その頃、IS学園では―――
「暴走、ですか」
「はい。どうやらアメリカの機体が一機、日本に向かってきているみたいです」
楯無と虚は授業中にも関わらず呼び出され、学園長室で菊代から説明を受けていた。
「それで、私に行く準備をしろと?」
「そうですね。現在、花月荘に滞在している教員たちが対応をしていますが、少々厄介なことになりまして」
そう言って菊代は自分のパソコンのディスプレイを向ける。
『通達
現在行われている暴走事件の対処を生徒たちに行わせること』
■■■
「では、現状を説明する」
旅館内の大座敷『風花の間』に集められた俺たちは薄暗い中で表示される空中投影ディスプレイを見ていた。
「二時間前、ハワイ沖で試験稼動にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS『
確か軍用って禁止されていたはずなんだが、堂々と法律破ってどうするよ。まぁ、所詮人間が考えたものなんだからあってない様なものだが。
「その後、衛星による追跡の結果、福音のはここから20km先の空域を通過することがわかった。時間にして50分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった」
ということは教員を中心に陣を布いて、俺たちがフォローする形なんだろうか。でもそんな中心になって戦える奴っていたのか?
「我々教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」
………マジですか。
一瞬驚いたが、考えてみればそうするしかないだろう。俺たちはこういうことには慣れていないが、かといって情報の塊でもある専用機を貸し出すなんて真似ができるわけがない。
ということは俺たちが戦って落とすしかなくなる。専用機の方が機体スペックは高いからな。辞退したいが、専用機持ちの機体スペックを考えれば、俺と簪の黒鋼と武風が一番高い。どっちも万能タイプだしな。
(それに簪は日本の代表候補生だし、矢面に立たされるのは当然か)
だとすればこの中でコンビを組みやすい俺が出るしかない。命のやり取りをするのは初めではないから、まだ役に立てるだろう。
「それでは作戦会議を始める。意見がある者は挙手をするように」
「はい」
即座にオルコットが挙手した。
「目標の詳細スペックのデータを要求します」
「いいだろう。しかしこれらは二カ国の最重要軍事機密だ。決して口外するな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による際算と最低でも二年の監視が付けられる」
「了解しました」
それに倣って俺たちは頷き、データを見せてもらう。
「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……わたくしや更識さんのISと同じく、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」
俺もできますけどね。黙っておきますけど。
「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。厄介だわ。しかもスペック上では甲龍を上回っているから、向こうの方が有利……」
「この特殊武装が曲者って感じがするね。ちょうどリヴァイヴ用の防御パッケージが来ているけど、連続しての防御は難しい気がするよ」
「しかも、このデータでは格闘性能が未知数だ。持っているスキルも武装もわからん。偵察は行えませんか?」
凰やジアン、そしてラウラも会話に入る。ラウラが織斑先生に尋ねると、彼女は首を横に振った。
「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。最高速度は時速2450kmを超えるとある。アプローチは一回が限界だろう」
…………それくらいならば問題ないな。そして俺が簪と一緒に偵察に出たとすれば、簪の面目も潰れないだろう。
「一回きりのチャンス……ということはやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」
立候補しようとしたところで山田先生がそう言い、全員が織斑を見る。
「え、えっと……」
状況がわからないようで、織斑は俺を見てきたが代わりに凰が言った。
「一夏、アンタの零落白夜で落すのよ」
「それしかありませんわね。ただ、問題は―――」
「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね。エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいだろうから、移動をどうするか」
………あの、ラウラさん。そんな複雑そうな顔をしないでもらえると嬉しいかな。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ! お、俺が行くのか!?」
