ラブライブ!~未来へ響く多重奏~   作:朝灯

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さて、今回もやっていきましょうかね.....

試験勉強が憂鬱すぎる....
文系(自称)の自分には数学の勉強が絶望的に厳しい.....


勇気をくれる場所

「「「「「「「「えぇ~!?」」」」」」」」

 

「こ、ことり先輩がこの秋葉で伝説のメイド....ミナリンスキーさんだったんですか!?」

 

「そうです.....」

 

ことりの逃走があっけなく失敗に終わり、先日ことりから自分がミナリンスキーだという話を聞いていた俺以外のメンバーは予想通り驚く。

 

「酷いよ!ことりちゃん!そう言うことなら教えてよ!」

 

「うぅ~......」

 

隠し事をされたのがそんなにも気に入らないのか......穂乃果らしいと思うけど、ここはことりのフォローをしておくか。

 

「穂乃果、ことりは事情があったんだと「言ってくれれば遊びに来てジュースとかごちそうになったのに!」

 

「そこぉ!?」

 

「隠し事されたことはいいのかよ!?」

 

俺の言葉を遮った穂乃果が何を言うのかと思えば......まぁいいか。

 

「じゃあ....この写真は?」

 

絵里先輩が店内の写真が貼ってあるボードに視線を投げる。そこには先ほど俺が回収した写真と同じようなものが貼られていた。....(・8・)という絵が描かれたマグネットと一緒に。

 

「店内のイベントで歌わされて.....撮影、禁止だったのに.....」

 

ことりはガックリとうなだれたまま喋る。

 

「とりあえず.....ほらこの写真」

 

俺は回収した写真をことりに手渡す。少し手放すのが惜しくもあるけど、元々ことりはこの写真を回収に来て、見つかってしまったんだ。仕方ない。

 

「えっ!?ゆー君.....これ、どうしたの?」

 

「まあ、μ’sのグッズコーナーがあってな?そこに飾られていたから、穂乃果たちに見つかったらまずいと思って......その行動も無駄に終わったけど」

 

写真回収の経緯を話すとことりは写真と俺をジッと見比べ、首を横に振った。

 

「ううん、その写真はゆー君が買ったものだし、それにゆー君に持っててほしい...」

 

「けど....いいのか?」

 

「うん!ゆー君に持っててもらえると嬉しいもんっ!」

 

何だ.....この天使は!?

 

「そこまで言うなら、うん、貰うよ」

 

「うんっ!」

 

家に帰ったらホコリがつかないように厳重保存だな。

 

「と、とにかく!アイドルってわけじゃないんだよね!?」

 

穂乃果が何故か焦ったように俺とことりの会話に割って入ってくる。おっと、俺たち以外にも人がいたことを忘れていた。

 

「う、うん!それはもちろん!」

 

「でもなぜです?」

 

海未が聞きたいのはなぜ黙ってたのかってことだろう。

 

「自分を変えたいなって思って......」

 

そこからはことりは俺に教えてくれたままをみんなの前で話した。始めた時期、理由、俺、穂乃果、海未の後ろについて行っているだけだということ、全部。

 

「そんなことないよ!歌もダンスもことりちゃん上手だよ!」

 

「衣装だってことりが作ってくれているではないですか」

 

穂乃果と海未は俺がことりに言った言葉をそのまま言う。

 

「少なくとも、2年の中では1番まともね」

 

真姫も賛同したように言う。......別に穂乃果が酷いというわけではないけど、海未までまともじゃないと思われてたのか?

 

俺に対する扱いはもう慣れた。

 

「ゆー君もそう言ってくれたけど......やっぱり自信が持てないの」

 

ことりのその一言に俺たちは黙らずにはいられなかった。本来ならそんな考えは全否定すると思う。

 

―――だけど.....ことりのあまりにも思い詰めた顔を見て、言葉が喉に引っかかって、出てこなかった。

 

「.....よし、みんな。今日はもう日も暮れてるし、家に帰ろう」

 

俺の提案にみんなは次々と鞄を持って席を立つ。そのまま店外へ出ると、ことりが見送りに来てくれた。

 

