動き出す(後始末に追われる)者達・・・・。
ウェイバーは震えていた。夜が更けようとしている今も尚、遠坂邸があったと思しき瓦礫の上で続く神霊と英雄による戦いの凄まじさに恐怖しているのもあるが、自身のサーヴァントであるランサーの機嫌が著しく悪い。それもその筈である。使い魔のフンババと父親であるギルガメッシュの暴れた跡――――戦いの余波に巻き込まれ瓦礫と化した建造物の中から関係のない一般人を救出してる最中だ。即ち、後始末である。ウェイバーは勿論の事、周囲を見回っていた聖堂教会のスタッフ達を呼びつけて人々を介保する事に尽力した。救出された人々は、ランサーの暗示により戦いに巻き込まれた記憶は消され、聖堂教会に保護される事になった。その後は、人払いの結界や周囲に戦いの余波がまた飛散しない様、何百層にも覆われた強力な結界がランサーによって張り直され、それを見た聖堂教会のスタッフ達は安心した顔でその場を去って行った。彼らも彼らで不運である。聖杯戦争が此処まで凄まじいとは思いもしなかったのだろう。神秘の秘匿のため、これから先の一般人に対する誤魔化し方を考えなければいけないのだから…この先、その様な戦いになると理解し、ゲンナリした聖堂教会のスタッフの一人がランサーをルーラーで呼ぶべきだったと愚痴を零す有様である。本来、魔術師は教会を敵視するのが普通だが、ウェイバーですら彼らに同情した。それ程までに、ギルガメッシュとフンババの起こした戦いの被害は凄まじいのである。何せ、元遠坂邸があった敷地の周辺にまでその被害が及び、一種の災害といっても過言では無い。
ランサー曰く、調子に乗ったフンババが遠坂邸の結界を溶かしさえしなければ、被害は其処まで酷くはならなかったらしい。結局のところ、結界は破壊される事にはなるがランサーが来るまでの数秒程度の時間稼ぎにはなったそうだ。古代ならば父親やフンババが暴れても壊れるような脆い建物は無いく、巻き込まれて怪我を負う人間も居なかったっと愚痴を言っているランサーを見てウェイバーは思う。古ければ古いほど神秘が濃くなると言う事を魔術師として認知してはいたが、そこまで人間や建物がぶっ飛んでいたとは思いもしなかった。今行われている戦いに現代の人間が巻き込まれれば有無も言わさず…逃げる事すらできず死ぬだろう。保護された人々の大半だって救出された時点で息絶えていた。しかし、ランサーの魔法により何事もなく蘇り事なきを得ている。本来のウェイバーならば、魔法についてランサーに質問攻めしていただろう。なにせ、第一の魔法使いが目の前にいる―――それも、サーヴァントでだ。普通の魔術師なら、聖杯そっちのけで令呪を使ってでも魔法や根源についてランサーから無理やり話を聞いていたかもしれない。聖杯を求めるよりも、確実に根源に行ったり何かしら得れるのだ。しかし、憔悴しきったウェイバーにその気力は無いし、機嫌の悪いランサーにそんな事をすれば逆鱗に触れ、抹殺されるのが落ちだろう。もとより、魔法が使えるランサーに令呪が効くとは思えない。そんなこんなで、神霊と英雄の戦いを見守っていたが、戦いに決着が付きそうもなく、ウェイバーは嫌な予感を察知し、ランサーに尋ねる。
「なぁ、ランサー…こんな事は言いたくないけど、あの二人…日が昇っても戦いを続けそうだよな…。」
「そうだな…もう、日が昇り始めている…潮時だ。」
そう言ったランサーは静かに、結界を抜け今だ激闘を続けている二人に歩み寄る。
「なっ…!ランサー!」
「安心するがいい、小僧。ウルクではアレが日常だ。アレを止める程度、造作もない。」
