更識一派の艦から弾丸のように陽子が飛び出す。
「伸びろ」
陽子の背中から鎖が飛び出し、雫と本音を鎖で掴んで簪を自分で抱きとめた。
そしてそのまま着地すると、全員がその状況に唖然としていた。
「……相変わらずですね」
「ふふん」
ドヤ顔をする陽子は幼い少女が自慢げに見せる様子そのものだった。
「清太郎。女共を回収するのじゃ」
「わかりました」
清太郎は潜水部隊と救助部隊に分けてボートに乗って避難してくる女と、中に残っていると思われる要救助者の救助に向かわせる。
陽子は首にかけていて外れることがなかった通信機のマイクを口元に持っていく。
「悠夜、少しその場から離れておくのじゃ。馬鹿共の救助に入る」
『わかったよ』
エネルギーを回収し、黒いオーラを放つルシフェリオンを纏う悠夜は逃げるようにそこから離れる。幸那はその後を追って行き、残骸から一機の紺色のISが飛び出すのを、陽子は見た。
「さて、楽しむとするかのう。愚かな女が神に近づく最高レベルの人族に抗う姿を」
陽子は空中投影ディスプレイを出してそれを救助されている女たちにも見えるように映し出した。
■■■
黒鋼は、轡木研究所が英知を結集させて完成させたオンリープロジェクトの一機だ。
サードアイ・システムなど、少し外部からの協力を得たりもしたが、それ以外はすべてが研究所が作り出した最高傑作とも言えるだろう。
だが、そんな機体もルシフェリオンの前ではただののろまな亀となる。
それほどルシフェリオンの機体性能は異常だった。
しばらく距離を空けた後、悠夜は振り向いてお互いの位置を把握する。100mぐらい離れた先で幸那が停止した。
「………どうやってその機体を手に入れたの」
「さぁな。そんなことを、雑魚に教えるわけがないだろ」
瞬間、《アサルト》を展開した幸那は悠夜に向けて撃った。
「無駄だぜ」
銃弾が悠夜の頭部に当たる。だが悠夜は諸共せず、ただひたすらそこに存在し続ける。
「今度はこっちの番だ」
再び悠夜の前に魔方陣が展開され、そこから現れる柄を持って引き抜く。先程の黒い大剣を出した悠夜は幸那に接近し、横に振るう。
幸那はそれをかわし、《バイル・ゲヴェール》で攻撃する。
「そんな取り回しの悪い大剣で!」
悠夜が得意とする連続ムーブショットで光弾と弾丸を交互に撃つ幸那。だが悠夜はその大剣を軽く振って弾いた。
「取り回しが悪い、か。言っておくが、今の俺に常識は通用しない。投降した方が懸命だと思うがな」
「ふざけるな!」
悠夜になお、攻撃する幸那。
「そうかい」
飛んでくるすべての弾丸が突如現れたビットが弾く。
「本領発揮だ。可変しろ、《
《ダークカリバー》の刀身が二つに割れ、中央から銃口が覗く。さらに柄の部分にトリガーが姿を現し、割れた刀身は横になった。
「ボウガン?!」
「ファイア!」
悠夜は引き金を引き、紫の光矢が闇の中を駆ける。それが《バイル・ゲヴェール》の銃口から中に入り、爆散した。
「そ、そんな―――!?」
「その様子じゃ、まだ黒鋼を上手く使いこなせていないようだな」
黒いオーラは既に消えているルシフェリオンで黒鋼の後ろに回りこむ。性能は先程とは違って黒鋼と差異はほとんどないが、それでもルシフェリオンの素早さはトップレベルだ。
余裕で幸那の後ろを取る悠夜。頭を吹き飛ばそうとボウガンとなったダークカリバーを向けると、その間をビームが通過する。
悠夜はそこから距離を取る。視線の先には見た事がない紺色のISを纏った郁江の姿があった。
「よく足止めしてくれたわ幸那。さぁ、二人であの害虫を倒しましょう」
「お母様!」
救援の郁江を見て幸那は喜びを見せる。その会話を聞いていた悠夜はため息を吐く。
「何を根拠にそう言ってんだよ。戦力差を見誤るなよ」
「その言葉、そっくりそのまま返させてもらうわ」
近接ブレードを展開し、郁江は接近した。幸那はそのフォローに周り、後ろから当たらないように《フレアマッハ》で援護に入る。郁江は動きを見せない悠夜に対して不審に思いながらも攻撃する。
―――ガッ!!