「じゃあねぇ~!」

 

穂乃果がことりに向かって大きく手を振る。対照的にことりは小さく手を振り返す。

 

「あっ!このことはお母さんには内緒だから!学校では....」

 

慌てたように言うと同時にシーッというジェスチャーをする。

 

「分かった!」

 

穂乃果の言葉に安心したようにことりは笑う。どこか明るさがほんの少しだけないような笑顔だ。

 

ことりと別れてからしばらく歩き、今俺と一緒に歩いているのは穂乃果と海未、そして家が俺たちと同じ方向らしい絵里先輩だ。

 

しばらく無言で歩いていると

 

「でも意外だな~、ことりちゃんがそんなこと悩んでたなんて....」

 

突然穂乃果が間延びをした口調で言う。

 

「意外とみんな、そうなのかもしれないわね」

 

「え?」

 

「自分のことを優れているなんて思っている人間はほとんどいないってこと。だから努力するのよ、みんな」

 

「そうか(そっか)」

 

絵里先輩の考え方に俺と穂乃果は納得する。

 

「確かにそうかもしれませんね」

 

「そうやって少しずつ成長して、成長した周りの人を見てまた頑張って、ライバルみたいな関係なのかもね.....友だちって」

 

なぜだろう、とても心に染みてくる。夕暮れ時だからか?

 

チラッと穂乃果と海未を見るとちょうど2人も俺の方を見た。目が合った俺たち3人は同時に笑みをこぼす。

 

「絵里先輩にμ’sに入ってもらって本当によかったです!」

 

「な、何よ急に....明日から練習メニュー軽くしてとか言わないでよ?」

 

絵里先輩は照れ隠しのように微笑する。

 

「じゃあ、また明日!」

 

「「「また明日です!」」」

 

夕日の光が反射し、絵里先輩の金髪がキラキラして見える。そんな幻想的で頼もしい背中を見送りながら俺は思う。

 

―――俺がみんなのためにしてあげられることって、なんだろうと。

 

「ねえ、海未ちゃんとゆう君は私のことを見てもっと頑張らないきゃって思ったことある?」

 

穂乃果の突然の問いに俺は一瞬きょとんとし、海未は苦笑する。

 

「数えきれないほどに!」

 

「海未と同じだ」

 

俺たちの返答に今度は穂乃果が呆然とし、すぐに声を上げる。

 

「ゆう君も海未ちゃんも何をやっても私より上手じゃん!?私のどこでそう思うの!?」

 

穂乃果の慌てる様子が面白くて、俺と海未は顔を見合わせて吹き出し、

 

「「悔しいから秘密(です)!」」

 

シンクロしたようにぴったりと言った。

 

「えぇ~!?」

 

「ことりと穂乃果、それに優は私の1番のライバルですから!」

 

海未が得意げに胸を張る。俺もライバルか.....。

 

「海未ちゃん.....うん!そうだね!」

 

「よし!じゃあライバルらしく穂乃果の家まで競争だ!負けたらジュースおごりな!」

 

俺はすぐに走り出す。

 

「うわっ!?ゆう君ずるいよ!」

 

「男らしくないですよ!」

 

後ろから穂乃果と海未の声と一緒に足音が聞こえてくる。.....ゴール前で俺がこけて、結局ジュースは俺がおごる羽目になりましたとさ。幸い怪我は無かったものの金欠気味の財布には痛手だったかも知れない。

 

***

 

今、教室にはことりが1人だ。目を閉じ何やら考えるような顔をしていたかと思えば突然目を開き

 

「チョコレートパフェ、美味しい!生地がパリパリのクレープ、食べたい!ハチワレの猫、可愛い!5本指ソックス、気持ちいい!」

 

と一見意味の無さそうな言葉を発しながらノートに書き始めた。

 

どうしてここまでことりの行動が分かるのか、それは俺が教室をこっそりと覗いているからだ。だけど俺1人じゃない。

 

「なぁ......あれって何してるんだっけ?」

 

ことりの声を聞きながら俺は一緒に見ている2人に問いかける。

 

「何を言っているのですか......作詞でしょう?」

 

海未は半眼を作り、呆れたように言ってくる。

 

そう、ことりは何故か今作詞を任されている。のだが....

