(……やってくれたな、束)
現在、風花の間にある作戦本部は混乱していた。急に戦闘区域との通信が途絶えてしまったのだ。
「少し待て。織斑先生、オルコットと連絡が付きました。画面に出しましょうか?」
「そうだな。頼む」
「はっ!」
ラウラは投影されているキーボードを操作し、先程使用されていた大型の空中投影ディスプレイに表示させる。
『織斑先生。……その』
「どうした? 先程からそちらの状況がわからなくなっている。教えてくれないか?」
セシリアは言おうか言わないかを迷ったようだが、やがて口を開いた。
『作戦は失敗。一夏さんが撃墜され、箒さんの紅椿もエネルギー切れで、更識さんの機体もボロボロの状態です』
「……桂木はどうした?」
『更識さんによりますと、桂木さんはまだ交戦中だそうです』
「……そうか」
千冬は少し考え、やがてセシリアに命令する。
「オルコット、みんなを連れて一度帰還しろ」
『わかりました』
セシリアは通信を終了し、画面が消える。
「山田先生、整備科志望の生徒と整備担当の教員を集めて準備させてください」
「え? もしかしてあれを使うつもりなんですか?」
真耶は尋ねると千冬は頷く。
「はい。
そう言って千冬は風花の間を出て行った。
■■■
たった一発、一発だった。
ロングバスター砲の一撃で文字通り右翼を吹き飛ばした俺はすかさず全武装を福音に向ける。
ディザスターは文字通り天災。それを全弾発射した場合にどうなるかなんて普通の人ならば予想はつくだろう。
文字通り、厄災に見舞われた福音の装甲はボロボロだった。
「………これ、中身は死んでないだろうな」
今更ながら思ったが、ディザスターの集中砲火って結構凄いよな。ジャミングとか普通に撃っちゃったし。まぁ、中身が生きているならばそれでいい。ついストレスがマッハ過ぎてダメ押ししちゃったけど。
「まぁいい。これで止めだ」
やっておいてなんだが、ここまで撃てば流石の軍用ISといえど瀕死だろう。
そう思いゲヴェールを展開してこいつで殴ろうとすると、急に福音が輝き始めた。
(まさか自爆機能とか存在していたのか?)
他国に情報を漏らさないためにってことは使い捨てってことなのだろうかと疑問に思う。
右手を《フレアマッハ》を持ち、機動性を重視する。ロンディーネは回収されているし、さっきのノイズを考えたら今から申請しても来ないだろう。
そして光を解き放ち、先程までそこにいたはずの福音の姿はなかった。
だが俺はすぐに後ろにミサイル、バスター砲、ビーム砲を展開、発射した。
「予想通り」
後ろから奇襲すれば余裕で倒せると思ったのだろう。だが今ので奇襲は失敗と同時に咄嗟に自動反動制御を解除をしたため、俺は前方へと飛ぶ。
(動きが早くなっているな。これならば通常のほうがまだマシだろう)
そう思ってディザスターパッケージを粒子化して身軽になり複雑な軌道でそこから離脱。その後を福音が追ってくる。
その目の前でポイントオープンを使って対IS用手榴弾を爆発させる。だが進化して出力が上がったからかすぐに追いついてきた。
俺は久々に玄雷絶を展開し、突き出されるジャッジメント・ランスを防いだ。
(改めて思うが、これって
さっきとは段違いで動きもパワーも上がっている。これは普通じゃ勝てないな。
ため息を吐いて俺は気を引き締める。
「サードアイ・システム……起動」
途端に画面が切り替わり、福音の攻撃を予測し始める。
瞬間、福音の姿が消える。だがその動きすら予測し、上下ありえる部分を表示されて全方向に《燕》を配備し、撃った。
だがそれはフェイントだったらしく、前から来た。
「くっ―――」
二次移行で手に入れた新たなる銀翼が俺を包むように囲う。すぐにディザスターを展開、全方位に一斉射撃することによって吹き飛ばし、そこから離脱する。
福音はこちらに銀翼を向け、無限に光の弾を発射した。
「させるかよ!」
玄雷絶を回転させ防御するが、塵も積もれば山となる。爆発の余波で吹き飛んだ。
ポイント・オープンを使って周辺を一気に爆発させる。だが自分の体を回転させてすぐに逃げる。
(……ああ、もう)
今更ながら俺ではなく織斑が白式に乗っていることが悔やまれる。だがそんなことを思っても無駄なことはわかっているので思考を切り替え、燕を飛ばす。
燕が周辺から攻撃し始めると福音はそれを素早い動きで回避しつつ潰していく。
「マジかよ」
一瞬で燕が全滅するというヤバい事が起きた。
即座に離脱するために飛行形態へと変形し、上へと逃げる。だがそれよりも早く福音は追跡してきたのでロングバスター砲を発射。反動を利用してそのまま急上昇を図る―――が、
『La……LaLa』
それを平然と避けてさらに追ってきた。