全く安心できない。そうウェイバーは叫びたかったが、あの戦いを止める事が出来るサーヴァントは恐らく彼だけだと思い、その言葉を飲み込んだ。
*
生と死の狭間。原初の地獄と原初の自然。吹き荒れる二つの嵐は止むことなく、夜が更けても尚、災厄を辺りにばら撒いていた。その中でも一際、悍ましく毒々しい瘴気を振りまき、人の世を脅かす大自然の化身は最早、人のカタチをしていない。魔眼を封印していた眼帯は戦いの拍子に何処かへ飛んでいき、人ならざるモノが持つ美貌も、醜悪な魔物へと変貌している。枷の無くなった魔眼と瘴気によって、フンババの周囲にあった瓦礫はドス黒い泥になり辺りに流れ出している…原初の自然が持つ不浄―――普通の英霊は勿論、ギルガメッシュでさえ触れれば唯では済まないだろう。天の鎖で押さえつけていたものの、フンババが自身の背丈の倍ある枯れ木の様な強大な手を振り回し自力で鎖を引き裂いていく。ギルガメッシュはエアを再び構え、天の鎖を引き千切りながら突進してくるフンババに対して原初の地獄を再び放とうとした時だ。
「■■■■■――――ガァッ!?!!!?な、こ、これは…ッ!!!」
「―――!?」
その瞬間、群青に輝く鎖が現れ、フンババを縛り魔物であった姿は人型に戻っていく。
「ガァアア!!!!主ィ!!!まだ勝負は終わってな――――・・・」
そうフンババは悲鳴を上げ叫んたが、フンババの背後に現れた黒い渦に群青に輝く鎖は問答無用で引きずり込み消えていった。ソレをギルガメッシュは無言で見つめるた後、フンババが吸い込まれた方向とは真逆の場所に自身の身体を向ける。其処には一際懐かしい存在が居た。自身と良く似た面影を持つ存在。見た目は似ていたとしても、中身は全くの別物であり、対極の存在。
二人は視線を合わせ、互いに相手の存在を認識すると、何も語る事もなくただ――――口元を緩め笑った。それを合図に、ギルガメッシュはエアを振りかざし言葉を紡ぐ。
「待たせたな…エアよ…存分に謳うがよい。」
目と鼻の先にいる息子に対して――――では無く剣に対して語りかける。ギルガメッシュの言葉に呼応するかのように円筒状の剣が空気を纏い、渦巻き、物理法則さえ無視し、やがて音や光さえも収縮し、万物を引き裂く凶器と化し、空間を飲み込む。そして、再会したばかりの息子に対して、躊躇なく振り下ろす――――
「………
歪みは弾け、空間を引き裂き、原初の自然が齎した不浄を掻き消し、星を侵食し、地獄を織る剣の一振りは、容赦なく―――ウル・ルガルに迫る。それに対抗するため、ウル・ルガルもまた一本の槍を手に握りしめていた。彼がランサーのクラスに顕現したのは、彼の手に持つ一本の槍――――乖離槍エンリルの宝具によってだろう。その槍は、彼の守護神でもあるエンリル神より賜ったものだ。槍は彼の本質と良く酷似していた。彼の本質とはモノを作ると別に、神と人を別ける者でもある。人に干渉しすぎる神を人より遠ざけ、神に縋る人を神から遠ざけ自らの足で立たせ歩めるよう導く者。ギルガメッシュと同様、彼も神と人を繋げる楔であったが、神に支配される人を解放させるため、神を頼らなくとも人は自らの力で生きていけると証明するため、人を導く王となった。
森羅万象を砕く虚無―――砲撃が身に迫る瞬間、降り上げた槍に向かってウル・ルガルは呟く。
「さぁ、エンリルよ――――原初の地獄を塗り替えるがいい。」
目の前にいる父に語りかけるための言葉では無く、英雄王がエアに語りかけたときと同じように―――――