 

「思いつかないよぉ~!」

 

作業はとても順調とは言えない状況だ。

 

「うーん......何とか手伝ってあげられないかなぁ.....」

 

穂乃果の言うように何か手伝えることがあればいいと思う。

 

「でも、これを乗り越えることでことりの自信に繋がるような気がするんだ」

 

「私もそう思うけど......」

 

そもそも何で衣装担当のことりが作詞を行っているのか、事の発端は先日久しぶりにμ’s全員が部室に揃った時のことだ。

 

―――

 

「秋葉でライブよ!」

 

絵里先輩が唐突に言った一言。つまりは....

 

「それって!?」

 

「路上ライブ!?」

 

そう、練習着に着替え終えた俺たちに絵里先輩が言ったのは路上ライブの提案だった。

 

「秋葉と言えばA-RISEのお膝元よ!?」

 

言わば縄張りだ。

 

「それだけに面白い!」

 

希先輩はどこかワクワクしているように見える。この人本当物怖じしないな.....

 

「でも、随分大胆ね」

 

「秋葉はアイドルファンの聖地、あそこで認められるパフォーマンスが出来れば、大きなアピールになる!」

 

俺たちが上に行くにはそれが必要ってことか......

 

「いいと思います!」

 

「楽しそう!」

 

穂乃果とことりは賛成派だな。

 

「しかし......すごい人では」

 

「人がいなかったらやる意味ないでしょう?」

 

海未の意見もにこ先輩によってバッサリと切られる。確かに人がいないライブなんて......2度と経験したくない。

 

「凜も賛成~!」

 

「じゃ、じゃあ私も!」

 

「決まりね!」

 

結局勢いに押されて、海未も賛成側になった。

 

「じゃあ!早速日程を!」

 

「......と、その前に」

 

まだ絵里先輩は話があるようだ。

 

「今回の作詞はいつもと違って、秋葉のことをよく知っている人に書いてもらうべきだと思うの」

 

そう言いつつ、絵里先輩の目線が向かうのはことりだった。

 

「ことりさん、どう?」

 

「えっ!?私!?」

 

絵里先輩は持っている作詞用のノートをことりに手渡す。

 

「あの町でずっとアルバイトしてたんでしょ?きっとあそこで歌うのにふさわしい歌詞を考えられると思うの」

 

そして屈託のない笑顔を浮かべる。

 

「それいい!すごくいいよ!」

 

「穂乃果ちゃん.....」

 

「やった方がいいです!ことりなら秋葉にふさわしいいい歌詞が書けますよ!」

 

「凜もことりの先輩の甘々な歌詞で歌いたいにゃ~!」

 

みんなことりなら出来ると思っている。そこには何も疑いはない。

 

「そ、そう?」

 

「ちゃんといい歌詞作りなさいよ?」

 

「期待してるわ」

 

「頑張ってね!」

 

ことりは手に持っているノートをジッと見つめたあと、口を開く。

 

「ゆー君は.....どう思うの?」

 

「ことりなら絶対出来る!」

 

質問に対して俺は即答する。

 

「私....頑張ってみる!」

 

―――

 

というわけでことりは今作詞に挑んでいるわけだ。

 

「ふわふわしたもの可愛いな♪はいっ♪あとはマカロンたくさん並べたら~♪カラフルでし・あ・わ・せ~♪る~る~.....ら~ら~.....」

 

「苦戦しているようですね.....」

 

「うん....」

 

しかし、先ほどから見て分かる通り行き詰っている。

 

「穂乃果ちゃ~ん......ゆー君........」

 

そんな声が教室から聞こえてくる。本当は今すぐにでも手を貸してあげたい.....

 

表情に出ていたのか、穂乃果と海未はそっと俺の肩に手を置いてきた。

 

***

 

ことりは授業中もずっと歌詞を考えていたが、そのおかげで授業に集中出来ておらず、何度か注意されるということになってしまった。

 

今は体育の時間、2人一組のペアになって準備運動をやっている。

 

俺はさすがに女子とペアを組むわけにはいかず、ただ1人で準備運動をやっていた。音ノ木坂には男性教師が皆無なため必然的にこういう時は1人になってしまう。悲しくなんてない。

 

「何書いていいのか分かんないよぉ~!」

 

「考えすぎだよぉ~!海未ちゃんみたいにほわんほわんな感じでいいんじゃない?」

 

なるほど、ほわんほわんか.....