「「「当然」」」
三人が揃ってそう言った。
「織斑、これは訓練ではない。実戦だ。もし覚悟がないなら無理強いはしない」
「やります。俺がやってみせます」
姉に言われてやる気を出す織斑。マジでこいつに恋する奴は不幸だなと思う。
「それでは作戦の具体的な内容に入る。現在、この中で最高速度が出せる機体はどれだ?」
「それなら、わたくしのブルー・ティアーズが。ちょうど本国から強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られてきていますし、超高感度ハイパーセンサーも付いています」
という情報を聞いて、俺の中で徐々に作戦が纏まっていく。
ちなみにパッケージというものは簡単に言えば換装で、用途に合わせて色々と組み合わせるようだ。ただ、仕様がよく聞く「フルアーマー型」であり、戦闘中に換装できるわけではない。……もっとも、俺は変形だけじゃなく換装もできるが。
「オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?」
「20時間です」
「ふむ……。それならば適任だな」
そして俺はすかさず手を挙げた。
「どうした、桂木」
「俺とかん―――更識さんが偵察に行きましょう」
「何!?」
このタイミングでそんなことを言ったからか、全員から注目を浴びる。
「待て。ならばあの時どうして挙手しなかった。それにお前たちの機体では難しいだろう」
「生憎俺たちの機体は「国として作っているもの」とは違って「エースパイロットの欲望を叶える主人公機」がコンセプトなので。俺たち二人ならば撃墜は無理でもそれなりに削れるかと。なので俺たちが福音を足止め、そして織斑とオルコットのセットで死角から強襲、という形を取るというのはどうでしょうか?」
我ならが上手い作戦だとは思った。
だがこれは簪が出るかどうかにかかっている。もし彼女がその気がないならば、俺が単機で行くしかないだろう。
「………確かにそうだな。それならばそれに―――」
「待った待-った。その作戦はちょっと待ったなんだよ~!」
突然上―――屋根裏からさっきの女が現れて降りる。いくらあの時は自分の妹に機体を渡すという名目があったとはいえ、ここではそれが通じないだろう。いくらISを作った人って言ってもだ。
「ちーちゃん、ちーちゃん。もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリンティング!」
「…………出て行け」
頭を押させる織斑先生。さっきのスタンガンも使えないからだろうな。
「聞いて聞いて! ここは断!然! 紅椿の出番なんだよっ!」
「………立場をわきまえろ。あの時は専用機の譲渡させるために許可してやったんだ。今は違う」
「え~、でも~、ちゃんと許可証があるし~」
それを聞いて驚いたのがほかでもない織斑先生だろう。何で許可証なんてものを発行しているんだ、大人たちは。
「紅椿のスペックデータを見てみて! パッケージなんてなくても超高速機動ができるんだよ!」
織斑先生の周りにいくつかディスプレイが展開される。説得を試みているらしい。換装なしってちょっと俺的にはマイナスかなぁと思ったり。
「紅椿の
瞬間、俺の脳裏にかつての愛機が過ぎる。似たようなものだが俺もそれを使用していた。
それを思い出したのか簪を俺を見た。
「説明しましょ~そうしましょ~。展開装甲っていうのはだね、この天才の束さんが作った第四世代型ISの装備なんだよー」
………確か今って第三世代の機体がテスト機の状態だったよな? それを超えて第四だと?
「はーい、ここで心優しい束さんの解説開始~。いっくんのためにね。へへん、嬉しいかい? まず、第一世代というのは『ISの完成』を目標とした機体だね。次が『後付武装による多様化』の第二世代。そして第三世代が『操縦者のイメージ・インターフェースを利用した特殊兵器の実装』。
「は、はぁ……。え、いや、えーと………?」
それはお前が凡人に教えることができないからだろう……じゃ、なくて。
(こいつ、本気で言っているのかよ……)
はっきり言って、この女はおかしい。少なくとも、いくら事情が事情だからって妹に渡す機体じゃない。
「ちっちっちっ。束さんはそんじょそこらの天才じゃないんだよ。これくらいは三時のおやつ前なのさ!」
自分は周りとは違うとでも言いたいのか変なことをほざく目の前の女がしたことは異質でしかなった。機体を持ってきました、それはいい。だが持ってくるならばせめて「スペック的には第三世代兵器の第二世代IS」にするべきだった。篠ノ之の性格上、そういった風の機体の方が使いやすいだろう。
「具体的には白式の《雪片弐型》に使用されてまーす。試しに私が突っ込んだ~」
「「「え!?」」」
もしかして、白式に後付武装を入れられないのはそれも原因なんじゃないか?