その瞬間、雲一つなかった空は瞬く間に暗雲が立ち込め、雷が鳴り、雨が降り、風が荒ぶる。天から膨大な量のマナを含んだ雷が槍に飛来し、魔力の竜巻となって槍を包み込む。そして、槍を核とし天地を別ける程の強大な光の柱の様に輝く竜巻――――嵐となった。
星の始まりが混沌とした地獄ならば、その地獄を多くの生命が歩めるよう整えた存在がいる。
それは、原初の地獄を鎮めた嵐であり、始まりの風であり、恵みの雨でもある。
無より一を生み出し、その一により多くの生き物が生まれた。
そして、大洪水を引き起こし、地上に住む生き物たちを屠った。
自然の厳しさを、生命に刻まれた原初の恐怖は幾年掛けても忘れる事は無く、人々の遺伝子に受け継がれる。
しかし、それでも尚、原初の恐怖すら人は未来のため乗り越えるのだと。
人を導き、未来を見守る王は開闢を謳う。
「―――――
ルガルが振り下ろした乖離槍エンリルは、地を抉るエアとは違い、マナを大量に含み光り輝く竜巻は唸りをあげ暴風となり、乖離剣エアが放った大気を引き裂き続けるソレに対し真正面から激突する。無数に引き裂かれた世界を癒すがごとく風によって歪みを正していく。
そして――――――――
*
「余と同じく〝獣〟を携える者がいたとはな……驚いたぞ。」
その光景を太陽舟より見下ろしていたライダー――――オジマンディアスはそう言いながらも、驚いたような顔をしておらず、嬉々として顔を綻ばせる。自身と同じか、それ以上の王が二人も現れたのだ。王として力比べが出来ると高揚するのは当然だ。今の彼は比較的気分が良かった。なにしろ、自身のマスターをそれなり気に入っており、出し惜しみせず十全の力で闘う事が出来るからだ。
しかし、二人の戦いに水を差すような不粋な真似をするつもりは毛頭無く、彼等の何方かが勝ち残ったとき、その相手と闘うと決意している。それまでの間、戦うに値しない者たちを露払いのごとく、自身の獣たちを用いて屠ると決めていた。
「ケイネスよ…あのランサーが貴様の弟子が呼んだ王か――…」
「えぇ、あの王こそ古代ウルクを統べた王の一人―――ウル・ルガルです。もう一人のアーチャーと思しきサーヴァントは彼の父…英雄王ギルガメッシュでしょう。」
そうケイネスはライダーに説明しながら、表情には出さないが、内心、二人の王の戦いに恐怖したが安堵もしていた…なにせ、ウル・ルガルを呼び出すこと…それがバルトメロイと交えた契約だからだ。凡俗であるウェイバー・ベルベットが彼を無事に呼び出せていたのでホッとする。
安堵と共に、戦いが始まる前の事をケイネスは思い出していた。聖杯戦争に参加する事を決め、どのサーヴァントを呼びだすか迷っていた処に、風の噂を耳にした女帝――――バルトメロイ・ローレライが現れた。彼女の要求は至極簡単であった。
〝第一魔法の具現者たるウルクの王を喚べ〟
その代わりに戦争でのサポートや戦いでの決まりや基礎を教えると。彼女の命令を覆せる訳もなく、流されるまま契約した。しかし、その甲斐あってか、ケイネスが陣地とする冬木ハイアットホテルと廃墟はケイネスの指示の元、貸し出されたクロンの大隊により工房が作られ要塞と化している。それと、聖杯戦争に参加するであろう魔術師たちの情報も彼だけでは得られない処まで知ることが出来た。バルトメロイより警告された魔術師―――自身の天敵である〝魔術師殺し〟の衛宮切嗣についても詳しく知っている。実戦もそれなりに経験し、用意周到に進められたかと思えば、自身の門下生に聖遺物を盗まれる有様。しかし、自身の門下生だったからこそ事なき終えた。門下生であれば、先に聖遺物を持たせたと言って取り繕いが出来たが、別の人間に盗まれていたら目も当てられない。