 

「それほめてるんですか!?」

 

「ほめてるよぉ~!」

 

実際よくあそこまでいいものが思いつくなと感心する。海未の歌詞を1番に見るのは確認担当の俺だけど、手直ししたことはほとんどない。

 

『みんなのハート打ち抜くぞ~!ラブアローシュート~!』

 

以前海未が部室で1人でいる時にやっていたポージングとセリフを思い出した。あれは衝撃的だったね、ちょっと打ち抜かれそうになったのが悔しい。

 

あの時普通に部室に入ったらなぜか怒られたけど......

 

このように海未は意外なことにポージングやセリフの練習は欠かさない。それが歌詞を書く秘訣なのかもしれないな。

 

「優?今変なことを考えませんでしたか?」

 

鋭っ!?心でも読めるのかよ!?思わず心臓が激しく跳ね上がる。

 

「......考えすぎだろ」

 

「やはり変態ですね」

 

「何かとつけて俺が変態扱いされるのはお前の中で流行ってるのか!?」

 

理不尽だ。

 

 

結局体育の時間は俺が海未に軽く変態扱いされただけだった。変態扱いされてるというのに軽くというのは感覚が麻痺してるだけなのかもしれないが......

 

「う~ん.....」

 

「休み時間終わっちゃうよ?」

 

昼食の時間になってもことりは弁当に目もくれず、ずっと唸っている。穂乃果の言葉にも唸っているのか返事をしているのか分からないほどにうんうんと言い続ける。

 

放課後も何か作詞のヒントになるかもしれないと図書室に4人で行ったのはいいけど、そこでもことりは力なく頭を下げるだけだった。

 

「ことり、やっぱり俺も手伝おうか?」

 

こんなことが何日も続くとさすがに良くない。ここ最近ことりを見てたけど、授業中も勉強より作詞が優先となり、ついには職員室に呼ばれてしまうこともあった。

 

「ううん、大丈夫だよ!手伝ってもらいたい時はお願いするね?」

 

ことりは笑顔でそう言うが、どう見ても空元気にしか見えない。

 

そして今日もことりは放課後に1人で教室に残って作詞をしている。俺は穂乃果と海未と一緒に扉の影から見守っている。これももはやおなじみの光景となってしまった。

 

「やっぱり私じゃ......」

 

ふとそんな言葉を呟いたと思ったらことりは作詞用ノートを静かに閉じる。

 

ことりには手伝いがいる時は自分から言うと言われたけど、やっぱり今からでも手伝おう!

 

そう決めて教室に入ろうと扉に手をかけようとすると既に扉は開けられていた。

 

「ことりちゃん!」

 

「穂乃果ちゃん!?」

 

「こうなったら一緒に考えよう!」

 

俺よりも先に穂乃果が言いたかったことを言ってしまった。もっと早くに.....言葉だけじゃなくて行動を起こすべきだったと後悔している。

 

「何かいい方法があるのか?」

 

「うん!とっておきの方法が!」

 

自己嫌悪するのはあとだ。今は穂乃果のとっておきの方法を頼りにさせてもらおう。

 

***

 

「お帰りなさいませ♪ご主人様♪」

 

「お帰りなさいませ!ご主人様!」

 

「お帰りなさいませ...ご主人様.....」

 

穂乃果の言うとっておきの方法とは何故かメイド喫茶で実際に働いてみるというものだった。

 

すなわち今3人の格好はメイド服だ。はっきり言おう。生きててよかった!

 

やはりメイド服というのは男心をくすぐるものだ。ちくしょう!カメラ持っておけばよかった!

