前話の千冬が一夏に注意しているところで、一夏が見ている風になっていましたが、あれは千冬が悠夜を見たという表記にしています。
もうしわけございません。
IS学園には駅があり、生徒たちは小型モノレールに乗って「IS学園前駅」まで移動してから通常のモノレールに乗り換えて「レゾナンス駅」に向かう。小型モノレールはわかりやすく言えば通常の車二台分の大きさがあり、こういう人の行き来が多い日―――つまり外出届けが出された数によって運用数が決まる。最大は15台であり、今日はたくさんの人間が臨海学校前に水着を買いに行くのでフル稼働しているようだ。
とはいえ俺たち三人ならば問題ないだろうと思いながらも、俺が最初に行こうとしていたのは銀行だった。
(……金は少ししかないが、別にいいか)
本当は良くないがこの際仕方がないということにしておこう。
そう思って俺は近くにあるATMで金を下ろそうとする前に先に通帳記入をして置こうと思って操作すると、信じられない額が表示されていた。
(………なんで、資金が120万もあるんだ?)
元々20万はあったはずなんだが、気がつけば100万も振り込まれている。まぁ、賞金の50万中30万ぐらいは入れていたはずだから実質70万だ。
実は通帳には詳しくではないが、どこから振り込まれたかということぐらいは表示される。「クツワギ」とあったので俺は早速電話した。
『もしもし、どうしましたか桂木君』
「あの、研究所から謎の金が振り込まれているんですが……」
というかどうやって知ったんだろう? 一番そこが気になる。
『ああ。実はそれ、給料です』
「………………what?」
『いやぁ。仮にも黒鋼の操縦者としてある種の変態武装のデータを取っていただいている方にタダ働きさせるのはもうしわけがありませんし、なによりお金で解決しようとしているわけではありませんが、桂木君は四月からずっと迷惑をかけているのでその謝礼ということで振り込んでおきました。あ、口座はおばあさん聞いております』
………マジかよ。
あまりのことに驚きを隠せなかった俺は唖然としてしまった。
『迷惑でしたか?』
「いえいえ、とんでもないです。すみません。ありがとうございます」
電話を切ってもう10万引き出しておく。すると後ろにはラウラが待機していた。
「兄様、私にATMの使い方を教えてもらいたいのですが………」
「え? ラウラってキャッシュカード持ってたのか?」
「はい。今朝、クツワギジュウゾウという人が私にくれました」
もう一度確認すると、ラウラはラウラで持っていたらしい。と言ってもドイツ軍に所属していた時の資金で俺の全財産なんて遠く及ばない云千万という金だったが。
ちなみに本当にどうやったのかはわからないが、渋ったドイツの税金云々がなんたらかんたらあったらしいが、マトモに理解したらダメな気がした。
「なるほど」
「とはいえ今日は俺が出すから金はいらないけどな」
ラウラの手を引いて戻り、俺たちは一度水着方面へと脚を運ぼうとしたところで不審者を見つけた。
「………あの女狐、いつの間に一夏と」
篠ノ之、お前はとうとうそこまで落ちたか。
そんな感想を抱いてしまったが、同時に何故か見ていられなかった。……一応、注意しておくか。
「篠ノ之」
「!?」
名前を呼ばれて振り向く篠ノ之。その際、思いっきり胸が後から来たのだけを言っておく。
「お、お前たち、ここで何をしている」
「少なくともアンタと違ってストーキングをしているわけじゃないわね」
凰がそう答えると篠ノ之がそれを否定する。
「ち、違う、これはそういうのでは―――」
「いや、完璧にそうだと思うんだが……」
そう突っ込むと俺を睨んでくる篠ノ之。ホント俺のこと嫌いだよね、こいつ。
「で、今は誰がいるんだ?」
そう言いながら俺は篠ノ之が見ていたであろう視線の先を見ると、そこにはデュノア改めジアンが織斑と一緒にいた。対外的には知り合ったばかりだが、彼女は元「シャルル・デュノア」だ。
「アンタ、本当に幼馴染?」
「早々に離脱したお前が言うことか?」
「いいか、ラウラ。おっぱいの大きさが男を落とす戦力の差でもあるが、今の世の中はまず性格だからな?」
「わかりました、兄様」
凰と篠ノ之のやり取りを見てラウラに学ばせていると、織斑たちはそれぞれ別れて水着売り場に入って行った。
「先に水着売り場に行くか。買うものが少ない方を先にした方が効率いいし」
「そうね。行こう、ラウラ」
「うむ」
「お、おい!」
後ろから篠ノ之が何か言っているが、気にしないことにした。だって織斑にばれない自信があるんだもの。俺の隠密・逃走レベルは伊達じゃない…!
ちなみにここのショッピングモール『レゾナンス』はありとあらゆる分野の店が並んでいて、「ここになければ市内のどこにもない」と言われるほどらしい。らしいというのはそもそも俺はネット通販でそろえる派なのであまり外に関しては詳しくない。唯一プラモぐらいだろうな。
そしてここは「駅前」という名称を持ったり、駅は普通に「レゾナンス駅」だったりとややこしい……と思ったが、単純に下でも前と呼んでいると思えば問題はなかった。
(さて、どれにするかな)
男子売り場で水着を選んでいると、隣に織斑がやってくる。気付かないのは俺がちょっとした技を使っているからだろう。
そのちょっとした技というのは「桂木流・気殺し」というもので、自分の気というか、気配を完全に立つ方法だ。祖母に小さい頃教えてもらったことがあり、かくれんぼをする時によく使っていた手だ。
今時の水着を一着もらい、パーカーと一緒に持って先に会計を済ませる。そしてラウラたちの水着を見に行く為―――ではなくて、合流するために女性用の水着売り場に踏み入れる。意外だったのはカップルがいることで、意見を交し合っていたりする。とりあえず、リア充は死ね!!