「それで上手く行ったので、なんとなんと紅椿は全身フルアーマーを展開装甲にしてありまーす。システム最大稼動時にはスペックデータはさらに倍プッシュ!」
「ちょっ、ちょっと、ちょっと待ってください。え? 全身? 全身が、雪片弐型と同じ? それって………」
「うん。無茶苦茶強いね。一言で言うと最強だね」
でもそれって篠ノ之には扱え切れないだろ。
「ちなみに紅椿の展開装甲はより発展したタイプだから、攻撃・防御・機動と用途に応じて切り替えが可能。これぞ第四世代型の目標である
今度あったら、幸那にはちゃんとしたものをあげよう。世界的に常識的な奴を。撃たれたけど、無事だしそれでいいかな。
キチガイが何か言っているけど、もう気にしない。気にするだけ無駄だ。俺は俺のやり方を貫けばいいだけなのだから。
「―――束、いったはずだぞ、やりすぎるな、と」
「そうだっけ? えへへ、ついつい熱中しちゃったんだよ~。あ、でもほら、紅椿はまだ完全体じゃないし、そんな顔をしないでよ、いっくん。いっくんが暗いと束さんはイタズラしたくなっちゃうよん」
とりあえず、このゴミは置いておこう。今俺たちがするのは福音をどうやって倒すかということだ。
「それでは織斑先生、まずは俺と更識で迎撃、その後にオルコットが織斑を運んで奇襲、ということでいいでしょうか? 簪もそれでいい?」
「ちょっとちょっと、そこのゴミ! さっきの束さんの言葉が理解できていないようだね。お前たちの出番なんてないんだよ。それくらいわかれよ」
「………私は大丈夫。一緒に、ガンバロ」
簪は俺の心情を察してかそう言ってくる。ああ、もう。可愛いな。今すぐ犯したいぐらいだ。
「………いや、作戦は一部変更する。桂木、更識の二人でまずは福音と交戦に入れ」
「ちーちゃん!?」
異論を唱えたのはまずキチガイ女だった。
「どうして!? あんなゴミ二人がいなくてもいっくんと箒ちゃんならば余裕であんなものを倒せるんだよ!?」
「ゴミだというならばお前の妹だろ。おっぱいでかいのに未だに男一人落せてないんだし?」
「桂木、余計なことを言うな。束、いくらそんな紙切れがあろうと作戦の最終決定権は私にある。私に従ってもらおう。それが嫌ならばとっとと失せろ」
「―――!?」
信じられない、と言いたかったのだろうが、声が出なかった。こっちとしては信じられないのはお前だがな。
「そして次の作戦を言う前に、篠ノ之、お前は出る覚悟はあるか?」
織斑先生がそう聞くと、篠ノ之は躊躇うことなくそう答えた。
「あります」
「………そうか」
一応、緊急事態ということで紅椿の没収は見送られている状態だから使用はできるのだろう。それでも俺としてはあまり篠ノ之を出したくない。
「桂木、もし怖いならば辞退しろ。この状況で買って出たのは助かるが、正直お前には無理をしてほしくない」
それはクラス対抗戦とか学年別トーナメントとかのことを言っているのだろう。確かに俺、一人で頑張っているとは思う。
「大丈夫です。それに、武風の機動力は高いとはいえ福音に追いつけるわけではありませんから黒鋼は参加必須でしょう。ただ一つ、進言したいことがあります」
「何だ?」
「オルコットの参加を希望します」
するとオルコットが驚いたようでこっちを見る。
「理由は?」
「オルコットの射撃センスは高いからです。遠距離による射撃とビットによるかく乱は捨てがたいので。本当はAICを装備している機体が欲しいところですが………」
「生憎だがここにはないな」
ちなみにAICがあれば福音の動きを止めることができるので作戦成功確率はグッと上がる。
「あの、一つよろしいでしょうか?」
オルコットがおずおずと手を挙げた。
「どうした?」
「実はまだストライクガンナーの量子変換は終了していません。なのですぐに出撃はできませんが……」
「いや、射撃だけならば通常でも大丈夫だ。移動だけならば途中で俺が最適な場所に降ろす。なのでオルコットは少し離れた位置で福音の動きも追ってもらたい」
と言っても場所は限定されるが。
「ただ、もしすぐに別の武装が来て、作戦開始時刻に間に合うならそっちを量子変換してくれ」
「わかりましたわ」
「それとボーデヴィッヒ、轡木さんから聞いていると思うけど、念のために換装パッケージを用意しておいてくれ。ラウラにはオペレーターをしてもらいたい。織斑先生、構いませんか?」
「あ、ああ」
「そしてジアン、凰も来ている装備は先にすべて量子変換をしておいてくれ。今は出ないが二人は俺たちが逃した時のバックアップと花月荘に来たときの防衛を頼む」
「了解」
「わかったわ」
「それと山田先生、織斑と篠ノ之に高機動戦闘時におけるレクチャーを。もし二人がわかっていなかったらジアンと交代してもらえ」
「は、はい」
「えーっと、ほかには……あ、後は―――」
「桂木、一旦そこまでで構わん」
「え?」
気がつけば全員がこっちを見ていた。生徒だけでなく教員も。ヤバイ。完全にハマってた。
「……では、作戦開始は今から30分後の11時。各員、直ちに準備にかかれ」
織斑先生の合図でなんとか事なきを得た。はっきり言ってこれは物凄く恥ずかしいです。
ということで強制出撃。
これならばああした理由の裏づけもできますし、束の目的を考えればこれくらいはしそうだなって。
次回、福音戦! ………という前に活動報告に設定を載せようと思います。