 

「わ~!可愛い!2人とも、バッチリだよ~!」

 

さっきまでの悩みによる暗さは一切なく、ことりの表情はとても活き活きとしたものになっていた。

 

「店長も心よく3人を歓迎してくれるって!」

 

「こんなことだろうと思いました......」

 

さて、穂乃果と海未だけなら2人でいいはずなのになぜことりは3人と言ったのだろうか?答えは簡単。自分の姿を鏡で見てみると、そこにはメイド服を着た俺の姿が映った。

 

「ゆー君も似合ってるよ♪」

 

「嬉しくない.....」

 

本当なら俺は執事服とかそんな感じのものになるはずだった。

 

―――しかし

 

『一応メイド服もあるけど.....どうする?』

 

『執事服一択でお願いします!』

 

俺に女装の趣味はない。断じてない!

 

『え~!ゆう君ならメイド服でも大丈夫だよ!』

 

『男として色々なものが大丈夫じゃないんだよ!』

 

どうやら穂乃果も店長も俺にメイド服を選んでほしいらしい。絶対に選んでたまるか!

 

『.....えいっ♪』

 

ことりの可愛らしい掛け声ととともに俺の背後でバシャっという音がした。振り返ってみると、そこにはびしょ濡れになった執事服の無残な姿があった。

 

『ゆー君ごめん♪こけそうになったからバランス崩して水が入ったグラスを倒しちゃった♪』

 

『えいって言ったよな!?狙ったよな!?』

 

強制的に選択肢を消しやがった......

 

『あー、執事服は洗濯しないとダメだね~!』

 

『だったら俺はこのままでいいんで、裏方の仕事しますよ!』

 

『え~!ダメだよそんなの!』

 

『男らしくないですよ、優!』

 

海未も急に乗ってきやがった!俺に何か恨みでもあるのか!?

 

『女装とかする時点で男らしいも何もあるか!』

 

いくらことりの手助けのためとはいえ......これはさすがに厳しい!

 

すると3人は目配せをして1歩前に踏み出し、俺の前で横並びに並ぶ。

 

そして胸の前で手を組んで、瞳を潤ませて.....上目遣いで俺を見てきた。嫌な予感というかこれはまさか!?

 

『ゆー君、おねがぁい♪』

 

『ゆう君、お願い♪』

 

『ゆ、優.....お願い.....です/////』

 

―――俺の女装が決定した瞬間だった。

 

鏡を見ながら回想していると、扉が開く音で意識が現実に戻ってきた。

 

「にゃ~!遊びにきたよ!」

 

「えへへ.....」

 

.....見られたくないなぁ~。再び意識がどこかに行きかけた。

 

「秋葉で歌う曲なら秋葉で考えるってことね!」

 

外から聞こえてきた声で三度意識が現実へと戻ってきた。

 

「優くん似合ってるよ~!早速取材を!」

 

「カメラ回さないで下さいよ!希先輩!」

 

というか何でみんながここに?

 

「なぜみんながここに?」

 

俺の疑問を海未が恥ずかしそうにしながら尋ねる。

 

「私が呼んだの!」

 

「お前かよ!知っててこれ着せたな!?」

 

今度穂乃果が学校に持ってくるパン全部あんぱんにすり替えといてやろうかな.....

 

「それよりも早く接客してくれない?特にそこの女装メイド!」

 

「お帰り下さいませ!お嬢様!」

 

「客に帰れってどういうことよ!」

 

おっと、あまりの恥ずかしさにセリフを間違えてしまったようだ、俺としたことが!

とにこ先輩と軽いコミュニケーションを取っているとことりがスッと動き始めた。

 

「いらっしゃいませ、お客様。2名様でよろしいでしょうか?」

 

「それではご案内致します、こちらのお席へどうぞ。」

 

「メニューでございます。ただいま、お冷をお持ち致します。失礼致しました。」

 

まさにレジェンド.......完璧なメイドだ。

 

「さすが伝説のメイド.....」

 

「ミナリンスキー......」

 

俺と凛と花陽がその鮮やかさに見惚れていると、ことりがケチャップで絵が描かれたオムライスを運んできた。あれで絵を描けるとか器用過ぎだろ......

 

そして俺は穂乃果と海未の姿が見えないことが気になり、洗い場を覗く。正確にはさっきから姿を見ていないのは海未だけだけど.......