心の中でエア友達持ちの女を思い浮かべながら心の中で叫ぶとラウラたちを探し始める。凰はともかくラウラは目立つからラウラを探した方がいいだろう。
「そこのあなた」
「………」
たぶん俺じゃないと思ったので無視していると、物をぶつけられた。
「無視すんじゃないわよ!」
「いや、「そこのあなた」と言われて振り向くのは自意識過剰な奴じゃないとないですよね」
水着をはたきながら答えるとその女性は睨んでくるが、すぐに気を取り直したようだ。というか、ため息を吐いていたから諦めたと思う。
「まぁいいわ。そこの水着、片付けておいて」
とその辺に散乱している水着を顎で示した。
(………仕方ないか)
今の世の中は女尊男卑。女が偉く、男は弱い。こういう時は素直にしておくにかぎる。それに俺がした方が水着(製作者)が喜ぶだろう。
「わかりまし―――」
「―――何で悠夜にやらせるんだよ。自分でやれよ。人にあれこれやらせる癖がつくと人間バカになるぞ」
「文○学園のバカの代名詞の肩書きを背負うあの男よりも致命的なお前が言うのか?」と反射的に言いそうになった。同じ頭が逝っているとしても、俺は絶対に向こうの方が好きだ。
ちなみに当の本人は俺の心情を理解せずに吐いた言葉を誇らしく思っているのかは知らないが、俺の隣に立つ。物凄く迷惑だ。
「……はぁ。あ、さっきの言葉は気にしないことにしてください。やりますんで」
「何言ってんだよ!? こんなこと、聞く必要はないだろ!」
と声を荒げる織斑。どうやらこいつは馬鹿なようだ。
「いいか。サルにもわかるように説明してやる。あの人は全くと言っていいほど家事ができないから俺たちを頼ったんだ」
「ちょっと待ちなさい! 私がそんな無能に見えると言うの?!」
「え………」
まさかの女性からの反論が来たので驚きを隠せなかった。そんなにおかしなことを言ったのだろうか?
「だって、あなたはそれができないから仕方なく俺たちみたいなハイエナに女性用の水着を触らせたのでしょう? そうじゃなかったら偉い女性が直に身に着ける水着を触らせるわけがないですから」
「え? 何で俺らがハイエナ―――」
「そ、そんなわけないじゃない。あんた達みたいな使えない男を使ってあげただけよ」
「なんだと!?」
どうして織斑はいちいちそう過剰反応を起こすのだろうか。
「まぁいいわ。そっちの男は立場がわかっていないようだし、どっちが上かわからせてあげる」
そう言って近くにいる警備員を呼ぼうとしたところでとある少女が動いた。
「―――ほう。どうやらその手を斬り落されたいようだな」
紅色の瞳を持つ幼き少女がそう言ってその女性をこかせ、馬乗りになった瞬間に女性の首にナイフを突きつけた。
「ひっ―――」
「なに、痛みは一瞬だ」
「ストップ! ラウラ、ストップな」
ナイフを隠してすぐにラウラを引き剥がす。どうやらナイフを常備しているようだが、何でそんなものを持っているのだろうか?
「あ、あなた、何で―――」
「しかし兄様、この女は兄様を扱き使おうとしたのですが」
「日本じゃこんなの日常茶飯事だから」
「そうですか? では手当たり次第兄様に害をなす人間を始末しま―――」
「しなくていいからね!?」
なんとかラウラを宥め、その女を見る。するとさっきのナイフが怖かったのか徐々に俺たちから離れようとしていた。
「おい」
「は、はい」
「次に兄様を扱き使おうとした時は―――貴様を殺す」
鋭い目を向けたからだけじゃなく、こっちからも警告してあげると、女性は一目散に逃げ去った。
俺はラウラを注意しつつ頭を撫でてあげる。方法が方法だが、俺を助けようとしてくれたのは事実だから。
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その頃、少し離れていたところで水着を選んでいる二人がいた。
「あの、かんちゃん?」
「……何?」
「どうして私に狐を差し出すのかなぁ?」
「本音はそれが似合うから」
簪はそう言って狐の着ぐるみパジャマに似た水着を本音に差し出す。
(それに、いつも同じようなものを着ているし)
というのはあくまで建前だが、簪にはある目的があった。
(絶対にその胸は犯罪)
そう言って本音の胸部にある体型からはおおよそ予想ができない大きな胸を見る。自分にはないそれはできるだけ目立たせたくなかった簪は日頃から来ているパジャマと同じような水着を本音に渡すことでその豊満な胸を隠させることにした。
「それに、織斑にマジマジと見られるかも」
「じゃあ買う~」
そう言って本音は簪の思惑に嵌るのだが、簪はまだ自分の容姿を自覚しておらず、悠夜が内心簪のことをどう思っているのか知らない。
(……たまには、甘えてもいいかな)
そんな思いを抱きながら、簪は自分で思うできるだけマシなコーディネートをするのだった。