剣形態となった《ダークカリバー》で近接ブレードを防ぎ、軽く振って吹き飛ばす。
幸那は上から悠夜に当たるように攻撃するが、悠夜はそれを回避した。
(何なの…この男、どうしてこんなにも余裕で―――)
瞬間、悠夜に黒鋼の射撃用パッケージ《ディザスター》の一斉射撃が飛ぶ。
それを食らった悠夜はそのまま落下していった。
(……ただ油断していただけか)
郁江は幸那を呼んでさっきの艦のところに戻り、悠夜が死んだことを報告しようと機体を後ろに向けると、郁江のIS《陽炎》が爆発した。
「え?」
ブースター部分がやられたのか、機体が傾いてそのまま落下していく。郁江は状況が理解できず、辺りを見回す。
補助ブースターでなんとか機体の体勢を維持すると、そこには悠夜がいた。
「お母様!? この異端者が!!」
幸那が悠夜に向けて撃つ。だがその攻撃は直前で跳ね返され、無効化されていく。
「いやぁ、参った参った。まさか今ので勝てたと思われるとは」
幸那に目など暮れず。悠夜は郁江の頭を掴んでそのまま下降、地面に頭からたたきつけた。
衝撃で顔を歪める郁江。その様子を見た悠夜は高らかに笑う。
「無様だねぇ、女権団の総帥さん。まさかさっき俺を蹴った場所でこんな目に合うとはさぁ」
「止めろぉぉおおおおッ!!」
郁江を助けようと幸那が飛んでくるが、突如現れた鎖に阻まれて身動きが取れなくなった。
「この、じゃま―――」
幸那が鎖にもがいている最中、郁江も同じく鎖に捕まっていた。
「な、なによ……これは」
「何って、お前たちを制裁するための手段だよ」
ルシフェリオンの右手に黒い光が集まり始める。
それを見た郁江は本当の恐怖を悠夜から感じ取った。
(何なの……何なのよ……私はただ、腐った男たちを管理するために―――)
瞬間、悠夜は右の掌を向け、そこからビームを放った。
装甲がすべて解け、ビームが消えた時には郁江の姿しかなく、絶対防御でエネルギーが消えたのか、コアのみが彼女の前に転がる。
悠夜はそれを拾い、軽く弄んでから収納して上を向く。
「………」
悠夜が鎖を解除したため、解放された幸那は郁江の後ろに立ち、状態を確認する。
「安心しろ。威力は抑えてあるから恐怖による気絶しかしてねぇよ」
悠夜はそう言って鎖を展開し、幸那をその場から離れさせるために振るう。しかし幸那は拒絶するように、そして郁江に当たらないところへと弾く。そして《フレアマッハ》を展開して郁江にギリギリ当たらないところへと撃った。
その一撃で悠夜は確信する。
(なるほど。幸那はガンナータイプか)
悠夜はそこから移動し、幸那はそれを追うために飛んだ。
「……よくも、よくもお母様を!!」
飛んでくる光弾を悠夜はかわす。そして、さっきの孤島からある程度離れた地点でUターンし、両手にロングライフル《ヴァジュラ》を展開した。
「死ね!」
襲い掛かるビームを《ヴァジュラ》で相殺していく悠夜。彼の顔には一切の焦りはなく、むしろ余裕すらも感じさせた。
幸那は『ディザスター』を起動させ、ロングバスター砲からの全武装フルバーストを行う。
「死ね! 死ね死ね死ねぇえええええええッ!!!」
悠夜は動きを止める。それと同時に全弾着弾した。
一方、その様子を簪たちは見ていた。
女たちは悠夜に着弾したことを喜び、歓喜した。
「ザマァ見ろ!」
「男なんかがISを動かすからよ!」
女たちが口々に言うのを聞いた更識一派は、中傷対象である悠夜の祖母にあたる陽子の様子を見る。
男たちは陽子の恐ろしさを知っている。中には彼女から格闘術を教えてもらっている人間もいて、間近で地面を抉るほどの威力を見ている。簪や本音も教わっており、本音は今にも制裁を下すのではないかと簪と一緒に抱き疲れているため気が気ではなかった。
ちなみに陽子が簪と本音を抱き付いているのは表向きは一派の
本音は恐る恐る陽子を見ると、陽子はどこかつまらなさそうだった。
「はぁ。馬鹿じゃのう、お主ら。わしの孫がそう簡単にくたばるわけがないじゃろう。のう、簪」
その言葉に簪は頷くと、女たちが笑い始める。
「馬鹿じゃないの? 現に幸那様の攻撃を食らったじゃない」
「………あれはどう見ても……わざと」
簪の言葉に応えるように煙が晴れる。
そこには慢心創痍どころか傷一つ負ったかすら疑問に思わせる悠夜の存在があった。
「……そんな……」
「な……何で……」
さっきまでの歓喜は何処へ行ったのやら、女たちにあったのは絶望だった。
今度は男たちから歓喜が起こる。そんな中、本音は簪に聞いた。
「かんちゃん、どうして無事だってわかったの……?」
《玄雷絶》を展開して攻撃を仕掛ける幸那の攻撃を余裕で避ける悠夜の様子を見ながら、簪は答える。
「……確かに、悠夜さんのIS暦は短い……。けど…ルシフェリオンの性能は化け物……。今の悠夜さんなら………恐怖を植えつけるために使うと思って……」
その時、悠夜は《ダークカリバー》を展開した。
魔方陣から引き抜いた《ダークカリバー》を肩にかけ、片手から両手に持ち変える。
「最後通告だ。今すぐ降参しろ」
「ふざけるな! お前のような異端者にひれ伏すなら、死んだほうがマシだ!!」
だが幸那はそれを拒否する。
途端に《ダークカリバー》の刀身が黒炎に包まれる。
「そうか、ならば―――」
その黒炎は徐々に伸び、刀身を象った。
「お望みどおり、殺してやる。………バーストモード」
悠夜がそう唱えると、ルシフェリオンの背部から天使を思わせる漆黒の翼が新たに生える。
瞬間、悠夜は消えて幸那が吹き飛んだ。
そこから、画面越しで悠夜とルシフェリオンの姿を捉えるのは困難を極めた。姿を全く現さず、ひたすら幸那が吹き飛ばされるだけの映像が繰り返される。それはまるで幸那自らが飛んでいる風にも感じた。
そしてようやくその姿を捉えられたが―――終焉だった。
「自らの行いを悔いて死ね、俗物」
瞬間、黒鋼が爆発を起こす。
その様子を画面で捉えていた者たち全員は陽子も含め、誰も何も言わなかった。