 

「海未ちゃん!」

 

「うぅ...」

 

穂乃果が海未を怒っているという珍しい場面に出くわした。

 

「さっきから海未ちゃんずっと洗い物ばっかりお客さんとお話しなよ!」

 

「し、仕事はしています!そもそも本来のメイドというのはこういう仕事がメインのはずです!」

 

「屁理屈言ってる~!」

 

「海未でもそんな屁理屈言うんだな」

 

俺はメイド服の恨みもあり、半眼を作り海未を見る。海未はバツが悪そうに顔を逸らし、洗い物をし続ける。

 

「海未ちゃん、これもおねが~い!」

 

「あっ、はい!」

 

皿を持って近づいてきたことりが固い表情を浮かべている海未の顔を見て笑顔を作りながら

 

「ダメだよ海未ちゃん!ここにいる時は笑顔を忘れちゃダメ!」

 

「しかし.....ここは」

 

「お客さんの前じゃなくても、そういう心構えが大事なの!」

 

「は、はい」

 

常に笑顔を......か。結構難しいことだよなぁ......と俺は顎に手を当てて考え込む。

 

「ほら!ゆー君も笑顔だよ♪」

 

「苦笑いでよければいつでも出せるぞ、女装してる限り」

 

と言いつつもこの姿に慣れてきている自分を笑うしかないんだけどな......

 

「ことりちゃん、やっぱりここにいるとちょっと違うね!」

 

洗い終わったグラスを拭いていた穂乃果がそんなことを言い出した。

 

「えっ?そうかな?」

 

「別人みたい!いつも以上に活き活きしてるよ!」

 

確かにここに来てからかなり活き活きしている。今のことりを見て悩みがあるなんて聞いても誰も信じないだろう。

 

「うん。何かね、この服を着ていると出来るって言うか、この街に来ると不思議と勇気がもらえるの。もし、思い切って自分を変えようとしても....この街ならきっと受け入れてくれる気がする、そんな気持ちにさせてくれるんだ!だから好き!」

 

.....これって、歌詞に使えないか?

 

ことりのこの街を好きという気持ちが伝わってきて、ここにいるだけで勇気がもらえると、本当にそう思える。

 

「ことりちゃん!今のだよ!今ことりちゃんが言ったことをそのまま歌にすればいいんだよ!」

 

穂乃果もそう思ったようで、ことりに詰め寄って今自分が感じたことをことりに言う。

 

「この街を見て、友達を見て、いろんなものを見て、ことりちゃんが感じたこと、思ったこと、ただそれを...そのまま歌にのせるだけでいいんだよ!」

 

「あ....うん!」

 

***

 

そこからことりは迷いを振り切り、この前まで悩んでいたのが嘘のようにスラスラとペンを走らせ始めた。

 

―――そして遂に、ライブ当日を迎える。

 

「あれ?そう言えば衣装って今回どうするんだ?」

 

ライブ当日になってそのことに気が付く。ダンスも歌も練習したけど.....今日の夕方にはライブが行われる。今から作るのは絶対に無理だ。

 

「何言ってるの?ちゃんと用意してあるわよ」

 

絵里先輩が声とともに屋上の扉を開けてみんなと一緒に現れた。.....メイド服姿で。

 

「この衣装で秋葉に!?」

 

どうやら花陽も今聞いたようだ。屋上に俺だけ残させたのは着替えてくるためか。

 

「一応優くんの分も用意してあるわよ?」

 

「何てことを!?」

 

あの時は仕方なく着たけど、今回はそうはいかない。

 

「まぁ、今回は優くんは歌う側じゃないし、無しでいいわ」

 

「ありがとうございます!!!」

 

さすが絵里先輩!話がわかる!