それにしても、ランサーのステータスがライダーより高い。魔術回路も魔力の量も名門よりも劣っている凡俗のウェイバーがあの強力な王を顕現させるための魔力を賄える筈がない。恐らくウル・ルガルが魔法を使って自活しているのだろう。バルトメロイの話を聞けば、無辜の民を巻き込み魂食いするような性格の持ち主では無い。そもそも、未だに生きてると言っていた。今ココにいる彼は、星を出る前の
もとより、ライダーだけでギルガメッシュに勝てる見込みは薄く、策を要すれば勝てるが、正々堂々と戦うであろうライダーが頷くとは思えない。サーヴァント同士の戦いに口を挟むつもりは無い。実戦を経験したケイネスであるからこそ、王であるライダーは自分よりも戦いに長けており、身の引き際も心得ているだろう…と考えた。それに、ギルガメッシュとウル・ルガルの戦い――――バルトメロイから二人の逸話を聞いていたからこそ、決闘に水を差すのは無粋。どちらかが勝利した後、戦いを申し込めばいい。
それまでに、魔術師としての誇りが地に堕ちた名門アインツベルンと――――〝魔術師殺し〟に誅罰を与えなければいけないと確固たる意志をケイネスは心に秘めていた。
*
――――元遠坂邸周辺。
二つの〝究極〟が衝突した影響により、空間の歪みごと周囲を薙ぎ払われ瓦礫すらなくなり、巨大なクレーターが出来上がっていた。ルガルの宝具によって荒れていた空は清々しいほど晴れ渡り、日が昇っている。膨大な力が鬩ぎ合う間に居たにも関わらず、二人の英霊はなお表情を崩すことはない。彼らにとって、このような戦いはウルクでの日常茶飯事である。だからといって、余裕は無く気を抜けば直ぐに死ぬと互いに理解していた。けれども、それは些細な問題にすぎず、彼らにとってこの戦いは力の比べ合いであるため、児戯にも等しい。霧散した魔力が含まれる風に煽られながら、ギルガメッシュは漸く口を開く。
「安堵したぞ。
〝老いても尚〟――――そうギルガメッシュは言葉に含みを持たせながら紡ぐ。それに対して、ルガルはなんの反応を示さなかったが、軽口で言葉を返す。
「まぁな…老いて力を無くすほど軟じゃない。にしても、フンババに関しては、甘やかしたつもりは無いんだが――――失念していた、飼い犬がアンタの事を噛みたがっていたのをな。」
「ふん、全くだ。あのナマモノが我を一泡吹かせようと虎視眈々と狙っていたの忘れたのか。」
そう二人は軽い口調で話しをしているものの、彼らの背後の空間が光り数十…いや数百以上の数多の武器が顔を出していた。
「―――では、確約を果たしてもらうぞ。貴様の持つ財を…この我に献上するがいい。」
「財を見せても良いが献上するつもりは無い――――死人に与える財など無いのでね。」
「言う様になったではないか。まぁ良い。何時ぞやの時みたく…貴様から奪い取ればいいのだからな。」
「さて、あの時の様にいくかな?もう日が昇ってる…此処はお暇させてもらおうか。」
「逃げるつもりか。」
「逃げるも何も、聖杯戦争は夜行われる…聖杯から知識を貰っているだろう?夜に成れば舞台を用意して待ってる…それまで、慢心して死なない様にな。」
不機嫌になったギルガメッシュを見つつ、そうルガルは言うと飛んでくる武器を自身の武器で打ち返しつつ、魔術を用いてその場から去った。
こうして、日が昇った頃に漸く聖杯戦争初日が終わりを迎えた。
※フンババの垂れ流してる泥はアンリマユの倍以上にヤバい。