IS~歪んだ思考を持つ男~   作:reizen

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#46 臨海学校が始まっちゃった件

「いたぞ! こっちだ!」

 

 遠くから男たちの声が聞こえた俺は、すぐさま近くの塀を越えて不法侵入する。緊急だから仕方がないとはいえ、これで前科持ちなのは嫌だが緊急時なので仕方がないと思って欲しい。

 

(………何で警察も参加しているんだよ)

 

 犯罪はやむなしだがしたのはコレが始めてだ。おそらくあの女があらぬことを言って参加させたんだろう。そんな簡単な言葉に騙されるなんて、犬共も落ちたものだ。

 

(ともかく街から離れないと……)

 

 そう判断して俺はそこから逃げる。

 

「見つけたよ、お義兄ちゃん」

 

 声のほうを振り向くと、そこには義妹の幸那(さちな)の姿があった。

 

「……幸那。見つけたって、どういうこと……?」

 

 ―――ヤバイ

 

 寒気が俺を襲う。今、ここで会ったのは間違いだと何かが叫ぶ。

 

「こういうことだよ」

 

 そう言って幸那は俺に拳銃を向ける。

 

(………いくら何でも、無理がある)

 

 銃弾を回避するなんて、普通に無理だ。

 だから俺はまだ幸那がトリガーに指をかけていないことを確認し、じりじりと接近する。

 

「一体これは何の真似だ、幸那」

「お母様の命令を守っているだけ」

「………」

 

 あの親は何で娘に銃を持たせている、というか撃たせようとしているんだよ。

 親として失格だろと思っている暇はないが……あれ?

 

(…目がおかしくないか?)

 

 虚ろっていうか、明らかに光が宿っていない。

 そんなことに違和感を感じながら、俺はそこから逃げ出す算段を立てる。とりあえず、

 

 ―――ガンッ!

 

 銃身を蹴って上にする。そして横に逸れさせようとするが、俺は結局撃たれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――やん! ゆうやん!」

「………本音?」

 

 目を開けると、そこには本音とラウラの顔があった。

 どうやら俺は眠っていたらしい。それにしても頭部が柔らかい気がしなくもない。

 

「大丈夫ですか、兄様」

「ああ。大丈夫だ、問題ない」

 

 そう言って俺は上体を起こす。買っておいたスポドリを飲み、座席にもたれる。

 ちなみに今日は臨海学校初日で、今はバスの中にいる。俺の隣の窓際には本音が座っており、通路を挟んでラウラ、鷹月と座っていた。本当なら俺の隣は織斑になるはずだったんだが、織斑大好きクラブと本音とラウラがそれを阻止。あまりの勢いに織斑は仕方なく頷いて今はジアンと一緒に座っている。

 

(嫌な夢を見たな)

 

 あれは俺がIS学園に行く前、願書が提出された後に報告された時、義母が電話に出たのだ。女尊男卑の思考を持つ義母のことだから、間違いなく俺を売り渡すだろうと思ったからだ。

 案の定そのつもりだったらしいが、先手を打って提出しておいたからそれは無理。怒った義母は組織を使って俺を追わせた。最初は警察に駆け込んでいたが、女性府警だった奴もそうで俺を売ろうとしたので仕方なく窓から逃げた。バイクを奪って逃げたが途中捨てたけどその辺りのことは知らない。捨て置いた時にその府警が俺を売り渡そうとした証拠を置いていったから問題はないと思うが。言ってこないということは問題なかったんだろう。

 

「ところで本音。さっきから顔が赤いが、もしかしてお前の胸を俺が枕にしていたからか?」

「………」

 

 コクリ、と頷く本音を見てさっきの柔らかいものの正体を理解する。

 俺から倒れこんだ可能性が大きいが、それでも今の状況を察するに本音はずっと俺を支えてくれたんだろう。思わず抱きしめて撫で撫でする。外野がうるさいが気にしないことにした。

 

「ありがとな、本音。おかげで気持ちが楽になった」

「……うん。いいよ」

 

 このまま抱き枕にしたい気分だが、それはあえて自重する。

 

「―――海! 見えたぁ!!」

 

 ずっとトンネルの中だったので暗かったがそれも終わり、ようやく見えた海に女たちがテンションを上げる。

 俺は逆にテンションが下がり、後ろにいる四十院に断って座席を下げてリラックスする。

 

(砂浜一面には女たちがビキニやらなにやらで遊んでいるから、鼻血は必須だし欲情しないとは限らないし……)

 

 ギャルゲーならばむしろ二人きりになる穴場の洞穴にあえて隠れてやり過ごそう。そして一人だけでいるべき―――

 

(って、それじゃあヤバいな)

 

 もし俺が敵ならば人気がなさそうな洞穴に行くのは必須だ。俺がギャルゲーをしていることを知っているならば、デートスポットの候補として上げる。

 

(ここは大人しく旅館で寝るか)

 

 心身ともに安全なのは部屋だと気付いた俺は、自由時間を部屋で過ごすことに決めた。

 

「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ」

 

 中には背もたれに前からもたれて話している奴もいたからか、織斑先生は注意する。恐怖と暴力で風紀を保っているからか、反論した生徒は一人もおらず着席した。

 程なくしてバスは目的地の花月荘に到着し、四台のバスから生徒たちが降りて整列する。

 

「ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」

「「「よろしくお願いしまーす」」」

 

 織斑先生の合図に合わせて、生徒全員が挨拶する。俺は気配を消して移動した。

 

「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね」

 

 むしろもう少しその元気がなくなってくれればいいと思っていたりするがな。元気が良すぎて俺が怪我をしているから。

 

「あら、こちらが噂の……?」

 

