぁ、確かにそう思われそうね、アタシ達」
「そんなものなのか?」
「そんなものなんだよ。特に最近は「犯しやすい」という理由で小・中学生が狙われるから」
何事にも過敏になる必要がある。それが生まれて16年と少しで知ったことだ。