今度はビーム砲を発射すると同時にミサイルを前方に発射。ロックオン・システムが作動して福音を襲うが、案の定福音はそれをランスで斬り落とした。ミサイルをその手の武装で斬り落とすなんて芸当、初めて見た。
残っている全射撃武装を展開。可能な限り広範囲だが福音に狙って攻撃した。
だがその間を通り抜け、俺の首目掛けてランスが飛んできた。
紙一重でそれをかわし―――
―――ブスッ
「………え?」
腹部辺りに激痛が走る。思わずそこを見てしまい、そこには福音の人差し指と中指が貫いていた。
「……………」
ようやくそれがどういうことかと理解した時、俺は既に落下していて、視界の端に福音が去っていくのを捉えていた。
―――男なんて、存在させてもらえるだけありがたいと思いなさいな
そんな言葉が脳裏に浮かぶ。それが誰の言葉だったのかは忘れた。いや、たぶんどうでも良かったんだろうな。
だってそんなことを知っても、俺に何の得があるかなんてわからないんだから。
■■■
再び風花の間。ようやく電波が良くなったかと思うと、ラウラの視界には落ちてゆく悠夜の姿があった。
「……そ…そんな……」
そんな声を絞り出されたかと思ったら、ラウラはすぐにインカムを外し捨てて部屋から飛び出す。
そのまま臨時のIS格納庫を向かおうとしているところで鈴音・シャルロットとバッタリ会った。
「ラウラ……?」
鈴音は異常事態だと思い、後を追う。シャルロットもそれに続いた。
ラウラは格納庫に入ってすぐ、戻ってきていたラファール・リヴァイヴに乗り、発進しようとしたところで千冬に止められた。
「何をしているボーデヴィッヒ」
「行かせてください、教官」
「待て! 一体何が起こった?」
「………桂木悠夜が、兄様が……落とされました」
それを聞いた千冬はすぐに風花の間に戻り、教員たちに捜索の指示を出した。
■■■
その頃、悠夜が落ちた海上ではダイバーが数人現れ、ISの装甲の展開が解かれている状態で沈んでいく悠夜を掴む。ある者はそれを汚らしいと罵り、またある者がその人物をなだめる。それが仕事だと。
そして悠夜を先程の密漁船に運ぶ。だがそれは少しばかり違っていた。
密漁船に見えていたものは実はダミーであり、本当は潜水艦だ。現にそれは福音の光の弾丸が当たったというのにピンピンしていて沈んでいなかった。今まで光学迷彩を使っていて姿を隠し、それに咥えてジャミングがあったので悠夜にすら福音のこともあって気付かれていなかった。
ダイバーのリーダーはシャワーを浴びた後に着替え、「女権団」の一員でエンブレムが入った制服を着る。
リーダーは総帥室に行く前に悠夜からある物を回収し、それを小さなアタッシュケースに入れ、改めて身なりを整えてからケースを持って総帥室へと向かう。
そこには特別に入室を許可されているのか一人の少女がベッドに座っている以外は身分が高い人間がいる部屋そのものであり、リーダーが入室した時にはその少女がいることから疑問を持ったが、気にせずに要件を済ませることにした。
「総帥。例の男を連れてきました」
「ご苦労。そのまま彼を牢屋へぶち込んでおきなさい」
「はっ!」
総帥と呼ばれた女性―――桂木郁江はそう指示し、笑う。だがあることを思い出して連絡しているリーダーに声をかけた。
「あ、そうそう。あの男の専用機はどうなっているの?」
「それならばここに」
そう言ってリーダーはケースを渡す。郁江はそれを開けると中身を確認した。
「本物ね。上出来だわ」
「ありがたき幸せ」
「これは謝礼よ。彼女らにも分けてあげなさい」
郁江はリーダーに封筒を渡し、リーダーは礼を言って退出した。
「幸那」
名前を呼ばれたその少女は本を読んでいたが中断し、顔を上げる。
郁江はとある箱に黒鋼の待機状態である漆黒の指輪を入れる。
少女はそれを見ており、やがて終わると同時に差し出され、すぐに受け取る。
「ようやく準備できたわ。待たせてしまったわ」
「……問題ない」
そう言って幸那は部屋から出て、潜水艦内のIS格納庫でISを展開する。
そこには黒鋼の通常装備のみならず、砲撃型パッケージ『ディザスター』の表示があった。
■■■
「あーあ、死んじゃった」
そうどうでもいいように束は自分だけの場所で言い、すぐに白式と紅椿の修理にかかる。ただ目障りだったあの男が消えてくれればそれで構わない。だけど油断していたあの顔は本当に面白かった。
「さぁ、舞台は整ったよ、いっくん」
そんな束の呟きは誰にも聞かれるわけでもなく、虚空へと消える。
だが束は知らない。今、回収された黒鋼はどうなっているのかも、そしてそれが自分には想像がつかなかった進化をしていることを。
さぁってこれからどうなるんでしょうかね~