 どうやら女性が織斑に気付いたようだ。

 

「ええ、まあ。今年は二人も男子がいるせいで浴場わけが難しくなってしまって申し訳ありません」

「いえいえ、そんな。それに、いい男の子じゃありませんか。しっかりしてそうな感じを受けますよ」

「感じがするだけですよ。桂木、前に来い」

「既にいますが?」

 

 気配を出して返事をすると、全員が驚いた。

 

「そ、そうか」

「はじめまして。桂木悠夜です。三日間お願いしますね」

 

 殺気を出しながら挨拶したのが悪かったらしく、後ろから織斑先生にチョップされた。

 

「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」

「うふふ、二人ともご丁寧にどうも。清洲(きよす)景子(けいこ)です」

 

 本人は気付いていないようだが、何度か織斑の方に視線が行っているのを俺は見逃さなかった。

 俺は誰にも気付かれないように自然に溶け込みながら元の場所に戻る。

 

「それじゃあみなさん、お部屋の方にどうぞ。海に行かれるのは別館で着替えられるようになってますから、そちらをご利用なさってくださいな。場所がわからなければ従業員に聞いてくださいまし」

「「「はーい」」」

 

 そして各々が部屋に向かう。俺も部屋に向かおうとしたが生憎場所が書かれていないのでわからなかった。

 

「織斑、桂木、ボーデヴィッヒ。お前たちの部屋はこっちだ。付いて来い」

 

 呼ばれたのはラウラも含めて名無し組みだ。そのことで本音が抗議したらしいが、正論で却下されたようだ。

 

「え? 何でらう―――」

 

 瞬間に織斑の股間にラウラの蹴りが入った。たぶんこれは「貴様のような奴が気安く名前で呼ぶな」と言いたいんだろうな。Sに目覚めないことを願うばかりだ。

 

「……ボーデヴィッヒ。さすがに股間は止めてやれ」

「わかりました」

「なぁ悠夜、おかしくないか? あの様子だと千冬姉が俺のどこを攻撃してもいいと言っているような気がするんだけど」

 

 別に間違いじゃないだろう。というかラウラの気持ちを理解した織斑先生に対して俺は驚いていた。

 

「桂木、ボーデヴィッヒの二人はここだ」

 

 そこは外から見ても7人ぐらいならば普通に入る角部屋だった。どうやら二人だけの部屋みたいだが、いくらなんでも贅沢が過ぎる。

 

「え? ちふ―――織斑先生、何で俺と悠夜が一緒の部屋じゃないんですか?」

「そうなった場合、生徒たちが入院する可能性があるからだ」

 

 俺と織斑が同室→女たちが現れ、俺を追い出す→ばれないように荷物を投げ捨てる→回収した俺は十中八九本音たちに泣きつく→ラウラがナイフで強襲する→下手すれば死人が出る

 

「ああ。なるほど」

「え? どういうことだよ」

「自分で考えろ」

 

 そう言って俺はラウラと一緒に部屋に入る。和室だが広く、快適だった。冷蔵庫は空だが使えるようなので、買ってきたジュースを入れるようにしよう。

 そんな作業をしていると、ラウラが俺の方に近づいて待機していた。

 

「どうした?」

「いえ。私にも何か手伝えることはないかと思いまして」

「大丈夫」

 

 むしろなさそうと予想してシュンとなっているラウラがいるおかげで和んでいる。

 

「ラウラ、先に海に行ったらどうだ? 俺も後から行くから」

「いえ。私は兄様と一緒に行きたいので」

 

 あまりの献身さに襲いたくなる。買い物の時にお子様ランチを食べて満面な笑みで満足感を出した女の子と同一人物だとは思えなかった。

 

(これ、部屋にいたら「一緒にいます」とか言いそうだな)

 

 確かに自分の身も大事だが、何よりもラウラの交流関係を広めたいので水着を用意して更衣室へと移動―――

 

 ―――ドカ―――ンッ!!

 

 急に何かが落下したような音がして、俺は反射的にラウラを庇おうとする。

 だがラウラも俺を守ろうとしたらしく、俺たちは抱き合う形となった。

 

「………」

「………」

 

 気まずいです。はい。

 とりあえず俺たちは離れて距離を取り、数分ぐらいして更衣室に向かう。

 渡り廊下に来ると、何故かオレンジ色の機械があった。従業員が仕事を放置したって割には真新しい気がした。

 

「………アイツか」

 

 どうやら様子を見に来たらしい織斑先生。この機械の持ち主が誰か知っているようだ。

 

「知っているんですか、織斑先生」

「お仲間ですか、織斑先生」

「……ああ。そうだな。桂木には死ぬまで殴る権利がある奴だ」

 

 ラウラと俺の順に質問すると織斑先生はそう答えた。アンタの弟しか思いつかないんですけどね。でもたぶん違うだろ。

 

「桂木、ボーデヴィッヒ、この人参については放置しておけ。以後、触れることも許さん」

「はーい」

「わかりました」

 

 そう返事して俺たちは更衣室へと向かう。

 しかしあの人参、かなり機械的だったな、と思いながら移動していると、ラウラが男子更衣室まで付いてきた。

 

「ラウラ、女の子はあっちだ」

「私もそっちで着替えます」

「問題だからな。女子更衣室で着替えてきなさい。……織斑に裸見られたいなら構わないけど」

「向こうで着替えます。兄様、また後で」

 

 そう言って女子更衣室に入るラウラ。………織斑、完全に嫌われているな。人のこと言えないけど。




本当なら本音も一緒の部屋にしたかったんですけど、ラウラと違って一応普通の生徒なので止めました。
学園に認知されているラウラの事情。
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