 

俺は全力で頭を下げ、目の前にいる女神様に精一杯の感謝を表す。

 

「そんなことよりそろそろ行かんと時間なくなるよ?」

 

希先輩が携帯で時間を見せてくれた。今から移動し始めてお客の列の整理も自分たちでしないといけないことを考えると、ちょうどいい時間だった

 

「よーし!みんな、頑張ろう!」

 

「「「「「「「「「おぉ~!!!」」」」」」」」」

 

俺の号令に9人は拳を天高く突き上げた。

 

***

 

これがμ’sの初路上ライブの曲

 

『Wonder zone』だ。

 

ことりを中心にしてみんなが並ぶ。そしてゆっくりと歌い始めた。

 

俺はみんなの歌声を聞きながら、アルバイトの時のことを思い出す。

 

優莉、雪穂ちゃん、亜里沙ちゃんの妹トリオが遊びに来たりとか.....もちろん女装は見られた。にこ先輩と真姫がカップル用のハート型になったストローで一緒に飲み物飲まされたりとか。海未がダーツをしたら全部100点ゾーンに刺さっていたこととか。

 

色んなことが頭をよぎる。当然全部最高に楽しかった。

 

―――

 

「上手くいってよかったね!ことりちゃんのおかげだよ!」

 

ライブが終わって俺たち2年生組の4人はいつも朝練をしている神社へと足を運んでいた。

 

「ううん、私じゃないよ!みんながいてくれたから、みんなで作った曲だから!」

 

「そんなこと....でも!そういうことにしとこうかな!」

 

「穂乃果?」

 

「またすぐ調子に乗る.....」

 

あまりにいつも通りの事に苦笑する。

 

「うん!その方が嬉しい!」

 

「ことり......」

 

穂乃果とことりはお互いに笑い合い、海未はふっと微笑する。俺もつられて頬を緩ませる。心地いい空気が作られて涼しい風がそっと吹く。

 

「ねぇ、こうやって4人で並ぶと、あのファーストライブの頃を思い出さない?」

 

そんな中ことりがふとそう聞いてくる。

 

「うん」

 

「あの時はまだ、私たちだけでしたね」

 

「あぁ」

 

俺たちの目には街に沈んでいく夕日が映っている。さきまでにぎやかだったために少し寂しいような感覚が襲ってくる。

 

「あのさ.....」

 

「ん?」

 

更にことりは話を続ける。

 

「私たちって.....いつまで一緒にいられるのかな?」

 

「どうしたんだ、急に?」

 

チラリとことりの顔を見ると泣き出しそうに瞳を潤ませていた。

 

「だって!あと2年で高校も終わっちゃうでしょ?」

 

「それはしょうがないことです」

 

どうやったって時間の流れには逆らえない、いつか......必ず終わる時が来てしまう。

 

「大丈夫だよ!ずぅ~っと一緒!だって私、この先ずっとずっと海未ちゃんやことりちゃん、ゆう君と一緒にいたいって思ってるよ!大好きだもん!」

 

「へ!?/////」

 

「あぁ!?違うの!友達としてね!?/////」

 

ですよねー。

 

「穂乃果ちゃん......うん、私も大好き!」

 

そうして再び4人で笑い合う。

 

「ずっと一緒にいようね!」

 

「「「あぁ(うん)(えぇ)!」」」

 

***

 

そんな約束をしたその日、少女の元に1通の手紙が届き、μ’sとしての未来を左右する出来事が起こることを......10人はまだ知らない。

 

そして少年は誰にも聞こえないように、1人呟く。

 

「あぁ.....聞かされてないんだな、俺のこと」

 

「ん?何か言った?ゆう君」

 

「いや、何でもない」

 

―――あと2年.....ここにいられるといられるといいな。

 

今度は心の中で祈るように呟いた。

 

―To be continued―

 




作「雑談のコーナー!今回のゲストはにっこにっこに~!という掛け声でおなじみの矢澤にこちゃんです!」

に「にっこにっこに~!」

作「遂に10000文字まで達してしまいました」

に「ちょっとにこの出番少なくない?」

作「今回は話的に仕方ないんです」

に「まぁいいわ、それより優が女装する意味ってあったの?」

作「本当は予定通り執事服にしようと思ってたんですが......」

に「一体どうしたのよ?」

作「実は私自身が最近女装する羽目になって、それを友達に笑われたため、八つ当たりです!」

に「今回は優に同情するわ.....」

作「まぁまぁ!では次回も!」

に「にっこにっこに~!」
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